本:ま行の作家

2011年01月09日

不肖宮嶋 誰が為にワシは撮る<宮嶋茂樹>-本:2011-3-

不肖・宮嶋 誰が為にワシは撮る
不肖・宮嶋 誰が為にワシは撮る
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# 出版社: 大和書房 (2005/10)
# ISBN-10: 447939124X

評価:80点

少し古い写真集だが、インパクトは絶大。
写真の持つ説得力と、それに加えられた著者の文章の清々しさがガツンとマッチしている。
いくつもの修羅場をくぐり、築きあげられてきたであろう揺るぎない、信念、スタンスがストレートにこちらに伝わってきて気持ちよかった。

権力や宗教の裏側にある胡散臭さを見事にあぶりだしているように思う。
最後の橋田信介氏の帽子の写真には心揺さぶられました・・・。

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2010年10月25日

天国旅行<三浦しをん>-本:2010-49-

天国旅行
天国旅行
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# 出版社: 新潮社 (2010/03)
# ISBN-10: 4104541060

評価:86点

心中をテーマにした短編集。
生と死を扱い、テーマがテーマだけに、どれもこれもそこそこ重たく、またブラックな内容も多い。

「森の奥」で、樹海で中年男性が死に損ねる様子をちょっとコミカルに描き、その次の「遺言」では若干行き過ぎた女房の愛情を書いているが、見方を変えればノロケにも見える。さらに、「初盆の客」は愛情たっぷりの幽霊物語だ。
ああ、少しホロっとくる程度の楽しい天国話なのだなあと思っていたところで、「君は夜」と「炎」でガツンと来るので用心が必要。
ドロドロとした愛憎劇はズブズブ沈んでいく底なし沼のよう。

とどめが「星くずドライブ」と最後の「SINK」。
前者からは死んだ人間が残していった愛情にいつまで縛られなければならないのかという厳しい問いかけを、そして後者からは、自分だけが死にそこなったという疎外感と絶望感をビシビシと感じる内容。

重いですが、いい小説です。

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2010年09月01日

少女<湊かなえ>-本:2010-33-

少女 (ハヤカワ・ミステリワールド)
少女 (ハヤカワ・ミステリワールド)
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# 出版社: 早川書房 (2009/1/23)
# ISBN-10: 4152089954

評価:77点

内容紹介
高2の夏休み前、由紀と敦子は転入生の紫織から衝撃的な話を聞く。彼女はかつて親友の自殺を目にしたというのだ。その告白に魅せられた二人の胸にある思いが浮かぶ――「人が死ぬ瞬間を見たい」。由紀は病院へボランティアに行き、重病の少年の死を、敦子は老人ホームで手伝いをし、入居者の死を目撃しようとする。少女たちの無垢な好奇心から始まった夏が、複雑な因果の果てにむかえた衝撃の結末とは?

************************

とりあえず最初に言っておくけれど、この表紙はないだろうこれは。

私の娘は高校3年生。
この小説に出てくる女子高生のように、複雑で残酷ででも純粋で、膨れ上がった自意識をうまくコントロールできずに悩む日々を送っているのかもしれないけれど、そんなことよりなによりこんな表紙の本を父親が読んでいるところを娘に見せるのは憚れる。
なので家族が寝静まった深夜にそっとリビングで読み続けたのだった。
電車でおっさんが開けるような表紙でもなく、それも困ったもんだ。
カバーかけろよ、と言われればそれまでだが、これまでそんな事をしたことがないので家にそんなものはないのだ。
手作りカバーはこれまたこっぱずかしいし。

と、内容に関係ないことを延々と書いてきたけれど、思春期の思い込みの激しさと繊細な感情がバランス良く書かれていて結構面白かった。
いくつかのストーリのかかわり方が多少強引で、若干リアリティに欠けるところが難だが、なんとか許容範囲。それよりは二人の掛け合いがもうちょっと欲しかったか。

面と向かって言うよりも、文章にした方が通じることがある。
確かにそうかもしれないな。特にこの年代は。
だからこそ、ラブレターや交換日記みたいなものが青春時代には流行るのかねえ。
今はメールがあるからそんなものはもうないのか。そうか。
歳月がすぎるのは早いものじゃ。

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2010年08月24日

花と流れ星<道尾秀介>−本:2010-29−

花と流れ星
花と流れ星
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# 出版社: 幻冬舎 (2009/08)
# ISBN-10: 4344017234

評価:80点

内容(「BOOK」データベースより)
死んだ妻に会いたくて、霊現象探求所を構えている真備。その助手の凛。凛にほのかな思いをよせる、売れないホラー作家の道尾。三人のもとに、今日も、傷ついた心を持った人たちがふらりと訪れる。友人の両親を殺した犯人を見つけたい少年。拾った仔猫を殺してしまった少女。自分のせいで孫を亡くした老人…。彼らには、誰にも打ち明けられない秘密があった。
*********************

著者の本を読むときはいつも本当に楽しみだ。
どんなふうに自分を騙してくれるのか、読み始めるまでの期待感の高さで言えば自分の中で最上位レベル。
どれだけ警戒していても、じわじわと著者のテリトリーにおびき出され、いつのまにか思考ががんじがらめにされていまい(蜘蛛の巣に捕まったようだ)、ラストのどんでん返しでいつも圧倒されてしまう。
それが好きだからやめられないのだけれど。

今回は短編集。真備シリーズの第3弾だというが前作をあまりよく覚えていない。登場人物には記憶があるのだが、ストーリーはまったく浮かんでこないのだ。

それはともかく、それぞれ短編ということで、あまり大仰な仕掛けはない。それでも、きっちり結末までに想像以上の驚きと感動を与えてくれるのはさすがだ。
一番好きなのは最初の「流れ星の作り方」かな。
結構哀しくてつらい話なんだけれど、このやるせなさというか、しんみりとした読後感がたまらん。

他の話では、トリック部分が少々強引なところもあったけど、許せる範囲。白内障とか髄膜炎はどうなんだろう。医学に詳しい人がいればそれなりに説得力があるのかなあ。

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2010年02月11日

カラスの親指<道尾秀介>−本:2010-18−


カラスの親指 by rule of CROW’s thumb
カラスの親指 by rule of CROW’s thumb
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# 出版社: 講談社 (2008/7/23)
# ISBN-10: 4062148056

評価:88点

今回はどんな風に騙してくれるのだろう。
道尾秀介の本を読み始めるときはいつもそんなワクワク感がある。
読み始めるとき、というよりは読み始める前からだ。
題名からいつもわけありで、伏線はりまくり。

今回は、「カラス」そして「親指」。
最後の爽やかなドンデンガエシが、両方をしっかりと結び付けている。
どの文章にどんなミスリードの仕掛けがあるかわからないので、結構気つけて読むようにしているのだが、読みやすい文体と臨場感溢れる描写についつい引き込まれてしまい、気付くと著者の思うがまま。
でもって、最後にあっと言わされてしまうのだった。

何を書いてもネタバレになりそうなので困るが、壮大な詐欺と家族の再生の物語、とでも言えばいいか。
直木賞候補にもなった作品。面白いです。

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2010年01月04日

ボックス! <百田尚樹>−本:2010-4−

ボックス!
ボックス!
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# 出版社: 太田出版; 1版 (2008/6/19)
# ISBN-10: 4778311345

評価:94点

どっぷりのめり込んで一気読み。
高校ボクシング部を舞台に、青春全開でもうたまらない。最高。
天才的なボクシングセンスを持ついわゆる不良少年の鏑矢と、いじめらっれ子から努力を積み重ねて才能を開花させた秀才の木樽。幼い頃からの親友だった二人が、同じ高校でボクシングを通じて成長していく物語。
と書くと、いかにもありがちなのだが、この小説の凄いところはボクシング技術の詳細な解説と練習や試合のシーンのリアルさと緊迫感だ。練習のひとつひとつに込められた意味。ガードから始まり、ジャブ、ストレート、フックと段階を踏んで見につけていく様子。ひとつひとつのパンチが丁寧に説明され、また、安全性と公平性をなかなか両立できないスポーツとしてのアマチュアボクシングが抱える問題についてもきちんと説明してくれる。試合をしている選手たちの心理描写も秀逸。
格闘技マニアとしては、このボクシングの説明や試合のシーンだけでどれだけ興奮して胸が熱くなることか。
鏑矢が風を巻き起こしながら稲村に襲い掛かっていくシーンは映像が目の前に浮かんで身ぶるいしたし、木樽がひとつひとつ技術を積み重ねて成長していく姿も感動的だった。高校生のスポコン物語をベースに「はじめの一歩」と「がんばれ元気」を足して2で割って加え、さらに「明日のジョー」のテイストをパラパラとまぶした感じ。
んー、よくわからんがとにかく贅沢に素晴らしい。
さらには、在日朝鮮人というデリケートな民族問題についても少なからずスポットを当てている。その書き方についても変な偏見が感じられず、爽やかで好感が持てる。

主人公二人のその後をどうするのか興味深かったが、納得できて非常にいいエンディングだった。この展開もほぼ完璧だ。

百田尚樹の本は初めて読んだが、「永遠の0」という小説も評価が高いらしい。是非読んでみよう。

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2009年11月28日

プリンセス・トヨトミ<万城目学>−(本:2009年読了)−

プリンセス・トヨトミ
プリンセス・トヨトミ
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# 出版社: 文藝春秋 (2009/2/26)
# ISBN-10: 416327880X

評価:88点

大阪の男のバカさ加減をしっかり書いてくれていて、読んでいてうれしくなった。
徳川が作り直した大阪城の下に、隠れるように作りあげられた大阪人のための大阪城。徳川幕府に見つかることなく、豊臣秀吉の直系を守り続けた大阪の人たちは、いつしか大阪国として自分達の国を作り上げていき、幕府が倒れた後には明治政府と正式に調印して独立国として認めさせたのだ。

大阪で生まれ育った人間として、大阪国という発想には荒唐無稽であっても全く違和感がない。
大阪人ならやりかねん。物語を読みながらずっとそう感じていたし、本当にこんなことがあればどれだけ嬉しいかと胸が躍った。

大阪国としてなにかするわけではなく、有事のときに男達が一致団結して立ち上がるシステムをじっと維持し続ける。
金をかけてそんなシステムを維持し続けることにどんな意味があるのか、そう問いかける会計検査官とのクライマックスのやりとりで語られるのが、「父と息子の情」というのがまたたまらん。
わけのわからん、とんでもない設定だけど、よくできた、でもやっぱりバカ話本。

会計検査院の3人組のキャラの立ち方も見事だし、一方大阪国の子供や大人の書き分けも素晴らしい。登場人物一人ひとりの印象が鮮やかで、いつまでもはっきりと脳裏に残るのは「鴨川ホルモー」からの著者の特徴だと思う。
人物描写が際立っているから、頭に映像が浮かびやすく、とんでもない設定の物語でもわりと素直に読み進めることができるのかもしれない(映画にもなりやすい)。
子供達の設定では、性同一性障害のような話もあって、そんなに軽いばかりのものではないのだけれど・・・。

さて、京都−奈良−大阪 と、古都を3つめぐったあとはどうするか。
東京に飛ぶか、神戸あたりを異人さん絡めて書くのか、琵琶湖の湖底に沈んだ大怪獣の物語でも書くのでしょうか、万城目さん。

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2009年09月16日

光<三浦しをん>−(本:2009年)−

光

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# 出版社: 集英社 (2008/11/26)
# ISBN-10: 4087712729

評価:69点

津波という圧倒的な自然の暴力の前に、島の住民は中学生の3人と2人の大人を残してみんな一瞬で死んでしまった。
そんな体験の中で、さらに黒い秘密を共有した子供達が、東京にでてから20年後に再会を果たす。
一人は妻と娘と団地で暮らす公務員。
一人は気ままな職人。
そしてもう一人は女優になって。
暗い過去を引きずり、全ての感情を押し込めた彼らの再会は歓喜を伴うものではなく、また未来があるものでもなかった。
子供の頃の秘密を引きずる展開は、東野圭吾の「流星の絆」を思い出させる。設定は随分と違うのだけれど、長い間続く「念」みたいなものは同じような気がするのだ。

ダークな世界を淡々と書いているところはある種の凄みも感じるのだが、どうにも登場人物たちに感情移入ができない。いや、主人公の信之の自暴自棄な感情には時折共感できる。ただ、それがうつうつと24時間続くのは暗すぎないか。
最後まで救いがないという設定はアリだと思う。だが、美花に信之が引かれる理由がよくわからなかった。と思って読んでいたら信之自身が最後にそんな言葉を口にしている。それでは読んでいる我々にわかるわけもないか。

簡単に罪を犯す主人公に若干の嫌悪感を感じながらも、暴力が彼らの元に帰ってこないことを祈らずにはいられない。だって椿ちゃんがかわいそう。

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2009年02月21日

仏果を得ず<三浦しをん>−(本:2009年25冊目)−

仏果を得ず
仏果を得ず
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# 出版社: 双葉社 (2007/11)
# ISBN-10: 4575235946

評価:80点

文楽である。
全く興味のない分野である。
この小説の主人公と同様に、高校生のときに芸術鑑賞会かなにかで文楽を見に行ったことがあるくらいである。
この小説の主人公と同様に、ぐっすりと眠り込んだ。
残念だったのは、この小説の主人公が笹本銀太夫の語りにたたき起こされ、文楽の世界に引きずり込まれたような経験ができなかったことだ。
いや、残念ということはないか、文楽にはまってしまうのは少し恐ろしい。
しかし、これほど一般人には縁のない題材で小説を書こうとする姿勢がまず凄いよな、三浦しをん。
それでもって、見事に自分の土俵に読者を引きずりこんで、あっというまに小説にのめりこませるテクニック。素晴らしい限りだ。
この小説を読んだ人は、テレビで文楽特集なんぞを目にしたときはいったんはその番組に見入るんだろうなと思う。
いや、お金払って文楽を見に行く人も結構いるかもしれない。
それくらい文楽素人に文楽を強く魅力的に印象付ける作品だった。

師匠と弟子の厳しい関係は結構体育会系。
でも、伝統芸能っていうのはそんなものかもしれない。
少し女性にダラしない師匠が話を適度に和ましてくれたり、主人公が唐突に恋に落ちて心乱されたり、適度にアクセントをつけながら文楽の太夫として主人公が成長していく様子が楽しく書かれている。
昔見た文楽では人形しか目に入らなかったけど、実は三味線も太夫も文楽のメインパートなんだな。知らなかった。

まあ、いまさら私が文楽にはまったり自分でお金払って見に行くことはまずないと思うが、機会があればこの伝統芸能をまた見に行きたいものだ。
そのときには三味線も、太夫も楽しんでみることができるだろう。

ところで「仏果を得ず」ってどういう意味なのだ。
生きて生きて生きまくる、ということなのだろうか?

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2009年01月22日

銀河不動産の超越<森博嗣>−(本:2009年14冊目)−

銀河不動産の超越
銀河不動産の超越
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# 出版社: 文藝春秋 (2008/05)
# ISBN-10: 4163270701

評価:74点

面白いのか面白くないのかと聞かれると、面白いのだけど(だって最後まで読んだもの)よく考えるとひょっとしたら面白くないかも。
ということで、最初から最後まで????な小説だった。
何事にも無気力な青年が主人公。
自暴自棄で無気力なのではなく、人生をガツガツと生きていくバイタリティを生まれたときから持っていない性格なのだ。
そんな青年を主人公にしていったいどんな小説にするんだろうと思ったが、主人公と対照的に出てくる登場人物がみんな精力的に動き回る。動き回り、食べまくり、作りまくり、演奏しまくる。
主人公は大学を卒業してから銀河不動産に就職し、そこでお客さんの相手をするうちに地元の名士のオバサマが購入した馬鹿でかい一軒家を借りて済むことになってしまった。
ロフトもあるそのだったぴろい家にコタツを持ち込み、家の端っこのほんの一部を使って生活している主人公が次々と不思議な客に出会う。
どうせみんなそこに住むんだろう、と思っていたら紆余曲折あって結局そうなるのだが、そこは最後が読めていても面白い。
サスガ森先生。スカイクロラシリーズで儲けているだけでもないようだ。

無茶苦茶な登場人物ばかりでてくるので一瞬不条理小説のように思える部分もあるが、バイタリティのなさが幸いしてかいつも冷静な主人公の言動によって、思ったよりも普通に物語りは進んでいく。
いや、押しかけ女房まででてきてしかもそれが初めて会う人だなんていう設定はもはや普通ではないな。

いずれにせよ、少しアブノーマルな不思議な感覚を楽しんでいるうちにあっという間に読み終えてしまう。
最後がハッピーエンドになって本当によかった。
こういうもともとバイタリティを持たない人間が生きていくことがタフな時代には、こんな主人公の小説を読むと(きっと他にはこんなのはないだろうけど)ちょっとホっとしたりもするのだった。

あまりガツらず、でもしっかり生きていきましょう。

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2008年09月18日

ホルモー六景<万城目学>−(本:2008年124冊目)−

ホルモー六景

# 出版社: 角川書店 (2007/11)
# ISBN-10: 4048738143

評価:82点

ある意味衝撃を受けた「鴨川ホルモー」の世界観を引継ぎ、そのサイドストーリーをちりばめた作品。
どれもこれも趣向を凝らしてあって楽しめた。
前作(前々作か?)をこれだけいろんなネタの作品につなげることができるのは凄いことだなと思うが、それだけ「ホルモー」の世界観が確固たるものとして出来上がっているからなのだろう。
だからどこをどういじっても、「これはホルモーだ」と言わざるを得ない雰囲気の作品に仕上がっていく。

それぞれ短編だったことも成功の理由だろう。
細かい設定を書ききっていないことで、逆に読者の想像力をうまく掻き立てている。
「東京にもあったのかホルモー!」と思ったときには、どこでどんな試合があったのか、東大は入っていたのか?早稲田は?慶応は?などとわけのわからんところに思いをはせてしまう。
東京は大学が多いから2部制になっていたかもしれない。

結構切ない恋愛ものが多かったのも読みやすくてよかったかも。
いろいろな恋がうまくいきますように。
特に「長持ちの恋」。400年の時を越えた想いには、成就を祈らざるを得ないのだ。

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2008年09月01日

シャドウ<道尾秀介>−(本:2008年113冊目)−

シャドウ (ミステリ・フロンティア)

# 出版社: 東京創元社 (2006/9/30)
# ISBN-10: 4488017347

評価:77点

内容(「BOOK」データベースより)
人間は、死んだらどうなるの?―いなくなるのよ―いなくなって、どうなるの?―いなくなって、それだけなの―。その会話から三年後、鳳介の母はこの世を去った。父の洋一郎と二人だけの暮らしが始まって数日後、幼馴染みの亜紀の母親が自殺を遂げる。夫の職場である医科大学の研究棟の屋上から飛び降りたのだ。そして亜紀が交通事故に遭い、洋一郎までもが…。父とのささやかな幸せを願う小学五年生の少年が、苦悩の果てに辿り着いた驚愕の真実とは?話題作『向日葵の咲かない夏』の俊英が新たに放つ巧緻な傑作。

最後まで謎を残して物語を進め、思い切ったどんでん返しでいつも読者を楽しませてくれる著者。そのサービス精神には感心させられる。
今回も、一筋縄ではいかないことは重々承知の心構えで読み始める。
母をなくしたばかりの父と少年、幼馴染の少女とその父親、父親の一人は精神科医で一人は精神病の研究者。
ここら辺でもう怪しさに満ち溢れてくる。
どこに伏線があるのか、どの時点で著者はわれわれを騙しているのか。
登場人物のセリフのひとつひとつ、動作のひとつひとつに注意しながら呼んでいくのが意外と楽しいのだ。

今回は多少わかりやすかったかもしれない。
いかにも善人っぽい人が悪人というのはよくある話しだし、少年の「父親もどこかに行ってしまう」というセリフ、少女の「おじさんには会えない」というセリフは裏を読んでいくとなんとなく全体が見えてくる。
いや、でも結局あの謎解きとラストはわからなかったのだから、途中わかったような気になりながら著者にいいように騙されて最後までいい気持ちで読まされてしまっていたということだ。
それが道尾秀介の技でもあり特色でもあるのだけれど。

鬼畜っぽい謎解きには多少異論もでるだろうけど、ミステリとしては合格点だと思う。
楽しめました。

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2008年08月18日

鼓笛隊の襲来<三崎亜記>−(本:2008年105冊目)−

鼓笛隊の襲来

# 出版社: 光文社 (2008/3/20)
# ISBN-10: 433492601

評価:92点

初めて著者の本を読んだ。
面白い。
独特の世界観にすっかり嵌まり込んで、読みふけってしまった。
ありえない世界なのに、いかにもそこにありそうな世界。
明日、自分が目覚めてみたら、そんなことが起こってしまうんじゃないかと自然に思わせるような世界。
その設定が実に見事で、読むものを引き込む。
微妙に不条理な設定がしてあるのだが、それについての説明は一切ない。
ないからこそ、それがいかにもあたりまえの世界のように思えてきて、今、私たちが過ごしている世界のほうが違うんじゃないかと感じさせる。
解説に「日常をほんのわずかに裏切るような歪みに目をつけ」と書いてあったが、まさにそんな感じだ。

こう書くと、どうにもキワモノっぽいのか、もしくは変化球主体でストレートに力のない2流投手のように思えるが、そうでもない。
設定こそ歪んでいるが、無駄のない静謐な文章は静かに心に響いてきて、何かを感じさせる。
表題の鼓笛隊の襲来もそうだった。
恐れる必要のないものを恐れることで失ってきたこと。
それは何と言われればすぐには浮かんでこないけど、そんなものが確かにあるような気がする。

「遠距離・恋愛」だけが少しベタ甘っぽくて色合いが違ったが、個人的には結構好み。
「校庭」は怖すぎる。

とりあえず、他の作品も読んでみることにしよう。

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2008年06月21日

脳を活かす勉強法<茂木健一郎>−(本:2008年87冊目)−

脳を活かす勉強法

出版社: PHP研究所 (2007/12/4)
ISBN-10: 4569696791

評価:85点

−僕はこれからの時代を乗り切るキーワードは「猛勉強」だと思っています。−
「おわりに」で著者はこう記している。
なるほど確かにそうだろうなと、武者震いして俄然やる気を出している自分がいる一方で、なんかそこまで言われるのは勘弁だなと弱気の自分もいる。
終身雇用も年功序列もなくなりつつあり、社会保障には先が見えず、「ほんもの」でなければ普通に生きていくことさえ容易ではなくなってきている現代。だからこそ、著者のこういう本は売れる。
やる気や焦りをどうやって形にしたらいいわからない我々にとって、メルクマールは必要なのだ。
でも「猛勉強」と言い切られると、怠惰なおっさんにはちょっとつらいなあ・・・。

書いてあることは非常にわかりやすく、もっともなことで、かつ「ちょっとやってみようか」と思わせるような内容。
これは素晴らしい。
早速私も各章のまとめのページをコピーして、机の前の貼ったところだ。
重ねて貼ったので全部が見えないところが今一歩だめか。

時間がないサラリーマンにとっては第3講の「「時間集中法」で勉強習慣化させる」が一番役に立ちそうだ。
あとは脳のコンディションの話。これも面白かった。

この本は図書館でかりたのだが、174ページのある箇所にラインがひいてあった。
安全基地からのチャレンジの重要性を説いたその章にあったのは「親の役割とは子どもに安全基地を与えることにほかなりません」という言葉。

なるほど。
どの親も悩んでいるのだ。
強制された勉強は絶対に身につかないと著者は書いている。
私も娘に「勉強しろ」という言葉を発するのはもうやめよう。
絶対に。たぶん。なんとか。無理かも・・・。

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ラットマン<道尾秀介>−(本:2008年86冊目)−

ラットマン

出版社: 光文社 (2008/1/22)
ISBN-10: 4334925936

評価:80点

見事に張り巡らされた伏線と、伏線のように見せかけられている騙しの語り。
相変わらず鮮やかだ。
ラストに何重にも重ねられたドンデン返しはさすがのうまさで、読者を唖然とさせる。少し歪んだ家族愛が盛り込まれているだけに、その驚きにも幾ばくかの切なさとか悲しさのようなものを感じさせるのが素晴らしい。
考えてみれば、主人公事態がラットマンの絵の如く錯覚して行動していたのだから読者が何度も騙されるのは当たり前の話。
主人公だけでなく、他の登場人物の行動も、どこもかしこもラットマンだらけだ。

ラットマンとは認知心理学では有名なイラストで、人の顔のイラストの中では人の顔に見え、動物のイラストの中にあればねずみに見えるというイラスト。
つまり、周囲の刺激により見方が変わり、またそれに命名効果が加わることからそれにしか見えなくなること。
恥ずかしながら、このラットマンという言葉は知らなかった。
「ねずみ男」の物語だと思い、どこで出てくるのか楽しみにして読んでいたらイラストだった。
んー。40年以上生きてきても、世の中知らないことばかりなのだ。
まだまだだね(テニプリ風)。

主人公たち登場人物はアマチュアバンドのメンバー。高校時代に結成したバンドをデビューを目指すでもなく、解散するでもなく、細々と続けて14年。
物語はこのバンドへのレクイエムでもある。
なんとなく郷愁のような寂しさを感じたのは、青春が終わりゆく様子がヒシヒシと感じ取れるからでもあるのだろう。

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2008年06月09日

楽園(下)<宮部みゆき>−(本:2008年83冊目)−

楽園 下

出版社: 文藝春秋 (2007/08)
ISBN-10: 4163263608

評価:79点

上巻をたっぷり使って、亡くなった少年「等」の超能力を肯定し、下巻からは「娘殺しと死体遺棄15年」事件の謎の解明へと一気に突き進んでいく。
相変わらず語りに過不足がなく、適度に伏線もばら撒き、それでいて展開にもそれなりの意外感を持たせ、そしてラストはいくつかのストーリーを束ねあげて綺麗にまとめる。
ベテランの構成術を見せ付けられる思いだ。
綺麗にまとめているわりには、なんとなくスッキリしない気持ちを残させるところも変わっていない。
この小説では、土井崎夫妻に殺された長女・茜の悪行をかなり断罪した書きぶりですすんでいる。
このあたりは現代の風潮を見れば読者にとっても想定内だし、気分よく読めるだろう。
だが、「誰かを切り捨てなければ、排除しなければ、得ることのできない幸福がある」とまで言い切ってまとめに入られると、幾ばくかの反感も出てきてしまってなんとなくすわりが悪い。
事実がそうだとしても、そこまで言い切られるとちょっとなあ、という気分だ。そう思う私の心自体が偽善に満ち溢れてるんだろうけど。

そんなこととは別に、ラストに向けてもうひとつ盛り上がりに欠けたのは、黒幕・ボスキャラ明夫の悪役振りがいまひとつ弱いことが原因に違いいない。
もっとえげつないキャラを作り上げておいてくれれば、それなりのカタルシスもあったのではと少々残念だ。

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2008年06月06日

楽園(上)<宮部みゆき>−(本:2008年81冊目)−

楽園 上 (1)

出版社: 文藝春秋 (2007/08)
ISBN-10: 4163262407

評価:80点

模倣犯から9年。
前畑滋子が主人公になり、両親による少女殺人死体遺棄事件の解決に挑む。
と書いてしまうとちょっと違うか。
あの事件のショックから、ライターとして一線を退いていた前畑滋子のもとに、亡くなった息子のことを調べて欲しいと言う女性が現れる。
彼女の息子の書いた絵が、ある事件の様子を表しているようだというのだ。
彼の能力は「幻視」だったのか。それともどこかで聞いて知っていた事実を書いただけなのか。
それを丁寧に調べていく前畑の様子が上巻では延々と400ページ。

宮部さん、時代小説の書きすぎで、現代ものサスペンスに対する飢餓感でもあったのだろうか。丁寧を通り越して強迫観念症の人間が手を必死で洗い続けるような執拗な描写だ。
もちろんそれは決して面白くないことではない。謎をうまくつないで読者を飽きさせない一方で、様々なキズを負い、それらを克服しようと一歩ずつ進んでいく女性達の力強い歩みをまっすぐに書き込んでいて素晴らしい。
それは、前畑滋子であったり、息子を12歳で亡くした萩谷敏子であったり、両親が殺した姉の遺体が埋まった家で何も知らずに生活してきたうえに、突然人生を破壊された土井崎誠子であったりするのだ。

さて、上巻でようやく少年の書く絵についての謎が解けたようだ。
これから事件の謎がどう解明されるのか。
ネット上のレビューをいくつか読んだ限りでは、あまりダイナミックな展開は期待できないようだ。
大丈夫か?少し不安・・・。

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2008年05月30日

星のひと<水森サトリ>−(本:2008年80冊目)−

星のひと
星のひと


出版社: 集英社 (2008/04)
ISBN-10: 4087712281

評価:80点

「でかい月だな」で第19回小説すばる新人賞受賞後の第1作。
受賞作は読んでいないが、たまたま手に取ったこの本、結構おもしろかった。

1970年生まれだからそんなに私と年齢も変わらないというのに、凄く若い人が一気に書ききったような瑞々しさに溢れている。
重松清を読んでいるときほんのわずかだが感じられる「わざとらしさ」(私はそれが好きなので決して否定してはいない)が、この小説からは微塵も感じられない。
一生懸命に生きているけど、少し偏った、何かが欠けた人たちの物語が非常に素直に書かれていてグッとくる。
これが計算されつくしたものだとしたら凄いのではないか。
自意識過剰な高校生達の心境なんて、よくここまで書けるもんだ。
ひょっとしたら大化けするんじゃないかということで、しばらく赤丸ウォッチしておきます。
「でかい月だな」も読んでみよう。

4つの中篇が納められているが、主人公が変わりながらつながっていく連作の様相。
最初の「ルナ」では女子高生のはるきが主人公。
幼稚なイジメを繰り返すクラスメートに辟易としながら、彼女の機嫌を損ねてターゲットになりたくないというちょっと歪んだ、でもあたりまえの心境が結構切実だ。
はるきの恋愛対象となる草太の父親、草一郎が主人公になって「夏空オリオン」につながり、次が、昔、草一郎の近所に住んでいた男の子「ビビアン」の物語「流れ星はぐれ星」に、そして最後は、草太の話「惑星軌道」で終わる。

決してハッピーエンドというわけではないけれど、基本的にいい人しかでてこないため、安心して切ない気分に浸れるのがいいのだろう。
甘すぎる、言われれば少しそんな感じもするけれど。


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2008年05月23日

晴れときどき猫背<村山由佳>−(本:2008年77冊目)−

晴れときどき猫背―seabreeze from kamogawa〈2〉

出版社: 集英社 (2002/10)
ISBN-10: 4087812758

評価:75点

表紙もかわいいが、中の子猫たちの写真はとんでもなくかわいい。
1匹だけの場合と比べて、4匹の子猫のインパクトは単に1匹の4倍ではないのだ。
もちろん、かわいさの分だけ、彼女達(4匹は揃って女の子)の世話は大変なようで、でもそれを心から楽しみながら暮らしている著者の様子が文章や写真からヒシヒシと伝わってくるのだった。
えっと、4匹の子猫の話と言うわけではなくて、著者がいかにして猫を買うようになったか(相方は生粋の猫嫌いで、家で猫が飼えるようになるまで10年以上かかったと言う)、そして彼女(初代飼猫)に子供が生まれ、またその子供が生まれ(それが4匹の子猫)という壮大な歴史物語のようなエッセイなのだ。
猫だけではなく、馬の話もあり、自然の中での生活の話もあり、そして命の大切さをシミジミと感じさせてくれる話もある。
それらがさらりと嫌味なく書かれているところはさすが村山由佳なのだ。

なんて書いても、結局は猫の本だけどね。

我が家の猫は相変わらず私には寄り付かない。
少し近くに行くと、シャア!と威嚇し、それでも近寄ると必死になって逃げまくる。
何故だ、俺が何をした、お前のご飯は俺が稼いで買っているんだー!
いやうそうそ、そんなえらそうなことは言わない。言わないから何が悪いのか教えてくれ、頼む、頼むから、なあ、頼むからあああっ!
などと叫びたくなるほど空しく悲しい気持ちになる。
神があたえたもうた試練としてもこれはあまりに酷くないか。
猫すきなのに。グズグズ。

まあいいか。

なにはともあれこの本、著者が真剣に猫に相対しているから、読んでいても気持ちいい。
ああ、俺も子猫欲しいよう。

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2008年05月21日

アブサンの置土産<村松友視>−(本:2008年74冊目)−

アブサンの置土産

出版社: 河出書房新社 (2000/05)
ISBN-10: 4309013538

評価:78点

最近、著者の「アブサン物語」を読んだので、ついでにこちらも図書館で借りてきた。(「アブサン物語」とこの本の間に「帰ってきたアブサン」がある)
21年間をともに過ごしたアブサンへの愛情に満ち溢れた本。
アブサンの死後月日がたつことで、アブサンへのリスペクトが著者の中でますます深まっているように思う。
当然のようにアブサンに去勢の手術をしたこと、アブサンを一生家猫として飼ったこと。
そのときはよかれと思ったことも、アブサンという人格(猫格)を考えたときに果たしてそれでよかったのか。
著者は何度もそんなことに思いを馳せて申し訳ないと思ったりもする。
それもこれも、思い出がどんどんと美化されて、アブサンへの思いが強くなっているからだろう。
美化、なんていうと著者に怒られるかもしれないが、明らかに「アブサン物語」の頃よりもアブサンの地位は向上しているように思えるのだ。

私の家にいる猫は、残念ながらまったく私になついていない。
さっきも彼女と眼があったが、ひくくうなりながら小走りに逃げていった。
ま、いいんやけど。
ちょっと悔しい。

「わたしたち夫婦はアブサンの余韻にひたって暮らしている。その余韻こそがアブサンの置き土産なのだ」
なんていいセリフなんだ・・・。

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2008年05月15日

有頂天家族<森見登美彦>−(本:2008年72冊目)−

有頂天家族


出版社: 幻冬舎 (2007/9/25)
ISBN-10: 4344013840

評価:90点

面白かった。
誰が読んでもそんな気持ちになるんじゃないだろうか。

奇想天外荒唐無稽の展開。
とびっきりの阿呆らしさを存分に振りまきながら、なんとなく切ない気持ちにもなって、ただ楽しく仲良く生きていくことの大切さを染み入るように感じさせてくれる。

いえ、題材は狸なんだけどね。
人間社会のなかに、狸もテングも紛れ込んで共存している。
その独特の世界観がまずたまらない。
主人公の狸たちのキャラ設定がまた見事。

狸界を束ねていた父親が金曜会なるメンバーたちに狸汁として食われてからの、4人の息子達の苦悩と奮闘と大騒動の物語だ。

真面目だが融通の聞かぬ長男。
蛙になって井戸の中に引きこもってしまった次兄。
阿呆ぶりだけはオヤジに負けない三男(主人公、矢三郎)。
泣いてはすぐに化けの皮がはがれて狸に戻ってしまう四男。
この濃い4人に加えて、神通力を失いつつある愛すべきぐうたら天狗の赤玉先生、そして人間から天狗へとステイタスをあげつつある弁天。
阿呆ぶりの徹底した金閣・銀閣も、そして悪の親玉である夷川早雲まで、これだけ魅力的に登場人物が書かれたファンタジーってなかなかないのではないか。

狸界の頂点となるため、政治活動に東奔西走する長男。
しかしその長男を狸汁にすべく、伯父の早雲は謀略をめぐらす。
騙し騙されの激しい知恵比べと肉弾戦。
そんなエグイ戦いも、狸たちがやっているとなんとなくのんびりと平和に感じられるから不思議なものだ。

「面白きことはよきことなり!」

俺も狸四兄弟を見習って、面白く生きるのだ!

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2008年04月21日

きみはポラリス<三浦しをん>−(本:2008年59冊目)−

きみはポラリス

出版社: 新潮社 (2007/05)
ISBN-10: 4104541052

評価:63点

恋愛をテーマに書かれた短編11作品が収められている。
「骨片」が2002年の作品。
他は、2005年から2007年の作品だ。
設定も多様。BLっぽい雰囲気におぞましさを感じてしまう「永遠につづく手紙の最初の一文」という最後の作品や(生理的にBLはどうしてもどうしても受け付けない−この作品は最初の作品「永遠に完成しない二通の手紙」につながっている)、ウケを狙っているとしか思えない「春太の毎日」(これは楽しかった)、禁忌の中に純文学的な香りを出している「裏切らないこと」などなど。
あの手この手でいろいろと書き込んでくる。
読者を飽きさせない設定の多様さは、昔ジャイアンツにいたクルーガー(「七色の変化球をあやつる変幻自在のクルーガー」とか呼ばれていた)のようで素晴らしいが、それよりは文章の巧さに感心する。さすが直木賞作家だ。

ただ、この作家。短編ってどうなのだろう。
きちんと起承転結があるわけでもなく、だからといって、幻想的な雰囲気にのめりこませてくれるわけでもなく、日常のワンシーンを中途半端に切り取った(と思えてしまうような)ストーリーの作品が延々と続く。
微妙な心理描写や言葉遣いは魅力的なものの、物語としての満足感は私にはあまり高くなかった。
著者にはじっくり長編で、しっかりしたストーリーをつけながら読ませてくれたほうがありがたい気がする。

ま、でもたまにはいいですが。

点数が厳しめなのは、BLに始まりBLに終わるというとんでもない構成に身の毛がよだちまくったからです。すんません。

おっさんの読む本ではないのかもしれません・・・。

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2008年04月05日

アブサン物語<村松友視>−(本:2008年51冊目)−

アブサン物語 (河出文庫―文芸コレクション)

出版社: 河出書房新社 (1998/09)
ISBN-10: 4309405479

評価:85点

会社で私の前に座っているT先輩がこの本を貸してくれた。
「これ、Amazonで1円で買ったんやで、読んでみ」
(先輩はバキバキの大阪出身です)
「ありがとうございます。おお、猫好きの間では有名な本ですよね、読みたかったんです。ありがとうございます」
「ええで、最後は涙ナシでは読まれへんで」
「わかりました。覚悟して読みます。でも、先輩の家って猫飼ってましたっけ」
「いや、俺のところは犬や。犬だけが家での俺の話し相手や」
「・・・。それにしても1円って安いですねー。送料入れても100円くらいでしょう」
「いや、送料は340円」
「え?340円?ああそうか、たくさん買えばいいんですよね、まとめて340円でしょ」
「いや、1冊につき340円」
「えーと、ほんならこの本341円ってことですか」
「まあそういうことかな」
「でも、定価460円の古本を341円で買ってどないするんですか。ブックオフやったら50円か100円で買えますよ」
「まあそういう考えもあるけどな」

これ以上言うと怒り出しそうだったので、ありがたく借りてきた。
村松友視が21年間一緒に過ごした、アブサンとの日常を書いた愛情タップリのエッセイ。
決して愛情を押し付けるようなベタ甘になることなく、冷静にしかしユーモアたっぷりに書かれていて、気持ちよく読むことができた。
猫の気持ちについての分析が鋭いところはさすがに作家だ。

ペットを飼うと必ずやってくる別れのとき。
淡々と書かれた最期の描写は胸にずっりしと沁みてくる。
うちのアブサン(名前は小雪ですが)には、できるだけ幸せに長生きしてもらいたいものです(でも、俺にはなついてないんだよなあ・・・)。
こゆき

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2008年03月29日

むかつく二人<三谷幸喜、清水ミチコ>−(本:2008年48冊目)−

むかつく二人

出版社: 幻冬舎 (2007/01)
ISBN-10: 4344012755

評価:83点

三谷幸喜と清水ミチコがJ-WAVEで放送しているラジオ番組を本にしたもの。
といっても、その番組は聴いたことがないのだが。

2005年4月から11月の番組をまとめたものなので、若干時事ネタの部分は古かったりもするが、そんなことが全く気にならないくらい面白い。
ゆるい応答の中に、鋭い切込みが巧みに混ぜてあって、老獪な技巧派ボクサーのハイレベルな駆け引きを見ている思いになる。
二人ともボクシング映画は好きみたいだし。

話題は縦横無尽。
ひよこ饅頭から土を食べる話からクイズとサザエさんと大阪万博と電子レンジへ。
もの凄い記憶力や頭の回転のよさで相手の清水ミチコや読んでいる私達を驚かせてくれる三谷幸喜だが、以外になところでヘタレぶりも発揮してくれて十分にスキを見せてくれる。
まあそれが人気?のわけなんだろうけど。
清水ミチコも、芸なのか素なのかわからないレベルのボケとえげつない突っ込みを取り混ぜていい感じだ。
この人のモノマネ芸はそんなに好きじゃないけど、この感じで話しているのならラジオを聞いてみたくなった。

ボケと突っ込みで応酬する漫才とはまた違う、独特の世界観。
相性いいんだろうなあ、この二人。

番組のサイトはこちら。
これって毎日やってるんだ・・・。



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2008年03月28日

カンベンして欲しい人たち<町沢静夫>−(本:2008年47冊目)−

カンベンして欲しい人たち―職場で、近所で、家庭で、困ったあの人への対処法

出版社: イースト・プレス (2007/08)
ISBN-10: 4872578201

評価:65点

著者は精神科医。
世の中に跋扈する「カンベンして欲しい人たち」を分類し、その傾向と対策を手短にまとめている。
「こんな上司はカンベンして欲しい」という章では、「自分が常に正しいと思っている上司」とか「判断力ゼロ・決断力ゼロ」上司が登場し、「こんな同僚はカンベンして欲しい」という章では、「不平不満ばかりのグチ同僚」とか「机の上を片付けられない同僚」について説明されている。
対策はあまりに手短過ぎて、役に立つとはとても思えないけど、自分の周りを振り返りながら実感を持って読むことができる。
これらのカンベンして欲しい人たちが、なんらかの精神的な病にかかっているのだという分析にもなんとなく納得してしまったりするのだ。

まあ、この本にでてくるほど顕著ではなくても、どこかにそんな一面を持っているという点では誰でもあてはまることでもある。
私も読んでいて、何度かドキっとした。
「カンベンして欲しいヤツ」と陰でささやかれないように、自分の言動には気をつけたいものだ。

上司、同僚はともかく、カンベンして欲しい隣人にだけはあたりたくないよなあ。騒音オバサンみたいな。引っ越すって大変だし。

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2008年03月16日

きつねのはなし<森見登美彦>−(本:2008年41冊目)−

きつねのはなし

出版社: 新潮社 (2006/10/28)
ISBN-10: 4104645028

評価:60点

表題作の「きつねのはなし」を含む、中篇が4つ収められている。
オチがあるようでないような、奇妙な怪奇物語ばかり。
舞台は京都。
京都で学生生活を過ごした私にとっては懐かしい地名ばかりで読んでいて様々な情景が蘇って嬉しくなったが、それがなければ相当に退屈してしまったかもしれない。

実はこの本を読むのに1週間かかっている。
いえいえ、ずっとこの本を読んでいたわけではなく、同時に複数進行しているのだが、この本より後に読み始めて先に読み終えてしまう本が結構あった。
つまりこの本が、先へ先へとページをめくらせる魅力に欠けているのだ。
別に突飛なストーリーで読者をひきつけろというのではない。
こういった少しオドロオドロしい怪奇小説っぽいのは結構私も好きだ。
だが、途中の展開に魅力を感じないのだからどうしようもないだろう。

4つの作品の中では表題作が一番よかったかな。


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2008年03月12日

カクレカラクリ<森博嗣>−(本:2008年40冊目)−

カクレカラクリ?An Automaton in Long Sleep

出版社: メディアファクトリー (2006/08)
ISBN-10: 4840116008

評価:75点

やけに何度もコカ・コーラが話の中に出てくるのだなと不思議に思いながら読んでいた。
ひょっとしたら、主人公の一人がいつも飲んでいるコーラは幻覚を引き起こす麻薬物質かなんかで、全ては幻という落ちなのか、などというところまで考えていたのに、単にこれがコカ・コーラ120周年を記念したコラボ小説だったとは。それはそれは恐れ入りました。

小学校2年生の頃の授業参観でコーラをアルコールランプで沸騰させ、そこに毛糸を入れると溶けてしまうという実験をしたことがあった。
「このように、コーラはモノを溶かす力があるのです。コーラを飲みすぎると胃が溶けるかもしれないので飲みすぎてはいけません」と先生がのたまっていた。
どこまでほんとやらよくわからないし、そもそも沸騰したコーラなんて飲みはしないが、当時はマジでびびった覚えがある。

ということで、廃墟マニアの大学生二人が、同級生のお嬢様の実家に泊まりにいくことなり、その地方でいい伝えられているカクレカラクリと財宝のありかを探して探検する青春小説。
ミステリっぽい雰囲気がふんだんに入っていて、森博嗣らしい理系色の濃い謎解きが面白い。
登場人物たちも、ちょっと不思議系の浮世離れした人たちばかりが集まっている感じで、それが廃れゆく街の描写と妙にマッチして独特の雰囲気を醸し出している。
読んでいて、「その場所に参加したい」って強く思う小説も久しぶりだった。
なんだか毎日お屋敷でご馳走が食べられるみたいだし、廃墟も嫌いじゃないし、120年のときを経て動き出すカクレカラクリって見てみたいもんだ。

2006年にテレビドラマ化されたらしいが、私は見ていない。
ネットで読む限りあまり評判もよろしくないようだが・・・。

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2008年03月10日

ソロモンの犬<道尾秀介>−(本:2008年39冊目)−

ソロモンの犬

出版社: 文藝春秋 (2007/08)
ISBN-10: 4163262202

評価:72点

著者の作品にしては点数低め。
強烈などんでん返しに身震いし鳥肌を立てることを期待して読み始めたが、その期待があまりにも大きすぎたというところだ。
勝手に期待を膨らませた私が悪いのだが。

といっても、序盤から巧みに張り巡らされた伏線は見事。
それも、よくあるミステリ小説のように緻密に組み合わさっているというよりは、大胆にドカンと伏線を用意して鮮やかに読者を驚かせる。
いつまでこのパターンで頑張るつもりなのかは知らないが、できれば次回作も楽しませてほしいものだ。

まずいコーヒーをだす喫茶店に主人公の秋内が駆け込んだところから物語が始まる。
そうか、店の名前をそう使うか、と感心するのは270ページも後ということになれば、その壮大な計算に感嘆せずにはいられない。
しかもそれがまたネタだというのだから・・・。
と書くと読んでいない人にはなんのことかわからないが、中身は青春小説とミステリを混ぜ合わせたようなもの。
そこに伏線を混ぜ合わせていつものように料理してある。
秋内と京也、智佳とひろ子、大学生の4人がウダウダとした学生生活を送っているところに10歳の少年の事故死がおきる。
愛犬に引きずりだされるようにして道路に飛び出し、トラックに轢かれてしまった少年。
彼を殺したのは誰なのか。
秋内がその真相を探っているうちに、少年の母親であり、彼らの大学の教授でもあった椎崎先生が自殺する。
そして秋内も自転車事故に遭い・・・。

後半の展開は結構面白かった。
だが、期待していたほどではない。
死んだのが××だなんていうのは詐欺に近い展開だ。まあ面白かったからいいけど。
それより前半があまりに退屈。
事件がなかなか動きを見せず、やたらに伏線貼りに時間ばかりくっているので、読んでいてたまらない。
だいたい秋内みたいにウダウダしている大学生なんていまどき本当にいるのか?後ろからなんどどつきまわしてやろうと思ったことか。

そんなこんなで著者の本を途中でやめようと思ったのははじめてかもしれないが、結局最後まで一気読み。
伏線張りながらももう少しうまく読ませる内容にしてくだせえ。
次は期待してます。


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2008年02月15日

いまさら人に聞けない! ベストセラービジネス書のトリセツ<松田 尚之、齋藤 哲也>−(本:2008年24冊目)−

いまさら人に聞けない! ベストセラービジネス書のトリセツ

出版社: 技術評論社 (2005/6/21)
ISBN-10: 4774122327

評価:60点

出版社/著者からの内容紹介
 本書は、ここ数年の話題書、ベストセラー、さらに定評のあるロングセラーを中心に、その取り扱い方のツボを明らかにしたビジネス書読者のためのガイドブックです。書店の店頭に積み上げられた本の山を片っ端から読破しなくても、これ1冊で現在のビジネス書の世界のあらましを理解できます。

ということで、さらっと読んでみた。
結構辛口の紹介もあって、なかなか面白い。
第一部は「カリスマのツボ」
ここでこれから読んでみようと思ったカリスマは
「木村剛」だけ。
あとはこの本の紹介文でもう十分かな。

第二部は「快読のツボ」
ここで読んでみようと思った本は
「ウケる技術」「なぜこの店で買ってしまうのかショッピングの科学」「7つの習慣 成功には原則があった」「「人口減少経済」の新しい公式」「プロフェッショナルマネジャー」

第三部は「使える逸品」
「困ったときの情報整理」「議論のレッスン」「上司は思いつきでものを言う」「21世紀の戦略型人事部」「成果主義と人事評価」「プロジェクトマネジメント成熟度モデル」

こんなもんです。
ちびちびと機会があれば読んでいくことにしよう。

それにしてもビジネス本って本当に役に立つのだろうか。



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2008年02月09日

四畳半神話大系<森見登美彦>−(本:2008年20冊目)−

四畳半神話大系

出版社: 太田出版 (2004/12)
ISBN-10: 4872339061

評価:88点

結構とっつきにくい文章に、少々辟易としながらも読み進む。
途中から話は加速していき、登場人物たちのハチャメチャな行動に次第に魅せられるようになっていったところで第1話が完了。
さて、随分と場もあったまってきてこれからどんな展開になるのか期待十分に第2話を読み始めていきなり???だ。
第1話と同じような始まりかた。
けれど微妙に設定が違う。
時間軸が違うのか?なんだこれはとしばらく読んでやっと気づいた。
そうかパラレルワールドストーリーだったのだ。

主人公は京都大学の3回生。
親友小津のせいで実に不毛な2年間を過ごしたと、後悔にさいなまれる日々を送っている。
主人公が大学に入学し、時計台の下で様々な勧誘ビラをもらったときの選択肢は4つだった。映画サークル「みそぎ」、「弟子求ム」という奇想天外なビラ、ソフトボールサークル「ほんわか」、秘密機関<福猫飯店>。
当然、どれに入っても大変な事態が待ち受けているのだが、4つの話はそれぞれを選んだ場合のストーリーになっている。
登場人物は全て同じなのだが、微妙に設定が違ったりしていてそれがまた楽しい。

文語調で読みにくいなと感じた第1話だったが、その次からは大体の展開がわかっているので対して苦にならないのもいい。
毎回出てくる占い師のエピソードや、タツノオトシゴ水漏れ事件。
微妙に設定を変えながらも絡んでくる香織さんや、洗剤を使わなくてもガンガン汚れの落ちる魔法のたわしの話など、よくまあいろいろ考えて遊んでるなとニンマリさせられてしまった。
必ずハッピーエンドで終わってくれるところや、決めのセリフもしゃれていて、なんだかお約束のパターンが決まった出し物をみているようだった。
いかにも関西のノリでいいなあ。
こういうのは好きだ。

四畳半連鎖地獄に陥った最後は、やはりトイレが心配だった。
それから、著者はたくさんコピペしたんだろうなと。
それで枚数稼ぐなんて、大学のレポートと同じ発想なのかもしれない。

楽しめました。

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2008年01月20日

幸菌スプレー (すっぴん魂 (7))<室井滋>−(本:2008年13冊目)−

幸菌スプレー (すっぴん魂 (7))

出版社: 文芸春秋 (2007/09)
ISBN-10: 4163695303

評価:86点

「すっぴん魂」の最新刊
ほほう、こうくるのか、こんな本だったのか「すっぴん魂」って。

40年以上生きていると、「食わず嫌い」というものはほとんどなくなってくる。
好きなものは好きだし、嫌いなものは、食ってまずいから嫌いなのだ。
だが、室井滋に関しては大変失礼ながら「食わず嫌い」だった。
どうも生理的に受け付けないのだ。
たぶん、昔テレビでみた彼女の役柄がよっぽど鼻についたのだろう。
そうでなければ彼女を嫌う理由がわからない。

ということで、この本を手にしたのは本当に気まぐれだ。
嫌い嫌いと思って避けていたのだが、単なる芸能人のエッセイ集が第7巻まで続いているとなると何かあるのだろうと思わざるを得ない。
この本を図書館で目にしたときに、なぜかそう思って手にとってしまったのだった。

斜め読みでいいや。
そう思って読み始めたエッセイだったが、思ったよりも面白い。
自らを堂々とネタにして笑いをとる姿勢は関西の笑いに通じるものもある。
そしてこの本の中のあるエッセイを読んだときに、私の彼女に対する理由なき嫌悪感は完全に好感度100%に変換した。

それは彼女が車に乗って信号待ちをしているときの出来事。
一匹の犬が道路に迷いでて信号待ちをしている他の車の下にもぐりこんでしまったという話。
このままでは轢かれる!そう思った彼女は車から飛び出して犬を車の下から引きずりだし、力任せに抱え込んで犬の命を救ったというのだ。
生憎の天気で、洋服を泥だらけにしながら。
近くの商店で預かってもらった犬の飼い主を探すために、彼女はちょうどその日収録の会ったラジオ番組を使って迷子の犬について電波で連絡し、無事に犬は飼い主の下に戻ったのだ。
いやはや凄い。
いくら自宅で猫を6匹も飼っている動物好きとはいえ、見ず知らずの犬に対してそこまでできる人はそうそういないだろう。

この話を読んだだけで、実は凄い人だったんだと気づいたのだった。
あ、でも猫のトイレの砂の上におしっこしてしまうような人でもありますが・・・。

すっぴん魂シリーズ、最初から読んでもいいかも、そう思ってしまったのだった。


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2007年12月23日

サウスポー・キラー<水原秀策>−(本:2007年159冊目)−

サウスポー・キラー

出版社: 宝島社 (2005/1/27)
ISBN-10: 479664458X

評価:85点

ハードボイルドじゃのう。
たっぷり楽しみました。

2005年に『このミステリーがすごい!』大賞第3回大賞を受賞した作品。
題名からわかるとおり、テーマはもちろん野球。
過去野球をしていた私にとっては、主人公の沢村の野球に対するストイックな取り組みに非常に共感が持てたし、クライマックスでの投球シーンにも血沸き肉踊った。

沢村はプロ野球界きっての人気球団の若手左投手。
ある日自宅前で見知らぬ男に暴行を受ける。
「約束を守れ」と意味不明の言葉を残して男は去っていき、そこから沢村に対する罠が動き始めた。
八百長疑惑、暴力団との関与を指摘する告発文書が球団とマスコミに届き、沢村は弁明も空しく、自宅謹慎を命じられる。
誰がなんのために。沢村は知り合いの記者と少ない球団内の協力者をつてに自分を陥れた犯人を捜し始めた。

球団名はオリオールズになっているが、もちろん在京のあのGがつくチームがモデル。監督も終身名誉監督のあの方をモデルにしている。
球界内のゴタゴタドロドロしたやりとり、旧態依然としたコーチの指導方法なども、ありそうでなさそうでリアルだ。
2軍の描写はどうかとおもったが。
あそこまでやる気がないものなのかなあ、2軍って・・・。

沢村は調べていくうちにオリオールズの左腕投手ばかりがここ数年何度もトレードに出されていることに気づく。
また自分を襲ったチンピラたちから、黒幕の姿にも近づいていく。
このあたりの、サスペンスタッチの展開もスピーディーで楽しい。
なにより、いつも冷静でニヒル(死語か?)な沢村がなんともかっこいいのだ。
さらに、沢村と対峙する高木という男。こいつがまた憎らしく描写されていて悪役として最高のキャラだ。
いい感じの対決だった。

難をいえば犯人の動機が今一歩弱く、結末に意外性がないことだろうか。
それでも十分に楽しめたが。

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2007年12月10日

自己プレゼンの文章術<森村稔>−(本:2007年152冊目)−

自己プレゼンの文章術

出版社: 筑摩書房 (2007/02)
ISBN-10: 4480063498

評価:72点

ビジネス文書の書き方に役立つかと思って、題名を見て図書館で借りてきたのだが、実は就職活動中の学生達に贈る作文の書きかたの本だった。

大きく言えばふたつのことしか書いていない。
ひとつはどんな題材を与えられても、自分の土俵に引きずり込めということ。
もうひとつは短い文章をつないで書けということ。
それをいろんな言葉でわかりやすく説明し、また具体的なテクニックも並べてある。
就職活動中の学生というよりも、「綴り方教室」の授業を選択している高校生にも十分理解できるレベルだった。
いや、褒めてるのだ。
ただ、私も含め、ブログで文章を毎日これでもかと書き殴ることが好きなやから達には結構自明のことばかりかもしれない。
初心に帰る、という観点からはタメにはなるが、明日からの仕事に活かせる!というほどのものではないだろう。

ということで新書ながら1時間半ほどで一気読み。
間違ったことは書いていないので、お時間があるときにどうぞ。

今日は随分と上から目線な私だ。すいませんでした。

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2007年11月27日

夜は短し歩けよ乙女<森見登美彦>−(本:2007年145冊目)−

夜は短し歩けよ乙女

出版社: 角川書店 (2006/11/29)
ISBN-10: 4048737449

評価:89点

詭弁論部に入部した大学1回生の女の子、黒髪の乙女に恋をした先輩。
現実と幻想が入り混じったような展開も素敵だし、言葉のひとつひとつも面白い。
一見読みにくそうな仰々しい文体で書かれているが、読んでみると意外とリズム感もあってすんなり頭に入ってくる。
思わずニンマリさせられるような表現がそこに挟まり、これは中毒になってしまいそうな感じだ。

しかし好き放題、書きたいように書いてるなあ。
著者が楽しんでいる様子が伝わってくるようで、読んでいるこっちも楽しくなる。
大学祭の記述も、ありえない話が延々と続いているのだが、一種狂乱状態になった場の持つエネルギーがとてもよく伝わってくるのだ。
大きな緋鯉のぬいぐるみを背負って首にダルマの首飾りをした女の子、なんて学園祭ならいそうだもの。

京都大学出身の著者ということで、舞台も京都。
大学のある百万遍近辺や四条川原町に先斗町。京都で生活したことのある人間にとってはさらにたまらない魅力を感じる内容だった。

さて、別の作品も読んでみようかな。

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2007年11月12日

向日葵の咲かない夏<道尾秀介>−(本:2007年136冊目)−

向日葵の咲かない夏

出版社: 新潮社 (2005/11)
ISBN-10: 4103003316

評価:80点

「片眼の猿」をこの作品の前に読んでいたので、たぶんこの小説も根本的なところで読者をミスリードさせるのだろうと気をつけながら読み進んだつもりだった。
確かにミスリードにある程度騙されはしたが、しかし、この小説の本当の魅力はそれとはだいぶ違うところにあったのだ。
一番の魅力である不条理感は最後まで途切れることなく漂い、小説全体を覆っていて揺らぐことはない。

主人公ミチオ(小学校4年生)のクラスメートS君が自殺して、それをミチオが偶然発見するところから物語りは始まる。ところがこのS君の死体は消えてなくなってしまい、S君は蜘蛛に生まれ変わってミチオの元に現れる。
「僕は自殺したんではなくて殺された、僕の死体を見つけて欲しい」という依頼とともに。
ミチオはS君と3歳の妹ミカと一緒に死体を探し始める。
S君は自分を殺した犯人が、担任の「岩村先生」だとも言った。
岩村先生のところに僕の死体があるはずだというS君の主張をもとに、ミチオとミカは岩村先生を尾行する。

この設定自体がもはや非日常の世界なので、何を基準に読み進めていいのか一瞬とまどってしまう。
だが、無茶な設定であるにもかかわらず、主人公の推理は非常に論理的で、ミステリとしてもきちんと機能しているのだ。
といってもやっぱり強引だけど・・・。

トコお婆さん、犬のダイキチ、S君の家の傍にすんでいた泰造。
あやしげな登場人物はどんどん増えていく。
ひょっとしてミチオはもう死んでいるんじゃないだろうかとか、ミチオは犬かもしれないぞとか、物語り全体が人間社会のものではないのかもしれないとか、いろいろ考えて読んでいったが、最終的に人間でなかったのは●と▲と■だけだったか。

ミチオのこのセリフは強烈だった。
「誰だって自分の物語の中にいるじゃないか。自分だけの物語の中に」「自分がやったことを、全部そのまま受け入れて生きていける人なんていない。どこにもいない。失敗を全部後悔したり、取り返しのつかないことを全部取り返そうとしたり、そんなことやってたら生きていけっこない。だからみんな物語をつくるんだ。昨日はこんなことをした、今日はこんなことをしてるって思い込んで生きている。見たくないところは見ないようにして、見たいところはしっかり憶え込んで」
おっしゃるとおり。
明日からはそこは反省して生きてみよう。

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2007年10月31日

若さを保つ秘訣―松木康夫の健康対談<松木康夫>−(本:2007年126冊目)−

出版社: 講談社 (1977/08)
ASIN: B000J8WTA2

とある研修で読まされた本。
内容はともかく、今は絶版になっており、昭和52年の発行当時の価格は880円。
Amazonで調べてみた。
古書扱いになっていた。
値段は4800円だった。
ええええええええっーーーーーー!

わけがわかりませんねん。

著者は結構有名な人らしく、講演なども行っている。

本の中身は、著者が財界などの第一線で活躍する70歳以上の方にインタビューを行い、その健康法を紹介して分析するというもの。
21人のトップの人たちの健康法や人生訓のようなものは、それなりに面白く読めた。
ちょっと古いので今では鬼籍に入った人がほとんどだろう。
例えば、丹羽文雄、石井光次郎、務台光雄、石橋長英。
あ、凄い。
丹羽文雄を調べてみたらなくなったのは2005年、102歳だ・・・。
恐ろしい・・・。
例えばこの丹羽氏。
健康法は一年100日ゴルフと生野菜食いまくりである。

その他、いろんな人の健康法が、肉体面、精神面、食事面などから語られる。
まあ、みなさんいろんなことをやっておられるなと感心するしだい。
元気に長生きするのはそう悪いことではないと思うので、できることはマネでもしてみよう。

ただ、読んでいて感じたのは、みんな金持ちだからできるのだということ。
結局、長生きするにも金が必要な世の中なんだなあ・・・。

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2007年10月02日

鹿男あをによし<万城目学>−(本:2007年109冊目)−

鹿男あをによし

出版社: 幻冬舎 (2007/04)
ISBN-10: 434401314X

評価:90点

(ネタバレあります)
1800年間、恋する力が人類を守るのだ。

鹿と鼠がしゃべって、地面の下にはナマズがいる。
主人公の顔は次第に鹿の顔になっていき、マドンナは鼠の顔をして写真に写っている。
それはもうムチャクチャな設定と進行なのだが、とにかく面白くてどんどんと読み進んでしまった。

東京から奈良の女学校に、産休教師の代打でやってきた主人公。
授業初日にいきなりひとりの学生とぶつかりトラブルに巻き込まれてしまう。
カリントウばかり食べている風変わりな同僚や、影の薄い校長に野心家の教頭。姉妹校にはマドンナと呼ばれる美人教師。
そんな人たちが登場するいかにも学園物語風のストーリーに加えて、もうひとつは人間界を守る神々の使い、鹿と狐と鼠の物語。
日本列島の地下に横たわる大ナマズの、頭を鹿島大明神がおさえ、尻尾を奈良と京都と大阪で3匹の動物が抑えているのだと言う。その荒唐無稽なストーリーと学園物語がなんとも絶妙のバランスで混ざり合う。
表紙がすでにマンガチックではあるのだが、物語の場面がすべてきれいに絵になって浮き出してくるようでまさに読むマンガ?という感じだった。
んー、楽しい。

途中に挟んである3校の対抗戦、大和杯での剣道の試合が感動的だった。
延長がひたすらに続く最後の大将戦は、桜庭がホイス・グレーシーを時間無制限の試合で1時間半かかって破った試合くらい素晴らしかった。
今はまったくそんな気がしないが、読んでいる最中は剣道でもやろうかな、と思ったくらいだ。

著者には次回作にも期待したい。
多分相当色を変えてくるんじゃないだろうか。

さて、今度奈良公園に行ったら鹿に「ポッキー」をあげないとね。

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2007年09月01日

さよならサンドイッチ<前川梓>−(本:2007年90冊目)−

さよならサンドイッチ (ダ・ヴィンチブックス)

出版社: メディアファクトリー (2007/8/22)
ISBN-10: 484012034X

評価:75点

『ようちゃんの夜』で第1回ダ・ヴィンチ文学賞大賞を受賞した著者は1984年生まれ。大学を卒業したばかり。

7人の女性の恋の物語が、短編で綴られていく。
それぞれの話は独立しているものの、登場人物たちはいろいろと関わりあっており、それが物語り全体に絶妙な一体感をも感じさせてくれる。
この手のテクニックは最近よくあるのだが、23歳で違和感なく書ききっているのは凄いものだ。

短編それぞれで、女性達の恋する切ない気持ちは、文章からしっかりと伝わってくる。
若い人がこういう本を書いているのを読むと、人を好きになるときの喜びや苦しみっていうのは、時代が変わっても変わらないんだなと少し安心したりするのだ。
いつの世も、男女は切なく愛し合うということか。

全ての小説が女性の一人称だったが、読みづらさは感じなかった。
ただ、展開は結構ありきたり。DVにしろ不倫にしろ、どこにでもありそうな話が淡々と続いていくだけ。
それはそれで著者の狙いなんだろうけど、もう少し話に引きずり込むような何かが欲しかったなあ。

それでも次の本が出たら、また読んでしまいそう。
いえ、若い女性だから応援するとかそういうことではありません。決して。だってどうするんだ乃南アサみたいな人だったら。あ、ごめんなさい。


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2007年08月21日

むかしのはなし<三浦しをん>−(本:2007年87冊目)−

むかしのはなし

出版社: 幻冬舎 (2005/2/25)
ISBN-10: 4344007417

評価:82点

(ネタバレあります)
ううむ、難しい。
レビューを書くのがとにかく難しい。
7つの短編は、日本のむかしばなしをベースにして、著者がそれを現代風にアレンジしたとある。
アレンジ?んー、原型をとどめてないじゃないかと思うのは私だけだろうか。
もちろん、それぞれのむかしばなしの持つ、淡々とした残酷さや、ヒシヒシと沁みてくるような余韻、切なさは十分に感じられる。
だが、著者が書いたこれが現代のむかしばなしと言われてもピンとこないのだから仕方ない。
確かに面白いけど、これを語りつぐというのは無理があるというものだ。

主人公の一人語りで進められるそれぞれの作品は、その匿名性こそがむかしばなしのカギなのだと後書きで著者は言う。
でもそうか?一人称のむかしばなしなんてあったろうか・・・?

そんなひっかかりを除けば、それぞれの話は抜群に面白い。
ブラックに終わるもの、理不尽な展開が続くもの、微妙な余韻を見せるもの、生きることの意味を静かに問うてくるもの、それぞれの話の存在感が素晴らしい。
3ヵ月後に地球に隕石がぶつかって地球が消滅することが判明し、世界で生き残ることができるのは1000万人だけになったら、私は何をするだろうか。
「死ぬことは、生まれたときから決まってたじゃないか。いまさらだよな」なんてセリフをはいたモモちゃんのように静かに世界の終わりを待てるだろうか。
浅田次郎や重松清みたいに泣かせようとして泣かせてくれる小説もいいけど、こんな不思議な小説もたまにはいいもんじゃ。
それにしても他の人のレビューを読むとみんなベタボメだ。
ふーん、そこまで感動はできなかった。
私の感性が鈍くなっているのかも。

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2007年08月19日

天使の梯子<村山由佳>−(本:2007年86冊目)−

天使の梯子 Angel's Ladder

出版社: 集英社 (2004/10)
ISBN-10: 4087813193

評価:77点

「天使の卵」の続編。と言われても天使の卵を憶えてないのでいかんともしがたい。
そんな本を読んだことがあるようなないような・・・。
そういえば、一時期、村山由佳の小説が大好きになり、読み漁っていた時期があった。
あの頃、著者の作品を読んで深く感動していた印象からすれば、今回の作品の感動度はそこそこ、といった感じだろうか。
たぶんそれは、40歳を超えた私の感受性が鈍くなってしまったためなのだろうけど。

主人公の慎一と年上の元先生の夏姫は喫茶店で出会い、付き合うことになる。
8つの年齢差、夏姫に見え隠れする男の影、慎一の祖母の死、わりと地味に進んでいく恋愛小説だが、登場人物たちの精神状態がいっぱいいっぱいの状態なのでセリフに込められた想いがいつも切実だ。
それにうまく同化できれこの小説にのめりこめるだろうけど、置いていかれたように少し冷ややかに感じてしまう人もるんじゃないだろうか。
私はちょうどその中間あたりだった。
前作を読んで憶えていれば、夏姫や歩太の行動やセリフの持つ意味がもうちょっとわかっただろうになあ。

天使の卵は映画化されているらしい。
それでもみてみようかな。


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