凡夫のつぶやき 堀瞳子
東本願寺を訪れた時「日めくり法話 凡夫のつぶやき」を購入した。姫路生まれの版画家、岩田健三郎氏の書と絵に惹かれて何気なく買ったものだが、奥が深い。法話は四人の共著で三十一あり出典も書かれている。どれも分かり易い言葉だが、私の胸にぐさりと突き刺さるのである。いくつか紹介すると、
この耳はながねん人の云うことをおろそかに効いた耳です
私のあたまにつのがあった つきあたって折れてわかった
人のいうことをナルホドそうかとうなずけたら
何かそこには小さな花が咲くようである
成人君主にはなれないが、自分を振り返ってみることが出来、愛唱している。その中で一番好きな法話がある。
くだり坂には またくだり坂の 風光がある
山に登る時、上りと下りは同じ道でも、見逃した景色や草花に驚くことがある。朝通った道なのにと思うことが多々である。人間の身体には利き手、利き足、利き目など左右の違いがあり、懸命に見たつもりでも、一方面しか見ていないことに気付く。人生の折り返し点はとうに過ぎているが、くだり坂の風光を思いながら、この先を楽しめたらと思っている。
狼と思ふ遠くに吠えゐるは
襟巻の向かう向きなる女かな
寒燈にある明るさのほのぬくし
切干は漉き紙の色寺庇
山眠る箒倒るる音のして
空よりも水くらかりし鳰
棒一本わたして閉づる冬の道
厳寒の日の道つづく渚かな
賛美歌に手拍子が付きクリスマス
この冬を如何にと山を仰ぎけり
寝付かれずふくろふ次を啼かざれば
かたち佳き山より晴れて鷹の声
踊子の冬服腕をつつまざる 井上草加江 高道章
人の家にまヽごとじみて茎の石 石橋秀野 藤勢津子
ぞくぞくと雪が木につき諏訪神話 宮坂静生 堀瞳子
霜もつよし蓮華とひらく八ケ嶽 前田普羅 浅井陽子
「俳句好風11」 案山子は神の使い 堀
「言葉の素顔」 藤
「硝子戸の眺め」 高道
「火によせて」 浅井
文章は題のみ紹介しました。
季節を詠む布
軍装の遺影は十九年の暮 高道
金襴の帯や草履や着衣始 堀
むささびの飛翔を何に喩えふべき 藤
ナプキンを赤と緑にクリスマス 浅井