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2011年04月15日

1以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 18:41:30.87 ID:yESG7n+P0
―――――――――――――
喪黒「……私の名は、喪黒福造。人呼んで笑ゥせぇるすまん。
ただのセールスマンじゃございません。
私の取り扱う品物は『ココロ』。

人 間 の コ コ ロでございます…。」


喪黒「……この世は老いも若きも、男も女も、ココロの寂しい人ばかり、
そんな皆さんのココロのスキマをお埋めいたします。
いいえ、お金は一銭も戴きません。
お客様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます…。

さて、今日のお客様は………。


ホーーーーーーホッホッホッホ!!!!!!!!」




2以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 18:42:15.30 ID:yESG7n+P0
――――――

ここは清水市にあるとある学校。
いささか間延びして聞こえるチャイムが授業終了、―ー子供たちにとっては、休み時間開始の知らせを告げる。

「起立!気をつけ!礼!」

教室中に響き渡る号令に合わせて全員が一様に同じ動きをする。
生徒たちのざわつきがある程度収まるのを待って、優しそうな顔つきの教師がにこやかに彼らに呼び掛ける。

戸川「はい。それでは2時間目の授業はここまでです。
みなさん、中休みの後は、3時間目の授業の用意をして、きちんと席について待つようにしましょう。」

生徒たち「「はーい。」」


3以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 18:43:05.60 ID:yESG7n+P0
はまじ「へへっ!やーっと休み時間だぜー!」

関口「おーい!早く運動場に行ってサッカーしようぜ!」

はまじ「おう!」

ブー太郎「あっ、待ってくれよブ―!」

そんな騒がしげなやりとりと共に教室を飛び出す少年たち。
他の生徒たちも、思い思いのやり方で休み時間を過ごし始める。
席に座ったまま小難しい本を読み耽る者。
窓際に移っておしゃべりをする者。
隣の席の子と昨夜見た歌謡番組について話す者。

いつも通りのありふれた光景である。

彼、――藤木しげるとてその例外ではなかった。


4以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 18:44:00.95 ID:yESG7n+P0
机に突っ伏して、折り曲げた二本の腕を枕代わりにしての居眠り。
これが彼の「日課」である。
もっとも、前の日の晩に寝床に入るのが早すぎたせいで、まんじりともしないままに休み時間が終わってしまうことも珍しくない。
しかし、それでも彼は見事なまでに「就寝者」を演じきって見せる。
彼にとって居眠りとは目的そのものではなく、長い長い中休みを過ごすための口実にすぎないのである。

藤木(あーあ…。休み時間なんてなくなればいいのに…。)

ちょうどそんなことを考えていたころ、一人のクラスメイトが彼に話しかけた。


6以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 18:44:57.84 ID:yESG7n+P0
大野「おう、藤木ー。オレ達これからはまじ達とサッカーしに行くんだけど、お前も来ないか?」

少し顔を上げ、目線を自分の前の少年に向けたまま、藤木は返事が出来ないでいた。
普段誘われ慣れていないためか、どうやって答えればいいのかがイマイチわからない。
数秒悩んだ後、弱弱しくも了承の返事を切り出そうとした。

藤木「…あ……、…う、うん…。ありが…。」

その言葉を遮ったのは少年の親友、杉山だった。

杉山「おい、やめろよ大野…。別にこいつを誘わなくたって人数は足りてんだ…。さっさと行くぞ…。」

小声で耳打ちするように話す声は藤木の耳にも届いた。

しかし、だからといってどうするというわけでもなかった。


7以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 18:46:04.48 ID:yESG7n+P0
大野「え?…あ、ああ…。そうだな…。…んじゃな、藤木…。
起こして悪かったな…。」

バツの悪そうな表情を藤木に向けた後、大野は杉山に引っ張られるようにして教室を出て行った。
2人が廊下を駆けていく音を聞きながら藤木はまた眠りに就く努力を始めた。
かくして、彼はまたいつも通りの日課に勤しむこととなった。

藤木(……。ふん…。)

別にさして気にかけるほどのことでもないじゃないか。
さっさと寝て忘れよう。
そう言い聞かせる代わりに、より深く両腕の中に顔をうずめる。
ようやく心地よいまどろみに包まれかけたその時、藤木はまたも一つの声によって現実へと引き戻された。


8以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 18:47:09.27 ID:yESG7n+P0
「藤木君。君はここのところいつもそうやって眠っているふりをしているね。」

藤木「え…。」

声の主は藤木の数少ない友達、永沢だった。
彼の言葉の中になんだかよくわからない後ろめたさを感じた藤木は、少し間を空けてこう言い返した。

藤木「べ…、別にふりなんかじゃないよ…。
本当に眠いんだから仕方ないじゃないか…。」

永沢「ふーん?
休み時間の度にそうやっているくせに、それでもまだ寝足りないっていうのかい?」

まるで全てを見透かしているかのようなその口ぶりが癪に障った。
藤木は、先ほどよりも幾分声を荒げて反論した。

藤木「…な、なんだよその言い方!
本人が眠いって言ってるんだから、いいだろ!?
それに僕が寝てようが寝ていまいが、君には関係ないじゃないか!!」

永沢「見苦しいよ藤木君。
何が目的かは知らないが、君がタヌキ寝入りをしているってことはわかっているんだ。」

嘲る様に鼻を鳴らす永沢。
彼は文字通り、藤木を見下しながら冷静にこう続けた。

永沢「…君はそうやって、いつもいつも自分の体裁を取り繕うことばかりを考えている。
やっぱり君は、 卑 怯 なヤツだな。」


9以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 18:48:01.53 ID:yESG7n+P0
それだけ言うと、彼は無言で自分の席につき、藤木から顔をそむけるように頬杖をついた。


藤木「なんだよ…。
自分の言いたいことだけ言って、僕には何も言わせないなんて…。
永沢君の方がよっぽど僕より卑怯じゃないか…。」

呟き終わる前にチャイムが鳴った。
席を立っていた生徒たちが続々と席に戻り始める。
3時間目開始のチャイムが鳴り終わるギリギリのタイミングで、運動場に行った者達も教室に駆け込んでくる。
これもいつも通りの光景である。

唯一いつもと違ったのは、この日の中休みが
藤木にとっても『わずか15分の短い休み時間』に感じられていたという点だけだった。


11以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 18:49:37.48 ID:yESG7n+P0
――――――――――
帰りの会も終わり、学校中のはしゃぎ声がそれぞれの家路につこうとしていた。

その流れの中に藤木もいた。
背を丸めながら歩いていても、もともと背が高いためそれなりに目立つ。
ただ、それは見た目の問題でしかない。
存在感はといえば、あるのかないのかわからない程度で
その気配は完全に周囲の空気に溶かし込まされていた。


今日も一日、何事もなかった。
あったと言えばあの中休みの出来事だけだ。 思い返しただけでまた胸の内側が濁るようだ。
大野君はいい奴かもな。僕をサッカーに誘ってくれたし。
…いや。
その後、杉山君に何か吹き込まれて、結局僕をのけもの扱いしたっけ。
やっぱり、2人とも気に喰わないな。 まぁあんな奴らどうだっていいさ。
問題は永沢君だ。
昔は友達だと思っていたが、最近彼は調子に乗りすぎている。
今日だって、僕が本当は眠っていないだの何だの言ってきた。
そんなことどうだっていいじゃないか。
よしんばそれに気づいたからって、わざわざ僕にそれを言いに来る必要もないだろう。
なんだかんだ、永沢君は難癖をつけて僕を卑怯者呼ばわりしたいだけなんだ。


12以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 18:50:44.34 ID:yESG7n+P0
いまやすっかり僕が卑怯者だというイメージが定着してしまった。
そのせいかクラスの中での人気も日に日に落ちて行っている気がする。
最近、浜崎君や関口君たちが昔ほど僕を遊びに誘わなくなったのも
きっとこのせいだろう。
もしかしたら今日の杉山君の態度もそれによるところのものかもしれない。


それもこれも、すべて永沢君のせいだ。


確かにそもそもの原因は僕にある。
肝試しの時にさくらを置いて逃げたのをきっかけに、僕はクラスのみんなから卑怯者呼ばわりされるようになった。
だけど、それ一つとってみればなんのことはない、卑怯というよりも、ただ単に臆病なだけじゃないか。
誰だって暗闇から急に、それも目の前にオバケが出てくれば驚いて逃げ出すだろう。
寧ろ本当に問題なのは、その一点だけを露骨に取り上げて問題視する側の態度だ。
言い換えれば、ちょっとしたきっかけさえあれば僕以外の人間もみんな等しく卑怯者になり得るということだ。
それなのに、僕一人だけが卑怯者呼ばわりされるなんて甚だ不公平だ。


13以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 18:51:40.49 ID:yESG7n+P0
ただ、こんなことをおくびにでも出そうものなら、より一層卑怯者扱いされるであろうことは目に見えている。
あの一連の事件以降、永沢君は事ある毎に僕を卑怯だと言うようになった。初めのうちはからかい半分だったのかもしれない。しかし、最近の彼の態度は度が過ぎている。

「そうやって自分を正当化して、自分の保身ばかり気にするのは卑怯な人間のすることだ」

「めんどくさい係の仕事を、理由をつけてサボろうとするのは卑怯だ」

「大して面白くもない冗談を言うのは嘘をついているのと同じだ。
嘘をつくなんて、君は卑怯だ」

「自分の行いが災いして卑怯者呼ばわりされるようになったくせに、『卑怯と呼ぶのはやめてくれ』と言うなんて、君はどこまで卑怯な奴なんだ」―――。


もう無茶苦茶だ。


近頃じゃあ他のクラスの子にまで、僕が卑怯者だ、という偏見が広がっているようだ。
こっちは考えすぎてもはや卑怯、というものが何なのかも分からなくなるくらい思い悩むことだってあるって言うのに、軽々しく僕のことを卑怯呼ばわりしないで欲しい。
どうすればいいんだ?
どうすれば僕はこのイメージから脱却できるっていうんだ?

藤木(僕は…、僕は、卑怯者なんかじゃない…!!)


「どうしたの?藤木君。」


14以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 18:52:47.33 ID:yESG7n+P0
藤木「えっ…。」

そこにいたのは藤木のクラスメイト、笹山かず子であった。
以前から藤木は、秘かに彼女に思いを寄せていた。

笹山「さっきからずっと下駄箱の前で難しい顔してるじゃない。
具合でも悪いの?」


藤木「さ、笹山さん…。」

彼は、自分の胸の鼓動が速くなるのを感じた。
無理もない。
一人の小学生にとって、憧れの異性に話しかけられるというのはそれなりに大きなイベントである。
まして、その相手が自分のことを少なからず心配してくれているらしいとなれば、尚更だ。


15以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 18:53:37.87 ID:yESG7n+P0
藤木「え…、い、いやぁ、別に何でもないさ。
ほら、下駄箱の前って、なんだか考え事がはかどるじゃない?
ハハ、ハハハ…。」

笹山「クスッ。藤木君って面白いのね。」

藤木(あ…。)


自分に微笑みかけるその表情を見て張りつめていた緊張が解けた。
たったそれだけのことで、先ほどまでの悩みは全て吹き飛んでしまうような気さえした。

笹山「じゃあね。藤木君。」

藤木「バ、バイバイ。笹山さん…。」


藤木は頬を赤らめたまま、だんだん小さくなっていく後ろ姿に向かって
それが見えなくなるまで、弱弱しくも手を振り続けた。


16以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 18:54:33.43 ID:yESG7n+P0
藤木「はぁー。」

藤木「笹山さん…。」

校門を出た後も彼女の顔がちらつく。
藤木は彼女と今以上に親しくなりたいと考えていた。
しかし果たして、あの彼女が自分のような者に振り向いてくれるだろうか。
卑怯者と蔑まれ、教室内でも居場所を失いつつある単なる一人の級友には
どれほどそれを願ってみたところで望みは少ないように思われた。

自らに付きまとう悪印象を払拭したい。
クラスの皆に好かれる人間になりたい。
そして、彼女に愛される存在になりたい―――。
考えるほどに疼く胸の痛みを知りながら、ただただ悶々としていた。

ビュウと吹く木枯しが体の熱と色の変わった銀杏の葉をさらってゆく。

藤木「うぅっ…!!さ、寒いなぁ…。」

少しばかりかじかむ指を温める為に、ハァ、と白い息を吹きかけた。
それは先ほどのため息よりも短く、湿っていた。

――そんな藤木に近づく一つの影があった。


「もしもし、そこのあなた。ハンカチを落とされましたよ。」


17以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 18:55:17.57 ID:yESG7n+P0
藤木「え?あ、すいませ…。」

そう言いかけながら振り返った藤木は思わず息を呑んだ。
ちょうど沈みゆく夕陽を背にして立つ男の顔は、逆光の中にありながら、なぜか眼と口元だけが異常に目立って見えた。

藤木「……!!」

その声にならない驚きは、藤木の表情にあらわれた。
もともと血色のそれほど良くない唇が一層青くなり、顔からも血の気が失せるのが見て取れた。
その様子を目の当たりにした男は、それでもなお至って冷静だった。

喪黒「ホーッホッホ。
そんなに驚くこともないでしょう。


藤 木 し げ る 君。」


18以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 18:56:07.05 ID:yESG7n+P0
藤木「えぇっ!?ど、どうして僕の名前を…!?」

喪黒「どうしてもこうしても、ハンカチに名前が書いてあるじゃありませんか。」

藤木「あ、ああ、そうか…。す、すいません…。」

藤木は気まずい顔のままハンカチを受け取り、それはねじ込むようにポケットへと収めた。
その彼の姿を見つめながら、男はこう話し続けた。

喪黒「いーえいえ。気にすることはありません。
私の顔を見て驚かれる方は時々いらっしゃいます。
まして、君のような見るからに臆病そうな子供なら無理もありません。」

藤木「……!!」

藤木「…た、確かに僕は臆病かもしれないけど、そんな言い方、失礼じゃないですか!」


喪黒「ホッホッホ。失礼なのはお互い様でしょう。

…ところで藤木君。

君は何か人に言えない悩み事を抱えているみたいですね?」


19以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 18:56:51.62 ID:yESG7n+P0
藤木「な…!?」

喪黒「ホーッホッホ。まーたまた驚かせちゃったみたいで、どうもすみません。
どうして自分の悩みがわかったのか…、と思っているのでしょう?
かーんたんなことです。
ハンカチと同じです。君の顔に書いてあるのです。
君がいくらそれをココロの奥深くにしまっているつもりでも、私のような人間が見ればわかります。」

藤木「…あ、あなたは…、何者なんですか…!?」

喪黒「大変申し遅れました…。
じつはわたしはこういうものです。」

藤木の目の前に、一枚の名刺が差し出された。

藤木「ココロのスキマ…、お埋めします…?」


21以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 18:57:53.02 ID:yESG7n+P0
喪黒「喪黒福造…、と申します。
君のように、ココロに悩み事を抱えながら暮らす人たちを無償で助けるのが私の仕事でして…。
まぁ言ってみればボランティアです。

…特に、君みたいにまだ若い少年が思い悩んでいる、となれば余計に黙って見過ごすわけにはいきません。

今の君には何か『コ コ ロ の 拠 り 所』となる物が必要なのです。
君が本気で悩み事を消し去りたいと思っているのなら、まずはそれを見つけなければいけません。

そう…。



『どーーーーーーーーーん!!!!』



…な時も、君のココロの支えとなってくれる何か、をお探しなさい。」


藤木「な、なんですか?今の…。」

喪黒「ホッホッホ。なぁんでもありませんよ。
それじゃ、私はこれで失礼します…。」


藤木「…おかしな人だったな…。」

藤木はそのまましばらく視線を彷徨わせていたが、やがてゆっくりと体の向きを戻し、元通り家に帰るための道をたどり始めた。
数歩足を進めたところで一度振り返ってみたものの、夕焼けへと真っ直ぐに伸びていく道の上に先ほどの男の影は遂に見当たらなかった。


22以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 18:58:41.57 ID:yESG7n+P0
――――――
藤木「ただいま…。」

迎える者のない、空っぽの家に挨拶をする。
自分のために開けた鍵と、家族のために閉めたドア。
返事の代わりに聞こえるその音が空間の侘しさを際立たせ、同時に家族の温かみを思い返させる。



――自分が学校で疎外感を感じながら暮らしている。
疲れている母や、厳格な父にこんなことは話せない。
かといって、他にそれを打ち明けられる相手もいない。
結局彼はまた、誰に頼るわけでもなく、再びその悩みを自らのうちに呑み戻すこととなる。


「心の拠り所になる物…、か…。」


藤木はいくつもの孤独を抱えたまま、椅子に腰かけ、勉強机に身を預ける。
窓の外では未だ乾いた風が吹き続けていた。


23以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 18:59:45.26 ID:yESG7n+P0
―――――――――
翌日の教室には、自らクラスメイトに話しかける藤木の姿があった。

一人で煩悶するよりは、やはり、誰かの知恵を借りた方がいいだろう。
ここしばらく、言葉を交わすこともなかった相手であっても、きっかけさえあれば意外と楽に話せるはずだ。
これが昨夜彼なりに導き出した結論であった。

藤木は手始めに、自分と同じく一人で休み時間を過ごしているこの男に話しかけてみることにした。


藤木「や、やあー、丸尾君。」

丸尾「おや、これは藤木君。どうかしましたか?」

藤木「えっと…、その、僕…、
悩みがあるんだけど、聞いてくれるかい…?」

丸尾「……私に悩み相談…!?」

瞬間、丸尾の眼鏡が鋭い光を放った。

丸尾「…いいでしょう!!

ズーバーリ!!何でもご相談に乗って差し上げましょーう!!」


24以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 19:00:47.32 ID:yESG7n+P0
藤木「そ、そんな大きい声を出さないでくれよ…。」

丸尾「いいえ藤木君!!私の心は今、燃えに燃えあがっているのです!!
学級委員としてこの丸尾スエオ、クラスメイトの悩み事を放ってはおけないでしょうー!!
さあ、悩めるあなたのその胸に抱えた思いを、包み隠さずこの私に話してみてください!!!」


藤木「あー…。う、うん。
あの…、僕…、その…、自分の、ひ、卑怯なとこを直したり、もっとクラスの皆と打ち解けたりできればと思ってるんだけど…。」

丸尾「……んんん!?

なんですって……!?

ズーバーリ、藤木君!!!!
あなた、まさか、皆に好かれる人間になって、次期学級委員の座を狙っt

藤木「あ、もういいよ。」

収まらない丸尾のテンションをさらりと受け流し、藤木はそそくさとその場を離れた。


25以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 19:02:00.94 ID:yESG7n+P0
藤木「ふぅー…。丸尾君に相談したのが間違いだった…。」

藤木「…いいや、まだまだ…!!」

沈んだ気持ちをかき消すと共に俯けていた顔を上げた藤木の目に、一人読書に勤しむ少年の姿が飛び込んできた。

藤木「あ、長山君…。」

長山「やぁ、藤木君。何だい?」

藤木(…長山君は勉強も出来て、性格もいい。おまけに皆からも好かれている…。
長山君なら、確かだろう…。)

藤木「あ、実は僕…、 夢中になれることを探してるんだ…。
ある人に、心の拠り所となる何かを探した方がいい、って勧められて…。
長山君は、どう思う?」

長山「え?…うーん、難しいな…。
趣味とか、夢中になれることっていうのは、人によって違うし…。
あっ、そうだ。本を読むといいんじゃないかな。」

藤木「本…?どんな本だい?」

長山「何だっていいよ。 藤木君が興味のある本を読むことが大事だろうしね。
色んな人の本を読むことで、人生とか、自分についての考え方が変わることだってある。」


26以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 19:02:42.60 ID:yESG7n+P0
藤木「本…、かぁ…。」


藤木「わかったよ、長山君。ありがとう。
さっそく今日、図書室で何か借りてみることにするよー。」

長山「うん。
…あっ、もしなんなら、これ読んでみない?」

藤木「えっ、どれどれ…?」


27以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 19:04:00.91 ID:yESG7n+P0
――――――
藤木「…長山君に勧められた本を借りてみたけど…。
哲学…?難しそうだな…。」

藤木母「しげるー?まだ起きてるの?」

藤木「あ、母さん…。」

藤木母「明日も朝が早いんだから、さっさと寝ておしまい。」

藤木「あ、でも・・、
もうちょっとこの本を読み進めてから寝ることにするよ。」

藤木母「あら…。勉強してたの?」

藤木「え、あ…。う、うん。」

藤木母「そうかいそうかい。感心だねぇ―。
…でもまぁ近頃は冷えるから、体に気をつけて、湯冷めしないうちにおやすみよ。それじゃ…。」

藤木「あ、うん…。おやすみ…。」

藤木「……。」


29以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 19:04:42.47 ID:yESG7n+P0
―――――
藤木「長山君ー。ありがとう。こないだ貸してくれたあの本、面白かったよ。」

長山「本当?それはよかったよー。」

藤木「…ただ、やっぱり僕には読書は向いてなかったみたいで…。
また違う趣味を見つけることにするよ。」

長山「そうかぁ…。それは残念だな…。」

花輪「ヘーイ、ベイビー達。何を話してるんだーい?」

藤木「あ、花輪君…。実は…。」


花輪「ふーん、心の拠り所?
難しい言葉を知ってるんだね。
…そうだなー。
じゃあ、何か物を集める、ってのもいいんじゃないかな?」

藤木「えっ…。
それ、どういうことだい?」


30以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 19:05:42.27 ID:yESG7n+P0
花輪「ほら、例えば切手収集家やテレホンカードのコレクターのように、自分が心に惹かれる物、興味のある物を集める人たちがいるのは、君も知っているだろう?
集めることそれ自体に夢中になれる人もいれば、集めた宝物を常に自分のそばに置いておいたり、後で見かえしたりすることで満足する人もいる。
僕なんかも中世ヨーロッパの古美術品や日用品に凝っていた時期があってね。こういう物の中に込められた芸術性や、昔の人たちの心を覗ける気がして楽しいのさ。
よかったら、今日ウチに来るかい?」

藤木「え?そ、そんな…、遠慮しとくよ…。」


藤木「……でも確かに、コレクションってのは面白いかもな。
花輪君、ありがとう!」

花輪「僕の方こそ、お役に立てて何よりだよ。それじゃ。」


31以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 19:06:30.92 ID:yESG7n+P0
――――――
藤木「……とはいってもなぁ……。」

藤木「冷静に考えてみれば、花輪君の言っていたような古美術品や中世の日用品なんて、そうそう手に入るもんじゃないしなぁ…。」

藤木「…あれ?
こんな所に骨董品屋さんなんてあったかなぁ…?」

藤木「…まぁ、入るだけならお金もかからないし…。
ちょっと見てみるか…。」

藤木「ごめんくださーい…。」

薄暗い店内のレジのそばに、小難しい顔をした店主が腰かけていた。

店主「いらっしゃい。何かお探し物かね?」

藤木「あ、いえ…。そういうわけじゃないんですが、ちょっと店の前を通りかかったもので…。」

店主「ほぉ、そうかい。
……本来なら冷やかしの客には帰ってもらうんだがね。
君みたいな若いお客さんは珍しい。まぁ見るだけ見ていっておくれ。」


32以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 19:07:24.63 ID:yESG7n+P0
藤木「あ、ありがとうございます…。」

藤木(…見た目はちょっと怖い感じだけど、意外といい人だな…。)

店主の言葉に甘え、店の奥へと進む藤木。
妙に細長い通路の両脇に、所狭しと並べられた商品が見てとれる。
古ぼけた書物。すすけた花瓶。何に使うのかよくわからない代物もいくらかあった。

藤木「へぇー…。なんか珍しいな…。
通学路に、こんな変わった店があるなんて知らなかった…。」

と、その時、藤木の足がピタリと止まった。
自分の目線より少しばかり高い位置に飾ってあった人形。
服装や雰囲気から西洋のものであろうことは想像がついたが、彼を引きとめた点はそこではなかった。

その格好のわりに、どこか日本人ぽい顔立ち。
触ればふわりと柔らかそうな栗色の髪の毛。
今にも瞬きをしそうな澄んだ瞳。
本当に血が通っているかのような白い肌と、薄紅いほほ。

何より、その人形は彼女―――、
藤木が恋い慕う、笹山かず子に瓜二つだったのだ。


34以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 19:09:11.57 ID:yESG7n+P0
藤木は、その人形に一目惚れした。
彫刻や絵画の並々ならぬ美しさに惚れ込む、ということはあるが、それとは違う。
文字通り、本当に「惚れ」たのだ。
昂る気持ちに突き動かされ、気付くと藤木は震える声で店主に詰め寄っていた。

藤木「…おじさん! こ、この人形…、いくらするんですか!?」

店主「……その人形、気に入ったのかい?」

藤木「は、はい!」

店主「…とてもじゃないが、小学生が集めたお小遣いで買えるような金額じゃないよ。」

藤木「え…。 ……そ、そうですよね…。」

落胆し、肩を落とす藤木。
突然行き場を失った先ほどまでの勢いは、そのまま深いため息に変わった。


店主「…坊ちゃん。そんなにその人形が気に入ったんなら、タダでいいよ。」

藤木「えっ…!!??」

思いがけない言葉に耳を疑いつつも、それが誤りでないかと、店主に確かめる。

藤木「ほ、本当に、タダで譲って頂けるんですか!!??」

店主「ああ、いいよ。 その人形、質流れ品らしいんだが、なかなか買い手がつかなくてね。
このままここでホコリの中に埋もれさせてしまうよりは…、 いっそ、君のようにココロから大切にしてくれそうな子に譲った方がその人形のためにもいいだろうよ。」


35以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 19:10:34.36 ID:yESG7n+P0
―――――
藤木「ありがとうございました!!!」

人形をしまった箱を両腕に抱いたまま、深々と頭を下げる藤木。

無邪気に走り去る後ろ姿を見送りながら、店主は、誰もいないはずの店内に向かって小さく呼びかけた。

店主「…これでよかったのかね?」

どこにいたのか、店の奥から恰幅の良さそうな黒い影が現れた。
目深にかぶった帽子を右手でチョイと上げ、妖しげに笑う半月型の目を覗かせる。


喪黒「ホーッホッホ。結構結構。 ご協力いただきまして、誠にありがとうございました…。」


店主「…しかしあなた、何のためにこんなことを…。 それにあの人形は一体…?」

喪黒「私の仕事はあの少年のようなココロの満たされない人たちを救って差し上げることなのです。
あの人形は私が特別に用意したものでして…。
思っていた通り、一目であれほど惚れ込んで頂けました。
このあとどうなるかは彼次第です。 まぁ、しばらく私は見守り役に徹するとしましょう……。

ホーーッホッホッホッホ…。」


36以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 19:11:24.49 ID:yESG7n+P0
―――――
その晩藤木は、机に向かって長いこと座り続けていた。
両の掌の間には数時間前にあの店で見つけた人形の姿がある。
自分の部屋で見るそれは、暗い店内で見るより遥かに美しく、魅惑的に感ぜられた。
店の主人は古いものだと言っていた気がするが、特に色褪せた所もない。
不思議な感覚に包まれたまま過ごすこと数十分。
人形の顔に、自分の憧れる少女の面影を見るたびに気持ちが落ち着く。
藤木は、昨日までの悩みなどとうに忘れ去っていた。

藤木「本当に…。」

藤木「見れば見るほど、笹山さんに似てるなぁ…。」


藤木「…そうだ!
君の名前は、『かず子』にしよう。
僕の好きな人と同じ名前を君にあげるんだ。

どうだい?うれしいだろう?フフ…。」


37以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 19:12:34.62 ID:yESG7n+P0
藤木母「しげるー?どうしたの?
何か声が聞こえるけど…。」

ノックと共に聞こえた母の声に驚き、慌てて人形を机の下へ隠す。

藤木「えっ!?な、何でもないよ。社会の勉強をしてたんだ。
歴史の年号がなかなか覚えられなくてさ……。
えーっと、銃ご予算で作ります、以後よく伝わるキリスト教…。」

藤木母「あら、そうだったの…。勉強もいいけど、あまり根詰めすぎないようにね。」

藤木「はーい。」


部屋から離れていく足音に安心し撫で下ろした胸は、すぐにかず子に対する申し訳なさによって締め付けられた。
後ろめたいことをしているわけでもないのに母の目を気にし、弁明までしてしまった自分を、より深い所へと押し込めた。

藤木「そうだよ…。 僕は、昨日までのビクビクオドオドしていた藤木しげるじゃないんだ…。
僕はもう一人きりじゃない…。
だってこれからは、君がこうしてずっとそばにいてくれるんだもの…。
ね、そうだろ?」

問いかける声に答える代りに、かず子は優しく微笑んでみせた。


38以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 19:13:34.74 ID:yESG7n+P0
―――――
戸川「…はい、それでは2時間目の授業はここまでです。
この後は中休みですが…、あいにく外は雨のようですね。
ですが、教室の中で騒いだり、廊下を走ったりしてはいけませんよ。
こういう日はおとなしく本を読むか、お友達とお話するようにしましょう。」

一同「「はーい。」」


悔しがるような声と朗らかに笑う声とが入り混じり、教室中を満たす。
幾人もの席を立つ生徒たちがいる中、藤木は恐る恐る『かず子』を取り出した。
あの日店で貰った箱に入れてきたおかげで、濡れたような箇所は少しも見当たらなかった。藤木は確かめるようにじっくりと、二人の『かず子』を見比べた。

藤木(やっぱり…。)

教室の後ろで楽しそうに談笑する笹山と見比べても、やはり似ている。
それどころか、寧ろ自分の手の中のかず子の方がずっと愛らしく見える。

藤木「ココロの…、拠り所…。」

不意にこぼれ落ちた言葉を数回頭の中で繰り返す。
数日前の男が自分に語りかけたその言葉の意味をやっと了解した藤木は
顔をほころばせながら、膝の上で自分を見つめる彼女を優しく握りしめた。


39以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 19:14:18.39 ID:yESG7n+P0
―――――
はまじ「ちぇっ。つまんねぇの…。何かおもしれぇことないかな…。」

いつもは運動場で走り回る少年たちも、天気には逆らえない。
教室の中で、何かそれに代わる別なスリルを静かに探し求めていた。

はまじ「んー?
藤木のヤツ、何してんだ…?」

関口「…おい!あいつ、手に妙な人形もってやがるぜ!ww」

はまじ「ホントだ!
…へへっ。ちょっとからかってきてやろうぜww」


はまじ「よぉー、藤木。」

藤木「…え? あ、浜崎君…。」

はまじ「お前、何持ってきてるんだ?」


40以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 19:15:16.39 ID:yESG7n+P0
藤木「な、何でもないよ。」

はまじ「隠すなってww
いーじゃん、見せてみろよww」

藤木「な、何でもないったら!
いいから、あっちへ行ってくれよ!!」

藤木はただその手を払いのけるだけのつもりであった。
しかし、思いのほか勢いがついてしまっていたようで
その力に突き飛ばされる形で、浜崎は大きく尻もちをついた。

はまじ「いてて…。おい!!何すんだよ!!」

藤木「あ、ご、ごめ…。」

反射的に口をついて出てきた自分の非を詫びる言葉は、後ろから聞こえたより大きな笑い声によってかき消された。

山田「あー!
なんだか知らないけどはまじが藤木にやられちゃってるじょー!www
アハハアハハwwww」


42以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 19:16:26.68 ID:yESG7n+P0
小杉「おー、本当だー!
おいはまじ、お前いつからそんなケンカが弱くなったんだー?ww」

はまじ「う、うるせぇよ!」

関口「お、おい、はまじ…。そんなムキになんなよ…。」

なだめようとする関口とは裏腹に、悪気のない無垢な一言がさらに油を注ぎ足す。

山田「そうだじょー、はまじ。
ケンカに負けたからって、怒るのはよくないじょー!wwww
仲直りしたほうがいいじょー!!wwwアハアハハwww」

丸尾「なななんと、ケンカですと!!??
この丸尾スエオ、学級委員長として3年4組の一大事を放ってはおけないでしょう!!!」

はまじ「ケ、ケンカじゃねぇっつってんだろ!!!!」

藤木「そ、そうだよ!たまたま僕が軽く突き飛ばしたら、浜崎君が転んだだけで…!!」


山田「あでー??
藤木君が、ちょんってやっただけで、はまじ倒れちゃったのかじょー??ww」


43以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 19:17:18.21 ID:yESG7n+P0
丸尾「ズーバーリ!!!
これはケンカではなく、人騒がせな浜崎君のただの尻もちでしょーう!!!!」

はまじ「…くっ!!
ど、どけよ!!!」

関口「お、おい待てよ、はまじ!!!」

その声を振り切り、浜崎は丸尾と山田を突き飛ばすようにして教室を走り去った。
すれ違いざまに藤木の方を睨んだが、その時の藤木の当惑顔が妙に気に喰わなかった。

はまじ(…クソッ!!藤木のヤツ…、覚えとけよ…!!!)


残された教室の空気は、しばらくのあいだ燻りを保ってはいたが
やがて昼休みの楽しげな雰囲気にのまれ、いつの間にか平常の和やかさを取り戻していた。


44以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 19:18:10.23 ID:yESG7n+P0
――――
藤木「今日はごめんねかず子…。怖い思いをさせちゃったみたいで…。」

椅子に腰かけながらかず子に許しを乞う藤木の耳に、どこからともなく、謎めいた声が届いた。

「別に、あなたのせいじゃないわ。」

藤木「えっ…!?」

困惑しながらも、尚自分の頭に呼び掛けてくる声に意識を傾けた。

「あなたは間違っていないもの。自信を持って。」

「私はいつだってあなたの味方よ。」

「もっと私を…、あなた自身を、信じて…。」


45以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 19:19:13.65 ID:yESG7n+P0
その声に聞きおぼえがあった。
それはあの、喪黒福造と名乗る不思議な男と会った日に聞いたものだった。

「私よ、私…。わからない?」

辿って行った記憶の先に、下駄箱の前で小さく震えながら佇む自分に話しかける、一人の少女の姿を見出した。

藤木「さ、笹山さん…?」

藤木「いや…、」

藤木「君は…、かず子…?」


かず子「やっと、思い出してくれた?」


艶やかなドレスに身を包んだかず子が、にこやかに語りかける声を聞きながら
藤木の意識はまた、柔らかな暗闇へと誘われていった。


46以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 19:20:07.98 ID:yESG7n+P0
―――――――

窓から差し込む朝の光。
チュンチュンと鳴くスズメの声。
貼りついたまぶたを懸命にこじ開けると、自分と同じ寝具の上に寝転ぶかず子と目が合った。

藤木「……。」

藤木「夢…、だったのか…。」

藤木の眼からホロリと涙がこぼれた。
それは、悲しみによるものではない。
ココロの底から湧きあがる、愛おしさと、それを与えてくれるこの上なく大切な存在とに出会えた喜びから溢れ出したものだった。

ココロの拠り所…。
どんな時にでも自分を支えてくれるもの…。
僕はようやくそれに巡り会えた。
あの喪黒とか言う変なおじさんの言ってくれていたことは正しかったんだ。


47以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 19:21:40.59 ID:yESG7n+P0
藤木「かず子…。君のおかげで今、気付いたよ。
僕を卑怯呼ばわりするのは、僕が悪かったんじゃない。
僕は何一つ後ろ指を指されるようなことはしちゃいない。
君の言うとおり、全ては周りが悪かったんだ。

だってそうだろ?君は僕のことを卑怯だなんて言わない…。
いつもその暖かくて優しい笑顔で僕を癒し、満たしてくれる…。
そんな君が間違っているはずがない…。

正しいのは僕…、いや、僕たちだったんだ…。

フフフ…。ハハ…。アハハハハハ……。」


――そんな笑い声が小さく聞こえてくる窓を、家から少し離れた路地にて見上げる男。
眩しく降り注ぐ日の光を浴びて尚、漆黒の闇のように真黒な出で立ち。
忙しない朝の雰囲気と肌寒い秋風をその身で感じながら、喪黒福造はゆっくりと歩き出した。

喪黒「ようやく歯車が回り始めたようですが…、
果たして、本当にこれで彼のココロは満たされるのでしょうか…?
しかしまぁ、人にはそれぞれ違った形の幸せがあるとはよく言ったものですなぁー…。

ホーッホッホッホ……。」


61以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 22:17:37.71 ID:yESG7n+P0
――――――
キートン「数日後―――。」


藤木「ごちそうさまー!」

藤木母「あら…。
朝ごはんを残さず平らげるなんて、珍しいじゃない。」

藤木「あぁ…。そういえば、少し前まではあんまり食べなかったっけ…。
でも、近頃はどんどん食欲がわいてくるんだよ。」

藤木母「しげる…。
あんた、最近明るくなったみたいだねぇ。」

藤木「え?ヘヘ…、そうかな…?」

藤木母「ええ、こないだまでよりも顔色もいいし、笑顔も増えたみたい…。
あ、そうだわ。今日は母さんパートお休みだから、何かしげるの好きなお菓子でも作ろっか?」

藤木「えぇ、本当!?じゃあ、クッキー焼いてよ!僕、母さんのクッキー大好きなんだ!!」

藤木母「はいはい。ふふ…。」

藤木「…あっ! もうこんな時間だ!それじゃ母さん、行ってきまーす!」

藤木母「ええ、いってらっしゃい。」

勢いよく玄関を飛び出す息子を、母は、柔らかい笑顔で見送った。


62以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 22:18:40.45 ID:yESG7n+P0
――――――
あの店でかず子を手に入れてから半月ほど経つだろうか。
この短い期間の間に、藤木の暮らしは変わった。
彼の内面の変化がそうさせたのであろうか、唇の色も薄いピンク色に変わり、見るからに活力に満ち、生き生きとした少年になった。

藤木「フフ…。かず子…。」

休み時間の度にかず子に話しかける藤木。
昨日の夕方2人きりで見た再放送のドラマが楽しかっただの、今度の週末はどこかに遊びに行こうだの、いくら喋っても話題は尽きなかった。
授業中こそ彼女を机の中に隠しているものの、心の中で話しかけることは怠らない。
彼らの間には確かな信頼があった。言葉にせずとも思いが伝わる。

藤木にとって、かず子はもはや単なる人形などではなく、
愛する存在――、かけがえのない恋人そのものに他ならなかった。

藤木「やあ、やっと休み時間だよかず子…。
本当はいつだって君とこうやって話していたいんだけどね…。
さすがに授業中に無駄話をしていると、先生に怒られちゃうからさ…。」

藤木「え?あ、ああ、ゴメンゴメン…。
今のは別に、君との話が無駄って意味じゃなくて…。
……当たり前だろ?いまさら何を言ってるんだよ…。
勿論・・、あ、愛してるにきまってるじゃないか…。」

始終こんな感じだった。
かくして、いつも居眠りのために費やされていた藤木の休み時間は、かず子のおかげでこの上なく甘美で幸せな瞬間を噛み締めるための時間となった。


63以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 22:19:34.75 ID:yESG7n+P0
一方、少し離れた所から藤木の様子を窺う女子たち。

たまえ「ねー、まるちゃん…。
…藤木の様子、最近変じゃない?」

まる子「うーん。確かにあれはまともじゃないね。
卑怯卑怯と言われすぎて、とうとうおかしくなっちゃったんじゃないのかねぇ。
あたしゃ藤木の行く末が心配だよ…。」

みぎわ「あーら、さくらさん達もそう思う?」

たまえ「あっ、みぎわさんに冬田さん。」

冬田「本当、藤木君ったら毎日何かブツブツ言ってて気味が悪いんだもの…。」

みぎわ「そうよねー。これならいっそ、前みたいに無言でじっとしてくれてた方がマシだったわー。」

冬田「あーら、あれもあれで怖かったわよ。 何考えてるのかわからない感じで。」

たまえ「…2人とも、そこまで言わなくても…。」


野口「……クックック……。」


64以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 22:20:32.18 ID:yESG7n+P0
藤木(フフ…、女子たちの視線を感じる…。)

藤木「何を話しているのかは聞こえないけど、きっと、僕たちが仲良さそうにおしゃべりしてるもんだから嫉妬してるんだろうね、かず子…。」

こんな生活が何日も続いた。


ただ、明らかに藤木を敬遠するようになっていった女子とは対照的に、逆に積極的に話しかけてくる男子も現れるようになった。
…いや。
話しかけてくる、というよりは、からかってくる、と言った方が正確であろう。


はまじ「おーい、藤木ー!ww
今日もお人形さんとおままごとかー?ww」

関口「ヒューヒュー!お熱いことですねー!!ww
あんまり羨ましくって妬けてきちゃうぜ!www」

ブー「ブー!!www」

藤木(フン…。勝手に言ってろ…。)


65以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 22:21:35.19 ID:yESG7n+P0
藤木「…ここは嫉妬に狂ったオスどもがウジャウジャいるみたいだな。
気晴らしに散歩にでも行こうか。フフ…。」

大事そうにかず子を箱に収め、颯爽と教室を後にする藤木。

関口「あっ…。行っちまいやがった…。」

はまじ「…チッ!
なんだよ今のセリフ!!ドラマや映画の主人公にでもなったつもりかよ!!!気持ち悪ぃな!!!!」

ブー「ブー!!!!」

はまじ「……こないだまでは、もともと暗かったのが輪をかけてネクラになってて、あんまり絡まないようにしてたけど…。
あのわけのわかんねぇ人形を持ってくるようになってからのあいつは、やっぱどう考えてもおかしいぜ!!」

関口「だな!!
俺もちょっと前まではそんなに嫌いじゃなかったけど、今のあいつは見てて本当に腹が立ってくるぜ!!!」


66以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 22:22:36.19 ID:yESG7n+P0
たまえ「…男子たち、荒れてるねぇ…。」

まる子「そうだね…。
まあ、はまじ達の気持ちもわからないでもないけどね。」

たまえ「ホントに藤木、どうしちゃったんだろうね…。」


永沢「……。」

少し離れたところでまる子たちの会話を聞いていた永沢は、何やら沈痛な面持ちで空になった藤木の席を見つめていた。


67以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 22:24:30.10 ID:yESG7n+P0
―――――
藤木「さあ、給食の時間だよ。
え?あーん、って、そんな…。みんな見てるじゃないか…。フフ…。」

藤木はすでに、目の前の友人と話すよりもはるかに饒舌にかず子との会話をこなせるようになっていた。
以前のように周りの目が気になるようなこともない。
周りの目――、と言ったが、周囲のほうも、寧ろ藤木との接触を避けるようになっていた。
三方の生徒は必要以上に藤木の机との間隔をとり、視線も極力合わせないようにしていた。
意図的に無関心を装っている、とでも言おうか。藤木の奇行を見て見ぬふりをし、担任に密告することもない。

藤木はといえば、あたかもそこに誰もいないかのごとく振舞われているのを知りつつも、
それは単に自分とかず子の関係を知った者たちが羨んでいるためだと考えていた。
ただ、浜崎たちのように露骨にそれを表す者が増えれば、かず子を脅えさせることになるだろうし、その身を危険にさらすことにも繋がりかねない。
そのため、会話の際にはなるべく声を潜めることを心掛けていたし、彼女の姿をこれ見よがしに机からさらけ出すようなこともしなかった。
全て、ごくごく自然に行っているつもりだった。

藤木(フフ…。…これが、忍ぶ恋ってやつか…。)

藤木はこの時、自らの勘違いが確実に一つ一つの歯車を狂わせていることにすら気付かないほど、愚かだった。


68以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 22:25:43.52 ID:yESG7n+P0
―――――――
その日の昼休みも生憎の天気であった。
それでも藤木のココロは相変わらず弾んでいた。

藤木「フフ…。フフフ…。」

何をするでもなく、ただただ緩みきった顔でかず子を眺める。
とろけそうな表情は、彼がいかに至福に満ち満ちているかをよく物語っている。


その姿を隣の席でじっと見つめていた永沢は、どうにもいたたまれない気持ちになった、といった様子で藤木に声をかけた。

永沢「藤木君……!」


藤木「あー、永沢君。君の方から話しかけてくれるなんて久しぶりだねー。二週間ぶりくらいかな…?」

永沢「藤木君…!一体、君は、どうしたって言うんだい…!」

藤木「え?どうした、って何が…。」

その言葉を聞き終える前に唐突に立ち上がった永沢の口から、これまで堪えられてきた感情が堰を切ったようにぶちまかれた。

永沢「これ以上見てらんないよ!!
何があったっていうんだ!!??
どうして君は、そんなになってしまったんだい!!??」


69以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 22:26:53.39 ID:yESG7n+P0
息もつかずまくしたてる勢いに、教室中が静まりかえる。
それも構わず、永沢は尚も渦巻く思いを吐き出し続ける。


永沢「…確かに、僕は今まで君のことを卑怯だ卑怯だと貶めるようなことを言って来たかもしれない…!
君の心を知らず知らず傷つけてきたかもしれない…!!
…だけど、それは全て僕なりに、友達としての忠告のつもりでやってきたことなんだ!!!
君のためを思えばこそ…!!
君の自尊心を高めたかったからこそ……!!!

…それが、今の君はどうだい!!??

おかしな人形を引き連れて、休み時間の度に人目もはばからず話しかけ続けている!!
まるで異常者だ!!
あの頃の…、くだらないことを言い合って、僕と楽しく笑い合っていた頃の君は、
一体どこに行ってしまったって言うんだい!!!???」


70以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 22:27:41.71 ID:yESG7n+P0
藤木「な、永沢君…。」

藤木「君は、そんなにまで僕のことを…。」

永沢「…ああ…!」

永沢「僕は、君の良き理解者のつもりだった…!!
なのに…、なのに、君の苦しみに気付いてあげられなかった…!!
それどころか、君をそんなにまで追いこんでしまったのは、実は僕なのかもしれない…!!
そう考えるからこそ僕は、そんな虚ろな目をしている君を見るのが、辛いんだ…!!」


藤木「……え……?」


藤木「…何を言ってるんだい…?僕はもう、苦しんでなんか…。」

永沢「じゃあ何なんだよそれは!?
いつまでも気味の悪い人形を抱きしめて!!
本当に何でもないんだったら、さっさとそんなもの、捨ててしまえよ!!!!」

その無神経な言い様が、それまでじっと彼の声に耳を傾けていた藤木の不興を買った。


藤木「やめろぉぉぉ!!!!!

…彼女のことを、そんなふうに言わないでおくれよ!!!!!!」


71以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 22:28:47.25 ID:yESG7n+P0
永沢「ふ、藤木く…。」

藤木「永沢君…、それ以上言うようなら…、僕は、君を許さない…!!」

藤木「…彼女は、今の僕にとって本当に必要な、大切な人なんだ!!
よく知りもしないくせに、彼女のことをこれ以上悪く言わないでくれよ!!!」

永沢「………。」

言葉を失う永沢。これ以上無いほどの沈黙が辺りを包む。
限りなく長く感じられる数秒が経過したのち、少し気持ちを落ち着けた藤木が冷静に言い放った。

藤木「永沢君…。
君にはわからないかもしれないけどね…、

僕は、 真 実 の 愛 に目覚めたんだよ。」


73以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 22:29:36.38 ID:yESG7n+P0
『『『ガァンンン!!!!!!!!!!!!!!!!』』』

その瞬間、それまで永沢と藤木の会話を、自分の席で黙って聞いていた浜崎が自らの机に重い拳を振り落とした。
けたたましい轟音が残る中、怒り狂った形相の浜崎が凄まじい剣幕で怒号を散らした。

はまじ「ふざけんなよ!!!!!!!!!
何わけのわかんねぇこと言ってんだよ!!!!!!!!!!」

藤木「は、浜崎君…!」

藤木「き、君には、関係ないじゃないか!!口を出さないでくれないか!!」


はまじ「関係なくねーよ!!!!!
大体、おめー気持ち悪ぃんだよ!!!!!!!!!
いっつもニヤニヤしながら人形相手にブツブツ独り言言いやがって!!!!!!!!!!!」

関口「そーだそーだ!!!!!」

ブー太郎「ブー!!!!!」


藤木「な…!?」

藤木「…う、うるさい!
少し黙っててくれよ!この子が怯えてるじゃないか!」


74以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 22:30:44.66 ID:yESG7n+P0
藤木にとって、それは予期せぬ非難だった。
動揺しながらも決してそれを悟られまいと、あくまで毅然な態度をとる彼にさらなる暗転が訪れる。


「先生!こっち、こっちです!!」


数人の女子に手をひかれながら、騒ぎを聞きつけた担任が入ってくる。

戸川「皆さん、落ち着いてください。どうしたんです?
一体、何があったんです?」


藤木「せ……!」

藤木「先生……!!」


慌ててかず子をしまう藤木。
周囲の眼が戸川に向けられているうちに着こんだ衣服の間に箱ごと挟み込む。厚ぼったいセーターではあるが、その不自然な歪さはそれほど長くは隠しきれまい。

藤木(…くっ!!早く、なんとかしなければ…!!)


75以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 22:32:00.07 ID:yESG7n+P0
他の生徒から事情を聞き終わった戸川は、ゆっくりと部屋の中ほどに位置する藤木たちの方へと向き直る。

戸川「永沢君、浜崎君、藤木君。
君たちが何かのことで言い争っていたらしい、ということはわかりました。
何が原因でもめていたのか、よかったら直接お話し願えませんか?」

藤木「……!」

このような流れになるかもしれないということは想像してはいたが、予想よりも少々早かった。
頃合いを見計らって抜け出し、かず子をどこか別の場所に隠しに行くことも考えていたが、今となってはそういうわけにもいかない。
なるべく目立った動きをせず、状況が一旦落ち着くまで待つほかあるまい。



藤木(……クソッ!!)

永沢「……。」

戸川「…皆さん、黙っていてはわかりませんよ。
こちらから一人一人に聞いていきましょうか?
ではまずは、浜崎君。君は言い争いの原因は一体何だと思いますか?」



はまじ「はーい。やっぱりそれはー、藤木が、真実の愛に目覚めたのがいけないんだと思いまーす。」


83以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 23:43:02.70 ID:yESG7n+P0
藤木「……!!」

戸川「真実の愛?一体何ですか、それは?」


はまじ「さあー?僕にもわかりませ~ん。直接本人に聞いた方がいいんじゃないですか~?」


はらわたが煮えくりかえるとは、まさしくこのことだろうか。
藤木は浜崎に対して殺意に近いほどの苛立ちと憎しみを抱いた。
奴は明らかにこの状況を楽しんでいる。
藤木は、浜崎と周囲にいる全ての生徒たちから与えられるプレッシャーとストレスをただ一人で引き受け、それに耐え忍ぼうとしていた。

戸川「藤木君。真実の愛とは何なのですか?
もし話しにくいことなら、また時間を改めて相談に乗りますが…。」

はまじ「おい、藤木w
戸川先生にも教えてやれよw」

藤木はすでに、あらゆる重圧に押し潰される寸前であった。
身を憤怒にわななかせ、目に込み上げる悔しさをこらえながら、
逆流する血液よ、吹き出し、枯れよと言わんばかりに嗚咽にも似た咆哮をあげた。


84以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 23:44:37.11 ID:yESG7n+P0
藤木「いい加減にしてくれよ!!
何がおかしいんだ!?
君たちが違う誰かを愛するのと同じく、僕は彼女を愛している!!
君たちは全てを知っているかのような目で僕を見ている!!
通俗という枠からはみ出して見える者を、さしたる根拠もなしに侮蔑しようとする!!
だけど、君たちの望むところのものが一体何だというんだ!!??
あくまでも主観的で相対的な価値観を以て、僕の何を捉えられるというんだ!!??
所詮愛なんてものは誰かを媒介としながら自らに干渉することでしかないじゃないか!!!!
例えば、君は誰かの実体を愛しているのか!?
それとも、その本質を愛しているのか!?
いずれにせよ、それが立ち返るところは自分自身に他ならない!!
愛は決して絶対的なものなんかじゃなく、人間と人間をつなぐものでもありはしない!!全ての愛は単なる信仰にすぎない!!!!
違うかい!?
そもそも、僕を自分たちから遠ざけようとしていたのは、君たちの方じゃないか!!
それなのに今こうして君たちは、自分の方から僕につまらない言いがかりをつけて干渉してきている!!
こんな不条理にこれ以上耐え続けるなんて、もうまっぴらだ!!!!

僕はただ、かず子を…!!」

途端にクラスがざわついた。


85以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 23:45:22.69 ID:yESG7n+P0
戸川「かず子…?
笹山さんのことですか?」

その冷静な声を受け、一斉に教室中の目が笹山かず子をとらえる。
彼女は、自分にそそがれた、たかだか八十に満たない数の視線に動揺し
俯いて小さくなった。

藤木「い、いや、その、今のは笹山さんのことじゃなくて…!」

辱めを一身に受ける対象となった彼女をかばおうと釈明を始めた藤木の耳に、別の一言が飛び込んできた。



はまじ「先生ー。藤木のヤツ、毎日人形持ってきてるんですよー。」


86以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 23:47:58.86 ID:yESG7n+P0
藤木「な…!?」

勝ち誇ったような目で自分を見下してくる浜崎。


戸川「…藤木君、それは本当ですか?
学校にそんなものを持ってきては、いけませんねぇ…。」


はまじ「♪いーっけないんだー、いけないんだー!!wwww」

関口「そーだそーだぁ!!ww」

ブー「ブー!!www」

一斉に囃したて始める男子たち。
ひそひそと小声で囁き合う女子たち。
教壇を降り、一歩一歩自分の元へと近づいてくる担任。
体が一層小刻みに震えるのがわかる。

触れるか触れないかのところまで伸びてきた戸川の手を、全力で振り払った。


87以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 23:49:40.30 ID:yESG7n+P0
藤木「さ、さわるなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!
人形なんてここにはいない!!!!!!!!!
彼女は人形なんかじゃない!!!!!!!!!
おおお前たちなんかに…!!僕の気持がわかってたまるかぁぁ!!!!!!!!!!!!」

悲痛な叫びを上げながら廊下へと飛び出す藤木。

戸川「藤木君!!待ちなさい…!」

呼び掛ける声は瞬く間に小さくなり、消える。
己の荒い呼吸と胸の鼓動を聞きながら、喉かな昼休みの空気を一歩ごとに切り裂く。
滲んだ視界にはすれ違う者の姿などもはや映らない。

数分の後、その眼にはただ、胸に抱える箱と、辿り着いた部屋の扉だけが見えていた。

―――――――

藤木「はあ、はあ…!こ、ここなら簡単には見つからない…!

かず子、心細いかもしれないけど、ここで待ってておくれよ…。
またあとで、必ず助けに来るからね!」


88以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 23:50:39.74 ID:yESG7n+P0
―――――――

戸川「おかしいですね…。
人形なんてどこにもありませんよ?」

はまじ「そんなはずねーよ、先生!!もっとしっかり探してみてくれよ!!」

戸川「…皆さんにも聞きます。
浜崎君の他に、藤木君が人形を持っているところを見た人はいますか?」



たまえ「…先生、ああ言ってるけど、まるちゃんどうする?
手、あげる?」

まる子「…うーん。はまじ達にゃ悪いけど、ここは黙ってた方がいいんじゃない?
わざわざこんな面倒事に関わりたかないよ、あたしゃ。」

たまえ「…そうだね。」

他の生徒たちも考えていたことは似たようなものだったのだろう。
共通していたのは、彼らが手を上げなかった理由が
藤木をかばうためという積極的なものではなく、あくまでも消極的なものであったという点である。


89以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 23:51:58.76 ID:yESG7n+P0
戸川「……誰も手を上げませんねぇ…。」

戸川「永沢君。君はどうですか?」

永沢「ぼ、僕は…。」

永沢「……僕も、見て、ません……。」

戸川「……みんな見ていないそうですよ、浜崎君。」

はまじ「そ、そんな…!!!」

関口「う、嘘じゃねーよ、先生!!」

ブー「ブー!!」

藤木が悄然とした面持ちで戻った教室に聞こえていた会話は、彼の手が戸を引き終えると共に途絶えた。
灰色の表情を浮かべる藤木に、戸川が優しげな声と微笑みをかける。



戸川「藤木君、疑ってすみませんでした。

浜崎君たちも人を貶めるような嘘を吐くのはよくありませんよ。」


90以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 23:53:12.71 ID:yESG7n+P0
―――――
藤木「かず子…。」

放課後の図工室で一人つぶやく藤木。 かず子も加えれば二人であろうか。

図工の授業は週に一度だけだ。教師の出入りも少なく、他のクラスの生徒もこの部屋に入る機会はめったにない。
隠し場所にはうってつけであった。

藤木「ごめんね…。暗くて怖かっただろう…。
僕が戻ってきたからには、もう不安がることはないんだよ…。」

藤木「…それにしても、案外あっけない幕切れだったなぁ…。
戸川先生も、すっかり僕を信じ切ってくれていたみたいだったし…。」

藤木「……まあいいや。何があったか知らないけど、ともかくこれでしばらくは……。」




はまじ「なるほどなwwこーんなところに隠してたのかww」

驚いて振り向いた先には、浜崎、関口、富田の三人が腕を組んで待ち構えていた。

はまじ「おい、関口、ブー太郎。逃げられないように出入り口をふさいでろ。」

関口「おう!ww」

ブー「ブー!ww」

藤木「……!!!」


91以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 23:55:53.22 ID:yESG7n+P0
藤木(しまった…!!かず子に気をとられてか、全く気付かなかった…!!)

はまじ「おう、藤木ww
お楽しみのところわりーとは思ったが、ちょっとばかし付き合ってもらおうかww」

藤木「……悪いと思っているのなら、邪魔をしないでくれないか?
生憎だが、僕たちはこれから帰るところなんだ。
君らなんかと遊んでやれるだけの暇は持ち合わせていないんだよ。」

はまじ「おいおい、そんな冷たいこと言うなよー。
人形とは遊べても、俺らとは遊べない、ってのか?ww」

藤木「…!!黙れ!!!!
彼女は人形なんかじゃないと、何度言えば…!!!!」




はまじ「無理すんなよ、藤木。」


92以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/30(水) 23:56:50.35 ID:yESG7n+P0
はまじ「大事なかず子ちゃんの前でいいとこ見せたくってカッコつけようとすんのはわかるけどさ、お前、クチビル真っ青だぜ?www」

藤木「……!!」

動揺を悟られまいと毅然とした態度を装ってはみたが、とうに見透かされていたらしい。浜崎の一言をきっかけに、表面に出すまいと懸命に抑えていた生理現象が連鎖反応のように溢れ出す。
早まる脈打ちを感じるこめかみの横を、冷たくなった汗が伝う。
タラリと垂れた汗は動悸がする胸の前を過ぎ、今にも崩れそうなほど激しく震える足へと落ちる。

藤木「…、ぼ…!!」

藤木「僕は…、一体、どうすれば…!!」


はまじ「…藤木。そんなにビビんなよ。」



はまじ「安心しろってww
俺達、別にお前のことは嫌いじゃねーからよwww」


95以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/31(木) 00:15:34.37 ID:PmZxkXrW0
藤木「え?」

はまじ「な?二人とも。」

関口「おうww」

ブー「ブーwwww」


藤木「な…。」

藤木「なーんだ、ハハ…。ハハハ…。
て、てっきり、みんな僕のことを嫌ってるんだとばかり…。」



はまじ「お前は悪くねーよ、藤木。
全ての元凶は、その人形だもんな。」


96以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/31(木) 00:17:03.22 ID:PmZxkXrW0
藤木「!!!!」

はまじ「そいつさえいなくなれば、それで全部チャラにしてやんよww
今までのお前の行動も、俺たちがさっき職員室で戸川先生にこってり絞られちまったこともなwww
さぁ藤木。オレ達によこせよwwその『かず子』ちゃんをww」

藤木「ふ…!!」

藤木「ふざけるなあああああ!!!!!!!!」


藤木「おおお前たちに、かkず子にい一本でも指は触れさせてやrられるももんかあぁぁあぁ!!!!!!」

はまじ「落ちつけよwww
何言ってんのかわかんねーよwww」

藤木「うあああああああぁぁぁあああぁぁあぁ!!!!!!!!!!」

はまじ「おっと!!」ガシッ!!

藤木「!!!」

はまじ「いちいち暴れんじゃねーよ。お前が俺たちにケンカで勝てると思ってんのか?いい加減にしねぇと、本当にこの場で…。」

その時、両腕を固められたままの藤木の手から、かず子の入った箱が落ちた。


97以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/31(木) 00:20:33.41 ID:PmZxkXrW0
はまじ「おっ!さては、この中にあの人形が入ってんな!?ww」

藤木「!!
ち、違う!!これは、別に何でも…!!」

藤木の言葉を無視して箱をけり上げる浜崎。

はまじ「ヘイ、パース!!ww」

関口「どれどれ…? うわっ!?この人形、本当に笹山にそっくりだぜ!?」

ブー「気持ち悪いブーww
藤木もしかして、わざわざ手作りのかず子ちゃん人形作ったのかブー?ww」


藤木「やあああめrろおお!!!!!!かかず子に、てを出sなあぁあ!!!!!!!!!」



はまじ「つーか、笹山泣いてたぜ?」


藤木「……え?」

はまじ「たぶん、そうやってお前がそいつのことを『かず子』とか呼んだせいで皆から変な目で見られたからだろww」

はまじ「かわいそーだよな、笹山ww
目の周りとか真っ赤にしちゃってさwww」

はまじ「まぁ、こんな気持ち悪い奴が持ってる人形に、自分と同じ名前つけられたら泣きたくもなるよなwww」


98以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/31(木) 00:21:33.87 ID:PmZxkXrW0
急に全身の力が抜けた。

はまじ「おい、お前ら!今のうちだ!やっちゃえよ!!www」

関口「おう!!ww」

ブー「ブー!!wwwww」

藤木はそのまま、全身にフワフワとした痛みを感じながら
無抵抗のまま殴られ続けた。

一体なぜこんなことになってしまったのか。
もはや、自らの行動を省みる余力さえ取り残されていない。
回り灯篭のように断片的に去来する情景の中に映るのは、
仮初の居眠りに興じる自分の姿と、
言葉を奪われた者のように回らぬ舌を訝しがる自分の姿と、
かず子を膝に乗せ悦に入る椅子の上の自分の姿と、
一人きりの世界を肩を落としながら彷徨う自分の姿だけだった。
自分は嫌われたくもなかったし、彼女を泣かせたくもなかった。
ただ、何者とも隔てなく自分を受け入れてくれる存在を見つけたかっただけだ。
それがやっと叶ったと思っていた。
なのに、なぜ今の自分はこうして身じろぎ一つできないまま殴られているのだろうか?
なぜ、あのたった一言のために、こんなにも胸を抉られる思いを感じているのだろうか?


99以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/31(木) 00:22:57.66 ID:PmZxkXrW0
もう誰も信じられない。
いや、もはや、その必要すらない。

少しばかりの苦痛が、ひと月ほど前の、人々の暖かな無関心を思い返させる。
自分はまさしく永遠に、他の人々の生きる世界とは切り離されて生活するのだ。

この荒みきった不道徳な世界においても、
ただ自分とかず子の二人だけは降り注ぐ太陽と月と星の光とを受けながら
この世の誰もが生涯知り得ない楽園へと足を踏み出して生きてゆくことを許されたのだ。


遠のく意識の中、手の届かない距離に転がったかず子の姿を見とめた目からは、粒状の涙が零れていた。


100以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/31(木) 00:24:57.77 ID:PmZxkXrW0
―――――

藤木「うぅ……。」

体中に鈍い痛みを感じながら目を覚ます。

藤木「僕は…、図工室で…。 はっ!!そ、そうだ、かず子!かず子は…!?」

かず子はすぐに見つかった。
藤木の頭のすぐ隣に転がっていたそれは、見るも無残な姿に切り刻まれていた。
そこが図工室であったことが災いした。彫刻刀や錐やノコギリといった道具は、かず子の体を冷酷且つ残虐に傷付けた。


藤木「うわあああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」





「ホーッホッホッホ。

これはまた、随分と手酷くやられましたなぁ。」


101以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/31(木) 00:26:44.17 ID:PmZxkXrW0
聞き覚えのある声に顔を上げる。
眼前に立ちつくす人物は、あの日出会った妖しげな男、喪黒福造その人であった。

藤木「も、もぐろさん……!!」

喪黒「おや、私の名前を覚えててくださったんですか。
これはこれは、どうもありがとうございます。

それにしても藤木君、大変な目に逢いましたね。」

藤木「ああああああああああああ……!!!!!!!!!」

藤木「喪黒さん…!!」

藤木「ぼぼくは、ぼくのかず子をこんなにした、あいつらが憎い!!
あいつらにも同じ目にあわせてやりたい!!!!!
どうか…、僕に、力を貸してください!!!!!!!」


喪黒「お気持ちは痛いほどわかりますがそれはできません。
あなたがいくら思っていようが、所詮そのかず子さんは人形です。
しかし彼らは紛れもなく、人間なのです。

さすがに人形と人間じゃ命の重さも事の重大さも違うということくらい、分かっているんじゃありませんか?」


102以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/31(木) 00:28:08.43 ID:PmZxkXrW0
藤木「そ、そんな…!!!
じ、じゃあ、あいつらに復讐できないならせめて…、

せめて、もう一度元の姿のかず子に会わせてください!!!!!」


喪黒「ホーォホォ。もう一度かず子さんに…。
それくらいならできないことはありませんが…。」

藤木「ほ、本当ですか!!??じゃあ…!!」



喪黒「たーだーし!!!
君がどうなったとしても、私は知りませんよ?」


103以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/31(木) 00:29:06.50 ID:PmZxkXrW0
藤木「かまいません!!
かず子は僕を裏切らなかった…!!!
彼女は僕の全てだった…!!!
かず子が傷つけられたのなら、それは僕が傷つけられたのと同じことだ!!!」

喪黒「そうですか、君はそんなにまでかず子さんのことを…。

わーかりました!!!
君の望むまま、というわけにはいきませんが、どうにかして差し上げましょう!!!」

体の横に置かれていた右手をゆっくりと持ち上げる喪黒。
そのまま人差し指を伸ばし、それを涙で崩れた哀れな笑顔に向けて
一呼吸の後に呪文のような大声を轟かせた。




喪黒『『『ドーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!!!!』』』


104以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/31(木) 00:29:30.46 ID:N4wav5DkP
ドーンキター


106以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/31(木) 00:33:17.14 ID:PmZxkXrW0
――――――
はまじ「いやー、さっきの藤木の姿には笑ったなww
たかがバラバラの人形を見たくらいであんなに騒ぐなんて、やっぱあいつおかしいぜww」

関口「そうだなwww

…でもさ、途中で入って来た気味の悪いオッサンいただろ?
俺たちが窓の外から見てたのがバレるとまずいから、こうやって途中で切り上げて逃げてきたわけだけど…。
結局あのオッサン、何者だったんだ?」

はまじ「しらねーよそんなこと。
そんなことより、さっさとウチに帰って遊ぼうぜ!!」

関口「おぅ!!」

ブー「ブー!!ww」


関口「あれ?おい、はまじ。お前ん家の前に誰かいるぞ?」

はまじ「えっ?あっ!

あれは…、藤木……?」


113以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/31(木) 01:01:31.47 ID:PmZxkXrW0
「…やぁ、君たち。遅かったね。」

三人の帰りを待ち受けて玄関先に佇んでいた黒い人影。
その声からも、シルエットからも、それが藤木であるということは容易に想像がついた。

関口「ど、どうして藤木が…?
だ、だってあいつ、まだ学校にいるはずじゃ…?」

はまじ「…くっ!!
どうせ先回りして来たんだろ!!」

藤木「フフ…。」

はまじ「おい、藤木!!なんでお前がウチの前にいんだよ!?」

怒声を上げる浜崎に対し、顔を下へ向けたまま冷静に話す藤木。

藤木「いやぁ、別に仕返し、とかそういうわけで来たんじゃないんだ…。
実は、君たちに切り刻まれた箇所で、どうしても直せない部分があってね…。
君たち、プラモデルなんか作るの得意だろう?
ちょっと修理を手伝ってもらえないかと思ってさ…。」

はまじ「あぁ!?またあの気持ち悪い人形か!!??
知らねーよそんなもん!!ほら、さっさとどけよ!!!」

浜崎は、乱暴に藤木の体を突き飛ばした――――。


115以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/31(木) 01:04:13.00 ID:PmZxkXrW0
その瞬間、藤木の首はコロリと外れ、地面に向かって落ちて行った。
いや、首だけではない。
腕も、胴も、脚も。体中のあらゆるパーツが崩れるように転げ落ち、先ほどまで保たれていた人型はたちまちのうちにその輪郭を失い、
先ほどまでのごくありふれた玄関先の様子は、散乱した人体の部位で覆われた惨憺たる光景と化した。

「「「うわあああああああああああああ!!!!!!!??????」」」


はまじ「あ、ああ…!!ふ、藤木が…!!」

残酷極まりない非日常的なその場面を目の当たりにし卒倒する関口と富田。
腰を抜かし、半狂乱に陥る浜崎を前にしてなお、地面に突っ伏した藤木の頭部は喋ることをやめない。

藤木「何だい?
たかがバラバラの人間を見たくらいでそんなに騒がないでくれよ…。フフ…。」


116以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/31(木) 01:05:08.21 ID:v9w3G0+H0
うぎゃああああああああああ


117以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/31(木) 01:05:31.35 ID:PmZxkXrW0
藤木「あの後、喪黒さんに僕の体と引き換えに、かず子の姿を元に戻してもらったんだ…。
文字通り、かず子が受けた傷をそのまま僕が引き受けたってわけさ…。
かず子が元通りになったのはうれしいけど、さすがに僕一人じゃ自分の体を直しきれなくてね…。
さあ、早く組み上げるのを手伝っておくれよ…。」

はまじ「あ…!!!あぁぁああぁ………!!!!」

失禁し、口から泡を吹き、そのまま意識を失う浜崎。



藤木「……。
気絶しちゃったか…。 」


藤木「…ハハハ!それにしても、いい気味だ!
こんなにうまく騙せるとはね!」


119以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/31(木) 01:06:34.61 ID:PmZxkXrW0
地面に転がった頭がカタカタと揺れる後ろから、かず子の形をした何者かが現れる。
どうやら先ほどまでの藤木の声は、頭部からではなくその背後に隠れた彼が出していたものらしい。

藤木「本当に、喪黒さんには感謝してるよ…。
僕の体をかず子そっくりにしてくれるなんてね…。
これなら、大きさにも見た目にも、まさに人形そのものじゃないか…。」

水たまりに映る、かず子そっくりになった自分の姿をまじまじと眺める藤木。

藤木「おまけにバラバラになったかず子の体は、僕の体そっくりにしてくれた…。
これからはかず子が僕、僕がかず子として暮らしていけば、何の矛盾も問題もなく二人仲良く暮らしていけるってわけだ…。

フフフ…。ハハハハ…。ハハハハハハハ……。」

今や自分よりはるかに大きくなった『かず子』の体と、どうやって生きていくのか―――。
悪魔的な狂気に満たされた藤木の頭には、そんな考えなど浮かぼうはずもなかった。


121以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/31(木) 01:07:56.74 ID:PmZxkXrW0
―――――
遠くにこだまする人形の笑い声を背にし、夕暮れの路地を闊歩する男。
雨の上がりきった茜色の空は、男が初めて藤木と会った日のものと同じように見えた。
深淵と続く闇を思わせる衣服を身に纏ったその男は、急に立ち止まり、そのまま独り言のように呟き始める。


「…結局、彼が愛したのは、人形の姿かたちだったのでしょうか?
それとも人形のココロだったのでしょうか?
何にせよ、愛に狂った男ってのは、恐ろしいもんですなぁ…。」


「ま、私に言わせればあんなものは愛なんかじゃありません。
本当の愛とは、美味しいクッキーを用意して息子の帰りを待ち侘びる"母親の愛情"のことを言うんでしょうなー。

……あの人ならきっと、
バラバラに切り刻まれた息子であろうと、人形になってしまった息子であろうと、構わずあたたかーく迎え入れてくれることでしょう…。



ホーーーーーホッホッホッホ!!!!」






123以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/31(木) 01:09:38.64 ID:PmZxkXrW0
終わりです
途中規制くらってましたが、支援保守してくれた人ありがとうございます
今から過去レス見るんで質問ある方は書き込んどいてください


思ったよりスレ伸びなかったorz


124以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/31(木) 01:10:19.68 ID:ZaJ+eEveO
面白かった!
保守したかいがあった。
乙でした!


125以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/31(木) 01:10:49.98 ID:YbPPqVjo0


投下間隔が短くて、レス挟む隙がなかったんだと思う
楽しく読ませてもらったブー


126以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/31(木) 01:10:54.24 ID:v9w3G0+H0
文章がすごい
乙でした


135以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/31(木) 01:55:35.49 ID:22bNA8sV0
飽きずに最後まで読めた
>>1


139以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/31(木) 02:26:09.59 ID:SitmkS1a0
久々に良SSにめぐりあえた
>>1





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20:00│Comments(3)TrackBack(0)版権「〇〇」 | ちびまる子ちゃん SS

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この記事へのコメント

1. Posted by あ   2011年05月02日 00:56
面白かった
2. Posted by ななしさん   2013年06月30日 01:15
1 悪趣味
3. Posted by ななしさん   2016年05月24日 20:29
とっても悪趣味、気持ち悪い。

だがそれがいい。素晴らしいssでした。

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