2006年12月20日

タペストリーホワイト<大崎善生>−(本:2006年125冊目)−

タペストリーホワイト文藝春秋 (2006/10)
ASIN: 4163253904

評価:91点

心から尊敬する姉と、世界でたった一人の大切な恋人を失った女性の、喪失と再生の物語。

透明溢れる著者独特の表現で、さらりと流れるようにかかれているために先を読み急いでしまうが、じつは書かれていることはとても深いのではないか。
生きることの意味、学ぶことの意味、世界を知ることの意味、人間としての誇り。青春時代に誰もが必死で考えるであろうことが、ひとつひとつ丁寧に書き込まれている。
きっと、著者が今を生きる若者達に伝えたいことがぎっしり詰まっているのだと思う。
机の上の勉強も、現実を生きることも、素敵な恋を知ることも全部大切なのだ。
いずれ滅びる宇宙に思いを馳せて、生きることの意味を見出せず苦しむことも、世界をこの眼で見ない限り、真実はわからないと放浪の旅にでることも、全部大切なのだ。

姉を過激派の内ゲバで殺され、その謎を解こうとして札幌の高校から姉と同じ東京の大学に出てきた洋子。
姉の死を探る手がかりが尽きた頃に知り合った恋人の高史も、また内ゲバの誤爆で殺される。激しい躁うつ病から、慢性的な鬱病へ、そして自殺。
しかし、生き残った洋子は再生への道を進む。

こう書いてしまうと展開はかなり単純に思えるが、著者の想いが詰まっているのだろう、ひとつひとつの言葉がちゃんと読むものの心に響いてきて単調さは微塵も感じさせない。

「タペストリー、人生は一枚の壮大なつづれ織り」

それにしても、学生運動そのものに対する著者の眼はいささか厳しすぎないか。もちろんセクト同士の内ゲバを非難するのは当然だとしても、
「彼らこそが階級的だったのだ。(中略)解放も革命も何も関係なく、彼らはただ六〇年から八〇年までの間、あらゆる学生や労働者たちの自由や権利を食いつぶしながら、際限のないから騒ぎを続けたのである」
という活動家へのコメントは結構刺激的だった。
あれだけ死人もでたのに、騒ぐだけ騒いでおいてさっさと転向し、今ではのんびり会社員生活も終わりという人たちを許せないのだろう。
きっと何か思い入れがあるんでしょうね。

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