2012年05月30日 06:30 [Edit]

何人たりとも斥けぬ力 - 書評 - 重力とは何か

その小木田さんより献本御礼。

大栗博司のブログ : 『重力とは何か』
何度目かのミーティングのときに、文系出身の小木田さんが、
「特殊相対論はもうわかったので、今日は一般相対論をきちんとわかろうと思います」
と切り出されたのには驚きました。しっかり「素人チェック」が入っています。

幻冬舎新書というのは、最も玉石混淆率が激しい新書レーベルなのだけど、これは玉。こうなると欲も出てくる。残り三力もお願いします。特に「強弱つけて」。


本書の主題「重力とは何か」に書かれた本は多い。世界一有名な物理学者アインシュタインの主業績ということもあり、レッドオーシャンどころか赤方偏移が進んで2.7Kになりそうなほど。その中であえて飾りっけゼロのタイトルを持って来たところに、著者と編集者の自信が伺える。

では何が本書を「背景輻射」から際立たせているのか。

「わかる」の扱いだ。

冒頭の編集者の「特殊相対論はもうわかったので」という台詞を見て、本当に「わかった」人はこう憤りを感じるのではないだろうか。「黙れ小僧!お前にローレンツ変換が掬えるか!」、と。本書には数式はほとんど出てこない。出てこない以上、本書のみで「重力とは何か」を習った人が大学で物理学を履修した人のレベルで特殊相対論をわかっているわけがないのは確かである。

しかし、である。本書を読了した人であれば、ここまでは言い返せるのだ。

わからない。だが物理学とともに生きることはできる、と。

本書を読んだだけでは、E=mc2は導出できない。が、アインシュタインが何を着想したかははっきりと分かる。「光速で移動中でも、光速は光速のままなのだろうか?」。その着想を理論にまで昇華したのが特殊相対論。いや、これ名前悪いよなあ。光速絶対論の方がいいよなあ…

本書が伝えるのは、そういうことである。意味まで理解できなくとも意義ならわかる。なぜ著者を含め物理学者たちは重力とは何かを知りたがったのか。何をどう発想したのか。そして何を悩んだのか。ガリレオからニュートン、アインシュタインを経て、ペンローズ、ホーキングから著者たちが現時点で取り組んでいる超弦理論まで、「黙れ小僧!」抜きで読ませてくれる。入門書はかくあるべきだと私は思う。読んだだけで悟れるなら修行はいらない。しかし、「修行してみようかな」という気にはさせてくれるし、「やっぱりついていけません」となっても後ろ指を刺されることもない。「宇宙は何でできているのか」といい本書といい、第一線の物理学者たちは実は優しいというのがわかるだけでも充分な収穫である。

優しいのでは生温い、という人には「虚数の情緒」を、さらに英語も苦にならないという人には"The Road to Reality"を薦めておこう。

で、重力である。四つの力の中で圧倒的に物理入門で取り上げられる機会が多い理由は、本書の第一章、重力の七不思議を読めば納得がいく。

  1. 重力は「力」である
  2. 重力は「弱い」
  3. 重力は離れていても働く
  4. 重力はすべてのものに等しく働く
  5. 重力は幻想である
  6. 重力は「ちょうどいい」
  7. 重力の理論は完成していない

それぞれの不思議がどういう意味なのかは本書で確認していただくとして、しかしこの宇宙にはもう三つ力があるのだ。電磁気力、強い力、そして弱い力。エンジニアにとって最もなじみの深い人類が最も自在に操れる電磁気力はまだしも、「強い力とはなにか」「弱い力とはなにか」に関する入門書ともなるととたんにブルーオーシャンになる。青方偏移でγ線になるんじゃないかってぐらい。「クォーク」ぐらいしか思いあたらないし、入門書と呼ぶには敷居もかなり高め。そもそもそんな力が存在すら知らない人だって少なくないのではなかろうか。ところが、この二つの力こそ核力の正体なのである。なぜ崩壊する原子核とそうでない原子核があるのか。なぜ核分裂より核融合が難しいか。「続きは大学で!」で済ませるには、あまりに身近になってしまったこの二つの力。そろそろ本書レベルの入門書があってもいい頃だと思うのですがいかがでしょうか。

とはいえ仮に最終的に四部作になるとしても、まずは重力からというのは満場一致のはず。まずはご一読を。重力だけあって、斥けられる読者はいないはずです。

Dan the Gravitated Reader


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重力とは何か【セカンドオピニオンな書評】at 2013年08月08日 18:04
この記事へのコメント
ヒッグス粒子も見つかったみたいだから、重力なり、重力波なりの伝導も、いずれ解明されるのでしょう。

重力が光速(か光速未満)で伝わるのだとしたら、海王星や冥王星と太陽や木星との重力的相互作用というのは、太陽系の天体の公転軌道にどういう作用を持つのだろう。太陽の重力は、冥王星や海王星に到達するのにずいぶん時間がかかるわけで、冥王星や海王星の公転軌道の性質は、水星や金星の公転軌道の性質とはずいぶん異質ということなわけだ。はたして、そのあたり、真実はどうなのか。
Posted by h7bb6xg3 at 2012年07月26日 19:03
h7bb6xg3さん、
>重力の伝導は、光速よりも速いわけだ。
重力は光速で伝わるというのが一般相対性理論じゃなかったでしたっけ?
「重力」じゃなくて「重力波」とすべきでしょうか。勉強してみます。
Posted by https://me.yahoo.co.jp/a/2kUoe2ZBO5hsi8auV113D2RlS8M-#0e7ac at 2012年07月26日 14:02
重力って、媒体中を伝導するものではなくて、即時に感応しあうものなんでしょ。作用しあう二者がどんなに離れていても。この点はすごいなあと思う。

重力の伝導は、光速よりも速いわけだ。

重力っていうのは、質量から派生するわけだとしたら、当然、エネルギーの一種としても捉えようがあるわけだよね。そうでないと話がおかしくならないか?
Posted by h7bb6xg3 at 2012年05月30日 07:13