筑摩書房松本様より献本御礼。

今月のちくま新書は豊作で、紹介する方もちょっとびびっているが、やはり最初に紹介しなければならないのは本書。なぜならただ読んでおいて欲しいのではなく、7月11日の前に読んでおいてほしいから。発売開始が7月7日なので、手元に届く時間を考えるともう注文を入れてもらわないと間に合わないが、新書だけあって読むには時間がかからないので、今週末までに入手すれば何とか間に合う。

社会保険庁じゃなくて日本年金機構は、ねんきん定期便ではなく本書を配布するべきだ。

本書「年金は本当にもらえるのか?」は、「だまされないための年金・医療・介護入門」の論旨をより明快かつ簡潔に新書にまとめたもの。

目次 - mailより
はじめに
初級編――まずは基本から
Q1 とかく複雑で難しいという印象がある年金制度ですが、私のようなまったくの
「シロウト」でも理解できるでしょうか?
Q2  なぜ、年金制度はバラバラで複雑な仕組みなのでしょうか?
Q3 そもそも、年金制度とは、どのように運営されているのでしょうか?
Q4 保険料の引上げや給付カットを何度もしたのに、年金財政が苦しくなるのは、
なぜですか?
Q5 年金は得な制度なのでしょうか、損な制度なのでしょうか?
Q6 年金制度は破綻するのですか? また、100年安心プランは大丈夫なのです
か?
中級編――よくある誤解を正します
Q7 子どもが増えれば、年金財政の問題は解決しますか?
Q8 パートやアルバイトの人を年金に加入させると、年金財政はよくなるのでしょ
うか?
Q9 厚生労働省は「将来世代でも年金は2.3倍の得」といっていますが、本当です
か?
Q10 基礎年金の税方式化で、本当に消費税は17%になるのでしょうか?
Q11 未納が増えると、年金は破綻するのですか?
Q12 基礎年金の25年ルールの短縮化によって無年金者、低年金者は減少しますか?
上級編――年金は変えられます
Q13 現在の年金制度は自動安定化装置があるので、今後、年金改革は本当に不要な
のでしょうか?
Q14 赤字化している年金財政を建て直すための改革は、いつ行われるのでしょう
か?
Q15 民主党の年金改革で、年金制度は安心できる制度になるのでしょうか?
Q16 年金制度は莫大な債務超過になっているというのは本当ですか?
Q17 年金制度を積立方式にすることは、現実的に可能ですか?
Q18 年金積立金を、ハイリスク・ハイリターンの運用に切り替えるべきでしょう
か?
巻末資料、「生まれ年・平均月収・世帯類型別、あなたのもらえる本当の年金額」

およそ日本の社会保障に関して、著者ほど正しく認識し、かつ市井の側に立った主張を展開している者は存在しないだろう。他の「有識者」のほとんどは率直に言って体制の狗だし(「娘に語る年金の話」なんてその典型)、しかし彼らに疑念を抱く者は著者ほど詳しくない。その結果「なんとなく」「言い負かされ」がちなのであるが、本書があればそれはなくなる。「いまどうなの」に関して、本書以上の一冊は、ない。強いて言えば前著「だまされないための年金・医療・介護入門」だが、こちらは高額なハードカバー。読むにしてもまず本書から入った方がよい。

とはいうものの、著者は専門家ゆえに、「じゃあどうするの」に関してどうしても「年金・社会保障」から逃れられないところはある。著者は年金そのものの必要性を本書で解いているが、「年金・社会保障」という大枠をさらに外して自由になれば、ベーシック・インカムという解答だって視野に入ってくる。

池田信夫 blog : 「強い社会保障」より「効率的な社会保障」を
さらに長期的な課題としては、年齢によって所得再分配を行なう非効率な年金制度を廃止し、所得だけを基準にして再分配を行なう負の所得税(ベーシック・インカム)のような制度に転換する必要があろう。100兆円をBIとして配れば、一人あたり年80万円。4人世帯なら320万円だ。

同感であるし、私自身、同様の主張を本blogや「働かざるもの、飢えるべからず。」をはじめ、ことあるごとにしている。

池田信夫 blog : 「強い社会保障」より「効率的な社会保障」を
いま必要なのは「強い社会保障」などという無内容な政治的スローガンではなく、効率的な社会保障である。日本の移転給付(広義の社会保障)は年間約100兆円だが、そのうち53兆円が年金で、一般会計のうち17兆円が老人福祉。つまり社会保障費の7割が老人のために使われているのだ。このように老人に片寄った社会保障を行なっている国は少ない。

しかしこの観点から「参議院選挙2010 マニフェスト - Yahoo!みんなの政治」を改めてみると、凍死しそうになってくる。

それ以外を目指してる政党がないことは @ikedanob すら言わない、ので言ってみた<民主党政権が「高福祉・高負担」をめざしていることは誰の目にも明らかだけど、それが実は「老人の高福祉・若者の高負担」だということに気づいている人は少ない。less than a minute ago via Echofon

それでも、前々回や前回の国政選挙の時と比べれば、わずかながらではあるがよくはなっている。子供手当一つとっても「公約よりしょぼくなった」ことよりも、「それでも実現にこじつけた」ことに注目すべきだろう。そこから「本当の国民年金」であるベーシック・インカムまでは実はそれほど遠くない。

しかしそこまで話をもっていくためには、現状を知っておかなければならない。まずは本書で「現在位置」を確認して欲しい。「年金は変えられます」と言えるのは、それからなのだから。

Dan the Taxpayer