2010年10月04日 10:30 [Edit]

恒星間旅行に最も近い一冊 - 書評 - ロシュワールド

これを見たら紹介せずにはいられなくなっちゃったので。

本物の Starship = 恒星間宇宙船を(想像の上でも、ましてや実際に)作りたい人、必読。

邦訳も原著も新刊で手に入らないようなのだけど、それでも何とか入手して欲しい。


本作「ロシュワールド」は、こんなお話。

Rocheworld - Wikipedia, the free encyclopedia
Rocheworld (1985), also known as The Flight of the Dragonfly (1984) is a science fiction novel by Robert Forward in which he uses a light sail propulsion system to set the crew on an interstellar mission. The spaceship and crew of 20 have to travel 5.9 light-years (ca. 34 trillion miles; ca. 56 trillion km) to the double planet that orbits Barnard's Star, which they call Rocheworld.

要するに、バーナード星まで人類を送り込むというお話なのだけど、その送り込み方が、現在考えられる中で最も現実的な方法なのだ。

ロケットは、使いません。

その代わりに使うのが、光帆。そう。イカロス君と同じ方法。

油断するなここは戦場だ :  日曜日の夜は白テープでレトロSFの香り
それが光速の1%まで加速されたら、バンデグラフからくるビームと同じ速度になっている。光の速度の10% までいけば、あたった原子核を分解するレベルである。光の速度の70% までくると陽子と陽子がぶつかって中間子が多数生成されるハドロンシャワーだっておこる。 宇宙のなかをのんびりただよっている分子に突っ込むだけで、高エネルギー衝突反応がおこり、機体が放射化する、、、、う〜ん困ったなぁ。

しかし星間物質で困る遥か手前で我々は困っている。

どうやって宇宙船をそこまで加速するか。

油断するなここは戦場だ :  日曜日の夜は白テープでレトロSFの香り
小飼弾さんに教えていただいたのだが、だが、アーサー C クラークの「遙かなる地球の歌」ではこの問題を宇宙船前に長い氷のキャップをかぶせることで解決することが 提案されているらしい。

シールド問題に関して「遙かなる地球の歌」はド現実的なのだけど、その加速方法は、なんと真空エネルギー抽出。「マッカンドルー航宙記」もこの方法なのだけど、これに関しては目処どころかそもそもそれが可能かもわかっていない(存在はほぼ確定)。というわけで野尻さん(♀かつS. Factの方)にはぜひ真空エネルギー抽出法を見つけてもらって太陽系一の億万長者になっていただくとして(笑)、とりあえず今使える方法を考えると、ロケットではどうもあかんということがわかる。

ロケットの最大の問題は、自分で燃料を持ち歩かなくてはならないこと。

出発時点でどれだけ燃料が必要かというのは、ツィオルコフスキーの公式で一世紀も前に計算できるようになっているのだけど、恒星間旅行だと笑っちゃうぐらい悪くなる。

加速して、その後同じだけ減速しなければならないので、単純に加速する場合の二乗で悪くなるのだ。たとえば加速するまでの質量比=燃料抜きの重さとそれを足した出発時の重量の比が、加速する場合で1:100だとすると、1:10000ということになってしまうのだ。

じゃあどうするか。

太陽に押してもらえばいい。

これなら、恒星間旅行も「手ぶら」で行ける。

そのままだと押しが弱いので、本作で水星に太陽光励起レーザー基地を作って、そのレーザーで押している。

これで、加速問題は解決。

でも、減速どうしよう?

本作が提示した方法は、まさにころたま。

帆を二段にしてしまうのだ。

減速開始時に帆を分離して、一段目の帆には鏡になってもらう。太陽系のレーザー基地は引き続き一段目の帆を押し続けるけど、それで反射されたレーザーが二段目の帆を減速する。一段目の帆は使い捨てということになるので質量比は悪くはなるけど、それでもロケットに比べれば文字通り段違いにいい。

そして、現地に到着してそこにもレーザー基地を作れば、恒星間往復旅行さえ可能になる。

このアイディアは、「太陽の簒奪者」でも使われている。しかもある意味本作以上に印象的なやり方で。それがどんなであるかは同作で確認していただくとして、尻Pこと野尻(♂かつS. Fictionの方)さんはぱんつを飛ばす前に宇宙船(を|で)飛ばしていたことは覚えておいて欲しい。

で、話を「ロシュワールド」の方に戻す。実はこの作品で一番「フィクショナル」なのは、物理学ではなく生物学の方。

油断するなここは戦場だ :  日曜日の夜は白テープでレトロSFの香り
光の速度の10%のスピードで目的の星まで200年。その星までついて、帰ってくるとしたら400年。それほど長い間同じ装置を動かした経験をわれわれはもっていない。そして、一人の人間の寿命を遥かに越える飛行時間。唐の時代、玄奘三蔵が中国からインドに教典をとりにいく旅は15年かかり、彼の寿命は約60年だった。人生の25%を過酷な旅に費やすのもいいかもしれない。だから宇宙にいくためには、まず人類の寿命を1000年にのばすことを考えるべきなのだろう。。。。

グリーゼ581への距離の1/3にも満たないバーナード星ですら、40年かかる。この問題を解決するのに、本作では no-die という薬を使う。一種の代謝抑制剤のようで、寿命も延びる代わりに服用期間中は乗組員の知能まで退行してしまう。この間どうするか。人間の面倒を見るロボットがどうしても必要なのだが、このロボットがSF誌上最も魅力的な非人間型ロボットなのだ。

まず六本足のタコを想像して欲しい。ただし足はぐにゃぐにゃしてなくて、人間の手足のように関節がある。関節は三つあるのだけど、面白いのは一番末端の関節から先が、本体と相似なこと。やはり六本足--指というべきか--で、最後の関節はやはり自己相似形になっている。

この自己相似部分は分離可能で、小さなものは昆虫のように空を飛ぶことができる。小さいものほど飛びやすいのは、鳥と昆虫を比べればわかる。レイノルズ数のマジックのおかげで、小さければ空力的に不格好でも充分飛べるのだ。一台の親ロボットには6台の子ロボット、その子ロボットには6台の小ロボット…

光エネルギーで駆動されるその姿にちなんで、このロボットはクリスマス・ブッシュと呼ばれる。

no-die とクリスマス・ブッシュに守られたクルー達を待ち受けるのは一体何か?

それは本作で確認していただくとして、そのアイディアの数々は四半世紀経った今でも色あせない。どころか四半世紀後の今、やっと現実が追いついたとも言える。そしてなんと日本は本作に一番近いところにいるのだ。

イカロスは言うに及ばず、太陽光励起レーザーは「マグネシウム文明論」で一般にも知られるようになった。 no-die への突破口は、iPS細胞 が拓くかも知れない。そしてロボット…著者が生きていたら、私に同意してくれるに違いない。

いや、下手すると日本もGUSAの一部にさせられてしまうか。本作の世界ではカナダと米国はすでに合併しているのだし。

このようにアイディア満載の本書の価値は、「竜の卵」に勝るとも劣らない。というかSF界にとっての著者は、007の世界にとってのQのような人で、この人の著作なしにハードSFは書けないといっても過言ではない。Science Fact に最も強い Science Fiction Writer だった著者が永眠してからすでに8年が経ったが、しかしまともに入手できる新刊が「竜の卵」ぐらいしかないというのはあまりに寂しい。本書と「SFはどこまで実現するか」の二つだけでも復刊して欲しいものなのだが…

Dan the Earthling


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