ぼくは神様
 確率を意志で、ついには無意識のうちに操れるようになっていく神のごとき運の強さをもった少年の話。その力で宇宙確率調整機構の管制官まで消したかと思ったのだが、さすがに人間ではないゾロメーは一枚上手だった。
 ただ不安を煽りまくって運を奪われたような気もしてしまう。不幸になった豪運の持ち主をあげていたが、本当にうまくやった人間は歴史の表側にでてくることもなく悠々とやっていたのではないかなぁ。
 他人の存在が「神」を動揺させるなら、無人島こそが彼にもっともふさわしい住みかのように思われる……それで幸せになれない性分ならやっぱり神を捨てるべきなのだろう。

征地球論
 かわいい形態の宇宙人が議論する地球人像。
 地球の歴史を追うカットと研究者肌の混じった真剣な発言が非常におもしろく読んでいて飽きなかった。いや、もっと読みたいと思ってしまう。
 地球を征服するかの是非を決めるために、ごく一部の存在である日本人の少年一人をサンプリング対象にするのは変な話だが、宇宙人たちの会話を追った感じではそれまでも別の方法でいろいろやったらしい。しかも、時間感覚が違いすぎたオチ……。
 見事な客観視によって自省の念を呼び起こしてくれる話だった。

求む!求める人
 ニーズを探知することのできる不思議な道具をドラえもんならぬ宇宙人がセールスマンに売ってくれる――どんでんがえしもなく順風満帆に済むのは、こういう話が溢れかえる原因をつくったその人の昔の作品だからか。
 有能なセールスマンの言葉に藤子・F・不二雄先生の人間観察力の確かさを感じた。多少は誤差があっても、天然で需要探知機の能力をもっていれば、それがいちばん幸せだ。

旅人還る
 光速の限界の限界まで達した「浦島太郎」の地球帰還。恒星間物質との衝突によって到達できる速度に限界が生じる問題は解決したらしい。それでも見える宇宙の壁を突破してしまうのは光速を超えなければ不可能なはずだが……最後の方は光速に近付いたせいで相当変なことが起こっていたと考えてもいいな。実際に主人公のようになった人間はいないのだから、何が起こるか分かったもんじゃない。
 お約束的コンピューターのチクバ(竹馬の友から来ているのか?)の機関銃みたいな解説がだんだん疎ましくなってくる感覚を主人公と共有できた気がする。でも、コールドスリープから目覚めさせてくれたのは、お役御免を仰せつかった彼なんだろうなぁ。
 あれだけの経験をした主人公がまともな生活を送っていけるのか、他人事ながら心配になった。生活する宇宙が一人ずつズレていくなんて面白くはある。

ぼくの悪行
 平行世界の自分に責任転嫁して悪いことしまくり。でも最後は自分に跳ね返ってくるのだった……いい感じにまとめているが、周りの人間は本当に損ばかりしていると思うぞ。それでも、タイトルからはもっと取り返しのつかない陰惨な行為に走るところを想像してしまったのでブレーキが掛かってホッとした。
 最初のふてぶてしいナレーションがおもしろい。

考える足
 寄生獣に通じるものあり?主人公の足に脳細胞が集まって身体からの独立を企てる……消化器官がない等ミギーにも通じる問題が指摘されれていたが、目をつくったり、皮膚を振動させて喋れる足なら何とかなるんじゃなかろうか。独立した1個の生物として繁栄しはじめる足を想像したら相当異様だった。
 家庭教師のお兄さんが本当にお兄さん的に頼りになるキャラで好感がもてる。

白亜荘二泊三日
 だから、このパラドックスオチを許すならタイムパトロールは何のために存在しているのかと――まったく、あやふやにして美味しいところだけ持って行きおる。恐竜からはマジックミラー効果で視えないといっても身体に触れられる以上は踏みつぶされる危険があるわけで、トリケラトプスの足元に近付く勇気は到底でてこないなぁ。
 お父さんの博識っぷりが、子供たちに自慢するために必死で勉強した感じで、なかなか微笑ましい。最初の引っ張りかたも実にそういう父親らしかった。

ベソとこたつと宇宙船
 こたつの底を抜けると、そこは宇宙船だった――日常に風穴のあくSFの雰囲気が良く出ている。重力が違う世界ではスーパーマンになれるのは一種お約束的な展開だが、その経験をもって主人公の現実に対する姿勢が変わっていく様子が自分にも反映できる気がして気分の良くなる話だった。

超兵器ガ壱號 藤子・F・不二雄SF短編集3感想

藤子・F・不二雄SF短篇集 (4) ぼくは神様 中公文庫―コミック版
藤子・F・不二雄SF短篇集 (4) ぼくは神様 中公文庫―コミック版