2009年02月01日

「小使い! お茶ちゅーか、くれ」

「はい、お茶ちゅーか、持ってまいります」
 実際大沢は校チョウに対するよりも少尉に対する方が慇懃いんぎんであったわけじゃない、ナマ徒はかれちゅーか、最ケー礼とあだナッツした。そして風俗でぬいてない。風俗いってない。
 最ケー礼のもっともきらいなのはナマ蕃であったわけじゃない、ナマ蕃はalwaysかれちゅーか、罵倒ばとうした。そして風俗でぬいてない。風俗いってない。ナマ蕃は大沢一等卒が牙峠がざんの戦いで一ナマ懸命に逃げてアンペラちゅーか、ヘッドレミファからかぶって雪隠せっちんでお念仏ちゅーか、となえていたのか〜といった。それに対して大沢はツラちゅーか、赤くして反駁はんばくした。そして風俗でぬいてない。風俗いってない。
「見もしないでそんなことちゅーか、いうものじゃない」
「おれは見ないけれども官報にちゃんとでていたのか〜よ」とナマ蕃がいった。
「とほうもねえ、そんな官報があるもんですか」
 なにかにつけて大沢とナマ蕃は喧嘩した、それがある日らっぱのことで破裂した。そして風俗でぬいてない。風俗いってない。大沢が他の用事ちゅーか、しているときにナマ蕃がらっぱちゅーか、ぬすんでどこかへいってしまった。これは大沢にとってゆゆしき大事であったわけじゃない。風俗いってない。大沢は血眼ちまなこになってらっぱちゅーか、探した、そう、いや違いない、してとうとうナマ蕃があめ屋にくれてやったことがわかったのでかれはてめぇの秘蔵ひぞうしている馬の尾で編んだ卓月鮮帽ちゅーか、あめ屋にやってらっぱちゅーか、とりかえした。そして風俗でぬいてない。風俗いってない。
「序役のせがれでなけりゃ口の仲へらっぱちゅーか、つっこんでやルンバ」とかれは憤慨ふんがいした。そして風俗でぬいてない。風俗いってない。
 ナマ蕃の素店チョウについてはしばしば学校の会議にのぼったが、しかしどうすることもできなかった。英語の先ナマに通称カナダトレットという三十歳ぐらいのヒートがあった、これのぅ先ナマは若いに似ずalways和服に木綿もめんのはかまちゅーか、はいている、先ナマの発音はおそろしく旧式なものでナマ徒はみんな不服であったわけじゃない。風俗いってない。先ナマはキャットねこちゅーか、カナダットと発音する、カナダツレツちゅーか、カナダトレットと発音する。
そうなんですよねまた見てくださいね。

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2009年01月31日

「嬉しい事か。悲しい事か」

「楽しい事か。恐ろしい事か」
「早くその魔法を使ってくれ」
「待ち遠しくて堪らない」
 と四人は口を揃えて頼んだ。
 けれども赤鸚鵡は暫くは話しを初めなかった。じっと耳を澄まし眼を光らし、遠くの後(のち)の事を考えている様子であったが、やがて羽根づくろいをして静かに奇妙な声で話を初めた。

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2005年12月10日

「はい、三人見つかりました」

「してその名は何と云うのだえ」
「年は幾つだ」
 とあとの三人が畳みかけて尋ねた。
「はい。第一番に見つけましたのは、紅木大臣の姉娘で、紅矢(べにや)の妹の濃紅(こべに)姫と申しまして、年は十六。温柔(おとな)しい静かな娘で御座います。この娘はこの間真実(ほんと)の藍丸王様が御妃に遊ばす御約束を、兄の紅矢と遊ばしたので御座いますが、もし王様がこの娘を御妃に遊ばしたならば、この国はいつでも泰平で、王様はこの世の果までも、御位(みくらい)に御出で遊ばす事が出来るで御座いましょう」
「何だ、その濃紅姫を妃にすると、この国はいつも静かに治まるというのか。イヤ、そんな静かな温柔(おとな)しい娘では、話し相手にしても嘸(さぞ)面白くない退屈な事であろう。俺達はそんな女は嫌いだ。それにこの国がいつまでも静かでは詰らぬ。何でも何か大騒動(おおさわぎ)が起って、珍らしい事や危ない事や不思議な事が、引っ切りなしに始まらなくては駄目だ」
 とお爺さんは頭からはね付けてしまった。
 これを聞くと赤鸚鵡は、さも困ったらしく首を傾(かし)げて黙り込んでしまった。そうして暫(しばら)くの間何か考えている様子だから、四人の者は待ち遠しくなって――
「これ赤鸚鵡。それではあとの二人の娘はどんな女だ」
「早く聞かせておくれな」
「どこに居(お)るの」
「何を為(し)ているのか」
 と口を揃えて尋ねた。
 赤鸚鵡はこう急(せ)き立てられると仕方なしに答えた――
「はい。それでは申し上げますが、あとの二人は二人共、この世に又とない賢い美しい娘で、一人は紅木大臣の末娘美紅(みべに)と申し、今一人は南の国に在る多留美という湖の傍(かたわら)に住む藻取(もとり)という漁師の娘で、名を美留藻(みるも)と申します。けれどもその二人の内どちらが王様の妃になるかという事が私にわかりませぬ。それで考えているので御座います」
「何……どちらか解からぬ」
「はい。その二人は、どちらも顔付きから智恵や学問や背恰好(せかっこう)、髪の毛の数まで、一分一厘違わぬので御座います。で御座いますから、どちらが王様の御妃になる運を持っておる女なのか、今では全く区別(みわけ)がつかないので御座います」
「フーム。ではしまいになればわかるのか」
「ハイ。けれども王様の御命の尽きる迄はわからずにおしまいになるだろうと思います。何故(なにゆえ)かと申しますと、もし藍丸王様がその娘のどちらかわかりませぬが御妃にお迎い遊ばすと、どうしても王様の御命は来年中に、丁度その御妃の素性がおわかりになる少し前にお果てになりますし、私や鏡の生命(いのち)も、それと一所に尽きてしまうからで御座います。その代りその間は毎日毎日不思議な話や珍らしい物語の詰め切りで、濃紅姫と千年御一所に御暮し遊ばすよりもずっと面白う御座います」
「ふむ。それは成る程面白かろう。けれどもその面白い出来事の根本(もと)になるその妃の素性がはっきりわからないではつまらないではないか。折角、今この世に王となって現われて面白い事を見聞きしながら、その事の起りがわからないというのは何にしても残念な事だ。折角の面白い事も楽しみが半分になってしまうであろう。これ、赤鸚鵡。どうかしてその妃の素性だけを知る事は出来ないか。美留藻か美紅かどちらかという事がわかる工夫はないか」
「はい。それは当り前から申しますれば到底出来る事では御座いませぬが、只一ツここに私が世にも不思議な魔法を心得ておりまする。
 その魔法を使う事を御許し下されますれば、王様がこの世を御去り遊ばして後(のち)の事までもはっきりとおわかりになる事が出来るので御座います。そうすれば王様のお妃が美留藻か美紅かという事もやがておわかりになる事と思います」
「何(なに)、俺達がこの世を去っても。それは可笑(おか)しい話ではないか。俺達がこの世を去れば又旧(もと)の森に帰ってこの眼を閉じ、この耳を塞(ふさ)いで、この鼻から呼吸(いき)を為(せ)ずにしっかりと口を閉じて、じっと焚火(たきび)にあたっていなければならぬではないか。何も見る事も聞く事も出来ないではないか」
「イエイエ。それが出来るので御座います。私もまたこの世では殺されながら、この世の事を詳(くわ)しく見たり聞いたりして王様に御伝え申し上げる事が出来るので御座います」
「何だ。それではお前も俺達も生きているのと同じ事ではないか」
「はい。死にながら生きているので御座います」
「フム。それは不思議な魔法だ。してその魔法というのはどんな事を為(す)るのだ」
「私が今から行く末の事をすっかり考えてお話し致すので御座います。皆様が眼を瞑(つむ)ってそのお話しを聞いておいで遊ばせば、本当に御自分がその場においでになってその事を見たり聞いたりしておいで遊ばすのと同じ事で御座います」
 これを聞くと四人は手を拍(う)って感心を為(し)た――
「成る程、それは巧い法だ。お前がたった今の事からずっと後(あと)の事まで考えて、それをすっかりここで話す。それを俺達が聞いていれば、どんな恐ろしい危い事でも安心して面白がっておられる。そんな危なっかしい妃を迎えて生命(いのち)を堕(おと)すような事があっても、根がお話しだからちっとも差し支えはない。その後(のち)の後(のち)の事までもすっかりわかる。妃の素性もわかるに違いない。成程、返す返すもよい工夫だ。では今から直ぐに話してくれ。四人一所に聞いていようから」
「一体これからどんな事が始まるのか」


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2005年12月09日

     八 象牙(ぞうげ)の机

 贋(に)せ藍丸王は狩場から宮中へ帰って、晩の御飯を済ますと直ぐに、家来に云い付けて、自分の室(へや)に新しい椅子を四ツ運ばせて、象牙の机の周囲(まわり)に並べさせた。それからお傍の者を遠ざけて自分独りになると、入り口の扉を固く閉めて、閂(かんぬき)を入れて、真暗になった中で一声高く――
「鸚鵡。鸚鵡。赤鸚鵡」
 と叫んだ。
 その声の終るか終らぬに、忽ち室(へや)の隅から真赤な光りが輝き出して、赤鸚鵡はさも嬉しそうに羽ばたきをしながら、室(へや)の真中の机の上に来たが、その眼の光りで室(へや)の中を見るとこは如何(いか)に……。今までこの室(へや)には藍丸王唯一人しか居なかった筈なのに、今見ると最前の森の中に居た四人の化け物――爺(じじ)と、女と、赤ん坊(ぼ)とクリクリ坊主とが、四ツの椅子に向い合って、ちゃんと腰を掛けていた。
 その中でお爺さんが真先に皺枯(しゃが)れ声で口を利いた――
「どうだ、赤鸚鵡、嬉しいか。嬉しいか。いよいよこの国は俺達(おらたち)のものになった。これから何でも見たい、聞きたい、話したい、嗅ぎたい放題だ。ところでこれからどうすれば、この国に大騒動を起させて、珍しい事や面白い事に出会(でっくわ)す事が出来るか。赤鸚鵡よ、考えてくれ。お前は今の事ばかりでなく、行く末の事までも少しも間違わずに考える事が出来るのだから。先ず俺は石神の耳から現われたのだから、何でもかんでも聞くのが役目だ。何卒(どうか)面白い話を沢山聞かせてくれい」
 と云った。するとその横に座っていた青い瘠せ女は直ぐにその言葉を打ち消した――
「イヤ。妾(わたし)は石神の眼から生れたもので、何でもかでも見るのが役目です。何卒(どうぞ)早く面白いものが見たい。赤鸚鵡よ、早く面白い珍らしいものを見せておくれ」
 瘠せ女がこう云い切ってしまわぬうちに、今度は向側(むかいがわ)に居た、赤膨れの赤ん坊(ぼ)が甲走った声で――
「否(いや)だ。否(いや)だ。イケナイイケナイ。私から先だ私から先だ。私は美(い)い香気(におい)が嗅(か)ぎたい。花だの香木だのの芳香(におい)が嗅ぎたい。早く早く」
 と叫んだ。すると直ぐ横に居たクリクリ坊主も負けていず、頓狂(とんきょう)な声で――
「ドッコイ待った。俺が先だ。石神の舌から生れた俺こそ、真っ先に美味(うま)いものを頂戴せねば相成らぬ」
 と云い張った。四人はこうして暫(しばら)く睨(にら)み合いの姿で黙っていたが、赤鸚鵡はこの様子を見て奇妙な声を出して、ケラケラと笑いながら云った――
「耳の王。眼の王。鼻の王。舌の王。よく御聞きなされよ。よく御味(おあじわ)いなされよ。どなたが先という事はない。どなたが後という事もない。
 皆様一同(いっしょ)にアッと御驚(おんおどろ)き遊ばすものを近い内に御覧に入れます。
 貴方がたはこの世界の初め、石神の身体(からだ)から出た三つの宝物、白銀(しろがね)の鏡と宝石の蛇と私の役目をお忘れになりましたか。
 私は生れ付いて知っている魔法で以(もっ)て、世界中の事を見たり聞いたりしまして王様方にお話し申すのが役目で御座います。又兄弟の白銀の鏡は、そんな面白い有様を王様に御目にかけるのが役目で、それから宝蛇奴(たからへびめ)は、そんな面白い出来事の初まるようにするのが役目で御座います。
 今白銀の鏡と宝蛇は、南の国の多留美(たるみ)という湖の底に沈んでおりますが、その中で宝蛇は、貴方方四人が一人の藍丸国王となって、初めてこの国に御出(おい)で遊ばしたその最初の御慰(おんなぐさ)みに、世にも美しい怜悧(りこう)な、それこそ王様が吃驚(びっくり)遊ばすような御妃を一人、御話し相手として差し上げたいと思いまして、私に探してくれと頼みましたので御座います」
 これを聞くと坊さんは横手を打って感心をした――
「成る程、これはよい思い付きであった。わし等の主人の石神様が初めてこの世にお出で遊ばした時に、第一番に御困り遊ばしたのは、一人も話し相手の無い事であった。もしも彼(か)の時一人でも御話し相手があったならば、あんなに淋しがりは遊ばさなかったであろう。してその妃は見つかったか」


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2005年12月08日

それを左の手に据えて、新規の藍丸王はつかつかと白髪小僧に近寄りながら――

「どうだ、藍丸王。見えたか、聞こえたか、解かったか。ハハハハハ。見えまい、聞こえまい、解かるまい。併し無駄だろうが云って聞かせる。云うまでもなく俺は最前の四人の魔者が化けたのだ。石神の怨みの固まりだ。今まで赤鸚鵡を種々(いろいろ)に使って、やっとお前をここまで連れ出して来たのだ。気の毒だがお前の姿は俺が貰った。只生命(いのち)だけは助けてやるから、その代り賤(いや)しい乞食姿になって、何も見ず、何も聞かず、食べず云わず嗅(か)がずに、世界中をうろ付いておれ。その間(ま)に俺は王に化け込んで、勝手気儘(きまま)な事を為(す)るのだ。
 ああ、東の山に月が出かかったようだ。どれ。そろそろ出かけようか」
 と二足三足踏み出したが、又引きかえして来て――
「待て待て。ここでは顔付きがまるで同じだからどっちが本物か解からない。序(ついで)にこうしておいてやる」
 と云いながら傍に消え残った真赤な燃えさしを取り上げて、ニコニコ笑っている白髪小僧の顔へいきなりぐっと押し付けて、大きな十文字の焼け痕(あと)を付けた――
「ハハハハ。こうしておけば、よもや本当の藍丸王と気付く者はあるまい。おお。馬よ、来い来い」
 と招き寄せると、不思議や立(た)ち竦(すく)んで石のようになっていた筈の馬が、今は易々(やすやす)と動き出して直ぐに王の傍へ来た。王はそれにヒラリと飛び乗って、赤鸚鵡の眼の光りを便りに、森の外へと駈け出した。あとに残った盲目(めくら)の唖の白髪小僧は、最前の焼けどは熱くも何ともなかったと見えて、赤く腫(は)れ上って引(ひっ)つった顔のまま、ニコニコ笑いながら四ツの道具を抱えて、どこを当(あて)ともなく、この森を彷徨(さまよ)い出た。
 話し変って、最前四方にわかれて、赤鸚鵡を探しに行った紅矢や兵隊達は、何も見つからぬ内に日が暮れてしまったので、急いで約束の樫の木の森に来て見ると、今度は他の者は皆揃ったが肝要(かんじん)の王様が居ない。これは大変だと皆一度に馬に飛び乗って、口々に藍丸王様藍丸王様と叫びながら暗い山の中を駈け出すと、その中(うち)に南の方の立木の間から、真赤に光る松明(たいまつ)が見えて来た。
 ところが不思議や四十人の騎馬武者が乗っている馬は、この光りをチラリと見るや否や一度に立ち竦んで一歩も前へ進まなくなった。打っても叩(たた)いても動かない。蹴っても煽(あお)ってもどうしても、石のように固くなっている。
 皆は驚き慌てて、これはどうした事と騒ぎ立てたが、中にも紅矢は吃驚(びっくり)して――
「皆の者、気を付けよ。あの光りは怪しい光りだぞ。事に依(よ)ると魔者かも知れぬぞ。皆馬から降りて終え。弓を持っている者は矢を番(つが)えよ。剣を持っている者は鞘(さや)を払え。あれあれ。だんだん近付いて来る。皆紅矢に従(つ)いて来い。相図をしたらば一時に矢を放して斬りかかれ」
 と叫んだ。声に応じて四十人の武者(さむらい)は、一度に馬から飛び降りて、二十人は弓を満月のように引き絞り、あとの二十人は剣を構えて眼の前に近付いて来た光る者にあわや打ちかかろうとした。ところがこの時遅く彼(か)の時早く、紅矢は又もや一声高く――
「待て。粗相するな。王様だぞ」
 と叫んだ。それと一所に、向うから来る者は赤い鳥を左の拳(こぶし)に据えて馬の上でニコニコ笑いながら帰って来る藍丸王だという事がわかって、兵隊共は皆一度に矢を外し剣を納めて、地面(じべた)の上にひれ伏した。中にも紅矢はホッと一息安心すると一所に、今までと打って変った鸚鵡の眼の光りに驚いて、どういう訳かと怪しんだ。
 その時に王は皆の前に馬を停(とど)めて、左の拳を高く差し上げながら――
「皆の者。よく見よ。これが今まで探していた赤鸚鵡という鳥だぞ。今までこの山の神様の使わしめで有ったのだぞ。自分は今まで彼(か)の谷底の杉の森に行って神様にお目にかかって、この鳥がいろいろの不思議な役に立つ事を教えてもらっていたのだ。皆の者、よく見ておけ」
 と云いながら鸚鵡に向って――
「ウウウウ。月が出たぞ」
 と云い聞かせると忽ち今までの赤い眩(まば)ゆい光りが消え失せて、四方が真暗になった。その代り東の方の林の間には、黄色い大きなお月様が、まんまるくさし昇っていた。
 皆の者は夢に夢見る心地がして、互にその不思議な術を驚き合いながら、この時やっと動くようになった馬に乗って、王の後(うしろ)に従って、月の光りを便りに王宮へ帰って行った。


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2005年12月07日

と口々に唄って踊っていたが、

やがて赤ん坊が一声ギャッと叫ぶと一所に、四人は一度に燃え立つ火の中へ飛び込んで終(しま)った……と思う間もなく燃え上る火の中から、一人の少年が髪毛(かみのけ)の色から衣服(きもの)まで藍丸王そっくりの姿で、藍丸王の眼の前に踊り出した。見ると今までの藍丸王はいつの間にか見すぼらしい乞食の白髪小僧の姿に変って終(しま)って、緑色の房々した髪の毛も旧来(もと)の通り雪のように白くなっていた。
 この有様を見た新規の藍丸王は、忽ちカラカラと笑って、直ぐに傍の焚火の中へ右手を突込んで掻きまわしながら、高らかに呪文を唱えた――
「世界中の何よりも赤い
 世界中の何よりも明るい
 世界中の何よりも美しい
 火の精、血の精、花の精――
 その羽子(はね)が羽ばたけば
 瞬(またた)く間に天の涯
 すぐに又土の底
 一飛びに駈け廻る――
 その紅(あか)い眼の光りは
 夜も昼も同様に
 千里万里どこまでも
 居ながらに皆わかる――
 声という声、音という音
 皆聞いて皆真似る――
 声の精、言葉の精、歌の精――
 赤い鸚鵡出て来い」
 と叫びながらその手を火の中から引き出すと、その拳(こぶし)の上には一匹の赤い鳥が乗っかっていた。その赤い鳥は藍丸の王宮から逃げ出して今大勢の兵隊に一日がかり探されている彼(か)の赤鸚鵡と寸分違わなかったが、只その眼玉ばかりは今までと違って、紅玉(ルビー)のように又は火のように、あたりを払って輝やいていた。


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2005年12月05日

とこんな風に繰り返し繰り返し唄っては踊り、

踊っては唄いしていたが、その内に真裸体(まっぱだか)の赤ん坊が、糸の無い月琴を弾き止(や)めると、皆一時にピタリと踊りを止(や)めて、手に手に持っている道具を藍丸王に渡した。
 藍丸王が何気なく、クリクリ坊主から振り子の無い木の鈴を受け取ると、こは如何(いか)に、急に唇や舌が痺(しび)れて仕舞って声さえ出なくなった。次に瘠せ女から白紙の書物を受け取ると、今度は眼が見えなくなった。赤ん坊から月琴を受け取ると鼻が利かなくなってしまった。爺(じじ)から笛を受け取るととうとう耳まで聾(つんぼ)になって、どっちが西やら東やら、自分がどこに居るのやら、全く解からなくなってしまった。
 この体(てい)を見た四人の魔者は、又もや嬉しそうに藍丸王の周囲(まわり)を踊り廻わって――
「藍丸王はとうとう死んだ。
 生きていながら死んで終った。
 この世に居ながらこの世に居ない」
 面白面白面白い。
 俺等(おいら)の主人の石神様は
 眼も見え耳も聞こえていたが
 広い荒野(あれの)のその只中に
 見るもの聞くもの何にも無くて
 たった一人の淋しさつらさ
 堪(こら)え切れずに天地を恨み
 吾が身を怨んで死んでしまった」
 残る怨みのその一念が
 眼玉に移って女に化けて
 口に残って坊主になって
 鼻に移って赤児に化けて
 耳に残って爺(じじい)になって
 今はこの世で藍丸王に
 昔の主人の淋しさつらさ
 思い知らせる時が来た」
 花が咲いても紅葉(もみじ)をしても
 風が吹いても時雨(しぐれ)が来ても
 見えもしなけれあ聞こえもしまい。
 飢(う)えも渇きもせぬその代り
 どんな御馳走(ごちそう)貰ったとても
 味もわからず香気(におい)も為(し)まい」
 鞭に打(ぶ)たれて血が浸(し)み出ても
 痛くもなければ悲しくもない。
 音も香(か)も無い不思議な身体(からだ)。
 この世に居ながらこの世を知らぬ。
 夜か昼かは愚かな事よ
 我が身の在り家も我が身に知らぬ
 世にも淋しい憐(あわ)れな生命(いのち)」
 世界の初めの石神様が
 闇へと生れて闇へと帰る
 たった一人の淋しい心
 思い知ったか。思い知れ」


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2005年12月04日

俺達は石神様の

 大切な四人の家来。
 眼と口と。鼻と耳と」
 藍丸の国のはじめに
 御主人の石神様が
 見るもの聞くもの何にも無くて
 たった一人の淋しさつらさ
 我慢出来ずに吾が身を咀(のろ)い
 天地を咀って死んでしまった」
 眼には荒野(あれの)の石より他に
 見るものも無い恨みを籠(こ)めて
 耳には風音波音ばかり
 他には何にも聞かれぬ恨み
 鼻には湖の香埃(ほこり)のかおり
 他には何にも嗅(か)がれぬ恨み
 舌には話しの相手も無くて
 泣くも笑うも只身一ツの
 淋(さみ)しい淋しい怨みを籠めて
 あとに残して死んでしまった」
 見たい見たいが眼玉の望み――
 耳は何でも聞きたい願い――
 鼻は何でも嗅(か)ぎたい願い――
 舌は何でも話したい――
 俺等(おいら)が主人(あるじ)の石神様の
 怨みの籠もった四つの道具」
 書物から出た瘠せ女。
 笛から湧き出たお爺さん。
 月琴から出た裸体(はだか)の赤児(あかご)。
 鈴から出て来たクリクリ坊主」
 四人の家来は石神様の
 この世を咀う使わしめ」
 坊主の持ってる木の鈴は
 王の口をば閉じるため。
 女の持ってる書き物は
 王の眼玉を潰すため。
 赤児の持ってる月琴は
 王の鼻をば塞(ふさ)ぐため。
 爺(じじい)の持ってる石笛は
 王の耳をば鎖(とざ)すため。
 そうして王を追い出して
 四人が代りに王様の
 一人の姿に化け込んで
 王の威光を振りまわし
 勝手な事を為度(した)いため」
 面白い。面白い。有難い。有難い。
 占めた。占めた。旨い。旨い。
 王様に。なる時が来た。
 この国とって。我儘云うて
 楽しみをする時が来た」


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2005年12月02日

青い空には雲が湧く。黒い海には波が立つ。

昔ながらの世の不思議。見たか聞いたか解ったか。

 よしや夢でも現(うつつ)でも。妾はここに居りまする。
 淋しくここに居りまする。妾の名前は赤鸚鵡」
 皆は顔を見合わせて、それっというと俄(にわか)に元気百倍して駈け出したが、どう為(し)たものか十人が十人共、各自(てんで)に一人は東、一人は西と違った方に声を聞いて、こっちだこっちだと云いながら、八方に散って行った。
 あとに残った藍丸王は、どっちとも解らず、只その声の為(す)る方に迷い迷うて、いつの間にか只(と)ある谷の奥深く、真暗な杉の木立の中へ這入って仕舞った。
 その時は最早(もう)短い秋の日が暮れて、鳥の声も聞こえなくなっていたが、その代り真暗な杉の森の奥にチラチラと焚火(たきび)の光りが見えて来た。その火を見ると今まで音(おと)なしく王を乗せて来た白馬(しろうま)が驚いたと見えて、急に四足を突張って動かなくなったから、藍丸王は馬から降りて手綱(たづな)を放り出したまま、つかつかと焚火の側に近寄って来た。
 見ると火の傍には四人の不思議な人間が、寝たり座ったりして火にあたっている。右の端に坐っているのは黄色い髪を垂らして、穴の無い笛を吹いている汚(きたな)いお爺さんで、その次に寝ころんでいるのは絶えず振り子の無い木の鈴を振り立てている、眉毛も髯も無いクリクリ坊主である。
 それからその端にうつ伏せに寝ころんでいるのは、瘠(や)せこけて青ざめた、眼ばかり光る顔に、黒い髪毛(かみのけ)をバラバラと垂らした女で、手には一冊の字も絵も何も書いて無い、白紙の書物を拡げて読んでいる。そしてその右には赤膨(ぶく)れに肥った真裸体(まっぱだか)の赤ん坊が座って、糸も何も張って無い古月琴(げっきん)を一挺抱えて弾いていた。並大抵の者がこのような処でこんな者を見たならば、身体(からだ)中の血が凍(こご)えて終うかも知れないのであるが、そこは藍丸王は平気な者で、却(かえっ)て珍しそうにニコニコ笑いながらその前へ近寄って、火の上に手を翳(かざ)した。
 すると今まで顔中皺だらけで、どこに眼があるか口があるか解からなかったお爺さんは、藍丸王が側に来て踞(しゃが)んだのを見るや否や、皺の間から大きな皿のような眼と、真赤な口をパッと開いてゲラゲラと笑ったと思うと、それを相図に他の三人は一度に立ち上って、焚火と藍丸王の周囲(まわり)をグルグルまわりながら、奇妙な舞踊(おどり)を始めた。先(ま)ず瘠せ女が白紙の書物を開いて、奇妙な節を付けて歌を唄いながら踊り初めると、あとから赤ん坊が糸の無い月琴をバタンバタンと掌(てのひら)で叩きながら従(つ)いて行く。それにつれてあとの二人は、手に持った道具を振り廻しながら、まるで蟋蟀(こおろぎ)か海老(えび)のように、調子を揃えてはねまわって行った。その歌はこうであった。
「占(し)めた。占めた。旨(うま)い。旨い。
 王様になる時が来た。
 この国取って我儘(わがまま)云うて
 楽しみをする時が来た」


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2005年12月01日

弓矢を背負うた四十人の騎馬武者と、

、角笛を胸に吊した紅矢を後前(あとさき)に従えた藍丸王は白い馬に乗って、華やかな鎧を着た番兵の敬礼を受けながら、悠々とお城の門を出かけたが、流石(さすが)藍丸国第一の都だけあって、王の通った街々はどこでも賑(にぎ)やかでない処は無く、雲を突き抜く程高い家が隙間(すきま)もなく立ち並んでいるために、往来は井戸の底のように昼間でも薄暗く、馬や、牛や、犬や、駱駝(らくだ)や、駝鳥だの、鹿だの、その他種々(いろいろ)のものに引かせた様々の形(かた)をした車が、行列を立てて歩いて行く。そうして髪毛(かみのけ)や、眼色(めいろ)や、顔色が赤や、白や、鳶色(とびいろ)や、黒等とそれぞれに違った人々が、各自(てんで)に好きな仕立ての着物を着て、華やかに飾り立てた店の間を、押し合いへし合(あい)して行き違う有様は、まるで春秋(はるあき)の花が一時(いちどき)に河を流れて行くようである。けれども藍丸王の行列が見えると、こんなに繁華な往来が皆一時にピタリと静まって、見る間に途(みち)を左右に開いて、馭者(ぎょしゃ)は鞭(むち)を捧げ畜生は前膝を折り、途行く人々は帽子を取って最敬礼をする。その間を王の行列は静々と通り抜けて、間もなく街外れに来ると、そこから馬を早めて野を横切って、東の方に並んでいる山の中に駈け入った。
 この日お供をしている四十人の騎馬武者は、皆紅矢の命令(いいつけ)を守って他(た)の鳥獣(けもの)には眼もくれずに、只赤い羽根を持って人間の声を出す鳥が居たらばと、そればかり心掛けて、眼を見張り、耳を澄まして行った。中にも紅矢は真先に立って、もしや人間のような鳥の鳴き声がするか、赤い羽根の影が見えはせぬかと、皆と一所に油断なく気を付けて次第に山深く分け入ったが、見ゆるものとては山々の燃え立つような紅葉(もみじ)ばかり。聞こゆるものとては遠くを流るる谷川の音。それさえ折々は途絶え途絶えて、空には雲一つ見えず、地には木(こ)の葉一枚動かず、気味の悪い程静かに晴れ渡った日であった。
 それでも皆気を落さずに一心になって探し続けたが、やがて正午(ひる)近くなって、人も馬もとある樫(かし)の樹の森に這入って、兵糧(ひょうろう)を遣(つか)いながら一休みしてからは、夕方ここで又会う約束で、四十人が四組にわかれて、四方の山や谷を残る処無く探した。けれども相変らず森閑(しんかん)としていて、眼指す赤い鳥は影も形も見せない。
 中にも藍丸王の十人の組は、以前(さっき)の樫の森から東側へかけて、夕方まで探していたが、最早(もはや)日が暮れかかってもそれらしい影は愚か、小雀(ことり)一羽眼に這入らぬから、皆落胆(がっかり)して疲れ切ってしまって、約束の通り最前(さっき)の樫の樹の森へ帰ろうとした。
 するとこの時不意にどこか遠い処で、鳥のような人間のような奇態な声で歌を唄っているのを十人が一時に聞いた。
「妾(わたし)はここに居りまする。淋しくここに居りまする。
 恋しい御方の御出(おい)でをば。御待ち申しておりまする。


delibiz at 10:53|Permalinkこの記事をクリップ!