魔弾の射手
 東西冷戦を背景にヨーロッパで繰り広げられる激しい諜報戦を描いた作品。いわいるスパイモノである。
 全編手に汗握る展開で、エーベルバッハ少佐の変態の銃口に身を晒している状態にはハラハラし通しだった。論理的にまだ撃たれないと判断できていても、ちょっとした行き違いから引き金が下ろされる可能性もあるわけで、並の神経じゃスパイは勤まらないことが分かる。
 二重スパイのボリスなんかは、そのプレッシャーでおかしくなったし……。逆方向に突き抜けた変態スナイパーオレグのキャラクターも良かった。

トラファルガー
 ナポレオン戦争の行く末を決めたトラファルガー海戦を舞台に、フランス革命に運命を狂わされた二人の男の戦いを描く。
 ともかく帆船の並んで疾走する様子が美しく、とてつもない残酷さをもった戦闘との対比がすさまじい。ネルソン提督からして初登場時点で隻眼隻腕なのだから、海の男を夢見る少年は現実を推して知るべしだったのだろう。
 狙撃手マルソーがあえて初めて人を殺した短銃を使うシーンがいい。まぁ、マスケット銃は撃ったばかりなわけで、隣のジャンから奪うのでなければ、あの短銃を使うしかないって、ユージンに突っ込んじゃいけないのかな?装填済みの銃を何本も手元に備えておいてもいいわけで、マルソーが自分の美学に殉じたのは間違いないか。
 援護のために呼んだ艦隊が壊滅しているのに、きっちり勝っているナポレオンにはどんな顔をしたら良いのか分からなかった。ドラマティックな戦いにオチをつけるなよ。

アイビーNAVY
 石油が採れすぎてしかたがない架空の国、アイビー王国の空母ティンカーベルを描いた作品。戦記シミュレーション小説「新・大日本帝国の興亡」を思い出させる。
 ティンカーベルの乗員はやることなすこと滅茶苦茶で、とても素面とは思えないのだが、出すべき結果は出しているし、何だか憎めなかった。クソ真面目でギスギスした軍隊と足して割れば、ちょうど良くなるような、両方台無しになるような……。

魔弾の射手 (秋田文庫)
魔弾の射手 (秋田文庫)
中身は表紙よりも少女漫画っぽい絵なのだが、それが気にならない面白さだ