2011年07月31日

カオスラウンジ周辺諸問題について

0.はじめに
私のことをよく知らない人のために自己紹介を兼ねて言えば,私がこの問題に関心を持ったのは美術史学畑の人間だからであり,20世紀以降の芸術は一部例外を除けばおおよそ全部嫌いだからである。私の芸術観については過去記事のこれこれを参考にしていただければおおよそわかると思う。

実害もなくなぜそんなに嫌いなのかと言われると,実はそこまで嫌いでもなく,自分が好きなものの行く末はなんのかんの言いつつもやはり興味を惹かれ,結果的に横目で眺めているというのがおそらく正しい。趣味が悪いと言えば悪いし,私憤でしかないと言われれば,私憤であると答える。特に村上隆関連を追っていたのは,自分の趣味であるヲタク界隈と接続しているからで,カオスラウンジはその延長線上に登場したに過ぎない。また,まどか☆マギカ関連でおもしろくない批評をやっていたのが彼らに良くない印象を与えたことも,一応この記事を書いた理由として挙げておこう。

本記事では自分で全部説明していくと冗長になる上,必ずしも正確な説明になるとは限らない点を鑑み多くのリンクを張った。面倒である,すでにこの問題をそれなりに追っていて流れは頭に入っているという方は適宜すっ飛ばしていただいてかまわないし,それでも論旨は把握していただけると思う。


1.キメこな問題

これについては,まずひとまずこちらを挙げおく。前者はやや偏っているが,最初期のまとめであり,すでに論点が整理されているため紹介する。

・【ふたば】5分で分かるキメこなちゃん盗作問題のまとめ : ふたばのまとめ(仮)
・Togetter - 「カオスラウンジ問題の整理・解決されていない事柄」

読まない人のためにばっさりと言ってしまえば,これはのまネコ問題の変形した再来である(別にギコネコ問題でもいいが)。「のまネコ問題を知ってればこんな事件起こさない。25歳?その年齢なら知らないってのはほとんど罪だよ。」というのが約二ヶ月前の自分のコメントであるが,現在でもここから感想は全く変わっていない。これはこちらのブログの「この10年美術界では何も起きなかった、は黒瀬陽平氏の言葉ですが、ネット上ではこの10年様々なことが起きていました」という指摘が補強してくれるだろう。

しかし,この問題は3つの点でのまネコ問題よりもたちが悪い。

・元ネタの著作権侵害が明確な点
・ふたばの閉鎖性と住民の抵抗の動機を理解してなかった点
・「芸術性」を言い訳とした点


まず,のまネコは誰の著作権にも帰属していなかったものを企業が勝手に商標登録し著作権保持者になろうとしたものだが,元はAA(モナーのバリエーション)であり著作権的にはほぼ完全にフリーである。一方,キメこなは様々なアニメキャラの「キメラ」であり,存在そのものがグレー(ないしブラック)ゾーンである。ふたば民はこれをグレーゾーンと認識し,洒落の通じない人の目には触れない範囲で遊んでいた。それを「芸術(の聖性)」の名の下に梅ラボが表へ引っ張り出したため,彼らは反発したのである。すなわち,のまネコ問題ではなかった著作権侵害が問題として浮上してくる。

次に,のまネコは最終的に商標登録を撤回したが,カオスラウンジ及び梅ラボ氏は現状撤回していないどころか,最終的な完成品を発注者(東浩紀)に納品してしまい,しかも東氏は「門外不出」として実質的な手打ちとした。また,カオスラウンジは「制作した作品の影響で,ネット上のコミュニティがつぶれても気にしない」ととれる主旨の発言したことだ(参考)。この発言はこの騒動全般において,最大の悪手であった。元々ふたばの人たちがキメこなを表に出してこなかったのはコミュニティの防衛のためであるから,そこへ「つぶれても気にしない」と来れば挑発しているも同然であり,一層批判を浴びるのは目に見えていた。さらに言えば,カオスラウンジ幹部の面々はどうやら「梅ラボ作品が犯罪なら同人誌も同罪」であり,「グレーゾーンをなくしていきたい」という認識でいるようだが(参考),この発言自体が問題を当初から根本的に理解していなかったことを示している。二次創作の同人誌だってグレーゾーンなのは,言われなくても皆理解しているのだ。その上で,コラージュはさらにリスクが大きいことも。(これに対してヲタク界隈はグレーゾーンの撤廃の自助努力をしてこなかった報いだとかいう意見も出ていたが,話があまりにもずれる上に,今回の件に適用するには極めて独善的な理路なのでこの話は広げない。)

最後に,のまネコは純粋に商業上の利用であったが,キメこなは並行して芸術上の利用としてまつりあげられたという点である。これにより,少なくとも現代芸術擁護側からは「この観点では正しい。デュシャンやウォーホルだって訴えられながらその地位を築いた」という反論の余地ができてしまった。説得力皆無ながら私に言わせれば,嫌いな現代芸術の文脈に則ったとしても,やはり評価できない。だが,この「芸術上」の話が,芸術全般や現代芸術の現状に疎い人たちを混乱させ,煙に巻くには十分な効果があったことが悔やまれるところである。なお,デュシャンやウォーホルに関しては実際に芸術性が高かったと判断されたがゆえに,著作権的には置いといても世間的には「許された」のであって,その意味でこの理路は間違ってない。かの作品にそれだけの説得力がないというだけで。

本来はこれに加えて偽札騒動やiPhoneケース回収騒動などもあるのだが,網羅的に把握するのが目的ではないため省略する。本来であればこれ一件一件が致命的であるはずなのだが,問題が山積しすぎてスルーされているのが現状である。


2.Pixiv「現代アート」タグ騒動

こちらもすでによくまとまったものがあるので,先に掲載しておく。この辺から本格的にTogetterでの玄米茶無双が始まる。

・Togetter - 「【問題の要点まとめ】pixivの”現代アート”タグが気になった方へ」
・pixiv「現代アート」のまとめ ※まとまりません
・揺れるイラストSNS「pixiv」、運営めぐり批判、退会の声 - デジタル・トゥデイ(Digital Today)

この問題では,pixiv運営陣が梅ラボ氏によるコラージュ作品の投稿を認めている点,そして仕事の斡旋などで協力関係にある点が問題視された。当初取り沙汰されたのは前者である。いろいろあって「「現代アート」タグさえついていればコラージュ作品でも許された」と理解した人たちが,マジ・便乗・悪意それぞれの思惑をもって流入・投稿していった(マジがいたというのがすごい)。これに対し,pixivは騒動の本質を理解しないまま無作為に削除した。結果として,「現代アート」タグがついていただけで何の著作権も侵害していないもの,pixiv運営批判にはあたらないものでさえも削除され,アカウントも停止された。さらに例大祭での企画で募集された東方絵をカオスラウンジ作品が使用していたことが発覚し,問題が拡大した(参考)。これに関してはpixiv運営の過失ではないと思うのだが(特別に便宜を図ったわけではないだろう),火に油を注ぐには十分な事件だった。

こうして批判が増していったためpixivはようやく謝罪したが,根本的には何も解決していない謝罪であった。さらにカオスラウンジ幹部が自主的にpixivを退会し一応のけじめをつけたが,対応としては手遅れであり,ユーザーのpixiv離れまで生じてきた。これも要点をさっくりとまとめておく。

・pixiv運営がカオスラウンジと他ユーザーにおいて,明確なダブルスタンダードを設定していた点
・pixiv運営が「運営に批判的」という理由付けで無作為に削除・アカウント停止が可能であるという,杜撰な管理体制であることが発覚した点
・カオスラウンジ自身の現代芸術の理解が浅かった,ないし宣言通りの活動をしていないということが露呈した点


一番上の件については,実は回避は簡単であった。「ダブスタでしたごめんなさい。」と認めた上で,彼らのアカウントを停止するか,最低でも「これからも特別扱いです」と言い切って残しておけば,それで済んだのである。あれが理由不明瞭なまま残っていたからこそ「現代アート」タグは許された扱いなのであり,ここが全ての元凶であった。そうしなかったのは,せずとも現状維持で通せると見た見通しの甘さであろう。その意味では二点目に吸収される。結果的に梅ラボ氏他が自主退会したため,キメこな問題同様,うやむやの解決となってしまった。

二点目については,安藤一郎さんのセミアートが格好の例だろう(上記Togetter中段)。これについては現状でもいまだ削除基準が不明瞭で,謝罪になってない謝罪で逃げ切りを図っている感がある。突然死ぬジャミラとともに今後どうなるか注目だが,いずれは沈静化するであろう。一方,恣意的な削除基準は場の破壊最大の攻撃手段であり,「現代アート」タグの有無に限らずユーザーにとっては脅威である。ここでも「コミュニティの防衛」という観点は必要で,いかに「気にしない」発言が地雷を踏んだかが確認されうる。

最後の一点は言われて気づいたのだが,実にその通りである。簡潔にまとまっている藤田直哉氏の発言も引用しておく。「大きな矛盾点として挙げられるのは、1「カオス*ラウンジ宣言」との矛盾 2過去の発言との矛盾 3他者に適用しているルールを自分には適用しないというカントの格率を破るような公正さに関する矛盾 の三つ。」彼らが自らの宣言を遵守するのであれば,「現代アート」タグ騒動については擁護するべきであったし,少なくとも自らの肖像権が侵害されても声を上げるべきではなかった。また,覚悟がないのであれば宣言は撤回,もしくは改定すべきであった。そして仮に宣言がなかろうとも,こうした現象そのものが(私にとっては不本意ながら)現代アート的と評されることは,少しでも現代芸術に親しみのある人ならすぐ気づくことで,結局彼ら自身が矛盾しているという結論しか導けない。

さて,このように見ていくと実のところ「現代アート」タグ騒動については,総じて問題となっているのがpixiv運営の体質であって,芸術性や著作権が論点となっているわけではない。ことpixiv問題に限って言えば「同人の二次創作も同じ穴の狢」論も「梅ラボ氏の作品には芸術性が認められる」論も,全く論点に関係がないし,そもそもカオスラウンジの対応については上述の矛盾点があるということしか突けない。擁護にせよ批判にせよ,pixivに問題が拡大してから芸術や著作権に一家言ある人が急にコメントしたがる傾向があるが,周回遅れの議論をしないために,キメこな問題までさかのぼって調べてから発言したほうが良い(せめて上記のリンクは全て目を通していただきたい)。

最後に,東方を利用したコラージュ的現代アート=許諾のない三次創作については,神主が東方のガイドラインに抵触していることを明言したために「ユルサレヌ」になったことを付記しておく。


3.今後どうなるか

冷静に考えると,これだけ騒動が拡大した割には,いろいろと元の鞘に戻るのではないかと思っている。

カオスラウンジについては,今回面目は丸つぶれとなったが,応援している人がそれなりにいる限り活動は続くだろう。まあ,今後むやみにネット素材を利用しないはずである。どうせ現在すでに宣言通りに活動できていないのだし,したとすれば相当に頭が悪い。キメこなが素材に使われた作品そのものは東浩紀が本当に「門外不出」とする限り,強制的に手打ちになってしまった感があり,これ以上追及しようがなく,またこれ以上の追及は現実的に考えると,よりふたばを表に出すだけであって逆効果でさえあるだろう。逃げ切られたという見方も可能である。まあ偽札騒動あたりが再爆発したらそれはそれで。

もう一方のpixivだが,おそらくはつぶれないであろう。「運営陣にはイラストに対する愛がない」と評されているが,実際のところ運営陣に業界愛が無いからこそ長続きしている企業というのは,世の中に存在している。むしろ怜悧冷徹に顧客の欲しがるものを提供し,また金に目がくらんでいたからこそ積極的な営業活動ができたからであろう。これらの点で頭抜けていたからこそ,pixivはやはりイラスト系SNSで今の覇権があるのではないか。騒動がもう一段進んで広告離れや様々な提携関係の解除,たとえば例大祭への出展停止などが生じた場合は,その限りではない。現代アートタグはそのうち沈静化するのではないか。沈静化しなかったらおもしろいので,それは歓迎したいが。


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 なんだかひと段落したとも言えるカオスラウンジ関連の諸問題。ふたばやらtwitterやら途中からはpixivでも火の手が上がって、最終的に眺めてみれば「あれ、どこで火事があったんだっけ」程度の"ぼや"しかなかったようにも思えるけど、ネット上の揉め事なんてどれもそんなも
pixiv-カオスラウンジ騒動と同じ類の炎上がニコニコ動画でも起きるかもしれない微粒子レベルの可能性【ただそのために】at 2011年08月22日 23:11
nix in desertis:カオスラウンジ周辺諸問題について
nix in desertis:カオスラウンジ周辺諸問題について【】at 2012年02月22日 15:06