2006年10月14日

アイム・ソーリー・ママ<桐野夏生>−(本:2006年100冊目)−

アイムソーリーママ集英社 (2004/11)
ASIN: 4087747298

評価:77点

昔、児童福祉施設の保育士だった美佐江は、そこの子供だった稔と結婚した。
67歳の彼女が25歳年下の夫と結婚20周年に出かけた店は焼肉屋。

しょっぱなから最低の登場人物達が暴れまくる。
稔はできの悪い大工で、美佐江は大久保で見つけたニットスーツを着て、二人は赤ちゃんプレイもするのです。
ああ、勘弁してくれ、なんて悪趣味な、と思っていたらこの二人はいきなり焼き殺されてしまう。
焼き殺したのは二人が行った焼肉屋で、ウエイトレスをしていた女性。彼女は昔施設にいた、松島アイ子だった。

後はこれでもかというくらい、松島アイ子の悪行が続いていく。
目の前の金を盗み人を殺しひたすら逃げるという恐ろしさ。誘拐もしたが、これは彼女には高等すぎる犯罪だったか成功せず。
それでも、危機察知能力に異常に長けているから捕まらない。
娼婦の館、ヌカルミハウスで戸籍もなく放置されたなかで育った子供の人生の顛末は、読者を震え上がらせて、ひたすらに嫌悪感を引き起こすのだった。

最後はちょっと切ない感じもあるのだけど、ここまで悪役を貫く描写をしてくれると、誰もが「お前は死ね!」と思って読めるだろう。
著者のそんな潔い決意が伝わってくるようだ。
「犯罪者の子供は犯罪者だというのか!」と人権擁護団体が怒鳴り込んできそうだけどね。

それにしても、登場人物の全てがうさんくさく妙にリアルな「悪い奴」ばかり。
良くぞこれだけ心も見た目も気持ち悪い人間を集めたものだ。しかもそんな登場人物たちで小説が成り立っているから恐ろしい。
ホームレスのおっさんが出てきたときは、こいつだけはいい奴だろうと思っていたら、これがまたダメだった。

しかし、こんな悪行三昧の酷い話が、なぜか実際にありそうだから、今の世の中も恐ろしい。
残虐な事件が日々起きるため、数ヶ月前の事件はあっというまに風化していく。
松島アイ子は、たぶん俺達の周りに結構いるのだぞ。
大変だ、明日から娘の通学に付き添わなくては。怪しいオッサンと思われないのも一苦労だろうけど。

毒々しい面白さに最後まで一気に読んでしまったが、読後感があまりに悪いので点数は少しだけ低めです。
許してオネエサマ。

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この記事へのコメント

4. Posted by デコデコマン   2006年10月16日 00:29
ゆうさんこんばんは。
コメントありがとうございます。

おっしゃるとおりですね。いくら途中がムチャクチャでも、最後になんとか
まとめてくれればいいのですが。

なんにせよ、この小説は出てくる人間みんな悪人でしたからね。

みわさん、こんばんは。
コメントありがとうございます。

このダークさが、桐野さんのよさでもあるんですけどね。そうそう、疲れます。確かに。

ばあチャルさん、コメントありがとうございます。
この本の内容が普通に思えるくらい最近の事件は凄いですからね。子供の親殺しも急増しているようです。
どうなっていくのやら。
3. Posted by ばあチャル   2006年10月14日 12:52
桐野夏生は大ファンなのですが、「アイム・ソーリー・ママ」もう忘れていました。なので、ご感想でよみがえりました。ほんとに桐野さんには度肝抜かれます、でも、あまり世間に刺激的な事件が多いから、自分に嗜虐的な枷をかけたくなるのかもしれませんよ。目が離せないんですよね。このごろちと作品が途絶えています。
2. Posted by みわ   2006年10月14日 11:32
TBありがとうございました。
この本のアイ子はすごかったですよねぇ。なんかここまで悪人ばっかりな本も珍しいと思いました。桐野さんの本は読み終わったあと、どっと疲れることが多いです。
1. Posted by ゆう   2006年10月14日 10:21
おはようございます。
いつもTBありがとうございます。

やはり、読後感は大事ですよね・・・
イマイチの作品でも、すっきり終わってくれると、一気に印象UPしてしまいます。

その点、この作品はダメでした(苦笑)

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