September 15, 2012

[恐竜王国2012 DINOKINGDOM] "WTF! You are very hairy!"(受付のアフリカンアメリカンのおっさんが驚きながら) (1)

生きた恐竜発見!

恐竜類>竜盤類>獣脚類>テタヌラ類>コエルロサウルス類>マニラプトル類>アヴィアラエ
Corvus macrorhynchos ハシブトカラス

20120915-01「ハシブトガラス」

さて、開催が2012年09月23日(日)までなので慌てて「恐竜王国2012 DINOKINGDOM」@幕張メッセに行ってきた。何のことはない、毎年夏に行われている恐竜博だ。このエントリのタイトルは山本(仮名)って奴がウィスコンシンだかオクラホマだかの博物館に行った時に、入場受付の黒人のおっさんに「おめえ毛深いなあ!」とビビられたことに由来する。この恐竜博の内容を総括するとまさにこのタイトルが示す通り、「みんな毛深い」って感じ。要するに獣脚類を中心にどいつもこいつも羽毛をつけて全身模型が復元されている。ティラノサウルスも間抜けな色の羽毛をつけて復元されている。ということで何でこうなってしまったのかを簡単に説明して、実際の展示については次のエントリに書く。

  1. 小型獣脚類の化石に羽毛が発見される

    1990年頃には鳥類の祖先が獣脚類のコエルロサウルス類辺りであることはほぼ確定的とされていた。コエルロサウルス類は二次的に巨大化したティラノサウルス類を除けば全般的に小型であり、骨格的に鳥類に近い(もちろん相違点もたくさんあるが)。羽毛は化石として残りにくく、その直接的な証拠がないという問題はあったが、それも1996年頃から中国の熱河を中心に羽毛をまとった恐竜化石(羽毛恐竜)がバカバカ発見されたことで解消された。つまり鳥類はコエルロサウルス類であり恐竜の直系の子孫ですよ、と。恐竜類全体の生態研究の結果、おそらく多くの恐竜は有鱗類のトカゲなどとは違い恒温性(曖昧な言葉だ)だったらしいということで、羽毛の獲得はコエルロサウルス類が小型であったことからも保温機能が主目的(進化論的に『目的』という言葉はあまり使いたくないが)であり、それが鳥類の飛翔機能をもつ翼と羽の前適応となったことが推測された。分かりやすく言うと、まず最初に「あったけー」と羽毛を獲得し、後で「あれ?これ飛べるじゃん!」と飛んだということ。ここでは恐竜類の中でコエルロサウルス類近辺が羽毛という形質を獲得した、という話でも全く構わない。しかし問題は別のところから加速する。


  2. 鳥盤類の化石にも羽毛が発見される

    続々と獣脚類化石に羽毛の痕跡が発見される中、鳥盤類のプシッタコサウルス等の化石に羽毛の痕跡が発見されている。もちろん飛べないし、哺乳類の体毛にかなり近いものだがそれでもおそらくは羽毛の痕跡だろう。ここで「羽毛の獲得はいつか?」という問題がクローズアップされる。恐竜類のおおまかな分類を見てみると、恐竜類はまず竜盤類と鳥盤類に分岐し、竜盤類が竜脚類と獣脚類に分岐している。正確には竜脚類ではなく竜脚形類らしいが。

    • 恐竜類
      • 竜盤類
        • 竜脚類

        • 獣脚類
      • 鳥盤類

    厳密な定義をすれば、ニワトリ(竜盤類>獣脚類)とトリケラトプス(鳥盤類)の最後の共通祖先とそこから派生した全ての系統を恐竜類と言っている。つまり獣脚類(竜盤類)と鳥盤類は恐竜類の中で最も違う系統なのだ。ここで両者に羽毛があったということは羽毛獲得の時期について二つの仮説が成立する。

    (1) 鳥盤類のプシッタコサウルス近辺とか、獣脚類のコエルロサウルス類近辺で羽毛を別々に独立して獲得した。
    (2) 実は羽毛は恐竜類の共通派生形質で、全ての恐竜が羽毛を獲得していた(二次的に失ったりした系統もあっただろうが)。

    よりシンプルに考えるなら(2)の方が有力だ。おそらく羽毛の獲得は単系統だろう、と。そして主竜類の中で恐竜類とは別系統で近縁の翼竜類にも羽毛の痕跡が発見された。あれ?マジで?更に現生のワニは現生鳥類の羽毛を作る遺伝子を持っているし、発生(個体発生)でも途中までは何となく羽毛作るのと同じプロセスで作られている鱗がある。つまり主竜類の中でも比較的近縁なワニ類、翼竜類、恐竜類において羽毛が共通派生形質である可能性が出てきた。そうすると羽毛は主竜形類の中でカメ類が分岐した残り、ワニ類とか翼竜類とか恐竜類がそれぞれ分岐する前に獲得した形質なのかもしれない。この場合は羽毛の獲得時期はかなり古く、恐竜が登場する2億3千万年前よりも古いということになる。


  3. 大型獣脚類の化石にも羽毛が発見される

    実はこれが「恐竜王国2012 DINOKINGDOM」の最も注目すべき展示なのだ。後期白亜紀の獣脚類のティランノサウルス類、Yutyrannus huali (ユティランヌス)の化石から羽毛が発見された。この発見は今年2012年04月のNature 誌にも掲載されている。


    このユティランヌスは6-9mで相当の大型。ここにきて羽毛独裁は更に強権的になる。上で書いたようにこれまで羽毛の獲得は保温のための考えられてきた。ティランノサウルス類以外のコエルロサウルス類は小型で30cm-1m とかそんな感じ。大きくて3m とか。実は大型動物は体積が大きいので熱慣性が大きく、保温する必要があんまりないと考えられている。哺乳類でもゾウとかサイとかは体毛が密ではなくほぼ全裸で露出度が高く見えるし、ゾウは薄くて広い耳で放熱までしている。だから同じように大型獣脚類、てゆーか大型の恐竜類は羽毛を生やしていなかった、と考えられていたのだ。もちろん羽毛は獲得した形質だから生やせるんだけど、あえて生やさないよって感じ。全世界の薄毛に悩む人には羨ましい話だろう。ティラノサウルスも小さな子供の時は羽毛があったかもしれないけど、大人になったら生えてないんじゃないかな、とか。そんな考えがこの発見で見事に吹き飛んでしまった。もちろん羽毛が生えない種とか成体になると生えない種とか様々な部位で生える生えないがあったり個々の系統や種で羽毛の生え方は違うだろうし、それを明らかにするが今後の研究目標なのだろうが基本的には獣脚類を中心に恐竜類はどいつもこいつも羽毛を生やしていた可能性が出てきたということだ。そしてそんな方向性を元に展示しているのがこの「恐竜王国2012 DINOKINGDOM」になる。



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この記事へのコメント
シカゴの水族館だな。

山本(本名)はこれから発生する大絶滅を生きのびるために
独自に進化した超人類である可能性がでてきたな。

どこで分岐したかはしらんが。
Posted by akifuck at September 16, 2012 04:49
> akifuck

ほら、俺は以前に山本(仮名)の卵生説を唱えたじゃん。
分岐は2億5千万年前よりも古いだろうな。

なんかさあ、ティラノサウルス含めて獣脚類には基本的に羽毛が生やされていて、
頭で理解はしているけど心で納得はできなかった。

子供たちもショックじゃねーかな。
おばさんとおねえさんが「いやねー、この恐竜も羽毛が生えているわ」ってショック受けてたし。
Posted by dead moon rising at September 16, 2012 12:30