2013年02月09日 11:00 [Edit]

「わかる」と「よくわかる」の違い - 書評 - よくわかる初等力学

今回も献本御礼。

ある意味、「よくわかる」シリーズで最も待たれていた一冊かもしれない。

これぞ、「今、そこにある物理」なのだから。

ほぼ同時期発売の「量子力学入門」とあわせて紹介(こちらもあわせて献本御礼)。


本書「よくわかる初等力学」は、「よくわかる電磁気学」、「よくわかる量子力学」に続く、@irobutsu理学第三弾。

目次
第1章 静力学その1―力のつりあいの1次元問題
第2章 静力学その2―2次元・3次元での力のつりあい
第3章 静力学その3―剛体のつりあい
第4章 運動の法則その1―1次元運動
第5章 運動の法則その2―2次元以上の運動
第6章 保存則その1―運動量
第7章 保存則その2―力学的エネルギー
第8章 保存則その3―角運動量
第9章 振動
第10章 相対運動と座標変換
第11章 万有引力
付録A 物理で使う、微分と積分
付録B ベクトルの内積・外積
付録C 2次元・3次元の座標系
付録D 次元解析
付録E 問いのヒントと解答

まず、初等力学とは、何か。

ニュートン力学のことだと思って、さしつかえない。

ニュートン力学 - Wikipedia
ニュートン力学(ニュートンりきがく、英語:Newtonian mechanics)は、アイザック・ニュートンが彙集した一連の物理法則を指し、物体の運動と力の関係を明確に数学として表現する力学の一分野である。

明確に数学として表現する。これが、哲学をはじめとするそれ以前の「学」と「科学」の一番の違い。数学として表現するとなにがよいか?

「なぜ」だけではなく、「なんぼ」がわかるようになるのだ。

「中卒」でもわかる科学入門
科学は「なぜ」を問う学問でもあります。古代ギリシアにおいても、天体の運行や物質の成り立ちを考える科学的思考の萌芽はあり、哲学者たちは「なぜ」を問い続けていました。しかし、哲学との境界が曖昧だった頃の「科学」と、現代科学の一番の違いは「なぜ」だけでなく、「なんぼ」も語るようになったということでしょう

その数学から導き出された数字について語り合うのであれば、四則演算で足りると同書で私は主張した。このことは本書の次元解析に対応しているのであるが、しかし同書の「わかる」や、あるいは「重力とは何か」や「強い力と弱い力」の大栗本の「わかる」と、irobutsu理学の「よくわかる」には決定的な違いがある。

納得と、体得だ。

「よくわからなく」ても、「わかれ」ば、専門家、つまり科学者たちに質問を投げかけ、彼らの答えを用いることは出来る。つまり「わかる」というのはプログラミングで言えばAPIの使い方を知っていることに相当する。途中の過程はブラックボックスでも、入口と出口を抑えておけば納得づくで物事を進められるし、理由はわからなくとも我々は理論の帰結に感動することさえ出来る。

しかし「よくわかる」ためには、数字だけではなく数学もわからなければならない。「わかる」と「よくわかる」の間には、アプリを使えるとアプリを作れるぐらいの差があるというわけだ。

で、初等力学である。我々にとって最も身近な物理学の応用applicationは、初等という言葉とは裏腹に「よくわかる」のは決して簡単ではない。初等力学と「その後の力学」の違いはあくまで身近さであって、難易度とは言えない。

ここであえて「量子力学入門」から、著者の言葉を引用する。

量子力学を理解している人は、1000人に1人もいない(いや、10000人に1人もいないかも?)

この「量子」を「初等」に変えても、1000人が100人になるとはとても感じられないのだ。500ぐらいだろうか…

数学が難しいから?確かにそれもある。

しかしそれ以上に難しいのは、物理学が論理ではなく物理だからだ。

同書より
物理学の目的は現実をうまく記述する方法を見つけることであって、その記述方法が人間にとって心地よいかは二の次である。いかに量子力学による世界の記述が奇妙に見えようとも、それが人間の直感に反しようとも、現実がそうであるのであれば仕方がない。

それでは、初等力学による世界の記述は奇妙ではないのか?

リンゴは地面に落ちる。月は地面に落ちない(どころか遠ざかっている)。

片方だけなら日常だけど、両方が成り立っているというのは十二分に奇妙ではないのか?

ここでリンゴにはリンゴの理が、月には月の理がそれぞれ別にあるという考え方はありうる。しかしそれはまったくもってうまい記述ではない。リンゴにも月にも同じ理をあてはめて、それでもリンゴが落ち、月が落ちないようにするにはどうしたらよいのだろうか…

本書で読者が学ぶのは、まさにそういう理だ。

そういう理がわかると、何ができるようになるか?

海峡をまたぐ橋をかけられるようになる。自動車が作れるようになる。飛行機が作れるようになる。そして、ロケットが作れるようになる。GPSを作れるようになるには、さらにその先の相対論や量子力学が必要だけれども、初等力学だけでも宇宙に手が届くのだ。

こんなすごいことが、高校生にも「よくわかる」ように教えられるなんて、ヒッグス粒子を見つけるにも劣らない「人類、やるじゃない!」ではないか。

ただし、「よくわかる」のは「よくやった」人類だけである。それが、物理という物の理なのだ。

そして「よくやった」後に訪れる、「よくわかった」の快感ときたら!

「中卒」でもわかる科学入門 - おわりに
およそどんな人でも、幸せな瞬間というのは次の二つしかないのかも知れません。
  1. できなかったことができるようになった瞬間
  2. わからなかったことがわかった瞬間

「よくやって」「よくわかれ」ば、誰でも味わえる。むしろ「学期」という「締め切り」に追われて「やらされる」、(過日の私自身を含めた)学生諸君に同情を禁じ得ない。ほとんどの人にとって「よくやる」時間も「よくわかる」余裕も足りないのだから。

そして著者にとっては、ページ数が足りなかったようだ。本書は「よくわかる」シリーズ最大の400ページを超えているにも関わらず、演習問題の解答はWeb別掲にせざるをえなかったぐらい。「初等」力学の重さがそこからもずっしりと伝わってくる。

ぜひ、手に取って持ち上げてほしい。持ち上がった時の快感は持ち上げた人だけが手に入れられる特権なのだから。

Dan the Physical Blogger


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