2011年08月10日 20:00 [Edit]

Stay Responsible - 書評 - ジョブズ・ウェイ

編集部より献本御礼。

「世界一価値のあるテクノロジー企業」から「テクノロジー」という但し書きがなくなろうとしている今、ビジネス書の欄もApple本で溢れているのは当然ともいえるが、しかし同社の秘密主義もあいまって、そのいずれも「外から」書かれたものであり、「内から」書かれたものは本当に少ない。

本書はその希有な一冊である。


Appleという企業体を内から描いたものとしては、Guy Kawasakiの" The Macintosh Way"があるが、これは Jobs 復帰以前に上梓されている上、未邦訳(でも抄訳でもいいので復刊希望。挿し絵が絶妙なのだ)。現時点ではAppleで「人事部長」を務めていた著者による本書「ジョブス・ウェイ」がほぼ唯一の選択肢かと思われる。

本書にあって「スティーブ・ジョブズ 驚異のイノベーション」にない点は、二つ。

一つは、「正しい事を、正しい時に」。これは同書の書評で語ったので詳しくはそちらをご覧いただくとして、この言葉そのものは"The Macintosh Way"から引用したものだ。「正しい事は正しい時になされてこそ正しい」というのは Jobs 本人のみならず社内でも共有されていた証左ではないか。

P. 307
スティーブと親しく、彼を心から尊敬しているある人物は、こう語る。「アップルやスティーブの素晴らしいところは、技術が整うまで、製品を出そうとしない事です。その点には、本当に敬意を払うべきだと思います」

そしてもう一つは、AppleをAppleたらしめている最大の因子、トータルコントロール。本書では「ホールプロダクト」として紹介されるそれは、Appleをまもなく世界一価値のある企業とする原動力であると同時に、「Apple帝国」内外にとって最大の懸念事項である。

そのあたりの期待と不安に関しては、「AERA×Apple アップルはお好きですか?」の斎藤由多加の記事が出色の出来。この記事だけでも同書を入手しておく価値がある。

話を「ホールプロダクト」に戻すと、要はこういうことをしたら負けだということである。

what brand?

これは私のVAIO Wを撮ったものであるが、問題がおきたらこのシールの主のうち誰が責任をとってくれるのか?パームレストという位置も問題だ。いやでも利用者の目に入る。なんですでに金出して入手した後で広告を見せつけられるのか?

Sonyの中の人々は恥ずかしくないのか?悔しくないのか?別にSony製品だけではない。事実上全てのWintelノートがこの点に関しては同じ穴の狢だ。

Apple製品は違う。大きな林檎マークは、必ず「背中」についている。外に対しては大きくアピールしても、内に対してはあまり目立たないようになっている。

別に全てを作ろうとする必要はない。他者の方がいいものを作れるのであれば、それを使うのも厭わない。初代Macintoshのフロッピーディスクドライブがソニー製なのも、LaserWriterのエンジンがキヤノン製なのもそれが理由だ。

しかし上のステッカーのごときを、Jobsは断固として拒絶した。それをいかに成し遂げたかのエピソードだけでも、本書をひもとく価値がある。

ブランドとは、何か?

その名において責任を全うすることだと今ならわかる。Apple製品はAppleだけでは作れない。その中には私のコードすら入っている。しかしApple製品の責任はあくまでAppleがとる。少なくとも、客に対して「OSベンダーのせいだ」とか「通信キャリアのせいだ」という言い訳は、Appleはしないしできない。後者はやろうとすればできないけれども、「アンテナゲート」の時も、AppleはAT&Tという言葉を一言も使っていない。

Jobsを時価総額世界一のIT企業の親玉だと思うと、彼の行動はわからない。

しかし Hotel Apple の支配人としてみればどうだろう?

指で窓のへりをしゅっと拭いて埃を確認することぐらいむしろ当然なのではないか。

いざという時しか客に顔を見せないことも。

それだけのことだし、しかしそれだけのことを徹底するのがどれだけ難しく、しかしそれを成し遂げたらどれだけのものが得られるのか。

誰もがなし得るわけではない。しかし誰もが学び得ることではあるのではなかろうか。

Dan the Customer Thereof


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この記事へのコメント
s/やろうとすればできないけれども/やろうとすればできないことはないけれども/
Posted by mmzzoo at 2011年08月11日 13:53