本:さ行の作家

2011年08月30日

ナマコ<椎名誠>

ナマコ
ナマコ
クチコミを見る


出版社: 講談社 (2011/4/8)
ISBN-10: 4062166550

そうか、小説だったのか・・・。

著者は無類のナマコ好きだし、著者らしい人物が一人称でモノ書きとして登場するし、最初の場面は行きつけの飲み屋だし、それはもう赤マントシリーズとかと全く同じで、これをエッセイと思わずに読み始めろというほうが難しい。
その居酒屋店主と、北海道の知り合いの漁師のところにでかけ、ナマコ漁の様子をみたところからナマコにどんどんと絡まれていく。
絡まれていくといっても、せいぜい香港にナマコ輸出の商談をしに出かけるくらいで、大したドタバタも起こらず、どちらかというと脱力系だ。

北海道で車を運転している居酒屋店主が無免許と書いているあたりでかなり心配になった。
エッセイでこんなことを書いていいのか?
無免許運転で捕まるではないか?
椎名誠だって法律違反の教唆で有罪になるんではないか?
それくらいは出版社がなんとかするのか?

そしてそのまま漁師町式豪快かけマージャンの場面になってもっともっと心配した。
さすがにこれはまずいのではないか?
現金のやり取りまではっきり書いてあるぞ。どーするんだシイナ?

そしてようやく気付いた。
小説だったとは・・・。

でも絶対やってるな。
無免許運転と高額かけマージャン。

エッセイと小説の境目を曖昧にした不思議な物語。
ずっとナマコが主役で、基本的に気楽に、そしてあっというまに読める。
椎名誠はしかしいいなあ。このまま世俗に染まらず老いていってくだせえ。
どこまでもついていきまっせ。

Comments(0)TrackBack(0)

2011年03月06日

ある悪役レスラーの懺悔<関川哲夫>-本:2011-16-

ある悪役レスラーの懺悔
ある悪役レスラーの懺悔
クチコミを見る


# 出版社: 講談社 (2009/3/27)
# ISBN-10: 4062152126

結構なプロレスファンでなければ、読んでも全く面白くないだろうしわけわからんだろう。

暴露といっても遠慮して書いているのがわかる部分もあるし、一方でどうでもいいことを個人名入りで書きまくっていたりもする。
特に関係者の女性関係はそんなに書く必要があったのだろうかね。
読んでいも気持ちの良いものではない。本人の下ネタはご愛嬌だけれど。

そうはいっても、楽しく読めた。ただ、文章はひどい。
波乱万丈と言えば聞こえがいいが、どちらかといえば行き当たりばったりの無計画無節操な人生。
でも、これまで悪役レスラーで通してきたポーゴらしいかも。

もうひとつ感じたのは、プロレスの世界は広いようで狭いのだなあということ。
日本の裏側のプエルトリコで、ポーゴがブロディやブッチャーと仲良くやっていたり、海外遠征に来た佐々木健介と一生に生活したり・・・。プロモーターやブッカーも同じ人がグルグル回っていろんなところで同じことをしてるようだ。

体を張って、己の実力のみで業界を生き抜いてきたことには敬服する。俺も「噛まされないよう」頑張ろうっと。


内容(「BOOK」データベースより)
政治家の息子でエリート柔道家だった男は、やがて一匹狼のプロレスラー“極悪大王”ミスターポーゴとなり、スター選手を光らせる“影”として、世界中のテリトリーを総なめにする。日本定住後は、FMW・大仁田厚の永遠のライバルとして、またW★INGのエースとして一世を風靡する―。誰もが本当に知りたかった裏の裏のプロレスの仕組みはもとより、それ以上のタブーとされる薬物汚染の実態、興行とヤクザの関係、ブロディ刺殺事件現場…と、これまでに類のない舞台裏情報を生々しく書き尽くし、真のプロレス芸術の深奥を披瀝する。



Comments(0)TrackBack(0)

2011年02月19日

殴る女たち<佐々木亜希>-本:2011-13-

殴る女たち 女子格闘家という生き方
殴る女たち 女子格闘家という生き方
クチコミを見る


# 出版社: 草思社 (2010/10/20)
# ISBN-10: 4794217846

内容(「BOOK」データベースより)
殴る、蹴る、関節を極める―そんな「なんでもあり」の総合格闘技の世界で激しく生きる女たちがいる。アマレスラー、柔道家、タレント、SM嬢、引きこもり、帰国子女…さまざまな経歴を経て「殴る女」となった女性たちの生を活写する鮮烈なルポ。

女子プロレスは何度か見に行ったことがあるが(GAEAがあった頃だから、随分昔だなあ・・・)、ガチンコの女子格闘技はまだ生で見たことはない。
歴史も10年程度、格闘技だけで食っていける選手もいないようだし、興業数も少ない。そんな中で、黎明期の女子格闘技界で活躍する選手にスポットをあてた貴重なルポ。かなり興味深く読んだ。
それぞれ、様々な境遇を経てトップ選手に駆け上がっていくのだが、みんな抜群にカッコいい。ルックスもいいのがまた不思議だ。

ただ、選手数を絞ってもっと深く掘り下げた内容にしてもよかったのではないか。
ゴリゴリと密着するのは著者の本意ではないのかもしれないが、彼女たちが格闘技の道を進んでいく本音みたいなところをより突っ込んで書いてもらえれば、胸への刺さり具合もより深かったような気がする。
日本の総合格闘技界は苦境に立っていて、女子格闘技もこれから楽ではないと思うけど、なんとか今後10年、20年と続いていって、大きくなって欲しい。
一度見に行こうかな・・・。

Comments(1)TrackBack(0)

2010年12月26日

本日7時居酒屋集合(ナマコのからえばり2)<椎名誠>-本:2010-61-

本日7時居酒屋集合! ナマコのからえばり 2
本日7時居酒屋集合! ナマコのからえばり 2
クチコミを見る


# 出版社: 毎日新聞社 (2009/6/11)
# ISBN-10: 4620319341

評価:80点

評価、とかいっても、椎名誠得意の身辺雑事エッセイに点数とかつけようもないんだけれど。
「サンデー毎日」連載をまとめたエッセイ集の第2弾。
文春の赤マントシリーズとあわせ、だいたい週に2本の連載エッセイを書き続けるというのが凄いもんです。

これからもビシバシと鋭い視点で書きまくって暴れまくる、椎名ジジイでいてほしいものです。
昔から椎名誠を読み続けているこちらも、すっかりオッサンになりましたので。

それにしても、黴がびっしり生えていたり、虫がウロウロしているホテルには泊まりたくないなあ。

Comments(0)TrackBack(0)

2010年12月25日

五つの旅の物語<椎名誠>-本:2010-60-

五つの旅の物語
五つの旅の物語
クチコミを見る


# 出版社: 講談社 (2010/2/18)
# ISBN-10: 406216058

評価:80点

内容紹介
辺境を旅する作家・写真家、椎名誠の集大成

海峡を渡る密漁船。
高地での巡礼。北極圏のイッカク鯨狩り……。
辺境への旅をライフワークとしてきた椎名誠が、旅先で出会った風景や人々を、写真と文で伝える。

*************************

世界の辺境を巡る旅は生半可なものではない。
これまで著者の旅の本もいろいろと読んできてわかっているはずだったけれど、写真を目の前にして改めて説明されたときの実感はけたが違う。
写真の持つ威力を改めて実感した。
それから、著者がどの街でも必ず撮っている子供たちの写真がいいなあ。
あんな写真を撮りたいものだ。


Comments(0)TrackBack(0)

2010年11月25日

アザラシのひげじまん<椎名誠>-本:2010-58-

アザラシのひげじまん
アザラシのひげじまん
クチコミを見る


# 出版社: 文藝春秋 (2010/04)
# ISBN-10: 4163724508

評価:80点

点数なんて付けようがないんだけど一応。
敬愛してやまない椎名兄貴の新宿赤マントシリーズも、いったいどれを読んでどれを読んでいないのかわけがわからなくなっている。
でもまあ、どれを読んでも面白いからいいのだ。
というか、どれを読んでも、このおっさんは同じことをやっているからなあ。
海辺でたき火をして三角ベースをして釣りをして、カツオの刺身を食って酒を飲んで役人に反抗して、ボロ車を愛して、仲間を愛して、旅をして、ひたすらに文章を書いて、真っ黒に日焼けして生きている。
こんな66歳っていないよなあ。
血圧高いとか言ってフラフラしている場合ではない。
俺もこんなジジイを目指そう。
まあ無理だけど、ひとつかふたつはマネをしたいなあ。
とりあえず日焼けでもしてみるか。
髪の毛の量では大きく負けていることだし。

ということで面白い本です。
カワハギの刺身を肝醤油で食ってみたい!

Comments(0)TrackBack(0)

2010年11月03日

微視的(ちまちま)お宝鑑定団<東海林さだお>-本:2010-52-

微視的(ちまちま)お宝鑑定団
微視的(ちまちま)お宝鑑定団
クチコミを見る


# 出版社: 文藝春秋 (2009/10)
# ISBN-10: 416371930X

評価:80点

ショージさんは昭和12年生まれ。
もう70歳を越えられたのだなあ。
長い間、軽妙なエッセイで楽しませ続けてくれているが、歳を重ねても庶民の視点は決して揺らぐことがない。
「そこに目をつけるか!」という驚きと「そうそうそのとおり!よくぞ言ってくれました!」という感謝にも似た気持ちを繰り返し味あわせてくれるのがありがたい。

台所用品を買い集めてみたり、パンツやネクタイや靴下をいきなり観察してみたり、はとバスツアーや銚子電鉄の旅をルポしてみたり。
相変わらず面白い。
それにしても宴会刺身舟盛用のでっかい舟を12000円出して買ってしまうところがショージさん。
エッセイのネタ用としか思えないけど。

まだまだ頑張って庶民目線のエッセイで楽しませてください。

Comments(0)TrackBack(0)

2010年10月03日

あすなろ三三七拍子<重松清>-本:2010-43-

あすなろ三三七拍子
あすなろ三三七拍子
クチコミを見る


# 出版社: 毎日新聞社 (2010/3/13)
# ISBN-10: 4620107549

評価:88点

またも泣かされてしまった。

45歳のサラリーマンが主人公。
重松清の書くおっさんは、描写が具体的でリアルなためすぐに感情移入できるんだよなあ。
今回は、主人公が会社の命令でとある大学に社会人学生として送り込まれ、存続の危機に瀕している「応援団」の再興に尽力させられるという内容。
45歳のおっさんが、詰襟を来て大学に通い、恐ろしいOBたちといまどきの若者たちの間に挟まれて苦労しながら応援団でガンバルなどというのはあり得ない設定で、あまりのバカバカしさに最初はどうなる事かと思った。それでも、読み進めるうちに、中間管理職の悲哀をにじませた主人公の頑張りに心打たれ、いつの間にか応援してしまっていたりするのだ。

「応援団」は自分たちが運動をするわけでもないのに、体育会系の理不尽さの象徴のような存在だ。
先輩に対しては絶対服従であり、メンツが特に重要視され、気力や根性や伝統が論理を凌駕する。
まあしかし、私もそうだったが主人公の年代の人間であれば、その理不尽さに少し懐かしさや気持ちよさを感じるだろう。なんでも理詰めでこられると、そうじゃないだろうと、時々は思ったりするのだ。

あすなろ応援団には、親子の確執あり、男の友情あり、一途な恋愛あり、性差別の問題あり、中間管理職の悲しみありと、日常考えられる様々な要素をぎゅっと詰め込んである。
ただ、コミカルに書いてあって最後まで心を強く痛めずに読めるところがありがたい。

ちょっと納得いかなかったのは、主人公の娘の彼氏であるチャラチャラした男。チャラチャラのままでいいんだという全肯定になっているが、決めるときは決めることのできる若者への成長を書いてほしかった。
こんな男が娘の彼氏になるのは嫌だ。

Comments(0)TrackBack(0)

2010年08月29日

身の上話<佐藤正午>―本:2010-32―

身の上話
身の上話
クチコミを見る


# 出版社: 光文社 (2009/7/18)
# ISBN-10: 4334926711

評価:95点

凄い。
ストーリーも面白かったが、それよりも一分の隙もなく流れるような文章で先を読むのを急がせていく語りの凄さに感服する。
電車を降りても読むのがやめられず、ホームのベンチに座ったままで読み耽ってしまった。
さすがだなあ、佐藤正午。

登場人物は直情型で、短絡的思考を繰り返すバカばかり。
得意先の女性と簡単に関係を持ってしまう出版社の営業担当。
妻子あるその男性に、思いつきでいきなり東京までついて行ってしまう主人公。しかも勤務中の休み時間にだ。
その主人公、2億円の宝くじに当たったはいいが、わきが甘すぎてイライラするし、主人公の友人たちは、後先考えず簡単に人を殺すし死体を隠ぺいするしウソはつくし会社の金を横領はするしでぐちゃぐちゃ。
ようやく出てきたまともな人間と思われた主人公の夫も、最後で衝撃的なバカぶりを暴露して、それが今回の身の上話の告白につながっていく。

しかしこれが、佐藤正午の語りを通すとなんとも魅力的なお話になってしまうのだった。
人生は偶然の積み重ねであって、熟慮すればいいってものでもないのかもね。


Comments(0)TrackBack(3)

2010年01月04日

神の狩人<柴田よしき>−本:2010-3−

神の狩人 2031探偵物語
神の狩人 2031探偵物語
クチコミを見る


# 出版社: 文藝春秋 (2008/6/25)
# ISBN-10: 4163270302

評価:79点

2031年の東京が舞台。
2010年の現在から予測できるであろう、老人問題や人口減少、自殺やドラッグなどの闇の部分が舞台設定として描かれているがそう違和感はない。
違和感がないということは驚きもないということで、これくらいの発想なら現代の高校生でも書いてしまいそうだ。
ただし、この設定の上に紡ぎだされる物語のスケールや、主人公である女探偵サラ、サラが頼りにする元探偵の老人・風祭のキャラの立て方はさすがにうまいし、読んでいて引き込まれる。
「ルシファー」が登場し、単純な近未来小説に宗教色が加わって壮大な世界観がこれから形成されていくようで今後が楽しみだ。というか、この小説はプロローグであって続編が作られるとネットで見たからそういうのだが、本当に次はあるのだろうか?

それにしても、2031年が舞台の小説の中で、9.11を物語のキーにするのは少々安易過ぎないだろうか。確かに9.11は衝撃的な事件ではあったが、いいかげん「使い古された手垢のついた手法」に見えてくるのでやめたほうがよいのでは・・・。

Comments(2)TrackBack(3)

うちのパパが言うことには<重松清>−本:2010-2−

うちのパパが言うことには (角川文庫)
うちのパパが言うことには (角川文庫)
クチコミを見る


# 出版社: 角川グループパブリッシング (2008/5/24)
# ISBN-10: 4043646054

単行本が出たのが2005年。
そして私はその単行本を2006年の夏に読み、このブログに感想をかいていたのだった。

恥ずかしいことに、2008年に文庫本化されたこの本を、最後まで読んでここに感想を各段階になってもまだそのことを思い出すことができなかった。
昔から、読んだ本や見た映画の内容について正確に覚えることが苦手だった。言い訳として、「読んだ本の内容を思い出せなくてもかまわない。本のストーリーや文章や感じたことは自分の深層心理に刻まれていて自分の糧となっており、必要なときにでてくるのだ。」などと偉そうにこれまで語っていたのだが、さすがに3年半前に読んだ本を、最後まで読んでも気がつかないというのはどうなのだろう。それはもう単純に物覚えが悪いおっさん、本を読んでも意味がないおっさん、ということにはならないか。
ふうう。困ったもんじゃ。

前回の感想を読むと、「ユーミン」にひっかかっているようだが、今回の私は「矢沢栄吉」にビビっときた。
3年半の間に自分が成長したのか、感性が変わったのか、単にその日の調子がそうだったのか。理由はよくわからないのだった。

本の感想を一切書いていなかった。
良くも悪くも重松らしいエッセイが詰まっている。
ビシっと心に響くものもあれば、わざとらしさに若干閉口するものまで。
単行本と違うのは表紙。少年時代の重松清とその父親の写真だ。
こういうのはいいよなあ・・・。

Comments(0)TrackBack(0)

かっぽん屋<重松清>−本:2010-1−


かっぽん屋 (角川文庫)
かっぽん屋 (角川文庫)
クチコミを見る


# 出版社: 角川書店 (2002/06)
# ISBN-10: 4043646011

評価:88点

デビュー間もないころに書かれた短編や、表題作にあるような少年期の妄想を小説にした短編8作品が収められている。
バラエティに富んでいて実に楽しく読めたが、正直なところ「これが重松清?」という驚きも多少あった。

「かっぽん屋」や「すいか」などは、少年時代の性への生々しい関心をリアルにそしてどこかユーモラスで哀しく書いており(ユーモアと哀しさはどこかセット)、ベースはいつもの重松節。ところが後半の短編はハッキリとSFになっていたりして、著者名を隠して読まされたら、きっと重松清だとは私は気付かないだろう。
いろんな小説が書ける人なのだなあ。

最後にインタビューが2つ収められているがこれもまた興味深かった。
重松清の作品のファンです、などと言っている私だが、恥ずかしながら彼が別に2つのペンネームを持って週刊誌に記事を書いていたことは知らなかったし、ゴーストライターをしていたことも知らなかった。
重松清作品が好きな人なら、楽しんで読むことができる本でしょう。

Comments(0)TrackBack(0)

2009年12月19日

みぞれ<重松清>−(本:2009年読了)−

みぞれ (角川文庫)
みぞれ (角川文庫)
クチコミを見る


# 出版社: 角川グループパブリッシング (2008/7/25)
# ISBN-10: 4043646062

評価:88点

暖冬なのかと思っていたら一気に寒くなってきたここ数日。通勤電車のなかでチビリチビリと重松清を読んで本日読了。
短編集なので、重松節の美しくてあったかいオチが何度も楽しめる。それだけにもったいなくてゆっくり読んでしまった。短編集って一気にクライマックスが訪れるので、よく熱中のあまりに電車を乗り過ごしてしまうのが玉に瑕なのだが。

1999年から2007年という随分と時間軸の長い間に書かれた作品群が収められているとうこともあり、物語の味わいも多種多様だった。
家族のキズナを描いた「砲丸ママ」や「電光セッカチ」。リストラサラリーマンの苦悩とそれに立ち向かう姿を描いた「メグちゃん危機一髪」。老いを描いた「みぞれ」等は、いつものとおり、心にぐっとくるはずれのないできばえ。いつもながらうまいものだ。
個人的に好きだったのは「望郷波止場」。テレビ界のストレートな欲望を結構えげつなく書いているところは爽快にさえ感じた。そんなテレビをガハガハ笑って毎日見てしまっているのだけれど。

息をするように「お話」を書きたい。
あとがきで著者がそう書いているとおり、我々の日常のほんの少し延長線にいるような人たちの物語ばかり。
この絶妙の「近さ」加減も重松清の特徴なのだ。

いい本だった。


Comments(0)TrackBack(2)

2009年12月16日

はむ・はたる<西条奈加>−(本:2009年読了)−

はむ・はたる
はむ・はたる
クチコミを見る


# 出版社: 光文社 (2009/8/20)
# ISBN-10: 4334926746

評価:90点

絶妙のさじ加減で、読むものの心をジンワリと暖かくさせる江戸下町人情物語。軽妙な文体でさらさらと流れていくのに、しっかりと胸に残るのはなぜだろう。
親に捨てられるなどして心にキズを負った子供達が主人公。短編が彼らの一人ひとりを順番に主人公にして連なっていく。彼らの周りの大人たちの視線が優しく、また作者の視線もとても優しいので読んでいてとても心地よい。また、彼らの活躍が様々な事件を解決していくといった、少年探偵団風味も少し混ぜてあって、それが爽快感にもつながっていく。
とにかくバランスのよい一冊だった。

一番好きななのは「子持ち稲荷」だろうか。
子を思う親の愛情の強さにホロリとしてしまった。もう完全に親目線でどっぷりだ。

表題にもなっている最終話の「はむ・はたる」とは「ファム・ファタール(運命の人)」のこと。仇討ちがテーマにしては若干軽やかで美しすぎるできあがりだったけど、まあこれもありでしょう。
あまり重い本を読みたくない今の自分の気分にうまくマッチングしていたので、高評価と言うことで・・・。

Comments(0)TrackBack(4)

2009年12月05日

brother sun 早坂家のこと<小路幸也>−(本:2009年読了)−


brother sun 早坂家のこと
brother sun 早坂家のこと
クチコミを見る


# 出版社: 徳間書店 (2009/8/26)
# ISBN-10: 4198627762

評価:85点

早坂家の三姉妹がおりなす、ハートフルな家族の物語。
「東京バンドワゴン」シリーズで、家族の物語をたくさん書いている著者であるが、この小説もそのテイストをきっちり踏襲している。家族の物語というと、私は重松清の書くそれも大好きなのだが、小路幸也の書く家族は重松清と比べてもう少しライトで華やか、陽性で楽しくなる。だからといって決して軽くはなく読んでいて胸が詰まる場合も多い。結構この雰囲気は好きだ。

あんず、かりん、なつめ、の3人姉妹がくらす早坂家(父親は再婚して家をでて、すぐ近くに住んでいる)のところに、突然数十年ぶりに父親の兄がやってくる。
平穏だった早坂家の生活が、そこからドタバタ騒動に巻き込まれていくのだが、そこそこ深刻な話題を扱っているにも関わらず、3人の潔いというか思い切りのいい行動やセリフがなんとも気持ちいい。
そう、著者の書く女性って、みんなカッコイイのだよなあ。

最後に家族が集合しての大団円に、今回は若干の苦味を残してある。まあこれはこれでよいかな。
暖かくて笑えて少し切なくて、小路幸也の書く本は結構いいと思うのだが、8月に出た本が図書館の棚に予約もされずに並んでいるところ見るとまだ人気爆発していない。いつかするのかそれはわからないけれど。

Comments(0)TrackBack(5)

2009年11月29日

流星さがし<柴田よしき>−(本:2009年読了)−


流星さがし
流星さがし
クチコミを見る


# 出版社: 光文社 (2009/8/20)
# ISBN-10: 433492672X

評価:78点

京都の小さな弁護士事務所で働いていた、コテコテ大阪人若手弁護士が、修行のために東京の大手弁護士事務所にやってくる。
言葉の問題から始まり、様々な苦労を乗り越えて弁護士青年が成長していく爽やかな物語。
爽やかすぎて少し物足りないくらいだったけど、安心して読めるうえに、ミステリ色が適度に散りばめられた短編も交えてあって、それなりに多彩な味わいです。そう、連作短編集になっているので解決もすぐにやってくる、これまた心安らかに読むことができた。
ミステリと言っても「すっぱいもの」事件のオチはどうかと思うけど・・・。

大阪人として私が上京したのが入社3年目の春。この小説の主人公ほどではないけれど、私も確かに肩に力を入れて東京に立ち向かおうとしていたところが少しはあったようにおもう。
幸いすぐに営業職にはならなかったので、大阪弁が災いの元になることもなかった。
さらに言えば、東京は大阪なんて相手にしていないんだよなあ。
20年近く東京で働いてきてようやくそんなこともわかってきたように思う。でも、大阪魂は捨てないのだ。仕事では完璧な標準語を話してはいるけれど。たぶん、ん、ちがうか?

弁護士という職業についてあまり深く考えたことはなかったが、著者は小説の中で何度も、弁護士は善人だけを応援するものではなく、善人ではない人の応援も唯一の存在としてしなければならないのだと書いている。
これからはそんな視点も持って弁護士を見てあげたほうがいいのだろう。簡単にヒステリックに他者を責めてしまう風潮は確かにあるだろうから。

Comments(2)TrackBack(2)

2009年11月26日

音楽は自由にする<坂本龍一>−(本:2009年読了)−

音楽は自由にする
音楽は自由にする
クチコミを見る


# 出版社: 新潮社 (2009/2/26)
# ISBN-10: 410410602X

評価:81点

坂本龍一が、音楽を巡るこれまでの自分の半生を振り返った一冊。月刊誌『エンジン』のインタビューが文章になっている。
これだけ凄い足跡を残しながら、「こうやって振り返ってみると、つくづく僕という人間は、とるに足りないものだとわかる」などとあとがきで言われてしまうと、本当にとるに足りない市井のしがないおっさんの立つ瀬がありませんってば。

私にとっての坂本龍一とは、中学生時代のYMOであり(ライディーンは衝撃だった)、いけないルージュマジックであり、センメリであり、ラストエンペラーであって、矢野顕子にリゲインだ。
うーん、つまりのところ私は売れてるときの坂本龍一しかしらないそのあたりの普通のおっさんということなのだな。
実際のところ、坂本龍一がこんなにアルバムを出しているとは知らなかった。
子供の頃からの音楽との深いかかわり(4歳か5歳で作曲してるし)や強烈な才能は読んでいるだけでため息が出てくる一方、高校生時代に学生運動にのめりこんでいく、今のイメージとかけ離れた若い頃の坂本龍一も面白い。
さらには、淡々とした語り口ながらもきちんと本音を言ってくれているようで、読んでいてすがすがしくもあった。

しかし、突出した才能と恵まれた環境と地道な努力が重なると、こんなに凄い人が出来上がるのだなあ・・・。

Comments(2)TrackBack(0)

2009年11月21日

かあちゃん<重松清>−(本:2009年読了)−

かあちゃん
かあちゃん
クチコミを見る


# 出版社: 講談社 (2009/5/29)
# ISBN-10: 406215496X

評価:89点

家族愛とイジメをテーマにしながら、大人も子供も精一杯に生きて成長していく姿を描く。
いつもの重松節でわかっていてもホロリとさせられるのだが、今回は「泣かせよう」という雰囲気が少し控えめで、その分上品な感じがしてよかったような気がする。
それにしても、この人の作品を読むときはいつも覚悟がいるんだよなあ。それでいて新刊が出るとどうしても読みたくなって、読み始めたらとても途中ではやめられず、グッと心に沁みてくる話に涙ポロポロになってしまうのだ。こんなふうに書くと、常習性のある悪い薬のようだ・・・。

夫の交通事故で一緒に死んでしまった会社の同僚の家族に償うために、20年以上笑うことなく必死で生きてきた母ちゃん。そんな母ちゃんが亡くなった村上さんのお墓の前で倒れたところから物語は始まる。
母ちゃんの思いつめた生き方は少し極端な気もしたけれど、人が亡くなるということはそれくらい大変なことなんだという著者の想いが書き込まれているような気がした。
イジメを題材にした少年達の話は、重いけれどラストに向けて前向きに進んでいくので救われる。本当はもっと暗く重くしたかったのかもしれないけれど、重松さん、これくらいでちょうどいいです。

Comments(0)TrackBack(2)

2009年11月14日

ほのエロ記<酒井順子>−(本:2009年読了)−


ほのエロ記
ほのエロ記
クチコミを見る


# 出版社: 角川グループパブリッシング (2008/5/30)
# ISBN-10: 4048839977

評価:72点

日本の古きよきエロから最近のエロまでを振り返る、情緒溢れるエロエッセイ本。
いや、研究というほど学術的な匂いはせず、どちらかというと体当たりルポの雰囲気も激しく漂い、力も抜けていい感じである。

ストリップ劇場やポルノ映画に突撃したり、昔懐かしい「俺の空」や「ダミー・オスカー」について語ってみたり。スポーツ新聞に今なお残るエロコーナーやエロ漫画を電車の中で覗き込んで見たり。中国まででかけてチャイナドレスをつくり、そのエロさを分析してみたり。
酒井さん、元気です。
エロを書きながら、淡々とした分析口調であるのも不必要にいやらしさを感じさせずちょうどよい感じ。

しかし、「俺の空」と「ダミー・オスカー」がくるなら、「カニバケツ」も入れて欲しかった。「ダミー・オスカー」と同じ小池一夫氏原作。
小学校6年生の頃に読んだが、ドキドキものでした。さすがにこれは女子は読まぬか。
早熟だったなあ・・・。

Comments(2)TrackBack(0)

2009年11月13日

続大きな約束<椎名誠>−(本:2009年読了)−

続 大きな約束
続 大きな約束
クチコミを見る


# 出版社: 集英社 (2009/5/1)
# ISBN-10: 4087712826

評価:80点

「じいじい」となった椎名誠とアメリカにいる孫の風太君のやり取りを読んでいると、自分も早く「じいじい」になって、孫と同じような会話を交わしたくなる。
まだまだ脂ぎった煩悩だらけの中年のくせに何を言うかと、世の中の老人達に怒鳴られそうだ。それよりも娘を嫁にやる気がないのだから私はずっと「じいじい」にはならないかもしれないなあ。今のところ娘も「私は結婚しない」と言っているので、それもあながち妄想ではないのかもしれない。ということで全面的に娘の決断を支持する次第であって、結婚などせずともよろしい。「じいじい」になれないのは少し残念だけれど、甥っ子の太郎君に時々あうことで我慢しよう。まだ0歳だし。でも結婚してしまうのだろうなあ、私の娘もいつかは・・・ぐすぐす。

ということでようやく本の話。
相変わらず、魅力たっぷりのシーナの日常が描かれていく。
最後はサンフランシスコから息子一家が帰ってくるところで終わる。
これから様々なドラマがまたシーナ一家を訪れるだろうけど、きっと大丈夫だろう。シーナの次の私小説が楽しみだ。

以下あとがきから引用

でも日常のアレコレヲ書いているうちに、一番大切なものは「命」なんだなあ、と思うようになりました。同時に「生きていく」ということです。
「大きな約束」は、いつだって、誰だって、いちばん大切なことは、生きていくこと−です。

Comments(0)TrackBack(0)

2009年11月07日

大きな約束<椎名誠>−(本:2009年読了)−



大きな約束
大きな約束
クチコミを見る


# 出版社: 集英社 (2009/2/5)
# ISBN-10: 4087712818

評価:83点

そうか、椎名誠もおじいさんになったのか。
ロスからかかってくる孫の電話をなによりの楽しみにするシーナはかわいらしくもあるが、その電話が「緊張の時間」であるところが、まだまだ「100%じいじい」にはなりきらなくて、ちょっと不良のシーナの香りを残していて楽しくもある。

相変わらず全国を飛び回るシーナだが、昔のように北極やモンゴル等の秘境のような場所にズンズンと突き進んでいくことはなくなったようだ。
といっても、普通のサラリーマンの私から見ると、まだまだスーパージイサンだけど。

娘も息子もアメリカに住んでおり、奥さんはチベットに何度もでかけていく。いっけんみんなバラバラのように見えるのだがそうではない。アメリカの息子や娘からは何度も電話がかかってくるし、夫婦と一人で小樽の別荘にもでかけたりして、自立しているが信頼しあってお互いを気遣うという、理想的な家族の姿がカッコよかった。
ああなりたいものだなあ。無理そうだけど・・・。

岳物語から続く私小説、つぎは風太物語となるのでしょうか。

Comments(0)TrackBack(0)

2009年11月03日

ファミリーポートレイト<桜庭一樹>−(本:2009年読了)−


ファミリーポートレイト
ファミリーポートレイト
クチコミを見る


# 出版社: 講談社 (2008/11/21)
# ISBN-10: 4062151324

評価:84点

重く深く激しい一冊。
そもそも厚い本なのだが、内容の濃密さにも圧倒されてなかなか進まない。読んでも読んでも終わりに近づかない感じだった。本を読むスピードはかなり早いと自負している私なのだが、先週はこれにかかりっきりだった。
母、マコが全てである娘のコマコは、母と一緒にある事件からの逃亡生活を続ける。虐待を受けながらも、愛する母の元を離れることなどできず、母のために生きるコマコ。二人が滞在する街はいつも現実感のない場所ばかりで、このまま物語がどこにいってしまうのか、最初は結構ハラハラした。
母がいなくなってからの第2部は、コマコの再生の物語。いや、再生なんかしていないのかも知れないけれど、第1部に比べると少なくとも現実感はあって地面をちゃんと歩いている気はする。そのぶん描写は激烈だ。命を削るようにして物語をつむぎだしてコマコが生きていく様子は、たぶん著者が物語を書く場面とダブっているのだろう。このあたりは読み進めるのが痛々しくなるくらいだった。
だからといって決して面白くないわけではなく、わけのわからないエンタメ部分もバランスよく残してある。

こんな内容ばかり書かれたら読むほうも大変だとは思うけど、たまにはいいんじゃないだろうか。
ぐぐっと重たいものを感じることも人生にとっては大事だ。たぶん。


以下はAmazon記載の紹介文。
あらすじ書くのも難しい内容だったので、ごまかしましょうかね、これで。

内容紹介:あなたとは、この世の果てまでいっしょよ。呪いのように。親子、だもの。

直木賞受賞後初の書き下ろし長編1000枚。
全身全霊感動のエンディングを迎える、恐るべき最高傑作!

ママの名前は、マコ。マコの娘は、コマコ。うつくしく、若く、魂は七色に輝く、そしてどうしようもなく残酷、な母の“ちいさな神”として生まれた娘の5歳から34歳までを描く。
怒涛のごとき展開と濃密な物語に圧倒されながらページを繰る手が止まらない第一部「旅」、紙上の文字がいまにも叫び出しそうな言葉の力に溢れ、この作品を同時代に読めた喜びに震える第二部「セルフポートレイト」――二部構成となる本書は、進化と深化が止まらないモンスター作家・桜庭一樹の新たな金字塔となった!  面白くて、どこまでも凄い!!!

Comments(0)TrackBack(9)

2009年11月02日

マイ・ブルー・ヘブン<小路幸也>−(本:2009年読了)−

マイ・ブルー・ヘブン―東京バンドワゴン
マイ・ブルー・ヘブン―東京バンドワゴン
クチコミを見る


# 出版社: 集英社 (2009/04)
# ISBN-10: 4087712907

評価:81点

内容(「BOOK」データベースより)
国家の未来に関わる重要な文書が入った“箱”を父親から託され、GHQを始め大きな敵に身を追われるはめになった、子爵の娘・咲智子。混血の貿易商・ジョー、華麗な歌姫・マリア、和装の元軍人・十郎、そして、がらっぱちだけれど優しい青年・勘一にかくまわれ、敵に連れ去られた両親の行方と“箱”の謎を探る、興奮と感動の番外編。

これまでの作品から一気に65年もさかのぼり、時代は終戦直後の日本。
主人公は勘一の妻、サチさん。
ここまで一気に昔に戻ると言う発想も凄いし、前3作では語り手だったサチさんのかわいらしい少女時代を読めるというのは素晴らしい。
戦後直後の日本の何でもありのエネルギッシュな、それでいて敗戦を抱え込んだどこか卑屈で理不尽な雰囲気がとてもよく感じられた。
いえ、私はそんな雰囲気を知っているほど歳はくっておりませんが、もちろん。
こういう小説を読むと、戦国時代とか、幕末とか、終戦直後とかの混乱期に生きることの血が滾る感覚を感じたかったなあと切実に思う。もちろん市井の人々の生活が、ただ生き抜くこと自体が、とても大変だったことはよくわかったうえでの平和ボケしたアラフォーの戯言です、すいません。

登場人物はみんな生き生きとしているし、物語自体に勢いがあるので一気に読めてしまう。GHQとか裏社会の連中とかまで巻き込んでという展開が若干強引なところもあるが、まあお約束の範囲内。最後はほっこり暖かくホームドラマをみているように綺麗に収束。少し物足りないけど安心できる、これって結構大事なことです。寅さんの映画のように。
サチさん、幸せだったんだなあ・・・。

Comments(0)TrackBack(3)

2009年10月10日

カウハウス<小路幸也>−(本:2009年読了)−

COW HOUSE―カウハウス
COW HOUSE―カウハウス
クチコミを見る


# 出版社: ポプラ社 (2009/06)
# ISBN-10: 4591109690

評価:88点

サラリーマンとしてまだ若手の主人公が、避暑地の別荘の管理人として飛ばされてくるという最初からわけありありの展開。
左遷の理由は後半まで明かされないが、まあ想定内の範囲。といっても実際のサラリーマンならまずありえないことだが。
カウハウスと名づけられたその別荘は巨大でいくつもの部屋を抱えており、窓を開けて風を通し、掃除をするだけで大変な労力だ。
主人公が赴任すると、老人と少女が別荘のテニスコートに無断で入り込んでテニスに興じている。
「出て行ってもらえ」と上司からの命令が飛ぶものの、人のよい主人公はあっさりと彼らを別荘に受け入れてしまうのだった。

登場人物がみんな心優しいあったかい話。できすぎている、ありえない、という批判がでることなんて重々承知のうえで、著者は読んだ人がほっこりと幸せになれる小説を書いたのだろう。
実際に読み終えた私はとてもよい気分になれた。
こうやって人に優しくできて、仕事もうまくいくような日々が過ごせればどんなによいことだろうか。
それにしても坂城部長、かっこよすぎ。
目指してみたいものです、こんなおっさん。

Comments(1)TrackBack(5)

2009年10月05日

カレンダーボーイ<小路幸也>−(本:2009年読了)−

カレンダーボーイ
カレンダーボーイ
クチコミを見る


# 出版社: ポプラ社 (2007/11)
# ISBN-10: 4591100022

評価:83点

出尽くし感のある「タイムスリップ」小説ではあるが、主題を切ないノスタルジーに置くことで見事に成功している。
特に、主人公と同じくらいの年齢で家庭を持つ男であれば、最後のページを読んだときはきっと胸がぎゅっと締め付けられてたまらない気持ちになるはずだ。この余韻は最高。
文句をつけるとすれば主人公が4人(2人×現在と昔)いるために、若干話がややこしくなってどの過去とどの未来がどのようにつながっているのか、伏線も含めて読み進めるうちに混乱してしまうこと。このあたり、それからあまりにあっさりとすっ飛ばしてしまったクライマックス周辺をもう少し丁寧に書いてもよかったんじゃないだろうか。でもあまりに書き込みすぎるとタイムスリップの矛盾がゴチャゴチャでてきて収拾がつかなくなるからこの程度でよいのかもなあ。

1968年、三億円事件が起こったその年に小学校で同級生だった三都と安斎の二人は、2006年に48歳になり同じ大学の教授と事務員という関係。
その二人が突然1968年に精神だけタイムスリップしてしまう。それも一晩ごとに現在と過去の繰り返し。
二人はそのタイムスリップの意味を、三億円事件に絡んで命を落としてしまった同級生の里美ちゃんを助けることだと考える。

奪われた三億円を奪い返して、里美ちゃんを助ける。そのために策を練る二人。そこにタイムスリップにありがちな様々な出来事が絡みハラハラさせながらも楽しく物語は進んでいく。
ひとついい方向に未来を変えれば、ひとつマイナスの出来事が起きている。理屈もなにもないけれど、感覚的に納得できる設定だからわかりやすい。浮気についての変化は結構笑えた。

過去に今の精神を持って戻りたい、という妄想は私くらいの歳になると何度も考えてしまうこと。そのときに今の自分はどうなってしまうのか、単純だけど答えのないパラドックスを適度に処理して、最後にうまくまとめている。
そうそう、三都の姉や祖父、ガンガンといったバイプレイヤーの愛情溢れる描写も絶品です。

Comments(0)TrackBack(9)

2009年09月21日

仮想儀礼(下)<篠田節子>−(本:2009年)−

仮想儀礼〈下〉
仮想儀礼〈下〉
クチコミを見る


# 出版社: 新潮社 (2008/12)
# ISBN-10: 4103133627

評価:90点

凄い。
上巻で膨れ上がった新興宗教が、ひとつのスキャンダルから一気に崩壊していく様子が怒涛の勢いで書かれている。
なんどか復活の気配を見せながらも、いったん狂いだした大きな流れの前では個人の力なんてなんの役にも立たない。
教祖の正彦は決して非人間ではない。
判断すべきときには必ず最善策を選び、できる限り危うい手は打たず、正常な倫理観に沿って物事を進めて行く。
それが何の役にも立たない恐ろしさ。
追い詰められた正彦は、残された信者たちの前で、これはいかさま宗教なのだ、俺は詐欺師だと告白し教団の解団を宣言する。だが、信仰にしか生きる道を見出せないくなっていた信者達はそれをも許してはくれなかった。
儲けることを目的とした会社であれば、それができなくなったとき倒産できるが、生きるための拠り所となった宗教にはそれも許されない。
なんと恐ろしいことか。

麻原が逮捕されても、彼が作り出した教えがそのまま残り、今でも彼の出所を待っている信者達がいるというおぞましい事実が改めて思い起こされた。
こういう宗教絡みの恐ろしい話を読むと、人間がどれほど不完全で脆い生き物なのか思い知らされるなあ。だからこそ、神が生まれたのだとは思うが。

それにしても、圧倒的な迫力にページをめくる手が止まらなかった。凄い本です。

Comments(2)TrackBack(2)

2009年09月19日

荒野<桜庭一樹>−(本:2009年)−

荒野
荒野
クチコミを見る


# 出版社: 文藝春秋 (2008/5/28)
# ISBN-10: 416327040X

評価:88点

山野内荒野(こうや)という女の子が、子供(12歳)から少女(16歳)へと変わっていく様子を美しく繊細な描写でつづっていく。
揺れ動きながらも、きっちりと芯の通った荒野の言動を読んでいると自然と父親目線になってニコニコしてしまうし、文字から的確に伝わってくる少女達の「美」にはドキリとくる。オッサンだなあ、俺は。
恋愛小説家の娘という、少し変わった設定にはなっているけれど、桜庭作品にしては随分と普通に物語りは展開していく。
いや、普通と言っても市井の人間にはなかなか起こりえないシチュエーションではあるけれど。
吊橋効果で気になった少年はクラスメートで、しかも親同士が再婚して同じ家に住むことになる。美人で自慢の友達は荒野に真剣に好意を寄せる。父親は女性にだらしなくいつも修羅場が訪れる。再婚した母親は生まれた赤ん坊を連れて家を出てしまう・・・。
などなど、どこにでもありそうだけど、そうそう自分の身には降りかかってこないだろうギリギリのところ。うまい展開だ。
捕れそうで捕れない絶妙の場所にゴロを転がし選手を動かす、名ノッカーみたいだぞ。(わかりにくい説明だ)

設定に加えて、出てくる少年少女たちがみずみずしい。
少女マンガっぽいのかもしれないが、古きよき昭和時代の少女マンガが好きだった私にはちょうどよい甘ったるさでもあった。

元は「ファミ通文庫」から出ていた2作品に、書下ろしを加えて本書になったらしい。ライトノベルは、実はおっさんに郷愁を引き起こすのかも知れない。

Comments(2)TrackBack(14)

2009年09月12日

空へ向かう花<小路幸也>−(本:2009年)−

空へ向かう花
空へ向かう花
クチコミを見る


出版社: 講談社 (2008/9/26)
ISBN-10: 406214963X

評価:84点

不幸な事故で少女を死なせてしまった春之(ハル)と、父親からDVを受けた挙句両親を失って祖父と二人暮らしの花歩(カホ)。
死のうと思っていたハルをカホが助ける形で偶然であった二人は、ハルが死なせてしまった少女がカホの親友であったことに驚く。

2人は小学6年生。
まだまだ子供なんだけど、それなりに自我が芽生え、人としてやっと悩み始める時期だ。
これだけ重いものを背負わされている12歳が、12歳になりに精一杯考え悩み苦しみ、でも頑張って希望を見出しながら生きていく様子は、読んでいてつらい部分もあるけれど心を打つ。
自分のことを思い出しても、小学校6年生っていろんなことを考えた時期だった。それでいて自分の心をうまくごまかせるテクニックやずるさを持っていないから、マジメに心が苦しくなってしまうのだ。

そんなハルとカホを、これもまた偶然助けることになる大人達。
一人は大学生で、もう一人はいわくありげな初老のオジサン。
この人たちが損得勘定なく子供達を応援していくのがまたいいのだ。

ハルとカホが偶然知り合うという展開や、それに絡む大人達も含めて空間が非常に閉じていることが少し気になるけど、それはそれで、古きよき大家族というか、村の共同体のようなものを感じさせてくれる。
たぶん昔は、ハルやカホのように傷ついた子供達がいたら、この小説のように周りの大人たちがたっぷりとフォローして愛情を注いで育てていったのでしょう。

いい本です。

Comments(2)TrackBack(9)

2009年09月05日

とんび<重松清>−(本:2009年)−

とんび
とんび
クチコミを見る


出版社: 角川グループパブリッシング (2008/10/31)
ISBN-10: 4048738917

評価:89点

やっぱり重松はいい。
わかっていても泣かされる。
私が安心して小説に身を任せ、ツボではきちんとホロリとさせられ、読後にしんみりとしかしあったかい気持ちで本を閉じることができるのは重松清と、あとは浅田次郎くらいか。
当然人気作家の重松清なのだが、彼の世代が私と同じなので、小説の内容にいつも親近感を覚えるというのも大きな要因だろう。
今回の主人公、ヤスさんは、昭和37年28歳の秋にアキラの父親となる。
ヤスの愛妻・美佐子さんが事故でいきなり死去。
ここから、父と息子の長い物語が始まるのだ。

読んでいてイライラするくらい不器用なヤスさんだが、息子への強烈な愛情はしっかりと伝わってくる。
そしてアキラもそうそうはいないと思えるくらい真っ直ぐで気持ちのいい少年に育っていく。
その様子が、時折ユーモラスに、そして時折読む人間の痛いところをギリっと突くように、丁寧な描写で進んでいく。
登場人物も舞台設定もほとんど変わらないのだが、読んでいて決して退屈になることがなかった。淡々として静かで、しかし思いいれたっぷりな描写が心に沁みるのだ。
周囲の人たちの愛情もよかったなあ。

どんなに大切に思っていた息子でも、自分の人生を歩み始め自分の家族を手に入れていく。なかなかそれを認められず葛藤していたヤスさんだったが、最後にはそれを受け入れる。
私の娘は17歳。いつかはヤスさんと同じ気持ちを味わうだろけど、まだ乗り越える自信はないなあ。

いろいろなところで出てくる市井の人たちの人生訓のようなものも心を打った。そうそう、人って結構いいこと言うんだよな。


Comments(0)TrackBack(1)

2009年08月26日

文章トレーニング<白井健策>−(本:2009年)−

文章トレーニング (ちくま文庫)文章トレーニング (ちくま文庫)
著者:白井 健策
販売元:筑摩書房
発売日:1987-01
クチコミを見る


# 出版社: 筑摩書房 (1987/01)
# ISBN-10: 4480021140

評価:74点

文庫本が出たのが1987年。
だが、その前に単行本として刊行されたのは1983年。
これはまたえらく昔だ。26年前と言えば私も紅顔の美少年。
いやいや、脂ぎった顔の高校生だったころ。

だが、今読んでも決して古臭くはないし、的はずれだとも思わない。
魅力的な文章を書き、他人にしっかりと思いを伝えるためにはどうすればよいか。それが極めて的確にバシバシとまとめてある。
確かに目新しい視点はなかったが(当たり前だ、だから26年前の本だと言っているだろうが)、日頃忘れてしまっている基本的な指摘を随分としてくれた。
んー、読み返してよかった。

著者が言うように、のびやかな心でゆとりを持って文章を書こう。
でも、訓練もしなければ決してうまくはならないのだ。
その前に会議資料をちゃんと作れないと左遷されてしまいそうだ。今日もまた真っ赤に添削された文章が部長から帰ってきたばかりだというのに・・・。

明日から頑張ります。

Comments(0)TrackBack(0)

2009年08月24日

送り火<重松清>−(本:2009年)−

送り火 (文春文庫)
送り火 (文春文庫)
クチコミを見る


# 出版社: 文藝春秋 (2007/1/10)
# ISBN-10: 4167669048

評価:85点

久しぶりに読んだ小説が重松清でよかった。
読み終わってそう思わせてくれた本だった。

「富士見線」なる私鉄沿線にまつわる9編の短編が収められている。
いつもの重松清どおり、心の奥のほうのちょっと痛いところをグリっとついていくるリアルな物語もあったが(「かげせん」、「よーそろ」)、今回はどちらかと言うとファンタジー色の強い物語が多く含まれている。
これって浅田次郎のジャンルではと思うものもあったけど、ファンタジーになっても重松は重松で、懸命に生きる市井の人たちを書かせたら完璧だ。
タイトルになっている「送り火」では、自分の父親の世代の頑張りを思い出してなんとも胸が熱くなったし、「もういくつ寝ると」も切ない話だった。

悲しいこともあるけれど、どこかにある幸せのために、自分の幸せのためにではなく、大切な人の幸せのために、みんな生きているのだ。
40をとっくに過ぎた私でも、読み終わった後にそんなことを照れもせずに考えてしまったりするのが「重松本」の魔力。
現在のBGMが「コブクロ」というのも影響がありそうだが。

Comments(0)TrackBack(2)

2009年06月13日

ドラフト1位 九人の光と影<澤宮優>−(本:2009年48冊目)−


ドラフト1位ドラフト1位
著者:澤宮 優
販売元:河出書房新社
発売日:2008-12-19
おすすめ度:3.0
クチコミを見る


# 出版社: 河出書房新社 (2008/12/19)
# ISBN-10: 4309270662

評価:88点

プロ野球ファンなら読んで損はない一冊。
ドラフト1位という、その年の新人選手として最高の評価を受けてプロ入りした選手たちの、その後の人生を丹念に追いかけている。
決して感傷的にはならず、かといって無機質でもなく、対象となる元選手達とちょうどよい距離感を保ちながら書き進められている文章にも好感が持てた。
それに加えて、なんといってもノンフィクションの持つリアリティが素晴らしく、読み応えがある。
登場する元選手達の言葉ひとつひとつが重いので、サラサラと読み飛ばすわけにはいかなくなるのだ。決して分厚くないし、装丁も軽めだが、内容はぎっちりと密度の濃い本であった。

巨人のドラフト1位から、阪急ブレーブスのマスコットの中に入る立場に変わった島野、鳴り物入りで巨人1位入団しながら、結局大成しなかった大森。
紆余曲折を経験し、悲願のプロ初勝利をあげた中京商業の野中(阪急1位)。
ドラフト1位に選ばれた時点で、野球の世界では最高の評価を得ていながら、そこから誰もが成功するわけではないのがプロの世界。
スカウトになった人もいれば、マスコットに入った人もいる。会社を作った人もあり、サラリーマンもいれば、クラブチームで野球を続けている人もいる。様々な挫折を経験して、みんな頑張ってるのだ。
読み終わって、ごっつい勇気を貰ったような感じになった。
人生って、悪いもんではないよね。一生懸命やってれば。


Comments(0)TrackBack(0)

2009年03月15日

私の男<桜庭一樹>−(本:2009年36冊目)−

私の男
私の男
クチコミを見る


# 出版社: 文藝春秋 (2007/10/30)
# ISBN-10: 4163264302

評価:70点

第138回直木賞受賞作。
問題作だと言われていたので興味はあったのだが、これまで読まずじまい。最近図書館で見つけて借りてきた。
明日が返却日なので、夜中に2時間一気読み。ふうう、疲れた。

体力的に疲れたというよりは精神的に疲れた。
近親相姦をテーマにしたドロドロとした気持ち悪い設定。
濃厚な性描写も多く、娘を持つ父親としては読み始めるとすぐに嫌悪感がフツフツと湧き上がってくるのを押さえられない。
それなのに、この小説に出てくる父と娘の関係はどこか純愛を感じさせ、最後まで怒涛の文章力で読ませていく。
二人のねじれまくった不安定な関係を現在から過去に紐解いていく展開もなかなかよかったし、いくつかの章では他人の目から二人の関係を語ることで少しは濃度を薄めて読みやすくすることにも成功していたと思う。

ただなあ、やっぱり少しダメだ。
自分の娘を「俺のものだ」と言って一線を越えていくバカオヤジの設定にどうしても納得いかないからだろうな。
過去にいろいろあってそんな男になったような書かれかたをしているが、あまりに説得力がない。
娘にすがって「おかあさぁん」もないだろう。
「男はみんなマザコンだ」という言葉を著者は間違って理解していないか?

インパクトのある序盤から一気に読者を惹きつけていく独特の世界観と文章力は素晴らしいと思うので、もう少し読んでいて気持ちのいい小説を著者には書いてもらいたいものだ。

Comments(2)TrackBack(20)

2009年02月24日

夏から夏へ<佐藤多佳子>−(本:2009年28冊目)−

夏から夏へ
夏から夏へ
クチコミを見る


# 出版社: 集英社 (2008/07)
# ISBN-10: 4087813908

評価:75点

『一瞬の風になれ』の佐藤多佳子初の書き下ろしノンフィクション。
著者の陸上競技への愛が随所に感じられるし、北京5輪で銅メダルを獲得した日本の4×100mリレーのメンバーの、一言一言が非常に新鮮でかつ重くて素晴らしい。
さすがに世界のトップアスリートは違うのだ。

だが、私はこの本を完全に誤解して読んでいた。
先日図書館の予約順がようやくまわってきて読み始めたのだが、これは北京一年前の夏(世界陸上大阪大会)から北京5輪の夏までを含めた物語だと思っていたのだ。
そう、クライマックスはあの北京の銅メダルだとばかり思っていた。
そんな過剰な期待を持ちながら読み進めたので、まずは世界陸上で盛り上がってテンションかなり高めになった。その後、リレーメンバーの練習風景やインタビューを読みながらさらにテンションは上がっていき、さあ、北京だ、銅メダルだ、俺はそんなクライマックスを読んだらなくかもしれない、などと思っていたら唐突に小説が終わってしまった。
ええ?なんで?と思ったのだが、全く持って私の勘違いだったようだ。
それはそうだよな、本がでたのが2008年7月なのだからオリンピックの開幕前じゃないか。
んー、思い込みって恐ろしい。
残りあと数十ページになったときにおかしいとおもったのだ。
これだけしか残枚数がなくて、どうやって感動的なフィナーレーを演出するのだろうと。

完全に私の勘違いなので著者にも作品にも何の責任もない。そしてこの小説からはアスリートのそれこそ血を吐き倒れこむような練習と極限に追い込まれた精神状態が良くわかる。
佐藤多佳子の本を読んでから陸上を見ると、4×100mってほんとにかっこよく見えるのだ。

ということで、北京5輪の話も書いてください、佐藤さん。

Comments(0)TrackBack(5)

2009年02月02日

いい奴じゃん<清水義範>−(本:2009年18冊目)−

いい奴じゃん
いい奴じゃん
クチコミを見る


# 出版社: 講談社 (2008/10/25)
# ISBN-10: 4062150174

評価:80点

25歳。社会の荒波に少し触れてその大きさと自分の無力さを実感しながらも、自分はひとかどの人物になりえるという根拠のない自信にすがり付いている年齢。
そんな年頃の登場人物たちの自分探し青春物語。
結構面白かった。
先日読んだ「幕末裏返史」といい、最近の清水義範、なかなかよいのではないか。ひところ何を書いても面白くなかったような気がするが(ひどい言いようです。清水先生すいません、知り合いではないけれど)、この作品は非常に楽しく読めた。
登場人物が漫画チックなのはいつものことなので仕方ないが、非常識なまでに前向きで、常に明るく生きていくのは好感が持てる。
アンラッキーな男という設定なのだが、どんな環境でもそれをポジティブに捉えて状況を打破し、困っている人を助け、進歩していく。
景気が悪くて日本全体が急速にシュリンクしている時代だからこそ、こういう内容は元気がでていいもんだ。
オネエ言葉の同僚や、ナマ足が魅力の定食屋のバイト娘(ナマ足って10年位前の言葉じゃないのかなあ、最近でも言うのか少し心配)もキャラが立っていて魅力的。理屈抜きに楽しめた。

「愛と日本語の惑乱」も昨年11月に出てるのか。
何かあったのか、積年の悩みから解放されたのか。
清水義範の今後が少しだけ楽しみになったきた。

Comments(0)TrackBack(1)

2009年01月27日

少しだけ欠けた月―季節風 秋<重松清>−(本:2009年15冊目)−

少しだけ欠けた月―季節風 秋
少しだけ欠けた月―季節風 秋
クチコミを見る


# 出版社: 文藝春秋 (2008/09)
# ISBN-10: 4163273905

評価:80点

いつもの重松節に比べると随分と控えめ。
それが読後の第一印象だった。

このシリーズも春から始まって秋まできたのだなあ。
そういう感慨は沸き起こったのだけれども。

哀しみから感動へと読者の感情を自在に揺り動かすのがいつもの著者の小説だが、本作品では予想よりその振幅が小さく、結果、思わず泣いてしまうような短編がなかったのだ。
ただ、それが決して悪いことだとは思わない。
この歳になると、あまり豪快に感情を揺さぶられると読むのがつらくなって本を途中で放り出したくなったりしてしまう。
この短編集のように、日常をさりげなく切り取ってホロリとさせてくれる小説って結構貴重なのだ。
大作映画で飽き飽きしてるところに、ちょっとした文芸調の小品が心に沁みるのと同じこと。

老後や痴呆の問題あり、中年サラリーマンの抱える苦悩あり、思春期の少年の悩みもありと、出てくる登場人物たちはみんないろいろと悩んでいるが、その悩みかたが人間らしくていいのだ。
個人的に好きだったのは、「ヨコヅナ大ちゃん」と「キンモクセイ」。
特に、脳梗塞で倒れ認知症も出始めた父とその介護に追われる70歳過ぎの母が借家を出て妹一家と暮らすことになる「キンモクセイ」は身に染みた。
大阪に両親を残している私も、いつそんな立場になるかわからないもので。今から妹に頭を下げておかなければ・・・。

Comments(0)TrackBack(1)

2009年01月20日

そうだ、ローカル線、ソースカツ丼<東海林さだお>−(本:2009年12冊目)−

そうだ、ローカル線、ソースカツ丼
そうだ、ローカル線、ソースカツ丼
クチコミを見る


# 出版社: 文藝春秋 (2008/05)
# ISBN-10: 4163702105

評価:85点

最高です。ショージ先生。
いったい何歳になられたのかよくわかりませんが、私が学生時代から大好きだったショージ先生そのまんま。
この不撓不屈、ちょっと違うな、不偏不党、これも違うな、不破蓬莱、違う、まあそんな感じのまったく変わらない東海林道の突き進み方が全く持って素晴らしい。ある種、感動的でもありました。

ばかばかしくも、思わず膝を打ってしまったり、クスクス笑い出してしまったり、大いに感心したり、本気でうらやましく思ったり、この人の本を読んでいると忙しくて叶わない。
目的を持たず旅をすることに徹してみたり、このお年でアキバの萌えーツアーに参加してメイド喫茶に行ってみたり、わざわざ京都に行って定食を食いまくってみたり、広辞苑に執拗なまでに噛み付いてみたり、よくやります。
この変わらないバイタリティはどこから溢れてくるのか恐ろしい。

最後に椎名誠との対談がある。
20年前の対談であれば二人の歩調は完璧にシンクロして、同じ方向に向いて強烈な馬鹿ビームをだしていたのだが、椎名誠が大人になってしまって妙に会話がかみ合わないのがまた面白い。
ギャートルズの真似をしたかったので生肉の塊をガブリとやりたかったという東海林先生を、椎名誠は冷めた眼でけなす。
読んでいて少しハラハラしました。現場の雰囲気を編集者に伝えてもらいたいものだ。

この本を読んでいるとソースかつ丼が食べたくなってしまい、ちょうど会社の食堂で味噌カツ丼がメニューにあったものだから思わず注文して完食してしまった。

それはそれとして、いつまでも元気で暴れてください。

Comments(0)TrackBack(0)

2008年12月26日

気をつけ、礼。<重松清>−(本:2008年167冊目)−

気をつけ、礼。
気をつけ、礼。
クチコミを見る


# 出版社: 新潮社 (2008/08)
# ISBN-10: 4104075094

評価:88点

先生と生徒、それを軸にした短編集。
どれもこれも温かく切なく、心に沁みる。
「最近多作すぎる、ありがたみがなくなる」となんども言わせて貰っている重松清だが、この短編集はいい作品がきっちり揃っていて読み応えもあった。

読みながら自分の小中学校の先生や、野球部の監督などを思い出した。
今の自分は、そのときのほとんどの先生よりも歳をとってしまっているのだと思うと恐ろしい。。
先生がどんな気持ちで教壇にたっていたのか、今なら随分とわかる気がするのだが、あのころはガキだったよなあ。
全ての先生と良好な関係が築けたわけじゃない。小説の世界ではないけれど、吃音の激しい気弱な先生をみんなで馬鹿にした苦い思い出だってある(その科目で100点満点中5点を取ったのだから、よほど授業を聞いていなかったのだろう。よく単位がもらえたものだ)。
それでも、どの先生も懐かしい。
自習時間にサボって遊んで、顔面張り倒されたことさえ。

小説の中に出てくる先生と生徒の関係は極めてリアルだ。
先生も生徒も人間だから、完璧であるはずもなく、嫉妬もすれば間違った指導もするし嘘もつく。
そんな先生と生徒の真剣なやり取りがとてもいいのだ。
野球部の鬼監督だった「アカオニ」とダメ生徒で野球部から脱落した「ゴルゴ」の話はちょっと泣いた。
ロックは始めることでロールは続けることよ、という「白髪のニール」もええ感じです。
ニール・ヤングを聞いてみようかという気になる。

小学校1年生のときの担任の先生とは今でも年賀状のやり取りがあるが、昨年の年賀状にはそろそろ定年だと書かれていた。
私自身がおっさんになるわけだ。
でもなあ、あのころからほとんど自分は成長してないように思うんだけどなあ。
どこかにビシっとしかってくれる先生がいないものか。
立場を笠に着て偉そうにするだけの上司ではなく。

Comments(0)TrackBack(0)

2008年11月28日

いきなり上手くなる!プロのデジカメ写真術<齋藤清貴>−(本:2008年156冊目)−

いきなり上手くなる!プロのデジカメ写真術
いきなり上手くなる!プロのデジカメ写真術


# 出版社: 草思社 (2006/05)
# ISBN-10: 4794215002

評価:90点

デジイチを買って半年余り。図書館でもしょっちゅうカメラテクニックの本を借りて読んだりしているが、いまひとつよくわからなかったりする。

で、これはいい本だ。
小難しいテクニックがギッチリ書かれているわけではない。
とにかく、楽しく、工夫して、自分なりの写真を撮ってください、という内容。
読んでいるうちにカメラを持ってすぐに街に飛び出したくなる本なのだ。
もちろん「写真術」なので、いろんな方法が書いてある。
でも、細かい数値や設定はまったくでてこない。
ここをいじってみたら、こんな写真もとれるよ、という感じの記載ばかりで、読む人の写真撮りたい心を強烈にくすぐるのだ。
さらには、気楽にドンドン撮りなさいという記述がなんども出てくるのがうれしい。
悩む前に撮れ、いくら撮っても金はかからん。それから自分が動いて撮りなさい、というのもいいなあ。

さて、明日もカメラを持って散歩に行くことにしよう。
新しい三脚とバッグも買ったことだし。
また買ったのか!
すいません・・・。つい。

Comments(1)TrackBack(0)

2008年11月27日

幕末裏返史<清水義範>−(本:2008年154冊目)−

幕末裏返史
幕末裏返史


# 出版社: 集英社 (2008/09)
# ISBN-10: 4087712591

評価:87点

おお、ひさしぶりに清水義範の本を読んで面白いと思ったぞ。
ここ数年、いやここ10年くらいはあまりにもパッとしなかった著者だが、これは結構面白かった。
アナトール・シオンというフランス人が、幕末の日本で大活躍する。
欧米列強の侵略から日本を守り、米国からつきつけられた不平等条約を撤回させ、日本を民主国家へと導く。
西郷隆盛、桂小五郎、坂本竜馬、井伊直弼、ペリー、勝海舟、近藤勇。実在の人物たちがシオンと会い、シオンと会話し、生き生きと物語のなかで動いていく。
前半は日本の実在史と大きくずれる話ではないので、読んでいるうちに日本史って本当はこうじゃなかったのかと錯覚してしまうほどだった。
実在しない人物に当時の日本の立場や状況を語らせることで、誰がどんな考えを持って動いていたのかが非常によくわかるのだった。

実際の日本史の上をそのとおりなぞってみたり、少し離れて空想してみたりしていたストーリーは、最後には雪崩のようにありえない姿に向かって突っ走っていって笑えるが、これがなかなか夢があって面白い。本当にそうなればよかったのに。
そうすれば世界大戦もなかったはずだ。

Comments(0)TrackBack(0)