死番虫は何のマイノリティなんだ?と思って読んでいたので、特にそういう要素は持っていないらしい結末には意表を突かれた。丸部を引き立たせるためにも死番虫は強いだけの悪役になってしまったのかもしれない。
 テツオに共感を求めていたのはあくまでも「殺人者」としての孤独から来る気持ちだった。殺人者もある意味ではマイノリティかもしれないが……後天的なことだからなぁ。

 この世界では殺人者であることよりも性的なマイノリティであることの方が深刻、といってしまうと語弊があるけれど、テツオをより強く苦しめているのは心の性が男で、肉体の性が女という問題だった。
 しかも、とんでもない美人で美声の持ち主でもある。恩寵が呪いに逆転している。

 そして、扉絵ではガンガン彼の豊満な肉体を強調した際どいカットが描かれている。
 それに性的な魅力を感じることに罪悪感を覚えるのだが、かと言って性的なものからテツオを排除するのもおかしい。彼に性欲がないわけではないのだから――基本的に対象は女性だったみたいだが、そっちでもトラウマを負っている。

 ただし、天野太一は女装することで問題を解決。で、いいのかな。最初は情けない男だったのに、女装を経て男装に戻ってからはキレキレだった。
 ヤンキーが子犬を拾う現象ならぬ、女装が男らしい現象?

 時計塔と幽麗塔はもちろん、妻が当主への殉死を強いられる島、アヘンを密造している村など、伝奇的要素の強い舞台も印象的だった。
 しかし、幽麗塔ほど大きなものが忽然と消えてしまったのは不思議だ。もう世界間を移動したと考えるしかない?