2010年07月05日 22:00 [Edit]

私益から里益へ - 書評 - 地域再生の罠

筑摩書房松本様より献本御礼。

参院選の前の読んでおいて欲しいもう一冊が、こちら。

地域再生の名のもとに、いかにひどい地域破壊が行われてきたかを、有権者は改めて確認しておく必要がある。


本書「地域再生の罠 なぜ市民と地方は豊かになれないのか?」は、「日本版スローシティ」の著者が告発する、「地域再生」の現状であると同時に、「地域再生」の専門家がいかに地域再生の役に立っていなかったかというl告白であり、どうしたら「地域再生」をかっこ抜きの地域再生に出来るかを予告した一冊。

目次 - Mailより
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第1章 大型商業施設への依存が地方都市を衰退させる
宇都宮市に移住して日本一のバーテンダーに輝いた女性/宇都宮市で大型商業施設の撤退が止まらない/あの109も4年弱で撤退/市民の行動や会話が都市盛衰の行方を示す/宇都宮109で聞いた女性顧客の会話/顧客の本音は机上に届かない/アンケートの8割は、結論が事前に決まっている/宇都宮109撤退3つの理由/模倣品は本物に手が届かない状況でのみ価値がある/109が撤退してなおも大型商業施設を造りたい/地方から百貨店が消える/失敗には目を向けない、責も問わない/神を見下す高層ビルは空きだらけ/ないものをねだり、地域にある資源には無関心/長野市との違いは「地域にある資源を愛する心」/箱物の撤退・建設に、マスコミと専門家は冷静な対応を/ないものねだりは止めて、地域にある資源に光をあてよう
第2章 成功事例の安易な模倣が地方都市を衰退させる
商店街再生/なぜ歩行者ゼロでも成功事例なのか/成功事例集は提供者志向のプロパガンダ/モデル地区を褒めそやす提灯もち/顧客も売り手も少なすぎて困っている商店街は、そもそも必要か/自治体は商店街の「選択と集中」を/イベントは交流のきっかけを創り、次に繋げる/箱物だけレトロ化しても商店は利用されない/車優先空間が空き店舗をさらに増やす/金融支援だけの空き店舗対策にチャレンジしたい市民はいるのか/リスク高いチャンレンジショップは「曜日毎テナント、週末起業」から/商店街再生へ4つの提案/松江を「カフェの街」にしよう/ボエーム憧れの聖地は「花の都」に進化する/すでに地域にある資源に「気がつく」
第3章 間違いだらけの「前提」が地方都市を衰退させる
スローフードを核とした交流・コミュニティ/「食のグルメ化・ブランド化」は競争の厳しいビジネス/ブランド化で豊かになれるのは一部の産業者だけ/関さば、小樽3点セット/消費者は飲食店も「ノーブランド(無印)」を好む/散策者はいても、飲食店利用者は少ない「ぱてぃお大門」/集客が売上に結びつかない/福島でおやじが「今時の若者は、なよなよしてる」と嘆く/福島で若者が「おやじの論理」を呆れる/若者は「自宅でまったり」が大好き/飲食店の顔で質がわかる/おやじ視線のない空間が大人気/フィットネスクラブは少し痩せてから行く場所/インサイト/画一的なおやじ色に染まる地域はさらに衰退
第4章 間違いだらけの「地方自治と土建工学」が地方都市を衰退させる
間違いだらけの「地方自治と土建工学」/自治体固有の風土・文化/地方盛衰は自治体次第/自治体改革の方法/首長の意欲が役所を変える/待っていれば降りてくる情報に依存する自治体/市民の足は切り捨て、駅前開発を進める岐阜市/公共交通は「赤字でも残す」高岡市、「赤字だから切る」岐阜市/鉄道廃線後の街は著しく衰退する/人より自動車が優先される都市は必ず衰退する/「連携」は他人には求めるが、でも実行は大の苦手/全館消灯された市役所の内と外/連携すれば一つの取り組みで複数の目的を実現できる/役所の郊外移転と、街中衰退の因果関係/成功事例は土建工学者自らが描いた理想郷/コンパクトシティとは何か/コンパクトシティ先進地の富山市も繁華街は著しく衰退/市民はコンパクトシティには反対か無関心/西欧とライフスタイルが違う日本でコンパクトシティ模倣は無謀/成功事例「ネーミングライツ」にも飛びつく/2400万円のネーミングライツで効果はあるのか/心の欠落こそ最大のリスク
第5章 「地域再生の罠」を解き明かす
「地域再生の罠」を解き明かす/上勝町の「葉っぱビジネス」は1980年代後半には注目されていた/人の心を捉えるソフト事業は持続可能な活性化を導く/稀にある本当の成功事例は模倣が困難/心の空洞化が引き起こす「街中の空洞化」/暴走する土建工学者/地域づくりの「仕組み」そのものを変えよう/ウォークマン開発秘話/市民志向な地域づくりへ
第6章 市民と地域が豊かになる「7つのビジョン」
7つのビジョン/お金を届けるボランティア、心を届けるボランティア/需要創造の鍵は「市民の不満」にあり/ワーク・ライフ・バランスは公益に繋がる/市民の地域愛と交流を育む地域スポーツクラブ/アルビレックスが新潟の若者を変えた/市民に地域を「愛してもらう」には/「市民憩いの場」だった甘党たむら/市民が「余計なお金と気を使わない居場所」を創る/口コミで賑わった甘党たむら、口コミで撤退した宇都宮109/あなたが幸せだと、私も幸せ/私益ばかり考えると街も店も衰退する/地域再生の目的は「市民の幸せ」か「地域の成功」か/市民の心、ライフスタイルが先に尊重される地域づくり
第7章 食のB級グルメ化・ブランド化をスローフードに進化させる──提言
誤用される「食と低未利用地」/街の賑わいは飲食店数に比例/需要を吸収するだけの大資本店/需要創出型飲食店を創る/農産物「加工品」直売所を「憩いの場」に/地域独自の味をコンビニ任せでいいのか/B級グルメをスローフードに進化させる久留米市/市民が主役になれる「食の八十八カ所巡礼の旅」/産業者に「自立、顧客志向」を促す/「子供たち憩いの場」が地域愛を高める/スローフードは大資本チェーン店の進出を阻止できる
第8章 街中の低未利用地に交流を促すスポーツクラブを創る──提言
なぜ皇居周辺の銭湯利用客は増えたのか/低未利用地の活用を問いなおす/箱物需要創出と雇用創出も期待できる/交流空間は既存ストックを活用/市民の街中回遊を仕掛ける/人の普遍的ニーズを叶えると街は賑わう/郊外住宅地に高齢者クレーマー/地域全体の利益へ「戦略的な赤字施設」を創る/「フリー」の仕組みを創る
第9章 公的支援は交流を促す公益空間に集中する──提言
青森駅前にも市民の「電車待ちの居場所」/アウガは戦略的な赤字施設/公益空間は利益が出ない/公的支援の選択と集中/商店街「所有と経営の分離」の光と影/公益基準の税制で「シャッター商店」は減る/専門家が机上で作る地域から「市民が現場で創る地域」へ/商店街を市民の「物語消費の場」に/私益追求者が公益に目覚める

地域再生というものが「一言でまとめる」べきものではないし、またそうできないことは、この圧倒的な目次だけで伝わってくる。しかしこの目次にびびらないでほしい。分量において本書は決して新書を逸脱していないし、新書として手軽に手に取るべき一冊なのだから。

しかしその内容は、やはり軽くはない。「地域再生家」による痛々しいまでの地域破壊の様子が綴られている以上そうならざるを得ないのだ。以下、一例。

PP. 037-038
二荒山神社は、まさに「宇都宮の顔、心」というべき存在である。事実、宇都宮市も策定する多くの計画書の中で「二荒山神社、まちの顔」と記載している。だが口先ではそう言いながら、神聖な二荒山神社の面前(鳥居右側)に、しかも神社を見下ろす高さで「うつのみや表参道スクエア」を建てた。宇都宮市はさらに、鳥居左側に24階建高層ビルの建設を予定している。「宇都宮の顔、心」と言うべき二荒山神社は、高層ビルで挟み撃ちにされようとしている。

右の写真は本書にあるものとは違う角度のものだが、Google Mapで容易に見つけることができた。これのどこが地域再生なのか、よそ者から見てもわからない。

そう。よそもの。

これまでの「地域再生」には「ヨソモノ、ワカモノ、バカモノ」の視点が欠けていたのだ。

だから、すでにそこに住んでいる「だけ」の人の要望--という名の凡庸な東京の猿真似--がまかり通る事になる。その東京から、もう一例挙げよう。

P. 231
東京都西東京市が裁判の結果、公園から噴水を撤去した事例は有名なのでご存知の方も多いと思う。西東京市緑町にある「西東京いこいの森公園」の噴水で遊ぶ子どもの声がうるさいとして、近隣に住む高齢女性が騒音差し止めの仮処分を申し立てた。その申し立てを受けて、2007年10月に東京地裁八王子支部が噴水を使用してはならないという決定を出し、噴水の水が止められた。

こうして子供は地域から閉め出され、それがゆくゆくは地域衰退へとつながる。

あとは本書で確認していただきたい。繰り返しになるが、地域再生というのはとても「地域」という言葉に要約できるようなものではないのだから。

ただし共通項の一つとして著者が掲げている、「私益から公益へ」という言葉には一つだけつっこんで置きたい。「公」というのは地域にとって大きすぎる言葉なのだ。だから国だのゼネコンだの、そして著者のような--失礼、しかし著者はそれを正直に告白している--全国区の「専門家」ばかりが手を出し口を出して来たのだ。公益というのは手垢にまみれすぎた言葉になってしまっている。「里益」というのはどうだろう。この方が「公益」よりも目線が低い。

地域衰退の一番の理由が上から目線にあったのは確かなのだから。

Dan the Taxpayer


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まずはリンク先をご覧ください。 404 Blog Not Found:私益から里益へ – 書評 – 地域再生の罠 地域再生の名のもとに、いかにひどい地域破壊が行われてきたかを、有権者は改めて確認しておく必要がある。 本書「地域再生の罠 なぜ市民と地方は豊かになれないのか?...
私益から里益へ – 書評 – 地域再生の罠【jimomag】at 2010年07月06日 10:22
この記事へのコメント
新幹線を通さないと東京から人が来ない。

でも、新幹線を通すと、みんなが地元でなく東京で消費してしまう。

東北新幹線と九州新幹線の完成は、結局仙台一極集中と福岡一極集中を促進するだけ。

でも、新幹線が通らないと地域はもっとさびれて活力を失う。

新幹線や高速道路みたいな不可欠のインフラでさえ、大きな問題が生じるわけですから、無茶な地域再開発というのは、有害な結果に終わるものが多かろうと思います。
Posted by h7bb6xg3 at 2010年07月06日 06:35