2011年12月11日

宮城谷昌光「子産」に描かれた「シャク陂の戦い」を戦況図化してみた

 またもや宋(古は商)の戦いである。宋人の気質に真っ向勝負の会戦が合うのかもしれない。めずらしく宋の勝ち戦であるが、すぐに雪辱されている……よく滅びないなぁ。

戦略状況

 紀元前575年(子産11歳の年)、晋から楚に盟主を変えた鄭は、その忠誠心を疑う楚に隣国の宋を攻めるように命じられた。鄭の宰相子罕は5千の軍勢(一師)をひきいて宋の首都商丘へ向けた鈍重な進軍を開始した。他に敵の別働隊がいないことを確認した宋は宰相華元の命令で、将ショと楽懼を将とする8千の軍勢を迎撃にさし向けた。
 宋軍は華元の指示に従いスイ水を渡り、河の手前で会敵することを予期していなかった鄭軍と遭遇した。


兵力と布陣

・宋軍
 総兵力:8千
 総司令官:将ショ・楽懼

・鄭軍
 総兵力:5千(一師)
 総司令官:子罕(公子喜)
 主な将:子国(公子嘉)

シャク陂の戦い布陣
図1.両軍の布陣推定図


作戦意図

 両軍ともにスタンダードな戦法、すなわち守りに優れた左翼が敵の攻撃に耐えている間に、攻めに優れた右翼で敵を打ち破ることを狙っている。


戦闘経過

シャク陂の戦い展開
図2.シャク陂の戦いの展開

 背水の陣の意外性により宋軍に主導権を握られた鄭軍は戦鼓をならすタイミングでも遅れをとり、兵士の足並みが整わない。三の太鼓が鳴ると同時に両軍は突撃に移行した(図2−1)。右翼は敵の左翼を破ることが仕事であるが、子国が率いる鄭軍の右翼は宋軍の重厚な左翼に跳ね返され、逆に攻められる(図2−2)。奮戦する子国をみた楽懼は6、7乗の兵車に敵将を襲わせた。子国の兵車は混戦の中で車輪を砂に取られ、彼は落車する。その頃には鄭軍は総崩れになっていた(図2−3)。子国の御者はからくも主人を戦場から離脱させることに成功した。


結果

 宋が勝利し、鄭が敗北した。両軍ともに損害は不明であるが、負けた鄭軍でも再戦の余力を残していた。
 なすすべなく敗れたことに切歯扼腕する子国は臥薪嘗胆を誓い、将ショと楽懼は戦勝に浮かれたため、後に続くシャク陵の夜襲戦で宋軍は両将を失う惨敗を喫することになる。


考察

・背水の陣
 孫子の兵法の成立前ではあるが、宋軍は自分たちにとって不利になる背水の陣を選択した。これが鄭軍の意表をつく結果を招いたものの、狙ってのことではない。あえて敵にスイ水を渡らせるなと指示した華元の意図は、河を挟んで戦う展開では将兵の心理が「宋襄の仁」の故事に支配されることを心配してのことだったのかもしれない。
 元来生真面目な宋兵の性質から、水を背負ったことによる精神的な動揺は――マイナスの意味でも韓信が引き出したようなプラスの意味でも――小さかったと思われる。

・攻めの右翼、守りの左翼
 右翼を攻め、左翼を守りとする戦法は奇しくも古代ギリシアのファランクス戦術に通じている。ただし、シャク陂の戦いにおいては数に優る宋軍が左翼でも敵を圧倒する結果になった。何よりも鄭軍の司令官である子罕が確たる方針を示せなかったことが敗戦に繋がっている。敵地に乗り込んだにもかかわらず、敵情偵察も不十分であった。

・二人の名将より、一人の凡将
 作中の描写をみるかぎりでは宋軍の二将には序列がないように読める。もしそうだとしたら指揮系統の混乱をまねきかねない拙い人事であった。ナポレオンも「二人の名将より、一人の凡将」と言っている。実際には宋の二将はそろって凡将であったわけだが。
 宋将は軍の左右で指揮する部隊を分担していたおかげで、混乱があまり生じなかったのかもしれない。鄭軍にはそこに付け込む余裕もなかった。


以上、宮城谷昌光「子産・上」45〜56Pより、年代は92Pによる


関連記事

子産・上 感想
宮城谷昌光「華栄の丘」に描かれた「スイ水の戦い」を戦況図化してみた
宮城谷昌光「沙中の回廊」に描かれた「城濮の戦い」を戦況図化してみた
宮城谷昌光「王家の風日」に描かれた「牧野の戦い」を戦況図化してみた
宮城谷昌光作品感想記事一覧

トラックバックURL

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔   
 
 
 
今月のイチ押し
中世実在職業解説本 十三世紀のハローワーク
萌え絵で学ぶ中世の実在職業(書籍)


2017年2月購入予定コミックス一覧
Recent Comments
スポンサードリンク

おもちゃ/ ぬいぐるみ/VOCALOID3 MAYU団子 コスプレ道具小物 アニメ/コスプレ/アニコス


profile
永遠に覚醒しない楚の荘王

漫画を愛する心に卒業なんてないんだ…

趣味
 読書、作文、漫画、写真、天体観測、石集め、歴史(古代欧州、三国志、日本戦国時代)、ネットサーフ、その他たしなむ程度にいろいろ。
そして、このブログ

このブログへのトラックバック、リンクはご自由に。
トラックバックは可能な限りお返しします。どんなに古い記事でもトラックバック・コメントをいただければ喜びます。

更新の目安…かも
月:ジャンプ感想
火:月刊漫画誌感想
水:サンデー感想
木:チャンピオン個別感想
金:チャンピオン感想
土:漫画単行本・マガジン感想
日:漫画考察・Web漫画紹介