2015年12月26日

最近読んだもの・買ったもの(『乙女戦争』他)

『乙女戦争』1巻。フス戦争が舞台の歴史漫画である。主人公はフス派の少女(シャールカ)で,しょっぱなから家族はおろか自分以外の村人全員が異端狩りで殺害され,自分も強姦されるという不幸すぎる始まり方をする。村から脱出して道を歩いていたところで,ヤン・ジシュカとその傭兵団に出会い,フス戦争の開戦とともに少女の物語も動き出していく。1巻はその出会いから,ヴィトコフ丘の戦い前まで。残念ながら,物語開始時点で第一次窓外放擲事件は終わっているので,本作での描写は無い。
→ フス戦争なので主要な対立軸の一つは信仰の問題になるが,必ずしもカトリック側が悪,フス派(ターボル派)が善としては描かれていない。ヤン・ジシュカからしてちっとも信仰を持っていないのだが,その彼がなぜにターボル派の事実上の頭領に成り上がったのか。大方の予想が着くように狂信的な信仰心の“悪用”にあるのだが,その辺は2巻以降で描写されている。また,もう一つの対立軸はカトリック側の重装騎馬突撃と,ヤン・ジシュカの革新的な戦術になる。これは1巻から大きく取り上げられており,騎士たちがバタバタと倒れていくのはなかなかに爽快。ただ,正直ピーシュチャラ(原始的な銃)強すぎるだろうという気はする。18世紀のマスケット銃くらいの威力と精度がありそう。
→ 本作を成り立たせている着想はまさにこの2つの対立軸の融合で,「狂信的な人々がピーシュチュラで武装すれば,それが少女たちであっても対抗しうる」とヤン・ジシュカが発想したのではないか,という仮定を土台に置いて,少女たちが戦場に立つ不自然さを解消し,非力な彼女たちが騎士たちを打ち倒していくカタルシスを与えている。
→ また,本作の売りの一つは残酷描写で,作者自身が「「シャールカちゃんがどんなひどい目にあうか楽しみです」と言ってくださる読者の方は結構いるので、頑張って期待に応えさせて頂きたいと思っています。」と言っているという。ただし,残酷で不幸な出来事の連続で登場人物たちがバンバン死んでいく漫画ではあるが,作劇としてのグロさは大したことない。むしろ作者が本気を出せばもっとグロくなるのではないか,というレベルではあるので,苦手な人は避けるべきだが,そう心配することもないとは書いておきたい。
→ タイトルの『乙女戦争』は突飛に見えるが,実はチェコに伝わる民間伝承のタイトルだそうで,ヴラスタとシャールカの名前もそこからとっているそうだ。意外と由緒正しかった。
(参考)・『乙女戦争』大西巷一×『ホークウッド』トミイ大塚 夢の対談:気分はもう中世暗黒時代 中世どっきり残酷対談だヒャッハー(ITmedia eBook USER)
→ 歴史考証は相当にがんばっていると思うが,根本的にはピーシュチャラで武装した少女たちという描写が大嘘である。もっとも,その歴史改変を否定すると本作の土台が崩れてしまうので,そこを指摘するのは野暮の極みだろう。そして土台で大嘘をついているからこそ,それ以外は必死に考証しているのかもしれない。漫画の外での解説も丁寧だ。
→ 全体を見通すと,主人公のシャールカとその周囲の少女たち,ヤン・ジシュカ,フス派の僧侶たちに,チェコ人貴族たち,カトリック側の皇帝ジギスムントとその配下の騎士たち,それぞれの信仰心や思惑,戦争での目的などが微妙にすれ違っていて,各々が自分の都合の良い展開を引き寄せようとする中で物語が展開していく。視点も割と頻繁に切り替わるので,群像劇的と言えるかも。





・『アド・アストラ』8巻。第二次ノラの戦いと,シラクサ攻防戦の開始,アルキメデスの登場。
→ 第二次ノラの戦いは作者本人によるあとがきでの申告通り,かなり創作が入っている。確かに特に特徴がなく,創作しやすい戦いではある。そして前巻の感想で予測した通り,マハルバルの敗死とガイウスの出世が描かれていた。予想が当たって素直に嬉しいところ。
→ アルキメデスの出題した確率の問題はモンティ・ホール問題と呼ばれるもので,たまに見かけるものではあるが,こんなところで見かけるとは思わなかった。
→ 次回はシラクサ落城と第三次ノラの戦い,あとはイベリア半島情勢とマシニッサの登場くらいまでだろうか。歴史物としては比較的進行が早く安心して読んでいられる作品。


・『やがて君になる』1巻。巷で噂の百合漫画の1巻であるが,個人的にはまだ評価する段階ではなく,2巻での展開を待ちたいところ。物語のテーマとしては「恋」という感情自体にあって,主人公は「恋」を経験したことがなく,理解できていない。そこで付き合いだした先輩との間であれこれあるというのが今後の物語と思われるが,その物語の転がり方次第で化けもするし,凡百の話にもなるだろう,といったところ。作者があとがきで「あまり恋愛らしい百合は描いてこなかった」と書いているので,作者にとってもこれは冒険か。
→ 絵はすっきりしていて繊細であり,読みやすく,こういう話向きであると思う。


・『僕はお姫様になれない』2巻。勘違いの連鎖(によるギャグ)で進んできた物語は,勘違いが正されていくことで新たな展開を見せた。これほどの急展開はこの作者としては珍しい事で,もう少し先の巻で勘違いの連鎖が正されていくものだと思っていたから,かなり驚いた。もっとも,最大の勘違いであるところの新堂さんが白馬くんに男だと思われていることは,全く正されていない。これが正されないように物語は転がっていき,まだまだ続くのであろう。

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