2010年06月21日 17:30 [Edit]

器あっての中身 - 書評 - 編集者の仕事

新潮新書編集部より献本御礼。

ほぼ同時期に拙著「新書がベスト」を出した私としてはまさに我が意を得たりの一冊。電子書籍元年と言われる今年だからこそ、読んでおきたい。

私が日頃「『自炊』(書籍を裁断してスキャナーにかけて電子化すること)したら負けだと思っている」と公言する理由も、本書を一読すればおわかりいただけるはずだ。


本書「編集者の仕事」は、タイトル通りの一冊。著者は編集者。それもただの編集者ではない。新潮新書自体の装幀を設計した人でもあるのだ。

目次 - 柴田光滋『編集者の仕事―本の魂は細部に宿る―』|新潮社より
まえがき
I 本とはモノである
作りの良し悪しを見分けよう
何だか読みにくい/スピンがない!/本を左右に引っ張って/雲の目次・泥の目次
一次元の原稿を三次元に
細部の細部に至るまで/内容にふさわしく/書籍に通じた人ならば/本からテクストを切り離すのは/どこかに職人気質を
II 編集の魂は細部に宿る
すべては判型から出発する
原稿には三種類ある/タイトルには毎回苦心惨憺/文学者の作法/単行本は不定形が前提/部数や定価も含めて/四六判の由来
頁はどこから始まるの?
行数は原稿の内容とも関係する/余白は無用の用/新潮新書が39字組の理由/横組の注意点は/ノンブルは小口寄りか中央に/1頁は存在しない
目次と索引は技量が問われる
本来は実用だが/扉は裏も考えよ/見出しと小見出しは/いとわず索引を/写真処理の初歩の初歩/奥付はなぜ左頁なのか/編集者の意地
校正、畏るべし
命の恩人/すぐれた著者でも/原稿を整備せよ/ルビはやや多めに/引用は読みやすく/基本は引き合わせ/あらゆる角度から/複数の目で/念校や念々校も
III 活字は今も生きている
グーテンベルクに感謝
もう存在はしていないけれど/彫刻活字と鋳造活字/ドイツとイタリアで/平仮名の明朝体は
明朝体は美しい
新米編集者として感動/本文書体としての明朝体は確たる存在/楷書体の「楷」とは/サイズはポイントで
欧文書体はファミリーに分かれる
一冊の古い見本帖/ファミリーだけで一千種類!/センチュリーは欧文の明朝/ゴチック系なら洗練のフーツラ/スクリプトは効果的にも場違いにも
約物と罫線を使いこなせ
使いすぎると安っぽい/代表は句読点系/?や!の乱用は避けたい/カッコの要諦は/ダッシュとリーダーは2字分/アステリスクは優等生/罫の代表は表と裏
IV 見える装幀・見えない装幀
紙には寸法も色も重さもある
装幀は正しい表記か/まずはサイズ/真っ白な本文紙は少ない/重さもデザイン
函入りかジャケットか
日本人ならではの包装感覚/機械函も減ってしまった/ジャケットは何でもあり
表紙は最後まで残るもの
ソフト・カバーとハード・カバー/布表紙の風格/革装には天金/内容に即すこと/見返しには工夫の余地がある/最後に花ぎれとスピンを決める/オビは最終作業/装幀の一部か否か
V 思い出の本から
昭和は文学全集の時代であった
日本の近代出版史から見れば/編集者の時代時代の苦心が伝わる/巻立ても配本順もむずかしい/年表は地味な仕事だけれど/口絵写真は貴重な記録/若手編集者にとっては訓練の場
十二冊プラス幻の一冊
懐かしさではなく/吉田健一『ヨオロツパの世紀末』/平野謙『平野謙全集』全十三巻/児玉隆也『ガン病棟の九十九日』/芥川比呂志『肩の凝らないせりふ』/高田宏『言葉の海へ』/山本益博・見田盛夫『東京フランス料理店ガイド グルマン1984』/安部公房『カンガルー・ノート』/谷沢永一『回想 開高健』/辻邦生『西行花伝』/佐江衆一『黄落』/丸谷才一『新々百人一首』/山崎正和『文明としての教育』/もし実現していたら
あとがき

それでは、編集者の仕事とはなんだろう。

一応著者でもある私からすると、著作という「中身」にもっともふささわしい、「器」を作る人のことである。「器」といっても、その内容は多岐にわたる。版形というわかりやすい有形のものから、どんな人にどのような形で売る、すなわち販売促進というわかりづらく無形のものまで、著者の仕事以外の全部といってよいほどその範囲は広い。ぜひその点を本書で確認していただきたい。

それを知った後での「自炊」には、上等な刺身を煮付けにしてしまうような後ろめたさを感じずにはいられないだろう。とはいえ、世の中には上等な中身にふさわしい上等な器を持った本ばかりでないのも確かで、そういう本に巡り会うと、こうしてやりたい気持ちもむらむらと起こってくる。

ようこそ!電子書籍元年へ!自炊の未来! - orangestarの日記

ところで、本書には電子書籍の話題は一切出てこない。それでよいのだと思う。著者は1944年生まれ。著者が電子書籍に書いて何かを言ったら、たとえそれが正しいことであっても「差し出口」の印象は免れない。電子書籍における編集がどうあるべきかは、次世代が決めるべきことがらであろう。

だからこそ、今改めて確認しておくべきなのだ。

本が紙の束の時代だった頃、編集とはいかなる仕事だったのかを。

Dan the Edited


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