2011年11月09日

仏蘭西少女 レビュー

本作を最も特徴付けているのは,その長大さと難易度である。8月の頭に開始して最初は1日1時間弱ずつちまちま進めていたが,20時間以上経過してまだ終わらないことに焦りを抱き,夏コミ明けてからは倍速でプレイして,何とか仕事が忙しくなる9月の上旬には終わらせた,という感じ。少なくとも60時間以上はかかっているし,80時間に到達しているかもしれない。『Fate/stay night』でも『CLANNAD』でも『マブラヴオルタネイティヴ』でもこれほどかかってないはずなので,おそらく人生最長のエロゲと言える。そのあとは,『クドわふたー』のレビューとともに2ヶ月ほど放置された。

難易度のほうはもっとずば抜けていて,実はそれだけやってもエンディングがやっと埋まり,シーンとCGについてはとうとう諦めた。今まで途中でギブアップしたエロゲがほとんどなく,手をつけたエロゲは可能なかぎりコンプしてきた私だが,エンディングが埋まった所で満足し,CGとシーン回想は断念させられたのは本作が初めてである。なんとかCGはあと5枚まで来たが(総数165枚),シーン回想は22も空いている(総数114)。そもそもエンディング数が48もあり,ボリュームだけは誰か点数をつけても満点以外はつくまい。エンディングに関しては,公式配布されているパッチver1.20を適用すると,それぞれにヒントや正解のルート(選択肢一覧)が表示されるため,最悪これに沿っていけば全部見れる(というよりもバグが多いため,このver1.20を当てないとゲーム自体が成立しない)。しかし,このヒントも案外と当てにならず,表示されるルートも必ずしも最も効率的な手順が示されているわけではないため,公式ヒントに乗っていくとさらに時間を食うというジレンマがある。

これほど難易度を高くしている理由は明白で,選択肢が無数に用意されており,それでいて不要選択肢がほとんど存在しないという点だ。選択肢の文自体はわかりやすく,どの選択肢を選べば誰の好感度がどう変動するかは明白なので,その点に困難はない。しかし,そのパラメータの変動が細かく,しかもキャラ別好感度以外の隠しパラメータが存在し,それらのパラメータの状況で判定される分岐点がいくつもあるため,ルートの選定が異常な困難さとなっている。歴戦のエロゲーマーほど驚くと思われるが,他の多くのエロゲと異なってささいな選択肢1つ変えただけですぐに未読の文章に突入するし,場合によってはパラメータが微細に違うだけで別のエンディングが表示される。無論,プレイヤーからはパラメータが見えないし,どこの選択肢がフラグになってそのエンディングになったのか,あまり判然としないので,最終的には気の遠くなるような虱潰し戦法しかない。公式がヒントを出してくれなかったらぞっとする難易度である。それでもエンディングに関しては公式のヒントと,かなり充実した攻略サイトがあるため,なんとかコンプリートできる。単純な選択肢のみで分岐するノベル形式のエロゲとしては,『MinDeaDBlooD』や『Extravaganza』を超えた究極の難易度と言え,エロゲ史上最高難易度と言えるかもしれない。あんなわかりにくい公式ヒントを出すくらいなら,『MinDeaDBlooD』のように重要パラメータを視認できるようにするか,『アカイイト』方式にフローチャートをつけてくれたほうがよほど楽であった。


で,この長大さと難易度が大きく足を引っ張っている,むしろ癌と言えるのが本作である。絵も音楽も良く,シナリオもテキストも一癖も二癖もあって,多くの人には受け入れられなくとも一部の人には確実に受ける作風であるのにもかかわらず,長さと難易度がすべてをぶち壊している。長い原因はシナリオにもテキストにもある。まずテキストの方は明らかな装飾過多で,作品のコンセプト・雰囲気からすると仕方のない部分もあるのだが,それにしても無駄が多い。わずかに文言が違うだけで未読扱いになるため度々スキップが止まり,いちいち覚えてもいないのでどこが変わったのか全くわからないからさらにイライラさせられる。表題の通りフランスを「仏蘭西」にするなど,大正時代の雰囲気を出すため漢字・漢語表現が多く,読みづらいとまでは言わないものの読む速度には影響を与えているだろう。もういいから……いいから先のシナリオを読ませてくれ,と何度も思ったものである。

シナリオのほうは,そんなにエンディング数が必要だったのかということを問いたい。『Extravaganza』や『アカイイト』もエンディング数が無数にあるゲームとして挙げられるが,この両作品は『Fate/stay night』のごとく単純な即死エンドが多く,そうでないものはかなり作りこまれていた。『仏蘭西少女』の場合,分岐してからエンディングまでが長く,かつ内容が似通っているため達成感が薄く,エンディングに到達したことで公開される真相に近づくための情報量も少ない。完全に埋めるための作業であり,その作業が煩雑だから不満がたまるわけである。すっきりとまとめれば半分の25,がんばれば20くらいで済みそうな気がする。同様に選択肢もあんなにいらない。同じ高難易度でも少ない選択肢で明確に分岐させた『Extravaganza』を見習って欲しい。

ここで,「だったら途中でコンプを諦めればよかったじゃないか」という反論が聞こえてきそうだが,これについてはマルセルさんが本作の構造に引っ掛けて超長文で論証しているので,めんどうでなければそちらをお読みいただきたい。一言で言えば「なんだかんだ言って20くらいは真っ当なエンディングがあるので,物語の全貌把握のためには結局コンプするしかないし,コンプしないと批判もしづらい」ということになる。

その割に,必要なところにあるべき選択肢がない。主人公の矢木澤政重は巷で「鳴海孝之や伊藤誠,ロメオさんに並ぶ逸材」と称されているそうだ。彼の場合は単純なダメ主人公というよりは清く正しい太宰治のご先祖様であり,ダメであること自体は批判できるものではない。しかし,より正確に言えば彼は少女の購入により完全な堕落が始まるため,それ以前の段階で錯乱しているのはおかしいはずである。たとえば,最初に「遺産を受け取らない」選択肢や,少女に関する契約書にサインするときに「値段を聞いた上でサインしない」選択肢でも作っておけば相当主人公及び物語に対する評価は違ったはずである。まあ,そうしたプレイヤーのガス抜きをあえて用意しなかったのは制作側の判断なんだろうけど,賛同できない。これらの選択肢がないせいで,主人公を真人間に更生させようとして選択肢を選んでいくと,結局ろくでもないエンディングにしか到達しないからである。「空中文明」や「夏旅」など,必要ないエンディングの最たるものだ。(ついでに言えば,香純玩具ルートはルートごと要らないと思う。)


と,ぼっこぼこに叩いてしまったが,悲しいことに素材と設定は間違いなく良いのである。「人として最低であることを自覚しつつ,さらに堕落していく過程」の描写は抜群で,そのために設置された舞台も完璧であった。そこにファム・ファタル要素やサスペンス・ミステリー要素も盛り込んで,それほど破綻なく一つの作品にまとめ上げた点はすばらしいと思う。本来であれば,このコンセプトに加えてTonyの原画,丸谷のテキストの組み合わせで,完全勝利が約束されていたはずの作品であった。繰り返して言うが,それを完全にぶち壊したのは,長大さと難易度である。どれだけすばらしい文でも絵でも,繰り返し見せられれば飽きるし,時間あたりの価値は減じていく。どうしてこうなった……というプレイヤーの嘆息が聞こえてくる作品であった。70点以上はあげたくない。

最後に,本作は抜きゲーとして見ることができるか,という点について。バリエーション豊富で絵もテキストも良いので使えるとは思うけど,回収のために60時間超を投資できますか?という一点において,ノーである。


(追記)以下,ネタバレ。

追記:twitterとコメント欄の議論を踏まえて少しだけ。

本論で本作の中核的な用語である「純粋」「純白」をあえて書き落としていたのは,それほど深い意味があるわけではない。単純にそこを掘り下げて行ってもあまりおもしろくなさそうだったからである。しかし,これだけ議論の対象になるのであれば,やはり少しは書いておかねばなるまい。

本作のメインヒロインである「純白少女」ことオルタンシアは,本当に純白だったのであろうか。そもそも「純白」という概念は存在するのだろうか。言ってしまえば,そんなものはない,のである。白色というのは二重の意味がある。「無色透明」という意味と,一つの色としての「白」である。そんなものはない,のは前者の白色だ。つまるところ,オルタンシアは生まれた当初から,「純粋無垢」などではなく,何かしらの一色に染まっていたのではないだろうか。そう,執事色に。

オルタンシアは「純粋無垢」というレッテルを貼られて出荷された商品だ。一部エンドを除けば,彼女は最後まで商品でしかない。一見して男が考える理想的な「純粋無垢」に見えるのも教育の結果である。この点は作中で舞子が明言している。少女自身は全くそんなことを考えていないにせよ,少女や執事の製作者は,彼女らのことを大金を搾り取るための装置としか考えていない。一度「純白娼女」にされかけた舞子は,だからこそ政重とオルタンシアの物語を傍観したくなった。そして,オルタンシアの記憶が消えなかったのを見ると巨額の資金を費やして彼らを養ったのは,彼女の心情を慮るに理解できる行動である。オルタンシアルートのいくつかのエンディングは,「愛は勝つ」という至極単純なものだ。ただし,舞子の振る舞い・動機については,彼女のルートに入らなければ理解出来ないという(ノベルゲーの特性とも言える)複合的な構造となっている。

これに反転するのが香純玩具ルートで,執事色に染まり続けた結果があれである。あれを無垢ゆえの残酷と言い切ってしまうのは,私はいささか首肯しかねる。無垢ゆえの残酷とはむしろ彼女の蝶や金魚に対する振る舞いであり,金魚の一件がトゥルーエンドへの重要なトリガーになっているように,あそこで政重が少女に生命やアイデンティティという概念を教えるからこそ,彼女は商品から脱却し「人間」になることができた。執事が金魚を飼うこと等,地下室に「(生命的な)穢れ」を持ち込むのを嫌ったのは,おそらく執事はそのように教育されてきたからなのだろうが,さすれば製作者の側も商品の欠陥はある程度把握していたのだろう。

ありもしない「純粋無垢」に踊らされ,妄執し,数多の人間の人生を狂わせた治道の芸術的才能の無さは,こうしても証明されてしまうのである。

この記事へのトラックバックURL

http://trackback.blogsys.jp/livedoor/dg_law/52028865
この記事へのコメント
 私は『仏蘭西少女』がお気に入りの人間なので、面白く拝見しました。

 発売日に買ったのですが、まだフルコンプリートしておりません。エンディングも20見ていないと思います。拝見して判ったのは『そうか、フルコンプリートしようと思ってなかったのが良かったのか……』です。

 私は今でも気が向いた時(月に一度、やるゲームがない時)にプレイしています。気分によって選択肢を選んで、なんのエンディングも狙わずにプレイします。『おー。新しいエンディングだ』『あー、またこのエンディングだ』今回の政重君はこういう結末になっちゃったか、しょうがないなぁ。みたいな感じでプレイしております。

 一度は、あのヒントに基づいてプレイしたのですが、なんだか仕事みたいになってきたうえに、結末が判っていると面白くなかったのでやめました。

 全く参考にもならないし、少数派らしいですけど『どうしてこうなった……』と全く嘆いたことがないユーザーもいると言うことで。
Posted by たまたま知ってた at 2011年11月09日 03:59
昨日のうちにコメント返しする予定が,思いっきり寝落ちしてました。すいません。

さて,本作の楽しみ方としてはそれが正しかったように思います。
上記で挙げたマルセルさんはじめ,批評空間でも高得点の人はけっこう「コンプリートする気でプレイしてない」ようです。

>なんだか仕事みたいになってきたうえに
いわゆる作業ゲーの状態ですね。こうなるともうどうにも。
世の中には作業自体が楽しいゲームもありまして,RPGやSLGといったジャンルであればそういった類のゲームも多いんですが,ノベルで作業はどうしようもないんだなというのが今回の私的な収穫と言えるかもしれません。

ぶっちゃけて言えば,『仏蘭西少女』の真相ってものすごくくだらないんですよ。それを演出で盛ってるだけで。だからこそ,真相を追いすぎないほうが良かったのかもしれません。
Posted by DG-Law at 2011年11月10日 09:21
 丁寧なコメントありがとうございました。

 真相は確かにまぁありがちですね。○○は知識の実を食べたら無垢でなくなって女になりましたってだけですから(の部分ですか? 色々な要素がぶちこまれてるんで、このことを真相と仰っているのかイマイチ確信が持てないのですが)。古今東西のフィクションでよくある話なんですよね。別に新味があるわけじゃない。

 だけど、多分ですけど、ライターにとってそんなのはどうでもいいことだったんでしょう。そうじゃなきゃこんなに沢山エンディング作らないでしょう。もしかしたら全部舞台装置で主張なんかないのかもしれませんね。

 そういえば同じシナリオライターの『女郎蜘蛛』もやたらエンディングのある話でした。あれも全クリアしてないな、と今、思い出しました。いい機会なんでまたプレイしてみます。
Posted by たまたま知っていた at 2011年11月10日 23:03
真相は,特に少女の出自についてですね。ゲーム開始時点では「生物か非生物か」レベルでわからないですから。

実は本論であえて書き落としていたのですが(twitterのほうではおもいっきりつぶやいてたんですが),本作の中核を占める要素って「純白」「純粋」の概念だと思うんですよ。「純粋とはいかにあるべきか」というのは扱うのがすごく難しい命題ですが,私的にはそれだけに期待感はありました。
で,本作の出した結論は,いくつかのルートで舞子さんが語った通りです。
これには少女の出自も大きくかかわっています。彼女が実は◯◯であったという事実そのものが,本作の「純粋」を定義しているとも言えるでしょう。

ただし,誤解しないでほしいのですが,本作の出した「純粋」という概念の定義がありきたりなものだったから,評価が低いわけではありません。
本論でも述べている通り,この概念を打ち出し,かつ主人公の堕落と絡みあわせて描写するコンセプト自体は非常に良かったと思います。
あくまで欠点は,フルコンプを阻んだ難易度と長さですね。プレイヤーに真相を追わせても楽しいコンセプトを作っておきながら,実際のゲーム設計ではそうしなかったのが,悔しい。

一応,そこらへんをつぶやいた日のtwilogも貼っておきます。このコメント欄を読んだ他の方も気になっていると思いますし。
http://twilog.org/nix_in_desertis/date-111108
19時半から20時あたりまでですね。
気が向いたら,本論のほうにも追記しておこうかと思いますが,ひとまず。
Posted by DG-Law at 2011年11月11日 00:59
香純は糞だったな
ストーカー基地外で思い込みで人を殺す
Posted by あ at 2012年09月17日 00:33