2018年04月21日

世界史上の諸君主の出題頻度グレーディング:古代ローマ皇帝編

本ブログの歴史系記事の目的は,専門家・市井の歴史ファン・高校世界史(受験世界史)の距離の接近にある。もちろん私は専門家の歴史家ではないので専門知識の普及については他の方にお任せしているが,高校世界史は専門家や歴史ファンにとってもそうかけ離れたものではないということについては,ある程度貢献できているのではないかと思う。

そういう活動をしていて,Twitter等でたまに聞かれる・驚かれることナンバー1が,これだ。
「◯◯朝の◯◯って高校世界史だと教えないの!?」
そう,皆,歴史ファンや専門家にとっては高名な人物や事項が高校世界史だと途端にマイナーになるという現象に驚きを隠せないのだ。特に君主。そこで,私の独断ながら,その乖離を整理し,理由を可能な範囲で付していけば面白いのではないか,と前々から思っていた。思いついてからなかなか腰が上がらなかったのだが,試しに一番需要がありそうなローマ皇帝でやってみようと思う。A〜Eの6段階評価。

A:基礎知識。センター試験世界史B以上の入試を受けるなら知ってないとダメ。
B:国立二次・MARCH以上の私大を受けるなら必要。
B-:教科書に載っていて用語集頻度もそれなりに高いが,便宜上掲載されているという色彩が強く,実際には入試にはほとんど出ない。ネルウァが好例。
C:高校世界史範囲内・外のグレーゾーン。旧課程では範囲内だったものや,資料集には載っているもの等。早慶上智対策としてなら覚える。
D:高校世界史範囲外だが,早慶上智でなら見たことがある。満点が欲しいなら覚えてもいい(が当然推奨しない)。
E:完全な高校世界史範囲外で,早慶上智ですら10年に1回未満のレベルでしか見たことがない。

視認性を高めるために,グレーディングのアルファベットに沿って☆を付した。Aなら6個,Eなら1個である。ズレがあったら☆の数の方が間違いなのでアルファベットの方を信じてほしい。意外と思われそうな人は赤で表示した。また,感覚には個人差があるので☆半分くらいは異論があると思われる。特に綿密にデータを収集してデジタルな判断をしたわけではないので,DとEの差については多く異論がありそうだが,そこはご寛恕いただきたい。そして,本ブログ初のHTML投稿になるので,表示が崩れていたら申し訳ないがこちらの不手際である(livedoorBlogは通常のエディタだと表が掲載できない)。以下,本編。


《ユリウス=クラウディウス朝》
君主名グレーディング
ユリウス=カエサル A☆☆☆☆☆☆
オクタウィアヌス A☆☆☆☆☆☆
ティベリウスE
カリグラE
クラウディウスE
ネロA☆☆☆☆☆☆
非常に両極端なユリウス=クラウディウス朝。そして古代ローマファンとのギャップも非常に大きそう。ティベリウスは探せば出てそうではあるのでDでよかったかもしれない。こういう守成の二代目は「世界史」という単位だと評価されにくい。カリグラはキャラこそ濃いが,確かに業績は無い。“歴史家皇帝”クラウディウスは個人的には嫌いじゃないが,まあEで妥当だろう。ネロはキリスト教の迫害で高校世界史には登場する。ただし,最近あまり見かけないのでBでも良かったかもしれない。

《4皇帝の年+フラウィウス朝》
君主名グレーディング
ガルバ以下3人E
ウェスパシアヌス  D☆☆
ティトゥスD☆☆
ドミティアヌスE
はっきり言って全員出ない。ウェスパシアヌスはユダヤ戦争で,ティトゥスはウェスウィウス火山で見たことがあるかなという程度。おそらく異論もあまり出ないだろう。


《ネルウァ=アントニヌス朝》
君主名グレーディング
ネルウァB-☆☆☆☆
トラヤヌスA☆☆☆☆☆☆
ハドリアヌスB-☆☆☆☆
アントニヌス=ピウスB-☆☆☆☆
マルクス=アウレリウスA☆☆☆☆☆☆
コンモドゥスE
B-の宝庫。「五賢帝」が用語集頻度Г覆里原因である。ネルウァとアントニヌス=ピウスは本当にB-の典型。用語集頻度はイ世,入試で実際に問われる頻度はCも超えてDになるくらい。トラヤヌスは「ローマ帝国の最大領土」の1点で出る。ハドリアヌスは多分ローマファンとのギャップが一番激しい人。意外にもB-にするかCにするか悩むくらいで,ネルウァよりはマシというレベル。問うならハドリアヌス城壁くらいしかない。一方,マルクス=アウレリウスは『自省録』に「大秦王安敦」と入試で引っ張りだこ。ところで,「大秦王安敦」はほぼ確実にローマ皇帝の正式な使者ではなく,インド人かクメール人あたりの騙りとされていて,どの教科書を見てもそういう書き方になっているはずだが,なぜか正式な使者として教えている事例をたまに見かけて頭痛がしている。なお,ルキウス=ウェルスは省略したが,当然E。


《5皇帝の年+セウェルス朝》
君主名グレーディング
ペルティナクス以下4人E
セプティミウス=セウェルスC☆☆☆
カラカラA☆☆☆☆☆☆
ゲタE
マクリヌスE
ヘリオガバルスE
アレクサンデル=セウェルス E
ここもカラカラ以外は無名と言っていい。セプティミウス=セウェルスはCかDか微妙なところ。ローマ史上の重要性(軍人皇帝時代の道を開いた)を考えると,今の用語集から1人だけ増やしてもいいと言われたらこの人なのかなとは思う。カラカラは言うまでもなくアントニヌス勅令による。ローマファンは知っての通り,愚策なんですけどねアレ。高校世界史だとあたかも普通選挙でも実施したかのようなすごい高評価で出てくるので,違和感が。


《軍人皇帝時代》
君主名グレーディング
マクシミヌス=トラクス D☆☆
ウァレリアヌスB☆☆☆☆☆
アウレリアヌスE
その他の軍人皇帝E
マクシミヌス(=トラクス)は最初の軍人皇帝として問われることがあり(例:拙著『1巻』2014早慶5番)が,CかDか迷うところ。ウァレリアヌスはAにするかBにするか迷った。センター試験でも満点が欲しかったら覚えておいたほうがいい。にしても,敗戦・捕縛によって入試の頻出になっているというのもかわいそうではある。アウレリアヌスは軍人皇帝の中では有能という評価でローマ史ファンには通じる人物だが,高校世界史で名前が出てくることは皆無。


《ディオクレティアヌス+コンスタンティヌス朝以後+西ローマ皇帝》
君主名グレーディング
ディオクレティアヌスA☆☆☆☆☆☆
その他のテトラルキア期の皇帝 E
コンスタンティヌス(1世)A☆☆☆☆☆☆
ユリアヌスB☆☆☆☆☆
その他のコンスタンティヌス朝の皇帝 E
ウァレンティニアヌス朝の全員E
テオドシウス(1世)A☆☆☆☆☆☆
その他のテオドシウス朝の皇帝E
ロムルス・アウグストゥルスD☆☆
その他の西ローマ皇帝E
ディオクレティアヌスとコンスタンティヌスとテオドシウスについては説明不要だろう。その他のテトラルキア期の皇帝では,リキニウスがミラノ勅令の説明で出てこなくはないが,入試では見たことがない。ユリアヌスは「背教者」でたまに見る。用語集頻度はイ醗娚阿塙發ぁロムルス=アウグストゥルスはマクシミヌス(=トラクス)が問われたのと同じ入試問題で問われていた。その他の皇帝はホノリウスを含めて,出題は私の記憶には無い。


ビザンツ皇帝は折を見て作る予定。その他の王朝については需要と私の時間の空きを見て考えます。リクエストは常時受付中。あと記事タイトルがしっくり来ていないので,良い案があれば。

この記事へのコメント
ビザンツ帝国だと、世界史で扱う皇帝といえばレオーン3世、ユスティニアヌス1世、バシレイオス2世位でしょうか。
あと人名ではないですが、たしかビザンツは王朝名を教科書で一切触れなかった気がします。
パレオロゴス朝あたりは扱っても良いと思うのですが、暗記量を削減する最近の流れからすると難しいですね。
Posted by piatti at 2018年04月22日 10:23
良いところに気が付かれましたね。
ユスティニアヌス1世とレオン3世がA,バシレイオス2世がCです。あとBが一人いるだけかな。
ですので,残りの諸皇帝がほぼ全てEになる中,実はC・Dになる人は誰かというのが割とおもしろいかな,というのが,2番めにビザンツ皇帝をやろうと考えた動機です。
Posted by DG-Law at 2018年04月22日 18:41
これは非常に面白い記事ですね!
「高校世界史だとせやろな」と思うものも多かったですが、「うっそだろおい」ってなるのも意外とありました。

ティベリウスは「二代目は大きく扱われないパターン」として納得してましたが、ハドリアヌスは述べられている通り意外でした。個人的にはネルウァよりは上と思っていたので。世界史として教えるならば五賢帝の一人として十分ということなんでしょうね。

あとはアウレリアヌスがEというのもちょっと意外でしたね。「一先ず軍人皇帝時代にケリをつけた」ということでもうちょっと取り上げられてるかなと思ってました。でも、思い返してみれば軍人皇帝時代は軍人皇帝時代として一まとめにちょっとだけ触れられるだけで内容はスルーされていた気もするのでこんなものかもしれませんね。

ディオクレティアヌス+コンスタンティヌス朝や西ローマに関してはロムルス・アウグストゥスは段々扱われなくなってきている印象ですが、まだDくらいは問われてるんだなぁと思ったりです。
ところでユリウス・ネポスはやっぱり全然でないんですね!西ローマ皇帝最後の帝位資格者としてDくらいあってもいいんじゃないかなって!

東ローマ・ビザンツ編も楽しみにしております!
あと個人的にヘレニズム諸国とかってどのくらい扱われるのかなぁとちょっと興味があったりしますね。あってもプトレマイオス朝でちょっとあるくらいで後は全然ないんだろうなとも思ってますが……。




Posted by ケントゥリオP at 2018年04月22日 20:43
コメントありがとうございます!

>ロムルス・アウグストゥスは段々扱われなくなってきている印象ですが、まだDくらいは問われてるんだなぁと思ったりです。
>ところでユリウス・ネポスはやっぱり全然でないんですね!
これについては,難関私大の世界史ってやたらと「あまり意味があるとは思えない最初と最後を聞く」というのをやりがちなので,こうなったという感じですね。マクシミヌス=トラクスがDなのも同じ事情で。
だからこそユリウス・ネポスはかえって聞かれない,というのが浮かび上がってきます。おそらく,こういう問題の作題者はローマの専門家ではないのではないかと思われます。専門家ならもうちょっと意味のあるところを聞きそうな。


>ヘレニズム諸国
極めて残念なお知らせをすると,A・Bが一人もいないのではないか疑惑が……w
Posted by DG-Law at 2018年04月24日 01:49