電気の街の片隅で(AKIBA賞応募)

コミケ原稿も上がったのでそろそろ本腰入れて書いてきます。(12/14) このブログはフィクションです。実在の人物、団体などとは一切関係ありません。

神津駄菓子店

 秋葉原という街は常に変わり続けている。
 古くはラジオ関連をはじめとするパーツ類、真空管や電子部品を取り扱う店舗が。白物家電や照明器具を取り扱う電気店が。パソコン関連やPCパーツを取り扱うパソコンショップが。漫画やゲームの専門店が。
 様々な店舗が立ち並び、そして入れ替わって出来たのが今の秋葉原だ。
 そんな秋葉原の裏通り、人通りの少ない細道を入ったところに神津(こうづ)駄菓子店は存在する。
 店の入口に掛けられた看板は達筆な筆で書かれており、下地に使われた白はひび割れ土台となっている金属が錆びて見えていた。
 狭い間口の店内には左右に段々になった駄菓子で溢れている。高い位置には棚が据えつけられ、箱のまま置かれた駄菓子と玩具で隙間無く埋められている。
 そしてそんな店内の奥。駄菓子を抜けた先に一段高くなったところ。そこに一人の男が座っていた。
 手には20センチほどのタブレットを抱え、男は一切動かない。黒い眼はじっと画面に集中していた。片耳はイヤホンを着けており、逆側の耳には取り付けていないため余ったほうが垂れ下がっている。
 真剣なまなざしで見つめるそこには、一昔前に流行った魔法少女アニメが流れていた。ピンク色の衣装に身を包んだ女の子がカートを片手に『セカイノフシギ』に挑むお話だ。
「れんげちゃん可愛いなぁ。さすが俺をこっちの道に引きずり込んだ子だ。嫁に欲しい」
 大分危ない独り言を呟く、ネタならこの街ではよく聞くフレーズだが。
「お兄ちゃん現実を見て。仕事して」
 そんな言葉に冷静につっこみを入れる少女。ブレザーに三つ編み、厚手の眼鏡、そして顔には薄くソバカスという地味子の代表みたいな見た目をした彼女はテキパキと棚に置かれた商品を箱にまとめ、そして伝票を作っていた。
「誰も来ないから大丈夫だよ、こんな店」
「おばあちゃんが居ないからってサボりすぎだよ」
「サボってるんじゃない、やることがないだけだ」
 彼は堂々と言い張った。客も居ない、商品のメンテナンスは全て済んでいる、店舗の前は綺麗に掃かれているし、客引きをするような業種でもない。彼女がやっている配送処理が終わると客が来ない限りやることがない。主張は間違っていないと毅然とした態度を取っている。
「大体ばあちゃんだって唐突に……なんだっけ? なんとかってアイドルのライブだって遊びに行ってるじゃないか」
「シャイニーズね。今若い子の間で大人気なんだからそれくらい覚えておきなよ」
 知らんがな。とため息をつきながら彼は続ける。
「若い子ってばあちゃん去年で米寿だぞ、若い子じゃないだろ。それに『ちょっと沖縄ライブ行ってくるから店番よろしく』とかこっちの予定も考えろって」
「そ、それはまぁおばあちゃんが元気なんだからいいことじゃない」
 彼はもう一度、長めにため息をついた。

 そのタイミングだった。
 お店にドスンっ、と何かが落下したような大きな音が響いた。
「ん?」と彼は上を見上げた。音の方向は上層階のほうだった。
「みらい、ばあちゃんは居ないんだよな」
 隣に居る彼女に改めて確認を入れる。
「うん、さっきメールも来てたから間違いないよ」
 彼女も即答しつつ、上を見上げる。この店舗の上には自分たちが生活する住居が存在する。
 二人は一度目を合わせ、そして移動を開始した。

 狭い間口の神津駄菓子店は、住居区画も当然狭い。
 一階の奥へ向かい階段下に設置された小さな戸棚から護身用にバットを取り出し、二階へ向かう。男が前に立ち、後ろに少女がついてくる。二階の扉を一つづつ、静かに、丁寧に開けて中を確認。誰も居なかったことを確認してから階段へ引き返して上へ。
 同様に三階の扉も開け、中を確認し全てを回ったところで少女が言った。
「なにも、ないよね?」
 彼も同様に一言。
「なにもないな」
 物盗りとの遭遇という危険を考えバットを取り出しこそしたが、何かの家具が倒れたりした可能性もあった。だからこそ明らかに何か大きな音が発生していたのに「なにも起きていない」状況に違和感が残る。
「あとは、一応屋根裏だけど」
 神津駄菓子店には屋根裏も存在する。が、そこには年季の入ったタンスが一つあるだけだ。
 この店の店主、そして二人の祖母にあたる人物が嫁入り道具として持ち込んだそれは、どうしてなのか屋根裏に放置されていた。腕利きの職人の手によって作られたと思われるそれは抜群の安定性を誇り、子供の頃に叩いたり、体当たりしてもぴくりとも動かなかった代物だ。地震なども無くいきなり倒れたりするなど考えられない。
 二人は改めて目を合わせ、そして階段の踊り場に戻り、天井に仕掛けられた戸を開き昇降ハシゴを落下させた。男が先にあがろうとしたところで、少女は近くの部屋へと入り、そしてすぐに出てきて彼へと懐中電灯を手渡した。
 彼は慎重に一段ずつハシゴを登り、中を覗き込むために懐中電灯を点けようとしたところで思わず手を止めた。

 そこには一人の、淡く金色に光る髪の少女が倒れていた。
 まだ懐中電灯は点けていない。彼女自身が淡く光っているのだ。
 格好も奇怪なものだった。頭には魔女の定番のような大きな三角につば広の帽子が被られているし、それの色ピンクで、根元には白いリボンが巻かれ大きくちょうちょ結びが作られている。
 上半身に視線を移せば、ピンク色のケープを羽織っており、フリルで綺麗に縁取られている。倒れているせいでややめくれ上がった脇付近から袖口には白い、やはりフリルが満載された袖が見えている。
 下半身へと目を移せばジャンパースカートはピンクをベースに、段々にフリルが飾られ他にも赤い小さなリボン飾りがあちこちについている。

 まぁ要約していえば、金髪が光るロリ服っぽい魔法少女の衣装を着た少女が倒れていた。『さっき見ていたアニメそっくり』の
「……れんげちゃんきたわぁぁぁぁ」
 男は叫び声を上げて
 そのタイミングで下に居た実の妹の手によって足を引っ張られ、引きずりおろされ半ば強制的に黙らせられた。


 その後の彼女の対応は手早かった。引きずりおろされ顔を強打した自身の兄を放置し手早く天井裏へ上がり、倒れていた少女を背負い、そして片手で押さえながらさくさくとハシゴを降りて自身の部屋へと連れて行った。
 当然兄は放置されたままである。顔を強打しそのせいで鼻血を出したまま。

「こんな兄を持って私は不幸です。変態だと知っては居たけど拉致監禁までするなんて」
「いや、やってないからな。あと仮にも兄を変態とか言うな」
 鼻血を抑えながら残酷なことを言う妹の言葉を否定する。彼女は自分のベッドに倒れていた少女を寝かしつけると、さらに続けた。
「警察に行くなら万世橋に知り合い居るから言ってね」
「あぁはいはい……店戻ってるから目覚ましたら教えてくれ」
 やる気なさそうに、彼は店舗へと降りていった。

 謎の少女が目を覚ましたのはそれからしばらく経ってから。
 午後も六時を回り駄菓子店が閉店してからだった。

序文

「それでは、行ってまいります」
 城の深部に存在する、石の部屋。牢屋に勘違いしそうなその空間を、幼き少女の声が揺らした。
 旅立ちの間。そう呼ばれる空間で少女はただ一人、異世界へと旅立つ。
 これは伝統、王族の伝統。
 彼女は継承権第四位の王女だった。古くより十七になったときには異世界を巡り、見聞を広めてくる定め。
 とはいえ民衆に政治を明け渡して数百年、王族というのは最早形骸化した伝統のみを伝える存在に近かった。彼女もまた形骸化した伝統に則って、旅立つことが重要視されるだけの存在である。
 平和な国の第四位など、まず継承権は回ってくることのない。そしてこの様な形骸化した伝統に巻き込まれることもない存在だった。彼女自身、王族など関係ないただの一般人として暮らしていくつもりであった。

 彼女はただの一般人として育ち、学校で優秀な成績を修め、部活動では金賞。その上に容姿端麗。
 端的に言えば目立ってしまった。目立った上で王族だという事実が掘り返されてしまった。更に言えば形骸化した伝統とはいえ、無名だった第三位の王子まではしっかりと旅立ちを報道されていたのだから、目立ってしまった彼女もやらざる得ない。一応は王位継承権を捨てて拒否する。という選択もあった。だが母の居ない彼女にとってそれは唯一の肉親である父親とのつながりを捨てることであった。
 こうして彼女は旅立つことになった。
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