2011年07月13日

第193回『不朽の名画を読み解く』宮下規久朗編著,ナツメ社

久しぶりに入門書的なものでも読もうかと思いつつも,単なる入門書じゃつまらないなということで,偶然見つけた宮下規久朗編著のものを手にとってみた。その意味では,私の期待に応えてくれた本である。

編著という形になっているが,ご本人が書いたのは専門であるバロックのゾーンであろう。ここだけ極めて宮下規久朗色が強い。バロック章の冒頭の説明の「西洋美術の黄金時代」はまあいいとしても,ベラスケスを「西洋美術史上最高の天才」と評し,カラッチやボローニャ派,ティエポロにも極めて高評価を与えている。「フランスは圧倒的にイタリアの影響下にあり」というのはその通りだとしても,そのノリでそのまま「ロココは独立した様式というより,小規模なバロックというべきもの」と断じているのは,やはり入門書としては非常に独自性が高い。作品別の説明においても,カラッチの《バッカスとアリアドネ》を「世界三大壁画の一つ」とし(残り2つはラファエロのヴァティカン宮殿とミケランジェロのシスティーナ礼拝堂),《ラス・メニーナス》に至っては「世界最高の究極の名画」と持ち上げている。西洋美術飛び越えて世界最高言い出しちゃったよこの人……

そもそもバロック以外の部分でも独自性は高い。元々60しか選ばなかったら編集部に「せめてもう10足してくれ,日本人になじみのある作品で」と頼まれたらしいことがはしがきに書かれており,編集部の苦労が透けて見えるようである。実際には70しか紹介していないのではなくて,コラムという形でちまちまと増やしその倍くらいは紹介しているのだが,「これスルーしたのに,こっちは紹介するの?」ということがしばしば発生している。私はロレンツェッティの《善政の効果》を紹介した入門書を初めて見たし,ティエポロレベルでも入門書には載ってないことのほうが多い。一方,ミケランジェロの《最後の審判》やルノワールの《イレーヌ嬢》《ムーランドラギャレット》が載っていない(それぞれ《システィーナ礼拝堂天井画》,《舟遊びをする人々の昼食》)。ドガもバレエの作品じゃないし,クリムトも《接吻》ではない。

じゃあ印象派以降も気合が入ってるのかというとそうでもなく,前近代の画家は一人当たり4〜6ページとってあるのに対し,新古典主義以降はほとんどの画家が2ページで終わっている(モネ,セザンヌ,ゴッホ,ピカソの4人だけ例外)。20世紀は非常にすっきりしており,にもかかわらずウォーホルが《キャンベルスープ缶》じゃないという妙なこだわりは発揮されており,バーネット・ニューマンやフランク・ステラといったマイナーな画家も紹介されている。はっきり言って基準がまったくわからない。

総じて入門書としてではなく,宮下規久朗編著の概説書はこうなるのか,という気持ちで読むと吉である。


不朽の名画を読み解く不朽の名画を読み解く
著者:宮下 規久朗
販売元:ナツメ社
(2010-07-21)
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