2009年11月08日

将王バラバンは何故ザガノス将軍の罠に掛かったのか

 巨大な虎も一滴の毒に倒れる。

 将国のアルタイル28話の展開は、将国のアルタイル 27話(ブチャクSIDE)の感想で「トルキエへの備えもあるので実際にはイスマイルの言っているように反トルキエ派の全軍が合同することはまずありえない」と語ってしまった自分には衝撃的だった。
 バラバンがトルキエ将国が動かないと判断した理由は「帝国の介入を恐れるが故、工作員を使うような臆病者の集まりだから」と作中で語られているけれど、自分を納得させるためにも、将王が語らなかった判断の背景にあるものに踏み込んでみる。


バルタ将王ファトマの主体性の乏しさ
 バルタ将国を治める将王ファトマは、バラバンの妹にあたる。作中の描写をみるかぎりファトマが主体的に行動を決定したことはなく――せいぜいアイシェから王権を奪還したくらい。それも反射的行動の域をでない――兄の野望に唯々諾々としたがっている。まるで体のよい操り人形だ――もしかして彼女が嫁いだ前バルタ将王はバラバンに暗殺されているんじゃ…。
 そして傀儡だからこそ単独で南の国境を任せておくのは心もとない。5000というまとまった兵力を手にしていても、ちょっとした圧力で屈してしまいかねない危うさがある。

反トルキエ派内での主導権争い
 では、バルタ兵を連れていく代わりにムズラク兵1万の半分を残していく策はどうか?
 この場合、問題になるのはムズラク将国の同盟国たるブチャク将国が8500に達する動員兵力を誇っていることだ。すなわちバラバンが戦場に連れていく兵力が5000になると、兵力差から将王ウズンに主導権を握られる恐れが強い――バルタ兵も親ムズラクではあろうが、親衛隊単独の1万と2国合同で1万では一体感に隔絶の差がある。それにバラバンが自分の兵のようにバルタ軍を動かせば反発を覚えるバルタ人将校も出てくるだろう。
 クルチュ将国さえ討伐できればトップは誰でもいいという考え方もあるにはあるが、自尊心の凶悪に強いバラバンにとってウズンに従うのは耐えがたいことに違いない。ブチャク将王への対抗心からもムズラク将王はすべての親衛隊を連れていかなければならないのだ。
 もうひとつ、ここでも「主体性」の問題がある。仮に親衛隊の一部を残していくとして、その指揮は一体誰に採らせればよいのか。親衛隊はバラバンが当て身を受けたときに一瞬で統率を失ったような連中だ。バヤジットが反旗を翻した現状ではムズラクに自分の判断で動ける人材は将王一人しかいないのではないか。
 専制君主気分を味わうために、将軍級以上での人材育成を怠ってきたツケが二正面作戦を戦わざるをえない局面においてはモロにでてくる。ムズラク将国に比べるとトルキエ将国の人材層の厚さは圧倒的だ――今度は船頭多くして船山を登る危険がでてくるけど。

戦力比の問題
 もっと純粋に反トルキエ派将王たちの保有兵力数の問題もある。
 クルチェ将国に拠る親トルキエ派の総兵力はおよそ5600。あの国の山がちで植生に乏しい地形を考えれば「攻者三倍の法則」が機能する可能性は高い。つまりバラバンたちが正攻法で「迅速に」クルチュ将国を打ち破るには5600の3倍、16800以上の兵力が求められる――実際にはさらにバヤジットが持ち込んだ鉄砲の戦力増倍要素と、ムズラク兵が得意とする騎兵活動が地形的に困難になる効果が生じるわけで、23500の全てのを叩き込まなければ完勝は覚束ない。
 結婚式に普通に参加すると見せかけて逆に騙し討ちすることができれば話はまったく変わるが、バラバンの様子ではそのつもりはなさそうだ。なんといっても返り討ちや相討ちのリスクが高い――臆病というより「王の命を第一に考える」彼の価値観がそれを許さないようだ。


 けっきょくトルキエ将国にとっても反トルキエ連合にとっても問題になっているのは「時間資源」の少なさだ。目下の脅威を排除するためには「もっとも危険な正面」から兵を引き抜いて、そこから侵攻を受ける前に素早く勝利を手にしなければならない。兵を引き抜きすぎれば危険、兵が足りなければ攻略に時間が掛かってやはり危険。大将軍たちもバラバンもそんなジレンマに陥ってしまっていた。
 具体的には、三将国はクルチュを潰したいが優勢なトルキエに背後を襲われる危険があり、トルキエ将国は三将国を「解放」したいが凶暴邪悪な隣人に目をつけられている。要するに、

 クルチュ将国←三将国←トルキエ将国←バルトライン帝国

 こんな入れ子状になった膠着状態においてはオセロと同じく「端」を握るものが有利になる。おもしろいことにクルチュとバルトライン帝国は最弱の「端」と最強の「端」だが、戦略的な価値においては国力ほど差がなかったりするのだった。

 そして連携度でいえばクルチュとトルキエの方が、三将国とバルトライン帝国より圧倒的に優っていた。自分たちに有利な戦略状況を構築する「政治工作」と、不利な状況であっても希望的観測に囚われて軽挙しない「我慢比べ」に、総力では劣る側が見事な勝利を収めたのだ。万歳!

――マフムートとザガノス、おふたりの二度目の共同作業です!

将国のアルタイル1巻感想
将国のアルタイル2巻感想
将国のアルタイル3巻感想
将国のアルタイル4巻感想
将国のアルタイル5巻感想

トラックバックURL

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔   
 
 
 
今月のイチ押し
フェンリル姉さんと僕 1 (少年チャンピオン・コミックス)
中学生時代を思い出す神話バトル


2018年7月購入予定コミックス一覧
Recent Comments
スポンサードリンク

おもちゃ/ ぬいぐるみ/VOCALOID3 MAYU団子 コスプレ道具小物 アニメ/コスプレ/アニコス


profile
永遠に覚醒しない楚の荘王

漫画を愛する心に卒業なんてないんだ…

趣味
 読書、作文、漫画、写真、天体観測、石集め、歴史(古代欧州、三国志、日本戦国時代)、ネットサーフ、その他たしなむ程度にいろいろ。
そして、このブログ

このブログへのトラックバック、リンクはご自由に。
トラックバックは可能な限りお返しします。どんなに古い記事でもトラックバック・コメントをいただければ喜びます。

更新の目安…かも
月:ジャンプ感想
火:月刊漫画誌感想
水:サンデー感想
木:チャンピオン個別感想
金:チャンピオン感想
土:漫画単行本・マガジン感想
日:漫画考察・Web漫画紹介