2006年03月28日

アルスラーン戦記8−10 田中芳樹

 まさか、いまだにこの物語が完結していないとは知らなんだ、あと一巻既刊があるそうだが。執筆期間を延ばすと著者近影が無残なことになるというのに困ったお方だ。著者近影でパラパラ漫画を作れば「田中芳樹毛根戦記」として涙を誘うもうひとつの物語ができる寸法か。話の中で殺した人間の数だけ頭の上のものが死んでいるのかもしれないな・・・。

 さて、人の身体的特徴をあげつらうのはほどほどにしておいて作品をあげつらうことにする。

 アルスラーンの半月形――長大な遠征作戦だがいくらなんでも兵站関係がリスキーすぎる。その点に関する細かい描写がないが、チュルク国内に閉じ込められれば餓死するのは間違いなくパルス軍だろう。チュルク王はむしろ首都を囮にして敵を誘い込むくらいの大胆さをもってほしい。
 これだけ無謀な作戦なのに緊張感がないのは、ナルサスという男が「何でも僕ちゃんの思い通りだもんね」とふんぞり返っているからに他ならない。著者とこいつが制御できる範囲内でしか物語が動きそうにないのだ。ここに至ると読者と作者に気持ちのよい箱庭は提供できても、ストレスすれすれのスリルは与えられてない。

 各国の人材難。
 国それぞれの描写はとても良くて元ネタにされた地域に思いをはせながら読むのはとても楽しかった。
 しかし、その陣容はパルスに比べると泣けてくるほど薄い。どうしてもそうなってしまうのは分かるのだ。人材を厚くしようとすればその分だけ筆が掛かり、物語の速度が鈍ってしまう。でもやはり、どの国もその国王のワンマン経営みたいにみえると「アルスラーンに勝てるわけないじゃないか馬鹿馬鹿しい」と思わずにはいられない。せめて入念と描写されて頼もしさを発揮した上で他国に寝返る人材がでてくれれば盛り上がると思うのだけど――ヒルメスが頑張っているか。

 アルスラーンのキャラクター。
 何を考えているかさっぱり分からない非常に不気味なモンスターじみた奴に見える。あまりにも淡白すぎるし、主張がなすぎる。奴隷解放にしてもナルサスに刷り込まれて行動しているようにしか見えない。ちょっと箍が緩めばあっという間に暴君に早変わりしそう――と妄想するとある意味魅力的だけど。
 どうも仲間に恵まれすぎで、物事が彼の都合よく進みすぎだからあまり応援する気になれないのだ。
 ちなみに私が応援する王の順位は
1.ギスカール
2.ヒルメス
3.ラジェンドラ
中略
ブービー.ザッハーク
最下位.アルスラーン
 となっている。
 架空世界の人間が何人死のうが知ったことではないので予定調和以外のものを期待したい。ザッハークは人外として希望株といいたいところだけど、魔道士たちがあまりに小物臭いせいで親玉も今ひとつ。

 まぁ、これだけ貶しまくったけど、どれもこれもファンタジー戦記ものが長引くと生じる根本的な問題だろう。風景・情景描写の手腕は溜息がでるほどに洗練されていて流石は田中芳樹先生だと思ったし、登場人物たちのやりとりには(特に名前もないような市井の人物の)飽きさせない何かがある。
 願わくば完結されんことを祈るばかりである。

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