2009年06月01日

全顎的症例を着手すると、場合によっては概ね1年以上の時間がかかります。いくら1回数時間集中して治療しても、各々の治癒期間や歯周病学的常識から、数回で全顎症例を終わりにするようなことは出来ません。しかし、恐ろしいことに「通院最大でも10回の集中治療で治せる」とか、インプラントは4回で治療終了などと、平気で宣伝している歯科医院があることに驚きます。皆さんは、こういったうたい文句に踊らされることなく、真摯に正しい治療をごまかし無くしてくださる先生を捜してください。

ところで、今回は最近の症例をお見せします。これは、主に上顎の補綴物などの崩壊と共に反対咬合で正しく咬合出来ない患者さんの全顎的症例です。


「 Case H.○. 」

40代の男性患者さんです。
補綴物が壊れていることと、全顎的歯周病(中等度〜一部重度)、反対咬合などが主な問題といえます。


panorama


このレントゲン画像からは、色々な情報がありますが、ここでは歯内療法の不備、複数の補綴物が壊れている点などを確認して下さい。

initial frontal view



初診時5枚法


初診時の口腔内

レントゲンでは解らなかった、右側小臼歯部から〜左側側切歯に及ぶ反対咬合の状態が解ります。下顎左側側切歯および中切歯(31,32)が舌側に傾斜しています。下顎左側中切歯は、根が露出して排濃も観られます。

上顎右側補綴物は、壊れています。また、マージン部が不適合です。上顎左側補綴物は、マージン部が不適合でポンティック部も清掃性が悪い状態です。

また下顎の充填・補綴物も総じて不良です。充填物は、カリエスの可能性も疑われます。

結果的に、上顎左側犬歯(23)以外は外科的手術をする必要がありませんでした。
=非外科的処置SRPのみにより、全顎的にポケットは3ミリ以下を達成しました。

再評価時


これは、全顎的にスケーリング&ルート・プレーニング(SRP)を徹底的に終えた後の画像です。

既存の補綴物は、歯肉に害を及ぼさないように、不適合である歯肉周囲をカットして(オーバーマージンの除去)、清掃しやすい状態にしてからSRPしました。全顎的に歯肉が引き締まり、歯間乳頭部に空隙が生じた状態が確認できます。

nakata/pr


SRPで歯周組織にある程度の治癒が得られました。 

SRP完了後、provisional restorations(PR)をセットしました。PRをセットしたことで、患者さんはセット直後から快適に噛むことが出来るようになり、この後数ヶ月続くであろう治療にも、その期間を気にすることなく生活し、通院していただけるようになりました。

残念なことに、このPRをセット出来きる前に来院しなくなる患者さんがいます。数回(4〜7,8回)のSRPを我慢できないといった時点で、全顎的治療は無理なのです。少しの辛抱が出来ずに、止めてしまう患者さんは、大変残念ですが如何なる医療機関でも、きちんとした治療は無理だろうと思います。せっかく始めたSRPも無駄になりますし、思い立って決意した治療を放り投げては、状態が悪化してモノが噛めないまま一生を過ごすのがオチです。最近、お仕事が忙しいとの理由でSRPを途中でキャンセルし次回予約をしていない患者さん方、良くお考え下さい。

PR装着後、下顎犬歯間にワイヤ&ブラケットによる通常の限局的矯正を行い、可能な範囲で歯牙の切端が綺麗なアーチを描くよう揃えました。切端が揃ったため、前歯部で正常な咬合状態を獲得することが容易になりました。

31の根の露出部では、長い年月反対咬合で生じた外傷性により骨吸収が生じています。今回の歯牙移動では、わずかに改善されたものの審美的な問題は残っています。しかし、反対咬合が改善されたことと、清掃を良くしてもらうことで問題を生じないとの判断で、ココへは今回は積極的加療は行いません。必要があれば将来何らかの方法で解決する約束をしました(ご本人は、さほど気にしていない)。

23の歯冠長伸展術


この歯牙(上顎左側三番(犬歯):23)は、クロスアーチと言われる上顎全部に渡る1ユニットの補綴物を安全に支えるためには”キー(かなめ)”になる大変重要な歯牙と言えます(23はKey toothと言います)。

クロスアーチでは、特に犬歯部には側方顎運動時には、強い側方圧*が掛かるため、是非この犬歯は良い状態で保存して支台歯として利用しなければならなかったのです。

この残根(23)は、歯肉縁下に埋もれています。正しく、マージンを設定するためには、健全歯質が歯肉縁上にくるように、生物学的幅計を考慮して支持骨を切除し、crown lengthening(歯冠長伸展術)を施す必要がありました。また、長く適正な状態を保つために、犬歯のみならず隣在歯の支持骨も残念ながらすこし削除しなければなりませんでした。(極端な隣り合う歯牙の骨レベルの違いは、生理的ではありませんから。)

結果的には予想外に良い状態で犬歯(23)を保存できて、クロスアーチブリッジも、強固にサポートできました。

*側方圧が大きすぎると長い年月には、クロスアーチが壊れたり、冠内部の合着セメント層が崩壊したり、結果的にクロスアーチの脱落が生じることさえあります。特にある部分のみに大きな側方圧がかかることを避けるために、グループファンクションなどの複数歯でのガイドを設定するように歯冠部の形態を付与します。また、オーバーバイトが深いと結果的に側方圧が大きくなるので、バイトが深かったケースでは、バイトアップして噛み合わせを浅くして、側方への圧のベクトルを小さくします(側方圧を小さくします)。

この症例でも、バイトアップして、グループファンクションに準ずる咬合様式の付与をしています。これにより、クロスアーチへの側方圧が軽減できました。


final 5枚法


最終補綴物を装着した状態です。

このケースでは、クロスアーチブリッジの大臼歯部は、審美性に余り支障が生じないので全部被覆金属冠としました(金属被覆冠にすることで、治療費の節約が可能でした)。

また、セラモメタルクラウンの咬合面は、強い咬合力による陶材破折を防止するため、金属にしました。このようにこの患者さんは、顔貌がスクエアで咬筋も発達しているため、フレームワークの設計には気を遣いました。(上顎犬歯の遠心斜面は陶材の破折好発部位なので、金属被覆にしてあります。)さらに、金属の咬合面から、歯髄に問題が生じた時には歯内療法処置が容易に出来るという利点があります。

下顎臼歯部の補綴物は、近い将来補綴するという前提で、コンポジットレジンなどで暫間充填しています。ただし、失活歯全てに歯内療法を完了(再治療)しています(歯周組織&歯内療法での感染除去は完了済み)。

before&after


歯周組織の改善と共に、かなり良い咬合の回復が得られました。

ご本人も、良く噛めているので満足していただけたようです。

*ご理解が深まるように、以前の全顎症例もご覧下さい。


  ・・・・・・・・ お知らせ ・・・・・・・・・・

◎当院では、この症例のように丁寧に全顎的治療を行っております。
もちろん、巷でいい加減に行われている虫歯治療1本でも喜んでお受けいたします。

治療の規模や難易にかかわらず、完全な歯科治療をお望みの方は、是非ご相談下さい。

*ご予約は、電話にて承ります。




(15:54)

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