「教誨師」
大杉漣、最後の主演作 (プロデュースも)にふさわしい作品。心に残る演技だ。
6人の死刑囚との対話がメインで、全編のほとんどが教誨室のシーン。しかも対面して座ったきりで、動きはきわめて少ない。密室での対話場面がずっと続くのだが、緊張感がありなかなかスリリングだ。俳優もみな芝居が達者で、それぞれに熱演している。
どの死刑囚も個性的だ。無言を貫く者、気のいいヤクザ、無知なホームレス、おしゃべりな女囚、大量殺人犯の若者など。完全なフィクションだが「世間を賑わせたあの事件」を思い起こさせることが、会話から伺えることもあった。
なぜ死刑囚になったか、事件の内容も罪状も詳しくはわからない。会話から想像するだけだ。それがますます観ている側の興味をそそる。こんな優しげな人がなぜ?と。
しかし対話が繰り返されるにつれ、さまざまな本性が剥き出しになってくる。人物造形がとても上手い と思った。脚本も濃い。
死刑囚に寄り添い話を聞いてあげる立場の教誨師自身も、過去の出来事を思い出して気持ちが揺らいだりする。彼とて同じ人間で、牧師とはいえ清廉なばかりではないのだ。
人の心の闇を覗くのは容易ではないし、まして安らかに死を迎えられるように導く、などというのは至難の業だ。宗教さえむなしく感じられる。
普通の映画なら「あの場面」で終わると思うのだが、その後の短いシーンがよかった。
大上段に死刑制度の是非を問うているわけでも、問題を提起しているわけでもないが、観た人それぞれが考え感じただろう。