2006年10月29日

風俗画にワッフル発見

西洋美術館のベルギー王立美術館展に行ってきた。ベルギーというのはなんだかオランダの影響が強いように見えるが、実は全く違う国である。言語は半分同じだけど、宗教は違うし文化も違う。

そんなわけで絵画も違う。特に17世紀においては、ベルギーの絵画は貴族やカトリックの教会向けでとにかく大作志向だけど、オランダは共和制で貴族はいないしプロテスタントで教会が質素だから、小市民向けの小さい絵画を描かざるをえない。今回はベルギーなので、大作がいっぱい来ている。

入った直後はともかくブリューゲルのオンパレードである。ピーテル・ブリューゲル(父)、その長男ピーテル(子)、次男ヤン、さらに名前は失念したが孫の作品まで。伝統なのだろう、あまり作風が変わっていかない。特に人物表現。それにしても、ヤンの花の絵はうまい。ブリューゲル(父)の絵で注目すべきは、やはり《イカロスの墜落》だろう。前から怪しいとは言われていたが、贋作の可能性が高いことが展覧会の会期中に発覚するという異例の事態が起き、急いで説明文を書き換えたという曰く付の絵である。これを見るために行く価値がある展覧会だと思う。

おもしろかったのは、ルーベンスの大作とその絵のドラクロワの模写が併置してあったこと。見比べるとそれぞれの違いがよくわかっていい。ルーベンスのはすごくきちっと描いてあって色彩もくっきりしているが、ドラクロワのはぼやかして描いてあり色彩もだいぶ暗めである。模写だからそこまでマジメに描いてない、というのも影響しているだろうが。

静物画もいいのが来ていたが、案の定この間のウィーンアカデミー名品展とかぶっていた。しかも向こうのほうがもっと良かった。少々残念な話ではある。

その後はフランスアカデミーっぽい絵が続き、やがてアンソールの骸骨が出迎えてくれる。が、「これぞアンソール!」という絵はあんまり無くて残念だった。できればもってきてほしかったところだ。アンソールといえば、ベルギーを代表する画家の一人だろうに。次に出てきたのはクラウス。ベルギー出身の点描画家(後期印象派)である。非常にスーラっぽい。

最後にデルヴォーとマグリットのシュルレアリスムがあって終了。100点とちょっとと、短い割には密度の濃い展覧会ではあるだろう。ただ、ほんとになんでも雑多に持ってきてしまったという感じで、ベルギー出身の画家の作品という以外に共通点がまるでなく、統一感には欠ける。そもそも美術に少し詳しい人じゃないと、ベルギー出身の画家の名前なんて知りはしないわけだから、全く統一感が無いと言ってもいいかもしれない。仕方の無いことではあるんだが。

統一感だとか細かな文句をつけなければおもしろい展覧会だと思うので、ぜひどうぞ。  

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2006年10月27日

第82回「ゲーテの秘密結社 ―啓蒙と秘教の世紀を読む―」北原博著 大阪公立大学共同出版会

秘密結社とあるが、95%がフリーメイソンについてである。ゲーテがフリーメイソンだったのだから当然なのだが。(ちなみに残りの5%はイエズス会だったりする。)というわけで本書はゲーテ時代のドイツフリーメイソンの状況とゲーテのメイソンに対する態度、そしてゲーテ作品やその友人たち、シラーやレッシング、ヘルダーの作品に見られるフリーメイソン思想について論じている。この3人がフリーメイソンだったということだけで、十分驚きに値する気はする。

自分がこの本を手にとったのは全くの偶然である。そもそも今学期(3年の夏学期)にフリーメイソンの授業とゲーテの授業をとっていたことがその始まり。かつフリーメイソンの授業で『魔笛』を鑑賞し、『ヴィルヘルムマイスターの修行時代』を私的な興味で読んだ直後に、ゲーテの授業のほうで課題が出、そのレポート作製のさいに図書館をうろうろしていたらこの本を発見した。もっとも実際に借りたのはそのだいぶ後になってからであるが。

特に中心に据えられているのが『魔笛』と『ヴィルヘルムマイスターの修行時代』であるため、自分には非常にとっつきやすかった。というよりも先に読んでおかないとかなり読みづらいかもしれない。またフリーメイソンに関する基礎知識もすっ飛ばし気味なので、こちらも先に知っておく必要があるだろう。もっとも、そこら辺に興味が無い人はまずこの本を手にとることは無いだろうが。

170Pとあまり厚くないが内容は十分。なかなかおもしろい本に仕上がっている。あまりに偏ったテーマなので興味がある人もレポートに使う人もいないとは思うが。なお、著者はこの本以外だと『十八世紀ドイツビール博物誌』という別の意味でニッチな本を書いており、こっちも期待を持っている。


ゲーテの秘密結社―啓蒙と秘教の世紀を読む
  
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2006年10月21日

疲れたら幻視が見えるよ

かなり体調が良くなったので、復調記念に自転車で新宿まで行くことにした。そして後悔した。新宿なんて「池袋のちょっと先だろ?楽勝だって」と思ってた自分がおろかだった。新宿の摩天楼っぽいのは、実は割りとすぐ見えた。が、そっからが意外に遠い。新宿の北東側といえば歌舞伎町だが、歌舞伎町の広いこと。秋葉原と同じか、それ以上に広い。

歌舞伎町の中に入ったのは初めてのことだが、ある意味秋葉原とよく似ている。何がって、性に関しておおっぴろげなところ。普通いかに歓楽街と言っても少々オブラートに包むものだが、街の雰囲気がそれを許容するのだろう。もっとも秋葉原との最大の違いは、その飾ってある女性が二次元か三次元か、というところなんだけど。あと、歌舞伎町はゴミが多くて汚かった。掃除しなさい掃除。

50分近くかかって新宿に到着し、行ったのは東郷美術館のウィーンアカデミー名品展である。ウィーンでは美術史美術館の次に大きい美術館だ。今回はクラナハから19世紀末までハプスブルク家の歴史に沿って手広くそろえてきた、とのこと。ハプスブルク家の歴史って、あんたクラナハの頃は首都プラハじゃん、なんて野暮なことは言ってはいけない。

クラナハの絵は、相も変らぬ紋切り型であった。いつ見ても何枚見ても、同じ顔。わかる人にいえば、山本和枝なんか目じゃないレベルである。ルネサンス期は正直見るものがクラナハくらいしかなかったが、そこからちょっと時代が進んでネーデルラント絵画はいいものがそろっていた。ただそうすると、今西美でやっている「ベルギー王立美術館展」とコンセプトがかぶって、価値が下がっている気はする。

もちろん静物画や肖像画もよかったが、風景画が数も質もすばらしかった。特にロイスダールとクロード・ロランはよかった。ロイスダールはやはり別格であり、時代を200年ほど先取りして、ややロマン派に入ってるような気もする。

そこからヴェネツィアの風景画、いわゆるヴェドゥータを展示し、最後にドイツロマン派を展示するという流れは見やすくてよかった。いっそのこと、風景画をメインにもってきて宣伝したほうがよかったんじゃないかと思う。

そんなわけで、思った以上に満足が得られた。思わずカタログ買ってしまった。帰りは再び自転車なわけで、絶望を感じながらこいでいると再び通った歌舞伎町で長門有希に非常によく似た女子高生を発見して、心が小躍りした。いや、ほんと似てたんだって。


うきうきした気分のまま帰宅して、そのまま日本シリーズを鑑賞。「今日は投手戦になるでしょうね」とか解説が言ってて、げんなりした。川上が先発で投手戦になるわけがない。中日ファンの常識である。正直、ダルビッシュが先に崩れてくれなかったら、もしくは日ハムの打撃が本調子だったら、やばかったと思う。その意味で、まるで2年前の日本シリーズ初戦の中日がカチカチに凍ってて負けたのを日ハムが再現してくれた感じ。明日以降が、本当の見所だと思う。  
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2006年10月18日

第81回「日本美術の歴史」辻惟雄著 東京大学出版会

なにやらうちの学科でよく読まれているらしい本。自分も流行に乗って読んでみた。そうでなくとも、日本は疎いのだから。

そういう目的で書かれたのだから、当然かもしれないが、あまりにも教科書然としすぎている。何より単語の羅列をしすぎなのだ。挿絵が足りていないわけではなく十分に載ってはいるのだが(それもカラーで)、日本美術の歴史を全て網羅するには少々物足りない感じ。本に挿絵として乗っていないものをスライドで用意し、この本に従って通年で授業をやったらすごくいい授業になりそうな気がする。

しかし日本美術史が西洋美術の古典・ロマンの争いとそう大差なく、日本独自のものと中国の影響との争いの中で変遷してきたということは、なんとなく理解できた。それが明治期になって西洋画と出会い、さらに混沌としてきたことも。

宣伝文句として「縄文からマンガ・アニメまで」とは書かれているが、マンガ・アニメは最後の最後に5Pほどスペースがとってあるだけ。それも手塚、宮崎駿について触れているだけである。全体で450P、そのうち現代美術に27Pを裂いているわりには少々寂しいというか、宣伝に使われただけという気がして大変悔しい。


日本美術の歴史
  
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2006年10月17日

第80回「太陽の塔」森見登美彦著  新潮文庫

(旧題 失恋をしよう)

某友人(こめ)の勧めで「太陽の塔」という小説を読んだ。軽く内容に触れると、失恋したしがない京大生のしがない日常を描いた物語である。

この一行でピンと来た人もいるかもしれないが、非常に痛々しい。「失恋した全ての男たちとこれから失恋する予定の人に捧ぐ」とあおり文句が書いてあるが、さすがに失恋でここまで魂えぐられる人はあまりいないだろう。失恋から1年経つというのに、独り身の寂しさから精神的ホメオスタシスを保つために、この主人公は涙ぐましい妄想の数々をしている。まさに言い訳の嵐だ。

にもかかわらず、「あるあるw」と思ってしまった箇所が何箇所かある自分に対して自己嫌悪もあったり。なんというか、独り暮らしで彼女を持たない男子学生の悲哀を全部詰め込んだら、こんな人になるんじゃなかろうか。

登場人物の一人に飾磨という主人公の友人がいる。こいつがまた、いわゆるクオリティが神すぎてびびった。ノリとネタの方向性が自分とシンクロしすぎていて、とても他人とは思えない。きっと自分がこの小説に登場していたなら、飾磨の友人に違いないし、逆に飾磨が現実世界にいたなら3秒で友人になれる自信がある。彼なら一緒にカップめん答案に挑んだり、徹夜で成績表を受け取りに行ったりなんて行動に付き合ってくれたことだろう。

驚くべきはこれでも日本ファンタジーノベル大賞受賞作であるということだ。どこがファンタジーなんだよ、と中盤までは思っていたが、確かにファンタジーだった。真相は読んで検証していただきたい。

最後に、舞台が京都なので京都の地理に明るいとより楽しめるかと。特に京都の東側の北のほう、「哲学の道」や京大農学部周辺が中心の舞台となっている。


太陽の塔
  
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2006年10月08日

第79回「イコノロジー研究」E・パノフスキー著 ちくま学芸文庫

激しく今更感のする本ではあるが、読んだ感想もそうであった。美術史以外の人にはさっぱり読む必要が無いが、美術史に決まったら手に取っておくのが必修とも言える本。内容もそんな感じで、読んで知ったことは大概授業でやったようなことや、昔別の本で読んだようなことだった。扱っている年代はルネサンス期で、基本的にはルネサンスの古代受容や中世との関係が主題となっている。

『まなざしのレッスン』や『イメージを読む』を、学術用語で書き換えた感じで、まさに入門書の次、専門書の入り口という感じだろう。特に『まなざしのレッスン』はこの『イコノロジー研究』で取り上げられている事例に関しては全て扱っている。それでも美術史に進学するなら読む価値は当然あるだろう。パノフスキーがその学説に至った研究の推移やあたった文献なんかが克明に書かれていて、こうやって研究するのか、という楽しみがある。さすがは世界中で古典的基本書として愛されているだけはある。

ゆえに、文庫化はかなり無理があったようである。上巻でさえ本の1/3は注釈に割かれ、下巻に至っては注釈と参考文献一覧が半分近くのページ数を占拠している。もっとも文庫化していなかったら自分自身手に取っていたかは甚だ怪しいので、あまりそこに文句を言わないことにしたい。

それにしてもなぜにちくま学芸文庫は高いのか。値段という点では全くお勧めできない。


イコノロジー研究〈上〉
  
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2006年10月06日

地理的に不便

今日は2限休講で3限以降は通年なので、授業に関して特筆すべきことは何も無い。5限は昨年どおり博物館で労働してきた。先学期は怪しげなドイツ産掛軸や戦前の白黒写真なんぞを扱ったものだが、さて今学期は…………ホルマリンを手渡されたのは、気のせいだと思いたい。瓶の中には怪しげな生命体。もとい、「元」生命体。

やることは単純で、長い月日を経て正体不明になってしまったまま展示してあるホルマリン漬け瓶のラベルを気合で読み取り、データ表を完成させるという作業。そんなもん展示しておくなよ、という気もしたが「ここに展示してあるものの価値って何ですかね?」と学芸員さんに聞いところ「あったらここに展示してませんねぇ、正体不明だからここにおいてあるわけで。」というありがたいお言葉をいただいて、全て納得。

別にグロさはたいしたことはなかったが、正体不明度が高すぎてデータにならず。一応ラベルは貼ってあるのだが、かすれてて読めないか、悪筆過ぎて読めないかのどちらかでどうしようもなく。がんばって読むと「小笠原ニテ採集 明治三十年」とか書いてあって、19世紀の生物が保存されているというのはなかなか感動かもしれない。ホルマリンって恐ろしい。

あと驚いたのは「比律賓(フィリピン)ニテ採集 参謀本部寄贈 陸軍少佐○○が捕獲」と書かれたトビトカゲの標本。軍隊に学者が着いていった時代を感じさせる一品である。フィリピンが漢字表記なところもまたポイントが高い。

今週でホルマリンは終わったので、来週は多分また別の仕事だ。次の仕事は一体なんだろう。さっぱり検討はつかないが、また正体不明の物体が出てくることだけは確かで、そういう意味では楽しみかもしれない。できればもっと人が見に来るような展示にもかかわってみたいものだが、小石川じゃ無理だねぇ。
  
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2006年10月02日

敗報に訃報

今日は不幸続きだった。まずサンシャイン60でイベントがあったので自転車で行ったら、帰りには豪雨。戦利品を守るべくビニ傘を購入するも、自転車で走り出して5分で大破。以後、もう一本買うのもしゃくだったのでビニール袋や上着で戦利品を完全防備し、自分は濡れて帰る羽目になった。戦利品は守られたので、まだよしとしたい。

帰ってきて5時、中日阪神戦でも見て凱旋門賞までの時間をつぶそうかと思いネットにつなぐも、関西も雨が振っていて中止。体力を使い切っていたことに加える精神的ダメージで不貞寝。起きたら出走10分前だったあたりは、ある意味運がいいのかもしれない。いや、ここで運を使い果たしたのかも。

んで、凱旋門賞はディープインパクトが負けた。ちょっとディープインパクトが前半あせったね。明らかに武豊が抑えようと必死だったし、あそこで体力をロスした分が、最後刺しかえされるスタミナ切れにつながったのだろう。それでも日本の競馬なら勝てたんだろうけど、やはり世界の壁は厚かったということもある。凱旋門賞は地元の3歳馬が有利というのも働いたし、まあディープインパクトとしては全力を尽くしたんじゃなかろうか。

トドメが米沢代表ご逝去。けっこうマジにショック。代表引退が昨日で、今日亡くなるとは。ご冥福をお祈りします。

今から二度目の不貞寝かなー………  
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