池田綾子「Lunar soup」前作「Water colors」のリリースから約3年ぶりに、セカンドアルバム「Lunar soup(月のスープ)」がリリースされました。
 
新曲が少ないため(14曲中6曲)、見た目には「シングル曲+新曲」の印象が強いものの、曲の並びやサウンドバランスがよく練られているため、シングル曲が多いアルバムにありがちな寄せ集め感はありません。オリジナルのフルアルバムといってもよい仕上がりです(番組タイアップ曲をまとめた構成ながら、それを感じさせない仕上がりの小田和正「そうかな」と同様の、「読後感」ならぬ“聴後感”を感じます)。
 
一聴してまず感じるのは、繊細で力強く、美しい歌声です。心の綾・心の震え、そのもののような表現です。総じて録音も優れているため、自分の耳元で歌われているかのような生々しさがあります。曲世界をキーワード的に書き出すと、「等身大」「素直」「繊細」といった言葉が浮かびます(僕の場合、ですが)。
 
作・編曲は、奈良部匠平から前作以降のシングル曲やライヴのサポートでもおなじみのTATOOに代わり、サウンドカラーが大きく変わりました。シンセサイザー(キーボード)とそのビートを中心に、真ん中・左・右に比較的大きめのエコーを伴うボーカルという構図だった前作に対して、本作では、シンプル、かつナチュラルなバンドサウンドになり、ボーカルのエコーも、ほとんど効かせてないくらいに浅くなりました。池田綾子の場合は、逆にエコーが少ないほうが、表現の繊細さが、より伝わると思います。
 
以下は、収録曲についての、僕の第一印象です(聴き込んで行くと、印象が変わるかもしれませんが)。
 
 
1.道ゆく空
特に好きな曲です。《明日へと続く道の先で あの日の未来信じて歩いていく/小さくてもいい 見つけた夢の欠片(かけら)を この手に抱いて》 「生きていくことは覚悟である」と誰かが言っていましたが、そんなことを思い起こさせる(ただし、肩肘はらずに、自然体で)、静かサウンドながら、とても力強い曲です(インストゥルメンタルですが、PRISMの「From The Beginning」に似た世界観を感じます)。バックのピアノの響きが心にしみます。
 
2.Timeless
サビの《ただ流れていく時間はたくさんあるのに/一番大事な時間がいつでも足りない》は、CMに使えそうなキャッチーさです。
 
3.愛の言葉
特に好きな曲です。《二人はまるで 命の船/使え続ける 愛の言葉》 ストレートで言葉の強い歌です。個人的には、細かいところですが、ストリングスとシンセサイザーとコーラスを境目がなくなるくらいに重ね合わせたようなバックの音色に注目です(2:07〜2:27、3:29〜3:39など)。
 
4.深呼吸ひとつ
特に好きな曲です。シンプルなイントロ。バスドラの響きが独特です。アタック感が心地よい。《野に咲く花のように/踏まれても負けないだから/深呼吸ひとつ》のフレーズが、応援歌のように響きます。「ウーリッツァー:池田綾子」とのクレジットがありますが、イントロやエンディングでのエレピがそれでしょうか?(途中も鳴っていますが)
 
5.はなびら(アルバムバージョン)
特に好きな曲です。リミックスではなく、歌は再録音で、バックトラックに尺八が追加されています。この尺八が効果的です(もう少しレベルを上げてもいいと思います)。ボーカルとパーカッションとピアノのシンプルな歌い出し。それに、ストリングス(シンセサイザー)が加わり……というアレンジがいいですね。サビの《赤く咲いた幻の華/蒼い君の頬 照らして》は、映画のワンシーンのように、映像を感じるフレーズです。シングルバージョンよりもボーカルのエコーが浅くなっていることで、逆に言葉のダイレクト感が高まっているように感じます。
 
6.三日月
「月」は、池田綾子自身にとってのキーワードのようなものなのでしょうか? 前作では「月」という非常に印象的な曲があり(池田綾子の曲で一番好きです)、《月が満ちていく 夜に響く笑いあう声/このままでいたい 白く霞む朝が来るまで》と歌っていますが、この「三日月」では、《冷たい月夜にぼんやり目覚めた/昨日の涙がじわりと蘇る》《僕らはこんなに 無力で幼い光を探していた/もう返らない 見上げた三日月》と歌います。ここで歌われる「無力」には、僕は「Life」で歌われている《守れない愛》と同じニュアンスを感じます。
 
7.白いギフト
サビの《肌に触れては 溶ける雪の中で/君の手が 何より温かい/こんなにも募る切ない想いを/包み込んで 雪のように…》での、緊迫感のあるメロディーラインが好きです。ただ、その前までがフレーズに抑揚感が少ないので、流れとつながりに少々唐突感を感じます。
 
8.そっとキスしよう
キーボード(エレピ)とパーカッションをベースにした、シンプルで美しいバックが印象的です。
 
9.Silver moon
このアルバムで一番好きな曲です。これまでの池田綾子の曲にはなかった、ワイルドなサウンドが、まず耳を引きます。サビの《逢いたくなった 唇かんだ 昴まる(たかまる)夜の気配/息を殺した獣のように 月を睨んだ 人恋しくて》でボーカルと並行するバックのメロディーラインの、人の声のようなギターともシンセサイザーともいえない不思議な音色が耳に残ります。僕の試聴環境では、バスドラの低域(40Hz前後?)にブースト感のようなものがあり、歪み感を感じます(タ・タンのタンのほうに)。
 
10.I will(アコースティック・セッション)
池田綾子のライブではおなじみの、キーボード(ピアノ)とギターとパーカッションの編成。サウンドは、オリジナルバージョンと本作、それぞれによさがあります。ただ、他のトラックとは録音場所が異なるのでしょうか? 音(高域の伸びと抜け、音のレンジ)が他の曲と違います。クリアさに欠けます。シングル「I will」のカバー写真は、池田綾子のアルバム掲載写真のなかで、一番いい表情だと思っています。
 
11.穏やかな恋
ギターのリズムが心地よいです。バックの鳥の声と川のせせらぎも、マッチしています。
 
12.朝陽の中で(アルバムバージョン)
《もう一度 声が聞きたくて/もう二度と逢えないあなたを想うよ》。サビの爽やかなメロディーが印象的です。
 
13.僕たちのTomorrow
特に好きな曲です。サビの《永遠なんて時 いらないから明日 逢いたい/そこから探しに行こう》は、壮大で力強く、ぐっと来ます。続く、中間部の「アヴェマリア」の挿入は、詞とは裏腹に、「永遠のとき」を感じさせます。
 
14.Life(アコースティック・セッション)
前曲「僕たちのTomorrow」が壮大に終わるので、続けて聴くとアルバムのエンドロールのように聴こえます。オリジナルバージョンよりも、ボーカルの表現力はこちらのほう上です。こちらは「I will」のようなナロウ感はありません。
 
 
完成度という点では、間違いなく前作よりも上を行く出来だと思います。ただ、個人的に残念なのは、「ひとつの願い」「月」のような、強いビートの上でボーカルが“たゆたう”ような曲がないことです(このパターンの曲は、池田綾子の特質を訴求する曲だと思っていますので)。
 
 
 <収録曲>
  1.道行く空
  2.Timeless
  3.愛の言葉
  4.深呼吸ひとつ
  5.はなびら(Album version)
  6.三日月
  7.白いギフト
  8.そっとキスをしよう
  9.Sliver moon
  10.I will(Acoustic session)
  11.穏やかな恋
  12.朝陽の中で(Album version)
  13.僕達のTomorrow
  14.Life(Acoustic session)
 
 
>> ユニバーサル・ミュージック「Lunar soup」紹介ページ