2007年09月29日

魔法先生ネギま!のキャラクターと現代の子どもたち

 岩波ブックレットの「個性」を煽られる子どもたちという興味深すぎる本(ぱんどらのはこ)を読んだのだが、ここで指摘されていた子どもたちの問題はネギまに良く反映されていると感じた。
 普通は作者が低年齢な作品ほど――例えばジャンプ新人のような――その傾向が顕著になるはずなのに、現代的な問題を取り込めてしまっている赤松先生は流石だ……おそらく、ただ結果的にそうなっているので解決策の提示にはいたらないであろうけど。


 さて「個性」を煽られる子どもたち(以下文献)の内容をかいつまんで述べると「個性を大事にしなさいと言われ育ち社会的な演じるべき役割を与えられていない現代の子供たちは、常に自分の中に潜在はずの個性を証明し続けるプレッシャーに晒されてしまう。その常在圧力が過去や未来への展望を妨げ、刹那的な自分の存在を確かめるための過剰だがあたりさわりのない友達づきあいに現れる。そして、誰もが疲れ切ってしまう」という事だ。

 ネギまキャラクターはこの論の子供にとって理想像を示している。
 例えば3−Aのクラスメイトは全てが「先天的に個性を与えられたキャラクター」であり、本質的に他のキャラクターとの相互作用のなかで個性を獲得していくわけではない。つまり始めから「キャラが立って」いて、自然と「自分らしく」あれる世界の内部にいる。そのため文献で言われている旧来の「教師と生徒が自分の社会的役割をわきまえて行われるようなコミュニケーション」は、ほとんど成立しえない。
 いみじくもベッキーは「先生だぞー偉いんだぞー」と言っているが、個性が先立つ価値観では先生の立場が認められない代わりに、子どもたちも安定した生徒の立場を自分に与えることもできないのだ。それはとても厄介なことなのだがネギまでは「子供先生」という迷彩があるために価値観の問題だと気付きにくくもなっている。

 あるいはネギや明日菜、木乃香たちには本当に「本当の失われた自分」があって、それを捜す旅にでることができる。本当の自分!なんと甘美な現実。本当の自分を見つければ世界は僕・私を全肯定してくれるんだ!!
 こんなに素晴らしいことはない。ハレルヤ。
 つまり面倒な周囲の環境との付き合いから相対的な自分の位置を必死こいて探さなくてもいい。自分は自分でいていいわけだ――魔人探偵脳噛ネウロのXは見事にこの「本当の自分幻想」を粉砕されたけれども。
 しかし、文献は自分を「もともと特別なOnly One」だと考えることには以下の問題があることを指摘している。
 そこには絶えざる不安がつきまとうことになります。自分の信じる「自分らしさ」の根拠は、そう信じている自分の主観的な思いこみ以外にはありえないからです。(中略)これから「自分らしさ」を創り上げることとは違って、すでにそうあるはずの確証を探す旅には、どこまでいっても終着駅がないのです。

 創作世界においては「主観的な思いこみ」を作者の設定という絶対的なもので補強することができる。かくして現実にはありえない精神性をもったキャラクターが、自分の個性をもとめる少年少女の夢として存在しうる。
 その快感はまさしく「ファンタジー」であり、多くの読者の支持をとりつける原動力になるものだ――ゲド戦記などにも同様の面はある、というか物語論として至極普通のやり方だ。
 しかし、現実的ではない「先天的な個性」をもつキャラクターはどうしても不安定だ。そのうえネギまキャラは多すぎる。けっきょく文献の子どもたちと同じように「客観的に見える他者からの肯定的な評価によって、その重さを支えてもらわなければ安心できなくなっている」感じがする――ネギまキャラの場合は安心というより安定かもしれないが。
 よって彼女たちは個性を充足・説明するためにクラスメイト内でのコミュニケーションを慢性的に行う必要性に迫られ続ける。そのため特に「利用」されるのが最も読者視点に近いネギ先生になってしまう。
 この問題がネギひとりの事情に多数のクラスメイトが首を突っ込む結果を招いたのではないか。おそらくネギま!の「キャラクター」は常に互いに補強しあわなければ、その個性を維持できない脆弱性を抱えているのだ。

 ただし、まったく古典的なキャラである「雪広あやか」が以上の傾向にことごとく反しているのが面白い。


「個性」を煽られる子どもたち―親密圏の変容を考える (岩波ブックレット)

魔法先生ネギま!における大人の全滅
ネギまキャラの成長性はどのくらいだろう
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1. 楓の ネギま!ニュース 「2007年9月29日」  [ 楓の箱リロLive対戦日記 ]   2007年09月30日 00:06
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