2012年10月11日 23:45 [Edit]

プロの悩み方 - 書評 - オタクの息子に悩んでます

出版社より献本御礼。

脱帽。これぞ岡田節。

人から相談を持ちかけられる立場の人は、必読。「自分に相談する」まで含めて。人から相談を受けることを生業としている人であればなおのこと。本書後は、本書より冴えた答えが出せなきゃおまんまの食い上げなのだし。

ただし、一点だけ注意。本書を読了したことは、あまり喧伝しないこと。相談室の本棚にこれ見よがしに置いておくのはもってのほか。

なぜか。本entryはそれについて述べる。


本書「オタクの息子に悩んでます」は、著者による新聞連載の人生相談を一冊の本にまとめたもの、かと思いきや、その人生相談をどのように作ったのか、その手口一切を公に曝したもの。

こういうのも何だが、新聞連載の人生相談によせられる悩みというのは、一部例外があるものの。実に「しょぼい」。その程度の悩みでいいなら私の人生ととっかえてくれないか、そしたら人生楽勝だったのに、そんな思いすら覚える。「悩み」そのものの凄さを味わいたいのであれば、ネットの方がずっといい。そんな「とるにたらない」、文字通り「他愛のない」「入力」を、「読むに値する」「出力」に変えるところが人生相談の醍醐味であり、この「出力」に関しては「フリー」ではないメディアに一日の長があると思う。私がメルマガ、いやブロマガをはじめたのも、それがきっかけ。余談ではあるが、著者もブロマガをはじめている

しかし本書が「ただのすぐれた人生相談」ではないのは、「出力」ではなく「プログラム」を公開したことにある。計算問題を出したら、解答だけではなく方程式がかえってきたようなものだ。入力→出力→プログラム。本書の構造は、館長庵野秀明特撮博物館驚くほど酷似している。「巨神兵東京に現わる」が新聞連載の方で、本書は「巨神兵東京にこうして現わる」に相当する。そして庵野と著者が仕事仲間ことを思い出し、驚きは納得へと変わる。

その人生相談において最も重要なのは、正答を返すことではもちろんない。質問者と一緒に悩むことだ。「通常」の問答のことを我々は「対話」と呼ぶが、ここにおいて求められるのは「並話」とでも呼ぶべき姿勢である。著者はそれを「相手と同じ温度の風呂に入る」と表現している。

正答を返すことに長け、またそれを誇りにしている人を、よく人々は「頭がいい人」と呼ぶけれど、「頭のいい人」の大半はこの時点で失格することが多い。その答えが冴えていれば冴えているほど、温度差は大きくなるのだから。おかげで「キュゥべえみたい」と親や配偶者や子に呼ばれる羽目になる。弾、おまえのことだ!

「相手と同じ温度の風呂に入る」。これだけでも「頭のいい人」はもっと「もてる」ようになるだろう。著者のように

それでは正答は探さなくていいのかというと、そうもイカ娘。相談者と自分自身だけしかそこにいないのであれば、ただ「そうだね」「はげしく同意」とうなずくだけの方の方が慰め効果は大きいし、黙って抱きしめてあげることに勝る一言は実はありえなかったりもするのだけど、ここは新聞の人生相談。読者という観客がいることを忘れてはならないでゲソ。彼ら「通りすがりの読者」を「思い当たるふしがある」とうならせて、はじめて「プロの解答」になる。そこをどうするか。そこは本書を読んでのお楽しみ。確かにこれなら誰でも女に惚れさす名言、じゃなかった質問者を納得させる一言にたどりつける。ね、簡単でしょ?

で、その解答の見事さと、それ以上に見事な解法を見て、一つ気になったのである。

本書で取り上げられている相談者が本書を目にしたとき、どう感じるか、が。

「相手と同じ温度の風呂に入る」のが、「情」ではなく「技」ゆえだと知ったときに。

天然ものだったと思ったあの料理が、実は工場で作られていたということを知った時のような気持ちになるのではないのか、と。

私自身は、「うまいものに天然も人工もあるか」「白猫も黒猫もネズミを取ってくれればいい猫だし、取ってくれなくてもそこにいるだけでかわゆい」という質という事もあって、著者と共著するという光栄にもあやかったのだが、世の過半の人は、それで料理の後味が悪くなるものだということも今は知っている。無邪気かつ無防備に、公の場で自分の悩み--つまり弱み--を曝してしまう本書の相談者たちともなれば、なおのこと。

私よりも遥かに聡明で人生経験も長い著者が、このことに気づかぬはずもない。

それでも、それを曝してしまうのが、岡田斗司夫の岡田斗司夫たる所以なのだ。

自分に嘘がつけない、というより自分を騙せない人なのだ。「「世界征服」は可能か?」を本にしてしまう人なのだ。私自身、そういう人種に属していることを共著以上に思い知らされた。

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だが断る。

それでも充分もててるしね。我が妻も娘も、私の正体を知ったところでハチの巣にしたりしないし。

それにしてもやられた。私自身も今や「プロの相談相手」の端くれなのに、これほど手口を明かされてしまうとは。しかし世の中そうやって進歩していくのである。毎日肝臓をハゲタカについばまれる羽目になるのがわかってもなお人にそれを伝えてしまうクレイジーな人々が表れることを人類は避けようがないのだから。

大丈夫。仮に本書をなぞっても、私が描く絵はやはり著者のそれとは充分違う。著者のそれとは違った「並話」をお求めの方は、ぜひこちらに。待ってるから。

Dan the Man


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