2017年03月27日

「痛みに耐えてよくがんばった」(約15年10ヶ月ぶり)

劇的な幕切れであった。伊勢ヶ濱ーズが見事に連携して優勝したのは,もう2年前の5月場所のことだったか。今場所もそうなるのかと思わせられたり,あるいは田子ノ浦部屋との連合軍対決化と思わせられたりしたが,最後の最後は結局のところ稀勢の里と照ノ富士という個のぶつかり合いであった。

ともに途中まで万全の相撲ながら照ノ富士は高安戦の敗戦から相撲が荒れ始め,案の定膝のケガを再発し,そのケガを隠しつつも,14日目にたまらず変化した。稀勢の里は13日目に左肩の筋肉を断裂するケガを負い,当然隠し通せるはずもなく,14日目は脆くも敗北した。照ノ富士の側は14日目に「切り札」を切ってしまったから,千秋楽にその「切り札」を相手が使ってくるのを止めようがなかった。完全に読めてはいたが,膝ゆえに対応できなかった。それゆえに決定戦に進むことになったのだから,ドラマは13日目,それも稀勢の里ー日馬富士の取組ではなく,膝が緩んだ照ノ富士ー鶴竜から始まっていたのかもしれない。この奇しくも似て非なる状況に置かれた二人が,非なる状況によって明暗を分けた。それこそ2年前の5月場所に並ぶような,鮮烈なスポーツドラマを体験させてくれた,この場所にまるっと感謝を捧げたい。(その意味で,稀勢の里が賞賛を浴びる一方で,ケガを隠していたせい・よりによって変化した相手が琴奨菊だったという事情はあれども非難されるだけの照ノ富士という状況はちょっと納得がいかない。)

さて,どうにも連想してしまうのは確かなので,こういう記事名にしてしまったが,あの時とは少し状況が異なるように思う。私も13日目が終わった直後や,14日目の取組を見た後は「根性の強行出場で貴乃花の再現とかやめてくれよ……休場でいいよ……」と当然思っていたクチだが,実際のところ,14日目はともかく千秋楽は勝算があっての出場だったのだろうし,事実勝ってしまった。照ノ富士の膝の状態を見抜いた上での判断として,左を使わずに右と足腰だけで勝つ作戦を立てて。その状況と作戦から勝機を見出して出場に踏み切ったのなら,これまでの稀勢の里ではちょっと想像できないようなクレバーさである。実際にどこまでが正しくて,どこからが買いかぶりなのかはわからないが,ひとまずはその判断を称えたい。少なくともすべてが買いかぶりとは思えず,「痛みに耐えてよくがんばる」しかなく,結果その後の現役人生が消滅した貴乃花とは完全に重ねることはできまい。今後の稀勢の里がどこまで回復できるかはわからない。直後のNHKサンデースポーツでは「ほっとけば治る」と強がっていたが,さすがにそういうわけには行くまい。ただ,あの2番で致命的なまでに悪化したとは到底思えず,彼の今後の現役生活に与える影響は軽微な部類ではないかと思う。無論のことながら,それでも休むべきであったという意見にはかなりの程度同意する。

ところで,実は「痛みに耐えてよくがんばった」貴乃花は当時28歳で,現在の稀勢の里は30歳である。それまでの疲労の蓄積の差が当然あるとしても,あの大一番がいかに貴乃花の現役寿命を潰したかということに,約16年経って考えさせられる。

それと,千秋楽の2番に1つだけ文句を言うとすると,本割の相撲,稀勢の里のはたきが照ノ富士の髷にかかっていた疑惑が正直なところ拭えない。あの場に割って入り込み,しかもそれで稀勢の里の優勝が消えるとなると声を掛けにくかったのは理解できるところだが,審判団は恐れず物言いをつけておいてほしかった。それが確認で終わるなら単純によし,それで照ノ富士優勝になるならあっけない幕切れだが致し方なしであろう。おそらく,疑惑の判定を言い続ける人は出てくると思う。

優勝争い以外では引き続きケガ人多数だが,先場所書いた通り,幕内上位全体が若返るまで当分続くと思われる。優勝争いによらず全体として内容の充実した15日間で,見ていてとても楽しかった。


個別評。横綱陣。稀勢の里は千秋楽も含めて,随分右が使えるようになったなと思った。中日の右突き落としに合わせた左小手捻りは見事な左右の連携だった。あとはほんとにケガの状態が心配なだけ。なお,日馬富士に敗れるまで実は18連勝中であった。日馬富士は日毎の調子の差が非常に激しく,稀勢の里に勝った相撲が毎日できれば優勝なんだがね……。鶴竜は休場明けという弁解の余地はあるものの,星数10という少なさ以上に内容がなく,14日目に稀勢の里がケガしていなかったり,どこかで取りこぼしていれば一桁,あるいは負け越していたかのような状況であった。鶴竜が今場所負けた力士は照ノ富士と琴奨菊以外の3人は全員押し相撲で,どうも自分から突き押しの展開に持っていく割に,押されると残せる足腰がないように見える。相撲を変えた方がいいのかもしれない。白鵬は以前から書いている通り,身体能力の衰えに意識が追いついていないだけで,脳と身体の感覚が一致すればある程度元の相撲振りに戻るのではないかと思う。

大関陣……というよりも豪栄道はノーコメントで,照ノ富士について。前半は無敵の相撲で,取り口も少し変わり,外四つで無理に寄っていったり振り回して投げたりせず,左四つになるように心がけ,きっちりと形を作ってから寄るということに徹していた。前から「左四つに徹するべき」と主張していたので「そうそうそれでいいんだよそれで」と思って気分良く見ていたのだが,後半戦に入ると好調すぎて欲が出たか,あるいは6日目の高安に通用しなかったせいか,以前の振り回す相撲に戻ってしまい,非常に残念であった。案の定13日目にパンクし,14日目・千秋楽に至る。あの6日目の高安戦に焦点を当てるなら,今場所は部屋対抗戦の文脈に乗せることもできよう。改めて,照ノ富士は左四つを磨いていくしかないと思った場所であった。今場所優勝同点なので来場所は綱取りになるが,14日目の変化をマイナス査定しないとしても,昨年の体たらくを鑑みても,4横綱という状況を鑑みても,ハードルは極めて高く設定されそう。優勝は当然として星も全勝か14勝しかダメ,下手したら全勝しかダメとかになるのではないか。現実的には上手くいっても来場所12-13勝で綱取り継続,名古屋で13-14勝の優勝条件とかになるか。

三役。まず,琴奨菊は実力半分不運半分といったところ。割がずれてて14日目が優勝のかかった照ノ富士でなければ運命は変わっていただろうと思う一方,そもそもそこまでに5敗していたのが悪いとも言える。14日目にはあの取組を見て「まともにやってても照ノ富士が勝ってただろうから,変化くらいいいじゃないか」と言ってしまったが,照ノ富士の膝の悪化を見抜けていなかった発言なのであれは撤回したい。まともにやっていたらいい勝負になっていたかもしれない。ただし,それはそれとしても,琴奨菊は以前に7−7,カド番脱出の掛かった1番で照ノ富士に対して変化して勝っている(照ノ富士は優勝争い脱落ながら12勝目:優勝次点がかかっていた)ので,若干の因果応報感はある。変化に笑うものは変化に泣くのである。

次に,高安は堂々の12勝で内容も良かった。立ち合いの当たりが強烈で,いつの間にぶちかましにあんなに威力が。先場所11勝だから積み増して残り10勝。完全に大関取りが視野に入っている。今場所の相撲振りを見る限り,変なケガとかなければ届くと思うが,連敗癖があるいわゆるツラ相撲である点と,すでに横綱・大関が合計6人いるためにハードルが高く設定される可能性の2点は大きな不安材料である。個人的には,10勝なら内容を気にせず上げてしまってよいと思う。玉鷲はまだ好調が持続しており,すでに嘉風旋風よりも長いのでは。御嶽海は引き続き突き押しの調子がよい。9勝して関脇に上がれないのは不運すぎる。代わって正代は明らかに絶不調で,14日目に痛めた左肘のケガが長引かなければよいが。


前頭上位。蒼国来・貴ノ岩は思っていたよりも全く通用しておらず残念な出来。荒鷲は2場所連続は続かなかったか。遠藤は何とか勝ち越しで,「上手いんだけど上手いだけ」の力士になりつつあってこれも残念。ただ,まわしとった時の上手さは本当にそれだけで金が取れるレベル。北勝富士は負け越したが,ある程度突き押しが上位に通用したと見ていいかも。それなりに印象に残る動きをしていた。今場所が初土俵から初の負け越しとのこと。

前頭中盤。千代の国は非常に動きがよく,大ケガからの復帰後では最高の出来では。決して小さくないあの身体で飛び跳ねるのだから派手でおもしろい。それだけにケガもしやすいのだろうが。来場所はかなり高いところまで番付が上がりそうだが,無理せずに取ってほしいところ。栃ノ心は地力で7−8まで持っていったが,調子は最悪に近かったのでは。本来の右上手で万全という相撲がほとんど見られず,バタバタした相撲が目立った。これは10勝した栃煌山も近いことが言え,絶不調では無かったにせよ本来の動きではまったくなかった。

前頭下位。大栄翔と貴景勝は非常に良かった。また二人も有望な突き押しの力士が出てきたなという印象。大栄翔に三賞が無かったのは不思議で,印象としては同レベルだったのだが。貴景勝はまだ幕内2場所目という点が取られたのかもしれない。輝と御嶽海も含めると,新世代は突き押しブームか。代わって妙義龍はまさかの負け越しで,脆さがいよいよ顕著になってきた。

以下,いつもの予想番付。  続きを読む

Posted by dg_law at 07:30Comments(6)TrackBack(0)

2017年03月24日

最近読んだもの・買ったもの

・『火ノ丸相撲』13巻。童子切VS草薙。
→ 体格は互角,火ノ丸の進化系であり多彩な技の持ち主と,ザ・横綱相撲の対決という頂上決戦。主人公の相撲が安定した最強たりえないからこそ,主人公のあずかり知らぬところで実現した夢のカードである。今考えると,体格があってかつ超絶技巧で相手の優れた部分を消す相撲から考えるに,童子切のモチーフは朝青龍か。草薙は言うまでもなく貴乃花なので,確かに時代を越えた最強対決感はある。本作は高校相撲であるとはいえ。
→ そして勝ったのは草薙,久世である。天王寺は「神に愛された男」とやたらと強調されていたのは,後から「神の化身」を出すためであったか。そして,だからこそ「神に愛されなかった男」たる主人公という対比が生きてくる。性格や立ち位置は完全にジャンプ漫画の主人公なのに,相撲の場ではむしろダークヒーローというあたりも本作のおもしろさかも。


・『ざるそば(かわいい)』ドラマCD。
→ ざるそばの1巻の内容をそのままなぞっていくので,特に新しい情報や展開があるわけではない。この小説は間の取り方が非常に重要だが,おおよそ読者が思ってたペースと同じか,やや早いくらいかと。もうちょっと空白が長くても良かったが,不満ではない程度。ざるそば役の照井春佳ががんばっていて,破壊力がとんでもないことになっているので,原作が好きなら聞いて損はないかと思う。一方,本作のおもしろさは字面とルビのズレや言葉遊びにもあって,音だけだと再現できていない部分も多いので少しもったいない。そこは映像で補完できるアニメとの違いだが,さすがにアニメ化まではしなさそうなので,メディア展開はここで打ち止めか。


・『クソゲーオンライン(仮)』2巻。
→ つちせ八十八作品の肝は奇抜な設定を作っておいて,意外と読者が受け入れやすいところに落とし込んでいくという絶妙なバランス加減にあって,これは本当にすごいと思うのだけど,奇抜な設定を落とし込む作業の段階でおもしろみを大体消化してしまうので,それは連載作品には向かないのかもしれない……というのを感じた2巻。つまらなくはないのだけど,どうしても1巻に比べるとその作業は終わっているのでどうしてもパンチが弱かった。逆に言って設定はかっちり組み上がってきた感じがするので,長い目で見たほうがいいのかもしれない。どこまで続くのかはわからないけど。とりあえず,アズラエルをいじるよりもクソゲーの改善に主眼を置いて話を展開させたほうがおもしろいと思う。


・『うちの娘の為ならば、俺はもしかしたら魔王も倒せるかもしれない。』漫画版1巻。デイルがラティナを拾って,ラティナが迷子になる事件まで。
→ 原作は小説家になろうに投稿されていたネット小説である。漫画化はほた。さんによる。東方の同人で有名な人で,私はそちら経由で知った。女の子がとにかくかわいく描ける人ではあるが,本作の幼女のラティナはとにかく破壊力が高い。漫画も連載はコミックウォーカーまたはニコニコ静画で読める。
→ 典型的なファンタジーの世界で,主人公デイルは若いながら凄腕の冒険者。ある依頼をこなした帰り道に,いかにも訳ありの魔族の幼女ラティナを拾い,自らで育てる決意を固める。まあ導入に時間をかけてもしょうがないのだが,原作も漫画もかなりあっさり拾って育てる決意を固めるので,そんなほいほい人を拾っていいのかというw。以後,育っていくラティナのかわいさに,若いながら凄腕の冒険者であるはずの主人公がどんどん骨抜きになっていくのだが,読者も一緒に骨抜きになっていくので何も問題はない。これは父性だよ父性。
→ 父性という話もかかわるが,実のところ原作の後半の展開はおそらくかなり好みが分かれるところであるので(というだけで察しのいい人はきづくかもしれない),よほどネタバレが嫌いではない場合は,ある程度あらすじを知ってから追いかけた方が,嫌いな展開だった時のダメージが少なくて済むかもしれない。私はあの展開が嫌いではないので,少なくとも漫画版は全部追おうかと思う(原作の書籍版は思案中)。



  
Posted by dg_law at 07:30Comments(0)TrackBack(0)

2017年03月21日

私的相撲用語辞典(3)投げ技・引き技編

(2)から。また半年空いてしまった。なお,(4)の立ち合い・寄り・その他編で終わる予定です。


・投げ,出し投げ
説明するまでもないような用語だが,相手の身体の内側に向かって腕を振って倒す技を投げ技という。上手でうてば上手投げ。下手でうてば下手投げになる。投げは比較的カウンターが効きやすい技で,相手が右からの下手投げをうってきたら,自らは左からの上手投げで応戦できる。この場合,当然先に仕掛けた方が有利ではあるが,膂力の差や,下手投げよりも上手投げの方が上から力がかかる関係で有利ということから,たまにカウンターの側が勝つことがあるので,「投げのうちあい」は熱戦の決着手になることが多い。

また,要は自分の腕の振りで相手の体が倒れれば「投げ」になるので,まわしに手がかかっておらずとも投げが決まるということはありうる。これは相手をつかむポイントが少ない相撲特有の現象ではなかろうか。下手がまわしにかかっていない状態,つまり自分の腕が相手の脇の下に入っただけの状態での投げを「すくい投げ」。逆に上手がまわしにかかっておらず,極めた状態での投げを既出の通り「小手投げ」と呼ぶ。すくい投げは,よくあれで投げが決まるなという印象がある。

さらなるバリエーションとして,投げをうつ際に身体を開き(横に動き),相手の前方に空白を作りながら,動く際の遠心力も利用してぶん投げることを「出し投げ」と呼ぶ。これも上手と下手で区別するので「上手出し投げ」「下手出し投げ」と決まり手が分かれる。遠心力を利用するので威力があるが,身体を開く関係で引き技になって呼び込むことも多く,出しどころが難しい。あとはレア技として柔道と共通する背負い投げ(一本背負い)と腰投げ,掛け投げ(柔道の内股)がある。

投げ技はメジャーゆえに得意な人が多いが,左の上手投げとなれば第一人者は白鵬になろう。上手出し投げとなると間違いなく日馬富士で,芸術的に決まると拍手喝采である。右上手投げなら魁皇か。こうしてみると近年の投げの名手で下手投げの方が得意という人があまり思い浮かばないが,朝青龍の場合どこからでも4種の投げが飛んできたイメージが強い。レジェンドクラスだと千代の富士の左上手投げが有名。現役の関脇以下だと,間違いなく挙げないといけないのは荒鷲で,下手投げでの逆転劇が多い。かなり強引にうつが,割りと決まっている。あとは栃ノ心の左上手投げと,勢の右すくい投げを挙げておく。勢の右すくい投げは綺麗に決まると相手が完全に一回転するので,見ごたえがある。背負い投げは豪風がたまに見せる。


・掛け技
足技のことである。自分の足を相手の足に「かけて」倒すので掛け技の名がある。代表例は外側から蹴り込む外掛け,股の間に足を飛ばす内掛け,立ち合いと同時に足を飛ばす蹴手繰り(けたぐり)がある。あとは投げると同時に足を掛けることもあり,前出の掛け投げ(内股)の他に,櫓投げ・二丁投げ・切り返し・ちょん掛け・河津掛けなどがあるが,いずれもレア決まり手でほとんど見ない。当然足を掛けながら投げた方が威力は高まるが,足を飛ばすということは自分のバランスも不安定になるということで,投げながら足も使うというのはプロであってもなかなか難しいようだ。にもかかわらずやたらと分類が多く,大相撲の決まり手が八十二手まで膨れ上がっている主要因である。

近年の足技の名手として有名なのは,つい先日亡くなった時天空であった。彼の現役時代は,時天空がどれだけの足技を場所中に見せるかが一つの楽しみのポイントであった。現役では佐田の海がたまに足技を見せるくらいである。


・首投げ
寄ってきた相手の圧力を利用して,腕で相手の首を巻き,そのまま体を預けて投げ倒す技。両者同時に身体が飛ぶことになるが,その時に自分が上になっていれば勝ちである。かなりリスキーな逆転技で,思い切りの良さとセンスが問われるが,うまくはまれば脅威の逆転技になる。本来はほとんど決まらない,あまり見ない決まり手であったのだが,豪栄道がおそらく大相撲史上稀に見るレベルでの首投げの名手で,これで数々の奇跡の逆転劇を演出してきた。ただし逆転技には違いなく,豪栄道が好調な時にはかえって首投げを見ない。豪栄道の調子のバロメーターと言えるかもしれない。


・捻り技
内側に向かって腕を振って相手の身体を倒すのが投げ技なら,その逆に腕を外側にひっぱる,あるいは手首を外側に向かってひねることで相手の身体を倒す技を捻り技という。あまり決まり手で見ることがないが,全体重を乗せてうつ投げ技に比べると腕力頼りになるのでどうしてもうちづらいところはあるだろう。しかし,相手からすると思っていたのと逆方向に回転することになるので,不意を突かれて大回転してぶっ倒れることになるので,決まるとかなりかっこいい。

投げ技同様,まわしに手がかからない状態で決まることがあるが,小手投げの状況なら小手捻りになる。以前に極め技の項目で紹介したとったりも捻り技に入るが,確かにこれも相手の腕を捻っているに違いない。その他捻り技はバリエーションが多様で,網打ち・腕捻り(かいなひねり)・頭捻り(ずぶねり)・波離間投げ・徳利投げ・首捻り・大逆手など,なぜだか少しの状況の違いでやたらと種類があるが(これも決まり手が八十二手もある要因である),大半がめったに出ないレア技である。正直,私もぱっと見でどれがどれだかわからない。波離間投げと徳利投げなんて名前に「投げ」ってついてるじゃねーかってツッコミは決まり手を調べたことがある人なら誰しもがしていると思う。それだけに決まり手発表でこれらの捻り技が出ると場内がどよめくことが多い。現在開催中の2017年春場所で稀勢の里が小手捻りを決めていた。

そもそもあまり見ない技なので得意な力士と言われると少し困るが,現役だと高安が得意なイメージがある。(元)師匠の横綱隆の里が現役時代に得意技だったそうなので,その系譜かもしれない。


・内無双/外無双
捻り技をうつ際に,ひねらない方の腕で相手の足を払うことを無双技という。やたらと名前がかっこいいが,足が2本であるから「双」で,その片方が払われて倒れるので「無双」となる。相手の股の間に腕を伸ばして払うことを内無双,外側から払えば外無双となる。ただでさえ予想外の捻り技に加えて,予想だにしないところに腕が伸びてきて足にダイレクトアタックするのだから,意外性は大きく,威力は高い。しかし,無双技をうつには上体がかなり下がっている必要があり,かなり特定の体勢で相手を組んで捕えていないと腕が足まで届かないので,体勢の時点で読まれてしまうところもある。特に相手が以前に出してきたことがあれば,警戒は必須だろう。

その中でよく決めていた名手というと,第一に琴光喜が挙がり,次に舞の海か。現役力士だと白鵬が決めていた記憶があるが,得意技というほどのものでもない。というよりも,白鵬が内無双以外に打開策がない状態に追い込まれること自体が少ないが。琴光喜の内無双は本当に見事で,完全に警戒されているであろう状況からすぱっと切れ味良く決めていた。


・引き落とし・はたき込み・肩透かし
土俵の後背地を利用して下がる,あるいは横に動くことで離れた間合いを作り,この空間に前のめりにつっこんでくる相手をそのまま倒してしまう技のことを引き技と呼ぶ。代表的な引き技は引き落とし・はたき込み・肩透かしの3つで,相手のどこかをつかみながら下がっていれば引き落とし,つかんではいないが差し手を引っ掛けて倒していれば肩透かし,全くつかまず上からはたいた(叩いた)だけならはたき込みになる。が,この3つの境界はけっこう曖昧で,ぱっと見ではどれかよくわからないことが多い。なお,肩透かしは一応捻り技に分類されているが,力士によって引き技に見えたり捻り技に見えたりする。コメント欄の宮川拓さんのコメントも参照のこと。

レアなところでは素首落としというのもあり,これははたき込みの際にはたいた場所が首か後頭部ならばこの決まり手になる。前出の通り,出し投げも横に動くので引き技っぽいところがあるし,後出の突き落としを含んでもよいと思う。

引き技は決まればお手軽であり,省エネ相撲である。15日間激闘を繰り返す関取にとってはスタミナは重要で,できれば引き技で勝ちたいのはわかるところであるが,引くタイミングを間違えると単純な自滅行為になり,これを「呼び込む」と呼ぶ。相撲を観戦していると,関取の敗因が少なからず「呼び込み」による自滅というのがわかるはずである。また引き技は失敗すると,相手が自分を吹き飛ばそうと圧力をかけてきているところに自分も下がっているので,身体が大きく後ろに飛びやすく,着地に失敗してケガをしやすい。相撲で安易な引き技は禁物とされるのは,力士生命を鑑みればの部分が大きい。


突き落とし
相手の脇のあたりを突いて,横向き(あるいは斜め)に相手を倒してしまう技を突き落としという。突き落としのおもしろいところは,技の名前のイメージと違って概ね引き技であるということであろう。下がりながら打たれる技なのである。なぜなら前に出ながら突くと相手は後ろに倒れることになり,この場合は決まり手が「突き倒し」になるからである。当たり前すぎる話になるが,下がりながら突いても,相手を後ろに倒す威力には欠く。一方,相手ががむしゃらにこちらに向かってきている状況は,がむしゃらゆえに相手も重心がぶれているので,横向きに圧力を加えればバランスがとれなくなって倒れてしまう。だから,下がりながらうつなら横向きの突きとなり,引き技としての突き落としが目立つということになる。

突き落としは誰でもよく出す技ではあるが,あえて言えば稀勢の里の左突き落とし,琴奨菊の右突き落としが現在の上位陣では強い。稀勢の里は腕や肘をめがけたおっつけが外れて脇に当たるも,結果的にこれが突き落としになるパターンが多く,琴奨菊は右四つで寄っていって,寄りきれないと見るや一転して引いて右から突き落とすというパターンが多い。  
Posted by dg_law at 03:00Comments(2)TrackBack(0)

2017年03月20日

早稲田大17番の再検証

書籍版の改稿のためのメモを兼ねて。思考の垂れ流しなので読みづらかったら申し訳ない。答えが全くわからなかった早稲田大商学部の17番についてである。まず,問題の要件を再確認したい。読者諸氏にとっては申し訳ないことに後出しのようになるが,先の記事よりも少し長めに問題文を引用すると,実は次のようになる。

「前漢の数字(編註:人口約6000万人のこと)は,その最盛期といわれる武帝の時代から約80年後のもので,この数年後に漢は一時中断するが,この時期にあっても帳簿上は十分な数を確保していたことになる。後漢の光武帝時は戸口ともに前漢の約35%程度に落ち込んだが,2世紀に入るとほぼ回復した(編註:人口は約5600万人)。」

そしてこの文章の「2世紀に入るとほぼ回復した」に下線が引いてあって,下線部についての問いとして「その理由として妥当なものはどれか」と聞いているのが問2,すなわちここでいう早稲田大の17番の問題である。整理すると,本問は「後漢の人口が前漢並に回復した理由」として妥当なものを選ばせていることになる。そして選択肢1・2番は論外なので3・4番に絞られるが,3・4番はいずれも決定打になるような情報がどこにもないということで,記事執筆時点では手詰まりであった。


ここで,ブクマにてid:izmiiさんから提示された論文を読んでいたら,ピンポイントな情報が入っていることに気づいた。(本当にありがとうございます!)

・明石茂生「古代帝国における国家と市場の制度的補完性について(2) : 漢帝国」『成城大学・経済研究』第193号(リンク先pdf)

論文の10ページに前漢と後漢の戸数のシェアがあり,人口全体は後漢の方がやや少ないが,ほぼ同じである。ゆえに,ここから発展状況の違いをおおまかに読み取ることができる。そして選択肢の3番・4番はいずれも特定の地域について述べた文であるので,このデータをもって再検証が可能である。

この漢代の行政区分のうち,揚州(おおよそ現在の浙江省・安徽省・江西省・福建省)と荊州(同様に湖北省・湖南省)と益州(同様に重慶市・貴州省・四川省・雲南省)と交州(広東省・広西壮族自治区・ベトナム北部)の4つが長江以南を含んだ長江流域と言える。一方,青州とエン州がほぼ現在の山東省であり,山東地域と言える。それぞれのシェアの動きを見ると,
・長江流域の4州合計:20.6%→43.3%
・山東地域の2州合計:23.7%→15.1%
となり,長江流域は増加しているが,山東地域は減少しているとわかる。よって,「山東地域や長江以南の開発が進展した。」とする選択肢の4番は誤文の可能性が高い。

では消去法により3番が正解と断定してよいかどうかは,実のところ微妙である。黄河の治水工事による流路の固定の恩恵を受けたのは,黄河の中下流域である。当時の黄河中下流域は司隷・冀州・エン州・青州になるが,このうちエン州と青州は上述の通り,人口の減少を確認済みである。そして司隷と冀州は以下の通り,
・司隷:12.4%→6.5%
・冀州:11.3%→9.5%
両州ともに著しく減少していることがわかる。よって,黄河の氾濫減少は人口の回復に寄与しなかったか,寄与したとしても,他の減少理由を押しとどめるような効果にはなりえなかったということがわかる。はっきり言ってしまうと,「黄河の治水工事がどの程度人口の回復に寄与したかは,データ上裏付けが取れない」のである。

してみると,本問は正解がない可能性が浮上してきたと言える。ここに来て出題ミスの可能性が出てきたことを読者諸氏に報告するとともに,興味がある方は私とともにもう少し悩んでみてほしい。  
Posted by dg_law at 01:45Comments(0)TrackBack(0)

2017年03月15日

世紀の変わり目とかいういろいろすごい時期

・ネコに家が壊される〜広がる ペット多頭飼育崩壊〜(NHK クローズアップ現代+)
→ アニマルホーディング(Animal Hoarding)というらしい。完全に自業自得なのだけれど,自業自得と責める風潮が生まれることでより発覚が遅くなるという悪循環が生じるのが厄介なところ。未然に防ぐというのがどこまでできるのかが鍵になってくる。不妊・去勢手術は猫を飼う上で必須だし,それができない経済力なら飼うな・増やすな(かわいそうと思うのなら飼うのは向いてない)というのは鉄則で,これを周知徹底していくしかないのだろう。
→ お年寄りが寂しくて多頭飼育してしまうというのはわからんでもないので,これも超高齢社会の宿痾か。そういう目的で飼っているので,少ない頭数で一匹に愛情を注いでいると,今度はペットロス症候群なんてのもあり。
→ 猫が被害に遭っているイメージが強いが,調べてみるとやっぱり猫が多いらしい。犬ほど飼うのに手間がかからないし,癒やし要素は強いし,繁殖しやすいしで多頭飼育になりやすいのだろう。NHKの番組でも出てきたように,札幌で活動している猫専門のNPO法人もある(侍にゃぱん)。


・ボーカルあまねと結婚するビートまりおが爆発する前に、東方同人の濃ゆい歴史を聞き出しておいたよ
→ この記事の内容は知っている内容が多かったけど,何年か年上の世代のオタク個人史としてとてもおもしろかった。前にもEXCELさんの結婚式で書いたのだけれど,同人の頂点を極めたオタクたちが“ある種のゴール”を迎える光景は感慨深く,ビートまりおとあまねはその中でも一層自分にはインパクトが強かった。2007年からとはいえ,このお二人が好きで歌を割とよく聞いていたからであろう。
→ BM98は友達がやっていたので見たことがあるが,あれも葉鍵やFlash等と並ぶ90年代末〜00年代初頭に特有の風景だろう。リアルアンパンマンとか皆見てたよね? でも『*ハロー、プラネット。』のささくれPがBMS出身というのはさすがにこの記事で知った。歴史はどこかでつながっているものだ。そして里村茜からのパチュリーという歴史が完全に他人事ではない。里村茜と川澄舞の十字架を背負ったものは一生その十字架を背負って生きていくのだ……
→ 二人の結婚披露宴ライブはニコ生で放送されていて,なぜか視聴期限無期限なので現在でも視聴できる。ゲストがとにかく豪華で,この場に隕石が落ちたら神主含めて東方音楽界隈がそのまま消滅するのではないかというような。



・キューバのカストロ前国家評議会議長が死去、90歳(AFPBB)
→ 完全に権力を移譲済で,歴史に名を残した人物である割に静かに死んだというのが逆に印象深い。最後の最後でアメリカと和解できたのは,彼にとって幸福だったのではないだろうか。独裁者には違いないので手放しには評価できないが,当時のキューバにとってはあれしか道がなかったとも言えよう。また一つ,20世紀が終わっていった。


・1932年の女子高生が今と寸分も違わない格好してて衝撃...なにこれめっちゃかわいい(Togetter)
→ 最初の写真を見ると思っていた以上に今っぽくて驚いたのだけど(経済力の話ではなくセンスの話として),下にある他の写真を見るとやっぱりイメージ通りの戦前の女学生である。どちらかというと,いつの時代にも垢抜けたハイセンスな人はいるものだ,ということかもしれない。


・和歌山毒カレー事件の真相は、林家同様ヒ素を…(Yahoo知恵袋)
→ この投稿自体は正直怪文書の域は出ないし,リンク先のpdfはわかるところだけ拾い読みするには専門的な化学知識が必要な部分が多くて長大なので,私からは何も言及できない。それでも,当時自分は小学生か中学生かというあたりの年齢で,まだインターネットも普及してなかったので,こんな冤罪の可能性があるなんて知らなかった。こう,インターネット以前の世間の出来事で後から何かが判明すると,見知らぬ影に追われているようで少し背筋が寒い。  
Posted by dg_law at 12:00Comments(2)TrackBack(0)

2017年03月14日

非ニコマス系動画紹介 2016.11月上旬〜2016.11月中旬



投了禁止で最速詰み被王手はこれが最速になる模様(一応6手も考えうる)。なるほど。



セルフィのパンツを見るのに異常な情熱をかけているshefallさんが,新たな境地に達していた。



ドラクエ7でとんでもないやり込みプレイをしているTTさんが,新たにドラクエ5を始めた模様。そりゃ7だけだと気が滅入っちゃうからね……5もすごそうだけど。



ドラクエ全裸一人旅シリーズをやっていた人がFF5に挑戦。どれだけ縛っても比較的何とかなってしまうFF5だが,これはどうか。



そういうことだろうなと思っていたものが説明された感じ。



この間佐藤ひろ美の記事を書いていて見つけてしまい,ひどく懐かしくなってしまった。ヴァニラさんかわいいよヴァニラさん。



こいここ万歳としか言えなくなる動画。



コミケOPEDのジングルをニコニコで募集していたことを今頃知るなど。確かに,ここ数回のジングルはこれだわ。




すごい精度のボーカロイド2つ。結月ゆかりさんの場合ボイスロイドのイメージが強いので(もちろんボーカロイドでもあるのだけど),歌っているだけで個人的には新鮮だったり。
  
Posted by dg_law at 12:00Comments(0)TrackBack(0)

2017年03月12日

受験世界史悪問・難問・奇問集 ver.2017 その2(早大残り・国公立)

その1から。こちらは早大の残りと,国公立。国公立は,解いたものは全て載せているが,実は某所の更新がないことで千葉大の問題が未入手なので,荒れていた場合は書籍版に収録します。

国公立はいつもとは違う顔ぶれになっていて,意外性が高い。

  続きを読む
Posted by dg_law at 16:00Comments(23)

2017年03月11日

受験世界史悪問・難問・奇問集 ver.2017 その1(上智大・慶應大・早大途中まで)

はじめに
今年は諸事情あって「そもそもやらない」すら視野に入れていたのだけれど,期待もあることだろうし全くやらないというのもダメだろうと思い直して,縮小版で更新することにした。問題の選定だけは済んでいるので,番号が飛んでいるのはまだ作業が終わってないんだなと察してもらえればと思う。ただ,最初から諦めていたおかげでかえって時間ができて,この2月は何年かぶりにのんびりしていた。Twitter等を見たら普通にゲームしてたのがわかるが,あれはこういう事情で気を抜いていたのが理由だったりする。完全版は2巻に収録する(2017年中に出るのは確定しました)。


・収録の基準と分類
基準は例年とほぼ同じである。

出題ミス:どこをどうあがいても言い訳できない問題。解答不能,もしくは複数正解が認められるもの。
悪問:厳格に言えば出題ミスとみなしうる,国語的にしか解答が出せない問題。
→ 歴史的知識及び一般常識から「明確に」判断を下せず,作題者の心情を読み取らせるものは,世界史の問題ではない上に現代文の試験としても悪問である。
奇問:出題の意図が見えない,ないし意図は見えるが空回りしている問題。主に,歴史的知識及び一般常識から解答が導き出せないもの。
難問:一応歴史の問題ではあるが,受験世界史の範囲を大きく逸脱し,一般の受験生には根拠ある解答がまったく不可能な問題。本記事で言及する「受験世界史の範囲」は,「山川の『用語集』に頻度,任發いいらとりあえず記載があるもの」とした。


総評
まずもって,悪問・奇問が激減したのが2017年最大の特徴と言える。数年前まで上智大と早稲田大は日本語がひどいせいで答えが絞れない問題が頻出していたが,上智大は2・3年前から改善の傾向が見られ,早稲田大は2017年になってごっそりと減った。明らかに上から怒られてこうなったのだと思うし,その一助となっているのならば,この企画をずっとやってきてよかったなと思う。結果的に収録対象になる問題自体が大きく減っている。例年であれば早慶上智で合わせて45〜50問ほど本企画に収録していたところ,2017年は30問しかないので,30〜40%の減少と言える。これが2017年だけの現象なら「世界史受験生には幸運な年だった」と言えるし,継続するなら転機の年だったと言えよう。

一方で,難問の類は相変わらずである。しかも「用語集の片隅に載っているからセーフ」「マイナーな教科書にちらっと書いてあるからセーフ」という巧妙な“かわし方”があからさまに増えていて,こちらとしては収録すべきかどうかの判断に随分と悩まされた。そうしたかわし方は以前から慶應大にはよく見られたが,今年は上智大や早稲田大でも多く見られ,これまた明らかに“学習”している。まあ日本語が崩壊している悪問だとか,同じ難問でもどこの教科書・用語集にも載っていないレベルのものだとかいうよりはマシなのだけれど,最終目標としてあるべき適正な入試問題からは程遠い姿であり,これを改善というのははばかられるところ。

最後に難易度や質以外の点で言えば,ヨーロッパ統合史と冷戦末期の歴史が大流行していて,それぞれ2016年のBrexitとソ連崩壊25周年の影響であろう。時事ネタという意味では,思っていたよりもアメリカ大統領選挙にかかわる出題は多くなかった。まああれは4年に1回あるしな。

  続きを読む
Posted by dg_law at 19:10Comments(8)

2017年03月09日

最近読んだもの・買ったもの(Sumipedia他)

最近急激に漫画の積み本を減らしたので,こちらを書くネタも急速に増えた。

・『乙女戦争』7巻。クトナー・ホラの戦い後編。
→ 史実の展開との違いは巻末付録にて説明されている。史実ではジシュカがはぐれてもいないし寝返る振りもしていない,クマン騎兵も別に戦いの鍵だったわけではない。ネボヴィディ砦の攻略とクトナー・ホラの奪回,その後のフス派による追撃戦と皇帝軍の悲惨な潰走は同じである。何が恐ろしいって漫画よりも史実のジシュカの方が活躍しているということだ。さすが化け物。
→ 今回,クマン騎兵が氷の湖の罠にかかって全滅しているが,実際にはハンガリー騎兵が撤退中に氷の川を渡ろうとして大量に溺死したらしい。ここからとってきたのではないかと思うので,細かい元ネタの拾い方と改変がされている。クマン騎兵は物語上存在が大きすぎるがこのまま残しておくわけにもいかず,仲間割れで数を減らした上で計略にかかって全滅により退場は上手く処理した。
→ 次巻はフス派内部抗争を扱う模様。いよいよジェリフスキーが死ぬか。7巻も時間経過から言えばほとんど進まなかったが,ニコニコ静画でちらっと読んだ感じでは8巻部分で1年以上時間が進む模様。6・7巻でめちゃくちゃ止まってたから,メリハリがある。


・『へうげもの』23巻。大坂夏の陣前夜,古田重嗣陰謀へ動き,陰謀発覚。
→ 真田丸の解説で丸島和洋先生が「家康は最後の最後になるまで和平を探っていた」と言っていたが,史実や真田丸とは,本作の家康と秀忠の立場が逆である。以前の定説に従っただけとはいえ,これはこれでしっくり来る配置ではあるので,一周回って良い創作なのかも。真田丸を見たり,真田丸の解説を読んだりして思ったのは,豊臣側が失策を重ねてどうしようもない袋小路に入っていったのだなと。本作では家康が滅ぼそうと躍起になっているが,豊臣方の失策がどうしようもないのは同じか。なお,真田丸と『へうげもの』の最大の違いは織田有楽斎の立ち位置で,これは『へうげもの』が茶道をメインに扱っているからこその解釈の違いと言えそう。
→ 家康が明智光秀と自分の理想がずれていたことに,ようやく気づく回。1〜3巻を読み返してみたが,実のところ家康と光秀の邂逅というのはあまり目立たないエピソードで,誰もあれが伏線だったとは思うまい。短いからこそ伝わらず,誤解が生じた。光秀は確かに民のための国という理想を家康に打ち明けてはいるものの,自らの楽しみとしての数寄を捨てているわけではないのである。そこを家康は「数寄は世を乱す」との信念から,光秀の理想を誤解してしまっていた。光秀は織部と相容れるが,家康は相容れないので,ここに決定的な差異がある。家康が40年以上経ってそれに気づいたのは,皮肉にも家康と織部が初めて出会ったシーンでのアイテム,パイナップルの皮であった。しかし,今更自分の勘違いをただすわけにもいかないので,家康は歴史を塗りつぶす方向に進む。こうして,家康の織部への殺意は完成する。家康が織部を積極的に殺す動機が存在しないという歴史上のミステリーを,歴史の抹消という説得力でもって解答を出したのである。
→ 陰謀発覚。このままいくと古田織部は事実上,息子に巻き込まれて死ぬことになるが,果たして。


・『Sumipedia』。上坂すみれのスタイルブック。
→ そもそもスタイルブックってなんじゃらほいとは思ったが,なるほど趣味や生活の様子,ファッション・化粧など生活スタイル全般である。こんなにガチに化粧の説明されても読者の大半は用語がわからないが(女性ファンには貴重だろう),スタイルブックの様式美としてはあれもおもしろいゾーンだった。
→ 「水着を要求するやつは死ね」とまで言っていたすみぺがゴーサインを出した水着写真だが,実際におとなしく,まあ普通にかわいいというくらいで,本書の中では特に目立つものでもなかった。むしろ表紙の方がエロい。
→ 写真は私物のロリータ服,私服コーデ,趣味で集めている変なTシャツ,仕事で来たスタイリストチョイスの服などなど,様々な服を召したものがずらっと並んでいて,かなり充実していた。写真集として見ると判型がやや小さいのでちょっと見づらいが,変わって1枚1枚の衣装に対する説明は充実しているので,けっこう楽しく読める。すみぺが好きなら買って損はないかと。  
Posted by dg_law at 08:00Comments(0)

2017年03月06日

「紙の辞書」というノスタルジー

・「紙の辞書はもう死にました」&ツイッターの反応(Togetter)
→ 15年も昔ならまだインターネット上のサイトもそれほど普及してなかったし,電子辞書もまだ用例が少ないだのなんだの言われていたが,この15年の情報技術の進歩が全てを覆してしまった。元より場所は取らないし検索性も優れている。もう紙の辞書に残された優位性は本当に少ない。確かに紙の辞書を引く機会は随分と減ってしまった。
→ 大百科事典的なものはインターネット上にあまりなくてしょうがなく紙の事典を引いていたことはあったが,いまとなってはコトバンクがある。古い大百科の記述をそのまま載せているという難点はあるものの,逆説的にしっかりしていて生き残った記述が載っているし,平凡社の『世界大百科事典』と三省堂の『大辞林』,小学館の『大辞泉』と『日本大百科全書』,『ブリタニカ国際大百科事典』がまとめて引けてしまう。たとえば「五胡十六国」でこれだけ出てくる。私の個人史にはコトバンクが「紙の辞書」のとどめであった。最初にWikipediaとコトバンク,それでもダメならその単語をCiNiiに放り込み,出てこなかったりオンラインで読めなかったりしたら,そこで初めて図書館へGOという。この段階まで来ると,もう紙の辞書を引いても無意味なので,図書館では最初から専門書(その専門書がその分野の百科事典である可能性はある)か紀要集を探すことになる。手間が省けまくってて良い時代になったものです。コトバンクさん,あんなに便利なのに知名度も高くなく使っている人も見かけないのはなんでだ。(かたやWebiloはWikipediaの引き写しをやっている限りただの検索妨害なんだけど……)


・『ニワトリ 人類を変えた大いなる鳥』(HONZ)
→ 実際,家畜としての存在感は圧倒的なのに,牛や馬ほど人類史として語られる回数が多くないイメージ。『銃・病原菌・鉄』での指摘然り,動力・戦力にはなりえないからであろう。本記事によると,大規模な産業化や品種改良は意外と近代になってかららしい。これは意外だった。あまり語られないのは,産業化されてからの歴史が短いからかもしれない。本書もそのうち読みたい。


・動画:仏空軍、ドローン迎撃・無力化にワシを採用(AFPBB)
→ この一周回って戻ってきた感w。これほどシュールさとかっこよさという正反対とも言えるものを兼ね備えた動画もそうそうない。幼い頃からドローンを獲物と認識するよう訓練するとのこと。飼育・育成にけっこうお金がかかりそうだが,それだけの価値があるか,あるいは科学技術による解決はさらに資金が必要と見たか。一匹のワシが防空できる範囲も限られているだろうから本格運用には何匹か必要になると思うし,常に飛ばしておくわけにはいかないから,どういう運用設計なのかちょっと気になるところ。


・ファンタジーRPGの「酒場で依頼を受ける」の原型(Togetter)
→ おもしろい。『カンタベリー物語』までさかのぼれるのなら,実際にあった出来事と考えても差し支えないのかも。宿屋を兼ねているパターンは多かろうし,旅人・流れ者を捕まえるなら確かに適している。
→ コメント欄で指摘されているが,まあ近世イギリスのコーヒーハウスはやはり連想するところで。カフェと酒場の区別が曖昧だった時代であるし,これもあながち間違いではなさそう。ただし,コーヒーハウスが流行していたのは近世のある程度の時期までで意外と短く,18世紀半ば頃には会員制のクラブと居酒屋と喫茶店に分離し,コーヒー自体も紅茶に変わっていく。  
Posted by dg_law at 01:00Comments(0)TrackBack(0)

2017年03月05日

最近読んだもの・買ったもの

・『八雲さんは餌づけがしたい。』1・2巻。
→ 「お前ら料理の上手な未亡人とか年の差カップルとか好きだよな?」という一言で全部語れてしまう漫画。はい。
→ 八雲さんは大和くんに恋愛感情がなく,子供としか考えてないので無防備丸出しながら,大和くんは思春期らしく初々しいドキドキがあって,ギャップが大変にすばらしい。
→ ところで,男子高校生ってなんであんなに常にお腹減ってるんでしょうね。いやもちろん成長期だからなんでしょうけど,そういう論理的な解答が欲しい問いではなくて。別に運動部でなかった自分でもそうだったし,我が身を振り返っても不思議だ。





・『魔法少女まどか☆マギカ 魔獣編』3巻(完結)。
→ 予想された通り,設定がごちゃごちゃと後付でついたせいで収拾がつかない形に。最後は無理やり叛逆に話をつなげたけれど,本当に「話をつなげた」だけで,結局のところ本編と叛逆の補完する内容,意味のある設定の追加にはならなかった。あってもなくても良かったスピンオフになってしまっていて,非常に残念である。まだ全く読んでいない人に言うなら,1〜3巻まとめて読まなくていいです。


・『乙嫁語り』9巻。皆待望のパリヤ編の後編。
→ ウマルくんイケメンすぎて泣く。基本的に『乙嫁語り』の主人公側の男性は皆イケメンだけど,ウマルくん本作屈指のいい子では。超有能な上にメンタルもイケメンとは完璧すぎる。こんな子がパリヤさんの夫になるなら安心だ。口下手で裁縫も下手なパリヤさんだったが,性格があう男の子が見つかって本当に良かった。おまけに友達も増えて言うことなし……とか何か完全に親目線で読んでた。
→ 次巻はアゼルたちがメインだそうで。登場してからずっとろくな目にあってないアミルさんの実家勢だが,いよいよ好転する時が来るのだろうか。


・『狼の口』8巻(完結)。
→ 7巻の感想に「モルガルテンの戦いは遠そう」と書いた通り,一気に完結するとは思ってなかった。だが,モルガルテンの戦い自体は過不足なく終わったと思う。主人公ヴァルターの物語としては,やや唐突に終わってしまった気もするが。
→ 本作は,8巻で完結した作品とはいえ1〜3巻,4〜6巻,7・8巻で全く物語が異なる作品である。1〜3巻は関所の代官ヴォルフラムが関所を通ろうとする反乱分子をことごとく見破り,通行を阻止する話で,短編集に近い。ヴォルフラムの残忍な処刑方法のバリエーションが見もの。ただし,スイス人たちは自らの関所通過には失敗しても,文字通り死命をとして任務を達成していく。4〜6巻はいよいよ反乱軍が立ち上がっての関所落とし。双方の工夫が熱く火花を散らす攻防戦である。ヴォルフラムの悪魔的な予知能力に対し,スイス人側は時には人海戦術,時には14世紀らしい新兵器で対抗していく。中世西欧の守る側が圧倒的に有利な攻城戦がよく描かれている。7・8巻は領土奪還に来たハプスブルク家の本隊との決戦であるモルガルテンの戦いである。
→ よくこれだけ趣きの違う漫画を1つの作品にまとめたものだと思うが,それが歴史物というジャンルであるかもしれない。局面が変われば,当然描かれるべき物語も変わるからである。ただまあ,「狼の口」というタイトルの通りから連想するのは1〜3巻のようなストーリーであるし,もうちょっとこれが長く続いてから関所攻めが始まるのかなと思っていたので,意外と短く終わってしまったのは拍子抜けしたのも事実である。ヴォルフラムという良キャラを活かしきれなかったのでは。全体を通してまずまずおもしろかったが,歴史漫画の傑作というところまで届いたかと言われると,そこまではいってないかな。  
Posted by dg_law at 00:39Comments(0)TrackBack(0)