2010年06月28日 20:30 [Edit]

Let'em apply! - 書評 - ゲームの父・横井軍平伝

角川書店亀井様より献本御礼。

たった一人の天才が、「ただの花札屋」を「世界一の玩具屋」にしてしまう。

その天才の仕事を、たった一人で終わらせなかったという点は「任天堂 "驚き"を生む方程式」を読めば納得が行くが、しかしそれも最初の天才あってのことだ。

その天才は、もうすでに鬼籍に入ってしまった。

話を伺いたければ、本書をひもとくしかなくなってしまったのだ。


本書「ゲームの父・横井軍平伝」は、その天才、横井軍平の貴重な生の言葉を、Googleの正体の著者がまとめたもの。ファンにとっては口絵の「横井軍平の遺したおもちゃたち」だけでも買いだろう。今では任天堂自身にすらストックがない作品まで「展示」されている。

目次
横井軍平の遺したおもちゃたち
まえがき
第1章 今蘇る「枯れた技術の水平思考」
第2章 任天堂に突如現れたウルトラ青年
第3章 逆転の発想が生んだ光線銃
第4章 ゲーム&ウオッチと世界進出
第5章 ゲームボーイの憂鬱
第6章 バーチャルボーイの見果てぬ夢
特別付録 横井軍平のらくがき
404 Blog Not Found:究極の仕事 - 書評 - 任天堂 "驚き"を生む方程式
ビジネス書の感想文として「多いに参考になった」というのは最もあたりさわりのない締めである。しかし本書にそれは通用しない。前述のとおり任天堂は必需品を一切作っていない。山内のいうとおり、「よそと同じが一番アカン」のだ。本書で唯一「そのまま」参考にできるのは、「参考するな、自考せよ」という「メタ参考」しかない。

この点に関しては、本書も同じである。なまじ真似しようとなどしない方がよい。ただ天才の天才ぶりをながめて楽しむだけでも本書をひも解く理由としては十分である。

とはいえ、天才は本人だけでは天才とはなれない。鳥に空が必要なように、魚に水が必要なように、天才にはその才をいかんなく発揮するための場が絶対に必要なのだ。「任天堂 "驚き"を生む方程式」はそれを「場」の方から描いた作品であり、そして本書はその場の「主」から描いた作品だと言える。

本書を読んで思い出した作品が、「甘い生活」。横井軍平と任天堂の関係というのは、同作の主人公江戸伸介とPixyの関係にそっくりだ。同作はラブコメの皮--じゃなくて下着--をかぶった天才論であり、私が見る限りフィクショナルな天才を描いたマンガで唯一の成功作である。吉田秋生作品をはじめ、天才が出てくるマンガは少なくないが、天才の心の葛藤は上手に描けていても、天才の才そのものが「マンガ」で終わっているのに対し、本作は「才」の部分も読者に納得させている。もっともこれは私が同作の「才」である下着というものを知らないゆえに、つっこみが入れられない=検証できないだけなのかも知れないが。

本書に話を戻すと、「天才とは、誰にも真似ができないゆえに天才なのだ」という天才に対する諦観を引いてもなお、「もしかしてこれなら真似できるかも」という言葉が一つ登場する。「枯れた技術の水平思考」だ。

同じ天才でも、横井や江戸の天才は、ノーベル賞やフィールズ賞の対象となる天才とはタイプが異なる。所行そのものが凡人には理解不能というのではなく、その所行は誰にも理解でき、誰でも楽しめるものなのである(まあ江戸作品は女性のみだが:)。

そういった作品で重要なのは、「すごい」ことでもなく「まねできない」ことでもない。「できること」そのものなのである。「できる」からこそみんながそれで遊んでくれる。そのためには技術は枯れていなければならない。誰にも真似できないようなハイテクでは駄目なのだ。

しかし枯れた技術の組み合わせで、それが「できる」ことが見えるかというのは、別問題。凡人は「すでにできている」ことしか見えないのだから。

これ、任天堂以外のどこかの製品に似てはいないだろうか。

そう。Appleである。

著者もそのことに気がついていて、本書で登場する他社への言及で最も多いのはAppleだ。

もし横井軍平がiPadを見たら。

縦でも横でもプレイできるワンダースワンを作った横井軍平がiPadを見たら。

一体何と言っていただろう。

しかしそのワンダースワンすら手に取ることなく、横井軍平は逝ってしまった。

最後の一行
横井は最後の一瞬まで"横井軍平"だった。

横井軍平とは一体なんなのか。

ぜひ本書で確認していただきたい。

Dan the Ordinary


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