2014年05月19日 22:30 [Edit]

俺のサム伯父さんがこんなにマヌケなわけがない - 書評 - 暴露

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暴露

-スノーデンが私に託したファイル-
Glenn Greenwald /
田口俊樹濱野大道武藤陽生
[原著:No Place to Hide]

ここに書評を書くのは久しぶり。出版社より献本御礼。

これでますます信用できなくなった。

米国政府が?いや、Snowdenが。


本書「暴露」は、米国国家安全保障局(NSA)の「PRISM計画」を暴露して一躍時の人となった Edward Snowden の資料を託されたブラジル在住のジャーナリストによる「NSAの本性」。原題"No Place to Hide"はもちろん"from NSA"を意味する。

PRISM (監視プログラム) - Wikipedia
PRISM(プリズム)とは、アメリカ国家安全保障局(NSA)が2007年から運営する、極秘の通信監視プログラムである。正式名称はUS-984XN。コードネームは、名前の通りプリズムにちなむ

なぜPRISM「計画」や「NSAの本性」が「」でくくってあるかというと…

うーん…

Snowdenの示した資料のおかげで、私はむしろ彼のことが信用できなくなってしまったから。

NSAが不当に--しかし愛国者法Patriot Actのおかげで合法的に!--米国内外を問わず一般市民の通信を、アナログ/デジタル問わず傍受していたという陰謀の存在そのものには信憑性がある。問題はその実装にある。陰謀を企てるだけなら必要なのは偉い人の脳だけだが、それを実現するとなると膨大な予算と多数の人員と高度な技術が全て揃えなければならない。

ところが、である。

たった2000万ドルでは、Snowdenを100人雇っただけで終わってしまう。桁一つどころではない。MillionsとBillionsを読み間違えたのかと私は目をこすったのだが、何度見てもそこにはBではなくMと書いてある。

「日本は原子力潜水艦『やまと』を秘密裏に建造していた」までは「ふむふむ」となっても、「建造費2000万円」となれば「ありえねー」となる。そういう疑念である。

さらに疑念を深めたのは、Snowdenの立場。彼はNSA職員ではない。外部の嘱託である。立場でいえば「いちえふ」の著者のようなもので、いくら現場に精通していても、計画の全貌まで見通せる立場にあるとはとても思えない。

というわけでPRISM「暴露」当時の私のとりあえずの結論は、以下のようなものだった。

それからほぼ一年。本書はその疑念を払拭してくれるのだろうか。それとも強化してくれるのだろうか。

残念ながら、後者だった。

それを端的に象徴するのが、こちら。

NSAは輸出するCisco製品にバックドアツールを仕込んでいた──スノーデン氏関連の新刊書が暴露 - ITmedia ニュース
第3章「Collect It All」には画像付きで2010年6月のNSAの幹部による関連報告書が掲載されている。これによると、NSAは入手したネット機器をTailored Access Operations/Access Operations(TAO)チームに送り、TAOチームがツールを埋め込んで梱包しなおして配送ルートに戻していた。

ないわー。

ルーターにバックドアをしかけるために、一つ一つ根本を解いてはファームウェアを書き直して再梱包?

いったいどこに、それだけの職員が存在するんだ?

もしバックドアを仕掛けるのなら、最初からメーカーと結託してバックドア入りファームウェアを正式版として流通させるでしょJK。PRISM「計画」ではクラウドプロバイダーを抱き込んでいる--ことになっている--のだし。

とにもかくにも、本書に出てくる「証拠」というのがかのごとくしょぼいのである。STAP細胞の実験ノートかよってぐらい。

およそネットワークの運営に携わった者であれば、同様の感想を抱くはずなのであるが、なぜこれがそのまま「世紀の大スクープ」になってしまったかといえば、ひとえにSnowdenの告発の受け皿となった、本書の著者を含んだジャーナリスト側の技術力不足、いや欠如にある。

どれくらい欠如しているかというと、本書の冒頭でPGPの設定ができないぐらい、いや、それ以前にPGPの意義をまるで理解していなかったことをあっけらからんと告白しているぐらい。

これで資料をきちんと吟味鑑定しろというのは、私が「美味しんぼ」に出演して究極の料理より究極で至高の料理より至高な料理をグルメ親子に振る舞ってぐうの音もでなくするよりあり得ない。

勘違いしてほしくないのだけど、私自身は2014年はかつてないほど「1984年に近い世になってきていると危惧している。法の面でも技術の面でも。だから、PRISMのような計画があって、それは現代も稼働している可能性はかなり高いと思っている。そして、NSAをはじめとする米国当局にそれを実現するだけの能力があることも。米国政府Uncle Sam諜報力intelligence/防諜力counter intelligenceをなめてはいけない。ローゼンバーグ夫妻は本当にスパイだったし、F-117は公式発表まではF-19だと皆信じていた。PRISMはそれらを遥かに上回る規模だ。その実現にはそれらを遥かに上回る予算と、遥かに優れた人員と、そしてなにより遥かに優れた設計が必要になるはずだ。

しかしそれをSnowdenの言う通り組み立てても、動かない以前に組み上がらない。

ステルス戦闘機のことを思い起こして欲しい。それはF-117として実際にあった。しかしそれは人々が思い描いていたF-19とはまるで違った姿をしていた。

Snowdenの主張は、私にはF-19にしか見えない。

政府が我々を掌握するのではなく、我々が政府を掌握するためには、F-19で一喜一憂していてはいけないはずなのだが…

Dan the Watch(er|ed)


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