2017年04月20日

おならの力は偉大

『不眠の女(病草紙)』サントリー美術館の絵巻物展に行ってきた。展覧会の正式タイトルは「絵巻マニア列伝」で,後白河法皇(後白河院)・源実朝・花園天皇(花園院)・伏見宮貞成親王(後崇光院)・後花園天皇(後花園院)・三条西実隆・足利将軍家・松平定信という所有者別に展示が分けられていたが,これはぶっちゃけて言うとあまり見やすい分け方ではなかった。そのせいで展示物の制作年代がいったりきたりするし,テーマごとに分けられているわけでもないし,ひどいと同じ作品の別場面がかなり離れた位置に展示されるということにもなっていた。確かに所有者の日記や書籍,目録などを展示したかった意図はあるだろうし,これはこれでおもしろかった。しかし,こうなってしまうならそういったものは「歴代所有者の著作物・目録」という章を独立して作ってしまって,そこでまとめて見せてくれたほうが,絵巻物の展示は寸断されなかったし,所有者の著作物や目録も時代の変遷を簡単に辿れてよかったのではないかと思う。

その所有者の著作物・目録であるが,繰り返すがこれはこれでおもしろかった。たとえば絵巻物とは直接関係ないが後白河院の『梁塵秘抄』や同時期の文献として『玉葉』があり,花園天皇なら『花園院宸記(花園天皇宸記)』,三条西実隆なら『実隆公記』といった様子で,これだけそろっていてなぜか松平定信の『宇下人言』はなかった。定信,絵巻物趣味のことはあまり日記に書かなかったのか,それとも単純に借りられる当てがなかったのか。天皇家の皆さんが「◯◯が手に入ったヤッター」とか「◯◯をようやく読めた,泣いた」とか書いていて,オタク的に共感しかない。

絵巻物の方は大体見たことがあるものばかりであったが,もう一度見たいものが多かったので,まずまず満足である。主な展示品は『法然上人絵伝』『九相図巻』『酒伝童子絵巻』『蒙古襲来絵詞』や各種寺社の『縁起絵巻』など。『前九年合戦絵巻』と『後三年合戦絵巻』は両方あったので,同行者(理系)に「信じられるか……前九年の役は12年戦ってるんだぜ……」という高校日本史あるあるネタを披露したところ,「詐欺じゃねーか」と真顔で返された。ごもっともである。

ミーハーな言い方になるが,やはり『病草紙』はおもしろい。「不眠の女」に「居眠りの男」に「侏儒(政治的に正しい説明が思いつかなかったので低身長症と書いておく)」など。「不眠の女」(今回の画像)は2012年のサントリー美術館新収蔵品で,そういえばお披露目の場面が無かった気がする。いい加減これを表に出したくてこの展覧会が開かれたのかもしれない。女性の,周囲は全員眠っているのに一人寝られない孤独感が出ていてとても良い。「居眠りの男」はおそらくナルコレプシーのことだと思われるが,描かれている場面を見ると「この人,単純に仕事がつまらないか会議がつまらないだけでは」感も若干あり,その辺の想像を働かせるのも良いだろう。

もう一度見たかったものと言えば『福富草紙』と『放屁合戦絵巻』(サントリー美術館所蔵の物)で,日本が産んだ“二大おなら文化財”の圧倒的迫力の前にはひれ伏すしか無い。今回の画像はこれにしようかとも思ったけど,あまりにあまりな絵面なので,気になる人は「放屁合戦絵巻 サントリー美術館」あたりでググってください。何がすごいってこれを後崇光院や後花園院が持ってたということで,天皇も『放屁合戦絵巻』を眺めて笑っていたかと思うと日本は中世から始まってたんだなという思いを強くせざるをえない。眺めていると無駄に勇気と希望が湧くので,何かに行き詰まっている人はぜひともここに来て「天皇だってこれを見たい気分の時があったんだな」という感慨を私と共有していただきたい。『福富草紙』は現在でも重要文化財指定であるが,おそらく日本美術史上最も下品な重要文化財では。


なお,これと前後して東博の「茶の湯」展にも行っているが,「めちゃくちゃ豪華だった」以外の感想が特に無いので,ここにそれを書いて終わらせておく。馬蝗絆,稲葉天目,油滴天目(東洋陶磁器美術館)の他に,初花肩衝・『山上宗二記』・流れ圜悟・伊賀花入 銘「生爪」・伊賀水差 銘「破れ袋」(五島美術館)とそろっていて,燕庵の再現セットもあり,『へうげもの』のステマかな? と思えるくらい『へうげもの』登場作品ばかりだった。その意味では荒木高麗と大井戸茶碗 銘「十文字」の2品が足りなかった(あれだけ豪華だったのに文句をつける厄介客)。


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