2010年07月21日 18:00 [Edit]

一読してご卵 - 書評 - 金の卵

築地書館佐々木様より卵とともに献本御礼。

いや、卵のついでに、本書を頂いたというべきか。

つまんでご卵(らん)」とはよく言ったものだ。名前はシャレだが味はガチである。これなら一個50円は高くない。

この卵がどうやって生まれたかが、本書である。卵に劣らぬ傑作である。


本書「金の卵」は、養鶏ビジネスを根底からくつがえす一冊。

目次金の卵より
はじめに - 胸を張って、農業で儲ける!
第1章 ニワトリを幸せにするための農業ビジネス
  1. 「最初にやる」が大事 -- 黄身を指でつまむ!?
  2. ネーミングがブランドを作る
  3. お客様目線を大切にする
  4. 広告はしない、けれどマスコミを大切にする
  5. 五〇年間、卵の価格が変わらないのはなぜ?
  6. ニワトリのSOSを見逃さない
第2章 ニワトリへの愛情がお客様の幸せにつながる
  1. 最高の住環境を用意する
  2. ニワトリにストレスをかけない
  3. ニワトリだって悪臭はつらい!
  4. きれいな空気の鶏舎を作る
  5. ニワトリのためのベッド--革命的とまり木
  6. 知識と経験を財産に変える
第3章 「味」と「見た目」を徹底追求
  1. 日本人向きにニワトリを品種改良
  2. 卵の品質はエサが決め手
  3. おいしく見える色を作り出す
  4. オレンジ色に輝く黄身の秘密
  5. 品質を保障する
  6. 病気にかかりにくいニワトリの秘密
  7. ネスト(産卵箱)にお金をかける
  8. 規格外卵が三十円で売れる理由
第4章 幸せなニワトリは「安全」な卵を産む
  1. 一個五〇円の『つまんでご卵』が売れる理由
  2. 賞味期限は一ヶ月
  3. 低コレステロール、低カロリー
  4. アレルギーが出にくい理由
  5. 黄身がつまめる卵は安全!
第5章 「金の卵」の誕生秘話
  1. 三つの成功条件
  2. ペットとしてのニワトリ、家畜としてのニワトリ
  3. 日本中の養鶏場を飛び回る
  4. 健康には、健康な食べ物が欠かせない!
第6章 「金の卵」を生む仕事とは?
  1. 臭わない養鶏場を目指す
  2. 最初からうまくはいかない、だから挑戦する
  3. どんなにきつい労働にも、体は慣れる
  4. 自然には抗えないことを汁
  5. 再出発 - 知識と経験をすべて詰め込んだ鶏舎
第7章 新しい農業ビジネス――フランチャイズ化への夢
  1. リピート率は八〇%
  2. 直売所『にぎやかな春』オープン - 安全安心の食品を供給する
  3. 昔の飼い方が、おいしさの秘訣
  4. 新商品開発 - ロールケーキが大ヒット!
  5. フランチャイズ化の可能性
  6. 養鶏を農家の手に取り戻す
  7. 卵の値段のつけ方
  8. お客様に「健康」を提供するために
第8章 ニワトリの幸福が導く成功への道
  1. 農業はプロダクトアウト
  2. 夫婦で役割分担する
  3. ときには楽観的に、どんと構える
  4. 自信があるから売れる
  5. 常識を打ち破る
  6. 人とは違ったアプローチを試みる
  7. まずは、ひとりではじめる
  8. アイデアを組み合わせる
  9. 返すアテのない借金はしない
  10. あらゆる記録をつける
  11. 科学で裏付ける
  12. 時代を読む
  13. なによりも、ニワトリを愛する
  14. すべてを結びつける
おわりに - 「夢」に「好き」をかけあわせた力
あとがきにかえて ー農業ビジネスの新たな可能性
『緑の農園』のあゆみ
参考文献

読み進めるにつれ、驚きは深まって行く。

養鶏のビジネスとしての特殊性ではなく、ITビジネスとの共通点に。

この業界は、凄まじいまでのデフレ圧力の中にずっといた。その様子は「ニワトリ 愛を独り占めにした鳥」でも活写されていたが、あちらにとってのニワトリは研究対象であるのに対し、こちらは主力商品。筆圧も一段と高まる。

P. 31
 卵は「物価の優等生」と言われる。
 卵の価格は、五〇年間、ほとんど変わっていない。
 一九五五年の卵の平均価格は、一キログラムで二〇五円。当時の国家公務員の初任給は、八七〇〇円。初任給で卵四二キログラム買える。
 二〇〇七年の卵の平均価格は、一キログラムで一六八円。当時の国家公務員の初任給は、二〇万二四九六円。初任給で卵の価値は三〇分の一に下がっているのである。
 これを支えて来たのが、近代養鶏技術である。

そんな万年デフレの業界にあって、著者は価格ではなく品質で勝負し、勝利を収めた。

よんでご欄 -有限会社緑の農園公式ブログ-   これもマンガ、あれもマンガ?
「美味しんぼ」にでてくる養鶏法は、どう見ても素人のものである。そのような人たちによって生産された「自然卵」は、今ではかなりの数が淘汰されている。価格の割りに、消費者を満足させる卵ではないからだ。雁屋氏の不満と、同じ不満を、消費者も感じたのである。

どこかで見た構図ではないか?

そう。Appleである。

シェアではなく利幅を追求し、最終製品の品質にはこだわりながら、各要素では「業界標準」を臆面もなく使う。Appleがファウンドリーを活用するように、著者もアグリビジネスが生み出した品種、ボリスブラウンを活用している。そこにものづくり至上主義は存在しない。存在するのは本当の合理主義だ。

そんな養鶏を確立した著者は、こんな人である。

P. 233
体をこわさなければ、たぶんサラリーマンを続けていただろう。一級身体障害者、すなわち人工透析患者になったからこそはじめることができた私の事業である。社会に相当な負担をかける身となりながら、それなりの仕事ができたのは、非常にうれしいと思っている。

こんなところまであの人にそっくりではないか。

スティーブ・ジョブズの感動スピーチ(翻訳)
君たちの時間は限られている。だから自分以外の他の誰かの人生を生きて無駄にする暇なんかない。ドグマという罠に、絡め取られてはいけない。それは他の人たちの考え方が生んだ結果とともに生きていくということだからね。その他大勢の意見の雑音に自分の内なる声、心、直感を掻き消されないことです。自分の内なる声、心、直感というのは、どうしたわけか君が本当になりたいことが何か、もうとっくの昔に知っているんだ。だからそれ以外のことは全て、二の次でいい。

シリコンバレーでなくとも、そういう生き方は可能なのだ。

23才ではなく39才で起業しても、そういう仕事の仕方は可能なのだ。

それを味わえるだけでも、本書を一読せざるを得ないではないか。

Dan the Amazed


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