街の弁護士日記「TPPのISD条項と子宮頸ガンワクチン問題」で、子宮頸癌ワクチンによる副作用を受けた少女達が、提訴する事になったという事を元に、TPPのISD条項の恐ろしさを詳しく説き明かしてくださっている。

日本の裁判所では、最高裁判所昭和50年10月24日判決を下に、
「訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑を差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りるものである。」
となっている。
しかし、TPPが発効したら、日本の最高裁で製薬会社が有罪となったとしても、
子宮頸癌ワクチンに副作用があると証明されたわけではない、という事になる可能性が高いのだそうである。

厚労省が子宮頸癌ワクチンに付いて生徒達に、
「副作用があるかもしれないから、副作用の危険性とワクチンの効用とに付いて、充分考えてから接種を受け入れるかどうか決めなさい」等と、生徒に言ったりしたら、
積極勧奨の差し控えが、間接収用や、国際慣習法上の最低限待遇義務と呼ばれるものに違反するか否か、仲裁廷がいかなる判断をするかを想定しながら、暫定救済の申立に対して判断を下すことを強いられることになる。
という事になる恐れがあるのだそうである。
又日本の裁判所でワクチンメーカーに損害賠償を命じる判決が出たとしても、
国際法上云々という事で、被害者は救済されないだろうとのことである。

誰が見ても子宮頸癌ワクチンの副作用と思われるような被害であっても、
それをあらゆる角度から検証し、反論の余地がないほど証明しなかったら、副作用被害は認めないという商習慣の下、副作用被害はない事にされてしまうだろう。

政治力を駆使した製薬会社からの圧力で、政府や地方自治体が、
危険なワクチン接種を生徒に受けさせることを決めてしまったら最後、
どんな酷い副作用が多発しても、
ワクチン接種させる前に、ワクチンの危険性を絶対生徒に言ってはならないなど、犯罪的でさえある。
しかし、TPPが発効したらISD条項の下、政府も国民もどんなに酷い薬害があっても、
文句一つ言えなくなって終うかも知れないのである。

それがいやだったら、業者が儲けたかもしれない金額を、
政府は税金から業者に支払えと、仲裁廷で裁定される可能性が非常に高い。
仲裁廷で判決を下すのは、(日頃企業を得意客としている)弁護士が裁判官となる決まりなのだから、
殆どの場合、企業利益が最優先される事は想像に難くないだろう。

TPPのISD条項と子宮頸ガンワクチン問題

子宮頸ガンワチンの副作用に苦しむ少女たちが提訴することを決意したことが報道されている。
裁判に立ち上がった当事者と家族の勇気に心から敬意を表したい。
またこれと連帯して困難な闘いに立ち上がることを決めた弁護団を支持する。




「私たちはデータじゃない、1人の人間です」
そう、これは薬害に蹂躙された被害者の人間の尊厳を回復するための裁判に他ならない。

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接種と症状の因果関係に関する記者からの質問に対して、弁護団は、訴訟上の因果関係としてはすでに十分であると理解していると、回答した。
最高裁は訴訟上の因果関係について次のように述べており、弁護団は、高度の蓋然性の要件はすでに十分に充たされているとしたのだ。

「訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑を差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りるものである。」
(最高裁判所昭和50年10月24日判決)




TPPは、人間の被害とその救済、人間の尊厳とその回復という日本国憲法下における裁判の論理を逆転させる。
TPPの下では、こうした事件は、国際的経済主体の経済活動とその阻害の問題として把握される。
TPPの投資章に基づき、被告製薬会社側の立場からこの問題を見ると、その醜悪な世界観が理解してもらえるのではないだろうか。


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TPPのISD条項が保護の対象とする『投資』には、

「収益及び利得の期待」

が含まれる(9章第1条)。
『合理的』な期待利益の保護こそ、TPPの投資章(第9章)の根本精神である。




子宮頸ガンワクチン、「サーバリックス」のメーカーはグラクソ・スミスクライン社(GSK社)、「ガーダシル」のメーカーは、MSD社であり親会社はメルク社である。
前者の本拠は英国、後者はドイツとされるが、いずれも米国法人が存在し、「TPPのための米国企業連合」の有力メンバーとなっている。


子宮頸ガンワクチンの定期接種は小学校6年生から高校1年生に相当する年齢の女子とされている(予防接種法施行令1条の3)。
おおざっぱに人数を概算すれば300万人弱が定期接種の対象となる。
ワクチンは1人分5万円ほどとされている。
子宮頸ガンワクチンの対象年齢の市場規模は、ざっくり1500億円である。


そして、少子化を踏まえても年々約50万人が新たに定期接種の対象者となる。
したがって、定期接種によって、メーカーには年々約250億円の安定収入が見込まれた。




副作用被害者らの粘り強い訴えを受け、2013年6月、厚労省は、いったん開始していた定期接種の対象者への周知(予防接種法施行令6条・「積極的勧奨」)を差し控えるに至った。




子宮頸ガンワクチンメーカーであり、「TPPのための米国企業連合」の有力メンバーである2社には、積極的勧奨が差し控えられた結果、すでに推定2000億円規模の売上が阻害され、今後も毎年250億円の収益が阻害される状態となっている。




「期待利益」こそ、TPP投資章の保護の要である。
TPPの投資章・ISD条項の関係で主として問題となるのは「収用」と、国際慣習法上、投資家に与えるべき待遇義務違反である。





期待利益を深刻に阻害し、収用と同等程度に至った場合、間接収用に該当する(付属文書9-B第2項)。
間接収用に該当するかどうかは、
①政府の行為が与えた経済的な影響の程度、
②投資に基づく合理的な期待を害する程度、
③政府の行為の性質
を総合的に考慮して判断するものとされているが(付属文書9-B第3項((ⅰ)、(ⅱ)、(ⅲ))、
①ワクチンメーカーが政府の行為によって受けた経済的な影響は甚大であり、②同メーカーの合理的な期待を著しく侵害していることも明らかであるから、投資章の根本精神に従う限り、③たとえ厚労省の積極的勧奨の差し控えが生命・健康保護目的であったとしても、間接収用に該当すると判断されることは確実である。

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収用に該当する場合、政府は、遅滞なく、公正な市場価格による補償をしなければならない。市場価格には将来得られるべき利益を含む。将来利益はキャッシュフロー方式によって算定される。
補償が直ちに行われない場合、収用が行われた2013年6月から商業的に妥当な利子(年5%から6%とされることが多いようである)を付加して補償しなければならない(第9章8条3項)。



また、政府は、外国投資家に対して国際慣習法による待遇を与える義務を負っており、同義務には「公正で衡平な待遇並びに十分な保護及び保障を与える義務」が含まれている(第9章6条1項)。



この義務には、「外国投資家の利益に対する慎重な配慮」、「外国投資家の合理的な期待の保護」が含まれると一般に理解されている。
遅くとも、2013年4月に厚労省が子宮頸ガンワクチンの定期接種に踏み切った段階では、ワクチンメーカーは「合理的な期待」を形成している。
厚労省の積極勧奨の差し控えは、この「合理的な期待」を根底から侵害するものであって、「外国投資家の利益に対する慎重な配慮」にも欠けているものであるから、「公正で衡平な待遇並びに十分な保護及び保障を与える義務」に違反している。



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TPPの第9章16条は、「投資及び環境、健康その他の規制上の目的」と題して、次の規定を置いている。

この章のいかなる規定も、締約国が自国の領域内の投資活動が環境、健康その他の規制上の目的に配慮した方法で行われることを確保するために適当と認める措置(この章の規定に適合するものに限る)を採用し、維持し、又は強制することを妨げるものと解してはならない。



この規定は、一見、締約国が環境、健康等公共の福祉のためになす規制を認める規定のようにみえるかもしれないが、そうではない。
otherwise consistent with this chapter(その他の点ではこの章の規定に合致する)場合に、規制を認めるというのである。
日本政府は論理的な解釈が不可能に近いotherwiseを「(この章の規定に適合するものに限る)」と強調の意味に解釈して仮訳しているが、
要するに、この規定は、環境、健康のための規制であっても、この章に適合すること、すなわち、間接収用に該当せず、国際慣習法上の義務にも違反しない等投資章の全ての規定に違反しない限りにおいて、締約国は、環境、健康のための規制を行うことができるとしているに過ぎず、全く無意味な規定である。
むしろ、公共の福祉目的であっても、投資章の義務の遵守を強く求める規定であるから、公共の福祉名義でみだりに規制を行うことを戒める規定であると考えてもよい。





間接収用については、次の規定もある。

「公共の福祉に係る正当な目的(公衆の衛生、公共の安全及び環境等)を保護するために立案され、及び適用される締約国による差別的でない規制措置は、極めて限られた場合を除くほか、間接的な収用を構成しない」(付属書9-B第3(b))




確かに、「極めて限られた場合を除くほか、間接的な収用を構成しない」との規定には、むやみに間接収用を認めることに対する牽制としての効果は期待できるだろうが、「極めて限られた場合」との概念は、極めて曖昧である。




国際経済活動に対する制限については、それが国民の健康の保護を目的とするとしても、科学的な十分な証拠を要するとするのが、国際経済法の基本ルールである。
十分な科学的証拠がない状態における国際経済活動の自由の制限は、十分な科学的な証拠(前記した最高裁判決とは異なり、この場合は、厳密な科学的証明に匹敵するものが求められる)を収集するための暫定的な期間のみ認められる。
積極的勧奨が差し控えられてからすでに3年近くが経とうしており、予防的なアプローチによる差し控えとしても十分な期間が経過しているにも拘わらず、十分な科学的証拠なしに積極勧奨を差し控える措置を維持しているのは、「極めて限られた場合」に該当するとの主張が十分に可能である。
また、子宮頸ガンワクチンの積極勧奨の再開については、専門家の団体である日本産婦人科学会が強く求めているばかりでなく、WHO(世界保健機関)も、積極勧奨を差し控える日本政府の対応を名指しで非難している。
こうした中立的で権威ある機関の見解にも反する積極勧奨の差し控え措置は、たとえ健康目的の制限であっても「極めて限られた場合」に該当し、厚労省の決定は間接収用に該当するとの主張には多分、説得力が認められるだろう。





TPPが発効すれば、これらの理由により、ワクチンメーカーは、日本政府をISD仲裁に付託することが可能である。
海外仲裁で違法判定を受け、巨額の賠償を命じられるリスクを冒してまで、厚労省がいったん開始した定期接種に関する積極的勧奨の差し控えを続けることができるか、極めて疑問である。



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以上は、積極勧奨の差し控え措置自体に着目した議論であるが、被害者からワクチンメーカーに対する裁判については、次のような問題も生じる。




裁判もISDの対象となるので、仮に、被害者がワクチンメーカーに対する賠償判決を勝ち取り、これが最高裁で確定しても、GSK社とMSD社は、賠償を命じた最高裁判決によって損害を被ったとして、日本政府を相手取って、最高裁判決をISD仲裁に付託することができる。
TPPが発効すれば、外資を相手取った裁判では、常に第4審類似の審級が存在することになる。
とくに、被害者救済の観点から、厳密な意味での科学的な証明でなくとも、賠償を命じることができるとする国内判例の論理は、ISD仲裁で大いに問題になりうる。
十分な科学的証拠もなく国際経済活動を制限することにつながるからである。
TPPが発効すれば、国内裁判所もISDで日本政府がどのように裁かれるかを想定して判決せざるを得ないという事態が生じる(国内裁判所の屈服)。





まだ、ある。
ISDの仲裁廷は、賠償のみでなく、場合によっては保全措置を執ることが認められている。

仲裁廷は、一方の紛争当事者の権利を保全し、又は当該仲裁廷の管轄権を十分に実効的なものとすることを確保するため、暫定的な保全措置を命ずることができる。(9章23条9項)

したがって、ワクチンメーカーに対する賠償判決がISD仲裁に付され、ワクチンメーカーが賠償判決の執行の停止を求めた場合、仲裁廷は日本政府に対して、暫定的な保全措置として、当該判決の執行の停止を命じることが可能である。
行政権の主宰者である政府に対して、司法権の執行の停止を命じるのは明確に三権分立原則に違反するが、ISD条項は、外国投資家を国家と対等の法主体として認め、国家を単一の権利義務主体として措定するものであるから、権力分立原理は、仲裁廷が執行停止を命じることを否定する論拠とはならない。


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加えて仮に厚労省の積極勧奨の差し控えがTPP発効後に行われた場合を仮定してみると、さらに問題があることがわかる。




この場合、前記した暫定的な保全措置は、積極勧奨の差し控え自体を停止させることを命じることができる(積極勧奨の復活)。


また、最終的な仲裁において原状回復を命じることもできるとされているので、最終的な仲裁によって積極勧奨の差し控え処分を取り消すことも可能である(9章29条1項(b)「原状回復。この場合の裁定においては、被申立人が原状回復に代えて損害賠償金及び適当な利子を支払うことができることを定めるものとする」)。



また、こうした仲裁申立とともに、保全措置を国内裁判所に申し立てることもできる。

「被申立人の司法裁判所又は行政裁判所において、暫定的な差止による救済(損害の賠償を伴わないものに限る)の申立を行い、又は当該申立に係る手続を継続することができる。ただし、当該申立が、仲裁が継続している間、当該申立人又は当該企業の権利及び利益を保全するこのみを目的とするものである場合に限る。」(第9章21条3項)

つまり、積極勧奨の差し控えをISDで争うワクチンメーカーは、ISDに付託して積極勧奨の違法性を争うとともに、暫定的な救済を求めて、積極干渉の差し控えを取り消すように国内裁判所に申し立てることができる。




この場合、積極勧奨の差し控えが国際法上、違法か否か関する判断は、もっぱらその件限りで構成される仲裁廷の権限に属し、国内裁判所は、判断権限を有さない。
にも拘わらず、国内裁判所は、いわば仲裁廷の道具として、積極勧奨の差し控えが、間接収用や、国際慣習法上の最低限待遇義務と呼ばれるものに違反するか否か、仲裁廷がいかなる判断をするかを想定しながら、暫定救済の申立に対して判断を下すことを強いられることになる。




この9章21条3項に関しては、明らかに特別な訴訟手続法の整備が必要であるが、今般政府が提出したTPP関連一括法の中には存在していない。

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不本意ながら、甚だ、むつかしくなった。
走り書き的な覚え書きである。
少なくとも、TPPのISD条項が国内法秩序に重大な影響を及ぼすことだけは理解してもらえるのではないだろうか。





政府が濫訴防止措置として主張するであろう、先決問題の先行処理、手続の公開(但し、秘匿情報に対する歯止めはない)、懲罰的賠償の禁止等々の大半は既知のものであり、子宮頸ガンワクチンの副作用に関係する、上記のような各種のISD手続を防ぐことはできない。


TPPの観点からは、厚労省の積極勧奨の差し控えをめぐるこうした手続は、ISDの本旨に沿うものだからである。