2006年07月24日

逃走と追跡のハーモニィ


もはや
喧嘩する気力も残っていなかった
わたしは
ポケットに銀貨を幾枚か入れて
君が眠った隙に
町へと逃げた

町には電柱が十二本ある
それ以外には何も無い
わたしは七本目の後ろに
影のようにうすべったくなって
セスナが低空飛行で通り過ぎてった

間もなく追ってきた君は
火炎を吐く赤鬼
に変化していた
元・君/現・赤鬼だ

見当違いの方向へ走っていったのを見届けて
わたしはうすべったいまま
道に出る
銀貨を勘定したら七枚あった
七百円あれば新宿まで行けると思った
熱帯夜だった

ときおり赤鬼がわたしを呼ぶ声が聴こえる
わたしはスピカみたいな涙を流した
依存なんて望んでいなかったのに
と言って


daoie1783 at 08:41|この記事のURLComments(2) 

うつびょう


心が大晦日みたいに差し迫って
薄紙が一枚一枚 剥離するような
微かな音が聴こえる
体内に冬がやってきたのだ
肋骨を吹き抜ける北風
熟しすぎた果実みたいに
揺れる心臓
大動脈が緊張している
細胞の中に雪が降っているのかも知れない

体内がすっかり冬になると
血液はつめたく青く染まる
それは末端にまで
きちんと循環するから
わたしの皮膚は真っ青だ
唇はコバルトブルー
少し
腫れてる

真夏の部屋に
遮光カーテンを閉め切って
体内に春がくるのを
寝転んで待つ
気まぐれでつけた口紅が
パールピンクにつやめいている

身を乗り出すと
鏡が割れているのが見えた
どうして割れたかは覚えていないが

鏡が割れてるから死のう
なんて考えたり

その状態を「鬱病」と呼ぶ


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2006年07月23日

真夏、アパート、錯覚


窓の外は水銀色の空
なんだか毒みたいだった
手を伸ばせば
さわれそうな気さえしたけど

(バイブレーションは
三回鳴って
途絶えた)

アパートは浴槽のようだ
窓についた水滴は薄荷の味がして
鳥が羽ばたくみたいな音が聞こえた
誰かが旅立ったのかも知れない
そして永遠に帰ってこないのかも知れない

(電話はもう鳴らない
旅人は易々と遠くまで
行ってしまうし
おいてけぼりだ
畜生)

清潔な棺桶みたいに
整然と屹立する鉄筋
そのうちにわたしは
そこいらじゅうに満たされた寂しさを吸って
膨張しはじめた

(寝転がると
足がはみ出したので
膝を抱えた)

そのまま
そのままわたしは
眼を伏せて
終わりがくるまで
大人しくしているつもりだったのに

コンクリートに
声が反響した

(巨大に成った肋骨が
皮膚の下でぎらぎら
とがっているのを感じて
ついつい胸が
うずいてしまうのを
我慢できなかったんだ)


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2006年07月21日

死神からのテレフォン


深夜に
電話がかかってきたので出たら
死神からだった
死神は今から来い
と何だか怒ったように言う
逆らって命を取られたら厭なので
靴を履いて家を出た
月が冴え冴えと
道路や人家を洗っていた

死神の家は
この世の裏の裏の裏にある
そこまで行き着くには
絶望しなくてはならないので
せっかく芽吹きかけていた希望を摘み取って
無理やり絶望してみる
すると眼の前に死神の家があらわれた
朽ちかけたドアーを押して
奥へ入る

死神は椅子に座っていた
骸骨みたいな顔をしているが
以前に
骸骨に似ているね
と言ったら物凄く怒られたので
言わないようにしている

死神はわたしに履歴書を渡した
新人の死神が辞めてしまったので
人手が足りないのだそうだ
冷たいボールペンで履歴を書き
一応提出した

それから夜じゅう
説教された
もっとちゃんとしろ
とか色々
説教好きの死神なのだ
反論して殺されたら厭なので
眼をじろじろさせながらおとなしく聞いた
家に帰ったら夜明けだった

あれから一週間経つが
採用の電話はかかってこない
誰か適当な人材を見つけたんだろう
良かった
始終説教されながら人の命を取るなんて
気が進まなかったし
鎌とか重いし

安心したらまた希望が芽吹いてきたので
今度は大切に育てることにした

生きるって素敵




daoie1783 at 22:22|この記事のURLComments(1) | 情景描写

ビルのエレベーター


ビルのエレベーターは
魚のにおいがした
魚屋なんてどこにも
ありはしないのに

硬質な感じの灯りが明滅して
なんだか失ってしまいそうだ
今までのじんせいを
付随するetcを
わたしは君を探しに来ただけなのに

ビルの地下から屋上まで
くまなく探したけれど
ここにも君は居なかった

最初から居ないのかもしれなかった

エレベーターを降りると
いつの間にか夜で
通りには君に似た人ばかり
うんざりする

ビルを振り返ったけど
ビルはビルじゃなくて
ただの四角い闇になってしまっていた
から
もう諦めようと思った

だって確かなものなんて
この世に存在しないじゃない
それでいいじゃない

そう思った


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2006年07月20日

パーティーバーレルと可哀想な子供


パーティーバーレルというものを買った
パーティーなんかしないんだけど
なんとなくあれを胸に抱いて
幸福な顔をして走っていくふりをしたくなったのだ

パーティーバーレルは暖かかった
そして案外重かった
スパイシーな匂いが体内に充満し
それだけですっかり胸焼けだ
もう何も食べたくない
わたしはしょんぼり肩を落とし
アパートがある路地裏へ
とぼとぼとぼと入っていった

路地裏はひんやりとしていて
街灯が点在している
あんまりどこも暗いから
それは昼間でも灯っている
まるでスポットライトみたいだが
現実は舞台みたいに美しくないし
照らされるわたしも美しくないし

少し歩いてふと腕時計を見る
午後五時で止まっていた
世界も午後五時で止まっているような気がした
だって夕陽が空に貼りついているのだ
さっきからびくとも動かない

わたしはそのまま路地裏をうろうろ
知らない角を曲がってみたら
葬式をしている子供らがいた
しくしく泣いている少年と少女は
きちんと黒い喪服を着て
白いひなぎくの束を持って
小さい箱に向かっていた
箱の横には煙を垂れる線香が三本
わたしがおそるおそる近寄ると
二人は怯えたように寄り添ったが
この度はどうもご愁傷様です
と言うと 安心したように頭を下げた
箱の中には何か毛に覆われたものが横たわっていた
よくよく近づいたらそれは縞の猫で
力なく眼を閉じていた
ちゃんと手を横に揃えて

少年がわたしの背中から
それは僕らのお母さんです
と言った
少女があとを引き取って
あたしたち二人っきりになっちまいました

わたしは二人が可哀想になって
パーティーバーレルを全部差し出した
これはあなたがたにあげますよ
二人は顔を見合わせて
小さな歯を見せて笑い
賞状をもらうみたいにしてそれを受け取った

役に立ってよかった
わたしはその場を去り
またとぼとぼと路地裏を歩いてたが
なんだか気になって振り返ってみた
鼻先でパーティーバーレルを押している二匹の仔猫が
いたようないなかったような

腕時計は動き出していて
遠くに貼りついていた夕陽も沈んでいた
何が確かで何が不確かなのか
それすらよくわからなかった

路地裏はまったく鬱々するほど暗くて
わたしのポケットにはお金もないし
抱いていたパーティーバーレルもなくなったし
でも一応幸福そうな顔で笑ってみた
本当に幸福なわけじゃないから疲れる
すぐにやめた

はやくアパートに着けばいいのに
そうしたら誰かがわたしを待っていればいいのに
早足で歩けば歩くほど
つまづいてしまうよ
笑えるね




「Washes in Wonderland」


先日から洗濯機が壊れているので
(浴室のドアーを開ける)

手で洗う他 方法が無い
(浴槽にぬるま湯を注ぐ)

浴室の鏡の向こう側には しかめ面の女がいて
(抱えていた洗濯物を投げ入れる)

自分だと気づくまで数秒かかった
(洗剤をスプーンに半杯おとす)

ナイロンのワンピースが肌にちくちくする
(洗濯物がまんべんなく浸ったのを確認して浴室から出る)

(そのまま十五分待つ)

何度見ても浴室の壁は見慣れないほどに白く
(一枚一枚もみ洗いをする)

シャワーヘッドが銀色にちかちかとまぶしい
(汚れた水を抜く)

シャンプーと石鹸の混じりあった匂い
(もう一度ぬるま湯をひたひたに注ぐ)

あるべき場所に収まった歯ぶらし
(押し洗いをしてすすぐ)

少し胸がざわめく
(良い加減で絞る)

静謐すぎて不安だ
(ぬれた洗濯物をかごに入れる)

まるで完璧な静物画のようで落ち着かない
(かごを右腕で抱えて浴室のドアーを開ける)

時計を見るともう夜も更けて
(そのまま一直線にベランダへ出る)

湿った外気に微かにジバンシイの香りが混じっている
(洗濯物をつまみあげて干してゆく)

隣の部屋に同棲している男だろう
(ぽたぽた落ちる水が豪雨のようで)

ベランダに出ているらしい二人の話し声が
(思わず眼を閉じてしまう)

幸福な速度で眼前を通り過ぎていった
(下着がまだ少し汚れている)
(生きているということを実感する)

ハンガーが足りないので部屋から持ってきた
(野良猫が交尾している声が聴こえる)

まるで骨格標本を抱えているような気持ち
(クーラーの室外機の細かな振動)

眼前でふらふら揺れる洗濯物は
(空が不穏な動きをしている)

かわいそうなくらい頼りない
(明日は雨かもしれない)

最後の洗濯物を
(どこからかラッキーストライクの匂いがする)

いたわるように優しく吊るしたら
(深呼吸したら昔の恋人を思い出した)

もう洗濯はおしまいだ
(独りきりで居ると変なことばかり思い出す)

振り返ると小さな部屋に蛍光灯がしらじらとしていて
(メンソールに火を灯す)

わたしみたいな大女がこんな小さな部屋に収まれるなんて
(夜空に牛乳を流したように煙が流れてゆく)

なんて不思議なことだろう
(わずかに星が出ている)

ワンダーな独り暮らし
(ワンダーな東京)

新しい洗濯機が欲しい



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秘密の共有と姉妹愛


妹は眼鏡で
わたしはでぶだった
あの頃は二人して
自分たちが世界で一番ぶすだと思っていた

中学生になったとき
決死の覚悟で
市販の便秘薬を飲み比べたことがある
妹は合宿に便秘薬の大瓶を
わたしは学校に違う便秘薬の大箱を

深夜に家族が寝静まったことを確認し
一つの布団に並んで寝そべって
広告の裏にそれぞれの効き目を○×で書いた
その結果
コーラックが一番良い
ということになった
わたしたちは晴れやかな気持ちで
ひそやかに笑いあった
未来がひらけた
そう思った

あの秘密を共有してから
もう十年が経つ
わたしは標準体型になり
妹は眼鏡を外した

それでもまだわたしたちは
自分たちが世界で一番とは言わないまでも
東京で一番か二番くらいには
ぶすな女だと思っている

わたしたちが持っているピルケースはお揃いで
その中にはいつも
ピンクの小粒があふれんばかりに入っている
きれいな毒薬みたいに

月曜日の夜中にベランダで
わたしは東に向かってそれを嚥下する
知っているのだ
妹もきっと同じように口を開けて
月に犬歯を光らせて
同じ錠剤を嚥下していることを

そしてわたしたちは
窓を開けて
自分たちの恋人の元に帰っていく
あのときと同じように
ひそやかに笑いながら
裸の恋人を抱きしめる

満ち足りた気持ちで




2006年07月17日

ダーリンとハニー

ダーリン
と言ってみると
口の中が温かくて気持ち悪い
ハニー
と言ってみると
べろの裏が冷たくなる


という呼称が嫌いな君を
遠くから呼ぶときにどう呼ぼうか
考えているのだ

喫茶店でパフェを食べながら
何度でも
ダーリン
ハニー
と呟いてみる
ウェイトレスが変な目でこっちを見ていたので
コーヒーカップを差し出しながら
お代わり頼むよ ハニー
と言ってみた
途端に全身が冷たくなった

いくら待ってもウェイトレスは
コーヒーのお代わりを持ってきてくれなかった

雨の日に変質する


ひがな一日犬の名前を考えて
飽きたので外へ出た
熱帯雨林みたいな
雨が降っている

コンビニで少し雑誌を読んだ
横に熊が立って居る
熊はアフタヌーンなんか読んで
ちょっと笑っている
そのうち熊はわたしを横目で見ながら
りんごを買って
去っていった

追いかけると
駅前で姿を見失った
この辺りに山はないから
きっとどこかの賃貸住宅に住んでいるんだろう

戻りかけると
コンドルに肩を掴まれた
コンドルは今にも死にそうで
ぜいぜいしている
休む場所を探していたんだろう
わたしはコンドルを肩に乗っけたまま
自動販売機でコーヒーを買って
半分飲ませてやった

そのうちコンドルは
排気ガスでけむった空へ飛んでいった
かわいそうに
深呼吸も出来ないだろうな

傘をたたんで
雨に濡れてみた
「可哀想な子供ごっこ」だ
でもすぐに
自分には膨らんだ胸と
むっちりした腰があったことを思い出して
やめた
不思議そうな眼でこっちを見ている子供
傘を差していない
あげるよ
と黒い傘を差し出すと
声も立てずに走っていった
柄をしっかり握り締めて

しかし子供は
五十メートルほど先で
鰐にのまれてしまった

鰐はコインロッカーに住んでいて
鼻先だけ出している
近寄ってみると
くわあ と口を開けた
子供がきちんとおさまっていた
にこにこして
猫のようにうずくまっている
どうやら鰐が母親らしい
幸せに暮らせよ

持っていたレモンキャンディを二つ放り込んでやった

行くところもないので電車を見た
電車にはスーツを着込んだ動物や
つり革に乗った魚なんかがぎゅうぎゅうに押し込まれて
高速で通過していく
雨はそろそろ止みかけていた
今気づいたのだが びしょ濡れだった
犬のように身体を振って
水気を飛ばすと
そのままわたしは茶色い大きな犬になった
毛皮がふさふさしている
愉快だ

べろべろと赤い舌を出しながら
ちゃっちゃっと歩いて家に帰った
鍵をきちんとくわえて

雨のせいだろうか
そこらじゅうに
熱帯の木が生えてきている

自分の名前は
まだ考え付いていない




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誕生日にはいかだをください


誕生日には筏をください
波に洗われてぼろぼろの
小さいのでかまいません

わたしは赤いリュックを背負って
それに乗って行こうと思います
正座したまま
前を向いて
さよならって手を振るから
ちゃんと嘘泣きもするから

いい加減で筏は壊れるでしょう
木っ端微塵の木屑が散って
わたしはゆっくり沈みます
そうしたらリュックから
びすけっとを出して
かじりながら
犬掻きをするつもりです
泥水はどこまでも温かく
わたしを抱きすくめるでしょう
携帯電話なんて放り投げて
わたしは少し笑うと思う

向こう岸で君はもはや点で
そのシルエットが寂しいでしょう
構いはしません
その時点で君の負けです
わたしは盛大に水しぶきをあげて
一直線に進むでしょう

どこかの未開拓地に打ち上げられたら
わたしはそこの村長と結婚します
花はいいにおいをあげて
裸足の足裏を
砂がさらさらと洗うでしょう
そこでわたしはたばこをやめて
はじめてせいせいと笑うつもりです

だから誕生日には筏をください
それ以外なら何も要らない
君の胸の中はひゅうひゅうと風が吹いて
正直 寒くて居られないのです




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2006年07月16日

ハロー、ガガーリン。




(ガガーリン、ユーリ・A。)
(美しい名前だね。)

ハロー、ガガーリン。
今日も地球は青いよ。

ハロー、ガガーリン。
僕はまだ、大丈夫だよ。

ハロー、ガガーリン。
人工衛星は数え切れないほど夜空に光るよ。

ハロー、ガガーリン。
ものすごい勢いで、人類は進化していくんだ。

ハロー、ガガーリン。
僕は、置いてかれそうで怖いよ。

ハロー、ガガーリン。
此処は狭くて、何も見えない。

ハロー、ガガーリン。
正確なのは秒針だけだよ。

ハロー、ガガーリン。
ひとつだけ教えて欲しい。

ハロー、ガガーリン。
君は、天国を見た?

ハロー、ガガーリン。
宇宙を彷徨っているのは君だけじゃないよ。

ハロー、ガガーリン。
ボストーク1号の具合は良好かい?

ハロー、
僕もいつか、そこへ行くから。

ガガーリン。
どうか、そのまま、待っていて欲しい。




daoie1783 at 00:05|この記事のURLComments(0) | 情景描写

2006年07月15日

横浜から小田急線で。

銀色の魚がいくすじも
線路上で交差し
なまぐさい風を巻き起こす
自動的にうろこがひらき
(わたしは
右から三番目のうろこをくぐった)

黄色い突起
勇ましく踏みつける
(ジャンヌ・ダルクみたいに)

降りたことの無い駅だ
知らないひとたちのクールな視線
肩甲骨に貼りつき
背骨に沿って流れゆく

その刹那
汗で湿った
ナイロンのワンピースが
世界を威嚇するかのように
(膨らんだよ)

眼を閉じると
シナプスが光る
それは
観覧車のように
ゆっくり
ゆっくり

(幸福だった今日と
不幸かもしれない明日を
撹拌してゆく)

ああ
吐息
疲労した身体
(誰かがわたしの大腿骨を
見ている)

眼前で
また一匹
魚がうろこをひらいて去った

赤い妖しい月が出ていた

わたしは
誰にも知られないよう
ひっそりと
舌なめずりをしたよ
(490円の切符を握り締めて)





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2006年07月14日

真夏日

ひまわりが咲いている
かぷりかぷりと揺れている
焦げ付いた午後

何もかも不機嫌で
遊びつかれた子供みたいに見えた
空中分解したレゴ・ブロック
夏を投げつけてくる太陽

粛々と歩くわたし
記憶が
息をするたび
鼻から抜けてゆく

クーラーをつけた
たちまち
部屋は冷たいジュレで満たされ
口も鼻も涼しくさせる
深い満足感
天井近くまで浮かび上がり
そうっとクロール

外に置いてきた影法師が
隙間から入ってきたので
手をつないで一緒に眠った
熱い健やかな息
こまかな気泡が舞い上がる
シーサイド・ビュー

起きると
やさしい月が出ていた
深呼吸をする
抱き合ったはずの影法師はいない
いつもそうだ
気づいたら誰もいない
両腕を広げて
月の光を受け止めた
ひらひらとまとわりついてくる光は
ウエハースのように頼りなげで

どこからかアヴェ・マリーア

遊びつかれた子供たち
何処へ行ったろう
不機嫌なまま
電柱や野原や民家の屋根の上
じっと眠っているのだろう
部屋は相変わらず冷たいジュレで満たされて
レモンの味がしたよ

ひまわりは相変わらずひそやかに
かぷりかぷりと揺れている
闇夜に浮かび上がりうすら笑うそれは
まるっきりアバズレみたいに見えた

夜が始まろうとしている

わたしの眼がほおずき色に光り
瞳孔が開いてゆく
シナプス
活発にロックン・ロール








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2006年07月13日

勘違い



恋愛
とは男女が恋い慕うことであるらしい
わたしはてっきり
殺し合い
のことかと思っていたよ



daoie1783 at 23:44|この記事のURLComments(0)短歌 | 

架空の辞書


辞書はきっとやさしい人が書いたのだろうと思う
こんなに親切にきっぱりと
わからないことに答えてくれるのだから

ある夜ふと
自分がわからなくなった
辞書で引いてみたら
きちんと載っていた

一日ミチル
―へぼ詩人。夢想癖があるさま。消極的なこと。

「―のようだ」
「それではまるで―だよ」
「―のように誰も挙手しない」

あんまりではないか
ちょっと悲しくなって
でも日本のどこかで
「一日ミチルのようだ」
と言っている人や言われている人が居るかもしれない
と考えたら愉快になった

今夜はとても月がきれいだ
きっとカスタードクリームが塗ってあるのだろうな
てらてらしてる



daoie1783 at 23:18|この記事のURLComments(1) | 情景描写

色の話

(赤)

魚介類をブイヤベースで煮込んだような
おいしそうな夕暮れ
歩いていると溶けてゆきそうな気になって
思わず立ち止まった
もしかして夕暮れ時に行方不明になったひとたちは
空に溶けてしまったんじゃないかな
すこし怖い
見回すと
ふらふらと
今にも溶けてしまいそうな人が幾人かいた
わたしも多分
そのうちの一人だ


(緑)

郵貯のキャッシュサービスコーナーの色
緑は人に安心感を与えるという
確かにそうだ
いつも安心感を感じながら
つい多めにお金をおろしてしまう
それで要らないものばかり買っている
ポストカードとか
ちょっと気の利いたお菓子とか

今日も多めにお金をおろして
スキップをして帰った
残高は残り三万円を切ったのに


(青)

青い下着を持っている
それを着けると涼しい気持ちになるので
毎日着けていたら
ブラジャーのワイヤーが飛び出してしまった
買い替えなけれあいけないのに
相変わらず毎日それを着けて出かけている
胸にワイヤーが刺さる
時折
その痛みを
もしかして恋ではないか
とか勘違いしてしまったりするので
注意が必要だ
捨てて新しい下着を買うべきなのだが
今日もまた着けてきてしまった


(黄色)

黄色い蛇を見たことがある
確か上野動物園で
初デートだった

相手はわたしが怖がるところを見たかったらしいが
残念ながらわたしは蛇が好きなので
きゃあとも怖いとも言わずに
アナコンダとかガラガラヘビとかを黙って見つめていた

黄色い蛇の前に来たとき
わたしはしゃがんでじいっと見つめた
それはそれはじいっと

なんてきれいな動物なんだろう
と思った

帰りに黄色い蛇のぬいぐるみを買った
大きくて持ち歩くのに難儀した
手もつなげなかった

デートの相手とはそれっきり
黄色い蛇もいつしか捨ててしまった

残念なことをしたと今でも悔やむ
勿論それは相手のことじゃなくて
黄色い蛇のこと


(白)

白いものを見ると
すん と寂しくなる
卵の殻や
コンクリート
タバコの胴体の色
レシートの余白の色

すん と寂しいまま
卵を食べたり
コンクリートを踏んだり
タバコを吸ったり
レシートを捨てたりしている

白というのは人を寂しくさせる何かがあるように思う

だからわたしは白い服は着ない

誰かを寂しくさせたら厭だから


(黒)

黒猫だったらよかったのに
と思うことがある
髪や眼だけじゃなくて
体中くまなく黒かったらよかったのに
そうしたら夜に紛れられるのに

それは得てして何かから逃げているときだ

わたしはいつも何かから逃げているので
毎日そう思って過ごしている

裸になるとすべてが見えてしまうのが厭だ
シーツに滑り込みながら全てが終わるまで
身を固くして夢想する

夜にらんらんと眼だけ光らせて
にいっと笑うわたしの姿を



鎖骨を留めてください


どうも朝から鎖骨が冷たいので
ちょっと開いて見てみたら
手すりのように光る銀の棒
になってしまっていた
どうりで冷たいわけだ

右側の鎖骨の
ボルトを一つ一つ
丁寧に外す
鎖骨はガチンと音を立てて
あっけなく下に落ちた
潤滑油のようなものが垂れてくる
バスタオルで拭き拭き
右の鎖骨をテーブルの上に置いた

やすりをかけてちょっとずつ削る
特に端っこが鋭角だったので
仕上げにちょっと丸みをもたせた
小粋な感じでいいじゃない

少し心臓にあてて暖めて
元通りボルトで留める
よかった
前より断然こっちの方が良い

続いて左の鎖骨に取り掛かろうとしたが
やはり素人仕事
ボルトの留めようが甘かったらしく
左の鎖骨を削っている間に
右の鎖骨が外れてしまった

あわわ
と思って骨という骨の間を探したが
右の鎖骨はどこにも無い

無くなっちゃった

わたしは左の鎖骨を握ったまま
しばらく呆然と立ち尽くした

鎖骨があった場所が空洞になって
なんだかひゅうひゅう風が通る

ひゅうひゅう

それは虚しいっていう感覚と
非常によく似ていた

誰かわたしの鎖骨をきちんと
はめてくれる人はいませんか





2006年07月12日

対話

ちょっとあの
いい加減にしてくれませんか
どうして
わたしに何か期待するんですか
期待というのはね
裏切られることが前提なんですよ
いいですか
わたしには何も期待しないでください
凪の海のような眼で
眺めていてください

ちょっ
いまは関係ないじゃないですか別に
わたしが生意気とか
そんなこと千も承知なんですよ
わからないとでもお思いですか

まあいいですよ
分かりました
つまりあなたはあれなんですよね
期待せずにはいられない病気なんですよね
わたしは絶望せずにはいられない病気なんで
ちょうどいいかもしれない
とにかくねその話はいいですもう
大丈夫オッケーわかりました


つまり言いたいことは
世界中に何人のかわいそうな子供が
とかいう説教

ありますでしょ
いつもしてますでしょ
それをやめていただきたい
だって人間なんて傲慢なもので
眼の前にあるもののことしか
考えられないじゃないですか
現にあなたは今ほら
セブンスターが切れたなあみたいな眼で
空の箱を見つめてるじゃないですか
そんなときに世界中にいる飢えた子供のことを
考えられますか
出来ないでしょ

ちょっ

別に世界の貧困について
南北問題について
民族紛争について
わたしが考えてないというわけではないですよ
募金とかしてますよ
コンビニにあるじゃないですか
あと かけると100円募金される電話とかね
してますよちゃんと
真剣に考えてますよ
でもわたしが今すぐに
炊飯器とか持って飢えている子供のところに行って
スプーンで食べさせてあげて
おなかいっぱいワーイよかったねとか
出来ませんでしょ
それに飛行機がどうやって飛んでいるか
おおもとのところは今も分かってないわけでしょ
乗りたくないですよあんなもん

ここまでいいですか

別に見下してないですよ

そういう眼をしてるって
いい加減にしてくださいよ
それはただの固定観念ですよ
主観的すぎますよ
もっとワールドワイドにいきましょうよ

ていうかその
何でこんな話になったんでしたっけ
もうよく分からないんですが
実はこんなこと言うつもりはなくて
すいません

ところでお父さん
健康診断に引っかかったって本当ですか
あの
注意してくださいね身体
こんなちゃらんぽらんな娘で
いつも苦労かけて
見るたびお父さん老けてるけど
本当にすいません
あの
いつかタヒチに別荘買うんで
それまで生きててください
お願いします

本当に
お願いしますよ

そういうことで
あのわたし
明日東京に戻ります
またすぐ帰ってくるから
それまで
風邪ひかないようにね



頼むね





2006年07月11日

メイルに関する覚え書き@


一、
カタパルトで狙いを定めて
メールを射出していく
届いたでしょうか
君の背中に
君の心臓に
あるいは君の急所に
美しく着地したでしょうか

二、
封筒の形の記号から
かすかに君のにおい
吸い込むと
出血した
それはもう色んなところから

三、
満月だった
満月の夜には出生率が上がるそうだ
わたしも確かこんな夜に生まれた
胎内に回帰していきそうな心持で
ゆっくり文字を打ちこむ
送信画面に紙飛行機
ぐるぐると旋回して
どこへも行き着かないみたいに

四、
受信したメールを一挙に消去する
あの人とあの人とあの人からのメール
あの人とあの人とあの人の
罵倒や幸福や日常
弱弱しくぼうっと光って
たちどころに消え去った
爽快

五、
指の動きを想像する
五十音すべてのボタンを駆け巡る親指を
それはまるでカウボーイみたい
縦横無尽に広い野原を
勇ましく駆けてゆくカウボーイみたい
馬がブルルと鳴いた気がして
びくっと振り返ったが
気配だけだった

六、
翻弄されているのだろうな
束縛されているのだろうな
これではいけないな
と思ったので
携帯電話を冷蔵庫に隠して
しばらく取り出さないことに決めた
冷蔵庫から
バイブレイション
なんだか生きているみたいだ

七、
だめだった
すぐ冷蔵庫を開けてしまった
お前なしではいられないよ
甘い言葉を囁いて抱きすくめると
すっかり冷え切っていた
かわいそうな携帯電話
基盤を取り出してキスしてやりたい

八、
(笑)
と打つのが面倒なので
おもに句読点のみで文章を構築すると
棒読みしているみたいになる
慌てて本文を編集しなおして
(笑)とか(汗)とか沢山はさんでみた
阿呆みたいな文章になってしまった
これ以上どうすればいいか分からない
そんなスキル持ってない
ので送信

九、
着信音が鳴るとドキッとするので
サイレントマナーモードに設定したが
うす気味悪い
余計気になる
そのせいで今日はどこへも行けなかった
水槽に携帯電話と閉じ込められているような気分
所在ないので携帯電話を
ひらいたりとじたりして過ごした
メールはこなかったよ
誰からも

十、
(今日も字数が多くなってしまいました。
すいません(汗)
手が止まらなくなってしまって。
いつも悶々としているせいでしょうか(笑)
それに九で終わるよりも十で終わったほうがキリがいいかなあ、とか。
ま、あんまり関係ないですね。
でも9って、「苦」っていうイメエジが。
そんな言葉遊びに呪縛されている昨今です。
まあ、どうでもいい報告ですね。
メールって、どうでもいい報告の集大成ですよね(苦笑)

ああ、そろそろ寝ます。
おやすみなさい。
またお眼にかかります。
では、さようなら。)