2012年02月29日

第9回東方シリーズ人気投票分析(総評・キャラ部門)

結果発表。
前回の分析。

・総評
今回もぽつぽつと語っていこうと思う。まず,ここに来て投票者数が大きく増加するとは思ってなかった。キャラ部門基準で前回約3万6千が今回は約4万4千であるから,約20%増である。第7→8回が約10%増にとどまったことや,例大祭やコミケの混み具合,ニコニコでの人気等を加味して,ここ2年ほどはブームも落ち着きこれからは沈静化・成熟化する局面に入っていくだろうと思っていたのだが。成熟化具合については,肯定材料も否定材料もあるように思う。投票者アンケートの項目で触れることにしたい。

一つ考えられるのは,キャラ投票の票数だけやたらと伸びていることから,ニコニコから某キャラへの投票だけを行った人が少なからずいるのではないか,ということだ。キャラ投票ベースで考えると票数は激増だが,曲投票ベースだと10%の伸びで,アンケートに至っては微減しており,ここらから「ベースとなる投票者層は前回とほとんど変わっていない」と読むこともできる。であれば,これは今回だけのイレギュラーな現象ということになる。それに伴ってか,キャラ大変動,曲無風,アンケートは票自体が減少とそれぞれ違った特徴を示すことになった。


・キャラ部門
まず,どうしても言及しなければならないのはアリスの2位だろう。これについては,初見で半ば冗談で「にがもん式のせい」と言ったところ,案外本当のことっぽいという。いろいろなところの反応やキャラ投票コメントを読む限り,どうやらにがもん式アリスの与えた影響は大きそうである。MMD,ひいてはニコニコの影響力もまだそれほど衰えていない(希薄化していない)ということか。今年も某サークルが東方コミュニティ白書2012を出すのであれば,タグクラウドがおもしろそうである。ただし,意外と直接「にがもん式」「MMD」「Sweet magic」と書いているコメントは少なく,単純に「かわいい」が圧倒的に多い。

なお,これらのことをつぶやいたところ,けっこうな東方好きであるにもかかわらず初めてにがもん式を知った,という人が何人か見つかった。観測範囲の差というか,ニコニコの中でもMMD界隈となると視聴者層は(多いなりに)限られてくる。事情を知らない人は,今回の結果を分析できず困惑しているのではないだろうか。



今動画を見に行くと2位おめでとうコメントで埋まっている。さて他のキャラ。魔理沙はもう戻ってこないのだろうか,消えた秋サンドの代わりにスカーレットサンドにされる羽目に。実は3位から外れたのは前回の5位が初めてで,今回復権する可能性もあったのだが。魔理沙については「キャラ性能でいじめられすぎ」という声が随所から上がっていたが,私もこれだと思う。妖夢の急上昇(13→8)は完全に神霊廟効果。早苗はこれまでの反動であろう,次回は7位くらいに戻ってくると思うので慎重に見たい。紫様が最近ふるわないのは,さすがに2年経って良くも悪くも儚月抄の残滓が消え(そもそも下がった原因も儚月抄だが),そういえば書籍でも見かけないので単純に最近目立ってないのが原因ではないかと思う。

神霊廟組1位は布都。これは事前の予想通り。某友人と「神子は布都に負けそう」と話していたが,その通りになった形である。布都の19位については健闘したと言えるが,神子の41位は,曲のほうが19位に入っているだけに思った以上に低く,霍青娥にも僅差で負けている。実は,Win初期三部作の6ボスは4,13,33(50)位であるのに対し,後期4作は44,16,23,41と明らかに分が悪い。ついでに言えば足を引っ張っている33位の輝夜(と50位の永琳)は黄昏作品に未登場で,逆に健闘しているお空は非想天則で登場した。ここらへんが差の開いた原因の一つではないか。

あと特筆すべきは華扇か。62→26と驚異の急上昇だが理由は単行本の発売以外にない。萃香が急落しているが(28→36),原因は不明。華扇に票をとられたというわけではあるまい。ナズーリンも急落し,1ボス1位の座をルーミアに奪還されてしまった。あと下がってるのは寅丸星,はたて,永琳あたりだがこの辺は単純な出番不足だろう。霖之助は香霖堂の単行本が出てしばらく経ち,追加の話題がないのが原因か。


ついでに,ざっとではあるが作品別・各ステージ別の平均順位を出していろいろ考えてみた。ちょっと長くなったので,具体的な数字と分析は折りたたむことにして,簡潔なまとめとしては

・紅魔郷圧勝。以下,風神録>妖々夢>>>永夜抄=地霊殿>星蓮船>神霊廟。
・風神録は作品中キャラ人気の偏りがかなり小さい。それに対して妖々夢と永夜抄は格差社会化しつつある。
・3部作の最初は強くて最後はキャラ人気が出づらい。神霊廟は4作目なので例外。
・5ボスが最強。主人公補正ぱない。以下,EX>6>4>3>2>>1。
・思ったほど6ボスは強くなく,EXとの差がけっこうある。逆に4ボスとの差は少ない。
・3・4ボスは準主役格が多くて有利。その影響もあって,3・4ボスが恐ろしいほどの格差社会。

という感じになる。以下,詳しく読みたい人はどうぞ。
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2012年02月25日

世界征服彼女 レビュー

今現在『World Wide Love』をプレイ中なので(『ネブプラス』も予約済),そっちをクリアしてから書くべきかは迷ったところであったが,ファンディスクも単体でレビューを書いたほうがよいという結論に至り分けることにした。

本作は幼馴染の夢子が,天才科学者としてスーパーロボットを作り上げ,世界征服に乗り出したことで起こるドタバタ劇である。この設定から大体わかる通り,徹頭徹尾幼馴染(夢子)ゲーであると言って差し支えない。が,他のヒロインの存在価値が無いというわけではなく,むしろすべてのシナリオが主人公と夢子,そして攻略ヒロインの三角関係で推移する。そして,攻略されたヒロインと夢子の関係性の違いによって,個別ルートの内容が微妙に違ってくるという点が,本作で最もおもしろい点と言えるだろう。実際のところ,主人公と夢子の強固な幼馴染関係に,第三者がいかに食い込んでいったかという話でもあり,物語の筋はどのルートでも大きな違いはない。あくまで微妙に違うだけなので,一見して単調であり,3人目に取り掛った頃には少々だれてくるのも否定しがたい。しかし一方で,この微妙な違いこそ語るべきところなのではないかと思う。最後の選択肢の場面を考えるに,展開を似せたのはわざとであろう。これについてはどうしてもネタバレとなるため,後で詳述する。

本作は,内容の要約をしてもレビューにはならないということでばっさり1行で説明してしまったが,非常に基礎設定がしっかりしている。そのため,これだけぶっとんだ設定であるにもかかわらず,物語の進行にほとんど不自然さがない。特に幼馴染ヒロインにとっては必須であり中核となる要素である,夢子と主人公の過去についてはかなり綿密に設定され,その作中での説明にも配慮が見られる。夢子が科学者になった理由(無論主人公が大きくかかわっている)や,夢子と主人公が親しくなった理由など,幼馴染ヒロインとしてのアドバンテージをフルに活用しており,夢子というメインヒロインを魅力豊かなものにしている。ここでこけていたら本作はどうしようもない駄作になっていただろうが,設定を作り込むことで,ありきたりになりかねない「幼馴染」という要素をむしろ突飛な特徴に作り替えてしまった。これだけ強烈な幼馴染ヒロインが作品全体をしょって立つエロゲというと,多分『マブラヴ』くらいしかない。


とまあ,ギャグゲーかキャラゲーという感じで,私の友人が楽しそうにプレイしていたのをtwitterで横目で眺めていて購入を決めたわけだが,やってみると案外と語れるシナリオということに気づいてしまった。ただし,本作はギャグゲー・キャラゲーとしても割りと優秀であり,特にギャグについてはなんだろう,Navelの伝統なんだろうか,あごバリア・王雀孫の系統でキレを見せている。東ノ助氏には今後も期待が持てる。パロディは比較的少なめ。ただし,聖地巡礼でも狙っているのか,舞台となる小田原市ネタは非常に多い。すでに聖地巡礼を果たした方は何人かいるが,背景については現地まんまである。また,冒頭に書いた通り夢子の作った世界征服兵器がスーパーロボットであるため,スーパーヒーロータイム系のお約束ネタは満載に詰め込まれている。ただし,某キャラが右翼系ヒロインという斬新な設定であるため(公式のキャラ紹介では「旧時代系大和撫子」とぼかしてある),ごく一部ではあるが「ワロタwww……わろた……」的なものはいくつかあった(街宣車ネタとか)。

キャラゲーとしてはハズレがなく,見事に全員かわいい。キャラの立ってない子はいない。個人的な話をすると,普段の属性から言えば菜子になるのだが,本作ではどうしても夢子が一番かわいかったとしか言いようがない。シナリオの都合上,愛着がわかないわけにはいかず,そうして言動を見ていると本作の作りこみ具合に改めて気づくと同時にまた愛着がわくのである。何より,声優の籐野らんが怖いくらいはまり役で,この人うまいなと再確認した。

音楽や演出には文句がないし,絵については西又御大ですんで。なんで脱がすと魅力なくなるんだろうなとか,相変わらず私服のデザインぶっ飛んでるよなとかは思うけど,立ち絵に関してはとてつもなくかわいい。もう彼女はひたすら立ち絵のバリエーション作ってればいいと思う。総じて私の本作の評価はかなり高い。85点近くはつけられるだろう。


以下ネタバレ。『マブラヴ』も(致命的な)ネタバレ有り。割りと長いが,本作は単なるキャラゲーと見られてあまり語られないきらいがある。そこで,かなり単純なところから論点を書きだしてみたつもりであり,その結果長くなったということは一応書いておく。
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2012年02月22日

第205回『恋文の技術』森見登美彦著,ポプラ文庫

本作はタイトルで推測のつく通り,書簡体形式をとった小説である。主人公守田一郎は相変わらずうだつのあがらない京大の大学院生という設定で,自らは院入学と同時に能登の研究所に行くことになったのをきっかけに,研究室の面々を主とした様々な人間と文通することにした,というところから物語が始まる。しかし,そもそもの目的は卒業と同時に就職しつながりを失ってしまった片思いの女性と文通することであったのだが,なかなか一通目が送れずにずるずると物語が進行していくあたりが,実にいつも通りの森見登美彦の主人公である。

本作が書簡体小説である最大の意義は,日付が入っていることだ。実際にはもういくつか書簡体であることを生かしたギミックがあるのだが,やはり最大のメリットは日付であろう。本書の章立ては手紙を送った相手ごとで区切られており,その上で日付順になっている。そのため,章が変わるごとに日付が大きく戻ることが多い。そして,第一章・二章を読んでいる頃にはわからなかった研究室内の人間関係や,作中の時間経過で起きている諸事件の日付や内容が,複数人との手紙のやり取りを読んでいくうちに次第に明らかになっていく,という具合である。この物語展開自体がおもしろい。

また,主人公や登場人物たちには様々な事件が起きるのだが,それらの事件は明示的に描写されるわけではない。「◯◯があった」と簡潔に手紙の中で語られるだけである。また,本作は主人公が他の登場人物たちへ送った手紙しか収録されていないため,事実は一方的な視点から語られる一方である。にもかかわらず,本作の諸事件が立体的に映し出されるのは,同じ事件を違う相手への手紙でそれぞれ繰り返し説明されるためであり,主人公が手紙を送る相手により説明を少しずつ変えているためである。遠慮のない相手や当事者であれば隠し事なく説明するし,見栄を張りたい相手や隠しておきたい相手にはぼかしたり誇張したりして書いている。そうしていくうちに逆に,主人公と登場人物の関係や事件の概要が改めて見えてくるのである。やはりこの構成は上手であり,フィクションの書簡体小説だからこそできる芸当であろう。

まあ,内容そのものは本当にいつもの森見登美彦なので,そんなことを考えずに適当に読んでも別に問題ない。


恋文の技術 (ポプラ文庫)恋文の技術 (ポプラ文庫)
著者:森見 登美彦
販売元:ポプラ社
(2011-04-06)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る
  
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2012年02月19日

神子は何位になるかな

・カタハネ聖地巡礼記PDF版 (XiXo | I love animal ears.)
→ カタハネの聖地巡礼とか無理ゲーだろうと思っていたら実行した人がいたという。
→ カタハネはそれぞれの色の国の元ネタが,地名や文化によって類推できる。白の国はドイツorスイス,紅の国はイタリアorスペイン,青の国はフランス。ちゃんとそれにあわせた聖地があるという製作者のこだわりに熱意を感じた。


・第9回答法人気投票
→ キャラ部門はいつも通り一押しにパチュリー,残りはレミリア,永琳,白蓮と来て,最後は華扇で5人。いつも最後の一人だけ余っててころころ変えてたんだけど,多分華扇から外れることがないのでこれで完全固定。次回から悩む必要がないのが楽といえば楽だが,逆におもしろみがない。
→ 曲のほうは夢:「夢消失」,妖:「優雅に咲かせ,墨染の桜」,永:「千年幻想郷」,風;「神々が恋した幻想郷」「明日ハレの日,ケの昨日」,星:「感情の摩天楼」,緋:「東方緋想天」。
→ 最後の最後,断腸の思いで切り落としたのが,「僕らの非想天則」「小さな小さな賢将」「遠野幻想物語」「廃獄ララバイ」あたり。正直7曲は辛い。増やしてもいいと思う。
→ 神霊廟は正直キャラも曲も人気でなさそうなんだよなぁ。自分が投票してないながら心配。


・梅毒(Wikipedia)
→ 何度見てもコロンブス(1492)から日本到来(1512)がたった20年というのに吹く。
→ 愛(笑)は武器や宗教よりも偉大なり。


・エベレストに残された登頂者たちの死体写真(コモンポスト)
→ 死体画像につき閲覧注意。しかし,逆説的に言ってミイラだからぐろくないという……
→ 「湿度が砂漠より低い氷点下」というのは知っている話だが,死体がミイラになっているのを見るとやはり驚く。言われてみれば当然なのだが,運ぶのが危険であるがゆえに放置されるというのも驚く話だ。


・俺と妻の24年間(BIPブログ)
→ もうちょっとひねれば純文学になりそうな話だが,実際の人生を過ごした側はたまったもんじゃない。
→ かと言って,浮気発覚直後に許していても,また人生が違っただろうし。こればっかりは難しい。
  
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2012年02月18日

『恋愛ゲーム総合論集2』部分的覚書

やったゲームがある文章は読んだので,読んだだけでいえば半分くらい読んだのだけど(a103netさんの鏡遊論と,遅れてきた大物さんのタカヒロ・るーすぼーい・丸戸史明比較論は特におもしろかった),今ひとつ文章にまとまらなかったのでこの2人のパートだけ公開。


>何故「鍵の少女」は殺されなければならなかったのか −樹木信仰と奇跡− byかな文字一刀流ネ右
ネ右は私の親友であり,この論考も構想段階から話をいろいろ聞いているので,いろいろばらしてしまおうかと思う。

実は,まとめ部分の「鍵は新しい旅に出たのだ……」だけは最初の最初から決まっていた。ただし,これは本論がかっちり決まっていたためではなく,執筆の10月当時はまだまだ『Rewrite』プレイヤー内部における,功績的な意味でも戦犯的な意味でもライター信者間抗争が激しく,心優しいネ右は単純に誰の信者でもなかったので「ライター関連の話にクビをつっこむのはよそう」ということで,実は決め台詞だけ決まった状態での船出だったのである。そこから次に,樹木出てくるし,宗教学系統はネ右本人の興味あるところだし,エリアーデとフレイザーで行こうぜ!という話になり,初稿の形がおおよそ見えてきたのであった。一応,危険な方向のネタ(=ライター間の比較)についてもけっこう構想段階では形になっていたのだが,前述の事情と,単純に宗教学方向で掘っていったほうがおもしろそうというのもありお蔵入りとなる。ただし,本人が「そっちの方面の話についてはブログでリサイクル可能性もなきにしもあらず」とか言ってるので,そのうち日の目をみるかもしれぬ。

実は初稿から最終稿はあまり変わっていない。エリアーデを中心に論を進めていったらKanon色が濃くなって若干方向修正し,むしろフレイザーの『金枝篇』が重視された文章になり,それにともなって8・9章の論調が変わっている。が,それ以外の部分はおおよそいきなり最終稿の状態である。ついでに言えば,最終稿と掲載版の違いは最終章の脚註に「おっぱいは奇跡」が増えたことだ。これは非常に重要なことだ。このネタを最後の最後に思いついたこと自体が奇跡である。なお,最終稿を読み終わった直後に「で,KEYの次の作品は奇跡を肯定するんですか?w」と本人に聞いてみたところ,「分からぬ……とりあえずファンディスクで殿ちんが書いた静流シナリオでキャッキャッウフフするのが先決だ」との回答をいただいた(彼は無類の後輩スキーである)。実際のところ,私自身,KEYが次の完全新作で奇跡をどう扱うのか興味ある。

さて,収録版を読んで,一つだけ今更になって気づいたことを。これは相談段階で気づかなかった私のミスでもあると思うので後悔しきりなのだが,8章後半で語られる「鍵ゲー全体を貫く奇跡のシステム・構造」についてはやや不用意ではあると思う。これは私とネ右のエロゲ遍歴が似通っており,しかも彼とはエロゲについて語り合う機会も多いため,とりわけ鍵ゲーについては理解・解釈が一致していることが多い。ゆえに気づかなかったのだと思うが,このようなKEYゲー解釈は必ずしも一般的ではあるまい。まあ,ここを掘り下げていくとそれだけで論考が一本書けると言いますか,本気で掘っていくとガチでKanon問題に衝突しかねないので,いずれにせよ本稿ではやっている余裕が無かったのではあるが。


>ガラスみたいに透明で フィルムみたいに泳いでる」 〜私論・丸谷秀人〜 by紅茶の人
まず,あれだけぼっこぼこに叩いたレビューを用いてくれたことに感謝申し上げたい。そして,『仏蘭西少女』は,丸谷秀人という大ベテランが書いておきながらなぜああなったのか,という私の疑問について,本論はうまいこと解きほぐしてくれたことに感謝したい。ノベルゲーにおける反復という特徴は,論の中で紅茶さんが『美少女ゲームの臨界点』を引いているように,丸谷秀人に限定されず大きな論点であった。その中で丸谷氏のシナリオは,確かに反復には強いこだわりが感じられる。

なお,『仏蘭西少女』だって変奏がないわけではなく,少しずつ変わる主人公(や登場人物)の心象を描くだけの効果は十分にあった。特に主人公の政重が堕落していくために銀行での仕事ぶりを用いた点や,舞子が昔を思い出す過程を無数のHシーンを用いて表現した点など,手法としては巧みであったとしか言う他ない。にもかかわらず評価がああなってしまったのは,やはり究極的に長さの問題へ収束してしまうのだろうか。それだけに,あの作品について言うなら,長さそのものの問題というより,スキップ性能の過敏さが真の問題だったと言えるかもしれない(少しでも入ったルートが違うと全く同じ文章でもスキップが止まる)。迷宮とは言い得て妙で,迷うのを楽しむには私の心に余裕がなかったと言えるかもしれない。

一方,『かにしの』の栖香ルートの冗長さは性質の全く違うもので,あちらは端的に言えばシリアーナドレイへと向かうシナリオ展開に若干無茶が感じられたことと,調教という形で見せる変奏はやや弱かったかなというのが私的な感想である。『かにしの』の環境でシリアーナドレイはちょっと無理があったかなと。健速パートとの整合性の問題ではなく,美綺・邑那ルートの雰囲気との兼ね合いでそう思った。

ここではあえてあまり評判の良くないシナリオを2つ並べてみたが,良いシナリオについては変奏と反復の効果が自明でありすぎるので取り上げなかっただけで,私が丸谷氏のシナリオを高く評価する傾向にあることは,念のためながら一応書いておく。

  
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2012年02月15日

第204回『猫と共に去りぬ』ジャンニ・ロダーリ著,関口英子訳,光文社古典新訳文庫

これも某エロゲーに影響されて読んだ本。なのだが,『シラノ』とは大きく毛色が異なる。

著者のジャンニ・ロダーリはイタリアの児童文学作家で,本書も児童文学の体裁をとった短篇集である。思わず「体裁をとった」と書いてしまったのだが,本作に収録された各短編はあまりにもシュールだったり不条理だったりで,純な児童文学として見るには吹っ飛んでいる。大人を笑わせようとしているとしか思えない。そもそもぶっ飛びすぎてて児童に理解できるのだろうか,という疑問もあるが,子供というものは大人が思っているよりも賢いので案外理解できるのかもしれない。落ちも単純な勧善懲悪や教訓が示されるようなことは決してなく,含意には富むものの含意がありすぎて表現しづらかったり,かなりひねくれた教訓が示されていたり,教訓を通りすぎて皮肉か風刺の領域であったりとこちらも一筋縄ではいかない。

いやしかし,徹底して自由と反暴力を訴えている点では一貫している。また,性善説をとっている点でも一貫しており,子供に悪い子はいないとする一方で大人は良い人も悪い人も出てくる,という点も特徴的であろう。これだけ堂々と悪い大人が,リアリティをもって描かれているからこそ,本作は(そのシュールさや不条理さを除いてもまだなお)児童文学らしくないのかもしれない。しかし,悪い大人が過度に俗悪に描かれている点については,大人にだっていろいろあるんだよと心のどこかで思ってしまう。児童文学なんだから,強調されているに過ぎないのではと言われればそれまでではあるが,やはりしっくり来ない。

読了後,twitterで思わず「僕にこれを語る語彙がない。」とつぶやいてしまったが,正直に言って児童文学も,こうしたシュール系短編小説も,いずれも読みなれておらず,評価しようがない。感想は端的に言って「困惑」である。おもしろくないことはなかったが,かと言って積極的に評価する気にもなれず,困惑している。もうちょっと自分が皮肉を愛する人ならなぁ,ということで,私の周囲には多そうな皮肉好きたちにお勧めしておく。


猫とともに去りぬ (光文社古典新訳文庫)猫とともに去りぬ (光文社古典新訳文庫)
著者:ジャンニ ロダーリ
販売元:光文社
(2006-09-07)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る



以下は,割りとどうでもいい割に長くなってしまった付記。作中に登場する音楽・美術ネタについて。

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2012年02月14日

非ニコマス定期消化 2011.11月下旬〜12月上旬



そして「踊ってみた(舞ってみた)」へ。ちゃんと数えると一応”7次創作”になるっぽい(これのMMDができているので現在最先端は8次創作)。踊りのジャンルとしては「大衆演劇」とのこと。



そのMMDがこれ。あまりの色っぽさに驚く。東方原曲から始まり,MMDで東方に戻ってきた。





ダイナミック退職。下の動画は原曲。けっこういい曲である。



もう一つダイナミック退職。こちらは選曲が非常にわかりやすい。



すっげぇそれっぽくて馬鹿馬鹿しい。他のシリーズもかわいくて良い。



Fate/Zeroの公式配信で突発的に登場した川柳職人によってコメントアートが繰り広げられた。この動画はそのまとめ。第二次もすでに投稿されている。



顔芸担当と言われ続けたこのモデルの霊夢も,ちゃんと表情つけて踊らせれば十分にかわいく見える。ダンスが激しいが不自然さが少ない。



いつものKM氏の作品。元が元なだけに,より荘厳さが出ていると見るか,それともいつもに比べてギャップに助けられたインパクトが薄いと見るか。


  
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2012年02月11日

小石川植物園は交通の便もよろしくない

・ポリゴン女子の歴史(うさだBlog / ls@usada's Workshop)
→ 「なお本文書ではフォトリアリスティックな方向への進化については一切言及しない。」とある通り,あくまでギャルゲー的造形が,本来あわないはずの3Dと融合するべく,いかに壁を乗り越えてきたか,の歴史である。
→ 自分の記憶にあるのは『FF7』から。これと『DOA2』はすげぇと思った。『ゆめりあ』のオーパーツっぷり。自分ではやってないけど。『ゆめりあ』はギャルゲーなのにテレビでCM打ってて驚いた覚えがある。ここからアイマスにつながった(同じナムコ)と考えると感慨深い。
→ そのアイマスも,今現在はともかく2007年初頭当時としては十分オーパーツだと思う。そりゃニコマスも発展します。そしてらぶデスへ。ここからはアイマス含めて日進月歩の発展。
→ ブコメにあるが,『らぶデス』は今後やるべきことの方向性を示したと思う。具体的に言えば,仕草萌え・モデルとモーションの両立か。それにしても『らぶデス』の説明が的確ですばらしい。「これ以後「エロ版GTA」とでも呼ぶべき、暴力と破壊が全てを支配する世紀末的なゲームへと変貌していく事になる。」等々。
→ らぶデス・3Dカスタム少女,そしてMMDにより,ユーザーが3Dを作れるようになったという点は近年の大きな変化か。アイマス2の「相変わらず凄いが、4年も経っているにも関わらず、元が凄すぎてあまり差が分からない。」という評価は,その通り過ぎてぐうの音も出ないのだけど,そう言われてしまうとちょっと悲しいかも。


・新城直衛は、末法の世に抗うようです 番外編 「仏教史概説その4 奈良仏教と南都六宗」 (それにつけても金のほしさよ)
→ 南都六宗の詳しい解説。皆高校日本史で一度は習うが中身のわからないまま終わる。そして鎌倉時代で明恵とかでもっかい出てくる。かなり昔の日本史では(鎌倉時代での旧仏教の復活は)習いすらしなかったが,さすがに近年は入試に出ることも多い。
→ 「当時の認識として、「教学に深い造詣がある」→「功徳もたっぷり、ご利益ありそう!」という感じであったフシがあってだな……」というのは,実は現代でもそれなりに残っているような気がする。
→ 法相宗の説明がおもしろい。こんなに愚直に潜在意識(無意識)的なものを発見していたとは。阿頼耶識は恐ろしく昔に『らっきょ』で読んだけど,当時はよく意味が分からなかったなー。その阿頼耶識的な意味では,華厳宗は赤セイバーではなく両義式のほうが適任だったかも。ものすごく今更だけど。


・Genes to Cells 表紙ギャラリー(日本分子生物学会)
→ 日本分子生物学会の学会誌の表紙がやけにこっているという。作っている人がよほど日本美術を好きなんだろうな。
→ 「国華」も本家本元なんだからがんばれよ(無責任)。むしろ本家本元だからやってないんだろうけど。


・削られる小石川植物園 隣接の区道拡張へ(東京新聞)
・『小石川植物園 万年塀の撤去と改善の要望』の活動概要(NPO法人小石川)
→ 元バイト先として思い入れがあるので語っておく。
→ あそこの塀は狭くてしかも崩れそうで危ないので,取り替えるなら賛成する。小石川植物園の面積は削られるが,それで同一性が失われるわけでもあるまいし。
→ そもそも,文句を言っている人は東大理学部の管理が行き届かず半ば密林と化している現状を知っているのだろうか。植物園は表に見えている日本庭園と桜並木,温室だけではないのである。
→ ついでに言えば,こちらの動画にある通り,入場もしづらく,観光地としてのやる気が感じられない。唯一の入園券販売所が民間委託(笑)状態なのもマジである。桜のシーズン以外はいつ行ってもガラガラであり,ひどいと売店が営業時間なのに勝手に閉まっている。周囲の塀だけでなく,あの施設全体で抜本的な改革が必要だと思う。  
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2012年02月09日

第203回『シラノ・ド・ベルジュラック』エドモン・ロスタン著,渡辺守章訳,光文社古典新訳文庫

読もうとした動機は某エロゲーではあるのだが,作中での紹介にあまりにも惹かれたために購入。そして実際におもしろかったのだから,これほど幸せな読書体験もあるまい。

本書のおもしろさは話の筋というよりは小気味良いテンポで刻まれた文章のおもしろさであるが,ここで本書が翻訳であるという問題点が浮上する。私は,本書の文章的おもしろさは,原文と訳文それぞれにあると思う。おそらく原文も天才的な文章なのだろう。しかし,読者にそう思わせるだけの訳文,というのはさらにすごい。その逆が起きて悲劇となることが珍しくないだけに。より正確に言えば,本書の訳文は原文の雰囲気を出そうという尽力が見られる。日本語訳で脚韻を踏むなどということは土台無理なのは踏まえられた上で,なんとかテンポだけはあわせようとしていたり,掛詞をも訳出しようとしている。

しかし,本書が真に素晴らしいのはその脚註である。本文が約370ページに対し脚註の量は80ページであり,比較的多い部類と言える。こうした脚註は固有名詞の説明で消費されるのが普通だが,本書の場合,脚註の多くは訳出の過程で削いでしまったもの,もしくは意訳になってしまった理由の説明に費やされている。場合によっては原文や先行する翻訳,さらに(本書は演劇が元であるので)近年演じられた演劇での使用例を紹介し,そこに自分の考えを盛り込んだ上で,本文の訳を説明している。訳者の「できれば原文を読者の脳に直接流し込んでしまいたい」とでも言うような執念を感じる註である。

もちろん,他の小説でもこうした作業はなされているのであろうから,その点本書が特別傑出しているとは言えまい。しかし,表に出してくれなければ,原文を知らない・専門知識のない読者にはそうした努力は見えてこない。下手をすると,先行する翻訳と読み比べて異なる部分を見つけてしまい,首を捻ったまま放置する羽目になる。本書はそうした努力をさらけ出している分,誠実であると思うし,誤訳に対する不安感が薄れる。普通これだけ脚註があると読みづらさを感じ,結局何がなんだかわからないまま読み終わることもしばしばあるが,それを感じさせなかったのは,やはり本文自身の力と言えるだろう。

(某エロゲーでも話題になったラストシーンもこの例に漏れず,翻訳者自身のこだわりもあり,なぜ「心意気」になったのかについて,丸々2ページ使って説明している。某エロゲーでは羽飾りとの掛詞であることは説明されたものの,由岐姉は微妙に納得が行っていない様子であった。しかし,この脚註においてなぜ本文で「羽根飾り」という言葉を使わなかったのかについてきちんと説明されているので,気になる人はこの脚註を読んでおくとよい。もっとも,ライター自身はそれでも納得行かなかったのであろうから,由岐姉にああいう説明をさせたのであろうが。)


物語の筋は至って簡潔で,いかにも文章・言葉で魅せるのだという心意気が感じられる。主人公シラノは天才的な詩人であり凄腕の剣客,博識な学者であるのだが豪放磊落な性格・歯に衣着せぬ物言いで敵が多く,なにより巨大な鼻を持つ醜男であった。一方,青年隊(軍隊)の同僚クリスチャンは美男子であり性格も良い貴公子ではあるのだが,詩文の才能はなく,また極度の上がり症で女性の前に出ると語彙が減るヘタレであった。この二人が同じ女性ロクサーヌに恋をして,協力してこの美女を落とそうとするのだが……前半はコメディタッチと言えなくもない軽いノリであり,ちょうど半分ほどのところで一挙に暗転,悲劇に向かって突き進んでいく。それでも終始明るい雰囲気がするのは,シラノの性格によるものだろう。


19世紀末のパリで本作が初演された時,当時の文壇や前衛的な芸術家は反動的だとして評価しなかった。一方,劇場に見に来た観客は熱狂的に歓迎し,『シラノ』はフランス演劇史上最大のヒット作となった。訳者による解題によれば,現在でもこのような評価はさほど変わっておらず,「できの良い商業演劇」と取られることも少なくないという。読んでみた感想としては,確かに本書は商業演劇・小説と受け取られても仕方がない面はあると思う。訳者自身「超絶技巧の台詞回し」と評しているように,はっきり言ってしまえば技巧主義的であり思想的な含意は薄く,当のフランス人にはわかりやすい方向での凄さだと言える。しかも非常にすかっとして気持ちのいい物語に仕上がっている。であれば,すでに印象派が受容された頃のフランス,パリであれば本作が支持された理由も理解できる。加えて,(さほど物語的な意味はないものの)史実の人物に一応の範をとっているように,本作の舞台は17世紀前半のフランスであり,また原文の文体は「定型韻文」という50年ほど前にロマン派が置いていったものであった。このように懐古主義や衒学趣味も端々に感じなくはない作品であり,そうした部分も,当時や現在の中・上流階級に対して通俗的に受ける理由であるだろう。

しかしまあ,私自身がそうした気取れない垢抜けない中流であるという自負と自虐を踏まえた上で,それでも本書はやはりおもしろかった。本書が芸術に値するか否かは私に知識も判断材料もないので明言できないが,それこそ印象派がありなら,本書の軽い方向に極められたおもしろさもありなのではないかと思う。様々な理由で,様々な人にお勧めする。


シラノ・ド・ベルジュラック (光文社古典新訳文庫)シラノ・ド・ベルジュラック (光文社古典新訳文庫)
著者:エドモン ロスタン
販売元:光文社
(2008-11-11)
販売元:Amazon.co.jp
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2012年02月08日

道徳ってなんだっけ

・Ichy_Numa先生による「日本の一般的な人権感覚」(Togetter)
→ 昔からこの違和感はあった。子供ながらに感じていた。「非人間扱いされている弱者を、人間扱いしましょう」論は学年を経るごとにお腹いっぱいな気分になり,もういいだろと。”「障害者も同じ人間なんだ」発見や「在日外国人も同じ人間だった」発見。”
→ コメント欄で地下猫氏が指摘しているが,初等国語教育と道徳が区別できない状態なのが,初手からミスってるんじゃないかなーと思う。これには強く同意する。


・内閣総理大臣別内閣総理大臣杯獲得力士表・入口
→ 前半が1人の首相から総理大臣杯をもらった数。小泉政権の朝青龍,中曽根政権の千代の富士は見事に合致した事例。逆に,超長期政権の佐藤栄作時代は北の富士,大鵬,玉の海で割れた。そして約2年半しかない橋本政権で8回も優勝した貴乃花はやっぱりすごい。
→ 下は総理大臣杯をもらった首相の数。逆に在任期間が短いときに活躍した横綱が有利になる。93年を挟む貴乃花・曙・武蔵丸や,近年の1年交代を含む白鵬は,活動期間を考えれば多い。逆に輪湖は活動期間の長さが目立つがゆえの多さ。千代の富士も活動期間は長いはずなのに,さっきとは逆で中曽根さんに半数を吸われてこちらは伸びない。


・番付別勝率(Yahoo!知恵袋)
→ これは非常におもしろいデータ。いかに前頭1〜4枚目が困難な番付かわかる。と同時に,7〜9枚目の数字を見ると,あーこの辺でエレベーターしてんだなーと。これほどはっきりエレベーターを示したデータもなかろう。


・強いドイツ:「独り勝ち」に欧州各国から警戒の声 - 毎日jp(毎日新聞)
→ ギリシア危機まわりでの話。あまりブコメで指摘されていなくて驚いたのだが,そも「フランク王国の復活」・「欧州連合は実質的に独仏同盟とそれ以外」というのはEC結成以来随分言われてきたことである。第四帝国などという揶揄は,何を今更でしかない。東南欧もわかってて加盟したわけだろう。事実,その恩恵を受けて経済が成長した国も少なくない。本来,西欧と東欧諸国はwin-winの関係であったはずだ。西欧の中でドイツが調子良いのは,かの国が工業立国で経済大国だからということでしかない。
→ それが不況になって途端にドイツだけ叩かれる,東欧を市場にして成長したんだから融資しろだとか,共通通貨のおかげでユーロ安となり,EU圏外への輸出好調だから融資しろと言われても,理不尽な話だろう。
→ さらに,歴史的な不信とか言われてもねぇ。今のドイツは,今の日本以上に脱ナチスを果たしているわけで,言いがかりでしかない。ヨーロッパ統合は独仏同盟という輝かしき歴史の転換点から始まったことを思い起こすべきで,それを汚すような言説を弄すべきではない。


・東方はなぜここまで人気になったのか(2ch東方スレ観測所)
→ こういった話題はうちのブログでも何度か取り上げてきたわけだが,音楽やキャラデザ,ゲーム性など基礎的なクオリティの高さは前提として,「東方はプラットフォームとして優秀なんだよな ほのぼのした物からシリアスな物まで表現できる世界観に秀逸なキャラクターデザイン 作者も寛容だしファンも多いので積極的に交流することができる 」は実にその通りではないかと。
→ 場というのはある程度盛り上がってしまえば,あとは時々適切な燃料投下があれば自然燃焼してくるところも多く,一番困るのは余計な鎮火である。結局のところ,自由度が高く干渉も無いので,素材として優秀である以上に場として優秀,というのは言えるんじゃなかろうか。これはボカロやアイマスにも通じる。  
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2012年02月04日

人生これで14点目

フェルメール《手紙を読む青衣の女》文化村のフェルメール展に行ってきた。文化村は長期改装明け初の展覧会である。今回やってきたのは3点,正式なタイトルが「フェルメールのラブレター展」なだけあって,《手紙を書く婦人と召使い》,《手紙を読む青衣の女》,《手紙を書く女》である。このうち《手紙を書く婦人と召使い》は以前見たことがあるので(2008年のフェルメール展),今回初めて見るのは後者の2点ということになる。この2点も他の作品同様,左側に窓がありそこが光源となっている。《手紙を書く女と召使い》は二度目だが,手前の床に封蝋用の赤い蝋燭が乱雑に投げ捨てられているのが新しい発見であった。よく見ると手紙を書く女性は相当必死であり,そりゃ召使いも呆れ顔になるというものである。

《手紙を読む青衣の女(あるいは単純に青衣の女)》は昨年修復が終了したばかりで,これまでの画集に収録されている画像とは全く印象が異なる。これまででは画面全体がうっすらとくすんでおりどことなく暗い雰囲気があったが,これは画面を覆う絵の具の劣化やひび割れが原因であることがわかり,洗浄と修復の結果鮮やかな青色が蘇った。以降,新たに出版される画集には修復後の画像が使われることになると思うが,現段階では生で見るしかなく,これだけで十分に一見の価値はあろう。後ろの壁にかけてある地図は夫(恋人)が船乗りで長らく不在であることを示す。してみると,読んでいる手紙は恋人からの物であろうが,当時の郵便速度を考えるに数ヶ月前に書かれたものであろう。やっと確認できた恋人の無事も,実際には数ヶ月前までしか保証されない彼女の心情は察するに余りある。膨らんだお腹については,当時の流行であった綿入りスカート説と妊娠説があり,妊娠説のほうがドラマティックではあるもののあまり支持されていない。やはり,普通に流行の衣装を身にまとっていたと考えたほうが自然である。

《手紙を書く女》のほうは,女性のイメージカラーが黄色で統一されている。フェルメールにしては珍しいなと思ったが,よく思い返してみれば《レースを編む女》等他にもけっこう作例があった。背景の画中画は一応楽器が描かれており,楽器が愛や調和を象徴したことから女性が書いていたのはラブレターだろうと解釈されうるらしいのだが,肉眼で見ても単眼鏡で見ても,画中画をはっきりとは確認できなかった。が,女性の優しげな表情を見るにまあラブレターという解釈を否定する気にはなれない。

フェルメール以外の作品については,ピーテル・デ・ホーホ,ヤン・ステーン,テル・ボルフなどいつもな感じの17世紀オランダ風俗画である。こっちはこっちで質は高いのだが,文化村の企画展らしくフェルメールとあわせて約40点と数は非常に少ないのでその点は了承して行く必要がある。そういえば展示のキャプションで,当時の手紙の書き方ハウツー本が紹介されており,男性から女性へのお付き合いを申し込む手紙や,女性が男性へ断りを入れる手紙の書き方などが紹介されていておもしろかった。女性には「親が反対していて……」など角が立たない書き方を推奨しており,いつの時代も人間関係は大変だなぁなどと素朴な感想を抱いてしまった。
  
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2012年02月03日

見知らぬ少年を厨二病に染めるのはやめましょう

・日本の大学は多すぎるのか?(RED NOTE)
→ 日本の歳出からの教育費支出は低いこと,奨学金未拡充なのに私立大学の学費が世界的に見て高すぎること等を踏まえると,大学数削減をお題目にしてその支出を削減しようとする「小さな政府」理論には,私は反対するし,その点ではこの方に賛同する。
→ また,「Fランク大学に意味はない」とする意見については,追記にあたるこちらの記事が参考になる。「日本並みにFラン大が多い米国での結果や、前回ご紹介した林先生の研究結果から、たとえFラン大卒であっても高卒よりはましという研究結果があります。」と言われると,考えさせられる。
→ ただし,本論の賃金倍率については,大卒が高卒の仕事を奪っているために高く維持されている点は指摘されるべきだろう。また,さらにこういう話もある。いろいろな意味で指標としては眉唾であるので,説得力のある論にするには使うべきではない。
→ また,Fランク大学についてはコメントにある「大学ではない受け皿こそ必要」で挙げられている問題点も考える必要があるだろう。いっそ「低ランク大学は中学・高校学習内容のやり直し」と割り切る必要もあるだろうし,それはそれとして教育効果を上げるなら「出にくくする」のも大事だろうな。


・なんで日本のゲームってオープンワールド系が少ないの? (ゲースレVIP)
→ 箱庭とオープンワールドは,厳密には全く違うジャンル。個人的には,箱庭は好きだけど,オープンワールドはそこまででも。
→ ほぼ完全な侍道はおもしろかったな。あまりやってないけど(アクション苦手)。DiLの人から指摘が入っていたが「ストーリー重視のJRPGと作り込まれた自由度のオープンワールドの折衷案が、サガみたいなフリーシナリオや、FF8みたいな山盛りサブイベでの伏線回収だったりするんじゃないだろうか。」確かに,サガシリーズの自由度は良い案配だったと思う。その意味では,聖剣LOMは箱庭とJRPGの折衷かな。ランド作るの楽しかった。希有な存在と言える。
→ 言われてみると確かにドラクエ初期は模索していたところは見える。結果的にエンカウントモンスターの強さで順路がほぼ決まっちゃうところはあるが,ドラクエ1・2・3は誘導が薄く,なんとなくな自由度はあった。導線がかっちり決まったのはドラクエ4からかな。


・「狐の仮面を被って見知らぬ少年を厨二病に陥れてごめんなさい」(暇人速報)
→ タクヤ君の将来が心配である。
→ 救われたのはタクヤ君ではなく>>1であった。BGM久石譲のSUMMERが妙にあう。


・ファンタジー世界を現実世界に照らしてみると(togetter)
→ こういうおもしろい。考察の中心はゼロ魔。
→ ブリミル教は貴族(=魔法使い)中心の宗教なのに平民も信仰しているのは,ユダヤ教が世界宗教になっているような矛盾……言われてみれば確かに。
→ ファンタジー世界は現実世界よりも狭いのも,確かに。ただし,ゼロ魔世界はオスマン帝国に比せられたエルフ世界が超科学文明で,アジアはヨーロッパ人にとって未知の土地扱いだから,実際の世界の広さは不明である。(同じような設定として『トリニティ・ブラッド』がある,エルフではなくて吸血鬼だけど。)
→ 人口増加については,ハルケギニアでもやっぱりペストだったりなんだりがあって何度か減少局面を迎えているんだろうし,エルフとの抗争もある。エルフや人類の貴族は,彼ら自身が増えすぎないよう統制がなされているような気がする。特にエルフは文明の高度さから言って少子高齢化が進んでいても全くおかしくない。
→ 加えて言うと,あのハルケギニアは現実世界の近世に相当するので,サイトが来る少し前にようやくルネサンスを迎えて食糧事情が好転したんじゃないかと。それ以前はひどかったとすればもろもろ納得がいく。鎖国などの事情により人口圧が簡単に減じてしまう事例は,本邦があるわけでして,それほど拘泥するところでもないかなと。
→ 途中に出てくる中世ヨーロッパ非暗黒説については,拙文ながらこちらを参照。長い中世を一括りにするからややこしい。
  
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2012年02月02日

最長は300分待ちだったとか

清明上河図東博の北京故宮博物院展に行ってきた。本展覧会の目玉は「清明上河図」であったのだが,これが来るか否かについては割りと直前まで交渉があったらしく,前年12月上旬になって突然,主催の朝日新聞によって報じられた。清明上河図はその知名度(ただし載っているのは美術ではなく世界史の教科書である),見事さもさることながら,「実はいまだに皇帝の私有財産なんじゃないか」と思わせられるほど表に出てくることが珍しく,最近では最後に公開されたのが2007年の香港という,知名度に比べれば幻の作品としかいえないブツである。それが5年ぶりに,しかも初めて海外で公開されるというのだから,注目のレベルが日本国内で収まるはずもなく。さらに言えば,公開されることが決定するのが直前であったがために,衝撃が大きかった。

その結果が,開館当日から「会場入場まで50分待ち,会場内で清明上河図待機列140分待ち」とかいう事態を呼び起こしてしまった。ここまで人が集まるとは私も思っておらず,ちょっと油断していたところはある。当日2chの美術鑑賞板を巡回していたときには目を疑った。日本人だけではなく,かなりの数の中国人が来日していた模様で,それでより列が伸びたそうだ。同じ東博では阿修羅展も大概であったが,あちらは彫像なだけあって360度使える&割りと短時間で鑑賞が終われるおかげで,列の長さの割に流れは悪くなかったらしい(私は阿修羅展は行っていない)。今回は,やはり巻物,それも5mの長さの巻物という点が影響しており,列が牛歩でしか進まないのが,やたら待ち時間が増えていく最大の原因であるようだ。

というわけで,上野まで徒歩圏内という地の利を活かすべく,金券ショップで前もってチケットを入手しておき,かつ開館(9時半)より前の8時50分頃から並ぶという作戦を立てた。本当はこれに加えて平日に行っておきたかったのだが,同行者の都合が合わず日曜日,それも清明上河図が中国に帰る1/24直前の1/22という日程になってしまったのがやや手痛かった。我々が到着した時点ですでに列は長蛇であり,もう10〜20分でいいから早く並び始めておくべきだった,という後悔の念が早くも芽生えていた。結果的にこの日は8時50分から並び始めて入場できたのが9時50分,清明上河図にたどり着いたのが11時過ぎであったから,あわせて2時間強といったところだろうか。その後スタート地点の看板をチラ見したら「210分待ち」と書いてあった。最終日の1/24は,職場のPCから東博のHPを見たところ,表題の通り「入場60分,会場内300分待ち」となっていたが,おそらくこれが最長記録ではないかと思う。もっとも,2chのレスでは「実際には300分かからなかった」とあったので,若干大げさな表示をしていたのかもしれない。確かに,案外早く見れた,よりも案外かかったのほうが鑑賞客の不満は大きかろう。


列の長さの話はこの辺にしておいて,清明上河図である。単純な絵画作品として考えれば,見終わってみて案外まああんなもんかなと思う。とんでもなく緻密ですごいことはすごいのだが,筆が緻密であること自体を売りにした絵画作品は古今東西を問わず存在する。しかし,清明上河図が素晴らしいのはその緻密さだけではない。まず,歴代の王朝の皇帝が愛したというその来歴であり,現代の中国政府の秘匿によるブランド戦略によってその価値がさらに高められている点にある。その意味では,実物を見たことに意味があるのであって描写そのものに感動することだけに意識を取られすぎるものでもないかもしれない。

次に,清明上河図は,前述の通り「掲載されているのが美術ではなく世界史の教科書」という点に魅力が現れているように思う。北宋の時代というのは中国史上の高度経済成長期にあたる。これは様々な要素が合致してこうなった。陸のシルクロードにかわって海の道が拓かれたおかげで陶磁器の需要が増したこと,産業技術の発展,それに加えて為政者の側が唐代までの統制的な経済をやめ,規制を緩和したこと等。結果として,中でも首都の開封は城壁を越えて市場が広がり,24時間営業まで開始されていたというのだからすごい。店は一軒一軒が異なり,道に多種多様な人間が往来する。清明上河図はそのような開封の賑わいを「緻密に」描写したものであり,筆自体が緻密,というわけではないのだ。しかし,店が違うと言われてもその場では判別しづらく,予習の必要な展示物ではあったと言える。


清明上河図以外の展示は,タイミングがいいのか悪いのか,個人的に台湾の故宮を見てしまっているため,それほどありがたみを感じなかった。一応絵画で来ていたものを記録しておくと,北宋から米友仁と徽宗,南宋から李迪と夏珪,元代の趙孟フ,曹知白など。文人画・院体画のバランスはよかったように思う。ただ,キャプションにそこらへんの説明がほとんどなかったのは気にかかる。せっかく中国絵画の宣伝の機会なのに,三遠の技法などの説明もなく,やや残念である。バラエティ重視で多種多様に持ってきていたせいか,書画はそれほど多くはない。

ただし,今回の展示は中国諸王朝で最後の清朝に焦点が当てられた展示が多かった。これは台北では見られなかったものが多く,清明上河図以外では来たかいがあったと思えた。特に印象に残ったのは「康熙帝南順図巻」である。清明上河図とあわせて持ってきたのだと思うのだが,これはこれで非常に長大,かつそれぞれが緻密に描かれており,清明上河図に引けをとるものではない(制作年代の都合上,清朝に描かれたこちらのほうが大分保存状態が良いというアドバンテージはあるにせよ)。

その他,清朝最盛期の3皇帝=康熙帝・雍正帝・乾隆帝の御物が多く展示されていた。そこに感じられるのは,一方では「自らは古代より連綿と続く中国諸王朝の継承者である」という自負であり,彼らが青銅器や玉器などを愛好していた様子がわかる。他方では「自らは中国だけでなく,北方や西域・チベットの覇者である」という覇業の誇示であり,チベット仏教信仰の様子や,有名な郎世寧の「狩猟する乾隆帝」も展示されていた。<この中国なのかそうではないのかという二重性は清朝のおもしろさであると思う。  
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2012年02月01日

2chまとめブログも一種の様式化してるわなぁ

・大富豪のルールがカオス過ぎる件(カオスちゃんねる)
→ 大富豪(大貧民)については,ローカルルールがありすぎて,全部混ぜるとゲームにならないレベル。麻雀ですらかなわない。
→ 八切り,11バック,革命&革命返し,都落ち,までが俺の周りのローカルルールでメジャーだった。激縛を入れだすと展開がカオスになる。
→ エンペラー・階段有りでもやったことあるが,ほとんど基本ルールで戦うことがない,もはや別ゲー。階段はまだしも,エンペラーはカウンターがない(だからこそ名前がエンペラーなんだろうが)のが,ゲームバランスを崩していると思う。一気に4枚減るし。しかし,ルールからすると「エンペラーは革命関係ない」と考えられているのだろうか。フランス革命が発想の根本にあるであろうことを考えると趣深い。
→ なお,採用されているのが少ないルールとして,都落ちに付帯して,「大富豪は連勝数+1枚交換できる」というルールを採用することもある。人数にもよるが,5連勝くらいから大貧民のカードをほぼ完全にコントロールできるようになる。これはこれで別ゲー。


・白鵬、汗を利用し瞬時に巻き替え/九州場所 (サンケイスポーツ)(Yahoo!ニュース)
→ twitterや2chでは散々言われている白鵬の汗問題。滑って有利なのは間違いないんだから,できればふいてほしい。
→ 総合の某人は,ワセリン塗ってたのが問題になった事例が過去にあったわけだしね。格闘技では注意すべき点なんじゃないかと思う。というか,大相撲で今まで前例が無かったんだろうか>汗で滑るのを意図的に利用


・漆・金箔塗りのガンプラ、職人技の粋に大反響(うるるんロギー)
→ どうしても画像がほしかったのでブクマ先とは異なるが,2chまとめブログにリンクを張ることにした。
→ 漆塗りのガンダム,おもしろい仕掛け。
→ 当方「百式だと逆に漆塗る場所がないんだろうなw」とコメントしたが,これは無論のことながら蒔絵の存在を知らなかったわけではなく,単純に蒔絵のコーティングなんて百式じゃねぇ!ってだけで。あれはガチで真っ金金だからこそ百式なんだと思う。
→ 名前忘れたけど種死のアレなら蒔絵でもいいんじゃないですか。実際対ビームコーティングしてるわけだし。
→ あとブコメで気づいたが,どうせなら武者頑駄無も作って欲しいところだった。


・1億円の盆栽、お買い上げ 福島の愛好家、樹齢300年(朝日新聞)
→ これはとてつもなくすごい。すごいんだが,ここまで来ると盆栽というよりは松の木という感じはあるw。盆栽と松の木の境界がぶれている。


・キモカワ南国フルーツ「ジャボチカバ」 (デイリーポータルZ)
→ 木になってるところは呪われた実としか言えない。魔界にありそうな雰囲気。収穫後急激にいたむのもそれっぽい。
→ しかし,とってみるとライチに見える。うまそうなので食べてみたい。輸入が難しいというのが残念である。
  
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