Julieta
「ジュリエッタ」

アルモドバル監督作品で、しかも「ボルペール」以来の母娘もの、とくれば観に行かない理由はない。
予告篇を見たら…何の理由もわからず12年前に突然母親の前から姿を消した娘。
娘をひたすら待ち続け、読まれるあてもない娘への手紙を書き続ける母…これはもうダイレクトに心に響きそう。ハンカチ必携だ、ととても期待して観に行った。
うーん、結果的には泣かなかった。もちろん響くところは多々あったし、痛いほどの母親の心の叫びは十分に伝わってはいた。が、なぜだろう、どこか客観的というかドラマに引きずられたというか。以前の作品のようなシャープさは影をひそめ丸くなった印象。ラストもちょっと物足りない。動機づけがあまりにもありふれていたし。
20代の母親と現在を別々の女優が演じているのはまったく問題ない。2人とも好演していたと思うし、入れ替わりも自然だった。
特に冒頭、列車のくだりはサスペンスタッチで、ドラマチックな展開を予感させるものがあった。ここがこの作品のひとつの肝だ。原色を散りばめた色づかいもこの監督ならでは。
かつてのアルモドバル作品には欠かせない存在だった「鼻の女優さん」ロッシ・デ・パルマが、老いたとはいえ、いかにも訳ありなお手伝い役で怪演していたのはも見逃せない。


everybody wants some
「エブリバディ・ウォンツ・サム!」

「6才のボクが大人になるまで」の監督の最新作というので、軽い気持ちで観に行ったがこれが大当たりだった。
時は1980年、大学入学を目前に控えた野球部の学生たちの3日間を描いた青春群像劇。
いきなりナックの「マイ・シャローナ」が流れるベタな始まり方には特に反応しなかった私だが、とにかく音楽がツボだった。
私はこの監督と年齢がかなり近いようで、同時代を生きたことにまず共感。同じ大学生活といっても日本とアメリカではずいぶんとライフスタイルは違っているが、聴いていた音楽は同じ!誰のファンだったとかは関係なく、BGMが同じだったという共通点が。
いわゆるヒットナンバーばかりでなく、ジャンルも無節操で幅広いところがまたいい。
ヴァン・ヘイレンからブロンディ、ホット・チョコレート、ピンク・フロイド等等、よく聴いたし踊った。とても懐かしい…
一見ノーテンキなおバカ映画に見えて、けっこ深いところを突いている脚本にも感心した。入学前の3日間だけを丁寧に切り取っているところがよかった。お祭騒ぎは一段落し、入学と同時に若者たちは現実に立ち戻っていくのだ…
最後の最後まで面白いので、エンドタイトルが始まっても席を立ってはダメ!


手紙は憶えている
「手紙は憶えている」

クリストファー・プラマー演じる主人公は、アウシュヴィッツで家族を皆殺しにされながらも生き残って渡米し、現在は高齢者用のケア施設で暮している。彼はナチスの逃亡犯に復讐するため施設を抜け出し旅に出る。
とにかく主人公が90歳の老人で、足腰はまだ何とかいけるが認知症の症状が出始めているのだ。これはなかなか厳しいハンデだ。何しろ一度眠って起きると、その前のことをすっかり忘れてしまっているのだから。
自分が一体何の目的で出かけて来たのかさえ覚えていない。
それを思い出すため、仲間が書いてくれた手紙をいちいち読み返す。それまでの経緯が手紙にすべて書かれているのだ。そのあたり、主人公の意識や記憶がぼんやりしているもどかしさや、思い通りにいかないいらだちは実にリアルに描かれていた。不自由な身で知らない土地を歩き、逃亡犯の候補者をひとりひとり訪ねて歩く様子はサスペンスフルでもある。
本作のテーマのひとつは「記憶」なのだが、人間の記憶は自分の意志で作り替えることが可能である、と。もしや…と途中でうっすら予想はついたがそれでもなお、最終地点での展開はあざやかな演出だ。
それにしても、衝撃のラストとかどんでん返し、といったキーワードも十分にネタバレになるので、宣伝フレーズなどはもっと気を配ってほしいと常々思っている。