本:か行の作家

2010年11月06日

これでよろしくて<川上弘美>-本:2010-54-

これでよろしくて?
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# 出版社: 中央公論新社 (2009/09)
# ISBN-10: 4120040577

内容(「BOOK」データベースより)
上原菜月は38歳。結婚生活にさしたる不満もなく毎日を送っていたのだが…。とある偶然から参加することになった女たちの不思議な集まり。奇天烈なその会合に面くらう一方、穏やかな日常をゆさぶる出来事に次々と見舞われて―。幾多の「難儀」を乗り越えて、菜月は平穏を取り戻せるのか!?コミカルにして奥深い、川上的ガールズトーク小説。

******************

ちょうど今日の朝日新聞朝刊に、40歳過ぎてガールズトークはやめなさいというような評論が掲載されていた。
個人的にはいいんじゃないかと思うが、男が加わった会話はもはやガールズトークではないわけで、「いいんじゃないか」とか無責任に言ったところで私はガールズトークに実際に参加したことなどなく、ガールズトークが何たるものか、その真髄はわからない。真髄なんてあるのか。知らんけど。
ということで、私はこれからも永遠にガールズトークというものには参加できないわけだ。
当たり前だがちょっと寂しい。

「地に足をつけ、今を精いっぱい生きる」という若干ありきたりの結論で終わってしまったところに少し不満はあるものの、登場人物の細やかな感情表現はさすがに素晴らしく、楽しめた。
「緩やかなポジティブ」というのはなかなかよいものだ。

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2010年10月01日

元気でいてよ、R2−D2。<北村薫>-本:2010-41-

元気でいてよ、R2-D2。
元気でいてよ、R2-D2。
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# 出版社: 集英社 (2009/8/26)
# ISBN-10: 4087713156

評価:80点

ちょっとブラックでゾクっとする短編集。
北村薫の小説を久しぶりに読んだけれど、こんな話を書く人だったっけ。
ほとんどワンアイデアで突っ走っているけれど、文体は非常に落ち着いている。そのせいか、ゆったりと長編小説を読み始めたような感じで始まり、知らないうちに加速度がついてラストになだれ込みゾクっとさせられるのだ。
「ざくろ」はかなりのホラーだし、「マスカット・グリーン」のブラックな終わり方も結構強烈。
ただまあ、どれも感動するほどの面白さやインパクトはない。30分くらいのミニドラマになって、深夜テレビで流れていそうな雰囲気かな。

この人には、時の3部作のような長編がやはりいいなあ。

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2010年08月28日

先生、カエルが脱皮してその皮を食べています!<小林朋道>-本:-2010-30-

先生、カエルが脱皮してその皮を食べています!
先生、カエルが脱皮してその皮を食べています!
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# 出版社: 築地書館 (2010/4/17)
# ISBN-10: 4806714003

評価:75点

鳥取環境大学の先生シリーズ第4弾。
そろそろ飽きてきた感もあるけれど、やはり面白い。
著者の軽妙な語り口もそうだが、都会に住む現代人が知り得ない動物のさまざまな行動には驚かされ感心させられてばかりだ。

今回の題名になっている「カエルの脱皮」についてはこれまで見たことがない。
それよりもスリーサイズで比較してあるアカハライモリがとてもかわいかった。
シジミに指を挟まれているイモリの写真は秀逸。
痛いのだろうか?
ほんとお気の毒さまと、写真を見て思ってしまった。

スナガニの巣の話も興味深かったなあ。
あんなに綺麗に巣型が取れるとは。

ということで、生物に興味がある人はどうぞ。

そういえば今年受験生の娘は生物が好きだと言っている。
でもこの本は読ませない。
興味を持って鳥取環境大学に進学するとか言われたら大変だもの。
下宿なんてさせないぞ、ずっと家にいてもらうのだ。


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2010年01月23日

対論集 発火点<桐野夏生>−本:2010-12−


対論集 発火点
対論集 発火点
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# 出版社: 文藝春秋 (2009/9/12)
# ISBN-10: 4163717307

評価:80点

小説論であったり、天皇制の話であったり、私的な男論であったり、深さも幅も様々な対論を集めた本。
面白く、刺激を受ける内容だった。
桐野夏生の知識の幅広さにまず驚き(もちろん対談前にいろいろ調べているだろうし、興味を持っているから対談しているのだろうけど)、その深さに感銘し、軽いノリも楽しめる。いろいろとぎっしり詰まっているのでファンの方はどうぞという感じかなあ。
それにしても、小説を書くにしてもいろいろ考えているのだ。
何も考えずに生きているのはひょっとして世の中で俺だけではないのかと焦る気持ちにさせられる。
こういう、「やらねばやらねば」という気にさせてくれる本をたまに読むのはよいことかも。
一方で、人生焦っても仕方がない。カッコつける必要もなく笑って死ねればそれでいい。などと思う自分もいるので始末が悪いのだが。

面白かったのは柳美里との対談。
柳美里は露悪的な作風がイマイチ好きになれず、ほとんど本を読んでいないのだが、手をつけてみようかなという気にさせられた。
まずは「山手線〜」を読もう。いつになるかわからないけれど。

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2010年01月09日

IN<桐野夏生>−本:2010-5−

IN
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# 出版社: 集英社 (2009/5/26)
# ISBN-10: 4087712982

評価:78点

夜中の2時までかかって一気読み。
小説の中に小説があり、登場する作家達やその周囲の人たちの会話もどこまでが現実でどこからかフィクションかわからないためかなり入り組んだ構成になっているのだが、それをきちんと整理しながら読者の興味を先へ先へと引っ張っていく筆力は著者ならでは。読みながらなんどもその巧さと迫力にうならされた。
一方でストーリーそのものにあまり興味が持てなかったのも事実。
不倫を中心にした恋愛を書いており、登場人物たちの心理について共感できる部分も結構あるが、いかんせん文芸界が始終舞台であるので楽屋話を読まされている気になってしまい興ざめだ。期待が大きかったこともあり、読み終わった瞬間は久々に50点台でもつけてやろうかと思ったくらい。

ところが、ネットでこの小説の背景を調べていくと感想が随分変わってしまった。
そうか、桐野夏生本人の私小説が潜んでいるのか・・・。
小説の中に出てくる小説、緑川未来男の「無垢人」』は、島尾敏雄の「死の棘」をモデルにしているらしい(読んだことはないが)。その小説に登場し、主人公の家庭を壊したモデルの女性を、INの主人公であるタマキが探すことと、タマキ自身の激しい恋愛話の暴露で物語りは進んでいく。タマキは「無垢人」について調べたことをもとに、自身の小説「淫」を書いていくのだ。
「無垢人」と「死の棘」が重なり、「淫」と「IN」が重なって、ややこしい作中作の様相を呈し、そもそも桐野自身の私小説部分のどこからどこまでが事実なのかよくわからない。ただ、作家と編集者の恋愛模様描写の生々しさから考えるとかなり真実も入ってるんだろう。

読み終わってから色々と考えると面白い小説だったけれど、個人的には「東京島」のほうが断然よかったなあ。私小説っぽいのもいいけど、もっと強烈なダークなエンタメを書いてください。是非。

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2009年12月19日

ひかりの剣<海堂尊>−(本:2009年読了)−

ひかりの剣
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# 出版社: 文藝春秋 (2008/8/7)
# ISBN-10: 4163272704

評価:85点

登場人物はいつもの海堂ワールドの人たちだが、今回は剣道だけを題材に最後まで話が進んでいく。ほぼスポ根小説、だ。
責任感の塊で、ひたすらに剣道に打ち込む東城大学の速水。一方で溢れる才能を持ちながらそれをもてあましている帝華大の清川。タイプの違う二人を、医鷲旗(東日本医科学生体育大会の剣道部の優勝旗)をめぐって対決する。

ライバルがそれぞれ困難を乗り越えて成長していくところ、そして謎の女性剣士の登場や、秘密の特訓。まさに王道の展開。私自身はこういうのは大好きなのでのめりこんで読んだが、古臭く暑苦しいと感じる人はいたかもしれない。実際、この小説の登場人物が、速水や清川や、そして高階でなければここまで楽しめることはないだろう。

彼らが海堂氏の他の作品で十分にキャラの立った主役級の人物であるからこそ、その若かりし頃の物語を存分に堪能することができるのだ。
余計な説明をしなくても読者がキャラの存在感を認知してくれる、というのはこういった番外編のような作品を作る際にはメリットだよなあ。

ジェネラル・ルージュ、まだ読んでいないので次に読まねば。


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2009年12月06日

イノセント・ゲリラの祝祭<海堂尊>−(本:2009年読了)−

イノセント・ゲリラの祝祭
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# 出版社: 宝島社 (2008/11/7)
# ISBN-10: 4796666761

評価:79点

厚労省が主催する「医療事故調査委員会創設検討会」に東城大学医学部付属病院不定愁訴外来の責任者、おなじみの田口先生が招聘される。
黒幕は白鳥。お約束の二人の絡みをちりばめながら、テーマはひたすらに日本の医療制度、特に解剖制度についての議論。
どんな事件が起こるのかと期待しながら読んでいたのだが、中盤で恐らく最後までこのままで行きそうだと気付き、それではいったいどんなオチをつけるのかと不思議に思ったのだが、それもラストの彦根の大演説で納得。
海堂さんはこれを書きたかったのだな。
小説の中でしか言えない問題提起。
医療については素人の私だけれど、この本に書かれている司法解剖について少し知るだけでも、どれくらい制度として破綻しているのかがよくわかる。
また、厚労省設置の委員会の様子はなかなかリアルで興味深かった。
私の勤める会社の監督官庁は違う省だが、委員会なんて同じようなものだ。
ゴールは官僚の思惑どおりに既に決まっており、議論やパブコメがガス抜きだというのはまさにそのとおり。詳しく書けないのは残念だけれど。
だからこそ、彦根が委員会の場で法曹界のトップを相手に法解釈で堂々と渡り合って叩きのめすところ等は最高の爽快感だった。
「国家は滅びても医療は滅びない」というセリフにも納得。
少し前に流行った「世界の中世化」にもつながるところがあるようです。
国家の枠組みというのが、ぼやけつつある昨今ですから。

ミステリの要素がゼロであって社会派小説のようになってはいるものの、エンタメ路線も崩さず、なかなかうまくまとめていると思う。だが、個人的にはミステリが読みたいかな、やっぱり。
ところで、坂田局長の大阪弁はあまりにおかしくないか。
いくらなんでもあんな大阪弁を標準語を話す相手にしゃべり続けている人は見たことない。大阪人でも似非標準語くらいは使えるし、上司相手には普通そうするものです。大阪人としての感想。

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2009年11月21日

先生、子リスたちがイタチを攻撃しています<小林朋道>−(本:2009年読了)−


先生、子リスたちがイタチを攻撃しています!
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# 出版社: 築地書館 (2009/7/9)
# ISBN-10: 4806713848

評価:86点

鳥取環境大学動物シリーズ第3弾。
次から次へといろんな動物達の奇妙でかわいい習性がでてきて楽しい限り。
動物を調べる学生達の生き生きとした様子が、著者の軽妙な文章からリアルに伝わってくる。
そういえば長い間動物にきちんと触っていないかもしれないなあ。
イモリやヤモリなんてなかなか目にしないし、モグラなんて見たこともない。まあ、あまりモグラに触ってみたいとも思わないけど。学生達が「かわいい」と声をそろえたと書いてあるが、本当にそうなのか?

動物達に愛情を注ぎながらも過度に依存せず、自分と動物の距離を客観的にきちんと測っているところがよくわかる。これはさすが研究者であって、盲目的な動物愛護者と違うところ。
でも、やっぱり動物が好きなんだよね。
飛べないドバトのホバがテクテクと歩いて小林先生と散歩しているところを想像するとうらやましい。
犬ではなくて、ハトと散歩するところがいいのだ。だって研究者なのだから。


内容紹介
大好評、先生シリーズ第3弾!
実習中にモグラが砂利から湧き出て、
学生からあずかった子ヤモリが逃亡し、
カヤネズミはミニ地球を破壊する。
ますますパワーアップする動物珍事件を、
人間動物行動学の最先端の知見をちりばめながら、軽快に描きます。
動物たちの意外な一面がわかる、動物好きにはこたえられない1冊です!



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2009年11月06日

先生、巨大コウモリが廊下を飛んでいます!―鳥取環境大学の森の人間動物行動学<小林 朋道>−(本:2009年読了)−

先生、巨大コウモリが廊下を飛んでいます!―鳥取環境大学の森の人間動物行動学
先生、巨大コウモリが廊下を飛んでいます!―鳥取環境大学の森の人間動物行動学
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# 出版社: 築地書館 (2007/03)
# ISBN-10: 4806713449

評価:88点

「鳥取環境大学」という名前は初めて聞いた。
最後のページに大学の写真が載っているが、だだっ広いところに森と大きな建物があり、敷地の中の道路はなんだか自動車教習所のようだ。
駐車場も大きいし、車でも使わなければ大学までこられないのだろうな。
などとマイナスイメージを持ってしまうのだが、実際の環境は動物達とのふれあいに満ちており、好きな人にはたまらないでしょう。
アナグマの親子に森の中で匂いを嗅がれ、学校の廊下で巨大コウモリに出会い、湖の孤島でヤギを観察し、交通事故にあったタヌキを助け、そして飛べないハトと親愛の情を交わす。
著者は「動物行動学」「人間比較行動学」が専門の大学教授。
なにを研究しているのか怪しげな学問だが、本を読んでいる限り著者は徹底的なフィールドワークで野生動物とひたすらに触れ合っているようだ。
その様子が、軽妙な文章で面白おかしく語られていく。
動物の生態というのは人間にとって結構素直に興味を持てる分野でもあるし、読んでいて話に飽きることがない。そして時々タメにもなる。
んー、いい本だ。
続編、続々編がでているのもよくわかる。
さっそく図書館で次の2冊も予約しました。
さて、楽しみだ。

でもなあ、俺の場合は一番身近な動物である飼猫に全くなつかれていないので悲しい。
近づくと威嚇されるし、逃げられるし、断固拒否の姿勢を貫かれているのだ。
ああ、もう一匹猫を飼いたい。
かわいくて俺になついていくれる子猫を!

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2009年10月11日

斬新快楽写真家<金村修>−(本:2009年読了)−

斬新快楽写真家

ISBN 9784496045394
第1刷 2009年05月29日

評価:80点

この本を読むまでこの写真家のことは知らなかったが面白い本だった。
というか、写真家にどういう人がいるのか全く知らないかも。
写真展とかに少しは行ってみることにしよう。独りよがりになり過ぎないように。

とにかく撮れ、ということだ。
私は著者の言葉をそう理解した。
ガンガン撮りまくろう。写真の世界って、ファインダーをのぞいてシャッターを押してみないとわからないことばかりだ。押してみてもわからんけどね。

この本の目次

第1章 引き返せない場所に行く
第2章 分からないものをつくる
第3章 未来もないけれど撮り続ける
第4章 自分がフィクションになる
第5章 写真を撮るように写真を撮る


著者の情報

1964年、東京生まれ。20代半ばまでミュージシャンを志す。1989年、東京綜合写真専門学校に入学。タブロイド紙配達のアルバイトをしながら都市の写真を撮り始める。
在学中の92年、オランダの写真展「ロッテルダム・フォト・ビエンナーレ」に作品が選出される。93年、東京綜合写真専門学校研究科を卒業。同年に最初の個展を開催する。95年に最初の写真集『Crash Landing』を出版。96年、ニューヨーク近代美術館が行った展覧会「New Photography 12」に「世界の注目される6人の写真家」の一人として選ばれる。97年、日本写真協会新人賞受賞。2000年、史上二番目の若さで土門拳賞を受賞。現在は個展・グループ展の開催や写真集の発表とともに、東京綜合写真専門学校ほかで講師を務める。

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2009年09月30日

ナイチンゲールの沈黙<海堂尊>−(本:2009年読了)−

ナイチンゲールの沈黙
ナイチンゲールの沈黙
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# 出版社: 宝島社 (2006/10/6)
# ISBN-10: 4796654755

評価:71点

チーム・バチスタの続編として、田口・白鳥コンビの活躍に期待して読んだのだが今ひとつ。
原因は明らかで風呂敷を広げすぎてきちんと畳めなくなってしまったからだ。しかもオカルトの力を使って問題を解決していくという、医療ミステリーとはかけ離れた手法を使ってしまっていることであまりにも違和感が強い。
ついこの間もこういう感じの本を読んだように思ったが、恩田陸の「きのうの世界」だった。恩田陸の場合は幻想的な作風が魅力のひとつだが、バチスタの読者にしてみれば、著者に求めているものはこれではないだろう。登場するキャラは相変わらず魅力的で、彼らのやり取りを読んでいるだけでゾクゾクしてくるのに、ストーリーがそれに耐えうるものになっていなかったようだ。
などと偉そうに書いたが、基本的には面白かった。
んー、フォローになってないか・・・。

主題は小児病棟とレティノブラストーマによって眼球を摘出されることになってしまう子供達のケア。だと思っていたらよくわからん歌姫の突然の吐血入院で話がこじれていくる。で、そこに入院患者の父親の猟奇的殺人事件が絡み警視庁から病院に刑事もなだれ込み(加納・玉村ペアは味があって、白鳥・田口ペアに匹敵する色の濃さでなかなかいい)。さらには看護師と患者、患者同士の切ない恋心も加わって、・・・やっぱり盛り込みすぎだ。

そうそう、このレティノの話は「医学のタマゴ」につながっていきます。

この次が「ジェネラル・ルージュ」でそれから「イノセント・ゲリラ」なのだな。早く次が読みたい。


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チーム・バチスタの栄光<海堂尊>−(本:2009年読了)−

チーム・バチスタの栄光
チーム・バチスタの栄光
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# 出版社: 宝島社 (2006/01)
# ISBN-10: 4796650792

評価:84点

随分と前から話題になっていた第4回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作。映画にもなっているし文庫本化もされているものをようやく読んだ。時代に少し追いついた感じだ。追いついてない?
すぐに「ナイチンゲールの沈黙」も読みますから。
それでもまだまだ追いつきませんね。

あらすじは最後に「BOOK」データベースから転載。
非常にテンポよく面白く、登場人物のキャラ設定も特徴的で印象深い。くわえて進行がスムーズで違和感がない。
医療現場を主題にしているのでどうしても専門用語が飛び交うことになり、下手をすれば物語がブツブツと切れてしまうところを丁寧につないで休むことなく物語が進んでいく。
田口による調査が失敗に終わると途端に厚生労働省から白鳥が登場する。
田口によるパッシブ・フェーズに白鳥がアクティブ・フェーズを重ねていき、調査対象者と丁々発止のやり取りを次々と行なうところは圧巻。またリスク管理委員会のやり取り等、病院内の描写も臨場感たっぷりだった。
さすが、現場の医者が書いた小説だけある。

聞き取り終盤になってから予想外の展開に一度舵が切られ、さらに最後でもう一度大きく方向転換する。
このあたりの構成にも無理がない。強いて言えば、最後のオチは少し納得性が弱かったかなあ。それだけの理由で簡単に殺人犯になれるのか若干首を傾げてしまう。
でも、この面白さはとにかく抜群だ。

内容(「BOOK」データベースより)
東城大学医学部付属病院は、米国の心臓専門病院から心臓移植の権威、桐生恭一を臓器制御外科助教授として招聘した。彼が構築した外科チームは、心臓移植の代替手術であるバチスタ手術の専門の、通称“チーム・バチスタ”として、成功率100%を誇り、その勇名を轟かせている。ところが、3例立て続けに術中死が発生。原因不明の術中死と、メディアの注目を集める手術が重なる事態に危機感を抱いた病院長・高階は、神経内科教室の万年講師で、不定愁訴外来責任者・田口公平に内部調査を依頼しようと動いていた。壊滅寸前の大学病院の現状。医療現場の危機的状況。そしてチーム・バチスタ・メンバーの相克と因縁。医療過誤か、殺人か。遺体は何を語るのか…。栄光のチーム・バチスタの裏側に隠されたもう一つの顔とは。

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2009年09月19日

ブラックペアン1988<海堂尊>−(本:2009年)−

ブラックペアン1988
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# 出版社: 講談社 (2007/9/21)
# ISBN-10: 4062142546

評価:80点

『チーム・バチスタの栄光』の20年前を書いた作品、らしい。
まだバチスタを読んでいないし、そもそも著者の本はいつも図書館に全くないので、ちゃんと順序だてて読めるわけもない。やっと3冊目なので、関係もよくわからない。この本に出てくる登場人物たちをよく知っている人はもっと楽しみながら読めたのだろうなあ。

そうはいっても、この本だけでも十分に楽しめる作品。
大学病院は欲望渦巻ドロドロの世界であるのに、一方で患者の命を確かに救うカッコよさが同居し、なんとも魅力的だ。
といっても生まれ変わっても私は医者にはなりたくないけど。なれないって。すいません。

誰が正しく誰が誤っているのか、物語は複雑に入り組み、単純な勧善懲悪で図れるはずもない。そこに専門用語をちりばめた鮮やかな手術シーンが挟み込まれ、まったく飽きることなく最後まで一気に楽しんで読めてしまう。登場人物達のキャラがきちんとたっているのもよかった。
医者になって1年目でバシバシと上司に物申す世良先生は気持ちよかったなあ。私も生意気な新入社員を暖かく育てていける先輩になりたいものだ。

早く著者の他の作品をまとめてよみたいぞ。

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2009年09月16日

どこから行っても遠い町<川上弘美>−(本:2009年)−

どこから行っても遠い町
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# 出版社: 新潮社 (2008/11)
# ISBN-10: 4104412058

評価:80点

どこか遠い町の小さな物語。
絡み合う連作短編集は、読者を見事なまでに架空の町に連れ込んでしまう。魚屋で暮らす男達や、不思議に気の会う嫁と姑や、写真の好きなOLや・・・。みんな普通なんだけど、どこか変だ。まあ、人間はみんな変なんだろうけど。昨日9年連続200本安打を達成したイチローだって、語録を読んでいると相当変だもの。

こういう小説を読むと著者はどこまで計算して組み立てているのだろうかと不思議に思う。最初に全ての物語を作って広げて重ねていくのか、それとも小さな一篇から小説の世界を広げていくのか。
聞いてみたいものだ。

なんということはないストーリーばかりなのだが、嫌いではない。綺麗な文章で少し個性的で歪んだ人たちの生き様を淡々と書いていく小説って、自分の深層心理のようなものを見透かされているような気になって、読んでいて少しドキドキする。それがいいのだ。説明するのは難しいけど、まあいいか。
最後の短編は珍しくポジティブ。ポジティブと言っても幽霊のポジティブなんだけど・・・。

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2009年09月12日

医学のたまご<海堂尊>−(本:2009年)−

医学のたまご (ミステリーYA!)
医学のたまご (ミステリーYA!)
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出版社: 理論社 (2008/1/17)
ISBN-10: 4652086202

評価:85点

内容(「BOOK」データベースより)
僕は曾根崎薫、14歳。歴史はオタクの域に達してるけど、英語は苦手。愛読書はコミック『ドンドコ』。ちょっと要領のいい、ごくフツーの中学生だ。そんな僕が、ひょんなことから「日本一の天才少年」となり、東城大学の医学部で医学の研究をすることに。でも、中学校にも通わなくっちゃいけないなんて、そりゃないよ…。医学生としての生活は、冷や汗と緊張の連続だ。なのに、しょっぱなからなにやらすごい発見をしてしまった(らしい)。教授は大興奮。研究室は大騒ぎ。しかし、それがすべての始まりだった…。ひょうひょうとした中学生医学生の奮闘ぶりを描く、コミカルで爽やかな医学ミステリー。

*********************

感想とあらすじをネタバレしない程度に書き分けていくのがメンドクサイからと言って、安直に「BOOK」データベースの紹介文を持ってきてコピペするなんて、大人はやっぱりずるい。なんてカオル君に言われそうだ。

いや、決してそんなことは思ってないのだけれど、上の紹介文の完成度があまりに高かったのでそのまま載せてしまいました。すいません。

中・高校生向きのミステリーで、体裁も横書き。漢字には全てルビ付。でも、中身は決して子供だましではなくて、登場人物たちのストレートな感情の迸りに読んでいるオッサンの胸もどんどんと熱くなってくる。
汚い大人たちの犠牲になって潰されそうになってしまうカオルが、父親やクラスメートや大学の仲間たちの協力を得ながら、汚い教授の謀略を徹底的に潰していくところはまったくもって爽快だ。
そして、ところどころで出てくる「いい言葉」が、最高のタイミングで心に沁みてくる。

実は天才でもなんでもない14歳の中学生がスーパー中学生として大学の医学部で研究すると言う設定自体は荒唐無稽。でもそんなに違和感を感じないのは、医学用語のレベル等を適度に落として読みやすくしているのだろう。おかげで純粋文系培養の私でも、ほぼ困らなかった。当たり前か、中学生向けの本なのに。

大人の世界の汚さと、必ずとは言わないけれど正義はやっぱり勝つよ、ということを中学生に知ってもらうために読んでもらいたい本だ。
未来のある若者たちよ、頑張っておくれ!

「道は自分の前に広がっている」のだから。

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2009年09月06日

仮想儀礼(上)<篠田節子>−(本:2009年)−

仮想儀礼〈上〉
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出版社: 新潮社 (2008/12)
ISBN-10: 4103133619

評価:91点

鈴木正彦。
名前だけでなく地方公務員として都庁に勤めているというさらにお堅く平凡な設定の主人公が、家庭も仕事も失ってどん底にいるところから物語が始まる。
ゲームのシナリオを手伝うという副業から始まり、自分の本を出すことを勧められた時点で公務員を辞めてしまい、結果、騙された形で本も出せず全てを失うという愚かな結末(物語としてはスタートだが)に行き着いてしまうには主人公は賢すぎて若干リアリティがない。
だが、そんな主人公が職業として新興宗教を起こそうとしてからの展開は実に生々しくリアルでぐいぐいと引き込まれてしまう。
怪しげな新興宗教の世界に飛びついてくる「生きづらい」系の若者たちや、真剣にご利益を求めにくる中高年の主婦たち、さらには他の宗教団体やカルトを脱退した人たち。
そんなにすぐに集まるわけがないと思いながら読み進めるのだが、信者になる人たちのそれぞれの描写に説得力があり、かつ人集めや教団の運営方法が具体的であるために妙に納得してしまうのだ。

正彦が作った宗教には、信者だけでなく、様々な人が絡んでくる。
腐ったバナナに虫が集まるように、どこから沸いてくるのかと思うくらい。
上巻の中盤以降は、宗教団体と企業が一体化して大きくなっていく様子が中心。このあたりの描写も圧倒的だ。実際にこんな風に宗教は使われているのだろうなあ。
超能力を求めた少年や落ちぶれた芥川賞作家が持ち込むトラブルなどを交えながら、教祖である正彦の思惑を超えたところまで巨大化していく団体。「このレベル(規模)でいいんだけど」というセリフが通用しないのは、資本主義経済下の一般企業と同じなのだ。常に膨張しようとし、それでも競争に負けて縮んで消えてしまうか、膨張しすぎて破裂する。
さて、2人で始めた宗教は信者7000人を突破するところまで膨張したが、下巻でどんな大爆発を見せてくれるのか楽しみだ。
いちサラリーマンとしては、正彦を応援しているのだが。

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2009年04月25日

茗荷谷の猫<木内昇>−(本:2009年42冊目)−


茗荷谷の猫
茗荷谷の猫
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# 出版社: 平凡社 (2008/9/6)
# ISBN-10: 458283406X

評価:75点

図書館でもかなりの順番待ち。
著者の本は初めて読んだが、これは結構人気の高い本のようだ。

江戸末期から昭和の高度成長期、東京を舞台にした9つの短編が年代を追うように収められている。

最初は江戸時代に桜の交配に捕らわれた男の物語。
「染井吉野」を作り出しながら後世に名を残さなかった男の話は決して明るく爽やかなものではなく、妻とのすれ違いや後悔の気持ちが紙面から溢れ出るようだ。
後の作品にも全て共通することだが、市井の人々のどうにもやるせなく哀しい思いが書き込んである。
それを幻想的な描写や設定で微妙にオブラートに包んで読みやすくはしてあるが、根っこはおそらく強烈に鋭い。
そんな印象を受けた。

雰囲気は嫌いではない。
でもまあ、著者の本をこれから探して読み続けよう、と思うほどではなかったかも。

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2009年04月11日

三月の招待状<角田光代>−(本:2009年39冊目)−

三月の招待状
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# 出版社: 集英社 (2008/9/4)
# ISBN-10: 4087712451

評価:79点

大学を卒業し10年余り。男女5人の友情と恋愛をそれぞれの視点からしっとりと書き分けていく。
ひとたび集まればあっというまに学生時代のテンションが蘇り、お互いにとって心地よい空間を作り上げることができる関係。
彼ら以外の人間にとっては、それはとても排他的で異質に感じる。
身近によくある話だと思うのだが、改めてこうやってきちんと小説にされると非常に懐かしくもあり気恥ずかしくもある。
こういったゴチャゴチャとした人間関係って、非常にメンドクサイ。
でも、これがなかったら少し寂しかったりするものだ。

「傲慢な錯覚」と著者はこの本で書いている。
ばっさり切り捨てているようで、その言葉にたっぷりの愛を感じるのは私だけだろうか。最近昔の友人達と花見をしたので、感慨に耽りやすくなっているのかもしれないが。

さらりと読めるけど、アラフォー世代にはそこそこグっとくるいい本です。


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2009年03月28日

東京島<桐野夏生>−(本:2009年38冊目)−

東京島
東京島
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# 出版社: 新潮社 (2008/05)
# ISBN-10: 4104667021

評価:81点

巷では結構酷評もされているようだが、私的にはかなり面白かった。
内容や本の厚さから、すぐに読みきれるだろうと思っていたのだが、随分と時間がかかってしまった。
途中理由を考えて気がついたのだが、本の中の文字の密度が濃い。
つまり、会話文が少なく、登場人物たちの心情と彼らの視点で見た風景を滔々と吐露した文章が非常に多いのだ。見開き2ページ文字でぎっしり改行ほとんどなし、という箇所がいくつもある。
サバイバル小説、と銘打たれているからには、会話文中心にもっとアップテンポで進んでいくのかと思っていたが、実際は無人島に残された登場人物たちの視点で、それぞれの振幅の激しい感情が細やかにそして素直な欲望が赤裸々に書かれている。
ストーリーそのものにさほど目新しさは感じなかったが、この書き方のせいで、退屈することもなくまた登場人物達への感情移入も容易で最後まで違和感なくすんなり読み通せた。

人間は社会的動物であり、自己に何らかの役割を振らなければ生きていくことが難しい。
それを改めて教えてもらったような気がする。
明日から私も会社員であり父であり地域社会体の一員としての役割を担い、演じながら生きて行くのだろう。
「東京島」にたどり着いた人たちがそうしてきたように。
願わくば気が触れてしまうことのありませんように。


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2009年03月06日

乳と卵<川上美映子>−(本:2009年34冊目)−

乳と卵
乳と卵
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# 出版社: 文藝春秋 (2008/2/22)
# ISBN-10: 4163270108

評価:71点

第138回芥川賞受賞作。
何故だろうか、芥川賞って若い人が受賞することが多いような気がする。
平野某が京都大学在学中に受賞したのは数年前だったか。
エンタメ系の直木賞は、そうとう名の売れたベテランでもなかなか受賞できず何度も落選したりする。
あの、東野圭吾だって少し前にようやく受賞だ。

文学の香りがする芥川賞には、青年の激情迸り出るような感性が大切なんだろう。直木賞は書きなれたおっさんが少し腐りかけたにおいを発していい感じに醗酵しているというイメージだなあ。
なんて、あくまでも私見です。
(Wikipediaによると、芥川賞は純文学新人賞、直木賞は大衆文学新人賞。直木賞も新人賞だったのか!とてもそうは思えないのだけれど・・・)

さて、この小説の文章は非常にとっつきにくい。
もう芥川賞の匂いでパンパンに膨れ上がっている感じだ。
句読点のないページいっぱいに広がった文章を見て、読むのがつらいなと誰でも思う。一方で著者は、そんなだだっ広いページの中に自分の込めた思いをさあ読み取れよと自意識過剰気味に押し付けてくる。
そんなわけのわからん著者と読者のケンカが芥川賞なんでしょうね。

豊胸手術を受けようとする40歳の姉と、突然口を利かずに全て筆談で済ませるようになった姪っ子。
二人が上京してきて主人公の家に泊まる。
姉は風呂屋に行ってたくさんの胸を見つめ続け、姪は生理にはなりたくないと切望する。
まあ、あの、男にはあまりわからない世界がいろいろ書いてありました。
思わぬ形のカタルシスは個人的には嫌いではありません。
想像しただけで気持ち悪くなったけどアリでしょう。

著者の別の作品をわざわざ読もうとは思わないけれど。これはこれでいいのでは。

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2009年02月23日

真実のビートルズ・サウンド<川瀬泰雄>−(本:2009年27冊目)−

真実のビートルズ・サウンド (学研新書)
真実のビートルズ・サウンド (学研新書)
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# 出版社: 学習研究社 (2008/11)
# ISBN-10: 4054037879

評価:85点

著者は音楽プロデューサー。
ビートルズが公式にレコーディングした全ての曲を、レコーディングの際に彼らが工夫した音楽的側面からのみ徹底的にスポットを当てて分析・解説している。
細部に対するビートルズのこだわりももの凄いことがよくわかったけれど、その細部をここまで分析する著者も凄い。
音楽プロデューサーでありビートルズマニアであるからこそできることだろうが、読んでいてよくそこまでわかるなと感心してしまう。

ビートルズが解散したときには私はまだ4歳だったのでリアルタイムでは全く知らない。
中学生になって友人の影響で聞き出し、中学・高校ではかなりビートルズを聞き込んだ。だが、もともと私自身の音楽的素養がなかったこともあって、この本の中で著者が語っていたようなことにはまったくわからなかった。
今、おっさんになってこういう本を読んでみるとビートルズの素晴らしさがまた認識されるし、全部最初から聞きなおしたい、そんな風にも思えるのだ。

今のようにデジタル録音ができない時代。
テープの速度を速めたり遅くしたりしながら曲調を変化させてみたり、様々な楽器をどんどん試してレコーディングで演奏に被せてみたり、複雑な和音を使い、変拍子を繰り返し、オーケストラも使ったりもする。演奏に対する彼らの自由な発想と、それを簡単に実現していく音楽的技術力は感嘆する限りだ。
ア・デイ・イン・ザ・ライフで最後にピアノをジャジャーンと鳴らすためだけにステインウェイが3台も集められたっていうのも凄い。
さて、明日からビートルズを聴きなおしてみることにしよう。
その前に、CD全部揃えようっと。

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2009年01月29日

一人二役<河本準一>−(本:2009年16冊目)−

一人二役
一人二役
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# 出版社: ワニブックス (2007/04)
# ISBN-10: 484701720X

評価:81点

ご存知、漫才コンビ「次長課長」の河本が母親と自分のことについて書いた本。
河本のパンチパーマオカンのことについては、テレビで河本自身が何度もネタにしているが、こんなにいい話だとは思わなかった。
離婚した後、働いて働きまくって息子を育てたオカンとそのオカンが大好きな息子。
パンチパーマをあてて、魚屋でゴム長靴はいてマグロをさばくというオッサン丸出しだったオカンは、ひとりでオカンとオトンの二役を演じながら息子を育てていたのだった。

オカンと今でも一緒にお風呂に入るという河本は、オカンのことを「性別もなにもかもすべて飛び越えた、切っても切れん存在。それが俺にとってのオカンなんや」という。
こんな親子関係を築けるものなんだなあ。
読みながら、そこまで暑苦しい関係は俺には無理だなと感じ、一方でなにやらとてつもなくうらやましく、さらには日頃の親不孝をとても申し訳なく思ったりしたのだった。

実は次長課長は結構好きで、テレビで見るときは非常に楽しみにしている。
若い芸人がドンドンでてきて生き残りが大変だと思うけど、なんとか頑張ってほしいもんだ。
一族まとめて旅行に連れて行き、大和解させたという素晴らしいラストはたまらなくよかったし、今度はみんなで住めるでっかい家を作らねばなりません。しゃべりの腕をさらに磨き、バキバキ一線で活躍を続けて欲しいものです。

ところでこの本は売れたのだろうか。
がばいばあちゃんとか、東京タワーの路線を狙っている本としてはなかなか面白いし、河本の人柄も良く出ていて親近感が沸く。惜しむらくはゴーストライターを使っていないからか、文章があまりに稚拙。
うーん、残念。

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2009年01月22日

マザコン<角田光代>−(本:2009年13冊目)−

マザコン
マザコン
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# 出版社: 集英社 (2007/11/4)
# ISBN-10: 4087748839

評価:70点

読み終わってなんだったんだろうなと思わず首を傾げてしまった本。
もちろん巧いし、母という存在のダークな部分を、ほんの少しだけ異常性を感じさせるような微妙かつ繊細なタッチで角田光代らしく炙り出している。
でもなあ、だから何?って、正直なところ思ってしまった。
誰にでも母親はいるのだから(死別などによって記憶がなくとも生物学的には必ずいるのだ)、母親への愛情や憎悪はそれぞれ抱えているだろうし、記憶がない人にも空想の母親に対する思いがあるず。
その思いのちょっと痛いところを、小説を通じて著者がチクリチクリと突っついている感じだ。
私も社会人になって上京してから田舎の母親にはなかなか孝行する機会もなくて不義理なことを重ねているからか、こういう小説を読むと随分と気が重くなるのだった。
おかあちゃんすいません。
盆休みに帰省したら肩でも揉みますよってに。

8つの短編は、母親と中年に差しかかろうとするその子供達の物語。
決して表題のようなマザコンの物語ばかりではないように思うけれど、母と子供の小説を書けば、なんとなく全部マザコンが主題におもえてきたりするのだった。
多くの人がマザコンという意識を抱えているのだろうなあ。
小説のなかでは、母親を嫌って母親がしたであろうことと反対のことばかりする女性も登場したが、彼女は彼女なりに母親に思考に支配されているわけで、それも確かにマザコンの一瞬なのかもしれない。

俺もマザコンって言われないように気をつけようっと。

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2009年01月18日

映画篇<金城一紀>−(本:2009年11冊目)−

映画篇
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評価:98点

# 出版社: 集英社 (2007/07)
# ISBN-10: 4087753808

大いに笑い、感動し、不覚にも泣いてしまった。
近年読んだ中では最高だ。映画好きのおっさんにはこれはたまらん。

この本を読もうかと思ったとき(昨日)には、図書館への返却期限が翌日(今日)に迫っていた。
悩んだ末、読めるところまででいいかと思い昨日の深夜に読み始めたのだが、あまりの面白さに没頭。しかし睡魔には勝てず、夜中の3時に途中であきらめ、続きは図書館に行ってから返却前にソファにでも座って読もうと考えたのだった。
そして今日。
予定通り図書館に行き。まずはこれを読み終えてから返却しようと書架前のソファに座って最後の短編「愛の泉」を読み始めた。
その前の短編「ペイルライダー」が、若干ハードボイルド風味だったので油断していたのかもしれないのだが、この「愛の泉」が実に感動的だった。
少年達のバカっぷりが最高でセリフごとに噴出してしまうし、キャラのたった女性たちは目の前に映像になって浮かんできそうなくらいだ。
夫を亡くし、落ち込んでしまっている祖母をなんとか励まそうと、孫たちが、祖母が初デートで観た映画を再現するために、36ミリフィルムを借りてきて大ホールで上映会を企画する。
これまで祖母に助けられてきた孫たちが団結して上映会が成功するシーンでは、読んでいる私も涙目になってしまった。
周囲の目がなければきっとボロボロ泣いていたことだろう。
上映された映画は「ローマの休日」。
うう、いい小説だった。

収められている短編は、「太陽がいっぱい」「ドラゴン、怒りの鉄拳」「恋のためらい」「ペイルライダー」「愛の泉」の5編。
それぞれ著者の映画への愛に溢れているのに加えて、物語の中のテーマも深い。
特に、「太陽がいっぱい」での、ひたすら映画をともに観た少年時代の親友の物語は重く、そして心に沁みた。

ああ、映画をもっと観たい。
そしてこんな小説をもっともっと読みたいものだ。

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2009年01月16日

1950年のバックトス<北村薫>−(本:2009年10冊目)−

1950年のバックトス
1950年のバックトス
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# 出版社: 新潮社 (2007/08)
# ISBN-10: 4104066060

評価:70点

1995年から2007年までの間に、小説新潮などに掲載された短編を集めたもの。
久しぶりに北村薫の本を読んだ気がする。
著者のほとんどの本はこれまで読んできた。
丁寧な日本語は読んでいて非常に安心感があって好きだ。
「安心感がある」と簡単に書いたが、文章にひっかかってしまうと読者は素直に物語りに入っていけないのだから、安心して小説に身を任せることができるというのは小説が読むに値するものであるための根源的な問題なんだと私は思う。

短編の色合いは実に様々。何気ない日常のワンシーンを切り取ったものもあれば、ありえない不条理な設定のものもあり、それぞれ楽しめた。
一番良かったのは表題作。野球のことを良く知らない野球少年の母親目線で書いているところがまたうまい。

少し気になったのは、テンポの遅さ。
このジンワリした味わいこそが北村薫なんだ、といわれてしまえばそれまでだが、あまりにもスピード感にかける。
これでは若い読者はイライラして待っていてくれないのはないか。最近話題にのぼるような本を書いていないようだが、売れない?原因のひとつがスピードの遅さだと私は思う。
(暴論ですいません)
これは著者の年齢によるところもあるだろうからどうしようもないのか。
ファンとしては悲しい限りだが、阿刀田高が全く面白くなくなったように、北村薫もそうなるのかもしれない。
誰か隣に座って少しせかしてあげてください。手遅れになる前に。


出版社 / 著者からの内容紹介
一瞬が永遠なら、永遠もまた一瞬。過ぎて返らぬ思い出も、私の内に生きている。秘めた想いは、今も胸を熱くする。大切に抱えていた想いが、解き放たれるとき――男と女、友と友、親と子、人と人を繋ぐ人生の一瞬。「万華鏡」「百物語」「包丁」「昔町」「洒落小町」「林檎の香」など、謎に満ちた心の軌跡をこまやかに辿る二十三篇。

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2009年01月05日

最後の恋<角田光代他>−(本:2009年5冊目)−

最後の恋
最後の恋
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# 出版社: 新潮社 (2005/12/20)
# ISBN-10: 410465521X

評価:81点

松尾由美、乃南アサ、角田光代、三浦しをん、谷村志穂、阿川佐和子、沢村凜、柴田よしきの8人の作家による短編集。
松尾由美は知らなかったが、これだけそうそうたるメンバーが揃っているのだから面白くないはずがない。
ということで読み応えたっぷりの短編集だった。

一応テーマは「最後の恋」となっているので恋愛小説集のようでもあるが、結構ミステリ色が強いものがあったりもしてバリエーションも豊富。
個人的には最後に角田光代が書いた「おかえりなさい」が一番よかった。
おばあさんの思いと、それを感じ取っている青年が共有する時間の素晴らしさが伝わってくるようだった。
たとえまやかしであっても、人が求めているものの姿がそこにあるのだ。

この中で、阿川佐和子の作品「海辺食堂の姉妹」は他とは多少色合いが違う。
他の作家とまともに勝負してもダメだということで独特の雰囲気を持ち込んだようだが、会話文やシーンのつなぎがどうもギグシャグしているようで多少気になった。
まあ、他と比較するとかわいそうでもあるけど。

既に文庫化されているようです。

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2008年12月27日

野球の国のアリス<北村薫>−(本:2008年168冊目)−

野球の国のアリス (ミステリーランド)
野球の国のアリス (ミステリーランド)
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# 出版社: 講談社 (2008/8/7)
# ISBN-10: 4062705842

評価:77点

講談社ミステリーランド(講談社が2003年から発行している書籍レーベル)の第14回配本。「かつて子どもだったあなたと少年少女のため」がコンセプトになっているので、字が大きく、すべてルビが振ってある。
児童向けといえば児童向けなのだが、不思議の国のアリスの設定をうまく使って楽しい話にしてあり、かつて不思議の国のアリスを読んだことのある大人にとっても、結構楽しめる内容だ。
題材を野球にしたというのもいいね。
おっさん連中にとっては一番わかりやすいスポーツだし、クライマックスで使ったタッチアップのトリックなんかは(トリックと呼ぶのが正しいかどうかは別にして)、何かの野球漫画で見たなあと懐かしく思い出した。
ドカベンだったような気もするが、ドカベンで有名なタッチアップでの得点シーン(対白新)はまた別だった。
逆に言えば、最近子供に人気薄の野球を持ってきたことで最近の子供たちの興味が薄れてしまったのではないかと少し心配。
さすがに打った後にどっちに向かって走るかくらいは知ってると思うのだが。

鏡を通り抜けてもうひとつの世界に入り込んでしまったアリス。
野球が好きでたまらなかったアリスは、女の子だという理由で中学になって野球をつづけることができなかったが、あちらの世界ではそんなことに関係なく自由に野球をすることができた。
その代わり、あちらの世界で盛り上がっていたのは、負け続けて日本で一番弱いチームを決める大会だ。
最弱チームの助っ人として、アリスはマウンドにたつ。

熱めの友情あり、きちんと書き込まれた野球のシーンもあり、細かく楽しい笑いもあり、少しセンチな感情も交えてあっておっさんでも十分楽しめた。
一応、うさぎもハンプティダンプティもでてきます。

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2008年12月20日

一朝の夢<梶よう子>−(本:2008年163冊目)−

一朝の夢
一朝の夢
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# 出版社: 文藝春秋 (2008/6/24)
# ISBN-10: 416327250X

評価:80点

第15回松本清張賞受賞作品。
著者の小説は初めて読んだが、優しく読みやすい語り口でありながら、ストーリーも適度に起伏に富んで緊張感が保たれておりいい感じだった。
無難に最後まで進んでいくのだろうと思っていたところ、突然里恵が死んでしまったのにはあまりにも驚いたが。
しかし、ここを起点に一気に小説自体がスピードアップしラストになだれ込んでいくわけだから、設定としては必要だったのだろう。
でもなあ、主人公にも里恵さんにも幸せになって欲しいと読者の誰もが思うところでそんな展開にしなくてもいいのに。

30俵二人扶持北町奉行所両組御姓名掛かり中根興三郎が主人公。
長々と肩書きを書いたが、一般会社員で言えば、出世の見込みのない総務部係長ぐらいの設定だろうか。
真面目さだけがとりえの興三郎が、江戸で起こる殺人事件になんだかんだと巻き込まれていく。
その挙句が冒頭に書いた、里恵の殺人につながっていく。

そんな物語を紡いでいくのが「朝顔」。
現代では小学校1年生の夏休みの宿題程度の軽い扱われ方で、誰もまともに育てようともしないが、当時は金持ちの道楽趣味としてかなり人気があったらしい。それぞれが個人で交雑を繰り返し、変化者を作り上げ、コンテストで競いあう。
主人公も家の庭一面で朝顔を育てていた。
そんな朝顔つながりで、事件が起きたり、事件が解決したりする。
世間一般では悪役として定着している井伊直弼が、主人公の朝顔仲間として「いい人」として登場するのもなかなか新鮮だった。

そういえば、黄色い朝顔って見ないよなあ・・・。

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2008年12月13日

ニコアチア<川端裕人>−(本:2008年161冊目)−



ニコチアナ (角川文庫)
ニコチアナ (角川文庫)
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# 出版社: 角川グループパブリッシング (2008/8/25)
# ISBN-10: 4043748027

評価:69点

無煙タバコの発明とその商品化。それをめぐって起こる騒動がタバコの起源をたどる壮大な物語につながっていく。
タバコをテーマにした企業小説の類かと思いきや、内容はかなり幻想的・非現実的な展開を見せる。秘蹟とか大魔術とかが当たり前のように登場し時代も場所も飛びまくる。読んでいるうちにこちらのほうがタバコの煙にまかれてクラクラしているような気になってしまう。

決して面白くなくはないのだが、そもそも私に喫煙経験がなくてタバコをすうという行為に対してほとんど共感できなかったことで物語に入り込むことができなかった。
タバコに魅せられている人たちは、タバコがかつては神と人間を結ぶ行為であったというくだりあたりに感激でもするもんなのだろうか。

物語的にもあまり魅力を感じるものではなかったなあ。
科学と神話が融合しているというよりは、モザイク状に混ざり合って話を混乱させているだけのように思えた。
どちらかに絞ったほうがよかったのではないか。ミステリアスな話で突っ走るのか、それとも科学の力でそれを解析して見せるのか、どちらかに。

ちなみに、私はことさらに嫌煙権を振りかざすタイプではないけれど、やっぱり煙は苦手。さらなる分煙を望む次第です。

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2008年12月06日

何も持たず存在するということ<角田光代>−(本:2008年159冊目)−

何も持たず存在するということ
何も持たず存在するということ
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# 出版社: 幻戯書房 (2008/06)
# ISBN-10: 4901998331

評価:77点

最新エッセイ集。
といっても過去に書かれたものを集めて本にしているので、日付を見ていると少々古いものも混じっている。
それでも私が目にするのは初めての文章ばかりなので、そこそこ楽しめた。

父のこと、母のこと、その死のこと。
自分が文章を書くようになった歴史のようなもの。
今の自分を支えてくれる編集者たちのこと。
かなり身近で私的な出来事が次々とつづられているわりには、感情が溢れ出るような文章はあまりなく、いつもの著者の文章のように、静かに淡々と内なる熱さを秘めてつづいていく。
オビの文章にもなっている「へらへらした大人になりたい。大仰さががまるでない大人に」というフレーズはなかなかいいなあ。

良くも悪くも角田光代らしい、エッセイ集です。

それにしても作家同士の付き合いも大変なんだなあ。
朝まで飲みたくはないものだ。

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2008年12月03日

風花<川上弘美>−(本:2008年157冊目)−

風花
風花
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# 出版社: 集英社 (2008/4/2)
# ISBN-10: 4087712079

評価:85点

内容(「BOOK」データベースより)
夫に恋人がいた。離婚をほのめかされた。わたしはいったい、どう、したいんだろう―。夫婦の間に立ちこめる、微妙なざわめき。途方に暮れながらも、自分と向き合い、夫と向き合い、少しずつ前へ進みはじめた、のゆり、33歳の物語。

******************************

著者の小説を読んでいていつも感じることだが、どこに惹かれているのかわからないのに、いつにまにか没頭してのめりこんでしまう。
劇的な展開はほとんど起こらず、時間はいつもゆったりと静かに流れている。そんな小説の世界に、いつにまにか自分がぴったりとはまりこんでいるのだ。
小説の世界との距離感を感じさせない、そんな不思議な作家だ。
もちろん私にとって単に相性がいいだけなのかもしれないが、これだけ人気があるのだから、他の読者もそんな風に感じているのではないだろうか。

33歳の女性にしてはなんとも幼く、自分の意思をはっきりさせることもできず、その行動にイライラさせられどおしの主人公「のゆり」
「のゆり」なんていう名前が、意志の弱さをあらわしているようで面白い。
彼女を取り巻く人たちに決定的な悪者がいないことが救いでもあり、またそれが物足りなくも思える。
夫の恋人の存在を知り、知ったからといってどうすることもできず、別れてくれといわれれば嫌だといい、転勤先についていき、それから別居して、夫の心がこちらを向いたときにようやく新しい人生を歩み始めようとする。
よくある夫婦のすれ違い物語のようでもあり、主人公の自立過程を淡々と書ききった成長小説のようでもあり、まあ、そんなこんなで面白かったのだった。
それにしても、小説自体は好きだけれど、感想が書きにくい作家だなあ。

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2008年11月18日

狐火の家<貴志祐介>−(本:2008年151冊目)−

狐火の家
狐火の家

# 出版社: 角川書店 (2008/03)
# ISBN-10: 4048738321

評価:73点

恐ろしげな表紙。
重々しい題。
そして貴志祐介。
きっと強烈に怖い物語なんだろうと思って読み始めた。
冒頭でいきなり、殺された高校生の娘を父親が発見するというえげつない場面が展開される。
やはりそうなのだ。ドロドロとした人間の内面をえぐるようなホラーなのだ。

ところが、その殺人現場に現れる警官がやたらと軽い。よくわからない女性弁護士が現れ、みんなで密室の謎について議論を始める。
そして、いかにも怪しげな鍵の専門家がそこに加わる。
彼は密室殺人のトリック解きに欠かせない人物なのだが、「泥棒」を家業としている可能性が限りなく高い人間でもあるのだ。

ということで実は密室殺人のトリックを楽しむ、軽めの短編犯罪小説が4つ詰まった短編集なのだった。
「硝子のハンマー」に登場した弁護士の青砥と、鍵師(セキュリティコンサルタント)の榎本。とても息が合っているとはいえないコンビが、密室犯罪を解いていく。
榎本が謎を解き、青砥がそれをイライラしながら聞きだすというパターンはそれなりにお約束的なオチになっていて面白いが、これを貴志祐介が書かなければならない意味がよくわからない。
この手の単なる謎解きなら、書く人は他にもっといるだろう。
せっかく「黒い家」で作り上げた重厚なイメージ、人間の内面を書ききるイメージがバラバラと崩れ去っていくようでもあった。

特に最後の短編はなんなんだろう。
犬の餌付けをトリックにしたりして、ページを埋めるために遊んでみたのか?それとも私にはわからない壮大な著者の構想のひとつなのだろうか。
青砥−榎本ラインで、シリーズ化をし、さらにはドラマ化、映画化ぐらいまで狙っているのだろうか。
これはこれで面白かったけど、今度はまた気合入れた長編を読ませてください、貴志さん。

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2008年10月30日

ジーン・ワルツ<海堂尊>−(本:2008年142冊目)−

ジーン・ワルツ
ジーン・ワルツ


# 出版社: 新潮社 (2008/03)
# ISBN-10: 4103065710

評価:90点

文句なしに面白い。
地域医療の問題、産科医師不足の問題、思考が硬直化した官僚たちの愚かな医療への対応、そんなことに憤りを感じながら読み進めるうちにあっというまに主人公の曽根崎理恵のファンになってしまう。
クール・ウィッチと呼ばれ、不妊治療を専門とし顕微鏡下人工受精のエキスパートなどという設定がまたたまらなくかっこよく、現場に出ようともせず権威におもねる老教授を議論で叩きのめすところは爽快。
ただ、妄信的に主人公にのめりこんでしまうため、代理母の問題も含めたかなりイリーガルな人工授精のことがまったく気にならなくなってしまうのは少々問題かも。

社会派小説の体裁をなしていながらも、エンタメとしても最高。終盤に見せる4人の妊婦の同時出産描写は神々しくてかつ壮絶。
みね子の出産シーンと、ユミの出産シーンはどちらも思わず貰い泣きしそうになる。
ラストはサスペンスタッチにまとめて読者を驚かせることにも抜かりはなし。海堂尊はこれまで読んだことがなかったけど、レベル高い。
現役の医師だったのか。
図書館でなかなか借りられないかもしれないが、チーム・バチスタ含めてもう少し読んでみようと思う。

Wikiには「メディカルエンターテイメント作家」とあった。
いろんなジャンルが作られていくものだ。

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2008年10月29日

ロック母<角田光代>−(本:2008年141冊目)−

ロック母
ロック母


# 出版社: 講談社 (2007/06)
# ISBN-10: 4062140330

評価:90点

92年の芥川賞候補作「ゆうべの神様」から2006年の第32回川端康成文学賞受賞作である「ロック母」までの短編小説7編を収録してある。

いつものとおり、押さえた文体なのだが内容は強烈だ。
あとがきで著者は、これほど時間差のある小説をまとめて本にすることは初めてであり、迷いうろうろとする様子が感じられるだろうと書いている。
だが、最初から最後まで一気に読み通してみて、アンバランスさはまったく感じない。多少文体に変化があるような気がする程度で、きちんと構成されたバランスの取れた短編集のように思えた。
えげつないダークさが、どの物語の根底にも滾々とあふれ出て流れてゆく。
読者は小説を読み始めると同時に不安で落ち着かなくなり、日常生活で自分が保っているバランスとの小説の中の日常の違和感との差にドキドキしながら先を急いで読むことになる。
読後感なんていいはずがない。
でも、我々が生きている日常の裏側のほんとのところは、きっとこんな感じだと思い知らされ、なんだか大きなため息をついて読み終えるしかないのだ。

今またパラパラとページをめくってみたが、92年に書かれた「ゆうべの神様」がむき出しの本能みたいに思えるのに対して、2006年に書かれた「イリの結婚式」はやっぱりうまい。ラストも綺麗だもんなあ。
一番好きなのは表題作の「ロック母」かなあ。
なんとなく未来がありそうでなさそうで。

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2008年10月22日

この本が、世界に存在することに<角田光代>−(本:2008年139冊目)−

この本が、世界に存在することに (ダ・ヴィンチ・ブックス)
この本が、世界に存在することに (ダ・ヴィンチ・ブックス)


# 出版社: メディアファクトリー (2005/05)
# ISBN-10: 4840112592

評価:80点

「読んだことあるよなあ」
読み始めてすぐにそう思った。
さらに読み進めて思った。
「でも、こんな内容だったけ。ううむ、自信ない」
さらにさらに読み進めて思った。
「あ、やっぱり読んだことあるわ」
そのときには本を読み終えていた。
ということで、もう一度ここに掲載。

本への愛情を込めて書かれた、本にまつわる短編が九つ収められている。
それぞれの小説で体裁が違う。行間が違い、文の置かれた位置が違い、文字の大きさまで微妙に違う。
たぶん、この短編集の中に詰まっている小説が、「それぞれ違う本」だということをイメージしてるのだろう。

学生時代に手放した本と、異国の古本屋でめぐりあう「旅する本」という小説は、1回目に読んだときのインパクトもかなり大きかったが、今回読んでもその印象はやはり強烈だった。
読んでいると本当に旅のにおいがしてくるような小説なのだ。

ひょっとしたら私はもう1回くらいこの本を死ぬまでに読むかもしれない。そんなことを考えながら読み終えたのだった。

ちなみに2年前のブログにはこんなことが書いてあった。
あれ、今より気合入れて書いているような気がするな。
現在の自分の姿勢に反省。

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本好きの人間にとってはたまらない本だろう。
著者の本に対する想いが、様々な小説の形を取ってぎっしりと詰まっている。
そう、本ってやっぱりいいもんだ。
サラリーマンのおっさんになって、通勤電車の中や風呂のなかでしか本を読む時間がなくなってきた今でもそう思う。

本の素晴らしさは、「ミツザワ書店」の中で亡くなった店主のおばあちゃんが説明している。
「だってあんた、開くだけでどこへでも連れてってくれるものなんか、本しかないだろう」
そして後書きでの著者の言葉。
「本の一番のおもしろさというのは、その作品世界に入る、それに尽きると私は思っている。一回本の世界にひっぱりこまれる興奮を感じてしまった人間は、一生本を読み続けると思う」
当たり前のように思えるけど、本が好きな人はみんな同じように感じているんじゃないかな。

私は、母が家庭で文庫を開いていたこともあり、常に手の届くところに大量の本がある子供時代を過ごしてきた。恵まれていたと今になって思う。
そのわりには好きな作家の本しか読んでこなかった。その偏愛振りは今でも続いているのだけど。

自分が売った本が世界を旅する物語や、持っている本が不幸の種になる物語。幻の本を探したり、彼氏に本を贈ったり、本を万引きしたり、死にゆく祖母のために本を探したり、恋人と本棚を共有したり。どれこれもなんだか懐かしい。

そういえば、子供の頃は、入り込んだ本の世界からよく母親に連れ戻されたものだ。
「ゴハンやで」「ゴハンできたでっ、はよ降りてきなさい」「ゴハンできたゆうてるやろがっ、はよきなさいっ!」

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2008年10月21日

三面記事小説<角田光代>−(本:2008年137冊目)−

三面記事小説
三面記事小説


# 出版社: 文芸春秋 (2007/09)
# ISBN-10: 4163263403

評価:86点

三面記事に載っている、小さな事件。
26年前に殺害した死体が家の床下からでてきたり、不倫相手の妻の殺害をインターネットで知り合った男に依頼してみたり、38歳の女性が16歳の少年にみだらな行為をしてつかまったり・・・。
興味本位で思わず読んでしまい、あまりのばかばかしさに一時は話題になったりするものの、すぐに忘れ去られて誰の口にも上らず脳裏から消え去ってしまうような事件。
そんな三面記事事件を、短編小説にしてしまったのがこの本。

新聞の一段数百字しかないつまらない記事が、角田光代の手にかかると、切なくそして狂気に満ちた見事な文学作品になってしまうのだから凄いものだ。
それも単に事件の舞台裏の覗き見趣味を満足させるというものではなく、読み進むうちにきっとこの事件の主犯者はこんな気持ちだったんだとか、絶対にこういう背景があったのだとか、信じ込まされてしまうような巧みな展開。
読者は徐々に犯罪者の心情の世界へ引きずりこまれていく。
登場人物が、救いのない泥沼に体も心も絡めとられていって、凶行に及んでいまうさまは壮絶だ。

最後の「光の川」なんて切なさの余り涙が出そうになった。
結構いいアイデアだと思うし、新聞記事を扱うことで世相を現すこともできる。続編が出ればいいのにいいのになあ。

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2008年09月21日

新世界より(下)−(本:2008年126冊目)−

新世界より 下


# 出版社: 講談社 (2008/1/24)
# ISBN-10: 4062143240

評価:90点

上巻を昨夜読みきり、そのまま下巻に突入して一気読み。
だいたいハードカバー550ページの本なんて通勤電車では邪魔になって読めないし、そもそも鞄に入れて持ち歩きたくもない。ということで気合を入れて休日読破です。
今日は雨だったし、引きこもるにはちょうどよかった。

上巻で、大冒険によって自分たちの住む街の秘密を知ってしまったキャンプから2年後。
あのときの記憶をゆがめられた主人公たちが登場し、いきなり緊張感あふれる展開に進んでいく。
友人たちの街からの脱走。この事件を通じて社会の仕組み(腐ったリンゴ理論)を書くことで、歪んだ未来社会はさらに全貌を見せていく。

それからさらに時が過ぎ、主人公の早季は26歳になっていた。
事件はバケネズミたちの戦争から始まり、そして一気に人類の危機になだれ込んでいく。
人の使う呪術とバケネズミたちの戦術によって繰り広げられる戦い。
姿を現した悪鬼の残虐な行動。
中盤から後半の展開はスリリングで息をつかせぬものだった。

映像化されそうな気もするが、呪術部分は難しいか。
アニメ映画でどうだろう。どうでしょう。
ジブリはないだろうけど。

物凄い被害を出しながらも、最後は収まるべく結末を迎える。
ただ、著者が書きこんだメッセージはいくつもの箇所で心のどこかに引っかかってくる。
「これがテーマだ!」という強烈な押し売りではなく、「こんなことも、あんなことも、そんなことも、やっぱり問題はありますよね。ね?」という控えめながら少し脅迫めいたメッセージ。
でも、確かにその通りで考え込まされてしまった。

ちょっと気になったのはここ。

「町の人全員の命運を担っている最高責任者にはね、清濁併せ呑む度量、真実を知っても動じない胆力が必要なのよ。あなたにはそれがあるわ」
清濁併せ呑むというのは、便利な言葉ではある。だが、きれいなものなら誰だって飲むことだろう。要は、汚いものを平気で嚥下できるということではないのか。

まったくそのとおり。
サラリーマンになって40歳もすぎると、偉そうに「やっぱり清濁併せ呑めないとね」なんてついつい言ってしまうのだが、大いに反省である。
それは単に「汚いことができる人間だ」ということに他ならないのだから。

情報操作、差別、性善説と性悪説。などなど、いろいろと考えさせられる部分も多い。
それでいてエンタメとしても一流。図書館で予約してから5ヶ月待っただけの内容だった。

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新世界より(上)<貴志祐介>−(本:2008年125冊目)−

新世界より 上

# 出版社: 講談社 (2008/1/24)
# ISBN-10: 4062143232

評価:90点

人類が超能力を手にした1000年後の世界。
ハリーポッターのような、小学校の描写から始まるが、こちらはもっとダークだ。
結界で張り巡らされた3000人の小さな街。外へ出ると恐ろしいことになると小さなときから教えられ、管理された社会の中での生活はどこかが歪んでいる。

まったくの事前知識なしにこの本を読み始めたので、まさかSFだったとは知らず軽い衝撃を最初に受けてしまった。
さらに、独特のネーミングで奇怪な生物が出てくる近未来は、椎名誠の「アドバード」や「水域」を髣髴させる。
だが、「バケネズミ」「ミノシロモドキ」「風船犬」などと呼ばれる生物は単に生態系が崩壊してできた新種というものではなく、物語の中で重要な役割を担っていくし、さらに最後にはドキリとする事実につながっていく。
これらの世界観すべてがほぼ完璧に作りこまれていて、読んでいくうちにあっというまにその世界に引きずり込まれていた。さらに、世界観の裏に隠れているテーマはかなり重たい。

上巻では子供だった主人公たちが様々な謎に突き当たり、そして小冒険の中で人間の現在の生活の成り立ちを説明してくれる。
「黒い家」のときも思ったが、著者は正念場を危機一髪でクリアするところを臨場感たっぷりに書かせるととてもうまい。
さて、いろいろなカラクリを知ってしまった子供たちの将来はどうなるのだろうか・・・。

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2008年09月06日

問題は、躁なんです 正常と異常のあいだ<春日武彦>−(本:2008年118冊目)−

問題は、躁なんです 正常と異常のあいだ (光文社新書)

# 出版社: 光文社 (2008/2/15)
# ISBN-10: 433403442X

評価:77点

出版社/著者からの内容紹介
うつがあれば、躁もある。ただし躁が取り沙汰されることは少ない。躁病のみを取り上げた一般書もない。これには理由があって、躁はうつよりも頻度が低い。しかもことに軽躁状態は、見過ごされやすい。明るく元気があってよろしい、というわけである。しかしそれは空疎で騒がしいテレビのバラエティー番組を、明朗で快活さにあふれた楽しいひと時と思い込むようなもので、先入観をあらためる必要があるのではないか。(中略)
本書は、さまざまな角度から躁についてのアプローチを試みている。読み進めることで読者の人間理解がより陰影に富んだものとなれば、著者としては当初の目的を果たせたと安堵することになるだろう。(「はじめに」より)

なるほど。
躁って、こんなに怖いことだったんだ。
こうやって具体的に事例を踏まえて説明してもらうと、自分の周りにいる人たちが実は躁なのではないかと思えてくる。
それ以上に、妙にテンションが高くてはしゃいでいるときの自分も実は躁だったのではないかと、ドキッとしたりもする。
うつの底が抜けて躁へと突入することが多いことから、躁が不安と絶望に裏打ちされていると分析する。
中島らもが躁状態になったのは、アルコールや薬物による依存症による身体の衰えを補うべく生じた祝祭的状況だったというのはなるほど納得だ。
その他、様々な犯罪や行動を、躁状態の観点から分析している。

自分は超楽観的な人間だから鬱病にはかからない、これまでそう思ってきたが、躁になる可能性は十分にあるな、これは。
気をつけよう。
といってもどう気をつければいいのかわからないのだが。
これを読んで自分の行動に不安が生じたら、病院で相談してみればいいといいだろうし、家族にそういう人がいれば無理やりにでも病院に連れて行くべきなのだろう。
だが、すでに躁病と闘病中の人やその周囲の人たちにはあまり役には立たない内容に思えた。

自分の行動がエキセントリックな変人っぽくなっていないか、誰か確認してくれないかなあ。

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2008年09月04日

リセット<垣谷美雨>−(本:2008年114冊目)−

リセット


# 出版社: 双葉社 (2008/2/13)
# ISBN-10: 4575236071

評価:86点

47歳の女性が3人。専業主婦とキャリアウーマンと水商売あがり。
それぞれの生活に不満を抱え、人生をやり直したいと思っていた3人は、突然30年前の高校時代にタイムスリップさせられてしまう。
昔に戻りたい。人生をやり直したいというのは、どれだけ幸せな生活をしている人でも考えてしまうこと。
平凡な人生を送っている私なんぞは、40を過ぎてから特にそう思う時間が増えてきた。
ふと気づくと、学生時代の自分が、昔より何倍も物事をカッコよくこなして尊敬を集めているというあまりに恥ずかしい妄想にふけっていたりすることがある。
こんな妄想が頻発するようでは人間としてもうダメなのかもしれない。自分のことながら、最近少々心配だ。

さて、小説に出てくる3人も、最初は喜び勇んで人生をやりなそうとするものの、なかなか思ったようにはすすまない。
専業主婦を捨てて女優としての人生を歩んでも、ヤンキー水商売あがりを捨てて医者の妻としての人生を過ごしても、キャリアウーマンを捨てて幸せな主婦になっても、結局人生は自分がどう生きるかですべて決まるのだった。
3人の女性たちが、悩み苦しんだ後で開き直って思ったことをガンガン口にする終盤は実に気持ちがいい。
そうだ、もっと言え。
限りある一度だけの人生だ。
生きたいように生きるのだ。
ふっきれたかのように前進を続ける3人のおばさんの姿は美しい。

ただ、腹を括ったときには、大概しがらみにがんじがらめにされて、思ったように生きることなんてまったくできもしないのが普通だけれど。

それにしてもうらやましい。
たとえどんなクソ失敗をしてもいいので、30年前に戻ってみたいよなあ。

ドタバタと揺れ動く心の描写が的確で、楽しめる一冊だった。
タイムスリップものとしては同名小説を北村薫がだしているが、あの切なさあふれる「リセット」と並ぶくらいの名作ではないだろうか。
褒めすぎたかな、ちょっと。

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