2020年09月30日

2020年09月17日

『鬼滅の刃』の話とか

・『鬼滅の刃』鬼舞辻無惨はジャンプ史に残るボスキャラだ DIO、カーズ、シックスに連なる“悪の系譜”を読む(Real Sound)
→ この記事の指摘の通り,鬼舞辻無惨の「信念の無いラスボス」っぷりは近年のジャンプの人気バトル漫画としては異例で,同情をかき消す容赦のない小物描写がある。それでいてイケメンでラスボスにふさわしい個としての強さというアンバランスさがあると,それが魅力になる。要素を盛りに盛ることで,かっこいい悪役とは信念や悪の美学を持たねばならないというテーゼを破壊した,斬新で魅力的なラスボスであった。このネット記事が出た後もまだ少しだけ鬼舞辻無惨は出番があったのだが,そこでのセリフが自分をおいて蘇生する炭治郎に対して「待ってくれ頼む」だったのがあまりにも完璧で,有終の美を飾っていた。
→ それにしても『鬼滅の刃』がこれだけの人気作になるとは予想してなかった。あまりにも独特な作風なので広く受容されるのは難しいだろうと思っていたのだが,全然そんなことはなく。ufotableのアニメはめちゃくちゃ出来が良かったが,アニメは絵柄の点でもストーリーの点でも万人受けしやすくなっていて,原作への良い架け橋になっていたように思う。そのアニメも深夜帯だったはずでは,というのはおそらく古い意識で,アニメはネットで見るものという今の常識にとっては大したハードルにはならなかった。結果として独特な作風は強い個性でしかなく,人気は広く行き渡ることになった。そういうことから,『鬼滅の刃』が世間に受けたというのはオタクにとっても良い影響になるのではないかと思う。
→ それはそれとして,アニメが終わった後くらいの頃に仲間内で集まった際に「そういえばワニ先生が『Fate/stay night』のイラストを書いていて驚いた」という話から,そういえば……
・主人公がいわゆる「山育ち」
・主人公の妹が鬼
・主人公が視覚系のバトル異能者
・ラスボスが割と間抜けで傲慢
 という共通点や類似点が見つかり,『鬼滅の刃』はけっこう王道的かつ気づかれにくい型月フォロワーなのではというのはその仲間内でもけっこう驚きの発見であった(無論のことながらこれを少年漫画的かつ全く独自の作風に取り込みきっているのが本作の長所である)。そう考えるとufotableがアニメ化したのは偶然にしては出来すぎているというか,ufotableがねらって『鬼滅』に目をつけたのだろう。全然誰にもつっこまれなかったがこの記事で『まどマギ』『Fate/Zero』『Fate/stay night Heaven's Feel』『天気の子』の並びに『鬼滅の刃』を入れているのはそういうことだったりした。これは真面目に深掘りすると21世紀のオタク文化史としてけっこう重要な論点になると思われるので,プロの学者の人はがんばってみてください。


・何故、あの館は爆破され、爆発し続ける事になったのか? 「紅魔館爆発の元凶を探る」(東方我楽多叢誌)
→ 二次創作で紅魔館が爆発オチの素材になるのはすでに歴史の長い鉄板ネタだが,淵源となると難しい。それをよく調査したと思う。そこで忙しい人のためのシリーズや東方M-1グランプリが出てくるのは想定の範囲内だったが,赤色バニラの同人誌に行き着く可能性があるのは意外だった。ニコ動やふたば発祥のネタではないのかもしれないのだなぁ。東方は他にも発祥が行方不明になった二次創作ネタがありそうなので,二次創作文献学の発達の余地があるかも。


・賞金100万円!秋田の新ブランド米、名称公募始まる(秋田魁新報)
→ 今こそ「米っちゃうな」の出番では……というブコメをつけたが一つもスターがつかなかったでござるの巻。なんでや『こち亀』でも屈指の爆笑回やんけ……手元に『こち亀』が無いのでググったところ82巻だそうで。


・総理の給与はなぜ返納されているのか、怠惰の時は怠惰を知らず(ネットロアをめぐる冒険)
→ 要するに全閣僚の給与一部返納は中曽根政権からずっと続いており,特に3割という額は野田政権以降の踏襲になっているという。菅さんもこのまま踏襲するのだろう。法律に基づかないところでこういう惰性的伝統が生まれてしまうのはよくないことで,もはやその微々たる金額で財政再建に貢献するとかその心構えを見せるとかそういう効果も薄れてしまっているのだから,返納を辞めるか,きっちり給与額を再設定するべきだろう。まあこういう謎のところで伝統が生まれるのは,とても日本の歴史らしい話ではあるが。  
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2020年09月11日

パブリブ出版物・献本物の書評(『ピエ・ノワール列伝』・『亡命ハンガリー人列伝』・『重慶マニア』)

パブリブから献本された書籍の書評その2。『ドイツ植民地研究』は分厚すぎて今読んでいるところ。『旧ドイツ領全史』は受け取ったばかりでまだ開いてないので,この2冊はしばらくお待ち下さい。つながりが深い2冊でもあるし。


・『ピエ・ノワール列伝』
初見時にワインの話かな? と思ったのは内緒だ。ピエ・ノワールはアルジェリアを中心とするマグレブがフランスから独立する前後の時期に,フランスに移住した植民地生まれ・育ちのフランス人の総称である。ピエ・ノワール自体は「黒い靴」の意味だが,それがこの人々を差すようになった経緯は不詳とのこと(本書の冒頭で説明がある)。本書はピエ・ノワールの中から有名人をピックアップして紹介している。代表例を挙げていくと,アルチュセール,ジャック・アタリ,アルベール・カミュ,ジャック・デリダ,イヴ・サン=ローラン,ジュスト・フォンテーヌ,メランション,ジャン・レノなど。ジュスト・フォンテーヌは全くそんなイメージが無かったのでちょっと驚いた。サッカーといえばジダンが入ってないと思った人もいそうだが,彼はベルベル人の家系でかつ2世なのでピエ・ノワールの定義に入っていない。とはいえピエ・ノワールの指す範囲は曖昧かつ複雑なようで,本書でも紙幅をとって説明されている。

本書は286ページあるが一人あたりはおおよそ1〜2ページ,つまり膨大な数の人物が紹介されている。特に芸能人はカバー率が高い。正直に言って私には全く興味がわかない人の紹介も多かったが,逆に言えばそれだけ広くピエ・ノワールがフランス社会に入り込んで活躍していると言えるだろう。その意味で,欲を言えばもうちょっと人数を絞って一人一人を深く紹介してもらえると,ピエ・ノワール初心者にはありがたかったかも。人物紹介以外だと本書はコラムが充実していて,本書を読むような人なら誰でも気になる「アルジェリア(独立)戦争」「フランスの核実験」「ピエ・ノワールの投票行動」等は面白かった。ド・ゴールに裏切られたという”記憶”から国民戦線への投票する人が多いとは,まさに歴史が現代政治を動かしている。






・『亡命ハンガリー人列伝』
こちらはハンガリー人の亡命者を紹介したもの。ピエ・ノワールと違って亡命者を輩出してきた歴史が長いため,18世紀のラーコーツィ・フェレンツ2世に始まり,1956年ハンガリー反ソ暴動による亡命者まで続く。ただし,本書では「なんらかの事情で国外に出ることを余儀なくされた者,または自発的意志で外国に移住した者」を列伝としてまとめているので,厳密に言えば亡命者以外の収録も多い。亡命の波は大きく五度あり,1848年革命・19世紀末の経済的移民・一次大戦敗戦後の混乱・戦間期(主にユダヤ系)・1956年である。本書はこれに沿って紹介が進む。

これもざっと有名人を挙げていくとコッシュート,ヘルツル・テオドール,クン・ベーラ,ホルティ,カール・ポランニー,カール・マンハイム,バルトーク,ロバート・キャパ,フォン・ノイマン,プシュカーシュ(マジック・マジャール),ジョージ・ソロス,ピーター・フランクルといった面々。時代が広く,亡命・移住しているという事情からかさすがに有名人が多く,業績をあまり把握していなくとも名前くらいは聞いたことがある,という人々が多いのではないか。ただし本書もやはり人物一人に長くても6ページ,短いと1ページで,人物紹介としてはやや短い印象があった。カール・ポランニーやプシュカーシュが4ページというのはちょっと寂しく,やはり人物数を絞ってもよかったのではないかとはちょっと思った。とはいえ,これだけボリューミーであるので,亡命者の列伝から自然と近現代ハンガリー史を追うことができる構成となっており,これまたこれだけ多くの著名人が国外に出ていかざるをえなかった歴史をよくよく噛みしめることができよう。





・『重慶マニア』
重い本2冊からいきなり軽めの本に飛ぶのだが(とはいえ本書もネタが軽いだけで219ページもある),中国は重慶市に絞った,非常にマニアックな紹介本である。『ウクライナファンブック』等と同様に地理・観光・料理・文化・歴史など様々な観点から重慶を紹介していくのだが,これまでのパブリブの本とは異なって,圧倒的に観光に重点が置かれている。これは筆者が学者ではないという属性の違いによるところが大きいと思われるが,重慶という都市ピンポイントであって広がりのある国家ではないだけに,この方針は当たっている。というか,とことん無駄にマニアックを突き詰めるのはパブリブの出版方針に一番マッチしているかもしれない。

やはり目を引くのは重慶という都市の広大さ,激しい高低差,異様に生えている高層ビル群が生んだ奇景の数々であり,フルカラーで書籍の冒頭でふんだんに紹介されている。あとはやはり四川料理で,紹介される数々の火鍋に,重慶に行ったらスイーツだけ食って過ごす覚悟を決めた(私は唐辛子をこの世から滅ぼしたいくらい辛いものが食べられない)。このページ赤すぎないですかね……

重慶市といえば一つの市としては異様に広く,北海道よりも広い。三国志で有名な白帝城も重慶市に含まれる。その他に歴史ネタといえば,日中戦争期の中華民国首都であったり,改革開放政策前の重工業都市であったりとやはり近現代史の話が多い。本書では「民国時代の史跡は,国共内戦の影響で大体廃墟になっている」とあったが,写真で紹介されているものを見る限りむしろよく残っている印象を受けた。わずか8年間の首都時代に使われていたソ連大使館の建物が別の施設に転用されて残っているのはなかなか大したものだ。日本とのつながりでは,重慶爆撃の他に,私も知らなかったのだが租界(それも列強唯一の)があったらしい。まあ,日中戦争開戦で閉鎖になり,史跡は現在立ち入り禁止らしいのだが。本書は最後に重慶渡航のためのアドバイスがまとめられているのだが,まさか出版直後に世界がこんなことになろうとは,全く予想だにしないところであった。


  
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2020年09月10日

パブリブ出版物・献本物の書評(『第二帝国』・『タタールスタンファンブック』・『ウクライナ・ファンブック』)

パブリブから歴史系・地域紹介系の書籍が出版されると献本が来るのだが,長らく積ん読にしてしまっていた。さすがに不義理だなと思って重い腰を上げ,巣ごもり期間にまとめて読んだので,紹介しておく。まず以下の3冊。


・『第二帝国』(上・下)
タイトルの通り,ドイツ帝国のあらゆる側面を著述した本。政治・経済だけではなく食生活やスポーツ・衣服にも切り込んでいくのはいかにも伸井太一著・パブリブの出版物という感じ。ニベアが生まれたのも,アスピリンが生まれてバイエル製薬が躍進したのも,黄禍論がはやる一方で柔道が入ったのも第二帝国の時代である。アフリカ植民地もちらっと触れられているが,この2年後にそれ単体の書籍が出ることになろうとは誰も考えていなかったのであった。

個人的な話をすると,下巻の少なくない紙幅が記念碑に割かれているのが嬉しかった。ドイツ帝国は記念碑の帝国でやたらめったら記念碑・記念堂を建てている。それというのも無理やり武力統一したので国民意識を醸成していく必要があり,何かに付けて記念碑が建てられるようになった。ドイツ美術とナショナリズムの関連性は学生時代によく読んでいたところなので,いろいろと思い出しながら読んでいた(なお,純美術史的に言えば記念碑の大半は国家事業で様々な思惑が絡むがゆえに平凡になりやすい,というのが一般的な評価)。本書内ではドイツ帝国と後の第三帝国や現在のドイツとのつながりについて触れられているが,下巻最後のページがドイツ帝国におけるハーケンクロイツの扱いとなっているのはいかにも収まりが良い。






・『タタールスタンファンブック』
ロシア連邦内にあるタタールスタン共和国をクローズアップし,これまたありとあらゆる観点を取り上げて紹介している本。「それどこだよ」という人も多かろうと思うが,そういう人でもわかるような紹介から入って,地理・観光・言語・歴史・文化・社会・生活と進んでいく。受験世界史をやった人なら,イヴァン4世によって滅ぼされたカザン=ハン国のあったところ,と言えば意外とわかるかもしれない。あとは日本とのつながりで言えば,代々木ジャーミーの前身を建てた人物がタタール人だったりする。

私自身全然知らない場所だったので,目新しい情報が多かった。極私的に言えばまたしても美術の話になるが,シーシキンの出身地でシーシキン博物館もあるというのがちょっと驚いた。タタールスタンの主要な言語といえば当然タタール語……と言いたいところだが,実際にはやはりロシア語にかなり押されていて,「当局にタタール語の間違いを指摘したら賞金」という制度があるほど,というのを読んで思わず笑ってしまった。少数言語の苦悩が忍ばれる。なお,タタール語オリンピックというものも開催されていて,本書の著者たちも優勝している。大統領は二言語話者(ロシア語とタタール語)という条件があるのもユニークで,他に言語能力が国家元首や行政府の長の条件になっている国ってあるのだろうかと気になったりした。

タタールスタン共和国はロシア連邦内ではかなり強い自治権を有している国ではあるが,プーチン強権体制にはかなり苦労している様子で,またやはりタタール人とロシア人の間に亀裂もあるようで,それらをオブラートに包んで解説している現代政治の章もなかなかおもしろい。あんな立地でよくがんばってるなと思ったら,石油がわんさか出ていてロシア経済を支えていた。なるほど。






・『ウクライナ・ファンブック』
タタールスタンの次はウクライナである。こちらの方が国としては随分メジャーであるが,じゃあロシアとの違いが言えますか? と言われると難しい。本書もつくりは同じで,地理・観光・生活・料理・文化・言語・宗教・歴史・政治・経済と様々な観点からウクライナに切り込んでいく。地理・観光の章がかなり凝っていて,キーウ(キエフ)やリヴィウ・オデーサ(オデッサ)・ハルキウ(ハリコフ)以外の地域が詳しく紹介されているのが大変に良かった。オデッサと聞いても3機のドムしか頭に浮かんでこない(私のような)人でもしっかり学べるので安心してほしい。

ウクライナ縁の日本人といえばやはり大鵬で,本書でもきっちり触れられていた。他にもスポーツ選手と言えばシェウチェンコ,セルヒー・ブブカあたりは懐かしいと思う人が多かろう。料理もボルシチ,キエフ風カツレツことチキン・キーウは有名で,歴史もコサックに負うところは多い(ちなみに海燕のキエフ風カツレツはめちゃくちゃ美味い)。ウクライナ語もイメージと違ってロシア語とかなり違う。また,ロシア語話者であっても2014年以降のロシアの侵略が全く支持されていないという世論調査の結果もあり,言語・文化と国家の相違の事例として興味深い。そう説明されていくとロシアとの違いがわかってきて,疑問もほぐれてくる。

歴史といえば,本書の帯にもあるように「う,暗いな」と思わざるをえないものがウクライナにはあるが,それもしっかりと説明されている。ウクライナの民族性として被害者意識が強すぎて鼻につくとか言われたりもするが,まあこんだけボコボコにされ続ければそうもなるよな,と。そうそう,あとがきに「編集の濱崎さんから『ウクライナ,明るいな』という書名を提案されて議論が紛糾した」とあって笑ってしまった。私としても大恩ある濱崎さんではあるが,私も「明るいな! う,暗いな……」は帯に回して正解だったと思います。


  
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2020年09月07日

高校世界史上で,ロシアの農奴解放令をどう説明・評価するか

高校世界史深掘りシリーズ。まずは前置きとして,各国で産業革命が進んだ時期をその国の「産業革命期」と呼ぶ。その国で機械を用いた工場が広がり始めてから,主要な工業分野で手工業が駆逐されるまでの期間のことである。並行して国土の主要幹線を鉄道が網羅し,都市化が進み,GDP内の割合や就労者数で工業が農業を追い抜くといった現象が起き,産業革命期の終わりを「産業革命の完成」とも呼ぶ。歴史上で最初に産業革命が始まったイギリスの場合,産業革命期は1770年代〜1840年代とされ,1851年の第1回万国博覧会が産業革命の完成の象徴と言われるのはそうした事情による。

イギリスに次いで産業革命が始まった国家群がベルギー・フランス・アメリカで,やや遅れてドイツ地域である。これらの地域は産業革命期が1830年代〜1860年代(ドイツがそれぞれ10年ほど遅れる)とされる。そう,アメリカとドイツは後発資本主義国と言われることがあるが,それはイギリスと対比した時の話であって,19世紀の欧米諸国全体で見れば全く遅れていない。またドイツ・アメリカは1870年代以降の第二次産業革命の影響が大きかったので,この第一次産業革命が目立たないというイメージの問題はあるだろう。

そして,正しく後発資本主義国なのがロシアと日本である。ロシアの産業革命期は1860年代〜1890年代(日本がそれぞれ10年ほど遅れる)とされる。日本は明治政府の殖産興業政策から日露戦争頃まで(日本で工業生産額が農業生産額を超えるのは第一次世界大戦中)。ロシアは開始が農奴解放令に代表されるアレクサンドル2世による「大改革」によって始まり,シベリア鉄道の敷設に代表されるウィッテの工業化政策によって完成したと見なされている。なお,オランダ・オーストリア・イタリアについては高校世界史上で触れられないが,これらの国々はロシアに近いか,ちょっとだけ早いくらいだったりする。日露が列強の中で極端に遅れていたというわけでもないのだ。なお,これらの国々の始期と完成の事情も深掘りすると面白いのだが(オランダの例外さとか),今回の本題じゃないので割愛する(気力があったら別記事にするかも)。


さて,今回の本題はこのロシアの「大改革」と農奴解放令である。前述の通り,ロシアの産業革命の開始が1860年代のことで,これがアレクサンドル2世の「大改革」に起因するものというのは間違いない。アレクサンドル2世の「大改革」は農奴解放令以外にも,ゼムストヴォ(民政を担った地方自治機関)の設置,企業設立や鉄道敷設の支援策,通貨改革等の多様な改革が行われていて,総体としては文字通りの「大改革」であった。そしてまた「大改革」の中心が1861年の農奴解放令にあるのも間違いない。しかし,1861年の農奴解放令と産業革命に直接的な影響関係を認めるかどうかは別問題になる。

なぜこれが焦点になるかというと,2つの理由がある。1つは単純に,これが産業革命と労働力の関係を分析する上で重要な論点になっているからである(その意味で本稿は農業革命の記事の続編なのだ!)。産業革命が起きるために必要な条件は,資源・労働力・資本・市場の4つである。ロシアの場合,資源はあったが,残りが無い。この点で,奴隷や農奴という存在は足かせになる。彼らは農業に縛られているので工業労働力にはなりえず,購買力が無いので国内市場にもなりえない。ゆえに,産業革命には奴隷解放や農奴解放が必要になる。ではロシアの農奴解放令は産業革命にとって重要だったのでは?……と思われるかもしれないが,高校世界史でも必ず触れられるように,この時の農奴解放はその不十分さがしばしば強調される。すなわち,
・人格的な自由権は無償で解放,耕地の譲渡は有償
・耕地の地価は高額で,ほとんどの農民は年賦支払いを選択
・年賦の支払いは,ミール(農村共同体)を単位とする連帯責任制
・年賦の支払いが終わるまで,ミール所属の農民は居住・職業選択の自由が制限される
という条件であった。ここから,農奴は人格的に解放されても土地に縛り付けられていたというのがわかると思う。こうした制限は,他の「大改革」によって大きく開花するはずだったロシアの産業革命の足を引っ張ったという評価が根強い。一方で,ロシアの農業は従来自給自足的であったのに年賦の支払いは現金であったため,農閑期の農民が近隣の都市・工場へ出稼ぎに行くことが盛んになった。この出稼ぎの労働やそれによる現金収入は,国内に労働力と国内市場を提供した。専業の工業労働者を供給できたわけではなかったので制度としては不十分であったが,農民人口が膨大であったがために,走り始めの工業には十分な労働力になりえたという評価もある。

もう1つは,高校世界史の特殊事情がかかわっている。高校世界史は用語主義で,かちっとした用語が無いと事象自体がなかったことにされがちな上に,制度史偏重の傾向がある。それゆえに農奴解放令以外の「大改革」の内容は,ほぼ全く触れられることがなく,どうしても「大改革」とは農奴解放令だけを指すことになってしまっている。結果として「農奴解放令”が”,ロシア産業革命の出発点になった」かどうかが,教科書記述上の焦点になる。これに対して「いや,「大改革」が産業革命の出発点になったと,ちゃんと記述すればいいだけでは?」というツッコミを入れたくなる気持ちはわかるのだが,ともかく現状の高校世界史はあまりそうなっていない。また,前述のように産業革命と労働力の問題はイギリス農業革命やフランスの産業革命等と合わせて世界史上の一大テーマであるので,この特殊事情がそこまで悪さをしているとは思われない。

というわけで,実際に各教科書がどう記述しているか確認してみよう。比較するのはいつもの5冊+山川の用語集(・詳説世界史研究)。なお,いずれの教科書にも上述のような農奴解放令の内容の説明はあり,差もほとんどなかったので以下の説明では特に触れない。


《「大改革」への言及が無いor希薄,農奴解放令による産業革命への影響を認めず》
・山川『詳説世界史』:「大改革」については「クリミア戦争後,ロシアは国内改革に専念し」とあるのみで,農奴解放令以外の改革内容には全く触れず。農奴解放令と産業革命の関係には一切言及なし,どころか,ロシアの産業革命についての言及自体が1890年代にならないと登場しない。これ,ロシアの産業革命の”開始”が1890年代という誤解を与えかねないので普通にまずいのでは。


《「大改革」への言及が無いor希薄,農奴解放令による産業革命への影響は認める》
・東京書籍『世界史B』:「大改革」については「一連の改革が行われ」とあるのみ。一方,農奴解放令については「ミール(農村共同体)を統治の末端に組みこみ,他方で,工場労働者を創出しようとする政策であった」と説明されていて,やや詳しい。ただし,目的という形での言及であって,この目的が成功したかどうかの記述がないので片手落ちである。また,山川『詳説』と同様に「ロシアや日本では19世紀末から,国策による産業革命が推進された」という説明になっているが,ロシアはともかく日本の殖産興業がなかったことになっているのは普通に中学日本史と矛盾をきたさないか。
・帝国書院『新詳世界史』:「大改革」については「自由主義的改革に取り組んだ」という記述のみ。一方,農奴解放令については「これにより自由な労働力が多数創出された結果,工業化と資本主義化への道が開かれた」という記述になっていて,これはかなり練られた良い説明になっていると思う。後段で「ロシアは,フランスなどの外国資本の導入により,1880年代に工業化が進んだ」と記述されているので,始期と完成期が明確に違うとわかる(1890年代でなく80年代になっているのがちょっと引っかかるが)。

《「大改革」への言及が有り,農奴解放令による産業革命への影響を認める》
・実教出版『世界史B』:一応ここに分類したが,「大改革」という用語を出しているだけで,内容の説明は無い。農奴解放令については積極的に意義を認めていて,「農奴が解放されて自由労働力が創出されたことで,ロシアでも工業化と資本主義化が進むこととなった」と記述。ただし,煮え切らない記述よりは断然良いが,積極的な評価を与えすぎではないかと思われ,「道が開かれた」という抑制的な記述にとどめた帝国書院との差異が気になるところ。また,後段で「ロシアは19世紀末に産業革命に突入し」とも記述しており,矛盾してない???と首をひねってしまった。ついでに別ページには「ロシアは農奴解放令後の1880年代から(産業革命が推進され)」とあり,この教科書で勉強した受験生は,結局ロシアの工業化が始まったのは1860年代なのか80・90年代なのかがわからないと思う。
・山川『用語集』:「大改革」は立項されていないものの,農奴解放令の項目の説明の中で言及されていて,農奴解放令以外の具体例も挙げられ,「「大改革」は近代的社会制度を導入する契機となった」という評価を与えているのは非常に良い。しかし,そこまでやるのであれば素直に「大改革」を立項すべきではないかと思う。というよりも『新世界史』と実教出版に記述があるのだから,本来であれば用語集頻度△芭項されていて然るべきでは。また,産業革命と農奴解放令の関係性については農奴解放令の項目ではなく,ロシアの産業革命の項目で言及があるのだが,「1861年の農奴解放令のよる労働力創出,94年の露仏同盟完成後のフランス資本の導入,国家の保護などにより,1890年代に産業革命が進んだ」という不思議な記述になっており,逆に言えば農奴解放令は30年間は効果が無かったってこと???と混乱する。

《「大改革」への言及が有るが,農奴解放令による産業革命への影響は認めない》
・山川『新世界史』:「ロシア「大改革」」というコラムが用意されていて,大々的に取り上げられている。「大改革」の内容としてゼムストヴォの設置にも言及している(そのせいでゼムストヴォが難関私大で問われてしまうわけだが)。一方,農奴解放令については概要の説明にとどまっていて,産業革命との関係は言及を避けている。要するに『新世界史』の筆者は「大改革」と産業革命の関係なら言及する価値があるが,農奴解放令単体には無いと考えているようだ。これはこれで筋が通っている。
・山川『詳説世界史研究』:さすがに「大改革」はゼムストヴォの設置を含めてかなり詳しい言及がある。一方,農奴解放令と産業革命の関係は「農奴制が産業革命さらには経済発展を阻んでいるという認識が広まり」という迂遠な説明にとどまっている。また「村団(※ミールのこと)は国家機構の最末端組織と位置づけられ,農村は国家に直接組み込まれた」という記述もあり,農奴解放令の説明としては明らかにこちらに重点が置かれている。要するに農奴解放令は国民国家建設のために発令されたものであって経済は主目的ではない,という立場を採っていると言える。


【まとめと感想】
今回は帝国書院の記述が最も良く,山川『新世界史』も悪くない。東京書籍は「目的」として書いてしまっているのが謎で,もったいない。同様に実教出版は踏み込みすぎているきらいがあるのと,産業革命の始期の記述の矛盾が惜しい。山川『詳説世界史』は無味乾燥な記述になっていて,しかも産業革命の始期が不明瞭なのは実教出版と同様に良くない。山川『用語集』は農奴解放令の説明は良いが,産業革命の時期の記述がやはりまずい。

今回は旧説・新説の対立ではなく,歴史学でいう評価の段階での意見対立が主題であったが,優れた記述があったのは新説好きの帝国書院であった。『新世界史』はゼムストヴォを載せているくらいなので近代ロシア史に詳しく,良い記述になっているのは想像がついていたところ。一方,残りの4冊は残念というか,山川『詳説』・東京書籍・実教出版・山川『用語集』の4冊はロシア産業革命の始期の記述が雑すぎて問題が大きい。これは改善してほしい。山川は例によって「大改革」に言及するのは『新世界史』と『用語集』,しないのが『詳説』という分業体制だったりするのだろうか。今回については共倒れになっている感覚の方が強い。  
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2020年09月05日

ニコ動の動画紹介 2019.9月中旬〜2019.10月上旬



shelfall氏の小ネタ3連発。普通にけっこう致命的で起きうるバグでは。こんなのが残ってて,かつ今まで見つからなかったのだなぁ。



こちらは有用バグ。ただまあ,そんなにスピードアップを集めることになるのはステータスカンストをねらっている人だけなので……



全然気づかなかったけど,言われてみるとなるほど。




Poly Bridgeではない橋ゲー。この回が神回。このゲームの当たり判定どうなってんだよw




リムワの動画を見たことがなかったので,なるほどこういうゲーム,と思って見ていた。



ゲーム実況中に上手く行かなくなるとたまに挿入されていた曲のフルバージョン。歌詞がぴったり。調整が上手い。




かわやばぐ氏。レミ神子だけでも珍しいカップリングなのに,そこにレミさとを突っ込んでくるセンス。変わらず面白い。



カメ五郎にしては凝った料理をしている回。実際にこのハンバーグはめちゃくちゃ美味そう。




MSC2019参加作品。mobiusPとみざむっく(茸原木P)氏の合作。mobiusPの作品なのに勝ち上がれなかったのは,MSCとしては地味だったからかな。映像としては美しいと思う。



まさか!氏。下半期20選選出。MSC2019参加作品。私的優勝作品。完璧なダンスシンクロ,歌詞に沿った場面選択で良質なコメディに仕上がっている。史上最もロコがかわいいMAD。決勝で伸び悩んだのは,MSCの戦い方としては決勝の1分で見せすぎて,フルを見たいと思わせられなかったのが手痛かったか。



しょじょんP。下半期20選選出。MSC2019参加・優勝作品。圧倒的クオリティで文句のない優勝。どう見てもしょじょんPが作ったともろわかりで知名度の追い風があったという点を差し引いても,ハイセンスな可愛さで他の追随を全く許さなかった強さがあった。お見事。



踊るジャイロPシリーズ。ミリシタも踊った。ジャイロPが楽しそうで何よりです。



taiga氏他6名。下半期20選選出。なぜに「プラリネ」はこうも人を泣かせにくるのか。男が歌っても違和感がないし,プロデューサーさんが歌うとなおエモさが増すのもまた不思議な曲。  
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2020年08月31日

奇しくも『エーゲ海を渡る花たち』の逆コース

・修道院所蔵の刀剣、5000年前のものと判明 伊ベネチア(CNN)
→ タイトルに「5000年前のものと判明」とあるのに,本文に「この合金は主に紀元前4世紀の終わりから同3世紀初めにかけて使われていたもので」とあって,どっちが正しいのかといぶかしんで原文に当たってみると,"the end of the 4th and beginning of the 3rd millennium BC" となっていたからタイトルが正しい。本文の方はmillenniumを盛大に誤訳している。
→ ついでに本文の末尾に「修道院の記録文書の調査担当者によると、刀剣は1886年の8〜9月、トルコのトラブゾンにある同じ宗派の聖職者組織から贈り物として届けられたという。」とあるが,トラブソンとヴェネツィアで同じ宗派? となってこれも原文の該当部分を読むと,"the monastery is home to the Mekhitarist friars, an Armenian Catholic congregation who settled there in 1717 " とあって,要するにアルメニア典礼カトリック教会の修道院だった。同じ宗派の聖職者組織間のやり取りであるから誤訳ではないが,宗派名を出さないのは誤解を招きやすく,そもそもこの訳者がカトリックと東方典礼カトリックの区別がついていないのではないかという疑惑にもつながる。
→ それはそれとして,東方典礼カトリックの中でもアルメニア典礼カトリックとは珍しいし,ヴェネツィアに18世紀初頭に修道会を設立していたというのも興味深い。その聖職者を介してトラブソンからヴェネツィアへ「中世の短剣」と信じられたものが送られたってだけでロマンが山盛りである。そこに,約120年も宝物として安置された後,21世紀になってから古代製,それも青銅器時代の初期のものと判明するなんてどれだけ属性を持ったら気が済むのか。5000年前のものとしては保存状態も素晴らしく,経歴から言っても聖性を帯びている。誤訳から調べ始めたものだが,これは調べてよかった。


・アニプレックスがノベルゲームを作る理由 ― 仕掛人は『サクラノ詩』で人生を肯定され、社内で“エロゲー大好き”をアピールし続けた元営業マン(電ファミニコゲーマー)
→ なんでまた今更アニプレックスがノベルゲームを,と思っていたら,けっこう個人の働きかけが強い企画だった。エロゲー黄金期を遊んできた人間かと思いきや,ちょっと後追いくらいの立ち位置で,2010年代にだって面白いエロゲーはあるんだぞという気概を持っている人だった。出てくるゲームの名前が,私の趣味とは合わないものも含めてすごく「ああ,エロゲーマーらしいエロゲーマーだ」ってわかるラインナップでちょっと笑ってしまった。この人も絶対『天気の子』見た後に例の幻想に捕まってたでしょ。これだけ語っていて,実際に作られた作品が10時間未満の比較的短編でしかも全年齢・Steam売りというのは極めて現代的である。というよりも,『天気の子』もまさにそうだったのだが,エロゲー黄金期に積み重ねられたあれやこれやのノウハウはそれなりに価値があるもので,それらがこうした”脱色”を経てコンテンツの最前線に戻ってくるのは,完全に傍から見ているだけオタクではあるが,やはり喜ばしいし現象として面白い。
→ で,これだけ熱意がある人がプロデューサーについて,アニプレックスの資金と人脈を駆使したゲームなのだから面白いのだろうと思われ,実際に批評空間を見ても2作品ともぼちぼち評判が良いのだが,『ATRI』の前に『サクラノ詩』を積んでいて,嘘屋作品がそこまで好きでもない自分にはプレイする機会がしばらく無さそうなのであった。身内・知人で誰かプレイした人がいたら感想を聞かせてください。


・中世の姿残す荘園遺跡の荘園領主募集 大分・田染荘(JAcom 農業協同組合新聞)
→ なかなか面白い試みだと思う。もうちょっとだけ詳しい歴史を知りたいと思って検索すると,あっさりこんなのが出てきた。こう言ってはなんだが,豊後高田市教育委員会がこんなに詳細に調べているとは思わなかった。国東半島という立地で宇佐神宮の荘園であったそうだが,戦国期に大友氏の支配下に入って宇佐神宮の大所領が解体され,豊臣氏の侵攻を経て江戸時代には島原藩の飛び地所領となったそうだ。近隣には,院政期の代表的建築物として名高い富貴寺大堂もある。この中世の宇佐神宮の所領だった頃から水田や水路の地形がほとんど変わっていないのであれば,確かに「荘園」を名乗っても許されるだろう。リアリティを追求するなら,年貢以外に”公事”(という名の特産品)の貢納もあったり,茶番的に購入者が宇佐神宮に何か納める必要があったりしたらより面白かったと思うが,さすがに面倒か。  
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2020年08月23日

ドラゴンの杖までパパスの剣で引っ張ったり

・「先生がオメガを倒したら宿題やってきてやるよ」と生徒が言ったので、わたしはゲームライターになった(Yuka S.|note)
→ ゲームライター菅原有香氏の昔話。良い話を読んだ。プレイヤーは主人公なのか,神の視点からの導き手なのかというのは古典的なテーマではあるが,確かにFF5では後者であって,かつ「プレイヤーはクリスタルだった」と言うべきなのだろう。また,こういう物語性のあるゲームだとやっぱりロマン枠はあるというか,効率とロマンの配分をどうするかも含めて,最も自分が楽しめるであろうプレイ内容をデザインするのがプレイヤーに与えられた権利である。誰がうってもダメージにさしたる差はない(しいて言えば基礎魔力が一番高いのはレナだったか)が,やっぱりシルドラはファリスに使わせたくなる(同様にフェニックスはレナ)プレイヤー心理は,FF5をやったことがある人なら誰しもが通っているデザイン選択であろう。
→ それはそれとして言うなら,オメガ討伐はやっぱり魔法剣サンダガみだれうちではありw,自分はそれであっさり倒してしまった。『こち亀』にも載っている信頼と実績の戦法である。自分がやった頃はインターネットは全然普及していなかったにせよ,すでにそれなりに情報が出回ってしまっていて,そもそも兄が先回っていろいろ教えてくれていたので,FF5の場合は自分で模索して探すということはなかった。それでも当時の攻略情報だと「ちょうごう」の強さは全然知られておらず,あれはインターネット普及後に復権したイメージである。サムソンパワーを先生に勧めてきた当時の塾の生徒たちはすごい。
→ しかし,ボスを倒すために試行錯誤を繰り返す楽しみというのは間違いなくあって,自分の場合だと,
○『FFT』のウィーグラフ一騎打ちをラムザのエール(Speedアップ)とチャクラで逃げ回って自分のSpeedが30くらいになってから一方的に殴る戦法
○『サガフロンティア2』で,サウスマウンドトップの戦いで偽ギュスターヴ軍を8ターン耐えきるための動き方(ついでに言うとエッグも攻略を一切見ずに倒した)
 あたりは攻略を見ずに完全に自力で思いついた事例で,すごい興奮しながらゲームをしていた記憶がある。最近はどうも詰まったら面倒になって攻略に頼りがちで良くないが,社会人は時間がないので許してほしい……


・東京五輪一年延期→古代ギリシャ的には「真のオリンピックイヤー」かつ400年に一度のキリ番(追記:さらに延期先の2021年7月23日は古代の元旦)(Togetter)
→ 東京五輪延期の陰で起きていたミラクル。紀元0年が無いから,前776年に始まったものを,1896年にリスタートすれば1年ずれるよなという単純な計算の話ではあるが,それがちょうど700期だけ綺麗に一致したのはミラクルというほかない。
・古代ギリシャ目線でここが変だよ現代オリンピック(アトロク『古代オリンピック特集』まとめ)(Togetter)
→ こちらのまとめも面白かった。「汚職と賄賂にまみれているのは,古代としては正しい」はそりゃそうなんだけどもw。


・文字化けでよく出てくる漢字の意味を調べて愛でる(デイリーポータルZ)
→ 最近文字化けもあまり見なくなったので,このネタは割とおっさんホイホイであるかもしれない。「鐚」は,鐚銭が高校日本史の撰銭令で出てくるから,実は読める人が多そう。「悤」は,確かに「聰」なら寺尾聰など人名でなら見ることがある。私がぱっと思い浮かんだのは当然ながら秋山聰。「悤」だと「忽」と同じ意味で「あわただしい」の意味になるのに,「聰」だと「聡」の旧字でむしろ「さとい」の意味になるのは面白い。賢い粗忽者も当然存在するので,余計に面白い感じはする。
→ 気になって同じようなことを考える人はいるようで,ニコニコ大百科にも同じような記事があった。こういう時にニコニコ大百科は謎に強い。
・縺(ニコニコ大百科)  
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2020年08月16日

日時指定された異世界へ(ロンドン・ナショナル・ギャラリー展)

ウッチェロ《聖ゲオルギウスと竜》Twitterで流れてきたTweetに「美術館とは,気軽に行ける異世界だった。日時指定で行けるようになっても気軽さがない」というものがあって,非常に強く同意していた。なんとなく美術館に行くのが億劫になっていたが,それを言語化できずにいたところであったので,まさに我が意を得た言葉であった。それでも異世界への思いは絶ち難く,重い腰を上げてイープラスのアプリを起動して,やっと行ったのが西美のロンドン・ナショナル・ギャラリー展であった。

本展は展示数が61点と少なかったが,非常に豪華だった。こういう海外の大規模美術館から借りてくる時は目玉展示が数点,後はまあ……ということになりがちであるが,今回は紛れもなく端から端まで目玉展示になるものがそろっていて,極めて満足感が高い。コロナ禍に巻き込まれて全然集客できていないのが非常にもったいない。ついでに言うと,宣伝もゴッホに偏っていたのはちょっともったいない。

第1章はイタリア=ルネサンス。いきなり最初にウッチェロの《聖ゲオルギウスと竜》が出迎えてくれる(今回の画像)。聖ゲオルギウスが描かれることがそれほど多くないので,彼といえばこれという作品。聖ゲオルギウスは竜を瀕死にした後,竜に生贄として捧げられていた姫とともに宮殿に連れて帰り,「キリスト教に改宗するなら,とどめを刺します」と告げたそうなので,姫が竜の首に繋げられた縄を持っているのだが,むしろこの縄のせいで「姫が飼っていたペットの竜を刺殺されているシーン」にしか見えない。それはそれで何か物語が作れそうな設定ではあるが。(FGOでゲオルギウスにお世話になった人はここで詣でておきましょう。

2枚めも豪華,カルロ・クリヴェッリの《受胎告知》。めちゃくちゃ急角度な一点透視図法は,それが定着し始めた頃のイタリアでは大受けだったのだろう。それだけに,透視図法を無視して天から降り注ぐ「受胎しろビーム」が非常に目立っていて,画題の面目躍如である。クリヴェッリの硬質な描き方も,建物が目立つ本作ではよくあっている。なお,本展の図録カバーは本作とゴッホの《ひまわり》の二種類から選択可能である。他にギルランダイオ,ボッティチェッリ,ティツィアーノと来て最後がティントレットの《天の川の起源》。これもこのギリシア神話の1シーンを説明する際にほぼ必ず言及される絵で,ここで見れたのは僥倖であった。

第2章はオランダ黄金期の絵画。レンブラントの自画像,フランス・ハルスの肖像画,ヤン・ステーンやテル・ボルフの風俗画,クラースゾーンの静物画とおなじみの面々が続く。フェルメールも1点,《ヴァージナルの前に座る女》が来ていた。本作の特異性は,フェルメール作品なのに画面の左側の窓がカーテンで覆われていて,残った部分も宵闇となっていて光が差していないことにある。2枚の画中画が置かれているのも珍しい。壁にかかっている大きな絵はディルク・ファン・バビューレンの《取り持ち女》と特定されているが,ヴァージナルにかけられた風景画は言及している文献が少ない(図録でも言及がなかった)。宵闇や画中画,加えてヴァージナルの手前に置かれたセッション用の弦楽器から,本作はまあそういう男女の密会の光景だろうとされている。本作が来ているとは知らなかったので,思わぬところでフェルメールのスタンプラリーが一つ埋まって嬉しかった。私はこれで23/37(22/35)点となった。

第3章はやっとナショナル・ギャラリーらしくイギリスの絵画。ヴァン・ダイクで幕を開け,レイノルズとゲインズバラに続いていく見事な構成。個人的に面白かったのがライト・オブ・ダービーによる肖像画があったことで,ライト・オブ・ダービーと言えば《空気ポンプの実験》等の科学実験や講義のイメージしか無かったので新鮮だった。当然ながら,彼も主要な収入源は近隣のジェントリや産業資本家の肖像画だったのだ。

第4章がグランド・ツアー。イギリス人貴族・富裕層の若者によるイタリアへの修学旅行であり,土産物としてイタリア現地の風景を写した絵画を購入するのが流行していた。ここもカナレットとグアルディというこの分野の二大巨頭の作品が展示され,カナレットはイギリス滞在中に描いたイートン・カレッジの風景画もあり,客層とニーズをよくつかんでいる。カナレットがイギリスに滞在していたのは初めて知ったのだが,9年間とかなり長い。やがてグランド・ツアー需要が増すと,イタリア人だけでなくフランス人のジョゼフ・ヴェルネやイギリス人のリチャード・ウィルソンなどもお土産系イタリア風景画に参入して人気を博した。ジョゼフ・ヴェルネやリチャード・ウィルソンの作品は本展の他に,西美の常設展に展示されているので合わせて確認したいところ。

第5章は少し時代が戻って17世紀のスペイン絵画。なぜこのような構成になっているかというと,イギリスのスペイン絵画受容がナポレオン戦争を契機としているからだそうで,であれば確かにグランド・ツアーの後に持ってくるのが正しい。ここもエル・グレコ,ベラスケス,ルカ・ジョルダーノ,ムリーリョ,スルバラン,ゴヤと錚々たる面々。スルバランの殉教した聖女シリーズを久しぶりに見た気がする。今回は《アンティオキアの聖マルガリータ》で,竜に丸呑みされたが奇跡によって龍の腹が割けたので脱出しえた,というすごい伝説を持つ。アトリビュートは当然竜になるので,本作でも竜を侍らせている……思わず侍らせていると書いてしまったが,聖マルガリータが羊飼いの格好をしていることもあって,これも竜が飼われているようにしか見えない。この竜,普通にかわいいんだよな……。ゴヤの作品はウェリントン公の肖像画。キャプションにある「表情がやつれて虚ろ」「スペイン戦役の苦労が表れている」という言葉の通りで,威厳に満ちながらもやつれている表情の表現が見事であった。

第7章は18世紀後半以降に隆盛したイギリスの風景画とその前史。クロード・ロランとプッサンの古典主義風景画に始まり,サルヴァトール・ローザとロイスダールの影響が入って次第にピクチャレスクに向かい,最後にコンスタブルとターナーが登場してロマン主義が流行する。クロード・ロランの作品は有名な《海港》シリーズの1作。十分に豪華ではあったのだが,個人的に風景画が一番好きなのでさすがにもうちょっと作品数がほしかったところ。コンスタブルの作品が1点だけというのは悲しい。

ラストの第8章はフランスの近代絵画。イギリスはラファエル前派が強かったこともあって印象派受容は遅れたが,それでも(前に展覧会が来ていたコートールド等ががんばったおかげで)そこそこのコレクションがある。今回の展示にいたのは新古典主義のアングルから始まってコロー,アンリ・ファンタン=ラトゥール,ピサロ,ルノワール,ドガ,ゴーガン,モネ,セザンヌ,そして最後にゴッホの《ひまわり》。ロンドン・ナショナル・ギャラリーにある《ひまわり》は画面全体が黄色で,他の《ひまわり》にも増して強烈なインパクトがある。こんなものを描いていたのだからアルルの時点ですでに病んでいるよなという思いが強くなる一品だった。


というように思わず作品を列挙して長々と書いてしまったが,これほどまでに美術史の教科書に載っている作品が多く展示された企画展は,それもわずか61点に凝縮されているものとなると本当に珍しい。自分のブログの過去ログをさかのぼって見ていっても,本展に勝てそうな西洋美術の企画展が過去5年でちょっと見つからなかった。日時指定になっているためにゆったり見られるのは,鑑賞者にとってはありがたい現象で,お盆休みを除くと意外にもチケットは取りやすく余っている印象である。2020年の西洋美術の企画展を1つだけ挙げろと言われたら間違いなく本展になるだろう。  
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2020年08月15日

ニコ動の動画紹介 2019.8月中旬〜2019.9月中旬




相変わらず斬新なルールを思いつくものだ。これは普通に面白いと思う。4人麻雀でやってもよさそう。



おやつ氏。ロマサガ2の初期乱数を固定するための行き着く先が冷蔵庫でスーファミ本体を冷やすの,面白すぎる。



ピロ彦氏。おやつ氏考案のチャートを限界まで最適化したとのこと。とんでもない記録である。ちょっと前まで,難攻不落だったFF5もとうとうサブフレームリセットには負けたか……とか言っていたのに。解説もめちゃくちゃわかりやすい。




tktk氏。下半期20選ノミネート。放クラが似合いすぎる。




カニル氏。下半期20選選出。透けm@sterという文化が復興したのはニコマス史上特筆すべきトピックスであろう。



たらひP。下半期20選選出。「さすがに9人は」というハードルを超えてきて視聴者感動。でも本当に無理しないでほしい。



メカP。下半期20選ノミネート。I don't know why you say ほわ…, I say 真乃.ってこっちが聞きたいよ。



メカP。こちらはまじめ人力ボーカロイド。



ぶれP。下半期20選ノミネート。人力ボーカロイドはこれにて引退とのこと。高精度なだけに作るのが大変だったのだろうな。



ぎょP。今考えると当時の衣装課金はまだマシだったな……えらい時代になってしまった。



Ya-maP。人力ボカロ上手い。



まとめられること前提で作ってるでしょこれ。だんだん様子がおかしくなっていくw。  
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