2018年11月30日

平成で4人目の小結優勝

仕事で忙しかったが,やっと九州場所の感想に手を付けることができる。優勝争いは読めないというよりか読む気も起きないほど既存の優勝経験者が次々と脱落していく展開であったが,混戦とならず,早々に二人に絞られた。こうなったら大関の意地を見たいところであったが,記録づくめの小結の優勝という結果もそれはそれで面白かった。

貴景勝の優勝について。22歳3ヶ月での優勝は年6場所制以降で史上6位……とNHKで言われていたが,軽く調べてみた感じで上に貴花田・大鵬・北の湖・白鵬・柏戸・朝青龍・若花田がいるので,これで行くと8位になる。何か私の勘違いがあれば指摘してほしい。初土俵から所要26場所は4位タイ(上に貴花田・朝青龍・照ノ富士がいて,曙が同じ26場所)。平成での小結での優勝は貴花田・若花田・魁皇とあわせて4人だけ。同期間の平幕優勝は9人(うち一人は今年の初場所の栃ノ心)で,これは比較が難しいとしても,同期間の関脇優勝は6人(曙・千代大海・武双山・出島・照ノ富士・御嶽海)とおり,序盤に横綱・大関と総当たりする小結での優勝の難しさを感じさせる。小結・関脇での優勝者10人は,御嶽海以外全員,その場所の優勝を含む形で大関に昇進している。御嶽海で法則が破れてしまった形であるが,貴景勝には御嶽海の轍を踏まずにさくっと進んでほしいものだ。

貴景勝はいろいろあって貴乃花部屋から千賀ノ浦部屋に移って最初の場所で,胸中複雑であったことは容易に想像できるが,見事に取りきった。これを発奮材料にできるのはメンタルが強い(案外,単純に心機一転できたのかもしれないが)。相撲ぶりは先場所と変わっていない,というよりは先場所の相撲が目覚ましく良く,今場所躍進する予兆はあったと言える。先場所の自分の評を引用する。「貴景勝は好調上位陣に混ざってこっそり9勝をあげており,実は高評価材料しかない。押し切るか引くかの判断が良く,引いて呼び込んだ負けが少ない。組まされて負けることも少なく,負けるときは概ね相手の引きに落ちるパターンである。前半上位総当たりは当然負けが込んだが,多くの力士がそうであるようにそこで不調にならず,後半で取り戻したメンタルも良い。これで関脇に上がれないのは不運である。」

さて,来場所は当然大関取りになる……はずなのだが,阿武松審判長は「初場所が明確な大関とりではない」という謎コメントであった。横綱が不在であったからというのは一理あるものの,優勝自体にそれを相殺するだけの価値があろう。確かに今年の初場所は小結で負け越し,その後ケガがあって休場という不安定さはあるが,来場所大関取りにならないほどの理由とは思えない。御嶽海が失敗したことについては理由にするだけおかしかろう。来場所11勝で33勝で昇進させなければ,32勝で上がった稀勢の里・豪栄道や,33勝ではあれども1場所目が平幕だった照ノ富士との差を指摘され,余計な勘ぐりを絶対に引き起こすことになる。一方,高安の綱取りは「来場所の成績次第」と言われているが,むしろこちらは可能性が無いだろう。確かに年間成績で言えば12勝が3回,残りも9勝・11勝・全休と安定感は高いが,13勝をしたことが一度もない。この点で13勝ならばコンスタントにあった稀勢の里と異なる。今場所が13勝で優勝同点だったなら起点になったかもしれないが,12勝優勝次点では大きな差がある。仮に初場所全勝優勝であっても昇進は見送るべきだろう。


個別評。稀勢の里は初日でボタンを掛け違えて,そのまま治らず相撲が崩壊していった様子。取れそうで取れないというように見えるので,不本意な休場だろう。不運だとは思うが,こうなった以上は来場所10勝以上できなかったら引退で仕方がないと思う。というよりも来場所以降は毎場所引退がかかった場所が永続すると思う。豪栄道は変化のような立ち合いしやがってと思っていたが,七日目の相撲で右肩負傷でままならなかったそうで,むしろそこから勝ち越しの決まる十一日目までよくごまかして取っていた。であれば褒めもしないが批判もしないかな。高安は変なところで稀勢の里のメンタルを継がなくていいから。それしかない。栃ノ心は膝のケガが慢性化していて,大関取り前の強さしかない。最初から短命大関になるだろうとは思っていたが,あの右四つが見られなくなるのは寂しいので何とか延命してほしいところ。

関脇・小結。御嶽海は失速甚だしく,本格的にツラ相撲で気分屋なのが致命的な弱点になってきた感じがする。貴景勝は前述の通り。逸ノ城と魁聖はノーコメントで。

前頭上位。妙義龍は久々に彼の前傾姿勢でぐいぐい押していく・寄っていく取り口が上位に通用している姿を見た。8勝ではあれ勝ち越しお見事。錦木も8勝ではあるが,取り口は見違えるように良くなった。ここまで印象が薄く(ブログ上で検索したところ最後に言及したのは2016年9月であった),上位総当たり初挑戦で,その上位陣がスカスカとはいえもっと負けが込んでもおかしくなかったところ,突然目覚ましい極め技・小手投げをうちだし,上位に通用してしまった。もろ差しで入ろうとした豪栄道・栃煌山・妙義龍を全て小手投げで投げ捨てている。今場所見ていて一番面白かったのは錦木かもしれない。来場所,これが続けばさらに面白く,今後錦木にもろ差しは危険という評価になるかもしれない。

前頭中盤・下位。松鳳山は10勝で,本人の相撲内容もさることながら,熱戦が多く面白かった。それはそれとして立ち合い不成立も多すぎるので何とかしてほしい。琴奨菊は先場所負け越しで心配だったが,今場所は復調10勝で安心した。大関から陥落後では一番がぶれていた場所だったのでは。碧山は突きの威力が強く11勝。内容も良く,敢闘賞でもよかったと思うのだが,漏れてしまった。一方,阿武咲は敢闘賞。確かに強い突き押し相撲であったが,碧山との差異がわからない。



最後に。里山が引退した。立ち合いの超低空飛行から何が何でも左下手をとり,これを命綱に相手を引きずり倒すかのような下手投げを主力武器として,非常に独特の相撲を取った。出世は非常に早く2007年に新入幕となっているが,2場所だけ務めて十両に下がり,その後は十両・幕下上位での相撲が長かった。2014年に再入幕したが,結局幕内で取ったのは合計6場所のみである。にもかかわらず基本的に幕内しか見ていない私にとっても印象深い理由は2つ。1つは前述の独特な取り口があまりにも目に焼き付いたことと,もう1つは身近に応援している人がいたからである(その方,やはり引退会見当日は気が動転していたそうで)。取り口だけで言えば不世出の力士と言ってよいだろう。お疲れ様でした。

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2018年09月25日

上位総好調の稀有な場所

この九月場所は上位陣が勢揃いだっただけではなく,目立って不調だった人がおらず,それぞれ期するものがあってぶつかり合っていた。結果として熱い取組が多く大変に面白かったのだが,それだけにかえって書くべきことが多い。嬉しい悲鳴である。不祥事で外野がうるさいということもなく,上位陣全員好調で相撲に内容があり,個々にドラマもあったという場所全体の完成度で言えば,ここ5年ほどで一番だったのではないか(ドラマという一点だけなら2015年5月や2017年春があるが)。


まずは優勝した白鵬からいこう。5場所ぶりの優勝であり,以前6場所ぶりの優勝があるのでそれに比べると短いが,逆に言えば5場所空いたのは二度目ということになる。しかも,前回優勝したのは例の日馬富士の事件があった九州場所のことであり,優勝インタビューで「彼をもう一度土俵に立たせる」と大見得を切って,それはならなかった。ご存じの通り,その後も大相撲はいくつかの不祥事があり,その間白鵬は土俵に立っていない期間が長かった。さらに前回の6場所は間の休場が2回(うち全休は1回)であるが,今回の5場所は3回(うち全休は1回)である。特に一つ前の名古屋場所は好調そうに見えた矢先のケガで序盤の休場であった。

それでも白鵬は戻ってきたのである。不屈の闘志で。ちょうどその前回の優勝の際に私は「前半は完璧な相撲ぶりで,全盛期とまでは言わずとも2012-13年頃くらいの強さは見られたと思う。後半はややスタミナ切れの雰囲気もあったが,何とか千秋楽まで持たせた。相変わらず張り差し・かち上げは多いものの」と書いているが,今場所の白鵬もまたその2012-13年頃の強さであり,というよりも2016年以降の直近17場所では最も強かったと思う。しかも,今場所は張り差しこそ多用していたが,あれは問題のないやり方であった。白鵬のラフプレーが最もブーイングを浴びていたのが2016年春場所であったことを思い出したい。3年かかって,幾多の休場も挟んで,よくこれだけ相撲の完成度を戻したものだ。素直に感動してしまった。毎場所こうとはいくまいから,来場所またこの強さかはたまた途中休場かは全く予想がつかないが。

次に,やはり稀勢の里。前半戦の不安定感と言ったらこの上なく,私のTwitterのTL上には毎日心臓が止まりそうな人が大勢いて,むしろそのTLに笑ってしまった。それでも相撲勘が今ひとつな中でも勝ち星が拾えていたのは,足腰の強さが戻ってきたからであり,これは安心材料であった。九日目に栃ノ心に真っ向から立ち向かって勝ったのには本当に安堵させられた。10勝という勝数以上に相撲内容から言って,復帰場所としては奇跡の及第点であろう。無論のことながら,奇跡を起こしたのは幸運ではなく本人の努力である。とはいえ復帰前ほど強いかというと2017年初・春とは比較にならないほど弱く,横審から「来場所は12勝くらいしてほしい」とか言われているので,稀勢の里の復帰物語はまだ終わっていない。

御嶽海の大関取りもまた,来場所へ薄い望みをつなぐ形となった。調子は悪そうになかったのだが,最後の最後で彼に11勝させなかったのはツラ相撲(連敗癖)というのはなんとも難しい。精神的なものと言ってしまえばそうなるが,琴光喜や往時の稀勢の里のようなガラスのハートというわけでもないので評しづらい。基本的に立ち合い強く当たってそのまま押し込むかもろ差し,相手の取り口次第では右四つでも左四つでも取れるという臨機応変スタイルだが,連敗中は強く当たってそのまま押し組む一辺倒で臨機応変さに欠ける。ここが治らないと取りこぼしが減らず,11勝は厳しい。来場所の成否を聞かれたら,私は30%と答える。仮に全勝で中日をターンしても信用しまい。


残りの個別評。残りの横綱・大関陣。鶴竜は終盤の失速が手痛いが,ちょっと他の力士の出来が良すぎた。千秋楽の白鵬との決戦は見応えがあり,あの一番だけで横綱の責任は全うしたと思える。豪栄道は絶好調で,なにせ首投げが一番も無く12勝である。優勝した場所でさえ首投げはあったのに。高安と白鵬のどちらかくらいがもう少し不調なら2回めの優勝がありうるくらいの出来だった。これだけの出来で世間的なスポットがほとんど全く当たらない場所なのだから,不運と言えば不運である。立ち合い強く当たってから後は臨機応変にというスタイルという点で御嶽海の先輩に当たるが,今場所はその対応がすぱっと綺麗にはまっていた。高安も悪くない出来で,立ち合いや投げに力強さがあった。しかし,10日に豪栄道・12日目に鶴竜を止めて結果的に白鵬の優勝をアシストしておきながら,14日目に御嶽海に勝ち越しの白星を与えてフェードアウトし,千秋楽には栃ノ心に会心の相撲を取られるという,なんとも星の回りの悪い場所ではあった。栃ノ心は思っていたよりもカド番脱出に苦労したが,彼も周囲の好調に苦労させられていたように見えた。11日目の鶴竜戦や千秋楽の高安戦を中心に強敵相手でもインパクトの強い相撲で勝ってくれるので,どうしたって印象は良い。

関脇・小結。御嶽海は上述。逸ノ城はまあいつも通りだったが,11日目の稀勢の里戦だけ妙に強かった。よくわからないが,自信があったのだろうか。玉鷲は単純に不調。どうも右足首のケガがおもわしくなさそう。貴景勝は好調上位陣に混ざってこっそり9勝をあげており,実は高評価材料しかない。押し切るか引くかの判断が良く,引いて呼び込んだ負けが少ない。組まされて負けることも少なく,負けるときは概ね相手の引きに落ちるパターンである。前半上位総当たりは当然負けが込んだが,多くの力士がそうであるようにそこで不調にならず,後半で取り戻したメンタルも良い。これで関脇に上がれないのは不運である。張り出しにしてもいい気はするが,慣例から言えば多分ならない。

前頭上位。上位陣全員好調の被害をもろに食らって,星から言えばズタズタの状況。その中でピックアップすると,魁聖の勝ち越しはさすが。豊山は休場が非常にもったいない。ケガがなければ強い相撲がとれたのだろうと思しき後半の白星3つが好材料。朝乃山は負け越したのが意外で,終盤5連敗はどこか傷めたのでなければスタミナが切れたか。どうも後者に思えるのが今後の不安。

前頭中盤。実はこの辺りも絶不調という人が少なく,見事に潰しあった結果,紙一重で勝ち越し負け越しの皆8勝や7勝(前頭6〜11枚目の12人のうち8人が該当),来場所の番付編成が非常に苦しそうな情勢である。その余波とはいえ,琴奨菊はとうとうここで負け越すか。その中で阿武咲は惨敗であったが,まだケガが治りきっていないということか。初場所で休んだときはそれほど重傷には見えなかったのだが,復帰に時間がかかっている。

前頭下位。貴ノ岩は順当な上りエレベーターで,まだまだここで負ける人ではない。さらに竜電を挙げておきたい。だいぶ寄る形が整ってきて,特に左四つは琴奨菊を寄り切ったのが象徴的で強みが増した。差し負けて右四つや立ち合い当たり負けるとそのまま負けることが多いので,確実に左四つに持っていく相撲を完成させたいところ。新入幕隆の勝は8勝でギリギリの勝ち越しだが,そもそも勝ち越せると思っていなかったので,思っていたよりも強かった。それなりに注力して見ていたが,まだよくわからない。石浦が大きく負け越していて残念である。かなり研究されていて,なかなか潜れない。

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2018年07月25日

「雷電以来」というと仰々しい

怒涛の展開で優勝争いが混沌とし,結果的に優勝したのは関脇であった。横綱が全員休場という状態についてはもはやここ1年くらいでは珍しくもなくなってきた。そこで優勝するのが大関ならば順当だが,なかなかそうもならないのはおもしろいところだろう。けが人多数で休場者多数はあったが,残った人たちの相撲は熱く,おもしろいものが多かったと思う。特に御嶽海・朝乃山・豊山は突出してすばらしく,この3人のための場所という様相だった。惜しむらくは私自身が忙しすぎてリアルタイムで見た相撲がほとんどゼロに近いということだ。

優勝した御嶽海は13勝,先場所9勝なので来場所11勝なら合計33勝になるが,ここまでの22勝に横綱戦勝利がないというのは指摘されても仕方のないところであろう。今場所の優勝を加点要素としても,11勝なら中身に横綱戦白星がほしいところであるし,3人休場で不在だとか手負いでどうしようもない状態ならば12勝をボーダーにしたいところ。3横綱4大関で飽和してしまうというのも協会としてはネックであり,状況的に言って思われているほど易しくない大関とりになると思われる。なお,長野県出身力士としては昭和以降で初,江戸時代まで含めても雷電以来とのこと。


個別評。横綱・大関。白鵬は悪くなさそうであったので,出場し続けることができていれば優勝は固かった。もったいない。鶴竜の方は休場して正解という出来。稀勢の里は8場所連続の休場だが,さすがにすぱっと引退したほうがいい状況になってきたように思う。おそらく,足腰が多少の稽古と実戦ではどうしようもないくらいに弱っていると思われる。栃ノ心の休場は残念至極で,しかもケガの状態によっては来場所あっさりカド番脱出できるとも断言できそうにない。非常に心配である。高安は腰の痛みがひどいようで,思うように動けていない。千秋楽,立ち合いの諸手突きを豪栄道にかわされて難なくあしらわれてしまったのが象徴的。その豪栄道は平常営業といったところ。ただ,横綱全休ならお前が優勝せいよと思ってしまう。今場所で平常営業はダメだろう。

三役。御嶽海は特に相撲ぶりが変わったわけではないが,毎場所序盤は良くて終盤は失速するところ,今場所は優勝争いの先頭に立ったことでブーストがかかってスタミナが最後までもったという印象である。先場所の評に「大関取りには地力が一段足りないことがまたしても立証されたというか」と書いている通りで,来場所は本当に正念場になると思われる。好調に乗っかって地力を成長させてほしい。逸ノ城は御嶽海以上に横綱不在の恩恵を受けた力士で,上位戦や合口の悪い相手になると途端に無気力になるの,本当に止めてほしい。現時点では勝ち越しに価値がないと言わざるをえない。玉鷲・松鳳山は特には。

前頭上位。阿炎は先場所よりも対策されて勝てなくなってしまった。もう一皮むけたいところ。威力か機敏さか,いずれかがほしい。一方,貴景勝は完全に復調した。とはいえ今場所は中途半端な上位挑戦になってしまったので,来場所は横綱戦での動きを見たいところ。嘉風は動きがそこまで悪かったわけでもないのに初日から13連敗した。かと思えば同じような相撲ぶりで14日目に勝つと,千秋楽は先日まで13連敗していたとは思えない相撲で連勝した。北の富士も言っていたが,勝ち星を並べることの難しさについて考えさせられるのが,今場所の嘉風であった。

前頭中盤。千代大龍は先場所の評に「MSPを長らく封印しているが,あれなら復活させたほうが良い。立ち合いで崩したなら二の手で引いてみてはどうか。」と書いたら本当にやっていた。本人も同じようなことを考えていたのかもしれない。結果9−6なので良かったのでは。宝富士はこんな地位なら勝ち越しだろうと思っていたのだが,7−8で負け越した。左四つでも万全ではなくなってきたので,衰えているのかもしれない。伊勢ヶ濱部屋の状態が状態なので,精神的なものもあるのかも。

さて,今場所躍進した豊山は,ようやく目立つ存在になってきたのかもしれない。中盤までは同じように勝ち星をあげた朝乃山に比べると印象が薄かったのだが,14日目に一気の出足で高安を破り,千秋楽はまず間違いなく平成30年度全場所のベストバウトになるであろう大熱戦で御嶽海を破り,一気に印象が良くなった。恵まれた身体を持ちながらも幕内のスピードについていけず星が上がっていなかったが,今場所ついに順応した。突き押し相撲だが引きに頼らずとにかく押すタイプで,しかし圧倒的なパワーで押し切るよりは技巧があり,四つになってもかなり対応が効く。これはこれであまり見ないタイプに成長しつつあるのかもしれない。

前頭下位。碧山は上りエレベーターであるはずのところ8勝止まりで,ケガでもしていたか動きが鈍かった。一方,阿武咲と栃煌山と北勝富士は順当な上りエレベーターである。最後に朝乃山。今場所見ていて一番楽しかったのは朝乃山の相撲で,右四つの本格派がやっと開花した。とにかく寄りの形が整っていて安心感があり,これなら大概の相手は持っていけるだろう。ただし,その意味で今場所魁聖に四つ相撲で負けてしまったのは一つの試金石で,まだ上位定着とはいかなさそうである。少なくともエレベーターと呼べる地位にはなりそうなので,経験を積んで成長してほしい。非常に期待して見ている。


さて,書きそびれていた関取引退について言及しておく。まず翔天狼。突き押しでも組んでもとれたが,かえってどちらも中途半端になってしまう傾向はあった。出世が遅く,2009年3月に27歳,所要48場所でやっと入幕した。その年の名古屋場所で,無敵を誇っていた白鵬から金星を獲得し,突如として注目を浴びた。奇しくも白鵬は初土俵同期である。しかし,その後は今ひとつぱっとせず,最高位は前頭2枚目で終わった。2017年に日本国籍を取得したものの,9月に悪性リンパ腫を患っていたことがわかり,復帰に望みをかけていたが,その年の年末にあえなく引退となった。2017年1月には時天空が悪性リンパ腫で亡くなっているので,かなり心配である。一応,2018年5月には親方として職務に復帰した。

次に北太樹。この人も下積み期間が長く,特に幕下で時間がかかり,1998年の角界入りから約10年かかって十両となった。とはいえ今どき珍しい中卒のたたき上げであり,2010年から2015年にかけて約6年間,長く幕内に定着した。速攻相撲が持ち味で,立ち合いからの一気の出足と左差しで一気に持っていく相撲が取り口であった。ただし,左差しが入らないと出足がくじかれる傾向があり,また長引くとはたき以外の技が出てこなくなる悪癖もあり,上位では対策されてしまい,エレベーターの地位から脱することができなかった。最高位は前頭2枚目。左膝の故障が慢性化しており,2016年頃からかばいきれなくなって力を落とし,その後も2年は十両でとったが,2018年5月に引退した。

最後に阿夢露。最初は「あむうる」とは読めず,「アムロ? ガンダムかな?」と思っていた。2002年初土俵,2012年新十両とこの人もまた10年かかった苦労人である。白人
の力士らしくソップ型,細身の身体で,にもかかわらず力の入った相撲を取るためかどうしてもケガに見舞われやすく,2012年大阪・新十両の場所で大ケガをして5場所全休,序二段のほぼ振り出しに戻ったが,丸2年かかって2014年大阪で再十両,そのままの勢いで九州場所で新入幕となった。所要,なんと74場所,この時すでに31歳である。細身の割にはパワーがあったが,技巧があったわけでもなく,不格好な四つながら不思議と寄っていった。幕内の壁は厚く,最高位は前頭5枚目だが,基本的には10枚目前後でとっており,エレベーターにもなれなかった。年齢から来る衰えからか徐々に力を落としていき,2017年3月からは幕下,2018年5月に引退となった。3人ともお疲れ様でした。
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2018年07月22日

Fussball Weltmeisterschaft in Russland

今回のワールドカップは仕事が忙しかったこととドイツが早々に敗退したことで,2006年以降の4回では最も見ていない大会になってしまい,あまり大した感想もないのだが,こういうのは継続なのでなにか書き残しておこう。(一応4年前の気合の入った感想

・日本
事前のわけがわからない監督交代で一気に国内が冷めるという状況からの,天和を引いたかのような「豪運」でコロンビアを下し,見事に国民を振り回してくれた。事前の失態をそれはそれとして切り分けるならば,応援しがいのあるチームではあった。なんだかんだ言っても「個」が強く,走り回ってなんとかしてしまうのは8年前と同じで,こうなると4年前はチームとして弱かったのではなくコンディション等に何かあったのでは,と今更ながらに思わせられた。1戦目は開始後3分のコロンビアのレッドカードが全てで,相手が10人だった割には苦戦させられたとは言うものの,むしろコロンビアの地力や,10人になっても思われているほど有利にならないことを考えるに,きっちり勝利をもぎ取ったことをたたえてもよいのではないかと思う。ワールドカップ史上,初のアジア勢による南米勢に対する勝利だそうで。

セネガル戦を見ても,やっぱり思ってたよりは戦えていて,コロンビア戦の勝利はまぐれではなかったと改めて思わせられた。最後のポーランド戦はまあ,ポーランドの「三試合目だけ本気出す」というジンクスを破れなかったということで。むしろポーランドさんはなんでワールドカップ本戦でこんなにスロースターターなの? 最後の10分のパス回しは個人的には全く気にならなかった,というかあれはあれで面白かった。最後に本戦のベルギー戦もセネガル戦と同じ感想で,途中まではまさかこれ勝っちゃうの? というドキドキをありがとう。さて4年後は世代交代がどうしたって不可避なわけで,それでとんでもなく弱くなるのか,はたまた意外と上手くいくのか,予選から注目していきたい。


<グループリーグ敗退勢>
・ドイツ
まさかの敗退ではあるものの,グループリーグの戦いっぷりを見ていて,これはトーナメントに上がる資格が無いなと思ってしまった。ミュラーもエジルも元気がなく,ボールをゴール前まで持っていくものの,そこからパス回しで崩せないままシュートを打たされるので点が入らない。加えてフォワードのヴェルナーは決定力を欠いていて,4年前からは大きく攻撃力が下がっていた。ディフェンス陣はまだマシでセンターディフェンスがフンメルスとボアテングのうちは機能していたが,交代すると崩れるし,ノイアー頼りにも限界があった。サイドもキミッヒが躍動していたように見えて,ボールを持たされていただけのように見え,ラームがいなくなった穴は大きかったんだなと。まあ,また4年後に期待しましょう。ミュラーは次は32歳,もう1回出れるか。ドイツはグループリーグ敗退が史上初とのこと。ところで,「やっぱりドイツはロシアの大地では勝てない(約76年ぶり)」「イタリアが最初に脱落し,次にドイツが脱落して最後に残ったのは日本」「試合のあった6/28は「青の場合」の作戦発動日」とか,二次大戦ネタが乱舞していたので爆笑していた。


<ベスト16>
・ポルトガル
同じスター選手中心のチームとしては,アルゼンチンのメッシ頼りよりもよほど脱クリロナができていて,むしろクリロナに注目を集めておいて他が決める形ができていたので今回は行けるんじゃないかと思っていたのだが,ウルグアイのドン引きカウンター戦術には勝てなかった。4年前は初戦のドイツ戦でぺぺがレッドカード退場,10人になってボロ負けし,その後遺症でグループリーグ敗退というひどい展開だっただけに,その反動もあって今回のポルトガルの印象は良く,16で消えたのは惜しい。

・アルゼンチン
ポルトガルとは対照的に。4年前はそれでもディ・マリアやマスチェラーノが助けていて,戦術メッシになりすぎないように助けが入っていたように思うが,今回は本当に戦術メッシだった。よくこれでグループリーグ突破できたなという感じだったが,トーナメント初戦はよくフランスに3点入れたもんだ。この試合の得点シーンだけ見ると強そうに見えるんだけども。


<ベスト8>
・ブラジル
4年前に「グループリーグの戦いぶりからして前評判ほど強くないという印象を受け,次第に化けの皮がはがれていった感じ。」と書いているが,今回も全く同じ感想。極めて素人くさい感想を言うと,ここより上に行くオーラは無かった。ただ,ポルトガルと同じで4年前よりはネイマールが封じられても他の人が決めに行くスタイルはできていて,特にコウチーニョは躍動していた印象。

・スウェーデン
ロシアもそうだが,タレント不在の中でドン引きカウンター戦術を上手く使っていた。しかしそのせいか相性の差もくっきりで,ドイツには負けたのにメキシコに勝ち,スイスに勝ってイングランドに負けるという終始不安定な戦いぶりでもあった。そういう意味ではよくベスト8に来れたなという印象もあるが,これは私がドイツを応援していて,ドイツ戦の敗戦の印象が強いからかもしれない。

・ウルグアイ
同じドン引きカウンター戦術でも攻撃にタレントがいたのがウルグアイだったが,だからこそカバーニがいなくなるとやはり機能せんのやなと。最後のフランス戦だけ見違えるように弱かった。結果としてスウェーデンやロシアと同じところで敗退というのはさもありなん。


<ベスト4以上>
・イングランド
ベスト8以上まで来た国々としては,申し訳ないがタイミングも悪く一番試合を見ていない国で,正直特に感想がない。ケインが「得点王の印象が無い」とか言われているのはちとかわいそうだが,確かにどこで点を入れてたっけ? と考え込んでしまう。

・ベルギー
日本に勝ったことだし,どうせなら優勝してほしいと思って見ていたが,あまりにもフランスが強すぎた。攻撃陣の顔ぶれが豪華すぎるが,GKクルトワの鉄壁が勝ち上がることに目立っていった。よく日本はこの人相手に2点入れたよね……前回のノイアーはとにかく前に出ていってシュートの体勢に入る前につぶしてしまうという感じだったが,今回のクルトワは未来予知でもしてるのかという超反応の連続で楽しかった。

・クロアチア
人口約450万人の小国がここまで躍進,とは言われるものの,それで言えばウルグアイも人口約350万人,一人あたりのGDPも約2万ドルで似たようなものであり,そう不思議な結果でもなかろうかなと。決勝以外は全然試合を見ていない上に,決勝は一方的にフランスにやられていたので,あまりコメントがない。

・フランス
グループリーグから最後まで終始とんでもなく強かった。4年前のドイツ並に負ける雰囲気が無く,最後まで戦いきった。最も光っていたのは当然ムバッペ(エムバペ)。とにかく早い上に足元も上手で手がつけられない。当然グリースマンはじめ前線からディフェンスまで他の選手もすばらしく,穴がない。それでも目立ったのはやっぱりムバッペだったのは,ワールドカップとはそういうものだということで。それにしても全体的に若く,ほぼこのメンバーでまた4年後も行けそうなのだが,そうすると今回のドイツみたいなことになりそうな気もして,なかなか今後の舵取りが難しい。優勝国だからこその悩みか。
  
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2018年06月16日

2018ロシア・ワールドカップのグループリーグに見る世界史

本ブログ的に恒例企画なので。この目線だとグループB・F・Gがおもしろいかな。

グループA(ロシア・サウジ・エジプト・ウルグアイ)
エジプトがムハンマド=アリー時代に,サウジの前身の第一次ワッハーブ王国を滅ぼしていて,またロシアはエジプト=トルコ危機では第一次・第二次を通じてオスマン帝国の支援者だったので,エジプトの近代化を妨げた。関係が薄いようで,19世紀の「東方問題」では意外とつながりが見えるグループ。その意味ではウルグアイだけ浮いてる。あとはエジプトとサウジは20世紀後半にアラブの盟主をうかがうライバルだったというのは当然すぎるけど一応。

グループB(スペイン・ポルトガル・モロッコ・イラン)
すでに指摘があるが,4つともウマイヤ朝の旧領というすごいつながりがある。というか,よくよく考えたらこのグループ,イラン以外が地理的に近すぎないですかね……スペインはモロッコの旧宗主国,ポルトガルも1580〜1640年はスペインに占領・支配されていた。その占領の引き金となったのが,当時のポルトガル王セバスティアン1世によるモロッコ遠征で,彼が遠征先で客死(おそらく戦死)してしまう。セバスティアン1世に嫡子がいなかったために国政が混乱,それを見たスペイン王フェリペ2世が強引に同君連合化を提案して,という流れである。というように,地理的に近いだけあって,この3国は非常にいろいろある。モロッコとイランは西サハラを巡って対立があり,つい最近断交した。こんな新聞記事が出ている。
モロッコ、イランと断交 西サハラ独立派巡り (日経新聞)
→ 以前はモロッコはスンナ派の中ではシーア派に対して寛容な国で,イランとも融和的だった数少ない国だったが,これについては正直イランが余分なことしたよね,という感想。

グループC(フランス・デンマーク・オーストラリア・ペルー)
因縁がありそうであまり無いグループ。フランスとデンマークに限ればいろいろあるが,それは書いてもつまらんしな……一応4つとも二次大戦時の連合国とかいう大概当てはまりそうなくくりが無くはない。

グループD(アルゼンチン・アイスランド・クロアチア・ナイジェリア)
ここもそれほどつながりが無いか。ハプスブルク家の旧領は大体サッカーが強いが,アルゼンチンとクロアチアはオーストリア系とスペイン系に分かれた関係で同一の家系に支配されていた期間がかなり短い珍しいパターン。ところで,アイスランドとアルゼンチンの緯度差がすごい。

グループE(スイス・セルビア・ブラジル・コスタリカ)
ヨーロッパ2国とラテンアメリカ2国という偏ったグループだが,スイスとセルビアはどちらもEU非加盟国。ブラジルはメルコスール原加盟国だが,コスタリカは未加盟。世界史じゃなくて地理の話になってしまった。

グループF(ドイツ・メキシコ・スウェーデン・韓国)
フランスのナポレオン3世はメキシコ出兵の失敗を契機に政権が不安定になり,普仏戦争の敗戦で退位。フランスのいるグループCと両国のいずれかが当たるとしても,早くても準決勝になる。同じくドイツ統一戦争から,シュレスヴィヒ=ホルシュタイン危機に際して,スウェーデンがデンマークに肩入れしてスカンディナヴィア連邦を組むという計画があった。良いところまでいったが実現せず。そのデンマークもグループCというのはなかなかの因縁である。あとはドイツとメキシコというとツィンメルマン電報事件か。韓国だけどうにも何にもない。

グループG(イングランド・ベルギー・チュニジア・パナマ)
ベルギー・チュニジア・パナマといずれも地政学上の要点にある。ベルギーは言わずとしれた「道」と揶揄される国で,パナマは運河建設のために作られた国,チュニジアは地中海の真ん中,イタリア(シチリア)の対岸。ちなみに,フランスが1881年にチュニジアを植民地化しようとした際,対岸が植民地化されることについてイタリアが抗議するも,同年勃発したエジプトのウラービー運動の単独鎮圧をフランスに承認させる見返りとしてイギリスがフランスに肩入れし,結果フランスの植民地化が成功したという間接的なつながりはある。これで英仏への不信感が増したイタリアはドイツに接近して三国同盟が成立するという流れ。そのイタリアは今回予選敗退で本大会に出場できなかった。パナマを除く3つはローマ帝国の旧領。これはグループBのイラン以外もそうで,もっとありそうなものだが,意外にも4分の3以上はこの2グループだけ。ベルギーとイングランドは因縁がありすぎるので割愛。

グループH(ポーランド・コロンビア・セネガル・日本)
グループD以上に世界史上のつながりが希薄なグループ。これだけ言及できることが無いグループも珍しい。それも寂しいので,世界史には全く関係がないが将棋ブームであることだし,カロリーナ女流棋士には言及しておきたい。


  
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2018年06月10日

日馬富士引退に寄せて

基本的に大関・横綱が引退した際には普段の場所評とは別に記事を立てて感想・論評を書いているが,日馬富士は引退が曖昧であったのでタイミングを逃してしまっていた。かなり時間が経ってしまったが,いよいよ踏ん切りをつけようと思う。実はその他,関取の引退もその場所の評の末尾につけているのだが,これも翔天狼・阿夢露・北太樹と書かないままさぼっているので,彼は名古屋場所の時に書ける範囲で書いておきたい。

日馬富士,本名ビャンバドルジは安馬の四股名でデビューした。2001年に16歳で初土俵,以後は2004年に新入幕であるから出世は早かったが,そこから三役までの道のりがやや長かった。当時の印象は軽量の割に攻撃力があるが,軽量の弱点そのままに脆く,立ち合いが汚く変化も多いというくらいであった。後に横綱・大関となる力士の場合,三役までは早々に到達するが,上位定着から3場所33勝までが長いということの方が多いので(近年だと稀勢の里も豪栄道も琴奨菊も鶴竜もこのパターンである),逆に入幕から三役定着までの方が長かった安馬は珍しい部類に入る。2007年頃にやっと三役に定着し,そこからは約2年間,7勝から10勝の間を行き来して,大関になれそうでなれない状態が続くが,2008年11月にとうとう大関に昇進し,日馬富士に改名した。安馬の昇進により2横綱5大関となるため協会はかなりしぶっていたが,3場所35勝で後ろ2回は優勝次点とあっては上げざるを得ない成績である。この頃の日馬富士はとにかく上昇志向が強くストイックで,練習量が異常に多く,とにかく最強の力士になるため闘志を燃やしていた。闘志が余り余っていたために前述のような汚い立ち合いや変化に加えてダメ押しもあり,素行は早くから不安視されていた。

大関時代の日馬富士は,昇進直後に右膝を負傷したこともあってぱっとしない成績が続いた。大関3場所目の2009年5月場所で優勝したがその後は長く低迷し,彼もそういうパターンかと思われたところ,2011年頃になって成績が安定し,優勝戦線に絡むようになる。そして2012年の7月・9月で怒涛の30連勝,無傷の連続優勝で横綱に昇進した。日馬富士の力士人生を語る上で外せないのが,彼の品格の豹変である。大関時代までの日馬富士は随分と品格の問題が懸念されていたが,横綱に昇進してからの日馬富士は人が変わったかのように落ち着いていった。彼の原動力は強い上昇志向であったところ,横綱になって頂点を極めたからか,はたまた単純に地位が人を作ったか,加齢によるものか。そのいずれもあったのだろう。2015年頃になると,白鵬の素行が問題視されていったため,かえって日馬富士の品格が褒められるまでに至った。

取り口はスタミナと守備力を捨ててスピード・テクニック・瞬間の攻撃力の3つに全振りしたかのようなステータスで,とにかく立ち合いから猛烈に攻め立てて勝負を決めてしまう。特に大関時代後半から横綱時代の半ばにかけてよく見られた「突き刺さるような鋭い立ち合い」と称される,低く入って片手で深く差すか両手で前まわしをとる立ち合いは大相撲史上でも例を見ないほどの破壊力を持ち,勢いのままに相手の腰が砕けるか,二の矢で飛んでくる寄りや投げが綺麗に決まるかで,優勝したような場所ではほとんどこの立ち合いだけで勝負が決まっていた。

一方で,立ち合いで失敗するとどうしようもなく,守勢に回っても弱く,長い相撲にも弱いし,大型力士とパワー勝負になっても苦しかった。この辺りは守勢に回っても抜群の相撲勘で逆転し,スタミナ勝負やパワー勝負はむしろ得意な朝青龍や白鵬とは大きく異なる。また,自らのスピードが早すぎて思考が追いつかずに自滅するという特異な負けパターンもあった。この立ち合いの失敗とスピード自滅が原因となって格下相手に取りこぼすことが頻発し,横綱・大関には全勝しているのに終わってみると11勝で優勝ならず,というような事態が多々発生した。二日目・三日目に負けることが非常に多く,「三日目のジンクス」はNHKの放送でもしばしば取り上げられるほどであった。金星配給数も在位31場所で40個と異様に多い。これをもって日馬富士を「横綱としては弱い部類」と見なす評価もあるが,横綱在位時勝率.727,通算優勝9回の横綱にそれはないだろう。いずれも横綱としては平均的なレベルの数値で,同時代に朝青龍と白鵬がいることを踏まえると,むしろ金星が多いことくらいしか弱い横綱とする論拠がない。

しかし,軽量で異様な攻撃力を誇るその取り口は次第に身体へ深刻なダメージを蓄積させるようになり,まず右膝,次に右肘,左肘,左足首と負傷箇所が増えていった。2014年9月には5日目に右眼窩底を骨折し,失明・引退の危機にもなった。2015年頃になると突き刺さるような立ち合いは鳴りを潜め,むしろそれをテクニックでカバーする取組が増えていった。特に左右の出し投げは強烈で,立ち合いの威力減少を十分に補った。元々テクニックがあった力士であるから出来た取り口の変化であり,前述の品格の変化もあって,この頃には玄人好みの力士になっていた。大関昇進前には考えられない話である。結果的に普段は10〜11勝して横綱としての責務をそれなりに果たしつつ,10場所に1回くらいに思い出したかのように優勝するというのが横綱後期であった。

このままもう3年ほど実働して,優勝回数が12回くらいになったタイミングで円満に引退かなと思っていたところ,丸くなったと言われていた素行のうち,酒乱だけはどうしても治らなかったようで,酔った勢いで同じ関取の貴ノ岩に暴行を働いた。これが2017年九州場所中に発覚して引退となった。最後の金星配給は2日目,奇しくも同じ貴乃花部屋の貴景勝であった。その場所評に書いた通り,「朝青龍が一般人を殴り,半強制的に引退となった事例を引けば,やはり最低限でも自主的な引退は避けられない。相手が一般人か力士かは罪の軽重に無関係であろう」というのが自分の判断で,概ねそのように事態は推移していった。日本への帰化申請をしていたが間に合わず,引退は日本相撲協会からの退職を意味することになってしまった。しかし,伊勢ヶ濱部屋の親方ではなく「コーチ」という立場に就任し,後進の指導をすることになった。また,横綱在位中から法政大学大学院に通っており,史上初の大学院生横綱であったから,今後は学究の道に進むのかもしれない。土俵外では趣味の油彩画で知られ,腕前はかなり上手く,個展を開いたこともある。お疲れ様でした。コーチとしての活躍に期待します。
  
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2018年05月29日

幕下からの復活,大関へ

終わってみると順当な結果になった。当初期待されていた力士が,ハラハラするような場面も挟んだものの,概ね期待通りの実力を発揮した場所になったと言えよう。少なくとも鶴竜の出来は先場所よりもよく,優勝に値するものであった。全般的に相撲の内容がよく,私自身の仕事が忙しすぎてろくにまともに視聴できなかったことを除けば,満足度が高い場所であった。土俵の外の騒動も含めて過去5場所ほど予想のできない状態が続いたので,やっといろいろなものが落ち着いた状態とも言えそうである。なにせ昨年9月は上位陣が総休場で内容も低調,11月は日馬富士の暴行事件が場所中に発覚し,以降は先場所くらいまで諸々の事件があって余波が続いた。これで来場所以降も平穏な気分で相撲が見れるとよいのだが。

なお,今場所もAbemaで全日程を視聴した。以下はメモ書き的に。
・先場所までは「相撲ビギナー」枠としてアスリートでもなく相撲に欠片も興味もないような人がゲストで来ていて,非常に冷める回が何日かあったが,今場所は,先場所までにビギナー枠で来ていてその後ちゃんと相撲に興味をもってくれた人(ぺぇさん)や,アスリート寄りの売り方をしている人(先場所も来ていた稲村亜美)等,むしろ完全にアスリート(武井壮)と,人選がかなり改善された。やはり先場所で稲村亜美が評判良かったので,その方向で路線を固めたか。
・しかし,やはり聞いていておもしろかったのはビギナーでは全くない相撲好きアイドルの山根千佳と,相撲好き芸人のキンボシ西田の回。キンボシ西田と谷川親方を千秋楽に持ってきたのが良い采配。
・先場所まで解説で来ていた把瑠都が突然エストニアで政治家になると言って帰国してしまったので,Abemaに出なくなったのは残念。代わって今場所はいろいろな親方が来ていたが,やはり千秋楽の谷川親方が抜群におもしろかった。


個別評。優勝した鶴竜は,場所中に風邪をひいていて体調が万全ではなかったそうだが,ケガ等については先場所よりも良い状態だったと思われる。離れて取れば半ば悪癖の引き・はたきがよく決まり,密着すればもろ差しで入って技巧をこらした寄りを見せた。やはりこの横綱は上手い。四日目の松鳳山戦はそれだけに惜しく,まさに悪癖が出て負けたパターンだが,これがなければ全勝優勝であった。どうせなら全勝優勝してほしかったと思う。先場所11勝4敗という予測を立てていたことについてはこの場で謝っておきたい。一方,白鵬は事実上の2場所連続休場の明けとはいえ,ひどい出来で惨状を覆い隠せていない。得意中の得意で25勝全勝だった栃ノ心にがっぷり右四つで負けたあたり,右四つになれば絶対に負けない白鵬はもはや完全に過去のものという印象も強くなった。上半身はそこまででもないが,足腰が決定的に弱っている。張り差し・かち上げが禁止された影響もまだ強そうで,何番かやりづらそうな立ち合いもあった(単なる張り差しについては問題としない)。そして7場所連続休場となった稀勢の里の状態は,報道で伝わる情報で判断するにかなり絶望的である。もう一度だけでもいいから,あの強烈なおっつけを見たい。

大関陣……は何も書かなくていいですかね。もっとも二人ともそれほど心配していないが。来場所陥落ということにはならんだろう。

三役。大関とりに成功した栃ノ心の相撲は見事としか言いようがない出来であった。グルジア(サカルトヴェロ)人初の大関である。相撲ぶり自体は先場所・先々場所と変わっていないが,気迫の違いが13勝を引き寄せたと言えよう。起点が前頭3枚目とはいえ,3場所計37勝で優勝と優勝次点を含み,鶴竜と白鵬を1番ずつ破っているとあっては文句の出ようはずもない。昨年9月には前頭筆頭で4−11だったこともあり,この絶好調が3場所続くとは思っていなかったのだが,良い意味で完全に裏切られた。最終盤で右手首を負傷していて,四つ相撲はともかく突き押しは全く取れていなかったのが気がかりと言えば気がかり。来場所完治していることを願う。

逸ノ城は無理に痩せていたことで実力が発揮できていなかったことがわかり,225kgまで太ったことで復調したことが発覚した。そう聞くと体重の割に動きが良いのは確かである。痩せた方が良いと勧めてきた身としてはなんとも言えない気分。御嶽海は調子が戻ってきたけど,だからこそ9勝止まりというか,大関取りには地力が一段足りないことがまたしても立証されたというか。足踏みしている場合ではない。遠藤は不運なケガで悲しい。ケガまでの3勝3敗を見るに,調子は悪くなかったのでは。

前頭上位。上位初挑戦の阿炎は,ここに来て初めて壁に当たった様子で,かえって器の大きさが垣間見えた。負け越しとはいえ7−8であり,白鵬戦の金星もあり,悲観するような戦績ではない。突き押しのタイプとしては千代大海系で,突きの威力もあるが引いての勝ち星も多い。変化も上手く,相撲勘が良すぎて気持ちの良い動きをする。組んだときの弱さまで千代大海並なので出世が厳しそうであるが,期待して応援していきたい。

殊勲賞の松鳳山は突き押しからのもろ差しへの移行がスムーズで,もろ差しを警戒すると突き押しのままやられるので,相手は取りにくそうであった。良い形が出来つつある。8勝しかしていなかったのは意外。千代大龍は立ち合いの出足の強さは本当にすばらしいが,そこで決めきれないと押しきれない。MSPを長らく封印しているが,あれなら復活させたほうが良い。立ち合いで崩したなら二の手で引いてみてはどうか。残りでは,大栄翔が5勝,豊山が3勝と惨敗を喫していたが,それぞれ印象が悪くなく,上位陣が好調だとこういう場所もあるよなという感じ。むしろ負けても不調にならないのはすばらしい。上位に定着するのに必要な素養だと思う。

前頭中盤。大翔丸は良いおっつけを見せていた印象。貴景勝は地力の違いを見せて10勝をあげたが,上りエレベーターにならないか来場所に注目したい。あとは隠岐の海が絶不調だった。特に10日目以降。休場した方が良かったのでは。高身長ゆえに棒立ちになるとどうしても目立ってしまう。

前頭下位。千代の国は,相撲ぶりが大きく変わったわけではないが,とにかく動きが良かった。今場所その意味で目立ったのは阿炎と千代の国になる。12勝は立派で敢闘賞は妥当。ケガがなければこれだけ動ける人なんだなぁと再認識した。あとは妙義龍と旭大星を挙げておこう。妙義龍は久々に彼の真骨頂というべき,綺麗な前傾姿勢のまま押し切る相撲が見られ,満足度が高い。やっと感覚が戻ってきたか。あれが持続するなら前頭中盤でも勝ち星を重ねられそうである。

旭大星は新入幕で10勝の敢闘賞。後半はやや息切れしたが,前半は見事であった。プロフィールを見ると得意な型は両前ミツとか右前ミツとか書かれているが,前まわしをうかがっての寄りや投げよりも,単純な動きの良さと技巧で勝ちを拾った相撲の方が目立ち,安美錦を裾払いで倒していたり,隠岐の海を突き出したりと,お前プロフィールに書いてあることとちゃうやんけと。正直今場所ではまだ全く様子のわからない力士であった。来場所にじっくり観察したい。
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2018年03月28日

鶴竜,薄氷の優勝劇

相変わらず外野は騒がしかったが,土俵の上はそれほど悪い印象がなく,それなりに熱戦が多かったように思う。横綱欠場が常態化しており,にもかかわらず今ひとつ変革の様子が見えない幕内上位陣よりは,次の時代を見据えた戦国時代になりつつある中盤の方が見応えがあったかもしれない。優勝争いが混沌としているようで,あっけない終わり方をしたというのは今の幕内上位陣を象徴する光景であった。世代交代というのには今ひとつどころか,今二つくらい欠いているものがあるように思う。

半ば私事であるが,実は今場所全部AbemaTVで見て,休日だけ並行してNHKもつけるというスタイルで初めて視聴してみた。AbemaTVは話題になっているように,
・常にBGMが流れている,しかもヒップホップ
・仕切りの間にCMが流れる
・3日に2日ほどはビギナー枠のゲストが登場し,解説と実況が事細かに大相撲の基本を説明する
・押し力士には無駄にかっこいい紹介Vと謎のレーダーチャートや力士特有のエピソード集が表示され,格闘番組というか格ゲーじみた紹介をしている
といった特徴がある。通して見た感想として,まずBGMとCMは慣れると意外と気にならない。ビギナー枠のゲストは当たり外れが大きく,今後の改善点。他種目のアスリートだったり,頭の回転の早いアイドル・タレントだと大当たりで,特に自身の野球経験を元に語る稲村亜美は大当たりだった。解説は淡々としている人は向いていないが,比較的若い親方や元力士が来るとやはりおもしろい。最高なのは把瑠都の解説。素人目線の解説に慣れているし,適度に挟まれるギャグもおもしろく,解説が非常に的確で技術論が良いし,物言い後の判定等もほとんど予言が的中していた。最後に,紹介Vはよくできている。ちゃんとかっこいいし,特徴が出ている。一方,レーダーチャートとエピソード集はかなりまずく,作り直してほしい。レーダーチャートは基準がバラバラで根拠がなく,実態に即していない。エピソード集は面白いものもあるが,こちらも確証の無いあやしい情報がかなり含まれており,力士に失礼であろう。AbemaTV自体の使い勝手として,ログイン不要・録画しなくてもいい手軽さが最大の魅力で,十分な画質で蛇の目の砂等も十分にわかる。総合すると十分に及第点で,ゲストの様子を見ながら来場所以降も積極的に活用していこうと思う。


個別評。優勝した鶴竜は,よく優勝できたなというくらい悪い出来で,11日目の逸ノ城戦のように力を見せたところもあったが,12日目の栃ノ心戦のように真正面から当たって負けた日もあった。結果として,基本的には引きに引いての薄氷の勝利が多く,一歩間違っていたら13勝2敗どころか10勝5敗となっていた。これについては鶴竜自身に自覚があり,右手薬指のケガが治っておらず,まわしをつかむと強い痛みが出る状態であったから離れて取る相撲にならざるをえず,かといって突き放すのは得意ではないから必然的に引く相撲になったとのことである。相撲の神様が8場所も耐えに耐えた鶴竜に報いを与えたということかもしれないが,それにしてもこの状態の鶴竜を前にして優勝をかっさらえない大関二人が情けないという話もある。したがって,鶴竜が地力を強めたとか復調したという感触は全く無く,来場所以降は不安定飛行に戻りそうで,11勝4敗と予測しておく。

大関。高安は本当に惜しかった。立ち合いの当たりの強さ,当たった後の押していくか組むかの判断,押しと踏み切ったときの突進力も組んだ時の投げのキレもどれもよく,相撲が完成されてきた。一方,負けた3つはどれも不用意な負けで地力が発揮できていない。特に12日目の千代丸戦の敗戦は今場所の流れを完全に変えてしまった。あれを落としていなければ13勝2敗で千秋楽優勝決定戦であり,こうなると高安に分があっただろう。千載一遇のチャンスを逃したと言ってよい。ところで,北の富士氏が「2場所連続の12勝で準優勝であるから,来場所全勝優勝なら横綱昇進の審議にかけるべきでは」とコメントしていた。横綱昇進は「直近2場所が連続で優勝に準ずる成績」であり,また過去の慣例から「直近3場所で36勝」にも引っかかる。あとは優勝経験や過去1年ほどの成績の安定感が加味されるが,高安はケガでの休場を除けば関脇時代から十分に安定しており,来場所優勝なら優勝経験も解消される。したがって,来場所全勝どころか14勝で優勝なら十分に昇進水準であり,むしろ審議にかけられない方がおかしい。個人的には北の富士氏の意見に賛成であるが,世間的にはほとんど反応が無いのが残念である。

豪栄道はやっぱり地元で応援が加熱しすぎるとプレッシャーで力出ないよね,という擁護はできるか。そういえば今場所は首投げを見なかった。首投げが出る時は不調であるが,今場所が好調だったようにも見えず。どうしたのかな。

三役。御嶽海はとうとう関脇を陥落した。7−8ではあるが,出直しに近い。突進力が効く日と効かない日の差が激しく,極めて連相撲の傾向が強い。本当にあの連敗癖はなんとかならないものか。地力は間違いなくあるが,このメンタルでは大関とりはおぼつかない。栃ノ心は相撲ぶり自体は先場所とほぼ変わらず。にもかかわらず10勝で終わったのは運もあるが,かなり対策が立てられてきたというのも大きい。10勝に乗せて大関とりの声もあるが,11勝にならなかったのは厳しい。来場所は大の苦手の白鵬が戻ってくるであろうし,どうか。逆に来場所11勝するようなら本物で,むしろ来場所12勝以上を挙げるようなら,先場所の前頭3枚めでの14勝も加味していきなり大関とりを審議してもよいと思う。逸ノ城は復活したようなしてないような。相変わらず相手を見てやる気を出すかどうか判断している癖はあるが,勝てそうと見なす水準がかなり上がっているようで,やる気のある相撲が多かった。千代大龍はまあ,下りエレベーター。

前頭上位。遠藤はやっと来場所小結である。長かった。人気はあるのに,どうも運がない。相撲ぶり自体は特に変わりがなく,論評しようがない。玉鷲は本当に衰えんなぁ。正代はこんなところで負け越しとは。もろ差しにこだわって自滅する傾向が強かった先場所までに対して,今場所はもろ差しにこだわらなかった相撲が多く,それは良いのだが動きがかえってぎくしゃくしていた。フォームチェンジ中の負け越しだとすると仕方ないのかもしれない。

前頭中盤。魁聖は12勝で立派。負けたのが全部上位陣なのは良いのか悪いのか。それよりは阿炎の10勝の方がインパクトが大きく,動きが激しく見ごたえのある突き押し相撲を取る。本人のビッグマウスやキャラの明るさもあって,あっという間に人気力士の仲間入りしそう。阿炎ほどではないが,大栄翔も突き押しの良さが目立ち,9勝という勝ち星以上に印象があった。千代の国は動きは良かったが,動きが良すぎるというか無駄な動きが多く,あれで体力を消耗するから動きの良さの割に勝てないのでは,と今場所観察していて思った。

前頭下位。栃煌山はいよいよここでも大きく負け越しで,進退が極まりつつある。まだもう少し華麗なもろ差しが見たいし,衰え方が急速すぎるので心配である。勢は豪栄道とは逆に声援をパワーに変えて上りエレベーター。大奄美は10勝していたが,いつの間にか大勝していた感覚で,正直印象がほとんどない。


最後に。大砂嵐が引退した。エジプト出身で,アフリカ大陸初・中東初でムスリム初という初づくめの入門であり,しかも関取になった。2012年3月での初土俵から所要8場所で新十両,2013年7月に所要10場所で新入幕と史上最速ペースで出世し,将来を嘱望された。稀に見るとんでもない膂力の持ち主で,立ち合いのかち上げまたは諸手突きからそのまま突き押していくか,組んでから強烈に引き付けて寄っていく取り口であった。反面,器用さは無く引けばはたきは不格好で,寄りの形はまずくないものの投げ等の工夫がなく,攻めが単調だったために幕内では上手く通用しなかった。身体が非常に固く,無理な体勢でこらえるため膝のケガが頻発し,2015年の上半期あたりで早くも限界が見え始めた。2016年は十両と幕内を行ったり来たりしていたが,2017年には十両に定着してしまっていた。その矢先,2018年年初に無免許で交通事故を起こした。しかも協会に即座に報告せず,警察の取り調べに対しても「妻が運転していた」と虚偽の説明をしていたことが発覚した。協会はそもそも力士の運転を禁止しているので,加えて無免許運転・事故・報告の遅れ・虚偽の説明と汚点が積み重なってしまい,一発解雇という厳罰が処された。

比較的早期に日本語を覚える外国人力士に比して大砂嵐は日本語があまり達者でなく,Skypeで母国の友人とよく話して母語アラビア語の感覚を維持し,場所中でもきっちりとラマダーンを行った。facebookやtwitterを使いこなし,角界では極めて珍しい今どきの国際人な若者であった。とはいえ角界になじめなかったというわけではなく,千代丸をはじめとして友人は多く,社交的な性格はここでも通用していた。不祥事が不祥事なので擁護できないが,実に惜しい若者が角界を去ってしまった。
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2018年01月28日

グルジア人力士のさらなる発展を祈願しつつ

誰も予想していなかった展開で,誰も予想していなかった人が優勝した。平幕が優勝する時とは概ねそのようなものであるが,旭天鵬の時ほどの驚きは無いかもしれない。今場所の栃ノ心は見るからに絶好調であり,中日までの相撲を見て,上位戦も終わっているし,このまま最後まで続いて12・13勝で終わって,三賞総なめかな,くらいには思っていたからだ。どちらかというとその後鶴竜が失速したほうが意外であった。栃ノ心の優勝は,旭天鵬以来の平幕優勝で6年ぶりのこと。当然グルジア(ジョージア,サカルトヴェロ)出身としても初優勝である。新入幕からの所要58場所は歴代4位タイのスロー記録。

今回の栃ノ心の優勝は希望である。人間誰しも好調・不調の波はある。上位陣全員が好調だったり不調だったりすることは稀で,だからこそ横綱が3人も4人もいれば大関以下が優勝するチャンスはなかなか訪れない。その横綱が2人休場したことで実力的な意味での優勝ラインが大きく下がり,「好調な平幕」にも優勝のチャンスが芽生えた。今の栃ノ心の実力が,他の三役・平幕上位と比較して突出して優れていたわけではない。にもかかわらず優勝できたということは,他の三役・平幕上位陣にも十分なワンチャンスがあるということだ。今後,稀勢の里はともかく白鵬がこのままあっさり引退するとは思えないが,どう考えても以前よりは安定しない。鶴竜と豪栄道も同様である。高安はまだ持続し,成長するだろうが,白鵬や朝青龍のような絶対者になるとも思えない。戦国時代の到来は近かろう。後世,その象徴のような場所として語られるかもしれない。2016年11月の評で「現在の幕内上位陣の年齢層が固まりすぎていて,2・3年後くらいにごっそり交代するのではないか」と書いているが,あれから1年と2ヶ月が経った。やはりあと丸1年ほどで総入れ替えになりそうである(逆に言って,あと1年ほどはかかろう,白鵬が多少なりとも復調するであろうし)。

全体的におもしろい相撲が多く,中日付近がやや淡白だったものの,序盤と後半は良かった。それだけに土俵外の不祥事が話題になったことは悔やまれる。大砂嵐の無免許運転・追突事故は,当然それ自体も問題ながら,虚偽申告したことと協会への報告が無かったこと,そもそも力士は運転禁止という協会の規定にも反していたことと問題が大きい。一発解雇ということにはなるまいが,相当な厳罰は覚悟しなければならないだろう(3場所出場停止等)。春日野部屋の暴力事件が過去に起きていたことの方は,当時きっちりと公表すべきであっただろうが,今更どうしようもない。


個別評。白鵬は「立ち合いの張り差しを封じた瞬間に弱くなった」と言われかねないことになってしまった。その意味で休場してほしくなかったところだが,白鵬の真価は立ち合いではないのだから,ケガが治れば戻ってこよう。ただ,非常に立ちにくそうだったのは確かで,悪い癖になってしまっており,修正を諦めてすぱっと引退する可能性もなくはなさそう。稀勢の里は11月場所と同じ評価になる。左肩というよりも全体的に弱くなっていて,どこから手を付ければよいのかわからない。このまま引退に追い込まれる可能性が高くなってきた。返す返すも5月・7月の段階で全休せず,出場してしまったのが悔やまれる。

鶴竜はてっきり優勝するものだと思っていた。すばらしい技巧を持っており,十日目の隠岐の海戦などは鶴竜の真骨頂とも言える芸術的な右上手出し投げを見せてもらった。引くのが癖なのは仕方がないし,1敗くらいするのも仕方がないとして,ずるずる連敗したメンタルの方に問題がある。あんなにハートの小さい力士だったか,あるいはどこかケガをしたか。なお,世間的には「優勝争いを引っ張ったし,10連勝もしたのだから,最終結果が11勝でも進退問題は払拭されたということでいいのでは」という声が強いようだが,私としては疑問である。確かに今場所後すぐに引退というような成績ではないが,来場所もまた11勝以下なら,すぐに進退問題が再浮上すると思う。その意味で完全払拭とは行かない成績であったし,連敗の原因がメンタルではなくケガなら,今後払拭しようがないかもしれない。

大関。高安は良い出来で,12勝は立派。立ち合いの体当たりから押し込むか,組んで投げるかで勝ち星を詰んだ。栃ノ心・逸ノ城の敗戦は仕方ないとして,阿武咲戦の不用意な敗戦が痛い。仮に思っていたよりも早く白鵬が引退したら,1・2回は優勝しそう。横綱になれるとまでは現時点では予想できない。豪栄道は可も不可もない出来。相変わらず日毎の出来の差が激しい。

三役。御嶽海は二桁取って大関取りの起点,と思っていたのだけど後半の失速がひどかった。どこか痛めたか,単なるツラ相撲か。突き押しの威力は引き続き良いが,連敗中は威力が出る前に負けてしまうことが多く,出足で負けるか引いてしまうかという様相。いずれにせよ良くない。貴景勝は本人曰く「どこか痛めていたわけではなく,地力で負けただけ」と壁にぶつかったのを自覚しており,良いことだと思う。まだ突き押しの威力が御嶽海の領域にはたどり着いていない。北勝富士も同じ。阿武咲休場は残念だが,重傷には見えなかったので,すぐに戻ってくるのではないか。

前頭上位陣。まず優勝した栃ノ心。今場所は相撲ぶりが変わったところがなく,単純に絶好調であった。つっぱりは不格好ながら威力があり回転も悪くなく,あくまで突ききって形が整ってから四つに移行する作戦が功を奏したか,良い形で組むか,突いたまま勝負を決することもあった。右四つ得意だが左四つでも寄ることができた。元から得意の右四つも,従来の出来ならそれでも白鵬等の上位には通用していなかったが,今場所は鶴竜以外には十分に通用した。前頭3枚目,上位総当りでの優勝なので価値は高い。大関取りには厳しめの要件で起点としてもよいだろう。来場所関脇当確だが,11勝するようなら再来場所は完全に考えてよいが,絶好調が続くかどうかはなんとも言えないところ。

続いて逸ノ城。10勝という成績もさることながら,内容が良かった。五日目までの上位挑戦終了時点で1−4,今場所もダメかと思いきや六日目から目覚め,パワーと技術の伴った逸ノ城が戻ってきた。相手を見てやる気を変える性格は変わっていないが,そのやる気を出す水準が随分と高くなり,今までなら手を抜いていた相手でも果敢に挑んでいた。また,逸ノ城のやる気を出したら勝てると見なす嗅覚の鋭さはなかなか大したもので,今場所本気を出して負けたのは栃ノ心だけであると思う(あまり褒めていない)。あとは遠藤が良かったくらいか。

前頭中盤はあまり言及すべき力士がいない。しいて言えば千代丸がやや良かったくらいか。照ノ富士は治らない膝のケガに加えて,糖尿病とインフルエンザだそうで……インフルは3月場所には大丈夫としても糖尿病は心配である。稽古すれば良いとは言っても。安美錦はやはり膝が限界では。

前頭下位。輝は多少なりとも腰高が直ってきたか。要経過観察。豊山は幕内で初めての勝ち越し。とはいえ物言いが入った取組も何番かあり,かなり際どい勝ち越しだったと思う。運も実力のうちといえば,9勝にも価値はあるか。朝乃山も同じく9勝で,こちらはなぜ勝ち越せないのかと思っていたので順当なところ。やっと幕内のスピード感に慣れてきたか。最後に新入幕の阿炎と竜電。阿炎はまた新しく出てきた力士が突き押しなのかというのが第一印象で,悪くはないが定着できるのかは要経過観察。あのチャラいキャラクターは嫌いじゃない。ぜひともあのキャラクターを保ったまま三役まで来て欲しい。そして竜電。イケメンすぎない……? というのは置いといて,左四つでスケールの大きい相撲ももろ差しの相撲もどちらもとれる四つ相撲の本格派で,期待は大きい。無論のことながらまだまだ形が悪いのに寄ろうとして返されたり,巻き替え食らってたりそもそも組めなかったりということはあるが,成長の余地は大きいと思う。期待して待ちたい。
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2017年11月28日

納まらない感じの納めの場所

土俵の外は騒がしかったし,休場者も多かったが,おもしろい相撲はまずまず多かった。ケガ人が多いのはそれだけ熱戦が多いからと思いたいところ。

土俵の外が騒がしかった原因であるところの日馬富士の貴ノ岩暴行事件については,匿名・顕名にかかわらず多数の相撲関係者が相互に矛盾する証言をしており,明らかにストーリーを作ろうとしている何者かの撹乱が入っており,現時点では全く真相がわからない。貴ノ岩のケガの程度すら不明瞭では,本当に。その中で,泥酔した日馬富士が無抵抗の貴ノ岩に暴行を加えたという一点だけは真実なようである。とすると,朝青龍が一般人を殴り,半強制的に引退となった事例を引けば,やはり最低限でも自主的な引退は避けられない。相手が一般人か力士かは罪の軽重に無関係であろう。ただし,朝青龍は暴行事件が1月中旬,事件発覚が下旬で引退が2月上旬,書類送検は7月で不起訴という流れで,暴行事件自体にも不明瞭な点が多い。これに対し,日馬富士は暴行の事実だけは明白であり,すでに警察の捜査もかなり進んでいる状態であることから,書類送検のタイミングが朝青龍よりもかなり早い段階で行われたり,書類送検にとどまらず身柄が拘束される,あるいは起訴されて実刑判決に至る可能性まで想定される。自供があることから起訴された段階で有罪は確定的であり,司法の判断は朝青龍より重くなる。こうなると引退でとどまらず,解雇・廃業となる可能性も浮上する。あとは日馬富士の場合,協会に露見していないところでは酒乱による余罪がありそうだが,表向きは協会から処罰されたことはなく,この点は現役中大なり小なり散々処罰されてきた朝青龍とは大きく異なる。この点をどの程度協会が情状酌量の余地と見なすかどうか。あるいは,世間を納得させるためにかえって厳罰を課す可能性もあるが。白鵬は優勝インタビューで「日馬富士をもう一度土俵に立たせたい」と言っていたが,現実的に考えて無理だろう。

そういう事情から早期解決は難しく,日馬富士の処分決定はかなり長引きそうである。むしろ早期に解決すべきは貴ノ岩の待遇の方で,通常通りの全休とみなせば十両に下がることになるが,暴行が原因のケガで休場となれば,当然通常通りの全休と見なすのは問題になる。通常の番付編成から外した上で「幕内8枚目格」を特別に認めるというような措置は過去に前例があるようなので,そのような処置が妥当になるかと思う。協会の寛大な判断に期待したい。


個別評。優勝した白鵬は,前半は完璧な相撲ぶりで,全盛期とまでは言わずとも2012-13年頃くらいの強さは見られたと思う。後半はややスタミナ切れの雰囲気もあったが,何とか千秋楽まで持たせた。相変わらず張り差し・かち上げは多いものの,これについての文句はもう引退まで取っておこうと思う。唯一,今場所全く褒められないのは11日目の嘉風戦での,不可解な誤審アピールである。これについては当日に書いた記録をここに再掲しておく。以下,引用。「嘉風は先に両手を付いており,白鵬は後から手をつけた上に自分から張り差しにいっており,何をどう考えても立ち合いは完全に成立している。白鵬の待ったは全くの不可解であり,それで進行を1分も止めたのは言語道断。横綱という地位も鑑みれば極めて恥ずかしい。」というわけで,これは9月場所の日馬富士とは異なって完全に白鵬が悪い。12日目は強制休場くらいのペナルティがあってもよかった。

他の横綱・大関陣。稀勢の里はもう輝きが戻ってこないのだろうか。致命的なのは左腕よりも足腰で,明らかに以前よりも脆い。どうしてこんなことに。当人が「足腰が強ければ左腕が使えなくてもある程度勝てる」と前に言っていて,またそれはある程度正しかったのだが,その足腰が弱っていては絶対に勝てない。何が起きているのか。高安は可も不可もなく。豪栄道はもう少し勝ってほしかったところ。今場所は勝った日と負けた日の差が大きすぎた。やはり精神的なものだろうか。

関脇。御嶽海は年間6場所全て勝ち越し,年間最多勝も白鵬に次ぐ次点だそうで。今年は白鵬など上位陣がそろって一度は休場しているので,幕内上位陣では他に年間6場所全て勝ち越した力士がいない。偉業とまでは言えないが,十分に誇るべき実績だろう。今場所は突き押しの威力がよく,先場所よりは好印象である。次は本格的な大関取りとなるので,二桁欲しいところ。照ノ富士はどうしたものか。膝が以前よりさらに悪化しているように見え,全く踏ん張れていない。手術はしているようだが,完治するようなものでもないのかもしれない。深刻である。このまま引退するという姿は見たくない。嘉風は11日目の白鵬戦は見事な立ち合いだった。あれこそ後の先というべきかも。それ以外は特に。

小結。琴奨菊はやはりがぶれれば強いのだが,がぶれる形自体が作れなくなってきているのが。好調のバロメータたる右突き落としもほとんど見られず。不調という印象こそ受けなかったが,振り返ってみると不調だったのかも。最後に,阿武咲の小結勝ち越しは立派で,正直に言って2・3場所前の印象からすると意外。新入幕からの連続二桁は3場所で途切れたが,勝ち越しは4場所に伸び,次はいよいよ関脇である。御嶽海と並ぶことになり,いよいよ世代交代が本格化している感じ。二人の成績によっては,初場所は後に象徴的な場所と呼ばれることになるかもしれない。

前頭上位。千代大龍は手の内が読まれていた割には勝てていたのかな。栃煌山は下りエレベーターにしてもひどい出来であった。このままだと大関候補と呼ばれることは二度とない。北勝富士はすばらしい出来で,嘉風のはたきに落ちず,高安のかち上げに崩れず,豪栄道の首投げも効かずと体幹がしっかりしており,突き押しの威力もそれなりに高い。おっつけには技能賞が与えられた。あとは組んだ時の対応と速度か。11勝お見事。逸ノ城は前半は怪物復活という印象であったが,後半は気の抜けた相撲が多かった。上位戦になると力を抜くのは本当にやめて欲しい。その中で12日目の豪栄道戦は気合が入っていて実際に勝ったが,勝てると踏んだ相手だったか。

前頭中盤。正代は9勝で勝ち越し。地力から言えば二桁勝てただろうと思うのだが,先場所の絶不調を考えると復調傾向か。もろ差しに無理にこだわって自滅する感じは隠岐の海に似ている。遠藤も9勝。玄人好みというべきか,もう「相撲上手い」以外の言葉を与えようがない。毎場所技能賞でもいいよ。朝乃山は先場所の印象だともう少し勝てるかなと思っていたが,研究されて負け越した。右四つの本格派で寄る姿は好きだが,対策を取られると寄れなくなるあたり,攻撃力がまだ足りない。十両に下がっても文句が言えない負け数だったが,番付運で16枚目どころか14・15枚目で残れそう。再起に期待。

前頭下位。隠岐の海は異様に体のキレがよく,11勝自体は見事と言える。が,来場所に続くような気が全くしない。来場所も大勝ちしたらPCの前で謝ります。そして何より安美錦。土俵際の魔術師健在ながら,密着されると魔術が発動しなくなるという弱点を突かれて苦しい星勘定となったが,何とか勝ち越した。しかし,魔術発動以外で勝つ手段がかなり少なく,千秋楽の見事な上手出し投げのような,毎日出せるものではない技のキレに頼らざるをえないのは,来場所以降相当に苦しい。とはいえ史上最年長の再入幕からの,103場所ぶり・新入幕以来の敢闘賞だそうで,本人も珍しく声をあげて泣いていた。なお,上位で取っていた経験が長い故に,安美錦が倒した横綱は11人,倒した大関は64人とのことで,ある意味旭天鵬以上の「角界の生き証人」と化している。  続きを読む
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2017年11月13日

私的相撲用語辞典(5) その他編

>(4)から。これにて完結。結局丸2年かかりましたね。大したコンテンツでもないのに。


・ユルフン
ふんどしが緩いこと。実は,ふんどしをどの程度固く締めるのかはその力士の戦術にかかわってくる重要な要素である。固く締めれば,相手の力士はまわしをつかみにくくなる。逆に緩く締めれば,相手がまわしをとっても伸びてしまってうまく力が伝わらなくなるので,有利である。そこで,まわしを異様なまでに緩くして組まれた時に有利にしようとする力士が何人かいる。ユルフンは頻繁な立ち合いの変化と並んで「小細工を弄している」印象である上,伸びたまわしは非常にみっともない格好であり,しかも相手力士の肘等に変な形の負担がかかりケガを誘発するので,相撲ファンからは嫌われている。最悪の場合,不浄負けになる。ユルフンは規制した方がいいと思う。

自分の記録を検索してみたところ,直近5年でユルフンだったのは照ノ富士,明瀬山,北太樹,千代皇,勢,栃ノ心(3回),里山,貴ノ岩,鶴竜,松鳳山,千代鳳,魁聖。特に明らかに故意な栃ノ心と,当時すでに横綱だった鶴竜,大関だった照ノ富士は全く擁護できない。過去の大関以上の力士では武双山のユルフンが有名だった。


・蛇の目の砂
土俵の外の20cm幅にまかれている砂のこと。少しでも物が接触すると舞い飛んで跡が残るようになっている。そのため,際どい勝負の場合,蛇の目の砂の跡の残り方や,スローVTRでの砂の飛び方を見ると,どちらの力士の手足が先に土俵を割ったかを確認することができる。際どい決着になりそうな際は,蛇の目の砂に注目して見るとよい。


・うっちゃり
土俵際で寄られて負けかけている状態から,身体の重心を著しく低くして左右のいずれかに大きく振り回し,投げ捨てるという逆転技。一般に「うっちゃり」というと土俵際の逆転劇全てを指すような印象があるが,実際にはこの左右に振って投げ捨てる形だけが決まり手としての「うっちゃり」である。実際,このような場面になることは少なく,決まり手としてのうっちゃりは意外なほどに出ない。見ていて「これはうっちゃりでもいいのでは?」と思える決まり方をしても,実際の決まり手の発表は「下手投げ」等だったりして,意外なレア決まり手となっている。近年では白鵬と正代が決めている。


・立ち合いの不成立
大相撲の立ち合いは力士同士の阿吽の呼吸で立つことになっているので,呼吸があわなければ不成立となる。不成立とみなされる形はいくつかある。まず,単純に片方の力士が一方的に立って,相手が蹲踞したままという状態になること。先に立った力士の気が早すぎたか,蹲踞したままの力士が遅すぎたかいずれかである。次に,両者とも立てず,片方の力士が挙手した場合。これは「このままだと呼吸が永久にあわないので,一度仕切り直させて欲しい」という合図である。あるいは,両者がふわっと立った場合,行司がやり直しを命じるというパターンもある。

そして,意外と多いのが「手付き不十分」。立ち合いは両者が両こぶしを一度地面につけてから離して初めて成立となるので,4つのこぶしのいずれかが地面に接触していなければ,いかに呼吸があっていても不成立とみなされる……というのが建前で,昭和の相撲を見るとむしろこぶしを一度地面に接地させている力士の方が少数派で,この点,近年の力士の方が圧倒的にお行儀がよい。これは昭和は「阿吽の呼吸」の方が重視されていて,呼吸があいさえすれば他は軽視してよいという風潮であったことに起因する。これはあまりにもルール無視であるということから近年急速に正されている。しかし,どの程度地面をこすれば「接地」になるのかという基準が行司によりかなり個人差があり,昭和並に見ていない人から,かなりきっちりと接地してないと何度でも不成立として止める人まで,幅が広すぎるのが新たな問題となっている。相撲協会は,ルールの見直しか基準の統一を図ってほしいところ。


・髷をつかむ
大相撲の揉める反則技。髷をつかんで引っ張るのは反則とルールで決まっているが,髷をつかめば相手を簡単に引き倒すことができてしまうからである。このルールがなかった場合の,相手の髷を狙い合う相撲なんて見苦しすぎて競技が成立しまい。しかしここで問題になるのが,不可抗力で相手の髷をつかんでしまった場合,また不可抗力で相手の髷をつかんでしまった上に,それが勝負に有効に働いてしまった場合である。一応,大相撲のルールブックである「日本相撲協会寄附行為」によると「頭髪を故意につかむこと」となっているものの,実際の運用上は「故意」であるかどうかはほとんど問われておらず,勝負に影響したかどうかで判断されている。つまり,前出のうち後者はアウト=反則負けとなる。これについては,世間でもほとんど異論がない。揉めるのは前者,つまり髷をつかみ,その後勝ったものの,髷をつかんだことが勝負の決定打ではなかった場合や,スローVTRで見ても髷をつかんだのか頭を触っただけなのか判断できないくらい際どい場合である。これらについても厳格な判断基準がなく,割りとその場その場の審判の基準で決まっている。

また,2014年・15年頃は過度に厳格なことが多く,どう見ても故意ではない,かつ勝負にほとんど影響していない場合でも反則負けとなってしまうことがあり,とりわけ2014年の9月場所4日目で日馬富士が髷をつかんだとして反則負けになった際にはめちゃくちゃ物議を醸した。最近(2016・17年)はそれに比べると少なくともちゃんと協議している印象があり,やはりあの物議が効いたのか。


・死に体
相撲の勝負判定はいくつかある。単純に言えば
・足の裏以外が地面に触れたら,土俵内であっても負け。
・足の裏を含めた全身の一部が土俵外の地面に触れたら負け。ただし空中はセーフ。
を基本線とするが,この両者が衝突した際に補足的に運用されるのが「死に体」の概念である。
・全身どこも地面に落ちていなくても,数瞬の後に倒れるのが明白で,かつもはや新たな技をかけることが出来ない状態の場合,「死に体」として,不利に取られる。
この「死に体」が曲者で,「どういう状態なら体が死んでいるか」は力士同士や好角家同士でもけっこう意見が分かれる。だからこそ相撲の審判も複数人いて,協議(それも微妙な場合は長い協議)があって勝負がやっと決まることがある。加えて言えば,死に体の概念があるからこそ完全なビデオ判定に移行できない。相撲の判定はあくまで行司が主体で,行司の判定に不服がある場合のみ審判団に移り,ビデオ判定はあくまで審判の補助でしかない。なお,行司は必ず勝負を付けなければならず,同体取り直しの判断は審判団のみの権利である。この辺を勘違いして,ビデオ判定で全てがデジタルに決まっていると思っている人をたまに見る。

「死に体」については,過去に白鵬がこれについて発言して非常に揉めたことがある。その時の騒動をまとめた記事を書いているので,よければ参照されたい。  
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2017年11月12日

私的相撲用語辞典(4)小技・立ち合い編

(3)から。(4)で終わると言っていたな。あれは嘘だ。短い(5)が完結編です。


・引き付け
相手と組んだ際に,猛烈な力を入れて相手のまわしを引っ張り,自らの身体と密着させたり,つったり(次の項目)したりすること。相手と自分の身体が密着すれば,より力を入れやすくなるので寄りやすいし,投げ技や足技もかけやすくなる。しかし,当然相手からしても同じことが言えるので,投げ返されたり,足技によるカウンターに注意が必要。対戦している両者が,二人とも寄りに自信がある場合,互いに有利な体勢で寄ろうとして同時にひきつけることがある。これを「引き付け合い」と呼ぶ。膂力十分な力士同士のがっぷり四つからの引き付け合いは,これ以上見応えがあるものはないというくらい見応えがあるので,名勝負になりやすい。


・吊り(つり出し)
相手を引き付けてから空中に持ち上げる技を吊りといい,そのまま土俵の外に出す決まり手を吊り出し(つり出し)と呼ぶ。吊ってから真下に落とし,膝をつかせるか倒してしまうのはつり落としになるし,背中からつれば送り吊り出し・送り吊り落としになる。言うまでもなく,重い力士を持ち上げるのだからとんでもない腕力と背筋力が必要になるので,得意技がつり出しというのは力自慢の代名詞となる。近年だと第一に上がるのは把瑠都であり,把瑠都クレーンと称された。あとは朝青龍がたまに決めていたか。過去の名力士では元大関の霧島,元大関の初代貴ノ花の名前がよく上がる。豪快に決まるので見応えがあるし,持ち上げられた側は抵抗が難しくなる(もがいてもどうにもならないことの方が多い)一方,技自体の難易度が高いので意外と見ない。メジャーの中ではマイナーな部類の技を言えよう。


・腕を返す
「かいなをかえす」と読む。寄っていく際に自分の差し手(下手)を,まわしではなく脇に沿わせる形を作る(このとき“自然と腕が90度回転して”肘が張ることになるから,「腕を返す」という名前になったのだろう)。すると自然と相手の上手は万歳する形になり,まわしをとったり極めたり巻き替えたりといったことができなくなり,無抵抗になる。映像で見たほうがわかりやすいだろう。次の映像で,高見盛がもろ差しから両腕で腕を返し,魁皇を万歳させている。



なお,もろ差しの状態で,さらに差し手の両方で腕を返すのはあまり見たことがない。もろ差し自体が有利な体勢であるので,さらに腕を返す必要は薄いからだろう。その意味で珍しい映像である。腕を返すのは,寄る際には有効な技ではあるが,あらかじめ下手をかなり深く差しておく必要があり,準備が難しい。時々NHKの解説で何人かの元力士が「最近の関取はあまり腕を返さない」と嘆いているのを聞くが,自分の印象だと別にそうでもない。千代の富士以前と比較されると,私も映像をほとんど見たことがないのでなんとも言えないが。


・がぶり寄り
相手を十分に引き付けてから,自らの重心を低くして下から突き上げるような動作を何度も行い,反動をつけて寄っていく技。特殊な動きであるためか多用する力士が少なく,これを使うことがそのままその力士の代名詞になることが多い。現役の力士なら琴奨菊がこれに当たり,なにせ彼のあだ名の一つは「ガブリエル」である。過去の力士では琴風,そして双葉山が挙げられる。


・立ち合いの変化
通常の立ち合いであれば差し手をとって組みに行くか,肩または頭から体当たりして崩すか(ぶちかまし)のどちらかであるが,ここからはいくつか特殊な立ち合いの行動について記述する。立ち合いでまともに立たず,前ではなく横に動いて相手をかわし,そのままはたき込み・上手出し投げ・送り出し等で仕留める行為のこと。力量差が大きい相手に楽に勝つ必殺技であるが,当然難点もある。まず,単純に相手に予見されると大失敗に終わり,抵抗もできずにあっさり負ける羽目になること。次に,失敗すると無力な状態で一気に倒されることになるので,ケガしやすい。そして余程心臓が強くないと,変化する気配が漏れてしまい,相手に予測されてしまう。あるいは変化を多用していても相手に警戒されるので,読まれやすくなる。何よりも「力量差が大きい相手に楽に勝つ必殺技」であるがゆえに,変化したということは「まともにやっても勝てない相手です」と認めた形になるので,自分のプライドが傷つく上に,格下相手にやればブーイングの嵐不可避というリスクもある。それでも勝ちは勝ちに違いないと思えるハートも必要だろう。

なお,たまに相撲をあまり知らない人から「ルールを守っているなら,勝つために何をやってもいいのではないか」という意見が出てくることがあるが,プロスポーツである以上ルール外の暗黙の了解が存在するのは相撲によらず野球でもサッカーでも同じで,これに対する反論としてよく使われるのが「プロ野球とて強打者を全打席敬遠したら間違いなく極度の批判にさらされるだろう」というたとえで,これは良い例えだと思う。私個人の意見では,横綱・大関は絶対に変化してはいけないというわけではなく,後述するような「業師の一流の技」として認められるような形であったり,「ケガでどうしても勝ちたい一番の,平幕相手」といった状況であるなら,多用は困るにせよ認めてもよいと思う。それこそルール上反則というわけではないのだから,とあくまで私見として述べておく。

一方で,変化は上手く決めるには相手に悟られない心理戦,立ち合いの瞬発力,大きく横に跳び素早く相手を撹乱する機動力と,高度な技術が必要であることから,元から「業師」で売っている力士や,高齢の力士,ケガから復活途上などの事情で同情を買いやすい力士は変化してもそれほど批判されないことが多い。その意味で変化してもほとんど批判を受けない近年の力士というと,まず第一に安美錦が挙がる。業師である上に高齢であるから。次点で豪風か。栃ノ心もよく変化するが,彼の場合はまだ30歳でしかも下手だから,批判が多い。


・張り差し
張り手をくりだしてから差し手をうかがう,立ち合いでの動きのこと。顔面に奇襲を受ける形になるので,相手は痛い・単純に驚く・目を閉じてしまうという三重苦にさいなまれて動きが止まるから,その隙をついて自分は有利な組手を取ることができる。昔は全然見なかった技だが,朝青龍がその有効性に気づいて多用するようになってから爆発的に広まった。現在では白鵬が多用している。一時期は日馬富士もよくやっていたが,最近はほとんど見ない。

立ち合いで有効な技である上に,「横綱の顔面に張り手を入れるのは不遜な行為」とされている関係上,横綱以外の力士が朝青龍や白鵬を相手に張り差しを使うのはかなり挑戦的な行為となってしまうため,事実上「格上が格下に,より確実に勝つための技」になってしまっていて,相撲という競技のおもしろさを考えるとあまり良い風潮ではない。

とはいえ張り差しは無敵の立ち合いというわけではなく,張り手をかわすことさえできればバランスを崩すのは張り手をした側になるし,そうでなくとも張り手をした側の手の脇は空くことになるから,そこは差しやすい。朝青龍や白鵬はあまりにも張り差しを多用するために対策がとられ,実際そうして張り差しの弱点を突いて,むしろ張られた側がいい位置の差し手をとって勝つということも時折見られた。それが白鵬の立ち合いのさらなる進化を促すことになってしまったのだが。


・かち上げ
立ち合いの時に前腕を相手の胸や肩やアゴにぶつけてのけぞらせ,有利な差し手を入れやすくするか,場合によってはそのままノックアウトしてしまう技。本来の目的は前者であり,後者は結果論的にそうなるのは認められている……というのがかち上げの本来の趣旨であった。これも以前はそれほど見られる技ではなかったが,近年では朝青龍・白鵬,大砂嵐・高安が多用している。特に白鵬のかち上げは張り差しで注意を逸してから,逆の腕でかち上げるというコンビネーション技になっている。しかし,下からの張り手を受けた顔面は衝撃でアゴが上がっているため,自然とかち上げもアゴに入りやすく,そのままノックアウトになってしまうことが多い。

というよりも白鵬のかち上げは明らかに本来の趣旨ではない後者ねらいというパターンが多い。しかも,のけぞらせるのではなくノックアウトがねらいなら,相手にぶつけるのは前腕よりも固い肘の方が,当然攻撃力が高くなる。そのため,白鵬のかち上げは自然とエルボー気味になるが,相撲では肘打ちは反則なので,白鵬のかち上げはグレーゾーンとしばしば批判されるのはこれが理由である。実際,あのかち上げは相手力士の選手生命を短くする危険性が高い。ただし,現実的に言って前腕と肘を峻別するのは難しく,そもそも「張り差しとかち上げのコンビネーションの絶大な有効性」に気づいたのは長い長い相撲史上でも白鵬が初めてであるから,相撲という競技を極め尽くした白鵬が見つけたルールの脆弱性とも言える。ルール変更に至るかどうかは,なんとも言えない。


・諸手突き
通常は片手で突くところ,両手を前に突き出し,相手の両肩を突く技。特に立ち合いで相手との距離を最も広く空けたいときに有効であり,突き押しでいくなら立ち合いは諸手突きで行くというのは有効な選択肢になるだろう。ただし,両方の脇が思い切り空くので,予見されて避けられたり,十分に効かなかったりすると簡単にもろ差しで入られて逆襲を受けるので,リスクも高い。最近の力士だと,大砂嵐と碧山がよくやっている。


・喉輪
突き押しの際に,相手の首を片手でつかんで押していく技のことを喉輪と呼ぶ。見た目で名前の由来がわかるだろう。当然やられた相手は呼吸困難になって非常に苦しい。喉輪でつかまると劣勢である。しかし,全身の重心からすると,首は上半身の中でもかなり上の方に位置するので,押す力としては弱い。あくまで相手の動きを止めて行動不能にするのが喉輪の目的であり,押し出しにするにはまた別の場所を押していく必要がある。また,喉輪は相手がのけぞると外れやすく,外れるとかえって自分のバランスが崩れるので,やはり絶対有利になる技というわけではない。最近の力士では玉鷲が多用しており,上手く必殺技的に用いている。
  
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2017年09月25日

異常事態に異例が重なった低調な場所

横綱・大関陣7人中5人が休場するという異例の場所であった。三役以下の幕内(途中出場も含む)も含めると8人まで増える。3横綱2大関が休場となったのは1918年夏場所以来,99年ぶりとのことだが,そこまでさかのぼらなくても,休場者8人は野球賭博事件に絡む謹慎処分者6人を出した2010年の7月場所以来になると言えば,どれだけの異常事態かわかろう。これだけケガが多いのは本場所6場所だけで予定が詰まっているところに,地方巡業が隙間なく詰め込まれる過密スケジュールに加えて,ケガを保障する制度が一切ない点にある。公傷制度の復活に対する議論は結局のところ協会内では扱われないままここまで来ているが,それが無理ならさすがに巡業を減らすべきではないか。本場所を年5場所にするのは無理であろうから。

優勝争いも実に混沌としたものであった。しかし,あえて言ってしまえば,本来であれば日馬富士の圧勝で終わっていた場所であったと思う。前半の3日目からの3連敗は3日目の不可解な敗戦を引きずってのものであり,不運である。日馬富士自身も悪いのだが,あの場面で悪くない人はいない。
・琴奨菊:手付き不十分であるにもかかわらず立った。現在の基準で言えば明らかに止められる水準であるのは本人もわかっているであろうところ,そのまま相撲を続行した。
・日馬富士:手付きに関しての判断は行司と審判に委ねられているところ,セルフジャッジで立ち合い不成立とみなした。
・行司&審判:手付き不十分で琴奨菊を止めるべきところ,その判断を日馬富士に委ねた挙句,成立とみなして続行させた。
それぞれ過失はあるものの,責任を取るべきは明らかに行司と審判であって,日馬富士の黒星で決着をつけてしまったのは今場所最大の汚点である。昨今の相撲人気はとどまるところを知らず,今場所も15日間満員札止めであった。しかし,上述の過密スケジュールにケガの問題,加えて手付き基準の不統一と実のところ協会には問題が山積しており,少なくとも今場所に限って言えば協会の場所運営は完全に落第点である。

これで相撲内容がおもしろければ「上位陣が軒並み休場でも何とかなるもんだなぁ」と書けたところだったが,何人かの気を吐いた若手を除けば白けムードの漂う土俵であった。無論,周期的にこういう場所が出現してしまうのは仕方がない。しかし,その要因の一部が人災というのはやりきれない。


暗い気分を振り払っての個別評。優勝した日馬富士は前述の通り。序盤の余分な3連敗がなければ気力充実の場所だったと言えよう。大関以下とはさすがに隔絶した地力の差がある。なお,最大で3差ついたところからの逆転は1949年以降で史上初とのこと。ついでに言うと,同一場所に金星を4つ配給しておきながらの優勝も史上初っぽいが,こちらは確証がない。

豪栄道は昨年の9月の精神力があれば優勝できていたかもしれないが,今場所はメンタルが弱かった。3差を覆された史上初の力士という変な記録が残ってしまったが,大丈夫だ。こういうのは大体負けた側の力士は何年か経つと誰も覚えていないものだから。ヴァレンティンに56本目のホームランを打たれた投手の名前を,もう誰も覚えていないのと同じである。ただし,豪栄道の調子が良かったかというと疑問である。単に上位陣のほとんどが不在でかつ日馬富士が序盤に3連敗したから優勝争い先頭に立って目立ってしまっただけで,序盤から引きの相撲が多く,彼自身は並の調子だったのではないかと思う。照ノ富士は最近相撲が変わりつつあり,膝も手術をして治りつつあるところだったと聞いていただけに残念であるが,来場所の10勝を期待したい。高安はちょっとなんとも言えない。

関脇・小結。御嶽海はさほど印象がないが,関脇で8勝しておきながら印象がないあたり,かえって地力が付いた証拠なのかもしれない。しいて言うと,今場所は意外と組んで勝ってたかなと。嘉風は日によって出来が違いすぎた。玉鷲は序盤に右足首を捻ってから攻撃力が如実に落ちて,それでも食いしばっての7勝という様相。この人が元気なら,今場所の評価ももう少し上向いたかもしれない。栃煌山は全然ダメだった。これだけ横綱・大関がいない場所くらい大勝してほしかった気も。

前頭上位陣,今場所はここだけ書くところが多い。琴奨菊は中盤の4連敗が謎。序盤を見ていると「これは大関琴奨菊」と思ったのだが,中盤見るからに不調で「平幕琴奨菊」,終盤は再び戻ってきて「大関」だった。調子の良い時の琴奨菊は馬力もさることながら,左四つで寄っているように見えて右から突き落とし・小手投げが出る。今場所は4・10・15日目にこれで勝っているが,間の期間はすっぽりとこの動きがなくなったので顕著。北勝富士は7勝ながら高安戦の不戦勝を含み,動きは鈍かった。3月以降では最も不調だったのではないか。

阿武咲は新入幕から3場所連続の二桁勝利が史上初とのこと。とんでもない記録が生まれたものだ。先場所の段階での私は「来場所の成績は5勝と予想」なんて書いていたので,阿武咲の方向に土下座しておきたい。ただ,上位陣不在の中だったのも事実で,幸運の10勝ではあるかなと。また,9〜11日目で3連敗したときにはスタミナが切れていて,残りも全部落とすのではないかと思っていたのだが,見事に盛り返した。これが若さか。突き押しの人に思われがちだが,もろ差しで勝つことも多く,突き押しの中でも栃煌山寄りのタイプかもしれない。要経過観察。千代大龍は中盤まで明月院スペシャルことMSPがよく決まっていたが,終盤ははたきのタイミングが読まれて失速した。宇良は初日から休むべきだった,とだけ。貴景勝はまずまずの動き。


前頭中盤。逸ノ城は先場所に引き続き,やる気のある日と無い日の差が極端で,明らかに相手を見て変えている。あれはよくない。輝は惨敗。取り口を完全に研究されている感じ。あとは勢も惨敗していた。生命線の右腕が痛いのではないか。残りは可も不可もなく,特に書くことがない。

前頭下位。千代丸は突き押しから四つ相撲への転換が功を奏している様子。あの腹を使わないのは確かにもったいない。大翔丸は10勝しているが,決まり手の多くが突き落としで,引いて勝ち星を拾っていた。必ずしもそれが悪いわけではないが,うーん。遠藤と魁聖は上りエレベーター。一方,登れなかったのが隠岐の海で,彼もどうも逸ノ城と同じに見える。新入幕の朝乃山は幕内で通用しての10勝。右四つになると滅法強く,そこだけ取ればすでに前頭下位の力士ではない。押し相撲になってもそれなりに取れるのも長所で,差し負けるくらいなら離れて取ったほうが具合が良さそうである。前頭中盤に上がってどうなるかが非常に楽しみ。一方でどうも通用しないのが豊山。立ち合いの瞬発力の差,かなぁ。

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2017年07月26日

先場所の繰り返し

先場所をコピーしたかのような,全く同じ展開であった。優勝争い然り,それ以外の要素然りである。その意味でも,けが人が多かったという意味でも,単純に相撲内容という観点から言ってもあまり出来の良い場所だったとは言いがたく,私自身の仕事やら出版作業やらが忙しくじっくり見れていないということもあって,白鵬の記録と何人かの個々の力士を除けば非常に印象が薄い場所となった。見ていておもしろかったかと言われると,なんともである。

白鵬の通算1050勝はまた1つ偉業が増えたのだが,北の富士がNHKの解説で言っていたように「すでに勲章が多すぎてコメントのしようがない」。少なくとも1100勝くらいまでは行くだろうし,完全に単なる通過点であろう。次は幕内1000勝が目標とのことだが,現在956勝であることを踏まえると楽勝の領域,幕内40回目の優勝に至っては来場所達成になりそうな様相である。日本国籍取得についての噂も飛び交っているが,個人的には少し残念である。白鵬はモンゴル国籍を保ったまま協会に残るというチャレンジをしてほしかった気もするし,彼にはその資格があるだろう。


個別評。39回目の優勝を果たした白鵬であるが,相撲振りについては先場所と全く同じなので書くことがない。防御面では足腰の強さが多少なりとも戻ってきていて,攻撃面でも「全盛期よりはワンテンポ遅いけれども,それでも十分な速度と威力」というところ。ただ,今場所散々指摘されていたが,立ち合いほんと正面から当たらなくなった。張り差し・かち上げの他に,当たってすぐに左にずれる動きも増えていて,私自身はあれは変化だとは思っていないのだけど,人によっては変化と指摘するかもしれない(あれが変化になるなら日馬富士の立ち合いも少なからず変化になるが,両方とも変化だと言っている人は不思議と少ない気が)。

日馬富士は並の出来。稀勢の里は横審が来場所全休を勧告していたが,珍しくも横審にしては全力で同意できる判断。鶴竜は来場所の勝ち星が一桁なら進退を伺われてもおかしくはない状況。ここ4場所が5勝(休場)ー10勝ー1勝(休場)ー2勝(休場)で,10勝の場所の内容がひどかったので。ただし,5場所前は14勝優勝であるし,勝っている相撲だけ見れば相撲内容が極端に落ちたとも言えず,大きなケガがあるわけでもないから,来場所11勝くらいしてくれればしばらく延命しよう。

大関陣。照ノ富士は,場所前の手術は遅すぎる英断だったと思うが,さすがに調整が間に合わなかったか。来場所は稽古が間に合うと信じて。豪栄道は絶不調で,よく7勝できたなという印象。豪栄道の相撲は2016年9月の優勝で以後様変わりしていたが,今場所はそれ以前に戻る雑な相撲が多く,しかも不調なら不調で何とかしてしまう必殺技「首投げ」も今場所は見られず,一体何があったのやら。首投げできないようなケガでもこっそり負っていたとしても全く驚かない。7勝できたのは周囲の不調に助けられたのかもしれない。いや,負け越しているので助かってないけど。高安は大関になっても連敗癖は直らんね,と。連勝中の相撲の出来自体は悪くなかった。

関脇・小結。玉鷲は周囲の対策が進んだだけかと思う。やはりこの年からの大関取りは難しいか。代わって躍進著しかった御嶽海だが,こちらの評価は難しい。好調ではあったものの,相撲振り全体を見回してみると先場所から大きく力量が増したかと言われるとそうでもないような。攻撃力は高いが守勢に回ると脆かったかなと。嘉風は引き続きすごいですね,としか言えない。偉業だよほんと。琴奨菊はノーコメント。まあ,こうなると思っていたくらい。

前頭上位。正代はやたらと動きが鈍く,ここ数場所では最悪の出来だったと言ってよい。ケガでもなさそうだし,何だったのか。同じ星数だが,貴景勝の印象は悪くなかった。しかし,となると絶不調で5勝と奮闘しての5勝,どちらがよいのかという話かもしれない。ここに来て押し相撲が開花しそうなのは北勝富士で,御嶽海・正代・宇良に次ぐ若手四番手に成長したか(ここに輝と阿武咲を入れると6人衆になる)。宇良は右膝のケガだけが心配。右膝を軸にして防御を固めつつ動き回って撹乱するのが宇良の基本戦術なので,右足が機能しないと相撲全体の動きが止まる。後半の相撲は悲惨であった。輝は腰高い日と低い日に綺麗に分かれ,低い日は勝てるが高い日は負けるという単純な様子。まあ,全日高かった以前に比べれば随分と進歩している。

若手以外では栃ノ心の動きが良かったが,来場所も続くとはあまり思えない。栃煌山は「ここ数年で一番体の状態が良い」と自分で言っていたが,言うだけの動きではあった。12勝したとはいえ,それがこの地位で現れてしまったのは惜しく,どうせなら関脇・小結の地位でその状態であったら良かったのに,とは思う。

前頭中盤。阿武咲は来場所上位初挑戦になるが,どこまで通用するか。今場所までの出来を見る限りでは,輝・貴景勝と同程度で5勝かなと思う。逸ノ城は覇気のある日と無い日が極端で,ある日はぼちぼちの相撲になるが,無い日は身体に比して粘りがなさすぎる。対戦相手と星数で覇気を決めているようにも見える。覇気がないという点では隠岐の海も同様だが,どの程度病気の影響なのか。碧山の13勝は大したもので,番付と実力を考えれば上りエレベーターではあるのだが,それにしたってよく勝った。千代大龍は久々に幕内で活躍した。突き押しの威力がかなり戻ってきているのは間違いなく,MSP(明月院スペシャル)が出たのも彼にとっては好調の証と言えるかもしれない。前頭中盤最大の収穫は,案外千代大龍の復活かもしれぬ。

前頭下位。千代の国の相撲がアクロバティックなのは以前からだが,今場所は勝ち負けともに派手で,終わってみると8−7という地味な星に落ち着いたのは一周回って順当か。勝つときだけ派手ならもっと上で活躍できるのだが。豪風と宝富士は番付を考えると星数が少なかった。豪風は動きが悪そうに見えなかったが,最後二日は対戦相手が悪かった(碧山・輝)。なんでまたあんな前頭上位の力士と。宝富士は実は不調だったのではないかと思う。最後に千代丸。彼もまた久々に幕内で見た力士だが,丸い腹を上手く使った相撲を取っていた。豊ノ島を彷彿とさせる腹の使い方で,あの形にさえ持っていければ勝てるのだが,そうならない展開になると脆い。とりあえず前頭中盤では通用するが上位には通用しなさそうに見えるが,どうか。


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2017年05月29日

白鵬の帰還

場所前に,なんとなくこうなるのではないか,と思っていた展開通りに優勝争いが進んでいった場所であった。鶴竜の休場だけはちょっと読めなかったが,稀勢の里はケガが治りきっていないだろうから散々な成績になるか途中休場が濃厚として,日馬富士と白鵬の一騎打ちになる可能性は最初から高かったと言える。全体の相撲内容で言えば,10日目くらいまでは完璧だったが,終盤はやや失速した。というよりも前半は全体としてテンションが高すぎて,終盤は全員でスタミナが切れ,息切れをしていたような感じ。高安はその典型だった。この点でむしろ個人としては逆を行っていた白鵬は,やはり優勝の仕方というものをつかんでいるのだろう。


良い場所だっただけに,まとめて語ることもそんなにないので,さっさと個別評。優勝した白鵬から。今場所は足腰の粘りが戻ってきていて,固い守りであった。攻撃面については,先場所「身体能力の衰えに意識が追いついていないだけで,脳と身体の感覚が一致すればある程度元の相撲振りに戻るのではないかと思う」と書いたが,まさにそんな感じで,全盛期よりはワンテンポ遅いけれども,それでも十分な速度と威力であった。本人が優勝インタビューでやたらと「まだまだ若いアピール」していたが,裏を返せば衰えは言われるまでもなく自覚しているということだろうし,相撲が晩年型になってきたからこそ言葉では,というところか。

日馬富士は高安に負けたところでエンジンが切れたか。しかし,千秋楽の相撲で負けたながら魅せてくれたというところも含めて及第点の内容だろう。2016年下半期には鳴りを潜めていた突き刺さるような立ち合いが復活してきていて,大変良い。稀勢の里のケガ次第では来場所も同じ展開,白鵬とのマッチレースになるのではないだろうか。稀勢の里は左腕が効かずとも,平幕相手なら右腕と足腰だけで勝てるという自信があり,9−6くらいの勝ち越しにはなるだろうという算段で出場していたのではないかと思う。しかし,蓋を開けてみると左を使わないとやはり勝てず,左が悪化すると負けが込み,負け越しが見えて休場となった。最初から休場していても誰からも文句が出なかっただろうと思うのだが,そこは稀勢の里の性格もあり,横綱になったものにしかわからないプレッシャーもありというところだろうか。

大関陣。照ノ富士は立派も立派で,先場所13勝からの今場所12勝,あの膝の状態で無理せずとってこの星数はもっと賞賛されていいと思う。相撲の取り口は先場所と同じで,差し手争いで左四つが生命線,外四つになっても無理に振り回さない,投げは引っ張りすぎないを鉄則にしていたように見える。そのかいあってか13日目の終わった直後以外は特に痛がっている様子なく取りきっていた。かえすがえすも初日・二日目の謎の敗戦が惜しく,あれがなければ14勝1敗で来場所綱取りの声さえもあっただろう。豪栄道はカド番脱出で,こちらは派手な勝ち星では無かったが安定した取り口で安心感があった。

三役。高安の大関昇進は誰からも文句のつけようがない。相撲内容はとにかく立ち合いの体当たりが強烈で,平幕相手ならほとんどそれで勝負がついていた。その後の攻めも迅速で良い。途中2番落としたが連敗癖も出ず,精神面でも強くなった。地力はまるっと1年前くらいの時点ですでに強かったが,連敗癖が消えたのは間違いなくここ半年の現象で,兄弟子稀勢の里の綱取りが好影響だったのだろう。問題は立ち合いの当たりが通用しなかった場合の攻め手をやや欠いていたように見えた点で,14日目の正代,千秋楽の照ノ富士はまさにこれ。改善を求めたい。あとは千秋楽,照ノ富士に極められた右肘を痛めたようで,そこが不安である。

玉鷲は本当に10勝してしまって,おいおい大関取りか。ここまで来たら32歳からの大関取りで伝説を作って欲しいが,そこまで求めるには正直プラスアルファで何か欲しい。あの突き押しは素晴らしいが,あれだけではあと23勝は厳しい。琴奨菊は結果7勝にまとめたものの,先場所陥落したのは運命のいたずらではなくやっぱり順当な結果だったのではないか,と言いたくなるほど内容がひどかった。変化もなく7勝までもっていったのが不思議なくらい。御嶽海は今場所も突き押しの調子が良かった。来場所は新関脇で,先々場所は前頭1で11勝・先場所は小結で9勝で関脇ならずという不運であったから,やっとである。嘉風はノーコメント,というか単純に及第点の出来だろう。どうなってんだよ35歳。

前頭上位。遠藤は本当に三役に縁ないね。6勝だけども,勝ち越してても結局小結の枠が空かなかったという。千代の国は2−13の大敗だけど,本人がとても楽しそうに相撲を取っていたので好印象。栃煌山は平成28年の初場所に「栃煌山は大関昇進前の稀勢の里や豪栄道と同じ状態で,28歳という年齢も考えると今年の6場所がタイムリミットであろう。」と書いていたのだけれど,残念ながら間に合わなかった。とはいえ引退は程遠く,まだまだもろ差しになれば角界有数の突進力ではあるので,前頭中盤の門番としてがんばってほしい。

前頭中盤。ここは北勝富士と貴景勝の二人を挙げるしかない。現状の有望な若手トップ2というと正代・御嶽海だが,それに続くのはこの二人か。二人ともは来場所上位挑戦となるが(貴景勝は初挑戦),突き押しが通用するか注目したい。個人的には,貴景勝はやっぱりその四股名気になるので,三役にでも上がったタイミングで貴景虎に変えよう(提案)。逸ノ城は無気力から戻ってこない。湊 親方が言ってもきかないなら,別の親方にでも言ってもらった方がいいのでは。輝はなんかもう腰高のままどこまで勝てるか挑戦して欲しい。昔稀勢の里にも同じことを言った覚えがあるが,彼は横綱になったぞ。栃ノ心は12勝しているが,家賃の安さに2番の変化を考慮すると別に。内容は特に論じるものがない。宇良はなんで三賞もらえなかったのか不思議。14日目の伊勢ヶ濱親方が「宇良はなにやってもいい」と言っていて,これだけ協会お墨付きが得られた人は舞の海以来では。千秋楽の宇良は立ち合いを成立させつつ真後ろに飛ぶという離れ業を達成していた。なんならあれだけで技能賞でしょう。

前頭下位。石浦は潜って下から攻める相撲がよく出ていておもしろかった。石浦は里山ほど技巧があるわけでもないし宇良のようにトリッキーでもないが,潜ってから押す力は随一ではないか。琴勇輝はおとなしく休場すべきであった。膝がずたずたなまま出ていて,見ている方が痛かった。阿武咲は新入幕10勝お見事。ただ,ここまでは貴景勝と北勝富士が通ってきた道であるので,さっさと上位に来てほしい。逆に豊山は思われていたよりも通用しなかった。身体はできているように見えるのし,時折強い相撲を見せるのだけど。単純に幕内のスピードについていけていないか。「十両と幕内で一番違うのはスピード」とはよく言われるが,あれは実際のところ何なのだろう。妙義龍は引退が近いのかな。十両でならまだ取れそうだが……


佐田の富士が引退した。巨漢でかつ筋肉質であり,身体だけなら大関クラスに見えた。強烈な突きを武器にした。しかし,筋肉が上半身に偏っていて,腰高ではあったがもっと根本的なところでバランスが悪かった。また突きは一発が重くリーチも長いが回転が悪く,一気の出足で押せればよいが,外されると二発目が届く前に中に入られるというパターンが散見された。いっそ四つ相撲に変えた方が身体的な弱点が隠せたのかもしれない。最高位は前頭2。いつの間にか姿を見せなくなったと思ったら,平成28年5月以降急速に衰え,その後幕下まで落ちた後はずっと休場していた(休場中に三段目)。どこか大きなケガでもしたのだろうか。詳細は特に報道がなく不明である。幕内の上位にほとんど姿を見せなかった割には,身体の大きさゆえに印象が強い力士であった。
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2017年03月27日

「痛みに耐えてよくがんばった」(約15年10ヶ月ぶり)

劇的な幕切れであった。伊勢ヶ濱ーズが見事に連携して優勝したのは,もう2年前の5月場所のことだったか。今場所もそうなるのかと思わせられたり,あるいは田子ノ浦部屋との連合軍対決化と思わせられたりしたが,最後の最後は結局のところ稀勢の里と照ノ富士という個のぶつかり合いであった。

ともに途中まで万全の相撲ながら照ノ富士は高安戦の敗戦から相撲が荒れ始め,案の定膝のケガを再発し,そのケガを隠しつつも,14日目にたまらず変化した。稀勢の里は13日目に左肩の筋肉を断裂するケガを負い,当然隠し通せるはずもなく,14日目は脆くも敗北した。照ノ富士の側は14日目に「切り札」を切ってしまったから,千秋楽にその「切り札」を相手が使ってくるのを止めようがなかった。完全に読めてはいたが,膝ゆえに対応できなかった。それゆえに決定戦に進むことになったのだから,ドラマは13日目,それも稀勢の里ー日馬富士の取組ではなく,膝が緩んだ照ノ富士ー鶴竜から始まっていたのかもしれない。この奇しくも似て非なる状況に置かれた二人が,非なる状況によって明暗を分けた。それこそ2年前の5月場所に並ぶような,鮮烈なスポーツドラマを体験させてくれた,この場所にまるっと感謝を捧げたい。(その意味で,稀勢の里が賞賛を浴びる一方で,ケガを隠していたせい・よりによって変化した相手が琴奨菊だったという事情はあれども非難されるだけの照ノ富士という状況はちょっと納得がいかない。)

さて,どうにも連想してしまうのは確かなので,こういう記事名にしてしまったが,あの時とは少し状況が異なるように思う。私も13日目が終わった直後や,14日目の取組を見た後は「根性の強行出場で貴乃花の再現とかやめてくれよ……休場でいいよ……」と当然思っていたクチだが,実際のところ,14日目はともかく千秋楽は勝算があっての出場だったのだろうし,事実勝ってしまった。照ノ富士の膝の状態を見抜いた上での判断として,左を使わずに右と足腰だけで勝つ作戦を立てて。その状況と作戦から勝機を見出して出場に踏み切ったのなら,これまでの稀勢の里ではちょっと想像できないようなクレバーさである。実際にどこまでが正しくて,どこからが買いかぶりなのかはわからないが,ひとまずはその判断を称えたい。少なくともすべてが買いかぶりとは思えず,「痛みに耐えてよくがんばる」しかなく,結果その後の現役人生が消滅した貴乃花とは完全に重ねることはできまい。今後の稀勢の里がどこまで回復できるかはわからない。直後のNHKサンデースポーツでは「ほっとけば治る」と強がっていたが,さすがにそういうわけには行くまい。ただ,あの2番で致命的なまでに悪化したとは到底思えず,彼の今後の現役生活に与える影響は軽微な部類ではないかと思う。無論のことながら,それでも休むべきであったという意見にはかなりの程度同意する。

ところで,実は「痛みに耐えてよくがんばった」貴乃花は当時28歳で,現在の稀勢の里は30歳である。それまでの疲労の蓄積の差が当然あるとしても,あの大一番がいかに貴乃花の現役寿命を潰したかということに,約16年経って考えさせられる。

それと,千秋楽の2番に1つだけ文句を言うとすると,本割の相撲,稀勢の里のはたきが照ノ富士の髷にかかっていた疑惑が正直なところ拭えない。あの場に割って入り込み,しかもそれで稀勢の里の優勝が消えるとなると声を掛けにくかったのは理解できるところだが,審判団は恐れず物言いをつけておいてほしかった。それが確認で終わるなら単純によし,それで照ノ富士優勝になるならあっけない幕切れだが致し方なしであろう。おそらく,疑惑の判定を言い続ける人は出てくると思う。

優勝争い以外では引き続きケガ人多数だが,先場所書いた通り,幕内上位全体が若返るまで当分続くと思われる。優勝争いによらず全体として内容の充実した15日間で,見ていてとても楽しかった。


個別評。横綱陣。稀勢の里は千秋楽も含めて,随分右が使えるようになったなと思った。中日の右突き落としに合わせた左小手捻りは見事な左右の連携だった。あとはほんとにケガの状態が心配なだけ。なお,日馬富士に敗れるまで実は18連勝中であった。日馬富士は日毎の調子の差が非常に激しく,稀勢の里に勝った相撲が毎日できれば優勝なんだがね……。鶴竜は休場明けという弁解の余地はあるものの,星数10という少なさ以上に内容がなく,14日目に稀勢の里がケガしていなかったり,どこかで取りこぼしていれば一桁,あるいは負け越していたかのような状況であった。鶴竜が今場所負けた力士は照ノ富士と琴奨菊以外の3人は全員押し相撲で,どうも自分から突き押しの展開に持っていく割に,押されると残せる足腰がないように見える。相撲を変えた方がいいのかもしれない。白鵬は以前から書いている通り,身体能力の衰えに意識が追いついていないだけで,脳と身体の感覚が一致すればある程度元の相撲振りに戻るのではないかと思う。

大関陣……というよりも豪栄道はノーコメントで,照ノ富士について。前半は無敵の相撲で,取り口も少し変わり,外四つで無理に寄っていったり振り回して投げたりせず,左四つになるように心がけ,きっちりと形を作ってから寄るということに徹していた。前から「左四つに徹するべき」と主張していたので「そうそうそれでいいんだよそれで」と思って気分良く見ていたのだが,後半戦に入ると好調すぎて欲が出たか,あるいは6日目の高安に通用しなかったせいか,以前の振り回す相撲に戻ってしまい,非常に残念であった。案の定13日目にパンクし,14日目・千秋楽に至る。あの6日目の高安戦に焦点を当てるなら,今場所は部屋対抗戦の文脈に乗せることもできよう。改めて,照ノ富士は左四つを磨いていくしかないと思った場所であった。今場所優勝同点なので来場所は綱取りになるが,14日目の変化をマイナス査定しないとしても,昨年の体たらくを鑑みても,4横綱という状況を鑑みても,ハードルは極めて高く設定されそう。優勝は当然として星も全勝か14勝しかダメ,下手したら全勝しかダメとかになるのではないか。現実的には上手くいっても来場所12-13勝で綱取り継続,名古屋で13-14勝の優勝条件とかになるか。

三役。まず,琴奨菊は実力半分不運半分といったところ。割がずれてて14日目が優勝のかかった照ノ富士でなければ運命は変わっていただろうと思う一方,そもそもそこまでに5敗していたのが悪いとも言える。14日目にはあの取組を見て「まともにやってても照ノ富士が勝ってただろうから,変化くらいいいじゃないか」と言ってしまったが,照ノ富士の膝の悪化を見抜けていなかった発言なのであれは撤回したい。まともにやっていたらいい勝負になっていたかもしれない。ただし,それはそれとしても,琴奨菊は以前に7−7,カド番脱出の掛かった1番で照ノ富士に対して変化して勝っている(照ノ富士は優勝争い脱落ながら12勝目:優勝次点がかかっていた)ので,若干の因果応報感はある。変化に笑うものは変化に泣くのである。

次に,高安は堂々の12勝で内容も良かった。立ち合いの当たりが強烈で,いつの間にぶちかましにあんなに威力が。先場所11勝だから積み増して残り10勝。完全に大関取りが視野に入っている。今場所の相撲振りを見る限り,変なケガとかなければ届くと思うが,連敗癖があるいわゆるツラ相撲である点と,すでに横綱・大関が合計6人いるためにハードルが高く設定される可能性の2点は大きな不安材料である。個人的には,10勝なら内容を気にせず上げてしまってよいと思う。玉鷲はまだ好調が持続しており,すでに嘉風旋風よりも長いのでは。御嶽海は引き続き突き押しの調子がよい。9勝して関脇に上がれないのは不運すぎる。代わって正代は明らかに絶不調で,14日目に痛めた左肘のケガが長引かなければよいが。


前頭上位。蒼国来・貴ノ岩は思っていたよりも全く通用しておらず残念な出来。荒鷲は2場所連続は続かなかったか。遠藤は何とか勝ち越しで,「上手いんだけど上手いだけ」の力士になりつつあってこれも残念。ただ,まわしとった時の上手さは本当にそれだけで金が取れるレベル。北勝富士は負け越したが,ある程度突き押しが上位に通用したと見ていいかも。それなりに印象に残る動きをしていた。今場所が初土俵から初の負け越しとのこと。

前頭中盤。千代の国は非常に動きがよく,大ケガからの復帰後では最高の出来では。決して小さくないあの身体で飛び跳ねるのだから派手でおもしろい。それだけにケガもしやすいのだろうが。来場所はかなり高いところまで番付が上がりそうだが,無理せずに取ってほしいところ。栃ノ心は地力で7−8まで持っていったが,調子は最悪に近かったのでは。本来の右上手で万全という相撲がほとんど見られず,バタバタした相撲が目立った。これは10勝した栃煌山も近いことが言え,絶不調では無かったにせよ本来の動きではまったくなかった。

前頭下位。大栄翔と貴景勝は非常に良かった。また二人も有望な突き押しの力士が出てきたなという印象。大栄翔に三賞が無かったのは不思議で,印象としては同レベルだったのだが。貴景勝はまだ幕内2場所目という点が取られたのかもしれない。輝と御嶽海も含めると,新世代は突き押しブームか。代わって妙義龍はまさかの負け越しで,脆さがいよいよ顕著になってきた。

以下,いつもの予想番付。  続きを読む
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2017年03月21日

私的相撲用語辞典(3)投げ技・引き技編

(2)から。また半年空いてしまった。なお,(4)の立ち合い・寄り・その他編で終わる予定です。


・投げ,出し投げ
説明するまでもないような用語だが,相手の身体の内側に向かって腕を振って倒す技を投げ技という。上手でうてば上手投げ。下手でうてば下手投げになる。投げは比較的カウンターが効きやすい技で,相手が右からの下手投げをうってきたら,自らは左からの上手投げで応戦できる。この場合,当然先に仕掛けた方が有利ではあるが,膂力の差や,下手投げよりも上手投げの方が上から力がかかる関係で有利ということから,たまにカウンターの側が勝つことがあるので,「投げのうちあい」は熱戦の決着手になることが多い。

また,要は自分の腕の振りで相手の体が倒れれば「投げ」になるので,まわしに手がかかっておらずとも投げが決まるということはありうる。これは相手をつかむポイントが少ない相撲特有の現象ではなかろうか。下手がまわしにかかっていない状態,つまり自分の腕が相手の脇の下に入っただけの状態での投げを「すくい投げ」。逆に上手がまわしにかかっておらず,極めた状態での投げを既出の通り「小手投げ」と呼ぶ。すくい投げは,よくあれで投げが決まるなという印象がある。

さらなるバリエーションとして,投げをうつ際に身体を開き(横に動き),相手の前方に空白を作りながら,動く際の遠心力も利用してぶん投げることを「出し投げ」と呼ぶ。これも上手と下手で区別するので「上手出し投げ」「下手出し投げ」と決まり手が分かれる。遠心力を利用するので威力があるが,身体を開く関係で引き技になって呼び込むことも多く,出しどころが難しい。あとはレア技として柔道と共通する背負い投げ(一本背負い)と腰投げ,掛け投げ(柔道の内股)がある。

投げ技はメジャーゆえに得意な人が多いが,左の上手投げとなれば第一人者は白鵬になろう。上手出し投げとなると間違いなく日馬富士で,芸術的に決まると拍手喝采である。右上手投げなら魁皇か。こうしてみると近年の投げの名手で下手投げの方が得意という人があまり思い浮かばないが,朝青龍の場合どこからでも4種の投げが飛んできたイメージが強い。レジェンドクラスだと千代の富士の左上手投げが有名。現役の関脇以下だと,間違いなく挙げないといけないのは荒鷲で,下手投げでの逆転劇が多い。かなり強引にうつが,割りと決まっている。あとは栃ノ心の左上手投げと,勢の右すくい投げを挙げておく。勢の右すくい投げは綺麗に決まると相手が完全に一回転するので,見ごたえがある。背負い投げは豪風がたまに見せる。


・掛け技
足技のことである。自分の足を相手の足に「かけて」倒すので掛け技の名がある。代表例は外側から蹴り込む外掛け,股の間に足を飛ばす内掛け,立ち合いと同時に足を飛ばす蹴手繰り(けたぐり)がある。あとは投げると同時に足を掛けることもあり,前出の掛け投げ(内股)の他に,櫓投げ・二丁投げ・切り返し・ちょん掛け・河津掛けなどがあるが,いずれもレア決まり手でほとんど見ない。当然足を掛けながら投げた方が威力は高まるが,足を飛ばすということは自分のバランスも不安定になるということで,投げながら足も使うというのはプロであってもなかなか難しいようだ。にもかかわらずやたらと分類が多く,大相撲の決まり手が八十二手まで膨れ上がっている主要因である。

近年の足技の名手として有名なのは,つい先日亡くなった時天空であった。彼の現役時代は,時天空がどれだけの足技を場所中に見せるかが一つの楽しみのポイントであった。現役では佐田の海がたまに足技を見せるくらいである。


・首投げ
寄ってきた相手の圧力を利用して,腕で相手の首を巻き,そのまま体を預けて投げ倒す技。両者同時に身体が飛ぶことになるが,その時に自分が上になっていれば勝ちである。かなりリスキーな逆転技で,思い切りの良さとセンスが問われるが,うまくはまれば脅威の逆転技になる。本来はほとんど決まらない,あまり見ない決まり手であったのだが,豪栄道がおそらく大相撲史上稀に見るレベルでの首投げの名手で,これで数々の奇跡の逆転劇を演出してきた。ただし逆転技には違いなく,豪栄道が好調な時にはかえって首投げを見ない。豪栄道の調子のバロメーターと言えるかもしれない。


・捻り技
内側に向かって腕を振って相手の身体を倒すのが投げ技なら,その逆に腕を外側にひっぱる,あるいは手首を外側に向かってひねることで相手の身体を倒す技を捻り技という。あまり決まり手で見ることがないが,全体重を乗せてうつ投げ技に比べると腕力頼りになるのでどうしてもうちづらいところはあるだろう。しかし,相手からすると思っていたのと逆方向に回転することになるので,不意を突かれて大回転してぶっ倒れることになるので,決まるとかなりかっこいい。

投げ技同様,まわしに手がかからない状態で決まることがあるが,小手投げの状況なら小手捻りになる。以前に極め技の項目で紹介したとったりも捻り技に入るが,確かにこれも相手の腕を捻っているに違いない。その他捻り技はバリエーションが多様で,網打ち・腕捻り(かいなひねり)・頭捻り(ずぶねり)・波離間投げ・徳利投げ・首捻り・大逆手など,なぜだか少しの状況の違いでやたらと種類があるが(これも決まり手が八十二手もある要因である),大半がめったに出ないレア技である。正直,私もぱっと見でどれがどれだかわからない。波離間投げと徳利投げなんて名前に「投げ」ってついてるじゃねーかってツッコミは決まり手を調べたことがある人なら誰しもがしていると思う。それだけに決まり手発表でこれらの捻り技が出ると場内がどよめくことが多い。現在開催中の2017年春場所で稀勢の里が小手捻りを決めていた。

そもそもあまり見ない技なので得意な力士と言われると少し困るが,現役だと高安が得意なイメージがある。(元)師匠の横綱隆の里が現役時代に得意技だったそうなので,その系譜かもしれない。


・内無双/外無双
捻り技をうつ際に,ひねらない方の腕で相手の足を払うことを無双技という。やたらと名前がかっこいいが,足が2本であるから「双」で,その片方が払われて倒れるので「無双」となる。相手の股の間に腕を伸ばして払うことを内無双,外側から払えば外無双となる。ただでさえ予想外の捻り技に加えて,予想だにしないところに腕が伸びてきて足にダイレクトアタックするのだから,意外性は大きく,威力は高い。しかし,無双技をうつには上体がかなり下がっている必要があり,かなり特定の体勢で相手を組んで捕えていないと腕が足まで届かないので,体勢の時点で読まれてしまうところもある。特に相手が以前に出してきたことがあれば,警戒は必須だろう。

その中でよく決めていた名手というと,第一に琴光喜が挙がり,次に舞の海か。現役力士だと白鵬が決めていた記憶があるが,得意技というほどのものでもない。というよりも,白鵬が内無双以外に打開策がない状態に追い込まれること自体が少ないが。琴光喜の内無双は本当に見事で,完全に警戒されているであろう状況からすぱっと切れ味良く決めていた。


・引き落とし・はたき込み・肩透かし
土俵の後背地を利用して下がる,あるいは横に動くことで離れた間合いを作り,この空間に前のめりにつっこんでくる相手をそのまま倒してしまう技のことを引き技と呼ぶ。代表的な引き技は引き落とし・はたき込み・肩透かしの3つで,相手のどこかをつかみながら下がっていれば引き落とし,つかんではいないが差し手を引っ掛けて倒していれば肩透かし,全くつかまず上からはたいた(叩いた)だけならはたき込みになる。が,この3つの境界はけっこう曖昧で,ぱっと見ではどれかよくわからないことが多い。なお,肩透かしは一応捻り技に分類されているが,力士によって引き技に見えたり捻り技に見えたりする。コメント欄の宮川拓さんのコメントも参照のこと。

レアなところでは素首落としというのもあり,これははたき込みの際にはたいた場所が首か後頭部ならばこの決まり手になる。前出の通り,出し投げも横に動くので引き技っぽいところがあるし,後出の突き落としを含んでもよいと思う。

引き技は決まればお手軽であり,省エネ相撲である。15日間激闘を繰り返す関取にとってはスタミナは重要で,できれば引き技で勝ちたいのはわかるところであるが,引くタイミングを間違えると単純な自滅行為になり,これを「呼び込む」と呼ぶ。相撲を観戦していると,関取の敗因が少なからず「呼び込み」による自滅というのがわかるはずである。また引き技は失敗すると,相手が自分を吹き飛ばそうと圧力をかけてきているところに自分も下がっているので,身体が大きく後ろに飛びやすく,着地に失敗してケガをしやすい。相撲で安易な引き技は禁物とされるのは,力士生命を鑑みればの部分が大きい。


突き落とし
相手の脇のあたりを突いて,横向き(あるいは斜め)に相手を倒してしまう技を突き落としという。突き落としのおもしろいところは,技の名前のイメージと違って概ね引き技であるということであろう。下がりながら打たれる技なのである。なぜなら前に出ながら突くと相手は後ろに倒れることになり,この場合は決まり手が「突き倒し」になるからである。当たり前すぎる話になるが,下がりながら突いても,相手を後ろに倒す威力には欠く。一方,相手ががむしゃらにこちらに向かってきている状況は,がむしゃらゆえに相手も重心がぶれているので,横向きに圧力を加えればバランスがとれなくなって倒れてしまう。だから,下がりながらうつなら横向きの突きとなり,引き技としての突き落としが目立つということになる。

突き落としは誰でもよく出す技ではあるが,あえて言えば稀勢の里の左突き落とし,琴奨菊の右突き落としが現在の上位陣では強い。稀勢の里は腕や肘をめがけたおっつけが外れて脇に当たるも,結果的にこれが突き落としになるパターンが多く,琴奨菊は右四つで寄っていって,寄りきれないと見るや一転して引いて右から突き落とすというパターンが多い。  
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2017年01月24日

その日,牛久はお祭り騒ぎであったという

毎場所予想だにしない展開が訪れるから,大相撲はおもしろい。昨年に琴奨菊・豪栄道が優勝したという予兆はあったが,「あの稀勢の里が」という話である。以前から言われていたように,稀勢の里に足りなかったものは精神面の強さであった。とはいえ精神は簡単に鍛えられるものではなく,最後まで何ともならないことさえある。その精神面が整うまで,稀勢の里の場合は約15年かかったということなのだろう。間に合っただけよしと見るべきなのかもしれない。

稀勢の里の横綱昇進問題で世間が割れているが,甘めの条件でもう1場所見るべきというのを基本線として,そこまで忌避感があるわけでもないというのが私見である。「綱取り要件で1場所敢闘すること」が綱取り場所の試練ではあり,突発的に綱取り場所になるのはやはり奇妙である。とはいえ昨年の年間最多勝は考慮されるべきであり,2差ついたとはいえ優勝次点・12勝で3横綱撃破というのも大きかろう。「年間最多勝を考慮した綱取りなど前例がない」という意見は一理あるが,それを言い出すと「優勝の無いまま年間最多勝など前例がない」という話になる。「双羽黒以後の基準では小錦・魁皇・貴乃花あたりとの整合性がとれない」という意見については,魁皇はもろもろを考えるとやはり不適当だと思われるし,小錦と貴乃花は過去の基準の方が過度に厳格で誤っていた(上げなかったのがおかしい)という話である。過去の誤った基準にとらわれる必要はない。ゆえに,過去の前例はあまり役に立つものがない。

問題はやはり「初場所は綱取り」と明言されていなかったことだけである。じゃあなんでもう1場所待てなかったのかというところで,稀勢の里の昇進はやはり“性急にすぎ”,確かに無理やり(民族的)日本人横綱を作ろうとしている影響と言え,見ていて気持ちのいいものではない。だからこそ,「春場所は12/13勝で優勝の有無は問わず」あたりが妥当な落とし所だったように思う。なお,直近2場所で揉める際に持ち出される直近3場所の勝ち星で言えば,今回の稀勢の里は36勝であり,武蔵丸の34勝を優に超え(ただし武蔵丸はきっちり連続優勝である),旭富士・曙・若乃花と同水準である。来場所12/13勝なら稀勢の里も直近3場所が38/39勝であるから,38勝は朝青龍・白鵬・日馬富士と同水準であり,鶴竜の37勝を上回る。数字の面から見ても,さすがに批判は消滅しよう。


その他ではやはり上位でのけが人の多さは目立ったが,これは先場所の評にも書いた通り,今の役力士の年齢層が高い方に偏っていることが大きな原因で,過渡期の一時的な現象ではあると思う。それはそれとして,公傷制度復活は議論されるべきだが。立ち合いの厳格化は引き続き上手く行っているように見える。後半は少しつっかけるパターンの待ったが多かったが,前半は綺麗だった。


個別評。白鵬は衰えが継続している。先場所は休場明けの試運転という感じで単に気力が充実していなかっただけのように見えたが,今場所は気力があったのに負けていた。白鵬の取り口は平幕相手の速攻省エネモードと,上位陣相手の万全四つ相撲モードの2つあることは以前から書いているが,先場所・今場所はモードの切り替えが上手くいっておらず,万全モードになれなかったように見えた。照ノ富士・琴奨菊が悪すぎて勝ったが12・13日目も本来なっているべきの万全モードではなかったし,上位陣にケガが多くて助かったのは案外と稀勢の里よりも白鵬かもしれない。鶴竜・日馬富士が休場で無ければ勝ち星が一桁になっていた可能性もあり,そのくらい今の白鵬の状態は悪い。日馬富士はノーコメント。鶴竜はもったいない場所であった。ケガを名目に休場はしたが,実際に何が悪かったのかはよくわからない。実際にケガはあっただろうが,休場するようなものには見えなかった。

ズタボロの大関陣。稀勢の里は,相撲内容自体には変化がなく,それほど語るところはない。しいて言えば落ち着いて相撲が取れていたと思う。陥落する琴奨菊は,ずっと陥落が危ぶまれての在位32場所で優勝1回を含むのだから,よくもったと言うべきなのだろう。がぶり寄りで寄り切るか,寄り切れなければ右からの突き落としで勝ち星を稼いでいたが,いずれにせよ馬力が無ければ成立しない。ケガで満身創痍であり,もはや馬力を保てる身体ではなかった。一方,豪栄道はもう少し身体に貯金があり,8勝してからの休場は褒められもしないが,批判されるものでもない。照ノ富士は……来場所陥落しなければいいけど……

三役・前頭上位。玉鷲は覚醒状態が続いている。去年の9月からなので,そろそろ半年になる。正代は負け越したが7勝で上手くまとめた。毎日相撲振りがいい意味で変わる人で,おもしろい。高安は11勝で再度大関取りの起点を作った。今場所記述すべきは何より御嶽海で,突き押しの攻撃力が伸長著しい。先場所の評に「正代は遠藤の後に出てきた世代では完全に頭一つ抜けたか。」と書いたが,御嶽海が1場所で追いついた。明らかにフロックではなく地力がついている。技能賞は妥当。荒鷲は家賃が高くて負け越したものの,インパクトは残した。NHKの実況に「何をしてくるかわからない」と盛んに言われていたがその通りで,動きがトリッキーなだけでなく投げの切れも良いので相手はやっかいである。勝ち越していればそれこそ技能賞妥当であった。上位初挑戦の場所だったことを考慮すると6勝は立派と言えるかもしれない。なお,2歳年上の玉鷲がいるのであまり注目されないが,この人も30歳での上位初挑戦でこの相撲であるから,なかなかの晩成である。栃煌山は休場したほうが良かったのでは。豪風はもうさすがに衰えただろと思うたびに何か10勝してて驚く。


前頭中盤。あまり書くべき力士がいないが,北勝富士が目立ったくらいか。なかなか良い突き押しを持っていると思う。仰々しい四股名に負けないように頑張ってほしい。なお,ここまで初土俵以来負け越し無しである。石浦は前頭中盤では通用せず。さすがに低い立ち合いで中に入って,という相撲が読まれるようになり,とすると今度は身体の軽さが悪い方に響いてしまった。とはいえ重くするべきともあまり思えず,技巧を凝らすべきであろう。そうそう,変化で2つ星を拾っているが,確かに変化は上手い。さて貴ノ岩,この人はもともとエレベーター力士で中盤では大勝する実力が十分にあったが,今場所の貴ノ岩のハイライトは白鵬戦で,あの場面だけ稀勢の里の左腕が乗り移っていたのではないかと思われるような強烈なおっつけが見られた。そうしたらtwitterである人に「少年漫画の終盤かな?」と言われたが,惜しむらくは,稀勢の里と貴ノ岩の間に別段因縁はない。蒼国来の12勝は本当に立派で,この相撲が数場所続くなら上位定着するだろう。右でも左でも差し手が入ればうるさく,寄り・投げ・つりとバリエーション豊かに攻め立てる。技能賞にふさわしい。

前頭下位。輝は突きが重い一方で異様な腰高で,見るたびによくあれだけ腰が高いのに勝てるなと変に感心してしまう。結果8勝だが,印象には残る。ただ,無理にもろ差しをねらって相撲が小さくなる欠点は修正されており,縮こまらなくなった分,腰が高くなったとすると納得はいく。貴景勝はその四股名縁起が悪すぎないかという心配を勝手にしていたが,序盤は幕内の土俵に慣れていなかった様子だったものの,後半はよく突いた相撲が見られた。来場所に期待。逸ノ城は11勝しているが,相撲はそれほど。14日目の稀勢の里戦は,稀勢の里本人より緊張していなかったか。昔はもっとふてぶてしかった気がしたが,前頭下位にいすぎて上位の空気を忘れてしまったのかもしれない。
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2016年11月30日

稀勢の里が大相撲の歴史に名を残した場所

混戦になるかに見せかけて,さらっと鶴竜が優勝した場所であった。しかし,そこに鶴竜の成長が見られるとは思う。場所の雰囲気が混戦になったらそれに巻き込まれるのは,どんな力士でも割りとある現象である。鶴竜も稀勢の里に敗れて1敗に下がった時には,そうなりそうな雰囲気があった。しかし彼は踏みとどまって,最終的には抜きん出た成績を残すことになった。「自分は自分である」として相撲が崩れなかったのは立派であり,先場所の豪栄道のような独走とはまた違った強さであると思う。見どころが序盤から中盤にかけて変遷したが,最後は全て鶴竜が持っていったというのは,何か不思議な爽快感があり,一年の締めとしてもふさわしい場所になったのではないかと思う。

一方で,ある新聞記事で「今年の優勝者は全員30代で,世代交代が今ひとつ進んでいない」という指摘があったが,実際にその傾向は年々強まっている。横綱・大関陣どころか大関取りの面々まで長らく変わり映えがなく,栃煌山と隠岐の海も30代,宝富士と魁聖も29歳で,これからの大関取りはかなり難しかろう。若手も照ノ富士こそ大関になったが,高安は今場所失敗,遠藤と逸ノ城は前頭上位で定着できておらず,大砂嵐に至ってはケガに苦しんで幕内になかなか上がってこない。これから期待が持てそうなのは正代と御嶽海くらいか。実のところ,高齢化自体は力士寿命が伸びているということで悪いことだとは思わないし,なんだかんだでニューカマーが多くて話題は尽きない印象もあるが,一方で現在の幕内上位陣の年齢層が固まりすぎていて,2・3年後くらいにごっそり交代するのではないかという心配は割りとある。


個別評。鶴竜は飛び抜けて強かったという印象はないが,安定感はあった。そして,白鵬と日馬富士の次の実力者となると,やはり鶴竜が出てくるのであり,横綱という地位は伊達ではないというところを見せてもらった。あとはやはり,前述の通り,場所の雰囲気に流されず崩れなかった安定感は賞賛に値しよう。そういえば前に二度目の優勝をした時「自分は自分である」みたいなことを本人が言っていなかったか。白鵬はあからさまに相撲勘を失っていた相撲が多く,詰めの甘さが目立った。もう一歩踏み出すことは容易にできたのに踏み出さなかったせいで逆転負けを食らった相撲が遠藤戦と稀勢の里戦であり,この2敗でやる気を失ったようにも見えた。休場明けの試運転という意識が本人にもあったのかもしれない。今までよりも負けた後の表情が悔しそうではなく,落ち着いていたようにも見えた。日馬富士は,実は12日目に稀勢の里に負けて2敗目を喫するまで,優勝は固いと思っていた。あの相撲については稀勢の里が会心の相撲だったとしか言いようがないが,14日目の白鵬戦で負けたのは日馬富士側のスタミナ切れと言わざるをえない。

大関陣。稀勢の里は史上初の優勝なしの年間最多勝おめでとうございます。年間6場所制以後で初というのもさることながら,朝青龍と白鵬以外の最多勝は15年ぶり,日本人としては平成10年の若乃花以来18年ぶり,大関の最多勝は霧島以来25年ぶり,大関の最多勝自体が若嶋津・霧島に続く3人目という珍記録である。ほんとお前どうなんってんだよ。3横綱撃破後の13日目に栃ノ心戦は嫌な予感がしていたが,本当に負けるとは。ただまあ,あの一番について言えば栃ノ心の出来も良かった。そうそう,今場所の稀勢の里は,上半期のアルカイックスマイルでも,それ以前の無表情でもなく,何かを諦めたような悲しげで悟った表情だったのがとても印象的だった。彼自身,琴奨菊も豪栄道も優勝し,綱取り場所が途切れて思うところがあったのだろうか。

豪栄道は先場所ほどの好調さは無かったが,それ以前の8勝と負け越しを繰り返す相撲でもなく,まずまず悪くなかったように思う。星が9勝というのは意外ですらあり,平幕には全く落としていない。窮地の首投げも少なかった。照ノ富士は初日から2連敗した時には陥落かと思われたが,その後復調した。先場所までは組み方にあまりこだわりがなく,結果として外四つになって耐えられなくなって負けるというパターンが頻発していたが,今場所の照ノ富士は右でも左でもいいからまともな四つになろうという意識が見られ,それが勝ち越しの要因であろう。終盤再失速して8勝に終わったのは悲しい。琴奨菊はノーコメント。カド番がんばって。

三役。高安は,広い意味でのスタミナ切れではないかと。緊張の糸と言ったほうがよいか。人間半年も張り詰めているのは難しく,だからこそ大関取りの要件は「3場所」なのだろうけど。その意味で北の富士が「地力不足」と評していたのは正しい。その中で何とか7勝にまとめたのは,好材料ですらあるのかもしれない。先場所に「調子の波の変動が激しい人だが,何とか来場所まで持つか。」と書いたが,やっぱり持たなかった。御嶽海は上位挑戦二度目の場所だが,やはりまだまだ。玉鷲は突きの威力が異常に強かったが,前兆は先場所にもあって突発的な現象でもない。上位陣は対策をとってくるであろうし,大関取りまでは無理だろうが,まだしばらく楽しませてくれそう。

前頭上位。碧山はちょっと動きが重かった。太ったかな。遠藤は勝ち越せそうだったのに負け越してしまった。稀勢の里と白鵬を倒しておいて負け越しもなかろう……。しかし振り返ってみると,何かが致命的に欠けててどうにもならないというよりは,いろいろと足りないという様相なので,来場所で修正が効きそうな気も。正代は遠藤の後に出てきた世代(琴勇輝・御嶽海・錦木・輝)では完全に頭一つ抜けたか。何というか,頭のいい相撲を取っていて,その意味では鶴竜あたりに近いのかもしれない。琴勇輝は研究されていて,一時期に比べると相手にかわされているようにも見える。

前頭中盤。熱狂的なおじさんファンのいる栃ノ心は稀勢の里に勝ったのが今場所の全てです。貴方はよく頑張った。豪風は引き技の切れ味がすごかった。これはこれで1つの技術である。ところで,尾車親方がNHK解説に来るたびに「豪風には頭が下がる思い」と言っていて,もう何度も頭が下がっているので最近笑ってしまうようになってきた。それだけ親方が信頼しているというのはわかっているのだけれど。輝は先場所修正されたかに見えた相撲が元に戻っていて,相撲が縮こまっていた。腰も高い。荒鷲と千代翔馬は遠目から見ると本当によく似ていて,しかもどっちも取り口が技重視でよく似ているので余計に見分けが。荒鷲は右四つで左上手が生命線,千代翔馬は左四つで左下手が生命線という違いがある。あと荒鷲は実はスロー出世で現在30歳だが,千代翔馬はまだ25歳である。

前頭下位。新入幕の北勝富士は勝ち越し。突き押しがここまで通じているが,中盤に上がってどうなるか。逸ノ城はかなり痩せたが,不自然に痩せたため同時にパワーも失っていた。鍛え直しである。最後に石浦。低い重心と機敏な動きで,里山に近いというべきか嘉風に近いというべきか。特異な動きであるので周囲がまだ慣れておらず,勝ち星を稼いだところはあると思う。対策を立てられる来場所に真価が図られることになるだろうとはいえ,ひとまず今場所の10勝は見事であり,また見ていておもしろかった。今場所の17時より前の取組で,見ていておもしろかったのは石浦と千代翔馬・荒鷲であった。

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2016年09月28日

大阪出身力士の優勝86年ぶりが一番驚いた

白鵬が初日から不在という中で,優勝は日馬富士だろう,綱取りの稀勢の里がどう対抗するかという下馬評を覆し,優勝したのは豪栄道であった。それも圧巻の内容で,全勝優勝である。本人でさえこうなるとは思っていなかったそうだが,この展開を予想しえた人は極めて少なかろう。

豪栄道の今回の優勝は記録ラッシュであるので,先にそれを示しておこう。まず,日本人自体の優勝は直近で琴奨菊の例があるのでインパクトが無いが,日本人の全勝優勝に限れば,貴乃花以来で20年ぶりとのこと。カド番からの優勝は琴欧州以来で8年ぶり,初優勝が全勝優勝は武蔵丸以来22年ぶり。大阪出身力士の優勝が86年ぶりで,また,カド番からの全勝優勝は史上初とのこと。

豪栄道は必然的に来場所が綱取りとなるが,稀勢の里と比較すると,間違いなく優勝でありしかも全勝であることはプラスである一方,大関昇進以後の成績が極めて不安定である点はマイナスに働く。なにせ,大関昇進後の勝率が.556しかない。横綱に昇進する大関は最低でも.660くらいはあり,というよりも直近の鶴竜の.661と日馬富士の.671がほとんど最低値であって,通常は7割を超えている。これで豪栄道が昇進に成功したら,史上稀に見る「ワンチャンスを掴んだ男たち」が並び立つことになるだろう。豪栄道の昇進基準は,その鶴竜に合わせるなら「14勝で優勝同点,あるいは13勝優勝」が最低ラインで,これ未満は絶対にない。14勝次点(白鵬か日馬富士が全勝優勝)となると,非常に悩ましいが,個人的には緩い条件で初場所に流すというのが妥当判断であるかなと。

あと今場所の特記事項というと,立ち合い手付きの厳格化か。忘れた頃に繰り返されて定着しない試みであったが,今回は比較的上手くいっていると思われる。今場所も行司が止める相撲が多かったものの,以前よりは減っているし,行司ごとに基準がバラバラという理不尽さが以前にはあったが,今場所はそれもかなり統一されていたと思われる。このまま定着したら,今場所はちょっとした時代の転換点になるのかもしれない。


個別評。日馬富士は本当になんで三日目に負けるんでしょうね。そのジンクス以外では,優勝した豪栄道と12日目まで異様に強かった高安にしか負けていないので,十分及第点だろう。豪栄道が普段通りなら13勝ながら優勝となっていた可能性が高く,その意味で下馬評通りの働きだった。ただ,相撲の取り口は少し変わってきていて,2015年の九州で優勝したときにも指摘したのだけれど,以前ほど立ち合いの圧力がなくなってきている。かわって左上手からの寄り・投げは多くなっていて,彼もまた加齢と戦っているのだなぁと改めて思い知らされた。だからこその12勝は価値が高かろう。鶴竜は休場明けで,一応10勝はしているのだけれど,異様なまでに影が薄かった。正直に言って全く印象がない。

大関陣。優勝した豪栄道は相撲振りに大きな変化は無かったものの,ごく単純に耐久力と判断力が上がって的確な相撲を取っていたように思う。普段なら引いて呼び込むところで引かず,前のめって倒れるところで倒れず,首投げにいってすっぽ抜けるところで首にまかなかった。「窮地の首投げ以外に決まりきった必殺技や型がなく,なんでも出来る器用貧乏」が豪栄道の特徴であると思うが,であるがゆえに状況に合わせた技の選択をする判断力は重要で,今場所はそれがよくできていたのではないか。とはいえ,窮地の首投げは良くも悪くも彼の持ち味であり,今場所封印し続けておきながら,最大の難敵日馬富士戦でその首投げが出たのはあまりにもドラマチックな展開で,思わず相撲の神様に感謝してしまった。この判断力が持続すれば,綱は取れると思う。

稀勢の里は今場所あまり不気味に微笑んでいなくて,精神的に落ち着きが足りず,すっかり半年以上前に戻ってしまったように見えた。綱取りは完全に白紙だが,かえって良かったのでは……とか書くと,来場所また13勝して起点になりそう。琴奨菊は可も不可もなく。照ノ富士は七日目の貴ノ岩との相撲で右肘を痛めて,以後はやる気を失っていたように見えた。来場所陥落しないかどうかだけが心配。遠藤は戻ってきたのに,照ノ富士の復活は遠い。

三役。高安は12日目までは異様に強かったが,13日目にスタミナが切れて3連敗を喫したのが非常に手痛い。調子の波の変動が激しい人だが,何とか来場所まで持つか。直近2場所で21勝,来場所は最低12勝必要,可能なら13勝欲しい。基本は押しで,組んだら左四つという取り口自体は今場所よく機能していて,型になりつつあると思う。宝富士は「左四つになったら強い」以上のものがなく,すっかり研究されていて自分の相撲をとらせてもらえなかった。魁聖と栃煌山は特に何も。魁聖は良くも悪くも立ち合いの前に「今日は勝てる(負ける)相手」という判断が強すぎて,ともすれば無気力相撲と見られかねないところがあるのが少し気がかり。まあ,この傾向は旭天鵬にもあった。

前頭上位。隠岐の海は前半覚醒を遂げて上位陣をほとんど倒してしまったが,後半戦は元に戻って取りこぼした。ただ前半戦も「勝ちを拾った」ような相撲が多く,紙一重の勝利が続いただけのようにも。ちなみに,今場所は二度も逆とったりで勝つという隠れた珍現象を起こしている。来場所は返り関脇が濃厚だが,大敗しそうなんだよなぁ。嘉風はよく動く相撲で,負け越していたのが意外。栃ノ心は北の富士が「怪我する前の相撲に戻っちゃったねぇ」と言っていたが,同じ印象で,相撲に工夫が無かった。正代は(御嶽海もそうだが)早くも上位に定着していて,続いて大敗していないのがすごい。上位に定着する力士の傾向として,「前半戦の上位戦で連敗しても相撲が崩れず,後半戦の同格・格下相手の相撲で取りこぼさない」というのがあるが,これに当てはまっている。これは大成するかも。逸ノ城は全休。ただ,番付運で意外と下がらなそう。初場所にはまた前頭の上位にいるのでは。

前頭中盤。玉鷲は衰えないのがすごい。もう31歳(もうすぐ32歳)であるが,むしろ突きの威力は増しているような。千代の国は8勝ながら勝ち越しで,来場所は上位挑戦になりそう。通用はしないだろうが,相撲自体はおもしろそう。勢はてっきり上りエレベーターで勝ち越すと思っていたので,負け越しは意外。いつもの右からの小手投げがあまり機能していなかったようで,どこか痛めているのでは。錦木は正直まだよくわからない。いつの間にか勝ち越していた。佐田の海は8場所振りの勝ち越しおめでとう。呪われているんじゃないかと思っていた。

前頭下位は今場所見どころが多かった。遠藤は今場所だけで判断するなら完全復活で,ここまで長かった。まわしを取って前進し,あとは技巧で何とかしてしまう彼らしい相撲が多く,とても良かった。輝は身体が大きいくせに相撲が小さいという隠岐の海や栃乃若あたりと同じ欠点を抱えていたが,今場所はかなり改善されていて,大きな相撲が見えて光明が差した印象がある。新入幕の千代翔馬はまだ未知数で,来場所に観察したい。同じく新入幕の天風はけっこう重度なアニオタなので応援しているが残念ながら負け越しで,腰高を直さないと幕内で通用しなさそう。他の負け越した力士では,荒鷲はたぐるか左からの投げならば強いが,その状況が作れないとどうしようもない様子で,研究されたか。蒼国来は絶不調で,ほとんど相撲になっていなかった。臥牙丸と徳勝龍も同様で,この三人がこの番付で大きく負け越しているのは意外な結果であった。ただ,十両上位に勝ち越しがほとんどいないという幸運から,幕内陥落は避けられそうな人が多い。


(追記)
場所前に時天空が引退していたので,言及しておく。悪性リンパ腫で入院し,丸1年休場したところで復帰を断念した。半年の休場なら身体を戻せると考えていたが,1年では無理と判断したとのこと。意外なインテリで,東京農業大に留学して来日し,それまで柔道をやっていたところ相撲部に入部,本当は大学卒業後は帰国して普通に就職する予定だったが,相撲の才能が開花し,在学中のまま時津風部屋に入門,大学卒業と同時に十両に昇進するという快挙を成し遂げている(2004年3月)。モンゴル出身で日本の大学の大卒資格を持った関取は,いまだに時天空が唯一である(ただし時天空もその後日本人に帰化)。

上ってきた当初は,旭天鵬とよく似た風貌ながらやや人相が悪かったことから「悪ひとみさん」「黒ひとみさん」というすごいあだ名も付いていた(旭天鵬が曽我ひとみさんと似ていたことに由来しており,あちらは単に「ひとみさん」または「白ひとみさん」だった)。次第に足技の方がクローズアップされていって,あまりこのあだ名で呼ばれなくなっていった。

相撲振りは足技の名手で,けたぐり・裾払い・二枚蹴り・内掛け・外掛けなんでもござれであった。中でもけたぐりと裾払いは実に芸術的で,ここで足を飛ばせば相手は転ぶというタイミングをわかっているかのようであった。生涯で技能賞が1回だけというのが不思議である。突き押し,四つ相撲どちらでも取れ,組む時は右四つ。一方で動きが鈍く,立ち合いからあれよあれよという間に体勢が悪くなって負けてしまうことが多々あった。また,相撲がやたらと長くなる傾向があり,なかなか技を決めにかかれないところがあった。しかもスタミナに優れていたわけではないので,長い相撲が得意だったというわけでもなかった。

最高位は小結。あまり大負け・大勝ちしない,番付が毎場所あまり変動しないという性質を持っていて,最高位は小結ながら長く前頭の中盤で相撲を取っていた。2008年は年間6場所全て負け越し,小結を陥落してから復帰するまでの期間が35場所(歴代2位),十両優勝間隔62場所(歴代1位)という珍妙な記録も持っている。

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2016年09月15日

私的相撲用語辞典(2)極め・突き押し編

(1)はこちら。二ヶ月(1場所)に一度は更新するはずが,十ヶ月(5場所)ぶりになってしまった。


・たぐり,とったり
前さばきの一種として,相手の差し手を妨害するため,差し手の腕を自らの両手でつかんでしまうことを「たぐり」と呼ぶ。そして,たぐったまま相手の腕を引っ張りこんで投げ飛ばす技を「とったり」と呼ぶ。まあこれも想像してくればわかるが,たぐり・とったりはやられた側のケガを非常に誘発しやすい。ただでさえ腕を引っ張っているところ,投げるためにひねる(ねじる)のだから,筋繊維がボロボロである。力量差があるとそのまま肘が折れる。しかし,たぐるのは高い技術力が必要で,しかもミスると相手に背を向けることになるので,そもそも力量差が無いと決まらないというジレンマ。近年のとったりの名手というと白鵬・魁皇の2人があがる。特に魁皇のとったりは破壊力が強く,不用意に左から差せば右から強烈なとったりが来て,左腕骨折病院直行であった。これが,魁皇が若手クラッシャーと呼ばれた原因であった。ごく最近では荒鷲がこれをよく見せる。

極め・小手投げ
差し手に対抗する手段はもう一つある。相手の差し手を自らの片腕で挟み込んで動きを止める。これを「極める」という。相手のもろ差しを自らの両腕で極めると(これを「抱える」と呼ぶ),差し手が浅くなって攻めづらくなる上に動きが封じられる。外四つに近いが,外四つよりは少しマシな体勢になる。この状態のまま,相手を抱えて寄り切ることを「極め出し」と呼ぶ。もしくは,相手の片腕だけを極めた状態のまま投げ飛ばすことを「小手投げ」と呼ぶ。で,ここまでの説明で感づいた人は相当に鋭いが,「小手投げ」と「とったり」は実際に見てみるとあまり差がない。片手で投げるのが小手投げ,両腕でぶん投げるのがとったり,と区別するくらいしかない。で,技が似ているということは技の性質も似ているということで,小手投げもまたケガ誘発装置である。小手投げを食うとしばしば腕が折れる。得意なのはやはり白鵬・魁皇あたりだったが,これも直近では照ノ富士が最も上手い。というよりも,照ノ富士の極めは規格外で,通常なら極まらない体勢なのに極っていたりする。相手はやりづらかろう。


突き,うわずっぱり
読んで字のごとくである。「突き押し」とひとまとめに括られやすいが,実際には技の性質がかなり異なる。「突き」は相手の胸・肩・喉元めがけて腕を伸ばして平手をぶつける技で,伸ばした腕は引っ込めて“次弾”を装填するわけであるから,どれだけ速射できるかがポイントになる。連発される突きを「回転する」と呼ぶ。突きは上手く回転すると,相手の体勢を崩しつつ距離を取ることができる。すなわち突いて相手を後退させて後背地をつぶし,いつかは土俵の外に放り出すことになる。これを「突き出し」という。

重要なポイントは腕と足の連動性で,どれだけ突いても,突きによって生じた前面に前進しないといつまでたっても相手を土俵の外に出せない。ところが,突きの威力を欠くと,どれだけ突いても前面に距離ができず,その状態で足を踏み出すと当然相手との距離は縮まる。結果的にまわしをとられることになる。突きの得意な力士はまわしをとった四つ相撲が弱い傾向が強いので,これは致命傷になる。結果的に「突いてはいるが,足が出ないのであまり意味が無い」突きが散見されることになる。この有効性を欠いた突きを「うわずっぱり」と呼ぶ。突き押しが得意なように見えて,実はうわずっぱりしかしていない力士は多い。近年では突き押しの第一人者であった千代大海からしてうわずっぱりの傾向はあった。


千代大海スペシャル
力士の体重は重く,足腰がどっしりしている。そのため,どうしても攻撃が上半身に集中する突きだけで相手を土俵の外に飛ばすのは難しく,相当に突きの圧力・回転を要する。イメージに反し,突きとは相撲においてそこまで有効な戦術ではないのである。そこで,突いてそれなりのダメージを蓄積させると,相手もこらえようと前傾姿勢になるので,そこでさっと引いて,後退するか横にずれることで相手を前のめりに倒す,という手段がとられることになる。突きの得意な力士の決まり手を見ると,実際には「引き落とし」や「はたき込み」が多いのはそういう事情による。突きの一辺倒ではなく,「突く」か「引く」かの駆け引きで,勝ち星を稼ぐのである。

その中でも抜群のセンスで,「うわずっぱりからの引き落とし」だけで無数の星を築き上げた大関がいる。千代大海その人である。それゆえに,この「うわずっぱりからの引き落とし」を千代大海スペシャル(CSP)と呼ぶ。全盛期の千代大海のCSPは“ある意味で”本当にすごく,立ち合いの仕切り線から一歩も前進しないまま相手をはたき落としてしまうことも多かった。千代大海引退後は千代大龍がこの技を得意としたため,彼の本名から「明月院スペシャル(MSP)」と呼ばれていたが,千代大龍が最近不調で十両にいること,また千代大龍の取り口が比較的前に出るものが多くなり,あまり引き技を見せなくなったことから,最近ではMSPの言葉も聞かれなくなった。


押し
さて,腕力だけで相手を弾き飛ばそうとする「突き」に対して,上半身を前傾姿勢にして全体重をかけることで相手を後退させる技を押しという。相手を後退させることが主眼である点とまわしをとらない点では確かに突きと共通するものの,違いも大きい。まず突きは相手と距離ができるが,押しはむしろ密着する傾向がある。よって,相手を後退させる圧力は突きよりも押しの方が強い。一方で,相手と密着するわけだから,まわしをとられる危険性もある。相手が自分のまわしをとったなら,ふんばりが効きやすくなるし,逆転の投げをうつ可能性も出てくるので,リスキーである。ゆえに,押しに徹するなら一気の馬力で一瞬で勝負をつけるか,あるいは四つ相撲に移行する覚悟の上で取らなければならない。

それゆえに「押し」を得意とする力士は大きく二種類に分かれる。まず,いわゆる「突き押し」の力士で,「突く」か「押す」かは手段を選ばないが,とにかく自分からは相手のまわしをとらず,相手にも自分のまわしをとらせずに相撲を進める。この種の力士は体重が重くパワーはあるが,四つ相撲がとにかく苦手で,まわしをとられると即死する傾向がある。やはり代表例は曙と千代大海で,特に千代大海は「自分は突き押しなら大関だけど,組んだら序二段級だから」と自嘲していた(なお,このエピソードから千代大海のアダ名は「クンジョニ」であった)。現役(平成28年時点)では,碧山や琴勇輝が該当する。ただし,この二人は「押し」よりも「突き」の人である。もう一方は,場合によっては組んで四つ相撲に移行するタイプの力士になる。このタイプは四つ相撲を苦手としないが,むしろ「突き」の技能は大したことがないことが多い。往年の名力士では武蔵丸が代表格であろう。現役では妙義龍,栃煌山,高安,臥牙丸が該当する。


はず押し
押しのうち,とりわけ相手の懐に入り込んで密着し,両腕を折りたたんだまま相手の脇あたりをぐっと押し込み続ける技を「はず押し(ハズ押し,筈押し)」と呼ぶ。完全に懐に入り込んで密着する必要があるので,この体勢にもって行くまでに苦労するが,人間両脇を押されると一気に上半身が崩れてバランスを失い,後退するしかなくなってしまうので,強烈な技である。また,まわしを取れば「もろ差し」に移行でき,もろ差しが得意な力士ははず押しも得意なことが多い。近年では栃煌山によく見られる取り口。


おっつけ
漢字で書くと「押付」になるが,ほとんど見ない表記で通常はひらがなで書く。外側から相手の肘・上腕めがけて突く・押す技のことで,主な目的は相手の差し手を殺すことである。肘を外側から思い切り押されれば,腕を伸ばすこと自体が困難になり,相手の脇に腕を差し込むどころの話ではなくなる。というか,肘や上腕をピンポイントに強烈に突かれれば,とんでもなく痛くてそれどころではないのも想像に難くないところであろうと思う。おっつけは出来る限り組みたくない突き押しの力士にとっても重要な技ながら,おっつけて相手の差し手を殺してから自分が差せば有利に組んで四つ相撲に持ち込めるので,四つ相撲力士にとっても重要な技になる。

近年でおっつけが得意な力士というと,一も二もなく稀勢の里になる。稀勢の里の左からのおっつけは強烈で,稀勢の里得意の左四つに組む起点になることもあれば,そのまま相手がぶっ倒れて押し倒しで勝負が決まってしまうことも多い。しかしながら,なぜあれだけピンポイントに相手の右肘を殺せるおっつけができるほど器用なのに,他の相撲の技は不器用なのかとか,左からおっつけて左差しに持ち込めば白鵬だって倒せるのに,ガチガチに緊張するとおっつけという技を忘れて全然別の技を繰り出すのかとか,いろいろ疑問も多い。
  
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2016年07月26日

好調とは無理にでもなるもの,なのかもしれない

これほど優勝争いが読めなかった場所も珍しい。不調の白鵬に取りこぼす日馬富士,3場所前に戻った稀勢の里,休場した鶴竜と琴奨菊,ケガが完治していない照ノ富士とあっては平幕優勝すらありうるのではないか,と思われたのが10日目頃,ここから抜けだして優勝したのは日馬富士であった。日馬富士は前半取りこぼすも,後半は白星を逃さなかった。白鵬の不調が根本的な原因とはいえ,優勝争いも土俵の内容もよく,非常に楽しめた場所であった。

白鵬が不調だと優勝争いが混沌とするのはここ何年かのトレンドだが,白鵬の不調の頻度は増している。遡ってみると先場所(5月)は好調だったが,3月は好調でもないのをラフプレーでカバーしてしまった場所,1月と去年の11月は不調で9月に至っては途中休場である。ただしそういう場合,大概は代わって日馬富士か鶴竜が好調で優勝したのだけれど,今場所は両者ともにそこまで好調でなく,優勝争いが混沌としたか。

稀勢の里の綱取りは13−13−12勝と来て綱取り継続とのこと。先場所の感想に「白鵬が存在して優勝ラインが13勝まで下がることは多分無いので杞憂だと思うが」とか書いたら,私の思っていた以上に白鵬の不調の頻度が高かった。これは私の不見識であるが,と同時に「ところで来場所13・14勝で優勝出来なかった場合,綱取りはまた九月場所まで延期になるわけで,ここまで来たら連続綱取り場所記録でも作って欲しい気もしてきた。」とも書いていて,12勝ながらこちらは当たってしまった。なお,12勝ながら優勝次点であり,不調とはいえ白鵬戦の白星を含むので,綱取継続自体はそこまで反対でもない(賛同もしない)のだけれど,来場所こそは14勝以上の優勝からハードルを下げてはいけないと思う。この点,理事長も横審も「優勝ならなんでも良い」と言っていて,いよいよなりふり構わなくなってきた感じが……これで来場所また13勝とか12勝で優勝しなかったら面倒なことに。いや14勝優勝ならずが一番揉めるか。


個別評。優勝した日馬富士は9日目までに2敗し,決して好調には見えなかったが尻上がりに調子を上げていった。というよりも,優勝ラインが2敗まで下がって久しぶりに優勝争いに残れたので,終盤は無理して調子を上げて戦っていたように見えた。そこで無理が効いてしまうあたりはやはり神がかった集中力と言えるであろう。白鵬は概ね前述の通りだが,今場所は右かち上げを控えていたようにも見えた。今場所は普段よりもハイペースに調整していたそうで,スタミナ切れが師匠等から心配されていたが,それ以前の問題であった。五日目に宝富士に阻まれたのがよほどショックだったのか。宝富士戦の敗北以降は立ち合いの右かち上げのみならず相撲全体のバランスが崩れて後はずるずると。九日目の勢戦での転倒は一体なんだったのか。鶴竜は休場なのでノーコメント。

大関陣。稀勢の里は先場所・先々場所のアルカイックスマイルが消えていて,あれは自然と笑ってたのではなくて,笑うことで精神の統一を図っていたのだなぁと。今場所は意識して笑えないほどの緊張があったか。正直12勝出来たのはかなり運に助けられたところが大きい。運も実力の内というし,ある意味の運試しとして優勝が課されているところはあるので,「運で勝っても価値が無い」とは言わないが,逆に言って「12勝は精神が安定した成果」という評価もしづらい。今場所は先場所までと違って左四つになるのが遅く,立ち合いでさっと左四つになれるのかどうかは稀勢の里の精神状態を示しているのかもしれない。琴奨菊は絶不調で休場。豪栄道は完走しての負け越しで,どちらが重症か。照ノ富士はケガに付き合いながら勝つ方法を見い出したような序盤,何か歯車が狂って勝てなくなった中盤,自分を少し取り戻した終盤という感じ。8勝ギリギリでカド番脱出は意外であった。まだ当分ダメかな。

三役。魁聖は7−8でギリギリの負け越しに見えるが,不戦勝2つを含み,評価はできない。以前に比べると組むのが早くなった,組めば上位相手でもかなり勝てるようになったのは確かであるが。栃ノ心はこんなもんだろう。琴勇輝は思っていたよりも大敗したが,ホゥ!を止められた影響が一場所遅れて出たのでは説を唱えておく。割りと真面目に。高安は小結で11勝と大勝したが,もともと調子の波が非常に激しい力士であり,来場所続けば本当に大関取りになるのだろう。取り口で言えば,高安は明らかに左の使い方がうまくなっており,この辺は兄弟子と似つつあるのかもしれない。

前頭上位。御嶽海は完全に跳ね返された感じ。まだまだ圧力が足りない。代わって案外と勝ったのが正代で,「しばらくエレベーターしそう」と先場所の感想に書いたが,案外と早く定着するのか。左四つかもろ差しなら強いが,もろ差しはやや窮屈な印象。宝富士は今場所も左四つが強く,白鵬のかち上げを封印させた陰のMVPである。高安・正代とともに来場所にも期待。嘉風は復活し,動きまわって撹乱する,押すところで強く押す相撲が戻ってきた。先場所・先々場所不調だったのはマニフレックスで寝れなかったのかな? 栃煌山はノーコメント。隠岐の海はなんで勝ち越せたんだろうね。大砂嵐の全休は残念の極みである。早く治ることを祈る。

前頭中盤。貴ノ岩は謎の覚醒を遂げて12勝。前から北の富士に「体格も技量もあるのになんで勝てないんだろうね」とは言われていたが,ここに来てやっと身体と技能の歯車があったようにも見える。碧山はもっと勝っていてもおかしくなかったが案外と8勝止まりである。ちょっともっさりした動きだったかも。逸ノ城は9勝で,少し相撲に覇気が戻ってきたか。千代鳳は低い姿勢が崩れないのが本当に立派で,圧力もあった。立ち合いの出足が鈍かったり,組まれると脆かったりするのが何とかなればもう少し上に行けるかと。千代の国は幕内で取っているだけで何か感動があったが,脱臼癖があるのに脱臼しそうな取り口で不安である。何度見てもイケメン。ケガという意味では蒼国来,左下手が生命線だが無理にこじ入れる傾向があり,あれはいつか左肘を痛める気がしてならない。ところで蒼国来といえば,荒汐部屋で飼われている猫がかわいいというのを最近知った。名付け親が蒼国来だそうで。また白鵬はこの猫が苦手だそうで,ということは白鵬<モル(猫)<蒼国来となり蒼国来が角界最強なのでは……? そして佐田の海。7場所連続負け越しだそうで,年6場所制になってから最長記録とのこと。6勝目を挙げるとなぜか勝てなくなる現象が続いている。実際観戦していて呪いがかかっているようにしか見えないので,佐田の海はお祓いでもしてもらったほうがいいのでは。

前頭下位は荒鷲だけ。たぐり・とったりの名手ではあったが,今場所はそれに加えて左上手を取ったらかなり強いことを示した。来場所もまだ躍進しそうであり,期待している。

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2016年05月22日

稀勢の里スマイルに始まり終わった場所かも

今場所は久しぶりに土俵の外が騒がしくなく,揉め事が全く無かったわけではないにせよ,安心して見ることができた場所であった。そのせいか,土俵の内容が文句なく良かったかというとそこまで質が高かったわけではない気がするものの,ゆったりした気分で最後まで楽しく見れたように思う。終わり良ければ全て良しというか,最後三日間の上位陣の相撲内容が濃かったので,15日間の記憶が塗り替えられているような気がしないでもないが,深く考えてもしょうがないので,気分が良いまま終わっておきたい。

優勝争いが千秋楽まで引っ張られていればさらに盛り上がっていたとは思うが,稀勢の里を責めるのはちょっと筋違いで,日馬富士と鶴竜がどちらも早々に脱落したことの方が責任が重かろう。そもそも13日目の時点で白鵬と稀勢の里までほとんど絞られていたのであるし。質については立ち合いの正常化という名のもとに何度も相撲を止められたことにも影響があると思う。立ち合いの手付きについては私はノーコメントで。にしても止めすぎだろうとは思うけど。

稀勢の里の綱取りは継続だそうで。私は13-13-15(14)で直近3場所合計41(40)勝の優勝1回ならあっさり昇進を認めてもいいと思う。鶴竜は9-14-14の合計37勝の優勝1回で昇進しているし,日馬富士は直近2場所だけ見ればどちらも全勝優勝だが,その前の場所が8勝であるから,3場所合計だと38勝になる。同じように見ていくと,実は白鵬も朝青龍も38勝,武蔵丸に至っては34勝しかしていない。もっとも,武蔵丸は連続優勝2回である上に,それ以前に3回の優勝がある(大関で通算5回優勝)。白鵬・日馬富士・朝青龍は文句なしとして,条件ギリギリでの横綱昇進は鶴竜のパターンと武蔵丸のパターンがあると思われるが,稀勢の里の場合は鶴竜のパターンになるだろう。常に優勝争い可能な安定性が材料とはいえ,やはり優勝が1回はないと厳しい。ゆえに,来場所14勝でも優勝を逃したら無しである。厄介なのは13勝で優勝してしまった場合で,合計39勝はそれでも大したもんだが,通常の優勝は14勝が普通で13・12勝は棚ぼた感があるという印象がどうしても強く,議論が紛糾すると思う。ただまあ,白鵬が存在して優勝ラインが13勝まで下がることは多分無いので杞憂だと思うが。ところで来場所13・14勝で優勝出来なかった場合,綱取りはまた九月場所まで延期になるわけで,ここまで来たら連続綱取り場所記録でも作って欲しい気もしてきた。過去にどこまで延びたことあるんだろう。


個別評。全勝優勝した白鵬は,前半は省エネ相撲・ラフプレーで最後三日間だけ本気モードといういつものやり方。今場所は特にラフプレーのエルボーについて批判が集まっていたように思うが,それについては先場所書いたので詳細には書かないが,大砂嵐が注意されたのなら横綱だって注意されるべきという公平性の担保と,危険行為ではあって大相撲がスポーツでありたいなら公的な見解が出されるべき,とは改めて簡潔に記しておく。ところで,白鵬のアレが効果的なのは左の張り差しの直後に飛んで来るからで,左の張り差しに気を取られていたら右のエルボーが顎に来てるからノックアウトする形で当たってしまう。なんというか相撲のルールの想定外を突いたバグ技に近く,やる奴が出てくるどころかできる奴が出てくること自体想定されていなかったように思われる。鶴竜と日馬富士は可も不可もない出来。

大関陣。稀勢の里は謎の微笑み(アルカイックスマイル)とともに白星を積み重ねた場所で,年齢を重ねて精神的な余裕が出来てそうなったのか,何かしらの努力があって積極的に微笑んでいたのかがよくわからない。ともあれ精神的にブレることが少なくなり,15日間全力で取れる用になった結果が2場所連続の13勝ではあった。鶴竜戦は前日の白鵬戦で足を痛めていたそうで,負傷が無ければ14勝だったかもしれず,もったいなかった。実のところ最初の5日間はちょっと不安定かなと思ってみていたのだけど,次第に良くなっていったように見えた。

琴奨菊と豪栄道は意外と好調だったのではないかと思う。稀勢の里と白鵬を上回れなかっただけで。それぞれ10勝と9勝なら及第点かと。豪栄道は前に出る圧力があり,苦し紛れの連発ながらなぜか12勝できてしまった先場所よりも内容があったと思う。そういえば今場所の決まり手に一回も首投げがなかった。照ノ富士は「なぜ休まなかったのか」と皆に言われているところだが,本人曰く「休むと余計に相撲を見失いそう」とNHKのインタビューに答えていたので(中日か九日目かだったと思う),本人がそう言うなら仕方がないかな。

三役。琴勇輝は序盤,やっぱりホゥ!を止められて調子が狂ってたように見えたが,その中で7−8なら十分な星では。突き押しは十分に上位で通じている。勢は正直残念な結果で,もうちょっと勝てるかと。右差しからのすくい投げ,または右からの小手投げが強烈でここまで上ってきたが,さすがに対策され,右が使えないと何も出来ず,封じ込まれて大敗した。器用に何か出来る人ではないと思うので,それでも右から打開するしかなかろう。魁聖はそれほど相撲が変わった印象はないが,小結で初の勝ち越しはすばらしい。隠岐の海はノーコメントで。

前頭上位。正代はさすがに上位に通用しなかったが,6勝はまずまず立派であろう。右四つ得意ではあるが勝った相撲は大体もろ差しであった。しばらくエレベーターしそう。逸ノ城は多少マシになったか。なんというか,勝てる相手と勝てない相手を見極めて,勝てない相手とは当たったら適当に負けているようにも。似たようなことは旭天鵬もやっていたが,あちらはベテランになってからの話で,逸ノ城はケガをしない範囲で挑戦していって欲しい気が。もったいない。栃ノ心は4枚目で10勝というとすごそうに見えるが,実のところ上位で当たったのは照ノ富士と日馬富士だけ(今場所の照ノ富士はノーカウントだろうし),二日目の安美錦戦は誤審で拾った星なので,高い評価を与えていいものかは疑問である。つりの技能を評価しての技能賞受賞で,つりの技能自体は妥当ではあるのだが。碧山は5場所連続7−8というどうでもいい記録がかかっていたが,千秋楽負けてこれを逃した。

前頭中盤。貴ノ岩は前半良かったが,スタミナが切れたか,後半は相手のいいようにやられる相撲しかなかった。この人も技能はあるのだが,どうも身体が追いついていないのでは。大砂嵐は本来もっと勝てていたように思うのだが,十一日目に突然相撲が狂って戻すのに5日かかってしまった。それ以外はケガの状態もよく,諸手突きから左上手というパターンで上手く勝てていたのではないかと思う。来場所の上位挑戦は楽しみである。そういえば今年のラマダーンは6月6日から7月5日だそうなので,名古屋場所に全くかからなくてよかった。御嶽海は11勝で敢闘賞。順当に出世していて来場所はおそらく小結になる。突き押しが強いし相撲勘もあるが,まだ上位挑戦は難しそうな印象。

前頭下位。松鳳山と遠藤が暴れていて他はボコボコだった印象が強い。松鳳山は上りエレベーターではあるのだが,ただ突き押すだけでなく,中に入れればもろ差しで寄っていくことを覚えたので,ちょっと相撲が変わったかもしれない。遠藤はようやく膝が完治したようで,来場所も期待してみたい。それ以外だと,新入幕錦木は思っていたよりも幕内に適応できていた印象がある。案外と身体ができていてそれで対応していたところはあり,あとは技術の問題か。


今場所は十両が大激戦で,取組は全然見てなかったのだけれど,星取表だけ見ても大変なことになっていたのはそれなりにわかる。幕下に落ちるのが5人て。しかも天鎧鵬やら常幸龍やら元幕内力士が落ちていく。その中で勝ち上がった宇良と佐藤は大したものだ。優勝した千代の国は2014年五月場所以来の幕内復帰となりそうだが,この時もケガで0-2-13であり,まともに最後に幕内で取ったのは2013年七月であるから,ジャスト3年ぶりということになる。おかえりなさい。(ところで,ネット上でのアダ名チヨスランドを命名した人はセンスあるよね。)
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2016年03月28日

最強横綱のプライドとラフプレー

主役が頻繁に変わる場所であった。序盤は琴奨菊が綱取りの話題を引っ張り,彼の負けが込んだ中盤は稀勢の里が夢をもたせ,終盤は上位初挑戦で暴れまわった琴勇輝と地元の声援を一身に浴びた豪栄道と変遷した。しかし,終わってみると台風の目は白鵬であった。あまり良い意味ではないが。


まず,白鵬はやはり間違いなく衰えている。全盛期と比べてどうこうというより,昨年と比べても目に見えて,である。しかし,全盛期の頂点が極めて高かったのと,衰え方は緩やかであるので,まだ勝てている。そしてまだ勝てているからこそ,諦めきれずにいろいろやって,今場所のような振り切れたラフプレーに走ったところはあろう。ラフプレーなら勝率が上がるなら,やる。それが優勝に極めて貪欲な横綱,白鵬である。その現れが繰り返されるダメ押し,ほとんどエルボーな右のかち上げ(大砂嵐のがダメならあれもダメだ),極めつけが千秋楽の変化であろう。その試行錯誤の末に選んだラフプレーできっちり優勝出来てしまう辺りは,やはり一時代を築いた横綱だなぁと思うし,世間のイメージもまだ4・5年前で止まっているのだろう。そのギャップが「ブーイングの中の優勝」であるから不幸である。(なお,「あれで決まると思っていなかった」という言い訳についてはほとんど信用していないし,決まっていなかったとしても変化には違いない。)

本人のプライドもあり,変えるのは難しいと思う。その上で言うと,個人的には「もう“無敵の横綱”じゃなくてもええんやで。気楽に普通の綱を張ってくれ」と心から言いたい。その“無敵の横綱”という地位は,ラフプレーに走って世評を落とし,千秋楽に変化して罵声を浴びてまで守りたい地位なのか,自問自答して欲しい。この辺り,自らのケガ・衰えを上手く付き合い,ここ1・2年は妙な風格すら出てきた日馬富士とは対照的である。

次に,千秋楽の変化自体について。あれが最悪だったのは興行面からの話だ。私は去年の9月の鶴竜の変化を擁護したし,同様に九州の白鵬の猫騙しも擁護した。その私でも今回の変化は擁護できない。いろんな意味で全く面白みに欠いた。加えて言えば,ラフプレーで積み上げた勝ち星の上で,決定戦もありうる展開での千秋楽変化だから批判されているという側面は否定できない。これを無視した擁護は全く意味が無い。片方だけなら,間違いなくこんな大バッシングにはなっていないから。

一方で,実のところ私はそれほど怒っておらず,批判もする気がわかない。理由は3つあって,1つは日馬富士の状態を考えるといずれにせよ熱戦にはなりえなかったと予想されたから(だからこそ白鵬には変化せず取ってほしかったという気もするが)。1つは,白鵬のプライドもわからんでもないからだ。最後の1つは,すでに十分批判されているから。インタビュー中に泣くほど罵声を浴びせられ(中には許されざる人種差別的なものもあっただろう),追加攻撃するほど鬼にはなれない。あとは横審とデーモン閣下が何か言えば十分ではないか。
(追記)
ネット上の議論を一通り読んだ。その上でいくつか。まず,あいも変わらず「これだから相撲とかいう空気を読むことを要求されるスポーツは」系の言説が出ているが,上記に張った9月の場所評で切れているので,私見はそちらを参照のこと。また,トッププレイヤーが空気を読む必要があるのは相撲に限ったことではなく野球やサッカーだってある,というのは言われて気づいたが確かにそうだなと。
次に,あの変化は技量として評価してもいいのではないか,という点については一理はあって,右を突き出してから左に変わるのは今のところ白鵬固有の技である。ただし,これを容れるとして場所全体の白鵬の評価を覆せるかというと。
最後に,「そもそもあの変化を食った日馬富士も鈍かったし,9勝で終わったようじゃ同じ横綱として言い訳が立たない」という意見,これだけは間違っている。あの変化は前代未聞なので読みようがないし,あそこでの変化まで読んで立ち会えというのは興行のみならずスポーツとしての相撲の面白みを欠くことになりかねない。そして日馬富士の9勝については,以前にもこのブログでは論じたことがあるが平均的な横綱の通算勝率は.770程度である(大関は.636)。さて日馬富士の直近6場所の成績は46ー16ー28の勝率.741で優勝1回,優勝次点2回,白鵬戦3勝1敗なんですけどこれでもダメなんです? だーから今場所だけ(あるいはあの1番だけ)見て論じるのはやめーやと。それとも毎場所12勝以上しなきゃダメなのか。なお鶴竜は53-22-15の.707の優勝1回なので,こちらが批判されるのはまだわかるが。


個別評。白鵬については前述の通り。日馬富士は日毎の波が激しく,ケガを感じさせない日もあれば自滅した日もあり。鶴竜は可も不可もない出来。琴奨菊は中日の7−1までは今場所マジで綱取りあるんじゃないかと思われたが,その後あれよあれよと崩れて8−7となった。稀勢の里に変化で負けたショックからか,2場所前以前の精神に戻ってしまったのは無残である。どころか,「寄れなければ右から突き落とす」という新戦術さえどっかに飛んでいったようだった。豪栄道はあまり地元補正のある力士ではなかったが,今場所は精神が強くなったか,応援を力に変えていたようだった。ケガがあまり足を引っ張らない相撲ぶりだったのはそのおかげか。変化した取組もあり,苦し紛れからの必殺技首投げもありと,稀勢の里の13勝に比べると,12勝という星の数ほど内容があったとは思えない。しかし,いつもの8−7でギリギリカド番脱出とは比べ物にならないほどマシであり,健闘したのは間違いないので,それは称えておきたい。照ノ富士は場所明けに手術の予定があるらしいんだけど,ほんと早く治そう。来場所全休でも文句言う人は少ない気が。無理せず8勝,勝てそうになかったら粘らず土俵を割っていたのは,良い判断だったと思う。

稀勢の里は十日目まで無傷だったのは二度目なのでそれほど驚きはないが,九日目に変化気味に動いて琴奨菊を倒したこと(故意だったか結果的にかは判断しかねる),十日目に鶴竜にあれだけ撹乱されて勝ったことから,今回こそはという希望を持ってしまった。13勝2敗は二度目,来場所はどうやら綱取りだそうだ。ここまでの大関としての成績を鑑みると資格はあると言えるが,実際に取れるかというと,それほど精神が変わっていないようにも見える。ただし,某稀勢の里マニアの方が「左四つ右上手の形になれば無敵だったが,今までは立ち会いの工夫が皆無でダメだった。今場所は立ち合い先手で左おっつけを使う具体的な戦法を編み出した。この違いは大きい。」と言っていたので,希望はあるかも。確かに今場所の稀勢の里は,左四つへの入り方が先場所までより圧倒的に早かった。ただ,稀勢の里の場合,先場所の教訓をさらっと忘れている可能性があるので……また,15年に入って以降は明らかな体力の衰えもあるので,それもけっこうな不安材料では。2場所連続で好調が持つのか。


三役。見事に全滅したが,横綱・大関が勝てばどうしてもこうなる。豊ノ島は12敗したが,動き自体はそれほど悪くなかったような気がした。嘉風はいよいよスタミナ切れか。こちらは明確に動きが悪かった。突進力に欠いたので,動き回って崩しても攻め切れないという感じだった。栃煌山はノーコメントで。4人で唯一大崩していない宝富士は,左四つになれば大概勝てるのはわかったので,もう一つ武器が欲しい。

前頭上位。まず何より琴勇輝であろう。今場所の琴勇輝は突き押しの威力が抜群なのはさることながら,足がきっちり上半身に連動して動いており,これが躍進のポイントだろう。押し相撲力士にありがちな,足がついてこずはたかれて前のめりにばったりというパターンをほとんど見なかった。また,精神力も高い。上位挑戦初で,小結や前頭上位は序盤に横綱・大関に当たるので,負けが込んでしまって実力が発揮できないというパターンが多い。琴勇輝も六日目まで横綱・大関戦終わって3−3だったが,そこから全くの負けなしである。ブログを読み返すと,3年前に「突き押しだがもっと上に行くには威力が足りず」と書いていた。この3年の彼の努力を全力で祝福したい。一つだけケチをつけると,立ち会い待ちすぎ。番付の低い側が合わせようなんて言う気は無いけど,そういうこととは関係なしに,さすがにもうちょっと合わせる努力をしよう。

隠岐の海は日毎の出来の差が激しすぎ,とはいえ大きなケガがあったわけでもなく,何ともよくわからない。北の富士が「え,勝ち越しちゃったの?」と言っていて,そこまで下げる気もないにせよ割りと同感である。蒼国来はインフルエンザの休場が極めて残念だ。相撲ぶり自体は不調ではなかったので,ちゃんと出ていれば勝ち越していたかもしれない。左右どちらでも取れるし,(特に右の)差し手が深く入って密着されると誰でもかなりしんどい相撲になる。最後に勢。長らくエレベーターであったが,やっと上位で大勝した。今場所の勢は右からの攻めが強烈で,右差しからのすくい投げか,入らなければ小手投げと,右が自由ならやりたい放題であった。右の使い方が上手くなったということであろう。実は先場所から片鱗はあったが,先場所は左の脛を故障して休場を危ぶまれる状態であった。それだけに今場所の躍進は大歓迎だ。残りの面々もそれほど大敗しておらず,いかに今場所の黒星が三役3人に集まったのかがうかがえる。


前頭中盤。妙義龍はただの上昇エレベーターで,欲を言えば11勝して欲しかった。とはいえもろ差しかはず押しになれば綺麗に勝負をつけるので見ていて気持ちいい。魁聖も上りエレベーターだが,意外にも来場所が初三役になる模様。番付運が無かったんだなぁ。正代はよくわからないまま勝ち越してしまった。番付運もあるものの,新入幕3場所目で上位挑戦は隠れた偉業では(直近だと遠藤も照ノ富士も4場所かかっている)。豪風は衰えが目立ち,5勝もしていたのが意外だった。

前頭下位。逸ノ城はまあこの番付なら11勝くらいするよね,としか。動きが鈍重なのは改善していないので,このまま前頭上位に上がっても大勝はするまい。阿夢露は身体の軽さに泣いた。もっとも,細身な割にパワフルなのが魅力ではあるのだけれど。御嶽海は先場所インフルエンザで休んだ分は勝った,という感じ。基本は突き押しだが案外寄り切りで勝っており,今後の相撲振りがどちらに振れていくのかも気になるところ。

十両は大砂嵐が圧勝で十両優勝したが,本人曰くケガが治りきっていないそうで,幕内上位まで戻ってきて勝てるかはわからない。錦木は私はノーチェックだったので来場所じっくり見たい。なんだかんだですぐに戻ってきた遠藤も青狼も楽しみである。  続きを読む
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2016年01月26日

苦労人の優勝

本当はいろいろな話題のあった場所なのだが,琴奨菊の優勝で全てが吹っ飛んでいったようである。琴奨菊の優勝という結末は,ほとんどの人が予想できない展開であった。なにせ,ここ2場所は調子が良かったものの,昨年の7月(名古屋)以前は散々な出来で,勝ち越すごとに2場所延命するという,どちらかというと引退がちらついていた大関であった。以下は場所ごとの勝敗と私の評価である。

15九:8−6−1「先場所妙に好調だった琴奨菊は今場所もまずまずの出来だったが,意外と星が伸びなかった挙句ケガが悪化し,14日目から勝ち越し後の休場となった。」
15秋:11−4「妙に好調だったのは琴奨菊で,序盤で早々に2敗して優勝争いとは無縁に近かったものの,突進力があり,終わってみれば11勝である。これは白鵬と日馬富士がいても10勝には乗っていたのではないか。」
15名:8−7「琴奨菊はなんとかつかんだ8勝ではあるが,2場所延命したという感想しかない。地位にしがみつく姿勢は嫌いではないが……」
15夏:6−9「琴奨菊は本当に満身創痍で,もう「勝ち越すごとに2場所ずつ延命」という状態になっている。」
15春:8−7「琴奨菊と豪栄道は可も不可もない。」
15初:9−6:「琴奨菊はなんかもう満身創痍で,比較的動けて必死の覚悟なら9勝までは行くが,肩か膝かどこか悪いとすぐに負け越す不安定な状態が続いている。」

その意味では,ここ2場所好調が持続していたのは1つの予兆だったのかもしれない。大関までの道のりも長かったし,間違いなく苦労人と言えるだろう。31歳で初優勝は史上三番目に遅いそうだが,比較的最近史上最遅を見てしまっているのでそれほどインパクトはない。以前にも書いたが,むしろ高齢優勝や高齢三役が続いているのは,大相撲にもスポーツ医学が浸透しつつある影響ではないか。琴奨菊の工夫・努力にしてもスポーツ医学によるところがあり,有名なのは「ルーティーンを組むことによる心理的安定」であろう。時間いっぱいで背をそらす動作を入れたのは,大関取りの直前だったか。あれは早稲田大のスポ科でアドバイスされて取り入れたというのが,かなり前にNHKに取材されていた。

民族的な意味での日本人の優勝が10年ぶりという点については,個人的にはさほど気にならないのだが,ウィンブルドン現象に対する自国民の一般的な反応として正常な部類であり,NHKを主とするマスコミが煽りすぎているという点以外に不満はなく,むしろそこに巨大な主語を見出して「日本」を批判したがる外野の方が圧倒的に腹が立つとは書いておく。NHKが「日本出身力士」という表現を用いるのは言うまでもなく帰化した旭天鵬の優勝に配慮してのことだが,ウィンブルドン現象として理解するなら「国籍のことを言っているわけではない」と断るのは自然であるし,「それにしても回りくどい言い方で,そこまでして大和民族の優勝にこだわらなくてもいいのでは」という議論は,旭天鵬が優勝した時に散々出た話であり,多くの好角家は複雑な感情を持っていて,決してNHKの表現を評価していない。ちなみに,そういう方々に多分悪の総本山だと思われている横審でさえ「インターナショナルな時代。日本人にこだわる必要はない」という見解を示している。

だからこそ今になって出てきて「日本出身力士とはなんだ」と批判されても,いわゆる「周回遅れ」なのだ。なお「琴欧洲に失礼では」という意見も見られたが,琴欧州は優勝時点ではまだブルガリア国籍である。そんな程度の知識で議論に加わってほしくない。(余談だが,これらの周回遅れ・知識不足を露呈させた方々が,普段は政治的議論において論争相手をそう評することが多いのは何かのジョークだろうか。)


その他の今回のトピックは,ケガの多さと誤審の多さであろう。ケガの多さは以前からずっと言われていることで,いい加減公傷制度の復活を議論するべきではないか。以前のような悪用されないような工夫は必要だが。誤審の多さはいかがしたものか。物言いがつかずに終わる,物言いがつくのが遅い,協議した結果が誤審と,今場所は全て見られた。最後のはどうしようもないとしても,少なくとも進行が遅くなってでも気になったらすぐ物言いをつけるのは徹底して欲しい……それで思い出したのだが,今場所はケガの功名で幕内の取組数が減って進行が楽になったはずなのに,時間があまったり超過したりということも多かった。全体的に審判団引き締めた方がいい。


以下個別評。白鵬は前々から書いている通り,終盤は完全なスタミナ切れだ。かなり深刻なレベルである。調整方法を変えた方がいいのでは。また,精神的な疲れもあるのでは,という指摘も当たっているかもしれない。もっとも,孤高の立場すぎてご家族くらいしか癒やしようがない気も。日馬富士は良い出来だったと思う。彼もまた体力が15日間もたなくなりつつあり,前半は気の抜いた相撲が必要になる。が,どうもそこで負けるようで,今場所は松鳳山に落とした一番さえ無ければ,という結果であった。鶴竜は今ひとつ。もう1つ勝って11勝なら印象が良かったのだが。今場所の琴奨菊は止められない,白鵬・稀勢の里には順当に負けたとしても,前半で2つも落としてはいかんよなぁ。はたかれると弱い上にはたき合いに移行する悪癖は引退するまでずっと弱点になりそう。

優勝した琴奨菊は,実に見事な突進力であり,かつ寄り切れないと見るや打たれる右からの突き落としの威力も高かった。実のところ今場所の決まり手は右からの突き落としが多く,寄り切りばかりではないのは一つのポイントと思う。なお,右からの突き落としも使えない場合はさらなるオプションとして左からのすくい投げがあり,また左四つになれなければ右四つで寄るということも出来たのが今場所の琴奨菊であった。これが大きいのは,琴奨菊の場合無理に寄り切ろうとして足が追いつかず,引かれて前のめりに倒れたり,土俵際逆転の突き落としを食らったりというパターンが多かったが,無理に寄り切る必要もなくなったのである。もっとも,あの突き落としやすくい投げを可能にしているのはやはり圧倒的な突進による崩しであって,基盤ががぶり寄りであることは変わっていない。結局はがぶり寄りの威力が維持できるかどうか,が今後の成績を握る鍵ではないか。それは実に難しいことなのであるが。

稀勢の里は絶不調であった。琴奨菊とは対照的に,左四つになってもちっとも寄れないのである。とはいえ,こうしたことは13-14年に比べると,15年に入ってから明らかに増えており,白鵬や日馬富士同様に体力的な衰えが隠せなくなってきているのではないか。照ノ富士はとうとう休場となったが,むしろ安心感がある。両膝をしっかり治してきてほしい。豪栄道は……うん……もう何を書けばよいのか。


三役。嘉風の関脇勝ち越しは偉業だと思うが,正直に言ってここらが限界というのも。栃煌山は大関昇進前の稀勢の里や豪栄道と同じ状態で,28歳という年齢も考えると今年の6場所がタイムリミットであろう。琴奨菊・豪栄道・稀勢の里と並ぶ大関候補だったのに,彼だけが候補のまま残っている。新関脇から5年,ケガがあって若の里の道を行っているわけでもなく,同じガラスのハートだった稀勢の里はガラスのハートのまま実力をつけて壁を超えた。さて栃煌山は。勢は2場所連続の上位戦での奮戦で,やっと地力がついてきたかなと。それだけに左の脛の故障は運が悪すぎる。今場所勝ち越せていたら,来場所以降は三役定着が見えていたような。栃ノ心は可も不可もなく。右四つで勝てない相手に右四つに組みにくのはやめよう。

前頭上位。宝富士は復調気味で,左四つの鬼が戻ってきたか。逸ノ城はどうしちゃったのか。来場所はかなり番付が下がるはずなので,大暴れに期待したく。これで9−6以下で終わるようなら,本格的に深刻だ。琴勇輝は先場所の評で「大敗しそう」と書いてしまってごめんなさい,前頭4枚目,上位戦含んで9−6は立派も立派。現在の前頭上位だと突き押し相撲は琴勇輝と碧山の二人がいるが,二人ともほとんど引かず,千代大海や雅山が引き技で一時代を築いたのとは完全に隔世の感が。最後に蒼国来。右の差し手をこじいれたら絶対に離さないという取り口は見ていて楽しいが,故障しないかが若干心配である。その右差しが入ればかなり強く,今場所は上位でもそれなりに通用した。ただ,今場所は大関・横綱と当たっていないため,来場所が真価である。解雇無効からここまで来たかと思うと感慨深い。

前頭中盤。隠岐の海・豊ノ島・高安は上りエレベーターにすぎない。一方,そのエレベーターに乗れず,8−7だった妙義龍はやや残念な出来。舞の海も指摘していたが,彼の実力から言えば相当に物足りず,衰えているか,まだどこか痛めているかのいずれかとしか思えない。今場所はやたらと引かれると前に落ちるのが弱点で,差し身が良く効率良く寄り切るのが心情だった妙義龍にしては馬力不足であった。このまま上位には上がれない力士となってしまうのかどうか要観察。御嶽海はインフルエンザが惜しい。あれでロスした三日がなければ勝ち越していたかもしれない。引き続き期待の持てる突き押しで,もうちょっと威力が増せば前頭中盤くらいで安定すると思う。

前頭下位。遠藤はやっと休場してくれたか,とだけ。阿夢露はもうちょっといけるかなと思っていたが,身体が軽い。正代は目覚ましい活躍で,隠岐の海・高安に勝ったところを見るとすでに前頭中盤クラスの地力はあると思う。今ひとつとらえどころがないが,相撲勘が良いのはわかる。来場所は番付運もあってかなり番付が上がりそうだが,地力通りの活躍を期待したい。対照的に輝は,舞の海の指摘通り,まだ身体ができていない感じで,明らかに立ち会いで当たり負けしていた。十両で鍛え直してきて欲しい。


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2015年11月25日

猫騙ししても優勝はならず

今場所は相撲内容が今ひとつで,優勝争いも僅差で終わった割には盛り上がった感じがせず,白鵬の猫騙しや式守伊之助の謹慎,北の湖理事長の逝去と土俵の外の方が騒がしかった気がした。

北の湖理事長については,現役時代を(当然だが)全く知らないので,その点は論評できない。理事長としては,1期は評価できない。危難に際して平凡な判断しかできなかったというべきだろう。急死した2期目は思い切りの良い決断が見られ,評価してもよいのだが,一方で放駒理事長の敷いた路線を走っていただけという気もする。おそらく次の理事長は八角親方であろうが,その次となると予想がつかない。まだ貴乃花までは回ってこない気がするし,そもそも貴乃花の番があるかも怪しいと思う。マスコミはすっかり八角親方→貴乃花の禅譲が既定路線の如く報じているが,根拠がまるで見当たらない。貴乃花が元々は造反組という事実が忘れられているのかもしれない。


白鵬の猫騙しについては,私的には問題ないと思う。無論のことながら,横綱相撲には当たらないし,横綱は毎日変わらず横綱相撲を取るべきだという信念がある人からはいただけない行動であることは理解できる。それについて事実認定レベルで争う気もなければ,反論する気もない。ただ,単純に私は横綱相撲にそれほどこだわりがなく,また白鵬の横綱相撲について言えば飽きるほど見た気がするのだ。横綱相撲はそれはそれで見応えがあってよいのだが,変化があってもよいと思う。しかしその変化が,単純な「変化」では困る。魅せる相撲であって欲しい。相撲は興行でもあるのだから……という思考はおそらく白鵬本人もしていて,その思考の果てが猫騙しであったのだと思う。

ただ一方で,名古屋で負けている栃煌山を選んだ点と,結果的に終盤スタミナが切れて3連敗した点も鑑みると,全くの性善説で取ることもできない。ここで1勝稼いでおくという打算もなくはなかったのでは。このちゃんと相撲界のことを考えて行動しているのに,微妙に功を奏しない面がある一方で,腹の中に読めない黒さを持っているという二面性は,以前から継続して見られる白鵬のパーソナリティであると思う。最後に,先場所と全く同じことを書いておく。「普段相撲を見ていない(にわかファンですらない)のに,こういう時だけ出てきて「相撲はよく知らないけどルール上問題ないものを騒ぐなんて“守旧的”」と発言して進歩派を気取りたいだけの人たちはほんと害悪でしかないので,ちゃんと相撲を知って簡単に白黒つかない話であることを前提に,自らの白黒を開陳してもらえませんか。」

優勝展開が盛り上がりに欠けたと書いたが,ある一点に集中して見るなら,すごくドラマチックである。14日目に照ノ富士が白鵬を倒して2敗に引きずり下ろし,千秋楽に安美錦が松鳳山を倒し,結果として日馬富士の優勝に大きく貢献した。今場所もまた,五月場所のような伊勢ヶ濱部屋の共闘が,見事な逆転優勝劇を生んだのだ。今年の伊勢ヶ濱部屋は相撲の神様に愛されていた。


個別評。日馬富士は前半の調子を見ているとそう好調とも思えず,平幕相手に時間のかかった相撲をとっていて,速度はあるが膂力を欠くという相撲であって,12勝3敗で準優勝がせいぜいかな,などと思っていた。後半は前半に比べるとやや動きがよくなったものの,それでも全盛期の動きだったわけでもなく,少なくとも日馬富士の代名詞たる「突き刺さるような立ち会い」と呼べるものはほぼ見られなかった。よく優勝できたものである。日馬富士も白鵬と同学年(誕生日の関係で年齢はほぼ1歳違う)なのだから,白鵬が衰えを隠せないように,日馬富士も肉体的な衰えが来ているのだろう。今回が最後の優勝かもしれないし,そうでもないかもしれない。

白鵬は完全にスタミナ切れで,実のところこれは前々からそうであった。そこで,15日間全て横綱相撲で勝つのをやめて前半は省エネに徹し,後半で本気出して横綱・大関陣をなぎ倒し優勝する,というのが3・4年前ほどからの必勝パターンであった。しかし,今場所はこの省エネ戦法をとっていても12日目までにスタミナを使いきってしまったようで,場所前の調整が悪かったか,加齢によるスタミナの減少が深刻なレベルまで来てしまっているのか,それはわからない。答えは来場所以降の終盤で判明する。鶴竜は先場所と打って変わって弱かった。正直に言って論評するに値しない。

大関陣。照ノ富士は休場したほうが良かったと思うのだが,出場し続けたことであのドラマが生まれたのだから,相撲はわからない。投げ方が無茶で膝への負担が甚大であり,あれさえやめれば一時的に弱くなることはあっても最終的には身体が復活すると思う。あとは,前から書いているが立ち会いの遅さ。差し手争いで負けるから不利な体勢からの投げになり,それで膝に負担がかかるので,立ち会いが元凶である。立ち会いを磨きましょう。安美錦と日馬富士という良い先輩がいるのだから。先場所妙に好調だった琴奨菊は今場所もまずまずの出来だったが,意外と星が伸びなかった挙句ケガが悪化し,14日目から勝ち越し後の休場となった。稀勢の里は可も不可もない出来。豪栄道は陥落していたほうが良かったのではと思えるくらいの惨事で,首投げによる緊急脱出に頼らない相撲を見つめなおした方がいい。

三役。栃煌山と栃ノ心は可も不可もない。妙義龍はやたらと身体が軽かった。どこか痛めていたのだろうか。嘉風は引き続き身体の切れが抜群に良く,動きまわって撹乱して崩して倒す,という戦法で上位で通用している。ただ,さすがに勢いが止まってきたようにも見え,これがいつまで続くかは期待を持って見ていきたい。また張り差しやパワープレーに弱い傾向が直ったわけではない。

前頭上位。逸ノ城は無気力相撲を取られそうなくらい気の抜けた相撲が多く,みっともない負けが多くて失望した。やる気を出して欲しい。今の逸ノ城の姿は在りし日のボブサップを髣髴とさせるのだが,皆さんはどうか。大砂嵐は上位定着が固まりつつあったこのタイミングでケガで休場,残念至極である。安美錦はさすがに変化が多すぎやしなかったか。それで糾弾されないのが彼の持ち味ではあるのだが。遠藤は完全に休場が正解だったと言える出来で,膝の状態が悪すぎる。踏ん張りが効かなすぎてもろかった。今場所の上位の相撲内容を薄くさせた原因のうちの一人だったと思う(あとは妙義龍と逸ノ城)。阿夢露は家賃が重かったが,健闘は見せられたと思う。佐田の海はもっと足技を使っていこう。

最後に12勝して敢闘賞となった勢。たまに異様に強い場所はあるのだが,大概の場合前頭の下位でのことで,またエレベーターが上昇してくるのかという感じであったが,今場所は前頭4枚目,照ノ富士と日馬富士を含んだ対戦相手からの12勝だから価値が高い。これが覚醒かフロックかは来場所判明する。巨体を活かした相撲であったし,一方で軽やかでもあった。右からのすくい投げが強烈で,今場所はよく決まっていた。

前頭中盤。琴勇輝は番付運に恵まれて,6枚目の8勝ながら来場所いいところまで行きそう。そしてすごく大敗しそう。突き押しの回転はとても良いのだがそれしかなく,引き技が得意なわけでもなく組んだらもちろんダメである。よく突き押しの回転だけでこの地位まで来たと思う。旭秀鵬は確かに寄りが強くなったように思うが,でも9勝のイメージはあまりない。宝富士が10勝・魁聖が9勝だが,この二人は家賃が安いので,もっと勝つかと思っていた。動き自体は普通。佐田の富士は体格は立派だが,上半身に力が寄りすぎていてバランスが悪い。北の富士が「体格がもったいない」としきりに言っていたが,むしろ今から下半身トレーニングを集中的にこなさせるのは辛いと思う。蒼国来は寄りで力を発揮するようになり,力強い寄り切りが何番か見られたので印象に残った。松鳳山は家賃が安かったという事情はあるにせよ,動きが良かったのも確かで,12勝敢闘賞に見合うだけの印象は十分にあった。突き押しの力士ではあるが今場所は組んでからの対応が良かった。案外と投げの強い力士である。

前頭下位。臥牙丸は感情の起伏が激しすぎ,涙もろすぎ。花道の奥で泣き顔を中継されていたときはちょっと同情した。それ以上二大爆笑していたけど。新入幕御嶽海はギリギリの勝ち越し。期待の持てる突き押し相撲だったと思う。停滞しがちだった今場所の前頭下位では,旋風だったと言ってよい。高安は家賃が安すぎるので大勝もありえたが,ケガが重くてばったりと倒れる場面があり,結果9勝しかできず。まあゆっくり直すことである。一方,千代鳳はきっちり10勝。はたかれても落ちないという特性のアドバンテージは大きい。北太樹は15枚目で7勝の負け越し。今場所は出足が弱かった。速攻相撲が立ち会いの威力を欠いては勝てない。


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2015年11月08日

私的相撲用語事典(1)組み方編

大相撲の場所中,私はnix in desertis出張所で毎日場所の記録をつけている。が,そこで使っている相撲用語が,自分で使っていてかなり混沌としてきたため,一度自分なりに整理しておこうと思う。ついでに,相撲を見る人はそういうところで相撲を見ているんだという手引きや,NHKの実況で使われている専門用語の理解などに役立てば,幸いである。ただし,基本的には私も用語の使い方はかなり自己流であるため,そこはご了承いただきたい。


・上手/下手
まわしの取り方の分類。相手の腕の上側(外側)を通って取った場合は上手,逆に相手の腕より下側(内側)を通って取った場合は下手になる。上手と下手にはそれぞれ特性があり,これが相撲の最大の見どころの一つであると思う。残りの話は全てここから派生する。下手は相手の内側に入るためがっちりと相手を捕えやすい。が,自身の体勢も下を向くため,投げの打ち合いになると上手に対して不利である。一方上手はまんまその逆で,相手を拘束する力は発揮しづらいが,相手の背に近い部分に力をぶつけることができるので,投げは有利になる。特に白鵬の左上手投げは強烈極まりなく,全盛期の白鵬に左上手を取られることは,トキの北斗有情破顔拳を意味した。最近ではやや弱くなり,そこまで即死技というわけでもなくなったが。だから白鵬戦を観戦するなら,左上手には必ず注目しなければならない。

・右四つ/左四つ
相撲の組み方の種類。上記の説明の通り,下手と上手のそれぞれの弱点を補うため,多くの力士は片方で下手,もう片方の手で上手を取りに行くと段違いの構えを取ることになる。こうして,相撲の最も基本的な型である,右四つと左四つが発生する。下手基準で,「右手が下手・左手が上手」なら右四つ,「左手が下手・右手が上手」なら左四つになる。ただし,そうそう綺麗に両手ともまわしに手がかかるわけではなく,大体不十分になる。特に下手は取りやすいが上手は取りにくい。互いに下手だけ入って上手がないまま戦況が膠着,結果先に上手を取ったほうが寄り切って勝つというのは頻出パターン。人間利き手があるように,大体の力士は得意の型がどちらかに絞られる。たとえば白鵬・日馬富士は右四つ。ここでも,「白鵬は右四つ=左上手」というのがわかる。稀勢の里は左四つ。朝青龍は両方でとれたが,データ上は左四つに分類されるようだ。

・もろ差し/外四つ
しかし,たまに段違いの構えを取らず,両手ともに下手・上手で取りに行く例外がいる。両下手の組み方をもろ差し,両上手の組み方を外四つと呼ぶ。もろ差しは非常に攻撃的な組み方で,完全の相手の内側に入り込むため,相手からすると非常にうざったい。単純に寄り切るだけならこれに勝る組み方はない。が,逆に言って寄り切る以外の技には派生しづらく,窮屈な相撲になる。小兵はもろ差しになりやすく,近年だと豊ノ島と栃煌山がもろ差しがうまい。逆に外四つはどちらかというと苦し紛れの型で,積極的になる型ではない。それでも巨体の力士なら,ここからつり出しや上手投げで逆転が可能。近年だと名手は把瑠都・琴欧洲・旭天鵬あたりであったが,直近で照ノ富士が外四つで極めて上手い相撲を取る。

・相四つ(がっぷり)/喧嘩四つ
相手と得意の型が同じなら相四つ,違うなら喧嘩四つである。少し考えてもらえばわかるが,右四つ同士が組みに行けば,互いの腕がぶつからないから,互いに簡単に右下手・左上手が取れる。結果,相四つの場合,互いに得意な型であるため,純粋な力比べになりやすい。この力比べに移行した相四つの状況のことをさらに「がっぷり四つ」と呼ぶ。がっぷりまで行くと熱戦になりやすく,それゆえ右四つがっぷりになりやすかった白鵬・朝青龍戦は名勝負製造機であった。
一方,喧嘩四つは,これも少し想像してくれればわかるが,片方が右下手をとったら,相手が左下手を取るのは物理的に不可能になる。つまり,自分が得意の型で組んだら,相手は不得意な型で組まざるをえなくなる。結果,組むまでが勝負の分かれ目となり,得意の型で組みさえすれば,多少の体格差・腕力差があれど逆転できる。白鵬と稀勢の里が喧嘩四つだが,稀勢の里がたまに白鵬に勝っているのは,稀勢の里が差し手争い(後述)に勝って先に左四つを作ることがあるため。

・差し手争い,前さばき
というように,特に喧嘩四つの場合はそうだが,立ち会いの瞬間にいかに有利な“下手”を取りに行くか,というのが相撲において最も重要な戦術のポイントとなる。この立ち会いから下手を取るまでの争いを差し手争いと呼ぶ。また,差し手争いを含め,自分の正面空間に自らが有利な空間を作り出すための挙動のことを前さばきと呼ぶ。自分が積極的に差し手をとりにいくだけでなく,たぐって(後日記述)牽制してみたり,脇を締めて相手の差し手を防いでみたり,いなして(後日記述)相手の正面から外れてみたり,といろいろできる。この前さばきが抜群にうまかった力士というと,近年では琴光喜であったが,逆に彼はさばいてからが無い力士ではあった。現役の力士だと鶴竜・妙義龍・安美錦はうまいと言っていい。稀勢の里は別にうまくないのだが,時々白鵬に差し勝っているのが本当に不思議。

・差し手
ここまでで,いかに下手を取ることが大事か解説してきたのでわかっていただけたと思う。しかし,実際のところ下手の威力である,相手の動きを拘束する効果は,自分の腕が相手の腋に入り込むことで発生する。つまり,まわしが取れているかどうかはそこまで重要ではないのだ。そこで,相撲では「まわしをつかんでいるかどうかは別として,自らの腕が相手の腋の下に入り込んだ状態」を指して,特別に「差し手」と呼ぶ。下手はもちろん差し手に含まれる。だから「下手争い」ではなく「差し手争い」だし,「もろ下手」ではなく「もろ差し」なのだ。

・巻き替え
一度組んでしまってから,高速でまわしから手を放し,組み替える技術のこと。一般的に言うと巻き替えは危険で,一瞬無防備なるからである。しかし,熟達者がやると無防備である瞬間が極めて短くなり,得意の四つに組んだり,相手の動きを牽制したりと,有効な手段となる。巻き替えを極めた力士がやると,観戦者がまばたきをしている間に,右四つがもろ差しに,もろ差しを経由して左四つに変遷していたりする。観戦者がいわゆるヤムチャ視点を最も味わうのは巻き替えの応酬であろう。白鵬と朝青龍の巻き替え合いは高速すぎて,マジで「今何回巻き替えあった……2回,いや3回か……?」と多くのテレビの前のNHK視聴者が混乱し,2ch実況スレが賑わった(当時)。現役の巻き替え名手というと,白鵬以外では鶴竜を挙げておこう。  
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2015年09月28日

横綱の変化,是か非か

というタイトルをつけてはみたが,先にこれを書いておく。今場所は相撲内容が本当に充実しており,毎日見ていて楽しかった。優勝争いが白熱したのは様々な嬉しくない事情によるものなので素直には喜べないものの,白熱したのは事実であり,“嬉しくない事情”はちょっと横においておくとして評価はしたい。あわせて,これだけ内容と展開の双方で楽しめた場所は数年に一度のレベルであろう。よって,そもそも14日目の結びの一番だけをピックアップしてああだこうだ言うこと自体が本場所全体の完成度からすると些事であり,ファンになりたての人はいいが,好角家がそれで相撲楽しいか? と聞いてみたいのが本音ではある。

その上で本題に触れるが,基本的にはこれと同意見である。もはや綺麗に是非をつけられる話ではない。


付け加えて言うなら,普段相撲を見ていない(にわかファンですらない)のに,こういう時だけ出てきて「相撲はよく知らないけどルール上問題ないものを騒ぐなんて“守旧的”」と発言して進歩派を気取りたいだけの人たちはほんと害悪でしかないので,ちゃんと相撲を知って簡単に白黒つかない話であることを前提に,自らの白黒を開陳してもらえませんか。

ただ,私の立場をあえて言うなら,擁護する気はないが「“個人的に”面白かったからよし」という立場になる。鶴竜の変化が批判される理由は大きく「横綱相撲ではない」点と「興ざめ」という点に絞られると思うが,つまりは興行としてアウトという話である。しかし,ちょっと考えてみてもらいたい。最初の一番で変化が決まっていたor失敗していたなら鶴竜に失望していたのだが,最初の一番が取り直しになったのが結果的に良かったと思う。二度も変化したという珍妙さに,二度で左右が違うという珍妙さの重ねがけ。しかもそれが決まりそうな相手である稀勢の里に仕掛けることになったという,優勝争いの展開の妙。変化自体にはついていったのに,動揺から二歩目が出なかった稀勢の里の心理面の弱さ。苦手の稀勢の里を変化で退け,あとは手負いの照ノ富士で優勝は盤石という状態からの,本割での敗北。鶴竜は変化に負い目があり,変化した翌日はしばしば負けるのだ。その意味で鶴竜の心理も盤石でない(※)。ここまでの経緯を踏まえた上での決定戦での鶴竜優勝となると,もはやすべてが滑稽であり,何か相撲の神様ではなく,運命の女神様がいたずらで鶴竜に変化を決心させたのではないかと思う程度にはドラマチックであった。「相撲は興行だから横綱は変化してはいけない」とするなら,あの変化は興行的に面白い展開を導いたという点でなら,擁護できる。

しかし,無論のことながら,鶴竜はその「すべてが滑稽」の上で優勝してしまったということは,本人が重々噛みしめるべきであろう。

※ その意味で言えば,11日目の栃煌山戦で変化した翌日,12日目の琴奨菊戦で鶴竜は負けると私は踏んでいたのだが,この12日目はあっさり勝ってしまった。だから鶴竜の心臓にも朝青竜ばりに毛が生えてきたのかなと思った矢先の14日目・千秋楽である。これも踏まえるとなお面白い。


以下,個別評。熱戦が多かったので書くことが多い。まず途中休場した白鵬だが,これにより途切れた記録の数々がすさまじいので掲載しておく。
・横綱連続出場722回(2位北の湖653回)
・幕内連続二桁勝利51場所(2位北の湖37場所)
・通算連続勝ち越し(2位)51場所(1位武蔵丸55場所) 
※ 通算連続幕内勝ち越しとすると1位になる。白鵬は51場所すべて大関・横綱だが,武蔵丸は十両・幕下を6場所含むため,49場所に減る。
まあ継続記録とはいつかは途切れるものである。心機一転して来場所がんばってほしい。
鶴竜の相撲は意外と普段通りで,特に調子が良かったわけではない。白鵬と日馬富士がいなければ,12勝3敗くらいはできるくらいの実力はあるという確認にしかならなかった。そういう意味では,白鵬と日馬富士がいなくても12勝しかできなかった,その上照ノ富士がケガをしなければ優勝できなかったというのは若干残念な話ではある。ただまあ10日目の妙義龍戦は取り直しが妥当で,不運な星の落とし方ではあったと思うし,3日目の嘉風は万全の白鵬でも苦戦したであろうくらい動きが機敏だったので,情状酌量の余地はあるか。

大関陣。照ノ富士は豪快な相撲が売りだが,豪快過ぎて膝への負担が不安とは指摘されていた。ここに来てそれが爆発した形である。ただ,照ノ富士が豪快な相撲にならざるをえないのは立ち会いが遅いゆえに不利な体勢で取らざるをえないからであり,この立ち会いの遅さも以前から指摘されていた弱点である。いずれにせよ,自分の弱点を見つめなおす良い機会かもしれない。妙に好調だったのは琴奨菊で,序盤で早々に2敗して優勝争いとは無縁に近かったものの,突進力があり,終わってみれば11勝である。これは白鵬と日馬富士がいても10勝には乗っていたのではないか。一方,稀勢の里の11勝はいつも通りという。14日目勝ってたらおもしろかったのにねぇ。豪栄道は白鵬・日馬富士がいないのに負け越しという結果はちょっと。来場所なんだかんだで8勝7敗しそうではあるが。

関脇。栃煌山は某人が言っていた「ハートの弱さが稀勢の里並」という寸評以外コメントのしようがない。妙義龍は可も不可もない出来。小結の栃ノ心は,何より「幕下55枚目まで陥落した後の三役復帰」の上での10勝という偉業であり,これを賞賛するべきであろう。大ケガ以前よりも少し柔らかくなり,得意の右四つになりやすくなっていると思う。敢闘賞は妥当で,「千秋楽勝って」という条件も不要だったと思う。もう一人の小結隠岐の海は,悪くない出来だったが,それ以上に周りが良すぎたという印象。

前頭上位陣。嘉風は神がかった出来。今場所は嘉風のためにあった場所と言っても過言ではない。元々機敏な動きで撹乱し,さっと中に入るか押し込んで倒すかという取り口であったが,今場所はこの長所が本当によく出ていた。足腰はあまり重くなく,また捕まると弱く,パワープレーにも弱いという弱点が多々ある力士ではあるが,今場所はその弱点を長所がよくカバーしていて,捕まること自体がほとんど見られなかった。弱点が露呈したのは中日の大砂嵐戦(パワープレーにやられた)くらいであろう。技能賞と殊勲賞受賞だが,敢闘賞もあげて全部でも良かったと思う。そのパワープレーの権化大砂嵐は,やっと膝が治ってきてフルパワーという様子だった。自己最高位での勝ち越しはめでたいが,千秋楽にその左膝(本人申告は左足首)を痛めたらしいのが大変に気がかりである。

逸ノ城はやや身体が軽くなったか,動けていた。しかし目立った活躍はない。宝富士は五月場所までの好調が嘘のような弱体化で,先場所・今場所とひどい出来。左四つになれば上位でも通用する状態が半年ほど続き,照ノ富士とともに上ってきたのでこれは上位定着しようと思われたが,ここに来て崩れてきた。ケガはないようだが,心配。佐田の富士と玉鷲は家賃が重かったか。玉鷲は照ノ富士戦など,非常に動きの良い取組があったので,4勝しかしていないのはやや意外。

前頭中盤。遠藤は膝が治ったように見えてたまにぐらぐらしているようで,膝がガクガクしている日はまるで粘りがない。膝の調子が良ければ上位でも十分取れる実力があるのはおそらく皆目一致しているところで,それだけに膝の状態が日毎に違うまま上位戦になるのは不安である。膝が壊れる前の遠藤が戻ってきたという世の論調にはやや賛同しかねるところがある。阿夢露の勝ち越しはこう言ってはなんだが意外で,前は左四つにならなければてんでダメだったが,今場所は多様な勝ち方が見られた。これが単に好調だったからなのか稽古の成果なのかは来場所に期待。安美錦はとうとう幕内最年長になったが,よく勝ち越すもんだ。北の富士だったかが「安美錦が変化しても誰も文句をつけない」と言っていたが,これは最年長という点もあり,そういう取り口と皆納得しているというのもあり,両方あるだろう。

前頭下位。誉富士は今場所突き押しが良かった。勢の11勝は単なる上昇エレベーター感ある。他の面々も悪くなかったのだが,結果的に実力が拮抗したようで,千秋楽7勝7敗が非常に多かった。さらにその結果7勝8敗が多く(7勝7敗同士当てられたわけでもないのにこうなった辺り皆ガチだろう),来場所の番付編成が大惨事になっている。力士ごとの運不運が出そう。


最後にその予想番付。
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2015年07月30日

レジェンドの引退

終わってみれば,予定調和的な場所であった。横綱の一人が優勝し,もう一人が12勝3敗で千秋楽まで優勝争いを引っ張り,気鋭の大関二人は11勝と10勝,カド番の大関は8勝で終戦した。これでいいのである。荒れた場所でも平凡だった場所でもなく,いろいろありつつ落ち着くべきところに落ち着いた場所。そういう印象であり,悪い印象ではない。

トピック的には旭天鵬・若の里の引退があるが,これは後で取り上げる。けが人は多少減った印象。日馬富士だけが悲惨であるが,不運だったとしか言いようがない。あとは場所中に痛めたらしい高安くらいで,全体としては無事に終わったのではないか。ガチ相撲が増えた最近では珍しいことだ。そうそう,千秋楽の琴奨菊−照ノ富士戦の互助会を疑う声が強いが,あれはガチだったと私は判断する。照ノ富士側に星を譲る理由がない点と,琴奨菊の変化は誰しもがさすがに予想できていなかった点,そして互助会を発動させるなら変化する必要がない(がっぷり組んだ方が疑われない演技がしやすい)という点から判断するに,むしろ琴奨菊の星勘定以外互助会と判断する要素が皆無と言える。互助会であったほうが話としてはおもしろいが,見る目も養わず簡単に疑うというのは好角家としてどうなのかとは苦言を呈させてもらう。

白鵬の逸ノ城に対するダメ押しは,そろそろ「親方経由」はやめて,本人に直接注意しないとダメだろう。これまで親方が注意してきても全く聞き入れられていない。加えて,今回宮城野親方はマスコミの取材に対して「モンゴルの人は、そういうところがあるじゃないですか。熱くなると抑えられなくなる。気が入りすぎると、自分自身が分からなくなるんじゃないですか。反省しているのは、反省しているでしょ。いつも『失敗した』という顔をしていますから。本人が一番分かっていること。」と述べていたが,モンゴル人の問題ではなくて白鵬個人の問題だし,反省しているかどうかと繰り返さないかどうかは別である。他は多少置いておくとしてもダメ押しだけはダメ,というのを徹底して欲しい。さらに言えば,その後ろめたさが翌日の敗戦につながったのではないかと思うので,ダメ押しは白鵬自身の精神にとっても良くないはずである。


個別評。白鵬について,舞の海が「衰えた」と評し,白鵬が優勝インタビューで反論するという場面が見られたが,やはり衰えていると思う。その理由については本ブログでは散々書いてきているのでもはや繰り返さないが,白鵬が自身の衰えと戦術の変化を認めたがらないというのは一つ発見で,ちょっとおもしろかった。実際には認めているからこそ戦術を変えてきているわけだが,それを公には認めないのである。彼なりのプライドということだろう。今場所の内容は最近の白鵬としては標準的。千秋楽の鶴竜戦はさすがの力量であた。

鶴竜は休場明けで勝負勘が心配されたが,何のことはなく,強い時の鶴竜であった。動きが機敏で計算づくであり,細かい動きすべてに意図がある。「ここでこう動けば相手はこう来るはずだから,こういう崩しを入れれば倒れる」というシミュレーション通りに展開するので,見ていて気持ちがいい。逆に言って彼が負けるときは計算が狂った時か,計算ではどうにもならない力負けした時で,今場所の敗戦3つは3つとも後者の様相であるから,どうしようもないといえばどうしようもないのであろう。日馬富士は手術明けなので大事を取っての休場致し方なし。にしても,右肘の遊離軟骨除去とは,野球選手のような手術である。

大関陣。稀勢の里は極々いつも通り。照ノ富士は新大関として及第点だろう。ただ,一気に綱取りという勢いはしぼんだというか,実力不足は露呈した。立ち会いが鈍く相手十分の四つになると,関脇クラスまでは何とかなるが大関・横綱クラスになると勝てないというのは弱点と言っていい。豪栄道と鶴竜がそろって深いもろ差しという選択をしたのは印象的で,これが栃煌山や豊ノ島だと極められてしまってむしろ照ノ富士が十分になるのだが,さすがに豪栄道と鶴竜となるともろ差しが効いた。豪栄道は9−6ではあるが,こちらも及第点と言っていいと思う。照ノ富士を破ったのは大きい。今場所の豪栄道は普段以上に首投げの切れが良かった。琴奨菊はなんとかつかんだ8勝ではあるが,2場所延命したという感想しかない。地位にしがみつく姿勢は嫌いではないが……

三役。逸ノ城は痩せよう。稽古しよう。4−11の大敗はさすがに薬になったと思いたい。栃煌山は稀勢の里と同じ,あとは精神の問題である。もろ差し・もろはずになれば大抵の相手は倒せるはずなのだが,緊張すると明らかに身体が固くなってそもそも中に入れないという大問題を抱えている。これをなんとかしないと大関取りは永久に無理。妙義龍は可も不可もない出来。宝富士が4−11と大敗したのは非常に意外。調子は悪くなかったように見えるが,谷川親方(北勝力)の言う通り対策されてきているのだろう。左四つになると強いが,なかなかならせてもらえなかったというのが今後の課題。ただ,研究されてもそこそこ勝てるくらいの実力がついているのかなとは思っていたので,意外だった。

前頭上位。栃ノ心は三役返り咲きおめでとう。ただ,日馬富士戦不戦勝,千秋楽の旭天鵬で2番勝ちを拾っており,実力通りだったかというと。来場所大敗しなければいいが。佐田の海は宝富士と同じで,動き自体は悪くなかったが,研究されてきている印象。やはり豪栄道と似たタイプで,技巧派ではあるものの,計算して崩すというわけでも,動きまわって撹乱するというわけでもなく,技の切れだけで勝負するタイプだが,今場所は自由に動かせてもらえなかった。このタイプは豪栄道が特例であって,上を目指すならタイプのチェンジを考えた方がいいと思う。安美錦は「土俵際の妖術力」こそ衰えていないものの,前に出る力は相当に衰えており,もう上位で取るのは厳しそう。彼が上位にいるとおもしろいし,照ノ富士や日馬富士の援護射撃にもなるので,良いのだけれど。旭天鵬の引退に際して「とうとう自分が最年長」と泣いていたそうだ。内心は相当に寂しいのであろう。隠岐の海は意外な大勝。今場所は縮こまらず,大きな身体を活かした相撲が取れていたように見えた。

前頭中盤。豊ノ島はやたらと稽古不足がNHKの各解説に批判されていた。確かに動きは悪かったが,そんなに界隈で話題になっていたのだろうか。嘉風の動きは良かった。12勝で敢闘賞は妥当。ただ,大砂嵐に負けた一番を見るに,まだ外国人は怖いんだなと思った。11勝の大砂嵐は対照的に,いつの間にか11勝していた印象。相変わらず乱暴な相撲で,持ち味ではあるが進歩もない。立ち会いの諸手突きはよく効いていた。佐田の富士も10勝,腕がよく伸びていた。星通りの好調だったのだろう。阿夢露も印象は良かったのだが,星は8勝止まりであった。左差しが差せれば馬力が出るのだが,そうでないとてんでダメで,勝ち姿が鮮やかインパクトがある。ここが印象と星数の差の原因かもしれない。

前頭下位は遠藤の復調以外,特に触れるところがない。遠藤の足はひとまず良さそうだが,手術しなかっただけに再発が心配である。


さて,若の里と旭天鵬が引退した。若の里は青森への巡業が終わってから発表するそうなので,正式にはまだであるが,ここでまとめて扱う。先に若の里から。右の腕力が強く,右であれば差し手でも上手でも怪力を発揮した。なまくらというわけでもなくどちらの四つでも取れたのだから脅威である。とりわけ右差しからのすくい投げは芸術的で,長く上位陣を苦しめた。出世も早く,2001年から05年までほぼ三役にいつづけた。大関候補の呼び声も高かったが,一方で足腰は強いというわけではなく,簡単に転がされる場面も目立った。ケガも多く,00年代後半には「大関候補の呼び声高かったのに,ケガの頻発で大関になれずエレベーター化した人」の代名詞としてネットスラングとして定着してしまっていたのは,本人にとって不運であった。とはいえ幕内中盤の門番としての地位は雅山とともに長く続き,「味のあるベテラン」として愛されていた。なんのかんので2012年頃までは存在感があったが,14年からは十両の場所が増え,今場所とうとうその地位も失うに至って引退となった。大関の地位にこだわらなかった結果長寿となった力士としては雅山と並ぶが,大関になれなかった原因もまたケガであるというのは,人生の不思議さを感じさせる話である。

旭天鵬はモンゴルからの入門者の第一世代で,1992年3月の初土俵は奇しくも若の里と同じである。同期の旭鷲山の引退は2006年のことで,すでに政治家・実業家として活躍している。これまた人生の不思議さを感じさせる話だ。旭天鵬の取り口は異様なまでに長い腕,それによる懐の広さに支えられたもので,スケールが大きい。旭天鵬の懐に潜り込んだつもりであっても,実はまだ旭天鵬の術中であり,右四つや外四つからの豪快な寄り,上手投げは見ていて爽快であった。一方で,番付上位の力士にはめっぽう弱く,手を抜いているわけではないが,立ち会いの前から明らかに精神的に負けている様子であった。しかし,上位戦で無理をしないこともケガの少なさにはつながっていたのだろう,旭天鵬の相撲人生自体が記録の宝庫である。なかでも37歳8ヶ月の史上最高齢初優勝(高齢優勝としては史上3位),史上初の40歳幕内勝ち越しは特筆に値する。2014年に入ってからはさすがに足腰に衰えが見え始め,組んでも踏ん張れない様子が見られ,今場所とうとう引退となった。

若の里も旭天鵬も,本当にお疲れ様でした。
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2015年05月26日

兄弟弟子の奮起とか泣くしかないでしょう



こんなことつぶやいていたら,本当にそうなってしまった。白鵬には申し訳ないのだが,今場所の優勝争いはここ5年1の単位では最も熱かった。千秋楽は仕事で,優勝決定は退勤直後に急いでtwitterをのぞいて知ったのだが,帰宅後泣き崩れる照ノ富士につられて泣いてしまった。日馬富士が勝って,というのがまた熱い展開であった。(どうでもいいが今月はよく泣く。先週はSHIROBAKOで泣いた。涙腺が弱っている)。

ついでに過去を振り返るに,3敗での優勝は平成24年五月場所の旭天鵬以来のことである。昨年の五月場所は成績こそ白鵬の優勝ながら舞の海の排外発言疑惑騒動があり,二年前は白鵬の全勝優勝ながら稀勢の里が14日目まで全勝でついていく稀有な展開,3年前は前述の通り旭天鵬の優勝,4年前はそもそも技量審査場所,5年前は終わった直後に野球賭博騒動が発覚。と,ここ5年について言えば春場所よりも五月場所の方がよほど荒れている。土俵の外を含め。

ただ,相撲内容は正直に言って薄かったと思う。引き技が多かったというわけではない。けが人が多く休場も多かったので仕方のない部分は大きいのだが,それにしても恐る恐る取っているところが思い切り見えてしまい,その意味であっさり決まった展開が多かった。公傷制度が無く八百長も一掃され,強行出場しか取れる手段がないと考える力士も多かろうが,大相撲ファンとしては「番付が下がってもいいから休め」と言いたい。それが本人の力士生命にもいいし,土俵の活気にもいい。つまらない相撲を取るくらいなら休んで欲しい。


個別評。白鵬は,奇しくも日馬富士と同じ右肘を痛めていたというのがサポーターの着用からわかった。白鵬の生命線は左上手ではあるのだが,左上手を取るためには右差しが必要で,勝つには勝つがどうにも差せないまま前半戦が終わった。このままでは良くないと後半突き放す展開が増えたが,離れて取ると案外脆いということが発覚し,そこを豪栄道・稀勢の里に狙われたように思う。千秋楽の日馬富士戦も突き放す気であったようだが,日馬富士に奇襲を受けて組む展開となり,結局脱することができなかった。反面,照ノ富士戦右肘をかばいながらも組みに行って勝ったあたり,白鵬自身,突き放しに行く戦法の無理をわかってはいたのではないかと思う。場所後には「ケガを直して,もう一度がんばりたい」と案外明るく話していたそうだが,今回の敗戦は「史上最強の横綱としてのプライド」と「加齢による衰え」とのギャップを自覚させた敗戦で,これで憑き物が落ちたなら彼にとっても良かったのではないか。なお,白鵬は今場所で勝ち越しが連続50場所となり,これで8勝・9勝・10勝(ここまで50場所)・11勝(30)・12勝(22)・13勝(9場所)・14勝(6)・全勝(4)とすべてで連続記録が首位となった。また一つ偉業を達成した。

日馬富士は右肘の状態がおそらく過去最悪のレベルだったと思うが,千秋楽の一番だけで横綱として及第点の働きだったと思う。身を極限まで低くしてから白鵬の腰に組み付く奇襲,あれは日馬富士にしかできない神業だ。感動をありがとう。ただ,冷静に考えて,あと何場所横綱が張れるのか,膝・右肘(のせめていずれか)が完治すれば別だが,かなり厳しい状態に追い込まれているのも確かであろう。鶴竜のように休んだほうがよいかもしれない。鶴竜は左肩が相当に重傷なようだが,来場所は出てこれるのだろうか。

大関陣。稀勢の里は素直に良かったと言える。白鵬を含んだ11-4ならば勝ち星で文句があろうこともなく,内容も悪くなかった。お前は左四つ以外に戦法が無いのかと思わんでもないが,右四つになったときの安定感は白鵬に次ぐ。豪栄道も8-6-1といのは物足りないものの,白鵬戦での「悪癖」首投げ一つで大関の面目を保ったところがある。成績不安定ながら技の切れ味だけは天下一品と考えると非常に彼らしい。琴奨菊は本当に満身創痍で,もう「勝ち越すごとに2場所ずつ延命」という状態になっている。まあ延命しまくった大関は多いが,大関互助会全盛期の魁皇や千代大海といった事例しか出てこず,交渉相手が豪栄道しかいない現状では難しかろう。

照ノ富士は極め出しに頼った先場所に比べると多彩な技を出してきた感が強く,そこを稽古してきたのだなと。初日に攻め急いで自滅したときにはさすがの彼でも緊張が強いなと思ったが,二日目には立て直したのでメンタルも強いのだとわかり,何か安心した。本人が「年内に大関が目標で,今場所失敗してもまだ大丈夫」と自分に言い聞かせてプレッシャーを抜いていたのは印象的だった。ワンチャンスを確実に手にしたという感触は強いものの,遠藤・逸ノ城・大砂嵐との新星4人では明確に二歩ほど前に飛び出た。優勝&大関取り,本当におめでとうございます。そういえば平成生まれ初か。モンゴル出身なので,あまりそういう感覚がないが。


その他の三役。逸ノ城は痩せよう。それしかない。妙義龍はあんなもんかなと。なんというか,ケガを直して上位に戻ってきてみれば逸ノ城やら照ノ富士やら,宝富士に栃ノ心と横綱・大関以外の上位陣がハイパーインフレしていて,なんとも間の悪い。低迷期間が長かった妙義龍自身が悪いと言ってしまえばそうなるのだが,彼が大関になるなら1年半前の段階だった。栃煌山は可も不可もない。

前頭上位。宝富士は自身が強くなっているのも当然あるが,この地位まで来ると日馬富士と照ノ富士にあたらないのが最大の利点,という感じも。2敗は確実に避けられるので。栃ノ心は強いところを見せ,特に左四つがっぷりで宝富士を破ったのは大きい。しかし,9-6で半枚しか上がらない不運は嘆いた方がいい。佐田の海は豪栄道と似たようなタイプかも。足技がある分は豪栄道よりも技巧的だが,身体能力は豪栄道ほど無い感じがする。大砂嵐の途中休場は残念だったが,左肩のケガがあまりにも悪そうだったので,良い機会ではあろう。

前頭中盤。高安は大勝したものの,ケガをかばいながらの相撲というのは見て取れ,それでも大勝したのは大したものだが来場所不安である。上がったはいいが序盤で休場,ということにならなければよいが。平成初を独占してきた彼だが,ここに来て大関取りは照ノ富士に先を越された。誉富士は突き押しでも組んでも取れるのは利点だが,器用貧乏感ある。突き押しで固めてみてはどうだろうか。遠藤は結果的に6勝したものの,やっぱり休んでいた方が良かったのでは。見てて不安でしょうがない。彼に課せられた使命は幕内に残留することではなくて,上位に進出することなのだから。勢・魁聖・隠岐の海は上昇エレベーターというだけで,来場所勝てるかが真の問題。

前頭下位は阿夢露と旭天鵬だけ。阿夢露はちょっと成功した隆の山という感じで,身体が軽いのが長所でもあり短所でもあり。もう少し技巧的に取れると幕内に定着しそう。旭天鵬は「十両に落ちたら引退する」と明言しているところで8-7の勝ち越し。来場所は11枚目か12枚目には上がるだろうから,6-9か5-10で良く,2場所延命した感じである。少しずつ衰えてはいるものの幕内下位水準ではあり,なんだかんだで年は越せそうな感じが。

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2015年03月23日

テルルさまさま

マスコミが不用意に白鵬を追い回した結果として不穏な雰囲気が漂う中で開幕し,案の定2場所連続15日間満員大入りの客席に反して,内容は低調な滑り出しであった。しかも前半から上位陣がぼろぼろと星を落とし,あやうく13日目に優勝が決まりかけたが,そこを救ったのが照ノ富士であった。上位陣がそろって毎場所好調ということは考えていないし,全員不調という場所もたまにはあろう。その谷間に照ノ富士が頭角を現し,優勝争いを多少なりとも延命させたのは幸運だったかもしれない。もっと言えば先場所は上位陣がそろって好調で星の潰し合い状態であったため,今場所はそろって不調だったのだろう。

今場所を総括すると,沈黙の白鵬・伊勢ヶ濱部屋の活躍・ケガの頻発の三点だろう。白鵬の沈黙については,そろそろマスコミの方も触れないでおくべきだ。審判批判については私自身こう書いているし,デーモン閣下でさえも「あれは擁護できない」と言っていた通り,どうしようもない。その他,これまで批判されてきたような素行は別段改善もしていない。しかし,今のマスコミの追い回し方は事態を改善させるとは全く思えず,白鵬を悪役に仕立て上げて遊んでいるようにしか見えない。功労者に対する仕打ちではなく,害悪である。そもそも自分の記事にも書いたが,これはそれほど揉めるような事件ではなかったはずである。おおごとにする権利がマスコミにあったのかを問いたい。なお,本日の一夜明けでは白鵬本人から「親方を通じて北の湖理事長と話した上で,終わったことなので」とした上で「今場所,相撲に集中した結果が,誰が見ても分かる相撲内容。」と述べた。実際,今場所の相撲内容は良かった。

照ノ富士の台頭は予測の範囲内であったが,自称腹痛の中で13勝まで伸びたのはやはり伊勢ヶ濱部屋の団結力によるところが大きかろう。元々日馬富士が伸びたのも彼の猛稽古する気質によるところが大きいのはよく知られている。宝富士が次第に力をつけてきたのも含めて,日馬富士の影響は大きかろう。このところ彼自身は右肘のケガが重くぱっとしないが,後進への良い影響は好印象だ。

八百長が減った反動がいよいよ表に出てきたか,ケガによる途中休場が目立った。隠岐の海,遠藤,安美錦そして千秋楽の千代鳳あたりは重傷そうで心配である。特に遠藤はキャリアに大きく影響するのではないか。これで幕内に二度と戻ってこないということはないだろうが,古傷に終始悩まされるようなことがあれば,若の里コースになるかもしれない。遠藤・大砂嵐・逸ノ城・照ノ富士の時代がすぐに来ると思っていたが,少なくとも向こう1年ほどは席が一つ空きそうである。代わって入る若者というと千代鳳かと思っていたが,その彼も千秋楽にああなってしまった。ケガは事故のようなもので,最大限気をつけるべきだが,気をつけてもどうしようもなくもらってしまうものでもある。そのような運不運が大きく影響するのは相撲のスポーツとしての欠点だと思うが(同じ格闘技でもこんなにケガしやすい種目は他にないかと),かなりやるせない。

ついでに言うと全員膝である。巨大化は限界まで来ており,膝のことを考えても全体的に痩せた方が良い(この点は舞の海に賛成)。今不安なのは逸ノ城と大砂嵐がツートップ。最悪の未来を想定すると,ポスト白鵬は戦国時代ではなく照ノ富士の単独天下になる。


個別評。優勝34回目の白鵬。初日・二日目は気が抜けてて大丈夫か今場所と思ったが,優勝後のNHKのインタビューで「初日・二日目は目標を見失っていて,気合が乗らなかった」と本人が言っていた。三日目からは危機感を覚えたか元に戻ったが,つまるところ彼にとっては前半8日全部勝つのが常態化しており,大きな精神的なゆらぎがあろうともその辺りまでは関係ないのだろう。三日目以降は見るからに好調で,ここ2年に限れば昨年の九月場所に次いで内容があった。

日馬富士は本当に右肘が。突き刺さるような立ち会いは健在ながら,その後が続かない。引くと今度は膝の古傷が痛む。以前であれば膝に負担をかけないよう突き刺さった勢いでそのまま前進し流れでなんとかしてしまうところが大きかったが,右肘の痛みからか流れでなんとかならない。肘か膝のどちらかをじっくり治すか,相撲振りを変える転機に来ているのかもしれない。稀勢の里は前々から書いてるが,いい加減加齢の影響が大きそう。相手の弱点や傾向を考えずに前進する攻撃力が彼の魅力だったのに,最近がむしゃらに寄っても相手が倒れないのである。どうしたものか。琴奨菊と豪栄道は可も不可もない。豪栄道は応援で固くなってたように見えるので,もう手拍子やめてあげては。これは勢にも言えることだが。

三役。照ノ富士は抱えてからの極め出しが威力抜群であった,と今場所の総評で誰しもが書きそうなことをとりあえず挙げておこう。普通抱えて極めるのはもろ差しに入られて苦し紛れに出すものだが,照ノ富士の場合は完全に一つの戦術になっている。あえて脇を空けて浅いもろ差しで入らせてから極めているようにさえ見え,とんだブービートラップと化している。膂力ももちろんすごいのだが,極めてから相手の寄りや投げを上方に逃したり,相手の腹を自分の腹に乗せて腰を浮かせるなど,安美錦から教えてもらったのかというような小技の数々が組み合わさってあの戦術が生きている。攻略するのは相当困難で,もろ差しを得意とする力士が多いだけにこれ一本で白鵬以外は倒せてしまうのでは。栃煌山と豪栄道をこの戦術で倒したのには驚いた。あとは離れて取った時の対処がまだ未熟である点と,立ち会い直後は鈍い点がしいて言うと弱点か。極めてどうでもいいが,キセノンに続いてテルルというあだ名を付けた人はすごい。元素記号の系譜ができている。しかしなぜどっちも放射性物質関連。妙義龍はやっと相撲が戻ってきた感じ。しかし,まだ前の好調時に比べると組む前に前のめりに倒れることが多い気も。


前頭上位。栃煌山は上位で10勝だが,3場所続かないのがこの人の欠点。あと,新天敵照ノ富士への対処が永遠の課題になりそう。逸ノ城もこんなもんでしょう。そうそう,照ノ富士とは2場所連続で水入り,4分超えの相撲を取ったことをここにも記録しておく。ついでに言うと去年の九州場所も2分半かかっていて水入りしかけていた。二人の相撲はなるべく千秋楽に置いてはどうか。遠藤はケガが本当に惜しい。今場所は課題だった「立ち会いの圧力不足」「それを解決しようとして前のめりに立つとはたかれる」という二大欠点がかなり克服されていたように見えた。しかし,パワー不足解消のための稽古により,ケガしやすくなっていたのかもしれない。本当にやるせない。

前頭中盤。安美錦……やっぱり技能賞あげてよかったのでは。中日まで全部決まり手が異なるなんてなかなかない。魁聖は今場所はもっさりモードであった。北の富士が「魁聖はどうもよくわからない」と言っていたが,場所ごとかつ日ごとに動きの早さが違いすぎる。安定して照ノ富士を倒したときくらいの機敏さがあれば三役に定着できるのに。北太樹は速攻が効いていたが,長引くとはたく癖と,左差しが入らないと速攻が決まらない癖は直っていないようなので,上位に行くと対処されよう。嘉風はアスリートの魂を見たので応援していたが,奮戦むなしくという様子である。やはり膝で,踏ん張れないものはどうしようもない。

前頭下位。大砂嵐は良い出来。膝の調子が良さそうであった。来場所に期待しよう。千代鳳も良く,大砂嵐と並んで下位の相撲を盛り上げていた。押しも引きもよく効いていた。それだけに千秋楽のケガが心配である。臥牙丸も好調で,体重の乗った押しができていたと思う。はたきを伴わないし突きも出ないため,同じ押し相撲でも対照的。阿夢露は負け越しが残念。欧州系の力士としては珍しくパワーが強いわけではなく,レスリング的な要素も薄く,珍しい。経歴を見るとボクシングをやっていたようだが,突き押しに特化しているわけでもなく,純粋に相撲をとっている風である。死ぬほど苦労人なのは知っているので,芽が出て欲しい。解決策は……やっぱりパワーをつけるしかないんかな……


ところで,
「天」風
「照」ノ富士
「大」砂嵐
と後一人で「天照大神」という濃厚な『咲-Saki-』ネタ新進気鋭の四天王を思いついた
ので,誰か「神」候補を考えてください。「牌に愛された子」ならぬ「土俵に愛された子」ですねわかります。横綱=神で,神殺しを担う連中なのだから不在でよいという考えもできるけど。
というか3年連続どころではないチャンピオンがいるし,有力なグルジア人選手もいるし,これはもう大相撲も実質『咲-Saki-』なのでは。  続きを読む
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2015年02月05日

白鵬の審判批判に関する騒動について

一通り落ち着いたようなので。本件について思ったことをつらつらと。


1.白鵬の批判は正しかったのか?
ぶっちゃけて言ってしまうと,正しくない。少なくとも「子供でもわかる」というレベルのものではない。



問題の取組は10分50秒から。次に勝負規定。寄附行為施行細則附属規定の【勝負規定】の項目から,今回に関係しそうなものは

・第六条:土俵内に於て足の裏以外の体の一部が早く砂についた者を負けとする。
・第七条:土俵外の砂に体の一部でも早くついた者を負けとする。(以下略)
・第十一条:俵の上を歩いても、俵の上に足をのせて、爪先、踵がどれほど外に 出ても、土俵の外線から外の砂につかなければ負けとならない。
・第十二条:土俵外の空中を片足、両足が飛んで土俵内に入った場合は、土俵外 の砂につかなければ負けとならない。
・第十四条:相手の体を抱えるか、褌を引いていて一緒に倒れるか、または手が 少し早くついても、相手の体が重心を失っている時、即ち体が死んでいる時は、 かばい手といって負けにならない。

つまり,相撲の勝負判定はいくつかある。単純に言えば
・足の裏以外が地面に触れたら,土俵内であっても負け。
・足の裏を含めた全身の一部が土俵外の地面に触れたら負け。ただし空中はセーフ。

を基本線とするが,この両者が衝突した際に補足的に運用されるのが「死に体」の概念だ。
・全身どこも地面に落ちていなくても,数瞬の後に倒れるのが明白で,かつもはや新たな技をかけることが出来ない状態の場合,「死に体」として,不利に取られる。
この「死に体」が曲者で,「どういう状態なら体が死んでいるか」は力士同士や好角家同士でもけっこう意見が分かれる。だからこそ相撲の審判も複数人いて,協議(それも微妙な場合は長い協議)があって勝負がやっと決まることがある。加えて言えば,死に体の概念があるからこそ完全なビデオ判定に移行できない。相撲の判定はあくまで行司が主体で,行司の判定に不服がある場合のみ審判団に移り,ビデオ判定はあくまで審判の補助でしかない。なお,行司は必ず勝負を付けなければならず,同体取り直しの判断は審判団のみの権利である。この辺を勘違いして,ビデオ判定で全てがデジタルに決まっていると思っている人をたまに見る。

それを踏まえた上で先ほどの勝負をもう一度見ると,「同体取り直し」が正しいことがわかろう。11:20時点なんかがわかりやすいが,白鵬は「右足の甲が返っていて,足の裏以外が砂につきかけている」,また「どう見ても数瞬後に倒れるのが明白で,稀勢の里を寄り倒す技の途中と見るか,単に倒れかかっているだけの状態と見るかは微妙」=死に体にかなり近い。一方,稀勢の里は「左足の甲は返っているものの空中に浮いており」,数瞬後に倒れるであろうが,「技をかけられる状態であって,実際ここから白鵬に小手投げを仕掛けている」から,死に体とは言えない。この11:20時点だけ見ると,白鵬がやや不利なのだ。なお,ネットで検索するとこの11:20時点での稀勢の里の体が死んでるから,白鵬の審判批判は正しいとする主張を少なからず見かけるが,どこを見てそう判断したのか,是非とも意見をうかがいたいものである。多分,死に体の概念を理解していないのではないか。

では白鵬が負けだったんではないかというと,そうでもない。この数瞬後の11:22〜24を見てくれればわかるが,その後実際に地面につくのは稀勢の里が先なのである。これは白鵬が地面につきそうな自らの右腕を引っ込めているのに対し,稀勢の里はそういう危機意識を欠いているので,左腕が先に地面についてしまっている。なので,ここで焦点が見えてくる。
・11:20時点ですでに白鵬の右足の甲が返っているとし,先に体が死んだのは白鵬とすれば,小手投げで稀勢の里の勝ち。
・11:20時点の白鵬の体はまだ生きており,右足の甲も地面に完全に返っているわけではないとすれば,接地したのはデジタルに稀勢の里が先であり,寄り倒しで白鵬の勝ち。
となる。で,行司は白鵬を取り,審判団は協議の末に同体とみなした。同体の判断は許されていない行司の立場なら白鵬に上げざるをえないし,この対立点は解消しようがないので,審判団の判定は極めて正しい。少なくともここまで書いてきたような複雑な判断の末の取り直し判定であり,絶対に子供でもわかるようなものではない。


2.審判批判をとりまく言説に意味はあるか?
一切ない。その人の自意識や偏見が鏡に反射されて漏れでた典型的な例。本件に関していろいろな意見を出す人がいるが,今回の一件で正しい言説は「白鵬が軽率な言動だった」という一点だけである。

白鵬自身が外国人差別ゆえに不利な判定を下されたようなことを言っているが,事実としては上記のように審判団の判定が正しい。とはいえ,白鵬本人については,そう感じさせられるようなことが周囲で起きているのかもしれない。日本人横綱待望論なんかはそうだろう。あたかも自分が横綱にいるのがふさわしくないように聞こえるのかもしれない。が,日本人横綱待望論が根強いからと言って,白鵬が横綱にふさわしくないと言っている人はほとんどおるまい。「日本人も一人くらいは」という感覚であって,日本人だけが横綱になるべき,とは誰も思っていないのである。加えて言えば,白鵬が強すぎるからなかなか優勝できず,日本人が横綱になれない,というのは実際正しいのだが,だから白鵬が悪い,と言っている人もほとんどいないはずである。単純に,白鵬を倒せるだけの実力を持った日本人力士が誰一人現れないことを嘆いているだけで,あれは身内批判なのだ。白鵬はこんな話題を気にせず,泰然自若としていて欲しいところである。

その他にも白鵬が外国人差別と感じる部分は多々あるのかもしれない。が,本件に限って言えば審判団が稀勢の里に肩入れしたという事実は一切なく,白鵬の思い過ごしであった。にもかかわらず,白鵬を擁護しようとして,外国人差別に結び付けたい人は一定数いるようである。他の件ならわかるが,この件で「これだから閉鎖的な大相撲は」と言われるのは釈然としない。


また,他のスポーツでもそうだが,競技者による審判批判自体がしてはいけない行為,かどうかは議論の余地があろう。ただし,今回の論点はそこに置くべきではない。仮に審判批判自体が許されるとして,白鵬が判定に不服だったとしても,報道陣ではなく協会に申し出るべきで,かつ師匠を通すのが筋だ。優勝翌日の会見で,しかも酒が抜けきっていない状態で初めて話を出した時点で,白鵬に非がある。しかも報道陣が相手で,協会は寝耳に水であっただろう。ただし,定例化している優勝翌日の会見自体不要なのではという意見があったが,これは考慮に値すると思われる。どの優勝者にしても大体泥酔していて眠そうな状態だからだ。むしろ今回まで不用意な発言を誰もしてこなかったのが不思議なくらいである。

あとはまあ,お決まりの品格論で,以前からの積み重ねもあり,白鵬が傲慢になってきていて,「横綱としての品格を欠く」という主張と,「そもそも横綱は強ければいいのであって品格は不要」という主張のケンカが見られた。私はどちらかというと後者の側の人間ではあるが,今回に関しては白鵬を全く擁護できない。なぜなら,まず,増長しているのはおそらく事実であること。次に,今回のような審判批判は,上述のように形式の面から言って不適切であり,問題になるとすれば「横綱の品格」としてではなく,「力士のマナー」としてになるからということ。ゆえに,どちら側の主張にせよ,品格の概念を問題にしたいという意識の表出に過ぎず,今回の問題をちゃんと見ていない証拠だ。横綱であるのだから,競技のトッププレーヤーとしてより一層マナーを守るべき,という主張なら理解するし一理あるが,残念ながらそうした主張はあまり見られない。


以上の理由から,本件は「白鵬が思い上がって軽率な発言をした。判定は正しかったので,発言は無意味だった。白鵬は粛々と協会から叱られるべき」以外の言説は意味がないし,何かしらの意義にひっつけて盛り上がるような話かというと,本来はそうではなかったはずである。  
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2015年01月26日

半年振りにゆったり見れました

15日間すべて満員御礼,少なからず札止めも出て,異様な熱気の中取組が進んだ場所であった。内容の方は序盤が熱気に後押しされて充実していたが,中盤以降はスタミナが切れたような雰囲気で,やや残念なものも見られた。とはいえ,今場所は人気・内容の面ではほとんど満点に近い。優勝争いだけが白鵬の独走になってしまいやや残念であった。総合して上の中は固く,甘くつけるなら上の上をあげてもよい。自分自身も,昨年の九月場所は拙著の出版で落ち着かず,九州場所は海外旅行中で,今場所は久々にゆったり見ることができて良かった。

白鵬は33回目の優勝という偉業を成し遂げたが,誰も驚いていない。少なくとも今年は実働できるだろうから,あと3回は伸びるだろう。皆そうわかっているのである。その他の上位陣も好調な人が多かったが,それだけにつぶしあったところはある。その中で三役・前頭上位陣が6−9と7−8で固まっているのは実力が伯仲になっている証拠で,これからも激闘が見られよう。……それだけに豪栄道はこれからも茨の道が続いていそうで,半年でこれだけ環境が変わるのかというくらい,彼が大関取りをしていた期間と環境が違いすぎる。その中で勝ち越し,来場所新三役を勝ち取ったのは照ノ富士だ。8−7だが,この1勝は重みが違う。当分,この7〜8人ほどで激戦になりそうで,この先少なくとも1年は上位陣の入れ替わりのおもしろさが保証されそうだ。

そうそう。今場所は三賞が異常に渋かったことには言及しておこう。殊勲賞該当なしは妥当として,敢闘賞照ノ富士のみというのはけちくさい。玉鷲か徳勝龍にもあげてよかったと思う。技能賞は文句なしで時天空だと思ったのだが,名前が挙がらなかったのか。


というわけで個別評。横綱。白鵬は昨年の九州場所よりはマシ,九月場所よりは低調というくらい。悪すぎもしなかったが良くもなかった。土壇場での対応力は衰えておらず,多少低調なくらいでは周囲が追いつけない。とはいえ日馬富士と鶴竜なら,絶好調なら対抗できたのだが,残念ながら今場所は二人そろってダメであった。というよりも鶴竜は絶好調になる機会がそうそう多くないので,やはりここは日馬富士に期待がかかったところであるが,今場所の日馬富士は一見まともに見えるものの,当たりが軽く,鋭く立ち会っても相手が崩れない場面が見られた。あれでは白鵬を止められまいと思っていた14日目の結果は予想通りである。

大関。稀勢の里は11勝で大関としては十分ながら,まあこれ以上は何も言うまい。琴奨菊はここ1年で見ると12勝した昨年の名古屋場所以来の出来ではあったが,なんかもう満身創痍で,比較的動けて必死の覚悟なら9勝までは行くが,肩か膝かどこか悪いとすぐに負け越す不安定な状態が続いている。どこまで長くやれるかが焦点で,来年の初場所を大関で迎えられるかは割りと微妙である気がする。より悪いのが豪栄道だが,琴奨菊がケガと年齢であるのに対し,こちらは精神的なものが大であるから擁護する気があまりわかない。北の富士が「来場所以降も危ない」と言っていたが同感である。「豪栄道の出来は隔場所なので,来場所は好調になるかもしれぬ」とか書いていたが,8勝できたのが不思議なくらいのひどい出来であった。何度か書いているが豪栄道の相撲は出たとこ勝負で,それでも一つ一つの技が早くて強いから勝てているのだが,それだけにプレッシャーからか歯車がずれるととんでもないことになる。

三役。逸ノ城は本人も言っているように研究され尽くしており,動きが読まれていた。もう少し対応できるかと思っていたが,なかなか難しかったようである。もう少し痩せれば対応力が上がるだろうし,ダイエットがんばれとしかアドバイスしようがない。碧山ももう少し勝つかと思っていたのだが,総評で書いた通りの潰し合いに巻き込まれた形で,突出した力があるわけでもない。突きは当たれば上位でも引く威力があり,回転もそこそこ早いのだが,他の面があまりにも脆い。栃煌山と高安はノーコメント。あと一歩足りないところが,大関に上がれない理由なんだろうなぁ。

前頭上位。まず唯一の勝ち越し照ノ富士は,実のところ書くところがない。今場所も足腰が粘り強かった,だけで良かろう。その他の負け越し勢は挙げていい名前が多い。宝富士は本当に強くなった。左四つが基本だが,右四つでももろ差しでも寄っていける。ただ,まわしが取れないと身体の大きさの割ににっちもさっちもいかないという弱点が見透かされており,多少なりとも離れて取れる上位には全く歯がたたない様子も散見された。いかに差せるかが今後の課題。栃ノ心は上位に戻ってきただけで感無量なところがあるが,自慢の左上手が上位だとあまり通用しておらず,地力が厳しいかも。前はそうだったっけ? 年齢による衰えかなぁ。要経過観察。遠藤は先場所に引き続き吹っ切れていて,結果6−9の負け越しではあるが存在感はあった。相変わらず身体が軽く立ち会いに圧力を欠き,おまけに引く癖もあるが,それを覆して余りあるほどの技巧が彼にはあり,華がある。イケメンで知名度先行の日本人ホープというだけでなく,玄人受けするのが遠藤の人気の地盤だろう。しばらくはエレベーターかもしれないが,このまま変に曲がらず成長して欲しいと切に願う。

前頭中盤は内容がなかったわけではないが,書こうとすると記憶に留まった力士がいない。唯一,玉鷲の名前は挙げなくてはなるまい。今場所は絶好調で,こんなに良い突き押し相撲をするのかと驚かされた。来場所は上位挑戦になるが,続くようなら評価を改めねばなるまい。30歳という年齢を考えるに,ラストチャンスとは言わないが,数少ないチャンスではあろう。

前頭下位。大砂嵐はケガの調子がマシそうではあったが,組みたいのか離れて取りたいのかが今ひとつ中途半端で,荒々しい相撲らしからぬ動きは一つ利点になっているものの,何がしたいのかよくわからないことがしばしばある。もうちょっと相撲が取れないと上位陣に交じるどころか,エレベーターにさえなれない様相。荒鷲はそのとったりのセンスは時天空の足技と並ぶ幕内前半戦の名物と化しているが,妙に勝ち越せない。時天空は今場所“足”が好調で,本当になぜ技能賞が受賞できなかったのかがわからない。徳勝龍ははたく際の動きが珍妙すぎてネットで話題爆発していたが,実際動きは良かった。お前らクソコラつくんのやめーやw


さて,豊真将が引退した。その礼儀正しさとまっすぐに押していく相撲から誰しもに愛された力士であった。最高位は小結で,いわゆるエレベーター力士の一人であった。上位まではすんなり行くものの,横綱・大関には自慢の押しがなりをひそめてしまい,その山を越えられなかった。一方でケガが多く,上位に上がってくるとすぐに肩と膝を壊していたイメージがある。間違いなく努力の人であるが,その身を覆う努力に身体の側がついていかなかったか。引退会見の涙には思わずもらい泣きした。お疲れ様でした。貴方なら良い弟子を育てることでしょう。  続きを読む
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2014年11月30日

結果だけはヨーロッパから見ていた

今回はヨーロッパに旅行していたため,ろくに見れていないので短く。

今場所は白鵬の優勝32回なるかという点と,逸ノ城の本格的な上位参戦が話題であったように思う。そして両者とも終盤まで話題を引っ張り,かつ土俵全体の内容も充実していたため,高評価が与えられる場所だったのではないか。これならじっくり見たかった。ただし,白鵬と鶴竜の終盤の相撲内容ははっきり悪く,白熱した優勝争いというには物足りない。総合して中の上としておこう。

さっさと個別評に。優勝した白鵬は可も不可もない最近の白鵬という様子。ダメ押しだけはいただけないというか,所作がまた乱れてきたような。評価の高い,大久保利通と明治天皇に言及した優勝スピーチも,所作が良くなければ霞んでしまう。一方,あっさり優勝できたのは,日馬富士が重傷からの休場明けで無理ができず,鶴竜は緊張で崩れたことが大きく,中盤までは鶴竜が二度目の優勝の可能性が高いと思っていた。日馬富士は眼底骨折からの復活と考えると十分な出来だが,一方来場所以降もこの程度の出来で固定されるのではないかという不安もある。鶴竜は安定した強さを見せたものの,あそこで固くなり,変化で自らのリズムを崩す辺り,器が小さいと言わざるをえない。

大関陣は壊滅的。稀勢の里は重圧がかかってなければあんなもんだろうという出来。琴奨菊は満身創痍と感じさせる必死の相撲であった。が,負け越しは負け越しなのだから勝負は厳しい。豪栄道は大関昇進早すぎた論も出かねない惨敗っぷりで,しかも今回は大きなケガもしてないはずで調整不足という言い訳もできないのだから,これはかなり苦しい。「出たとこ勝負」の相撲から一切の進化がない点は批判されても仕方がないかな,とは。もっとも,豪栄道の出来は隔場所なので,来場所は好調になるかもしれぬ。

関脇の逸ノ城は期待通りというべきか予想通りというべきか。左上手を取ればめっぽう強いがとれなければ弱い。これについて,「実は右手が攻撃の主体で,左は上手でも取らないとぶら下がっているだけ」という某人の評が当たっているように思う。逆に言って右が封じられれば苦戦することになり,そうした研究は上位陣の間で進んでいるように思われる。不利になると首投げにいって自滅する悪癖は直そうとしている素振りこそ見られるが,直りきってはいない。それでも勝ち越したのは地力の賜物で,上位戦は稀勢の里以外全敗だが取りこぼしが一切ないというのは今後を占う上での好材料だ。今場所は場所前に帯状疱疹にかかわるわ,あまりの取材の多さに精神的に参るわでろくに調整できなかったはず。来場所にも大きな期待をかけたい。残りの三役,碧山は突き押しが強くなったのは十分わかったので,今度はもうちょっと他をがんばろう。豪風はケガだが,年が年だけに,復活できるかが心配。勢はノーコメントで。

前頭上位。宝富士はここ3場所ほどで急激に強くなったような。左四つの寄る力が強く,いつの間にか上位定着してた。もう一段階進化できるかどうかに注目。高安は調子の波が場所ごとに激しいので,今場所は強かったなということしか言えない。照ノ富士は存在感が今ひとつなかったが,千秋楽の逸ノ城との決戦は良かった。2分半に渡る右四つがっぷりの壮絶な力比べはすばらしく見応えがあり,今場所のベストバウトと言ってよかろう。きっちり勝って先輩の意地を見せたのだから,出世競争自体でも逸ノ城に負けないようがんばって欲しい。大砂嵐はまだまだ膝のケガが悪く,引く場面では全く踏ん張れないのが戦術上の大きな(文字通り)足かせになっている。再出場後にはそれなりの白星をあげたものの,再出場自体正解だったのかどうか。

前頭中盤。まず,新鋭4人組では最後の遠藤。ここ数場所の情けない印象からの脱却は図れたようで,立ち会いの圧力は改善されてきたように思う。精神的にも吹っ切れた様子が垣間見え,来場所からの逆襲に期待したい。次に栃ノ心。大ケガからの復帰で幕内まで駆け上がり,この番付でも11勝した。明らかにケガ前よりも強くなっている。基本的なスタイルとして左上手を取って膂力で寄り切るというのは変わっていないが,寄る速度や押し引きの判断が早くなっており,相撲全体が素早く展開するようになった。これは同格なら遠藤に見られる特徴で,右四つに組んでもそこから進まないのが以前の栃ノ心の特徴であったから,正反対である。来場所にも続けば大きな武器になると思う。3人目に隠岐の海。新婚で前半は好調だったが,後半は崩れた。好調にすくわれたか,後半は無理に寄っていこうする場面が増え,前半はそれでもなんとかなっていたところで後半はふんばれなくなったということであろう。所詮,精神的な高揚は長続きしないか。

前頭下位。まず旭天鵬おじさんは何なの。サイボーグなの。まじめにあと丸1年は取れるでしょ。妙義龍はもうちょっと勝つかと思ったが,前のめりに倒れることが多く,9勝とはいえ残念な出来。「立ち会いの当たりの強さに差し身の良さで一気に持っていく相撲」なのに前のめりに倒れるというのは,足腰が弱っているのでは。北太樹は左四つ速攻でなければ攻め手がない,という弱点を完全に突かれての大敗で,研究され尽くしている感がある。荒鷲は星こそ8勝だが,とったり・たぐり戦法が効果を発揮し,見ていておもしろかった。蒼国来も9勝の割にイメージが良い。技術が非常に高く,組むと膂力以外でねじ伏せるのは困難である。その意味で12日目の栃ノ心戦での敗戦が印象深い。こんな力士を数年に渡って塩漬けした例の騒動と裁判の罪は本当に重いなと,改めて思った次第である。
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2014年09月29日

第四にして最強の新鋭

今場所は土俵の内容が高く,特に序盤は熱戦が多かった。終盤はやや失速したように見えたが,単純に全員スタミナ切れとも見える。けが人が多かったのも過熱しすぎたせいと考えると納得できる。優勝争いは逸ノ城の奮闘のおかげで盛り上がったし,実は鶴竜もついていっていたので,あんなもんじゃないだろうかと思う。客の入りもよかった。やや待ったが多かった点以外は全て及第点ではなかろうか。上の下と評しておく。ここ数場所は上の中から中の中で推移しており,九州場所次第だが,全体として内容の濃かった年ということになりそうである。長年の「無気力相撲」脱却政策と,新鋭の浮上がうまく噛み合ったか。

今場所は照ノ富士・遠藤・大砂嵐がまとめて上位挑戦するという場所で,それで盛り上がるかに見えたが,蓋を開けてみると多少気を吐いたのは照ノ富士だけであった。その照ノ富士が6−9で終わってしまったのは意外である。大砂嵐は地力で7−8にまとめたものの,明らかにケガが重く,本来の取り口は見る影もなく,内容は無かった。遠藤は長くなるので後述するが,負けが込むに連れて内容もなくなっていった。対照的に逸ノ城が暴れ回り,話題をかっさらっていった。記録ラッシュである。新入幕で13勝2敗は史上3人目。新入幕で大関挑戦が7年ぶり,大関(連続)撃破は14年ぶりで,連日に絞ると史上初となる。横綱撃破は41年ぶり。初土俵から5場所での大関撃破・二桁勝利・横綱撃破はまとめて史上初だ。旭天鵬の40歳勝ち越し・白鵬の史上2位となる31回目の優勝とあわせて,とんでもない記録場所になった。……いやでも,旭天鵬と白鵬のおかげで最近毎場所何かしら記録が更新されてないか。

逸ノ城については,正直こうなるんじゃないかという気はしていた。幕下上位の頃(春場所)から「こいつは朝青龍・白鵬以来の逸材」という話題しか聞かなかったし,先々・先場所の十両での取り口を見ても「やべぇ」という感想しか出なかった。来場所は少なくとも前頭筆頭,番付編成会議の判断によっては小結もあり,仮に小結でまた二桁勝てば早くも大関取りの話が出てくる。さすがに来場所は多少跳ね返されると思うが(フラグ),本気になった上位陣と逸ノ城の正面切った対決は見たい。


個別評。白鵬は今年の5場所で一番良い出来だったのでは。所作も先場所に比べると落ち着いていた。デーモン閣下に諌められたのが効いたのか。しかし,「(豪栄道戦の)1敗で(場所が)盛り上がったんじゃないですかね」はあまりにもぐう畜発言ではw。日馬富士は眼底骨折だそうで,めちゃくちゃ心配である。手術して骨の折れたところに詰め物をした方が完治しやすいが,その詰め物が折れやすく,今度また眼底骨折したら視力を失って再起不能になりかねないそうだ。それを避けたい日馬富士は手術しない治療法を選んだ。うまく行けば初場所には復帰できるようだが,九州場所は怪しいらしい。無理せず治してほしい。鶴竜は可も不可もなく。前半戦の決まり手の大半が引き技というのがらしいというか,何というか。内容はともかく,11勝は横綱として及第点だろう。逸ノ城は事故。

大関。稀勢の里は年齢による衰えが始まっているのかも。がっちりと捕えてからの寄りに力強さが見られなくなってきた。宝富士に正面から寄り負けたのは象徴的。精神が脆すぎて綱とりが期待できない,とかそういう話じゃなくなってくるかも。琴奨菊は9−6ではあるのだが,逸ノ城戦が無く白鵬戦も無く9勝は負け越し扱いだろうとでも言いたくなる出来で,鶴竜を寄り切った12日目の相撲以外は基本散々だった気がする。一方,豪栄道は新大関のプレッシャーとケガで1ヶ月稽古できず,という状況からの8−7は許されよう。千秋楽勝ち越しで,土俵下で審判をしていた境川親方の目が潤んでいたのが印象的だった。

三役。常幸龍と千代大龍は奇しくも同時新三役で新風になるかと思われたが,結果は壊滅である。事実上の上初挑戦になる常幸龍は仕方ないとして,千代大龍はもうちょっと何とかならんかったんか。エレベーター化にリーチがかかっている状態で,もう次の新鋭が来ているのだから,危機感はもって欲しい。

前頭上位。照ノ富士と遠藤はまとめて,立ち会いが遅かったのが敗因。ただし,その対処法は各々異なった。照ノ富士は諦めて立ってから何とかしようとした。結果,上位陣には壊滅したが,同格相手にはなんとかなったものが多い。懐が深いとこういう時に有利である。一方,遠藤は立ち会いに前掛かりになることで威力を高め,欠点を補おうとした。しかし,この作戦は見透かされており,結果上半身だけで相撲を取る形になるよう誘導されてしまい,ばたばたと前のめりに倒れる姿が散見される羽目になってしまった。照ノ富士と大砂嵐・逸ノ城が強烈過ぎるが,まだ遠藤を見捨てるには早いと思う。今場所の敗戦は大きな経験となったはずで,頭の良い彼ならまた一工夫してくるはずである。そして,その工夫は前頭中盤であれば十分に通じるように思う。その次,エレーベーターにならないかどうかは,来年の初場所で観察したい。

高安は可も不可もなく。豊ノ島は休場が非常に惜しい。全部出てれば勝ち越し&再三役だったのでは。後半の上位がおもしろかったのはこの人のおかげだろう。もろ差しで中に入る相撲が光っていた。碧山は10勝だが,むしろここ2・3場所低迷していただけで,この人は1年前(昨年の九州場所以降)にエレベーターを脱出したというのが私の評価だ。再三役を素直に喜びたい。宝富士はカオス。マジで謎。妙に寄りに力があったけど,先場所まであんな力ありましったっけ? 大砂嵐は膝のケガを治してこいとしか。組んでもろくに力が出ないから離れて取る,すると技術不足で荒々しい張り手とはたきしかできない,それを見透かされてるからなかなか勝てないの悪循環だった。

前頭中盤。勢は,昨今の相撲人気は実はこの人のイケメンにあるのではないか説もあるが,はてさて。内容は悪くなかったが,名前の通りの相撲振りとしか評しようがない。安美錦は今場所も魔術師だった。栃煌山はただの上昇エレベーターで,三賞無しは妥当。むしろ12勝してほしかった。はい来た逸ノ城。筋肉が下半身に寄ってて技術もある把瑠都とか恐ろしすぎるでしょ。把瑠都の再来と朝青龍の再来を合わせたような恐ろしさがある。でもまだ動きは鈍いところがあり特に立ち会いはやや遅く,中途半端にはたく悪癖もある。今場所はまだ皆油断してたところがあったと思うので,来場所で問われる真価に期待したい。

下位は特にピックアップする人がいなかった。時天空は年だなぁと。足技の冴えだとか寄る力は衰えてないが,足腰の粘りは明確に衰えが。


最後に,若荒雄が引退した。木村山が引退したのが今年の初場所であるので,ポスト千代大海の連中もいなくなってしまった。いまや引き前提の押し相撲を取る者は幕内におらず,隔世の感がある。  続きを読む
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2014年07月31日

おめでとう豪栄道

序盤は相撲内容があまり良くなく,期待の持てない場所になるのかなと思われたが,終盤は優勝争いが過熱するにつれて内容もよくなった。いざ記事を書いてみると個別評がかなり長くなり,印象に残った力士が多かったと言える。中の中か中の上くらいあげてもいいだろう。

ただまあ,優勝争いがおもしろかったかと言われると,あまりわくわくしなかったというのが個人的な感想になる。併走していたのが日馬富士や鶴竜,せめて稀勢の里ならまだ期待感があったのだが,高安と琴奨菊では,決定戦になっても白鵬がなぎ倒してしまう可能性が高い。白鵬が落とした星2つは,因縁の相手稀勢の里と先場所も負けている豪栄道と不思議な黒星というものではなく,まあそういうこともあるだろうというものであった。しいて言えば,日馬富士が好調なら千秋楽落として3敗目があったかもしれないが,その日馬富士はむしろ不調であった。かくのごとく,なかなか白鵬の牙城を崩すのは難しい。しかし,もう何度も書いている通り,2年以上前に比べれば白鵬は衰えが明らかであり,優勝ラインが下がった結果が今回の13勝2敗であると思う。今場所の優勝争いを「白熱した」と言っても良いのであれば,当分,というよりも白鵬が引退するまで,このような展開になる場所が続くと思う。

それよりも今場所最大の目玉は新世代の台頭であって,遠藤・大砂嵐以外にも照ノ富士という第三の巨星が見いだされ,来場所にはとうとう逸ノ城が新入幕を果たす。もちろん千代丸・千代鳳兄弟も忘れてはいけないし,先駆者高安もいる。実は今の横綱・大関陣は昭和59〜61年生まれで固まっており,現在28〜29歳である。30代のベテラン勢を除き,昭和62年生まれの栃煌山を除くと,次のめぼしい人材が平成2年生まれの高安と遠藤まで飛ぶ。昭和63年,平成初年世代は谷間なのかなぁとか,ふと思った(一応常幸龍と千代大龍が昭和63年生まれだが)。


個別評。まず優勝した白鵬から。相撲内容自体はさして変化がないものの,少し前から所作の乱れが指摘され始め,今場所の前半戦は特にどこかいらいらしている様子が見受けられた。具体的に述べればだめ押しが増えていること,懸賞金を取った際にふりまわすこと,横綱土俵入りに勝手なアレンジが加えられていること(ある程度個性を出すのは良いことだが,歩数や順番まで手を加える権利は無い)。そしてこれはかなり前からだが,意図的に汗をふかず,相手のつっぱりを滑らせるようにしていること。汗をふかないことについては,今場所とうとう協会から直接注意が入った。そのほかの点については,功労者であることもあってか内部から批判はしづらいらしくおとがめがなかったが,こういうときこそ横審の数少ない出番であろうに,場所後の会合では全く指摘が入らなかった。まじめな話,成績不良の横綱を批判するだけの組織であったら不要なので,解体した方がいいのでは。かわって白鵬を批判したのはデーモン閣下であった。

日馬富士は可も不可も無い。足首のケガが思わしくないのだろう。ここでどうでもいいデータを出すと,今場所までの横綱在位成績が111勝39敗15休で,休場を除けば平均11勝4敗である。鶴竜はもう1つ星が欲しかった,というよりも大砂嵐に負けた一番が不用意すぎた以外は特にけちをつけるところはない。10勝5敗は十分とは言いがたいが横綱として最低限の仕事はしただろう,3横綱ということを考えると。

大関陣。琴奨菊はこんなに勝つとは本人すら予想してなかったようで,誰もが驚いた。立ち会いの当たりが強く,一気にもっていけたため,ケガが悪化しない短期決戦が多かったのが好調が続いた要因だろう。ただまあ,ケガがひどすぎるだけで万全ならこれくらい取れる地力はあるのだろうという気も。というか,好調時に12番勝てないような地力では,そもそも大関に昇進できないわけで。そこが平均が9勝でも好調時なら14勝できる鶴竜との違いではある。そういう意味では12勝もした割に語るところはあまり無い。稀勢の里はこんなもんだろう,やや調子が悪い(が絶不調というわけでもない)ときの稀勢の里であった。腰が高い。

三役。豪栄道はお見事で,今場所一番字数を費やす価値がある。3場所合わせて32勝ではあるが,14場所連続関脇でいい加減上に上がれというのと,白鵬を3場所連続で破っている点は評価されてよく,32勝でも十分であると判断する。某識者が「出たとこ勝負の相撲」「技の連続性がない(にもかかわらず強い)」と書いている通りで,一つ一つの技が磨かれているし攻撃力もあるのだが,それらが必殺技というほどのことでもなく,さりとて全体としての戦略性が全くない。にもかかわらず勝てるのは,それだけ一つ一つの技が強いということであり,かつセンスが抜群に優れているということであろう。土俵際の逆転劇というと鶴竜と安美錦が脚光を浴びているが,豪栄道も多い。現在の三人の横綱が皆戦略性の高い相撲を取っているだけに,ギャップが激しく,その意味ではどうなるかわからないので見ていておもしろいところはある。それで大関まで上がれてしまったというのもすごい話だが,横綱となるとどうか。弱点が少なく,数少ない弱点が立ち会いの遅れであったが,今場所はそれもあまり見られなかった。ただ,豪栄道の立ち会いが良いのは隔場所現象であるので,来場所どうなるか。

残りの三役のうち,栃煌山は左肩を直してくれ,安美錦は膝を直してくれで事足りる。碧山はよくわからない。先場所・先々場所は覚醒した感があったのだが,今場所はもっさりした動きの碧山に戻ってしまった。


前頭上位。勢と松鳳山は単純に家賃が高すぎての大敗。松鳳山は横綱相手に善戦するのだが,なぜかその強さが平幕相手に出ない場所が続いている。15日間のペース配分を考えてはどうか。決して横綱戦で手を抜けと言っているわけではないが。豊真将は早い回復を祈っておくことしか私にはできない。ただ,毎回こらえ方が悪い気はする。豪風はここ数場所好調が続いており,遅咲きといえる。嘉風と並んで尾車部屋の関取の共通点だが動きが機敏かつ果断で,躊躇なく変化も使い,突き押しもそれなりに強い。上位には勝てないが取りこぼしも少なかったが,35歳にして初の金星を手にし,角界の記録にその名を刻んだ。来場所はおそらく新関脇だが,三役はなんと6年ぶりのこと。35歳3ヶ月での新関脇も角界新記録になる(これまでの1位は34歳7ヶ月の青葉城)。年長三役としても,高見山・出羽の花・安美錦(今場所)に続く4位という記録。そしてよくよく調べたら年長最高位更新自体が史上2位である。実は相当にすごい昇進と言ってよい。

さて,遠藤と大砂嵐に触れないわけにはいくまい。遠藤は身体がそれほど強くなく,特に押し相撲のパワープレイや立ち会いの当たりに弱いという弱点が露呈し,先場所からその点を突かれて大きな苦戦を強いられていた。しかし毎日改良を重ねて何とかしようという努力が見られるのが遠藤で,立ち会いの弱さについては諸手突きでいってカバーする,押されたら腰を低くしてぐっとこらえる等の対処はうまいことはまっていた。特に終盤,豊響・碧山と立て続けに押し相撲の力士とあたったが,どちらもよけるでなくしっかり受け止めてからの反撃であり,成果が具体的に出ている。努力する天才なのだから好感も持たれよう。ただし,この非力さ自体を解決しなければ根本的な解決にはならず,1・2年のうちに鍛え直さないと大関すらあやうかろう。

大砂嵐は逆に,かち上げからのパワープレイに甘んじてしまい,今場所は成長が鈍化したところがある。あのかち上げはエルボーだからグレーゾーンとは角界内からも相撲ファンからも出ており,場所中のうちに親方から禁止令が出た。実際,技巧的な成長の意味でもあれは一時封印した方がよい。7−8という成績はともかく金星2つは単純な幸運であって,成長の証と見てはなるまい。なお,ラマダーンが名古屋場所と完全にかぶるのは今年が最後のようだ。


前頭中盤。まず,今場所最大の収穫は照ノ富士であろう。先場所の勝ちっぷりから言って今場所も相当やるのではないかと思っていたので,予想通りである。今場所の活躍は,遠藤・大砂嵐に並ぶ三番手の名声を今場所確固たるものにした。とにかく大柄でかつ腰が重く,前頭中盤であれば力勝負でほぼ負けなし。特に腰が重いのは貴重だ。それでいて押し相撲ではなく右四つの本格化なのだから,型としては白鵬が最も近いが,投げは未熟である。もう一つ弱点を挙げると組むまでがやや遅く,速攻が自慢の北太樹にはあっさりとやられてしまった。間違いなく大器であるので,来場所の上位総当たりが楽しみである。

一方,栃乃若は大関の器を感じていたがスランプが長すぎる。そろそろ見切りをつけたくなってきた。何度でもいうが,無理にもろ差しにいこうとして自滅する癖を直せ。妙義龍は強い妙義龍が戻ってきたと言える。立ち会いの当たりの強さに差し身の良さで一気に持っていく相撲である。来場所は照ノ富士ともども上位で暴れて欲しい。常幸龍と千代大龍と豊ノ島は二桁勝っているが,これは単純な上昇エレベーターと見るべきで,地力がついたわけではあるまい。高安も基本的にはその類であるが,この人は低迷期間が長かったので素直に嬉しい。北太樹は持ち味の速攻に磨きがかかっているが,一方磨きすぎて長引くと脆い悪癖も出てきたように見える。その結果が負け越しであろう。

前頭下位は特に語るところがないが,一つだけ。旭天鵬は来場所はとうとう40歳幕内である。当然史上最年長幕内在位であり,偉大だ。

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2014年07月16日

Deutschland ist Fussball-Weltmeister!

ワールドカップの記事はもう少しこまめに書く予定だったが,書く機会の無いまま終わってしまったのでここでまとめて。各国ごとに総評。と言ってもサッカーに詳しいわけでもなければ全試合見たわけでもないので(というより日本戦とドイツ戦以外はあまり見てない),記憶に残ったチームの印象という感じだけれども。順番は日本以外,大会から消えていった順。したがって最後がドイツ。


・日本
1戦目が全てだったなと。1戦目の感想はこちらに書いた通りだが,どうもコンディションがあまり良くなかったらしい話を聞いた。そこら辺の根回しは大概のスポーツで上手な印象のある日本にしてはやってしまった感がある。そしてこの初戦で負けたからこそ,2戦目は余計に硬くなりスコアレスドロー。3戦目は1・2戦目に比べるとようやく本調子になってきたのかなという動きだったが,勝利条件ゆえに前掛かりにならざるをえず,カウンターをバカスカ食らって,そもそも地力に違いのあるコロンビアに1−4と大敗した形になる。1戦目は,いつもの日本の動きであれば,客観的に見て勝てていた相手だったと思うし,あそこで最低限引き分けていれば,ギリシア戦でのプレッシャーも違った。コロンビアにはいずれにせよ負けていたような気がするが4点も取られるわGK交代のような舐めプを食らうわなんてことにはならなかったと思う。

1勝1分1敗で突破,という事前の予測は本調子の日本ならば夢物語ではなかったのでは,と今でも思っている。少なくとも0勝1分2敗という戦績だけを見て「まるで太平洋戦争前の日本のような誇大妄想だった」等と言うのは早とちりに過ぎるのではないか。奇しくも8年前のグループリーグと全く同じ予測・展開となり,得失点も当時が2−7,今回が2−6と本当に似通ってしまった。しかし,対戦相手の格を見ても試合内容を見ても8年前よりは前進しており,案外と8年で減った1点分の失点は重いのではないかとも思っている。そういうわけで世間ほどには悲観していない。4年後の日本にまた期待しよう。その前に,また予選を勝ち抜いていかないといけないわけだが。

あとまあ,今回ドン引きカウンター戦術の国が多かった反面,我が国惨敗したとはいえ「自分たちのサッカー」としてパスサッカーを通した点は評価してもよろしいかと。実際ペナルティエリアまでは,パスミスが多かった割には運べていたわけで,中盤は悪くなかったと思う。問題はペナルティエリア内での創造性で,改めて香川が機能してればなぁと。


<グループリーグ敗退勢>
・スペイン
どうしてあんなことに。その後のブラジルがああなったので印象が薄くなったけど,逆に言ってスペイン・オランダ戦は二番目に衝撃の大きな試合だった。1失点目まではまだがんばれていたが,2点目を失って精神が崩壊していたように思う。スペインにとっての真の誤算は,チリが思っていたよりも強かったことではないか。普段のスペインならまだしも,オランダに虐殺されて精神的に弱っているスペインには荷が重かった。ブラジルもそうだが,王者というのは一度守勢に回るとガタガタになるメンタルの弱さがあるものらしい。万年優勝候補「無敵艦隊(笑)」たるスペインが帰ってきた,と茶化して笑い飛ばすことくらいしかできない。

・コートジボワール
日本との試合内容を見た上での判断だと,まさかギリシアに負けるとは。実際,ギリシアとの試合は極めて紙一重だったと思うし(というか決勝点のPKは誤審),ベスト16の資格は十分にある国だったと思う(もっともコスタリカにはちょっと勝てそうもない)。前線の攻撃力が高く,見ていておもしろいサッカーだったのもコートジボワールだったから,本当に惜しい。

・イタリア
大期待はずれその2。初戦でイングランドに勝ったときはそこそこ行けるんじゃないかと思ったがそんなことはなかった。コスタリカの出来が非常に良かったために3位というのはあるが,あれではいずれにせよベスト16で終わっていただろう。敗退要因は結局点を取れなかったことに尽き,何よりバロテッリがイングランド戦だけでスタミナが切れたかのごとく動けてなかったのが敗因だろう。かと言って代役もおらず。まあ,全く印象に残っておらず書くことがなくて項目自体立てられないイングランドよりはマシだったかな。

・ポルトガル
初戦でドイツの虐殺に遭い,その後いい試合を見せたものの得失点差で脱落。ただし,初戦で虐殺された原因がぺぺの頭突き&退場なので今ひとつ同情できない。地力で負けてても際どく踏ん張るアメリカとは対照的なチームだった,と言ってしまうと悪く言い過ぎか。

・ガーナ
今大会唯一ドイツと引き分けたチームであり,ノイアーから2点取ったチームでもあるのだが,あの試合のノイアーは不調だっただけではないかと。アメリカ戦・ポルトガル戦では印象がない。

・韓国
サッカーによらず概して国際大会というものは国家的経験値というものが大事で,それがゆえに優勝回数を重ねる国とそうでない国に分かれがちなところはあるのだが,アジアの場合韓国が一番経験値が高いわけで,何が言いたいかと言えばアジア勢総崩れの中では最後の希望だった感があった。まあダメだったんですけど。敗因は不思議と日本と似たところがあり,全体的に普段より動きが鈍かったように見えた。あんなにミスの多いチームでしたっけ。あとまあ,ロシアに勝ってアルジェリアは引き分け,3戦目のベルギー戦は0−1とかで負ければ1勝1分1敗でもベスト16の望みはあるはず,という戦略だったと思うが,ロシアに引き分けて戦略が崩壊,アルジェリアには前がかりになり虐殺,ベルギーには相手に退場があるという幸運も生かせず10人相手に負ける始末とオチまで日本と一緒だった。そんなとこで似ないでも。


<ベスト16>
・チリ
ちゃんと見た試合がベスト16のブラジル戦くらいしかないのだけど,あの試合は今大会の名勝負ベスト3に入る死闘だったと思う。攻守のバランスがよく,ブラジルに見事に渡り合った。勝負がおもしろくなるかどうかは互いの相性によるところが大きいが,その意味ではフィールドのどこでもマッチして潰し合うブラジルとチリは名勝負を演出するにばっちりな相性であった。

・アルジェリア
グループリーグの印象だけで言えばベスト16に上がってきたチームの中では一番弱い部類じゃないかという感じだったが,そのベスト16のドイツ戦は異様なまでに強かった。守備が硬く,あのドイツが攻めあぐねに攻めあぐねて延長までもつれ込ませた。特筆すべきはGKのエムボリ。あれだけ止められるとドイツだって辛い。

・アメリカ
国内人気はアメフトや野球に比べて低い,と言われつつも4年ごとに強くなってないですか。ぶっちゃけて言って守備がボロボロだった感あるが,どれだけボコボコに打たれても間一髪のところで耐えて勝機をつかむ名勝負製造機っぷりは,なんというか他国と比較するとあまり良くない国内環境から生まれたハングリー精神なのかもなぁとか。国内人気が上がってきたことだし,そろそろベスト8に上がるところが見たいなぁ。一つだけケチをつけると,ドノバンの姿は見たかった。年齢に加えて実戦から遠ざかっている,しかも監督との確執があったとはいえ,前述の国家的経験値から言えば必須の選手だったと,私は思います。


<ベスト8>
・フランス
ドイツ戦以外はあまり見てないのだけれど,なるほど隙のない良いチームとして仕上がってるなと。ドイツ戦では何度もディフェンスを崩しており,ノイアーが神がかってなかったら危ないところだった。

・コロンビア
前評判より強いじゃないか,と思っていたら実は優勝候補だったという。真面目な話,ファルカオがいたら準々決勝でブラジルに勝っていたのでは。結局準決勝でドイツに負けていたとは思うが,そしたらネイマールのケガやブラジルのあの惨劇は避けられていたと思うと,全てはファルカオの欠場から始まっていたのかもしれない。サッカーの神様は気まぐれすぎる。そのファルカオに代わってチームの得点源となったのは期待の新星ハメス・ロドリゲス。ただし,実際には大会前から十分に評価されていた選手で,「新星」と呼ぶのはちょっと違うということをサッカーに詳しい人から聞いた。にわかとしては,4年後まで覚えておきたい。

・コスタリカ
誰もが認める今大会最大のダークホース。今回の大会,終わってみるとドン引きカウンター戦術のチームばかりだったわけでは決して無いのに,そういうイメージがあるのはコスタリカの躍進とオランダのせいだと思う。その両チームが衝突したらどうなるかという非常に興味深い試合があったわけだが,案の定PKまでもつれこんだ挙句,コスタリカのシュート本数はなんと120分で6本という。対するオランダもPK専用GKを出すなど珍妙な試合になった。結果的にはここで敗退となったものの,堅守には違いなかった。


<ベスト4以上>
・ブラジル
グループリーグの戦いぶりからして前評判ほど強くないという印象を受け,次第に化けの皮がはがれていった感じ。結局のところ中盤・守備はまずまずながら攻撃は戦術ネイマールで,フレッジやフッキの出来は正直悪かった。ところがネイマールが大ケガで負傷したのが運の尽き,攻撃力が下がるだけかとおもいきやチーム全体に影響し,特に一番縁遠いはずの守備が完全に崩壊してしまった。ウルグアイもそうだが,ワンマンチームってそういうものらしい。前述した通り,王者というものは一度崩れると元に戻らない精神の持ち主らしく,そういえば4年前も似たような雰囲気でオランダ相手に崩れたなぁと思いだしたものだ。しかしそう考えてみると,4年前よりは明らかに弱体だったのに,ベスト8で終わった前回よりは上のベスト4という成績は立派といえるかもしれない。

・オランダ
まさかの5バックドン引きカウンター戦術を採用し,妙な強さを見せて3位入賞である。サッカーについてはにわかとしか言いようがない私でも分かるファンハール監督の名将っぷりが目立ったが,アルゼンチン戦は采配ミスと言っていいだろう,この試合だけ神通力が消滅してしまったようであった。ロッベンの出来は大会MVPでもいいほどすさまじかったが,三枚看板であるはずのファン・ペルシーは初戦のスペイン戦だけ,スナイデルも終始ダメで,結果的に戦術ロッベンとなってしまった感がある。大会前の低い評価に比べればいいところまで行った,というのが識者の評価のようだが,三枚看板がきちんと全部機能していればアルゼンチンに勝てたんじゃないかなぁ,というのはにわかの評価だろうか。

アルゼンチン
戦術メッシと言われつつも勝ち上がっての2位。ただし,こちらもオランダ同様,イグアインとアグエロが今ひとつだったがために戦術メッシのような状態にならざるをえなかったのではないかと思う。また,言われていたほど戦術メッシではなく,中盤にはディ・マリアとマスチェラーノがいて案外と攻め手が多かった。逆に言って中盤が厚かったからこそオランダのようなロングボール放り込みにならず,カウンターながら戦術に幅があったからこその2位とは言える。その意味で,オランダとの準決勝はPKまでもつれたが,決勝にふさわしかったのはアルゼンチンであった。決勝がオランダ対ドイツだと,ドイツが虐殺して終わりだったように思う。決勝ではディマリアを欠いたが,その分イグアインがここまで不調だった分動いており,熱戦になった。メッシは随分気落ちしていたが,ドイツとの地力の差はうめがたく,むしろアルゼンチンとして上出来の結果であろう。


・ドイツ
ドイツの戦術は明確であった。とにかく高い位置でプレスをかけてボール奪い,パスをぐるぐる回して相手の中盤〜ディフェンスラインを引き裂き,崩壊したところでゴールに叩きこむ。ラームやシュヴァインシュタイガーがボールを奪うと,エジルとミュラーが引っ掻き回して相手組織を破壊し,最後にはミュラー自身やクローゼが決める。ゲッツェやシュールレも輝いていた。これらがピタッと合わさるとブラジル戦のような殲滅戦になる。特にエジルとミュラーが自由に暴れまわると手がつけられない状態になるが,ワンマンチームではないがゆえに封じるのは困難であった。

一方,高い位置でボールを奪うためディフェンスラインは上がりっぱなしにならざるを得ず,結果的にディフェンスラインを抜かれると無人の広野がGKまで一直線という巨大な欠点があり,打ち合い覚悟の戦術になるはずであった……本来なら。にもかかわらず,今回のドイツがむしろ鉄壁であったのは,フンメルスとボアテングの二人が好調だったというのもあるが,何よりもがんがん前に出るGKノイアーの存在が大きい。なんすかヒートマップだけ見ればCBて。かくのごとく最強に見えるドイツだが,実は欠点もいくつかある。まずノイアーの調子に大きく左右される戦術であり,「実は戦術ノイアーなのでは」という意見もtwitterでは見られたが割と同感である。実際ガーナ戦はそれで大分危なかった。とはいえガーナ戦以外では全く見られなかったのだが。

ペナルティエリア内でのシュートの正確さが機械並と称されたドイツチームだが,決勝戦だけは少し動きが鈍かった。機械も緊張するようである。それでも難敵アルゼンチンを下しての優勝し,名実ともに今大会最強のチームとなった。しかも主要メンバーがそれなりに若く,特にエジル(とロイス)25歳,ミュラーとクロースが24歳,シュールレ23歳,ゲッツェが22歳と凶悪オフェンス陣があと2大会くらい残りそうなあたり,他国には悪夢でしかない。代役を探すのが難しそうで,かつ次の大会にはいなさそうなのはラームくらいかなぁ(続報にてラームは代表引退を決めたとのこと)。ワールドカップ連覇を期待したい。

  
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2014年06月16日

初戦は敗戦

今回のワールドカップのグループリーグ,あまり歴史的(notサッカーの)がなくておもしろみがなかったが,グループBだけは別格でいろいろあっておもしろい。オランダとスペインは言うまでもなく,前回の決勝は400年ぶりのリベンジとか言われていた。オーストラリアはオランダ人のタスマンが最初に発見。チリはスペインが旧宗主国にあたる。残りの数少ないところだと,ブラジルとメキシコはラテンアメリカで数少ない「帝政」の経験者という共通点がある(メキシコにとってマクシミリアンをカウントされるのは心外かもしれないが)。まあそういう意味ではクロアチアはオーストリア帝国,カメルーンはドイツ帝国で,全部皇帝を頂いたことのある国ではあるのだけれど。

ワールドカップはここまでそこそこ見ている。スペイン・オランダ戦の後半戦は爆笑しながら見ていた。前半戦見終わったところで寝る予定だったのだけれど,結果が気になってちょっと起きていたら,オランダの攻撃が大変なことになって眠らせてくれなかった。イングランド・イタリア戦は強豪国同士という感じの試合で,落ち着いたおもしろさだった。スコアは2−1だが,イタリアが勝って当然という内容かなと。メキシコ・カメルーンは1−0だったけど,メキシコは明らかな誤審で2点消えてて本当は3−0であったし,そういう内容だったと思う。カメルーンは4年前もそうだったが,ワールドカップになると実力が出ないのか。本番に弱いのか。

で,本邦の初戦ですが,本邦らしい戦いではなかった。日本の攻め方というとパスで回して左サイドから崩す格好だが,前半は「なんで右に寄せるの?」って思いながら見ていたし,先制点を上げた後は「引いて守らなくていいの? カウンターの餌食なんじゃない?」と思って見てたら後半すぐに案の定である。パスで回すというよりは人数増やして何とかしようとしてたり,単調な縦パスを通そうとしてインターセプトされてたりと,なんだかなぁと。大迫と香川は機能していなかったし,本田は先制点をあげたもののパスの精度は悪かった。というよりも全体としてパスミスが多かったが,これは雨がすごく降ってたせいかもしれない。もっともコートジボワール側がそんなにミスしてた印象もない。いろんな記事を読んで感想戦を楽しみたいところ。

日本以外だとドイツを応援することにしているので,次にちゃんと見るのはドイツ・ポルトガル戦になるかな。あとは起きていられるかどうか次第で。

  
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2014年06月09日

「舞の海講演会文字起こし」の落穂拾い

先日のあの文字起こしの記事には,実に多種多様な反応を頂いた。舞の海氏に対する風評被害を和らげることに貢献できたのであれば,何よりである。さて,騒動自体が落ち着いたからこそ,もう一度問題を整理しておくと,週刊金曜日の記事がまずかったのは

・舞の海氏を「ご本人の意図した内容とは別の内容に取れるかのように発言を切り取って」,「それをもって排外主義者として報道したこと」

である。「記事本文の文章自体に嘘は書いてない」という反応が見られたが,別の内容に受け取れるように切り取ったのであれば,やはりそれは改竄と言わざるをえない。しかも今回の場合「○○ということを主張する人がいる(が,私はそう思わない)」の後半部分を削ったのであり,意図が明白で悪質性は極めて高い。

ここで問題になるのは,次の2つの反応だ。

「そうは言っても昭和の日をお祝いする集い等という集会での講演であり,聴衆の性質を考えれば講演内容を好意的に解釈はできない。解釈によっては『蒙古襲来』など記事に関連する部分だけでも排外主義と取れなくもない。」
「そうは言っても講演の他の内容から,舞の海氏は排外発言をしたと解釈できる。記事内容の部分などものの問題ではない。」

前者の代表格は週刊金曜日自身のひどい言い訳だろう。勘違いしないで欲しいのだが,「舞の海氏はそもそもあのような集会に出席するべきではなかった」や「聴衆の質は正直に言って悪く,たとえば『先生がんばれ』と声をかけた人などはほぼ間違いなく排外主義者だろう」等の主張であれば私も同意する。ただまあ,「出席するべきでなかった」については,舞の海氏自身が産経新聞や正論に寄稿している右派なので,かなりの部分は自由意志で参加したのではないかと思われる。また,文字起こしの記事で書いた通り,ダメな俗流若者論をうっている辺りを見ても危ういところがあり,典型的なダメな右翼と親和性が高いのは確かだろう。そういうわけで,私は冷泉氏の訂正記事ほどにはあの講演を評価していない(んだけど,何か舞の海氏を全肯定していると思われている節が。ちゃんと文字起こし記事でもダメな部分はダメと書いたんだけどなぁ)。

しかし,前者の反応はそうではなくて,それらをもって改竄の悪意を帳消しにしようとする姿勢が醜悪なのである。端的に言えば聴衆がレイシストなら,講演者もほとんど何を言ってもレイシストと言っているのに近い。聴衆の性質も確かに一つの判断材料ではあろう,それは否定しない。しかし,それは判断材料の一つでしかなく,第一はやはり内容自体であるべきだ。『蒙古襲来』などの言葉尻を超悪意ある解釈されるのであれば,慎重に慎重を極めた話をせざるをえず,それは“漫談”として辛すぎる(そう,あれは相撲漫談なのだ)。もちろん漫談なら差別発言・排外発言をしてもいいという話では決してなく,何をどうがんばっても差別とは受け取れない発言でしか漫談しちゃダメと言われたら無理があろう。「ただし『これは難しい〜』という発言は「排除」の否定なのでしょうか。」等と週刊金曜日は反論していたが,「先生がんばれ」と叫んで拍手してきた聴衆の立場に立てばああいう表現になるのは文脈上わかる話で,難癖でしかない。ともあれ,この前者の反応の醜悪さは週刊金曜日自身が証明してくれたので,私からは事細かに言うまい。


後者であるが,じゃあなんで週刊金曜日はその部分を記事本文中に書かなかったのかという話になる。ライター本人にも説得力に自信なかったから,差別と認定するには一般性が足りないと考えたから,あの改竄に走ったのではないか。それ以外の合理的理由が私には思いつかないのだが,どうか。週刊金曜日の釈明記事でも触れられていないし。

それはそれとして,「週刊金曜日はもはや関係ない。私自身の解釈・判断で,舞の海氏の講演は内容として差別的である」というのであれば,それはもうその人の自由であり,私から言うことは特に無い。そもそも自由に解釈してもらうための文字起こしであり,私の意見に従ってもらうためのものではないのだ。そして,私は全文読んでも差別的だとは思わないし,私DG-Lawの解釈なんて貴方にとってどうでもいいのでは? と思わなくもない。が,文字起こしした人間として多少なりとも本件にかかわりを持ってしまったので,聞かれれば「その部分はこう解釈できるので,私は差別的と思わない」と反論することにしている。

で,その中で「曙の身体を『ナスに爪楊枝を刺したような』と言ったのは差別的な発言ではないか」という意見を出されたので,「曙に対する超失礼な発言だとは思うが,差別性は認めがたい」と反応した。その人の理屈を要約すれば「外国人の身体的特徴をあげつらうことによって,日本人の身体的同質性を確認するという,よくある差別の構図」とのことであるが,これに対して私は「『ナスに爪楊枝』というようなものは外国人力士に共通する身体的特徴ではないし,そのような揶揄が歴史的文脈のある定型句というわけでもない。一つの解釈として,そこに蔑視を読み取ることは可能ではあるだろうが,私はそう解釈しない。」と反論しているのだが,以降自分の主張をしきって満足したのか,リプライが飛んでこなかった。原文はtwilogから読めるので,気になる人はどうぞ。

私自身,「ナスに爪楊枝」という例え方はみすぼらしくて品を欠き,横綱に対する敬意のある表現ではないと思う。笑いを取りに行きすぎて下品になった例だ(これも講演を高評価できない理由の一つ)。普通に「あんこ型」と言えばよかった話であるが,通じないと判断したか。が,10日経って再度考えても,やはりそこにレイシズムを見出すのは無理があると思う。「その言動がある特定の属性に対する不当な攻撃である」ことと,「発言者の心性に差別したいという欲求が見出される」ことか,心性がなくても「歴史的文脈からそれ自体が差別性の発露とみなされる言動をしている」ことに該当すれば,それが差別にあたると私は考えている。ここで「ナスに爪楊枝」に立ち返るに,私はそれなりに相撲を見ているが,あんこ型なのが外国出身力士に共通するとはとても思えず,そもそも白鵬と日馬富士からして全くあんこ型ではない。ハワイアンに限定すればまだそういう傾向はあると言えるが,小錦と曙しか目立った例がない。武蔵丸はそうでもない体型だし,高見山は私は世代ではないので判断は控えたい(完全に余談だが武蔵国には期待している)。それはそうとしても,あの聴衆がそうした傾向を知っていたかは疑わしかろう。なにせ舞の海が「あんこ型」という言葉が通じないと判断した集団であるのだから。逆に,「日本人の同質性の確認」と言っても,日本人にもあんこ型の力士は当然無数にいる,現役なら千代丸・千代鳳兄弟とか豊ノ島とか。これは推測でしかないが,舞の海氏は豊ノ島にだって「ナスに爪楊枝」と言う可能性はある(仮定の話をしてもしょうがないのはその通りなんだけど)。さらに,舞の海氏の普段のNHKの解説から言っても,「日本人活躍しろ」が過剰にうるさいところはあっても,外国人力士を不当にあげつらうことはない,というかそれをやったらNHK解説を降板になるだろう。もちろん「ナスに爪楊枝」は定型句でもない。よって,民族性への攻撃・心性・歴史的文脈のいずれも私の知識では認めがたいのである。

しかしまあ好きに解釈すれば良い話であるし,正直に言って二度とかかわりになりたくなかったものの,一応関連する発言をしていないか相手のTLを眺めていたところで別のtweetが目に入った。それが「(総理大臣杯授与のため)安倍入場に大歓声を送るバカな観客ども。(中略)送るのは歓声ではなくザブトンぶん投げろ」というものであったので,ガックリ来た。一応説明するが,座布団は勝利した力士に対する褒賞の意味合いで投げられるものであって敗北した力士へのブーイングではない。もともとは座布団ではなく,羽織を投げていた。その羽織には家紋が入っていたから,家紋を見て投げた観客を探し当て,後日羽織を返しに行くと,羽織と引き換えに祝儀を受け取った,という風習があった。しかし,普段着の洋装化により代わって座布団を投げるようになった。加えて言うと座布団投げは他の観客に当たると危険なので公式には禁止されている。館内アナウンスでも「大変危険ですから,座布団を投げないでください」と必ず流れる。風習だから黙認されているところがあるものの,国技館の側でも座布団を投げにくいものに変える計画があるし,すでに心ある観客は投げない。私自身投げない。

ただまあ,その分野について詳しくないと差別への批判をしてはいけないのかという一般化をすると,これはけっこう難題になる。外からの視線が無いと狭い世界では自浄作用も生じまい。実際,大相撲自体そうした視線を欠いたが故に時太山暴行死事件などが起きたのであり,あのときの処分はいまでも甘かったと思っている。その意味で,世間が相撲の動きに注目するのはありがたいことではあるのかな。  
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2014年05月27日

舞の海講演会について(文字起こし有)

・“昭和天皇万歳”集会で――舞の海氏が排外発言(週刊金曜日)

この週刊金曜日の記事が物議を醸したが,本当に舞の海がそんなことを言うのか疑問であったので,映像を紹介されたこともあり,そちらを視聴してみた。以下の動画の45分頃からが舞の海の講演。



結果から言えば,週刊金曜日の記事はひどい発言の改竄である。舞の海氏が気づいて訴えたら弁解の余地がないレベルだと思う。一応言っておくと,舞の海氏の講演内容に残念な点が無いわけではない。しかしそれは非常にダメな俗流若者論であったり精神論であったりする面であって,週刊金曜日の言うような点での問題点ではない。


“「外国人力士が強くなり過ぎ、相撲を見なくなる人が多くなった。NHK解説では言えないが、蒙古襲来だ。外国人力士を排除したらいいと言う人がいる」と語ると、参加者から拍手が湧いた。“日の丸”旗を手にした男性が「頑張れよ」と叫び、会場は排外主義的空気が顕著になった。”
→ 確かに「蒙古襲来」の発言はあったが,それはハワイ勢が登場した時に「黒船襲来」と言われたのになぞらえるならば,という文脈である。追い返さなければならないというニュアンスは皆無であった。また「外国人力士を排除したらいいと言う人がいる」発言は,舞の海氏はそれを否定するために出した枕詞であって,氏の意見とは正反対である。それどころか,「今大相撲を支えているのは,実はモンゴル人」,「モンゴル人がいるからこそ,私達は横綱の土俵入りが見れる」,「高見山さんがやって来たその瞬間から,もう後戻りできないと思う」と発言しているわけだが,これのどこらへんが排外主義なのか説明してもらいたいもんだ。
→ ついでに言うと,外国出身力士と(民族的)日本人力士の違いについてハングリー精神の差と,「日本人は技を磨かずに体重ばかり増やそうとする」という点を指摘し,外国出身力士を褒めて日本人力士を叱咤する内容の講演なわけだけども。この「日本人は身体を軽くして,技で対抗せよ」というのは舞の海の持論である。

ちなみに,幕内は外国出身力士ばかりになっていっているというのは事実として誤りで,むしろ流入は止まっている。新弟子が来なくなったわけではなくて,むしろ海外の相撲エリートはバンバン来日しているわけだが,出世できていないのである(例外は大砂嵐くらいで,逸ノ城が次来るかどうか)。これは単純に幕内の平均レベルが上がっているからであって,その辺を知らずに発言すると変なことになりますよ,とは。これは舞の海氏にも言えることだが。


・舞の海氏が「天覧相撲の再開が必要だ。日本に天皇がいたからこそ、大相撲は生き延びてこられた。天皇という大きな懐の中で生かされていると感じる。皇室の安泰を」と結ぶと、大拍手が起こっていた。
→ これは大相撲の歴史を振り返るに,特に明治天皇と昭和天皇の相撲愛によって大相撲という興業が復活したという歴史的事実を話した文脈上での発言である。半分くらいはただの舞の海氏の右派的な信仰告白ではあって,そこが鼻につく人はいるだろう。しかし,「だから大相撲は国粋主義でなければならない」というニュアンスは一切無かった。で,何? 排外主義がなんだって? 

それはそれとして,週刊金曜日がこの記事で何をしたかったのかがさっぱりわからない。舞の海氏個人に排外主義者のレッテルを貼っただけのような。それともなんですか,大相撲嫌いですか。加えて,こちらのデイリースポーツの記事でも,北の富士氏の「モンゴル人には何の罪もないんだけれどもね」という枕詞をわざと削った上で彼の発言を引用しているんだけれども。世の中のマスコミには,大相撲関係者は排外主義でいてもらわないと困る理由とかあるんですか。


以下は,主要部分(59:00〜1:19:00)の文字起こしである。できれば動画を全部見て欲しいが,時間のない人は。または確認用にどうぞ。

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2014年05月26日

それでも白鵬が優勝する(4場所ぶり2回め)

今場所は内容のある相撲・熱戦が非常に多く,おもしろい場所であった。優勝争いも千秋楽までもつれた。総合的に言って「上の中」の評価を与えてもよかろう。特に後半戦,9・10・11・12日めの四日間は文句の付け所がない。より具体的にどの取組がどう熱戦だったかを羅列すると長くなるので,名だけ挙げておく。別館の方で詳述しているので,気になる方はそちらで。3日目の魁聖・高安戦。4日目の照ノ富士・貴ノ岩戦。5日目の徳勝龍・照ノ富士戦。7日目の常幸龍・貴ノ岩戦。9日目の嘉風・稀勢の里戦。10日目の舛ノ山・双大竜戦,豊真将・貴ノ岩戦。11日目の豪風・碧山戦。13日目の蒼国来・豊真将戦。

「上の上」にしなかった理由を一つに絞って挙げておく。髷の問題である。今場所,好取組となるべき取組が数番,髷をつかんだかどうかの審議によって死んだ。どれも判定自体は妥当だっただけに難しい。「故意に」というルール上の規定であるが,故意に髷をつかむ奴なんておらんわけで,条文が死んでいる。実際には「髷を引っ張ったことで有利になったかどうか」の一点だけで髷の反則認定は行われている。認定されれば即反則負けというのも厳しい話で,北の富士が言っていたように,“故意でなければ”同体取り直し扱いでもいいのではないか。無論,そうすると「情勢厳しいから,同体にすべく髷を引っ張ってしまえ」と考える力士も出てくるであろうが,それは「故意」なので,躊躇なく反則負けにしてしまえばよい。


個別評。横綱大関。優勝した白鵬は今場所も見事な省エネ相撲であった。このまま行くと,どうやら2014年も昨年並みには成績を上げそうである。11日目以降の4日間は鬼神であった。本音を言えばあれを15日間通してみたいのがファン心理ではあるが,無茶は言うまい。なお,継続観察している横綱通算勝率は.896。ところで,12日目,白鵬が鶴竜・豪栄道戦に物言いをつけたが,関取が物言いをつけたのは18年ぶりの珍しいこと。1996年の初場所で,貴闘力―土佐の海戦,物言いを付けたのは貴ノ浪。しかもこの場所の貴ノ浪は優勝している。今場所白鵬が優勝したことで,このジンクスは定着するかもしれない。なお,この貴ノ浪のときは他の勝負審判も手を挙げていたが,今回は白鵬単独であった。力士単独の物言いとなると何年ぶりになるかはちょっと調べがつかない。「横綱単独で」という条件となると,おそらく史上初である。こんなところでも白鵬は歴史に名を残すのか。

日馬富士は調子良さそうに見えたが,6日目までに2敗して気持ちが切れていたところはあるかもしれない。終わってみれば11−4だが,印象は悪くない。鶴竜はこんなもんでしょう。昇進した場所はどの横綱も大体実力が発揮できないので。稀勢の里は白鵬戦での敗北が全てと言えばそうなるか。あの二人の立ち会いが常に合わないのだが,それにしても今場所は稀勢の里の立ち会いがひどく,結果として三度目の立ち会いは白鵬の張り差しでK.O.なんだからどうしようもない。あとは碧山に負けているが,これは完全に取りこぼしである。勝った13番については良い内容だったのではないか。琴奨菊は初日から休場して,来場所にかけたほうが良かったのでは。下位はともかく上位に取れる身体ではなかった。実力が衰えたわけではないようにも見えるので,しっかりいたわってほしい。

三役。豪栄道は琴光喜を超越した記録を打ち立てたが……まあそれについてはノーコメントで。ところで,白鵬の省エネ相撲の弱点を完全に見抜いて,地味に白鵬戦の戦績を向上させているのは,実はすごいんじゃないかと。直近6場所で2勝4敗である。もっとも,それを言うなら白鵬もそろそろ「豪栄道は省エネスタイルじゃ勝てない」ことに気づいてほしいところではあるが。栃煌山は10勝。実はここ3場所は三役で30勝しており,実は豪栄道よりも大関に近かったり。来場所覚醒して13勝くらいしたら,琴奨菊と入れ替えで大関なんてこともなくはない。地味すぎて誰も指摘してないが。嘉風は動きこそ悪くなかったが家賃が重かった。この点は豪風も同じ。千代鳳も以下同文なのだが,彼には奮起を期待したい。彼が上位で生き残らないと,本当に遠藤と大砂嵐しか残らなくなってしまう。二人についていってもらいたい。

前頭上位。碧山は本当に良い突き押しをするようになった。腕が伸びており,膂力がきっちりと前に伝わっており,見ていて気持ちがいい。はたかれると案外弱い点が少し改善されれば三役定着可能だろう。琴欧洲が引退した今,君がブルガリアの星だ。がんばれ。遠藤は人気に嫉妬されているのか,相手が全力で向かってくるので,すっかり名勝負製造機になっている。7−8で終わったことで周囲からやや失望の声も聞かれるものの,私は十分成長が見られたと思う。少なくとも先場所よりは立ち会いの一瞬で負けることが少なくなり,負けるにしても負け方がマシになった。それが星一つ分にしか反映されないあたり,幕内上位という環境の厳しさを感じるものの,来場所はやや番付が下がって上位戦が少なくなるし,さらに成長しているだろうから,けっこう勝てるのではないか。勝手に失望した連中を見返してやれ。

豊ノ島は本当に衰えたなと。身体が軽いし,動きの機敏さも以前ほどではなくなった。一方,安美錦は,あの両膝の状態であの相撲が取れるんだから奴は妖怪という評価が固まり,土俵際の魔術師っぷりを魅せつけるとTLが「これは妖怪」というコメントで埋まったのがおもしろかった。一方,膝は本当に悪そうで心配である。勢は好調で,押されてもはたかれても崩れず,勢の攻撃は通るという感じであった。ただ,じゃあ地力が伸びたのかというと今ひとつよくわからない。よって,今場所の評価は難しい。松鳳山も良い突き押しであった。今の角界では碧山と双璧であるが,碧山は「いかに強い腕力を活かすか」であるのに対し,松鳳山はひたすらに上手い。

前頭中位。豊真将は良い時の豊真将が戻ってきたのかなと。逆に妙義龍は戻ってこない。攻撃力はともかく,脆すぎるのが勝ち星があがっていかない理由である。なぜにあんなに軽いのか,ちょっとわからない。高安は前にも書いたが,日毎の調子の違いが激しすぎるのはなぜなのか。照ノ富士は怪力無双という感じで,組んで力を発揮できれば相当に強い。終盤の怒涛の5連勝が記憶に残っているので,実は9−6でしかないというのが驚きである。序盤実力が発揮できてなかったのは,それもそのはず,場所の前日まで入院していたからで,稽古を全く取っておらずぶっつけ本番だったそうだ。であるからこそ,来場所に期待しよう。上位でもけっこう取れるのでは。新入幕の先場所では全く印象に無かったが,化けた。

さて,大砂嵐である。今場所の10勝はすばらしかった。大砂嵐は確かに一つ一つの動きは雑だが,技をきちんとつなげているという点では技巧的ですらあると思う。特に千秋楽,それまで続けていたかち上げをしないフェイントの立ち会い,右差しで立ち会うとはたいてから左上手投げ,最後に寄り切りと完全に技がつながっていた。相撲を覚えていないと言ってしまうのは,果たして正しいのか。 技の展開の早さは鶴竜を彷彿とさせるところがあり,技の雑さが抜けたら瓜二つの相撲ぶりになる可能性さえある。

前頭下位。臥牙丸と豊響は,それぞれ星は上がらなかったが,良い圧力の押し相撲を見せていた。北太樹は速攻がうまくはまれば圧勝するが,長引くと負けていた。蒼国来は見事な技巧相撲で,よく幕内に戻ってきてくれた。千代の国はひたすらにケガが心配である。最後に佐田の海。史上初の親子新入幕敢闘賞は文句なく,技能賞もついでにあげても良かったくらいである。ここから始まる新たな足技伝説という感じで,特に時天空にも足技で勝ったというのはすごい。

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2014年05月21日

3でこそ実現を>オオスナアラシヌス・アラブス

・ミケランジェロの雪だるま。(Togetter)
→ 溶けずに残ってたら彼の代表作になっていたに違いない(無理)
→ ルネサンスの芸術家たちも雪で遊んでたんだなぁと思うと,若干なり親近感はわく。


・曙&琴欧洲が剣闘士に! 相撲協会が『テルマエ』全面協力で総勢17人力士出演(マイナビニュース)
→ 琴欧洲はコトオウシュヌスよりもカロヤヌスにしたほうがそれっぽかったのではないか。これに対して某人が「カロヤヌス・トラキアヌス・エウロパヌスとか書くと「欧州の支配者」っぽくなる」と書いていたが,剣奴どころではなく五賢帝に入ってそうな名前である。
→ 旧ローマ帝国版図で考えると,該当するのはブルガリアとエジプト。とするとダニエルやオオスナアラシヌス・アラブスは出てないのか,大変気になります。それで気づいたのだが,ダニエルはラテン語でもダニエルのようだ(碧山の本名)。なお,実際の軍人皇帝にフィリップス・アラブスなるアラブ人の皇帝がいた模様。オオスナアラシヌスも皇帝即位いけるで。
→ もっとも,その理屈で言うと曙はハワイなのでおかしいやろ,という話に。しかし,その曙がものすごくしっくり来ているという。
→ また,隆の山はチェコなのでギリギリアウトだが,一応スラヴ系の剣奴もいたはずなので,セーフと言えなくもない。舛東欧の場合,厳密な出身地がドナウ川の東側な上に,名前が「アティラ」なのでむしろローマ滅びそう。残念ながらテルマエ・ロマエには生かせそうにない。
→ なお,Wikipediaのラテン語版には極少数ながら大相撲力士のページがある。こちらが朝青龍。ガチでAsashoriusと書いてあるのが笑える。大相撲の説明のページに「古事記に書いてある」とあって,真実ではあるのだけれど忍殺くささがヤバイ。


・東京組織委の語学力に厳しい質問 森会長らがソチで会見(47NEWS)
→ 無理にジョークを言おうとせんでもええかったんやで……
→ まじめな話,森さんの失言の半分は滑ったギャグだと思う。身内受けしそうなジョークを無理にひねり出した結果,そもそも聴衆が身内ではなくてちっとも笑えないという。近年というよりも極最近という単位で,こういう「どこまでか身内かわからなかった」系の失言は目立つ気がする。もっと言えば,いわゆる「昭和のおっさん」的な身内が社会の中で狭まっているのでは。だとすれば良い傾向ではあるのだが。


・なか卯が牛丼を販売終了へ 12日からは「牛すき丼」投入、他メニューも強化(産経新聞)
→ 一週間に一回以上のペースでなか卯の牛丼食っていたので,個人的には大ニュースであった。
→ 見た感じ今までの牛丼とあんま変わらなそうだったので,ジャスト60円分高級にしただけかなと思っていたのだが,実際食べてみるとかなり違う。これは改悪である。豆腐やきのこは邪魔でしかなく食べづらくなり,肉が減り,味も変わってしまった(肉の量が減っていないという宣伝が嘘なのかどうかはわからないが,少なくとも体感的には減ったように思えてしまう)。結果として,めっきり行く回数が減ってしまった。
→ あれなら正直に値上げしますと宣言して,味も量も変えないまま60円値上げしてくれたほうがよっぽどよかった。それなら60円値上がった牛丼を食べ続けたのに。残念極まりない。  
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2014年03月30日

琴欧洲引退に寄せて

琴欧洲は先駆者として偉大であった。この点の功績は旭鷲山や高見山に張るものがある。現在東欧は相撲ブームで,そのうちハンガリー出身やウクライナ出身の力士が大相撲を席巻するかもしれない。それが実現すれば,ますます高見山に比肩する存在になっていくであろう。

琴欧洲の相撲人生といえば,昇進は異常なまでに早かった。身体もできていたし,相撲への順応も早かった。駆け上がってきたときの相撲ですでに完成されており,驚いたものだ。小結・関脇での負け越しはわずかに1回,というよりも小結・関脇の在位がわずか4場所で,負け越した以外の3場所が全て大関取りにかかわっている。平成17年の後半3場所:大関取りの戦績は36−9で,しかも朝青龍や魁皇,(当時小結・関脇の)白鵬などからの白星を含み,3場所とも優勝同点or次点であった。これは横綱も早かろうと皆思っていたものだ。

ところが,大関に上がるとさすがに周囲に警戒され,弱点を突かれるようになると,途端に脆くなった。そう,単純に昇進が早すぎて周囲の対策が遅れ,それが大関取りを有利にしていた。結果として大関に上がってからの成績はそれ以前よりも悪く,「昇進して気が抜けた」という批判を受けてしまうようになる。ただまあ,事実として平成18〜19年の相撲ぶりはひどかった。組めば無類の強さであったが,足がそろっていて立ち会いの威力を欠き,あわてるとバタバタと足を走らせて土俵を割った。一度は覚えたはずのすり足を忘れてしまったかのような足運びが見られ,これではふんばれない。特に小兵に弱い傾向はこの頃から見られ,中に入られてもろ差しになるともう何もできなかった。

しかし,平成20年になると,立ち会いきちんと踏み込んで組みに行く琴欧洲と,悪いときの琴欧洲という別人のような取り口が交互に現れるようになった。ともあれ安定して10勝し,好調な方の琴欧洲が続けば20年5月のように優勝することもできた。しかし,「交互に」現れているようでは綱取りは覚束ず,結局優勝はこれが最初で最後であった。どころか優勝争いをしたのも21年7月が事実上の最後であった。琴欧洲が決定的に崩壊したのは平成23年5月場所である。奇しくも技量審査場所であったが,ここで右膝を痛めて休場した後7月はなんとか復調。これまた奇しくも,魁皇に勝ってのカド番脱出であり,魁皇はこの取組を最後にして引退した。ところが9月,今度は右肘を痛めて途中休場。その後は魁皇から悪い意味での「立場」を引き継ぎ,カド番の回数ばかりが増えていった。そういう意味では,そこから約3年。よく引退せずに続いたものである。ともあれ,これにて平成の互助会メンバー(魁皇・千代大海・琴欧洲・琴光喜)は全員引退したことになり,やっと清浄化された。その結果がここ1・2年の大変動であるから,いかに彼らが停滞を呼んでいたかがよくわかる。

取り口は右四つの寄りで,高身長ながらきちんと腰を割った美しい寄りを見せていた。投げは案外と少なかったが,とにかく寄りが強烈であった。ただし,前述の通り立ち会いが腰高で足がそろっていると力が出ず,しかも無意識にその体勢になるから,日ごとの好不調の波が激しかった。立ち会いがちゃんとしていれば白鵬や朝青龍ともいい勝負をしたが,不調時に足をバタバタとさせて自ら土俵を割っていく姿は,多くの相撲ファンの記憶に残ってしまっている。それに比べると目立たなかったが,たぐられると弱かった傾向もあり,魁皇や朝青龍にはそれでいいようにやられていた。弱点で言えば,何より特定の力士には圧倒的に弱く,安美錦・豊ノ島・栃煌山からはいいカモにされていた。苦手力士の多さのせいで横綱になれなかったようなものである。


さて,引退会見では「体力的にも精神的にも限界」と言っていたが,実際その通りだろう。ケガで満身創痍,たたいていた私が言うのもなんだが大関としてふがいない成績という周囲の批判も強かった。それでも彼が懸命に土俵を務めていたことには違いなく,それは周囲にも十分伝わっていた。引退会見で見せた琴欧洲の涙には万感こもっており,私も思わずもらい泣きしてしまった。今後は協会に残って後進の指導にあたるそうだが,ぜひとも強力な欧州出身力士を育てて欲しいものである。いっそ佐渡ヶ嶽部屋には「一部屋外国出身力士一人制」を例外的に撤廃するとか,どうだろうか。お疲れ様でした。
  
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2014年03月29日

昇進する人,辞める人

史上初の6大関から,これほど急激に情勢が変わるとは,誰が予想していたであろうか。それも,ヨーロッパ人2人が辞め,日本人2人が残り,モンゴル人2人が昇進したのである。特に鶴竜の横綱昇進は最大の予想外であった。鶴竜の今場所の相撲ぶりは個別評で後述するが,見事な綱取りであったと思う。この昇進に文句をつけるやつはおるまい。しいて言えば白鵬・日馬富士が自滅し,鶴竜と当たるときには取組前から万全ではなかった。それも含めて「綱取りは運」なのであるから,鶴竜の綱取りにケチがつく材料というよりは,来場所万全な両横綱との取組が,鶴竜の真価を問うところになるのかなとは思う。

一方,白鵬が自滅した理由が相当にいただけない。白鵬は稀勢の里を目の敵にしすぎであり,明らかに稀勢の里戦で相撲が崩れた。白鵬は3度立ち会いがあわず,組まずに押し出した。そして翌日の琴奨菊戦も立ち合いから調子がおかしく,普段なら楽勝の,しかも手負いの琴奨菊にいい形で寄られ,無理にこらえた挙句右手を負傷するという大惨事である。近年の白鵬は15日間を万全に取り切るだけの体力が残っておらず,終盤に向けて本気度合いを上げていく省エネスタイルである。だからこそ今場所本気を出すのは日馬富士戦と鶴竜戦の2番に絞るべきであって,稀勢の里戦で体力を無駄に浪費した結果があの琴奨菊戦であったのではないかと思う。

対して日馬富士は最後までスタミナが残る分白鵬よりマシであるが,連敗癖があり,ぽろっと負けるともう後がダメである。鶴竜で負けたのは純粋な実力としても,その後豪栄道・琴奨菊と落としたのはいただけない。あれで優勝争いが崩壊したところがあり,白鵬があの体たらくだったからこそ日馬富士が壁になるべきであった。特に豪栄道戦は明らかに集中力を欠いており,他の力士の模範たるべき横綱としてあるまじき相撲ぶりと言ってよい。

琴欧洲の引退については別記事で。全体としては話題先行でやや内容は物足りないところがあり,もうちょっと熱戦が見たかったかなと思う。特に上位陣は鶴竜と豪栄道の活躍に支えられたところがあり,稀勢の里はまだ綱取り失敗の後遺症が残っているようであったし,琴奨菊は本来なら来場所カド番という出来であった。中の下としておく。


個別評。まず鶴竜である。前回「白鵬・日馬富士片方を勝ち星に含んだ14−1での優勝」がハードルと書いたが,見事に両横綱を倒しての14−1であった。それだけに隠岐の海戦の謎の敗北が気にかかるが,それを言うのは野暮であろう。あの敗北で黄信号が灯ったが,よく立ち直ったものだ。今場所は彼のいいところが良く出たのではないかと思う。前さばきのうまさは以前から一級品であったが,今場所はそれを用いた撹乱がうまく効き,気づけば綺麗な四つ身で鶴竜が寄っているという場面が多かった。日馬富士の突き刺さる立ち会いを正面から受け止めて組むのは現状白鵬にしかできない芸当だが,今場所の鶴竜はそれをやってのけた。ただし,十一日目の栃煌山戦に顕著であったが,あわてると引いてのはたきしかしなくなる悪癖は健在で,今後の弱点になりそう。攻めているうちは無敵だが防戦には弱いというと,意外と日馬富士に近いのかもしれない。

その他横綱・大関陣。白鵬は前述の通り。省エネ相撲は配分をミスると脆い。日馬富士はぼちぼちの出来で可も不可もない。琴奨菊はよくあの右肩のケガで勝ち越したなとは思うものの,彼の勝ち越しは鶴竜優勝の副産物である。だいたい全部稀勢の里が原因。その稀勢の里は全く振るわず,某人の「精神的脆さの前に,腰高をなんとかしよう。メンタルの問題じゃなくて,実力不足であることを稀勢の里ファンは認識すべき」という意見に首が折れるほど同意である。

三役。豪栄道は好調であったが,立ち会いさえなんとかできればその後の相撲ぶりは大関級なのは皆知っていることである。今場所は割りと立ち会いがうまくいっていたような感じがするが,偶然か改善されたのかは今ひとつわからなかった。改善されているのであれば,来場所に結果が出るであろう。対して栃煌山は今ひとつ進歩が無いが,特定の相手に極端に強いので,安美錦同様上位にいるだけでおもしろいというところはある。小結の二人は特に何も。

前頭上位陣。遠藤はこんなもんでしょう。欠点は前回と同じで,まだ身体ができあがっていないため,立ち会いの勝負や膂力の勝負に持ち込まれてしまうと脆い。逆に流動性の高い勝負やがっぷりでない四つならすでに幕内上位クラスということを証明した15日間でもあった。来年の春場所くらいには大関取りになっていてもおかしくはない。玉鷲は善戦したが黒星というのが多く,惜しいといえば惜しかったが,ということは単純に家賃が重かったということだ。隠岐の海は合口のいい鶴竜には勝ったが,それ以外ではまるで見るところがなかった。毎場所書いている気がするが,隠岐の海と栃乃若は身体が大きいのにもろ差しにこだわりすぎで体勢を崩している。その両者の対戦で,先にもろ差しを作った栃乃若が,苦し紛れの外四つになったはずの隠岐の海が優勢に寄り切ったのは,象徴的なシーンであった。いい加減なんとかせいよ。周りの親方や力士は何も言わないのか。嘉風敢闘賞だが,正直今ひとつ印象が薄い。豪風のほうが印象に残ってるくらい。

前頭中位……はほとんど書くことがない。妙義龍は前頭10枚目でこんなに苦戦するとは思わなかった。終盤4連勝でひっくり返したものの,11日目までは4−7である。前半は攻めに力がなく足はついていかず,散々な出来であった。尻上がりの傾向は前からあったが,今場所は極端すぎる。

前頭下位。大砂嵐は好調だったのに途中休場があり,残念である。再出場後はやはりただでさえぎこちない相撲ぶりがさらにぎこちなく,見ていられない感じもあった。千秋楽にはようやく相撲ぶりが戻り,なんとか勝ち越せたのは不幸中の幸いである。荒々しいのが魅力ではあるが,やはり相撲を覚えた方が伸びると思う。貴ノ岩の変化に対応した点などを見ると,適応がかなり進んでいるのではないか。舛ノ山は以前よりも死にかかっている場面を見なくなった。心肺機能が鍛えられ,心臓の持病に対抗できているのかもしれない。貴ノ岩は幕尻付近ながら10−5,やっと真価が発揮されてきた。組む力士ではあるが,組まない方が勝てているようにも見える。里山はすっかり研究されてしまい,左下手で入れない,入っても極められて動けないなどの場面が散見された。幕内に残留したいなら,もう一工夫欲しいところである。

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2014年01月27日

交代して続く綱取り

前半と後半でまるで違う様相を見せた場所であった。稀勢の里は綱取り期待から一転して勝ち越しが危ぶまれ,一方鶴竜は割りとひどい内容から尻上がりに調子を上げての準優勝である。終わってみれば白鵬が優勝する予定調和ではあったが,話題自体は尽きない場所だったのではないか。鶴竜が出てきたのは完全なダークホースであったが。それとは全く無関係だが,内容も前半は良い相撲が多かったが,後半は千秋楽以外ひどかったように思う。特に11・12・13日目は見てられない状態であった。14日目は内容こそ向上したが,立ち会い不成立が多すぎて流れは悪かった。千秋楽で持ち直したのは不思議である。総じて中の中という評価にしておく。

個人個人で見ると,上位陣は白鵬・鶴竜含めてあまり見るべきところがない。場所を盛り上げた功績者としては,里山と遠藤,大砂嵐であろう。里山はベテランだが,終盤のNHKのアナが「新鋭の登場」と今場所をまとめていたのは遠藤と大砂嵐を指してであった。この二人にかかる期待は過剰なレベルではあるが,裏返して,次の有力な大関候補がその辺までいないという事情はある。今場所の関脇・小結・前頭1〜3では栃煌山だけが唯一の10勝以上だが,彼の場合それが2場所続かないことが問題で,豪栄道や妙義龍ともども飽きられているところは否めない。特に現在候補筆頭の豪栄道は8−7で関脇を維持している場合ではないのである。


鶴竜の綱取りについて言及しておこう。14−1の優勝同点・準優勝は起点として十分な成績ではあろう。しかし,来場所のハードルが相当に高くなることは間違いない。これについて,やたらとハードルの低かった稀勢の里と比較して「人種差別だ」と騒ぐや「基準が曖昧だからまずいのだ」と主張する人が出てきそうだが,どちらも完全な誤りである。基準が曖昧なのはここまでの安定性や相撲内容が吟味されるからであって,直近のニ場所だけで昇進が判断されるわけではないのだ。

たとえば稀勢の里は今回失敗したものの,先場所までの勝率は.717,これはほぼ平均11勝で,かつ9−6が最低と極めて高い安定性であった。直近4場所に限れば勝率.800=平均12勝であり,大関としては十分すぎる成績であった。内容としても変化がなく,引きやはたきも少なく,文句のつけどころがない。結果的に,昇進条件が甘くなるのは当然であった。それでも,13勝は甘すぎるから14勝優勝が最低ラインと私は見ていたが。もう一例,白鵬の場合。大関在位5場所目時点で勝率.750でしかもすでに優勝経験があり,内容も抜群であった。ゆえに,6場所目13−2で優勝すると,7場所目は「12勝以上の優勝次点以上」とやたらハードルが低かった。この低さに対して文句を言っていた人は全く見なかったので,誰しもが納得していたところだろう。

一方,日馬富士は大関在位20場所時点で184−105−11で勝率.640,つまり平均10勝に達しておらず,しかも8−7と14−1を繰り返す悪癖が指摘されていた。内容で言っても引くと耐えられない,格下相手に変化する等が見られ,批判を受けていた。だからこそ,全勝優勝したにもかかわらず,次の場所でも高いハードルが課せられた。もっとも,彼はそこでも全勝優勝して,文句なしの昇進となったわけだが。

そうして鶴竜について考えてみると,情勢としては日馬富士に近く,厳しい。今場所の14−1を入れて考えても大関昇進後の勝率は.636に過ぎず,今場所を抜くとなんと.607まで下がる。内容も良くなく,変化はないが,引き技が多いのに加えてあまりにも土俵際の逆転が多い。こうなると「土俵際の魔術師」は褒め言葉にならない。また,日馬富士はあれが三度目の綱取りであったが,鶴竜は今回が初めてになり優勝は未経験である。もろもろを考えると綱取り自体は可だが,「全勝優勝」か「白鵬・日馬富士片方を勝ち星に含んだ14−1での優勝」いずれかくらいまでハードルを高くしてよいと思う。


個別評。白鵬は先場所同様,省エネ相撲が完成の域に達しつつあり,「淡白にして強い」という,全盛期の右四つ最強伝説とは全く別の形容詞がつきつつある。ただし,優勝決定戦だけは全盛期並だったから,意識して使い分けているのであろう。日馬富士,休場は英断だったと思う。春場所はがんばれ。琴奨菊はケガが重い中よく取っていたと思うが,不戦勝2つがなかったら危うかったのでは。前にも書いたが,明らかに長くない。稀勢の里は不憫すぎてかける言葉がない。まさか負け越しまで行くとは思っていなかったが,そもそも稽古不足だったのでは。プレッシャーが本番の土俵の上だけでなく,稽古中にまで及んでいるとすると割りと救いがない。

鶴竜は,先場所ケガを抱えつつそれを隠し通して勝ち越したことで,自信をつけたのかもしれない。ただし,取り口自体はさして変わっていない。白鵬自身が言及していたが,前さばきのうまさは抜群である。特に巻き替えの早さは白鵬や朝青龍と並ぶ天下一品の領域に入っている。そうしてもろ差しか右四つで入ればおおよそ誰でも寄れてしまう。一方で,やや突きにこだわって自滅するところがある,膂力があるわけではなくパワー勝負になると負ける,案外熱くなりやすく,しかも我を失うとあせって引く癖がある,など欠点は多い。これらを全部解決せよとは言わないが(膂力は解決しようがない),一つくらいは直さないと厳しいのでは。今場所は引き技がうまく決まって勝ちを拾ったものが多く,14勝の価値はそれほど高くない。

三役。豪栄道はノーコメントというか,段々大関取りが遠のいていっている感覚しかない。ただ,琴奨菊もそこから脱却して逆転大関取りが成ったので,奮起してほしい。琴欧洲は大関陥落が確定したが,続けるのであればおもしろそう。関脇・小結の維持も次第に苦しくなるとは思うが,前頭上位・中位で暴れて雅山や出島の如く元大関の意地を見せて欲しい。その辺りであれば,まだ長く取れるはずである。妙義龍休場は残念だが,ここのところ調子が狂いっぱなしで,悪い意味での豪栄道と同じ路線になりつつあったので,番付が下がってリフレッシュするのを期待したい。栃煌山は上述のように,1場所限定で11勝するのは何も珍しくなくなってきたので,2場所続けよう。来場所10勝したら信用します。

前頭上位は,碧山だけ。6−9ではあるが,突きの威力は上がってきていると思う。むしろ,先々場所以前の碧山であれば大敗していただろう。旭天鵬は史上最年長結びの一番だそうで,白鵬同様「歩く記録」である。前頭中位。玉鷲は好調だったが,終わってみると8−7である。突き押しが良く伸びていたが,負けた相手を見ると地力不足は否めない。来場所は今場所並に好調だったとしても,大変なことになりそう。栃乃若は懐深いんだからもろ差しにこだわらないで取れ。何回目の指摘だこれ。

さて,やっと出てきた遠藤である。遠藤は技巧抜群に相撲勘も抜群だが膂力不足……あれ,どっかで同じこと書いたなと思ったら鶴竜と同じだこれ。というわけで,実は鶴竜とよく似たタイプだと思う。ただし遠藤の場合,膂力不足というよりはまだ単純に身体が出来上がっていないだけなので,伸びる素地は大きい。なお,ここから技巧を抜いて少しだけ体格を良くすると豪栄道になる。三者に共通して言えることは土俵際の魔術師であるということだ。さて,鶴竜は身体を作って上位定着,大関取りとなったが,豪栄道は相撲勘に頼りすぎてそれ以外が伸びず,今の体たらくである。果たして,遠藤が進むのはどちらの道か。

前頭下位は,今回取り上げるべき力士が多い。まず千代鳳。舛ノ山との対決が丸っこい対決すぎて笑ってしまったが,今どき珍しいくらいあんこ型である。六日目までに2−4でダメかなと思ったいたが,そこから負けたのは好調玉鷲のみという8−1は圧巻であった。体型をよくいかした取り口ではたかれてもなかなか崩れず,下から起こして寄る・投げる型が固まればもう少し上に行けそうだ。次に大砂嵐。立ち会いが右からのかち上げ一辺倒で,そこを読まれて苦戦する傾向は見られたものの,立ち会い以外は引き続き急激な進化が見られた。突き押しでも組んでも行けることは十分にわかったので,後は立ち会いの多様化と,強烈な必殺技が欲しいところである。最後に里山。2007年7月場所以来の再入幕だそうなので,実に6年半振りの幕内である。私自身,随分久しぶりに見たなと覆った。取り口は,日馬富士もかくやというような低さからの左差し一本で入り込み,後は下手一本を命綱に撹乱して崩しきるという独特極まりないスタイルである。あれ,6年半前からこうだったか。ともあれ,この独特のスタイルは対戦相手たちにとっても目新しい物らしく,撹乱させられてばたばたと倒れていった。一方,差し手が入らないと死んでしまうスタイルでもあり,後半は弱点を突かれて負けが込んだ。千秋楽,極めて惜しい髷をつかんだことでの反則負けで負け越したが,来場所の番付では温情措置を願いたいところだ。


最後に。木村山が引退した。2012年の九州場所が最後の幕内になったが,しばらく幕内と十両を行き来するのかと思っていたので,そこから戻ってこなくなるとは思わなかった。千代大海流の押し引きの駆け引きに優れ,一時はその後継者の呼声も高かったものの,突き押しの威力が上がらず,結果引きも効かずで上位進出ならなかった。千代大海後継者のライバル若荒雄はまだ現役だが,こちらも十両でくすぶっている。結果として現在幕内に残っている力士では千代大龍が千代大海の唯一の後継者候補であるが,最近の彼は突ききるパターンやそもそも突き押しに行かないことも増えてきたので,候補から外れそうである。かくも千代大海の道は難しい,ということを感じさせてくれた力士であった。デーモン閣下からは「栃の守」への改名を勧められていたが,最後まで木村山の四股名で通した。お疲れ様でした。


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2013年11月28日

大相撲:2013年のまとめと来年の展望(と稀勢の里の綱とりについて)

終わってみると,大関陣の顔ぶれが少し変わった。5人もいたのに1人引退で1人は陥落,そして誰も上がらず,3人に減ってしまった。しかも来年,誰かが大関に昇進できるかというとちょっと現状不明瞭で,案外5人のまま6場所過ぎていくのかもしれない(琴奨菊の引退or陥落が今一番心配)。一方,エレベーターを脱して上位定着してきた力士は多く,またさらにその下から,上位目指して上がってきた力士の中にも生きのいい力士は多い。来年というよりは再来年あたりに期待したほうがいいかもしれない。優勝はまた白鵬と日馬富士が分け合うことになりそうだが,稀勢の里の割り込みに期待したい。

来年最大の目玉というと,その稀勢の里の綱とりであろう。先に好材料だけ挙げると,13勝2敗ではあるのだが,これは白鵬と同点の準優勝。しかも稀勢の里はこれで4場所連続の優勝次点,かつその4場所の成績は48勝12敗の勝率ちょうど8割だ。これは並の横綱の勝率が75%程度であることを考えれば,安定性についてはすでに横綱級,かつ優勝争いは十分に担っている,と言えるだろう。ちなみに,稀勢の里は大関昇進後と範囲を広げても通算勝率.717と,やはり並の横綱級で,これは日馬富士の大関時代の通算勝率.671を大きく上回っている(日馬富士の横綱在位通算勝率は.743)。一方,優勝は無論未経験で,しかも優勝争いが本当に絡む一番は必ず負けるという精神的な脆さがある。

これらのことから,来場所綱とりと見るかどうかはその人の横綱観にかかわってくる。すなわち,横綱とは「勝ち星・内容から見て角界最強の称号」であるべきか,「横綱とは,実力・運を兼ね備え,相撲界の神として君臨するもの」か。前者であるなら優勝は必要な条件ではないし,稀勢の里には審査されるだけの十分な資格がある。後者であるなら,稀勢の里は審査未満だ。後者のような見方は,日馬富士の言「大関は努力でなるもの。横綱は宿命。」というのにもよく現れている。私も横綱とは後者寄りであるべきだと考えている。だから,連続優勝とは言わずとも,優勝経験はあるべきだ。それも,現在横綱の日馬富士・白鵬のいずれかは倒しての優勝でなければ,天から認められたとはいえまい。だから,来場所綱とりとするなら,甘く見ても,14勝優勝は絶対条件としたい。優勝でなければ14勝でも認めてはいけないと思うし,また優勝していても13勝の両横綱に負けているパターン等では認めてはいけない。(まあ,白鵬がいる以上優勝ラインが13勝になることは考えづらいが)

あとの特記事項をいくつか。まず,蒼国来裁判が終わったこと。彼が土俵に復帰したこと。そして,彼が意外と相撲がとれたこと。もっと動きが鈍っているかと思われたが,意外と勝ち星を積み重ねていて驚いた。初場所の成績次第では十両から陥落してしまうが,がんばって欲しい。次に,高見盛の引退。今それに代わるのは旭日松の塩撒きであろうが,どうも彼は幕内に定着できていない。新たなパフォーマーが求められている。パフォーマーとは違うが注目を集めているという点では舛ノ山がいる。彼の身体的な事情は好角家に知れ渡った一年であっただろう。


以下個別評。

横綱・大関陣
白鵬:
4場所優勝と,2場所優勝しかできなかった去年に比べると復調したかのように見える。が,内実は後期型の取り口が完成に至っただけで,復調したと呼ぶのはまた違うだろう。九州場所の評にも書いたが,あとは生きる伝説として,好きに取ってくださいとしか。現在優勝は27回。3回で30回,4回で千代の富士,5回で大鵬に並び,完全制覇なら新記録だ。
日馬富士:2回優勝で横綱の義務は果たした。調子の波の激しさが場所ごとに違いすぎて完全にジェットコースターであったが,逆に場所前半の貴重な話題要因と言えるかもしれない。来年もハラハラさせてもらうことにしよう。
稀勢の里:上記の通り。地力ナンバー3は誰しもが認めているところなので。
琴奨菊:正直危うい。次に陥落するのは鶴竜じゃなくてこの人になりそう。
鶴竜:昨年の評で「日馬富士の次はこの人」と書いたが,どうも大関のまま終わりそうである。ただ,成績自体は安定しているので(54−36で負け越し無し),来年も大関在位は盤石そう。


三役以降は続きにて。
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2013年11月26日

「突き刺さるような鋭い立ち会い」

九州場所は総合的に見ておもしろかったと言ってよいのではないかと思う。優勝争いは最後の最後まで一騎打ちで,14勝の相星決戦も見たかったが,ちょっとしたハラハラを演出してくれた稀勢の里は名演出家であった。あれはあれでいい結末だったと言えよう。若干の順番の妙があったかなと思うのは,日馬富士は稀勢の里戦の敗戦から即白鵬戦ではなく,間に鶴竜戦があった。対して白鵬は稀勢の里戦の翌日が日馬富士戦で,気持ちの整理をつける暇が無かったのではないか。この辺の妙はまさに大相撲らしい部分だ。

内容については,日によってアップダウンが大きく,幕内下位から上位戦までおもしろい取組が続く日があったかと思えば,最初から最後までだれた取組が続いた日もあった。やっぱ連鎖するもんなんだなぁと,これも不思議に見ていた。どちらかというとおもしろかった日の方が多く,熱戦の多かった場所と言えると思う。盛り上がった原動力を平幕から選出するなら,碧山・千代大龍・勢あたりであろうか。琴勇輝も良かっただけに,途中休場は本当に惜しい。総合的な評価としては上の下くらい。しかし,毎年思うが,九州場所の観客はマナーが悪い。手拍子はまだしも,稀勢の里が白鵬に勝つと万歳三唱が起こったわけだが,あれはなんとかならんかったのか。

来場所の稀勢の里が綱とりになるかどうかについてについては,別記事で。琴奨菊と琴欧洲は途中休場。琴欧洲はカド番だったのでこれで陥落ということになり,来場所は関脇での10勝を目指すことになる。が,非常に厳しい。彼が最後に10勝したのは今年の初場所なので,10勝できればちょうど1年ぶりということになる。あとは,ポール・マッカトニーが観戦に来ており,急遽懸賞金まで置いていってくれたのが非常に嬉しかった,ということは付記しておく。


個別評。まず優勝した日馬富士から。今場所の彼はトレードマークたる「突き刺さるような立ち会い」ができていた。日馬富士の調子を図るのは簡単で,立ち会いを見ればわかる。先場所の評で「もう突き刺さる立ち会いはできないのでは」なんて書いてしまったが,そんなことは無かったので彼にはお詫び申し上げたい。あとは速攻が効いていた。彼はとにかく下がると耐えられない,攻撃全振りで防御皆無というRPGならパラ振り間違えただろと言われそうなステータスなので,とにかく攻められる前に攻めきってしまうしかない。今場所の日馬富士が下がったのは稀勢の里戦くらいである。あとはケチをつけるとすると,10日目の碧山戦で変化したことくらいか。さすがにあれは真っ向勝負で行って欲しかった。もしくは朝青龍ばりに蹴手繰るくらいの芸は見せて欲しかったところである。それで思い出したので言及しておくが,千秋楽の白鵬戦,あれは変化ではない。よく見ると当たってから左上手をとっており,「立ち会いで当たってからの動きが早かった」と言うべきだろう。

白鵬については,先場所より少し省エネ相撲を緩めて力を出していたように見えるので,むしろ先場所よりも好調だったのだろう。「いくらなんでも今場所よりは調子を上げてくるであろうし」と先場所の評で書いた通りである。その先場所は優勝できて,今場所は優勝できていないのは,ひとえに日馬富士の調子次第ということだ。白鵬は昨年まで九州場所は6連覇していたが,その記録がこれで途切れてしまった。九州場所の連覇記録は千代の富士の8連覇で,不朽の記録と言わざるをえない。いかに”連続”記録を破るのが難しいか,という話であり,同時に白鵬の7連覇や63連勝の偉大さもまた際立つのである。白鵬はもはや生きる伝説状態で,毎場所何かしらの記録を更新しているので,なんかもうありとあらゆる記録を塗り替えるまでがんばってください,としか言えない。

大関陣。稀勢の里は見事であったが,相撲ぶりはむしろほとんど変わることがなく,相変わらず左からのおっつけだけは現状最強,というよりも大相撲史上有数であろう。メンタル面が多少なりとも強くなった結果が13勝なのか,それとも早々に2敗してプレッシャーがかからなくなったからこその横綱連続撃破なのか。真価は来場所と言いたいが,こう書くと大体フラグになるのが稀勢の里であるので難しいところだ。鶴竜は,巡業でケガをしてほとんど稽古せずに場所を迎えた,ということが場所後に親方から報告された。その割に9勝をあげ,しかも敗戦のうち4つは関脇以上が対戦相手であるから,むしろよく優勝争いについていった部類と言えよう。不調でもうまく取るのも一つの技術かもしれない。これに伴って一つ言いたい。正直,この「ケガの報告は本人からするのは男気に欠けるから,師匠からの報告待ちか,休場待ち」という相撲界の常識は,美徳と言っていいものかどうか,非常に疑問。個人的にはオープンにしてほしい。

三役。豪栄道は,「ただし開眼したかどうか,私は疑問視しており,来場所も11勝できるかどうかは五分五分。」と先場所の評に書いた通りの結果である。立ち会いの下手さがまるで改善されていないどころか,先々場所以前に戻ってしまった。その後首投げにいって急を脱して勝つ戦法がとれるあたり,本当にセンスはあるのだが,それで11勝できるほど上位陣は甘くないのである。もう一人の栃煌山は印象が薄い。7−8は思ってたより悪くない結果。松鳳山は地力負けが目立ち,家賃が高かったが,内容は悪くなかった。しばらくはエレベーターになりそうだが,内容のおかげで印象は良い。隠岐の海も今場所は悪くなかった。もろ差しにこだわらず,深い懐を行かせていたのではないか。7−8での負け越しだから,番付はそう下がるまい。来場所も上位で良い相撲を見せて欲しい。

前頭上位。妙義龍は日ごとの好不調の波が激しかったが,終盤3日は絶好調で,全日程これでとれていれば,と思わざるをえなかった。なんのかんので勝ち越し8−7,来場所は返り三役であろう。立ち会いの鋭さが美しいレベルになってきたので(その意味では案外と日馬富士に似たタイプかも),来場所も注目しておきたい。もう一人挙げるべきは碧山で,ギリギリ横綱・大関全員には当たらない5枚目とはいえ,日馬富士・稀勢の里・鶴竜との対戦を含んで10−5は立派な成績である。突き押しの成長がすばらしく,一発で終わらずよく回転していた。突ききらずに,突き起こしてからの右四つでも相撲が取れ,碧山は今場所最も成長した力士と言える。栃乃若はエレベーターになってくなぁ。この人は上位定着できると思っていたのだけれど。

前頭中盤。なにはなくとも千代大龍であろう。この人も突き押しがすばらしく,その突き押しの技術が認められての技能賞受賞が決定した千秋楽,あえて組みに行ってつり出しで勝つというお茶目さもこの人らしいかもしれない(あれはわざとだと思う)。過去の評を見ると突き押し褒めてばっかりなので,そろそろ「突き押しは大関陣にも通用した」とか描かせて欲しいところだ。もう一人,勢は必ず挙げなければなるまい。先場所「勢は名前の通り,勢だけで取っているのでは」と書いたが,今場所はその勢いが最後まで保った感じであった。見ていて気持ちが良い相撲である。割りと勝ち方が多様で,相手にあわせてとっているところが見られる。そろそろ自分の型も見たい。不調ながらおもしろかったのは時天空で,まるで相撲になっておらず棒立ちで押し出される日が数日あった一方,ほとんどはたきと引きながらの投げ技だけで15日間乗り切ってしまった。これはこれですごい。

前頭下位。臥牙丸は終わってみると8−7勝ち越しだが,いかにも不調で,相撲振りは一言で表現すれば「体重の無駄遣い」であった。足が動いていない。翔天狼は前から連勝・連敗癖が激しかったが,今場所もそれが強く見られた。連勝中は激しく押していけるが,負けが込むと威力を欠いていく。精神的なものだと思うが,如実に現れすぎていて,こう言っちゃなんだがおもしろかった。最後に新入幕,大砂嵐。前半は腰が高く脆さが目立ち,はっきり言ってどうしようもない状態であった。しかし後半は順応したのか相撲になっていた。進化が異常な早さである。腕力がずば抜けており,突き押しでもいけるし組んでもいける。あとは技術的な問題で,典型的なのが千秋楽の魁聖戦。先に形よく組んだのに,結局逆転されて寄り切られてしまった。腕力だけでは寄りきれないというのは,言うまでもなく本人もわかっているところであろう。少しでも技術が身につけば,本気で化けそうで,期待大だ。


最後に,引退した阿覧について。29歳という若いうちでの引退であるが,師匠の退職による部屋替え,癌による体力の衰え(30kgも体重が落ちたそうだ)が重なったそうだ。帰国後は実業家に転身するそうで,相撲道を極めに日本に来たというよりも,スポーツ選手として日本に出稼ぎに来たように感じられる。そこからして他の力士とは違った雰囲気があるが,それだけ日本の大相撲に金銭的な魅力があるというのは良いことではないか。

怪力を誇るロシア人ではあったが,得意技ははたき込みであった。それも大振りで突きなのか紛らわしくはたくので,他の力士には見られない特徴的なはたきであった。阿覧の出自はレスリングであるから,レスリング仕込みかとおもいきや,琴欧洲や黒海など他のヨーロッパ力士にもあまり見られないので,阿覧特有のものではないかと思う。ただ,その従来の相撲では想定されていないはたきゆえに,髷をつかんだと判定されたこともしばしばあり,不運ではあった。またはたきが得意ではあるが突き押しの相撲というわけではなく,中腰で,接近する相手をとにかくはたき続けるという体捌き自体がすでに特徴的であった。好き嫌いは別として,見どころは多かったと思う。

それだけ膂力があるのだから組んでからの相撲をとればいいのではないかと常々言われ,かつたまに右四つに組むとその膂力を活かした寄りができていたことから,もったいなかった。ただし組んでからの攻めが遅く,寄るまでに時間がかかったため,そう得意では無かったのであろう。本人もそれがわかっていたから,あまり組まなかったのではないか。最も躍進していたのは2010年の一年間でこの年は敢闘賞2回の新関脇である。2011年からの約2年半は進歩が無く,エレベーターではあったが,特徴的な相撲で土俵を沸かせていた。お疲れ様でした。

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2013年10月02日

把瑠都引退によせて

優勝も経験し,精神的にも脆くない,横綱を嘱望された力士が,それから2年経たないうちに十両に落ち,引退してしまった。急転直下とはこのことであろう。

把瑠都という力士について簡潔にまとめれば,規格外すぎるパワーで旋風を巻き起こしたが,そのパワーに自分自身もついていけなかった,ということになる。よく似たパターンでは小錦がいた。把瑠都の二度目の入幕のときだったかと思うが,NHKの解説の誰だったが「小錦も前頭にいた頃のケガが原因で横綱に上がれなかった。把瑠都もそうならなければいいが」と言っていた。まさにそれが完全に的中した形になる。把瑠都の致命傷は左膝であった。

彼がそのような重傷を負った理由は,その雑な相撲振りにあった。倒されればケガをしないように倒れる。これは本来,稽古や本割の中で覚えていくことだ。しかし把瑠都の場合,パワーが圧倒的過ぎて,何か土俵の上で一人だけ別の種目をやっているように見えた。基本的な動作が相撲に染まっていなかった。それでも十両までは圧勝だけで来ることができてしまった。初めての壁は幕内の下位という高い地位でのことであって,それでとんでもない倒れ方をするものだから,ケガも大きなものになってしまった。2006年秋場所の雅山戦,2007年初場所の琴奨菊戦,名古屋場所の土佐の海戦と三度左膝を痛めて休場しているが,どれも倒れた瞬間「これは休場だな」とわかる,ひどい倒れ方だったのを覚えている。

そんな致命的なケガがあったにもかかわらず,出世は本当に早かった。幕内まで来るのも早かったが,エレベーター期間が極めて短く,あっという間に上位定着してしまった。その後はやや停滞したが,三役も11場所で通過し大関へ。私もすっかりだまされていたのだが,大関取りの頃の把瑠都は多少なりとも相撲を覚えたように見えた。立ち会いで諸手突きを見せたり,がっちりと組んでから投げてみせたりと,少しは力士らしい動きを見せていた。このままやっと相撲に染まっていくのかと思いきや,学習はここで止まり,結局大関在位中も「少しは力士らしい」止まりであった。前に「雑な相撲がいまだに見られるのが残念であり,このまま「相撲を覚えないまま大関になり,相撲を覚えないまま引退した」ら,それはそれで相撲の歴史に名を残しそうである。」とコメントしたが,本当にそうなるとは,なんともすごい話である。しかし私は,そんなのはどうでもいいのでちゃんと相撲を覚え,白鵬に立ちはだかる「横綱:把瑠都」を見たかった。そんなのだから再度左膝を痛めたまま再浮上できずに,引退に追い込まれてしまうのである。至極残念である。

とはいえ,その異次元のパワーと,そこから生み出される普段見ない技の数々は我々を大いに沸かせてくれた。肩越しの右上手からの上手投げ(こうなると肩透かしと判別できない)。通称”クレーン”と呼ばれるつり出しは,相手に抵抗を許さず,偶然北の富士にその場面を見られた栃煌山は「鮭じゃないんだから」と言われ,ネット民に”シャケ”という不名誉なアダ名をつけられた。実際のところ無抵抗だったのは栃煌山だけではなく,あれだけつられれば誰だって動けまい。数ある把瑠都の必殺技の中でもインパクトが強かったのは裏に組み付かれ,送り出されるしかない状況からの波離間投げである。本場所では合計三度見せてくれたが,2010年九州場所の阿覧戦のものが最も印象に残っている。

こうした圧倒的なパワーを持った力士は技巧派の力士に弱いことが多いが,把瑠都の場合はパワーが振り切れすぎていて案外とそうでもなかった。高身長の力士にありがちなこととして,中に潜られるとにっちもさっちもいかなくなることが多いが,実は豊ノ島・安美錦・栃煌山あたりにはいずれにも勝率が高い。稀勢の里にも勝ち越しており,じゃあどこで負けてるんだという話になるが,要するに真っ当な格上には勝てていない。朝青龍には8戦全敗のままあっちが引退してしまい,日馬富士にも負け越し,白鵬にいたっては3−25というひどい成績である。あとは意外にも琴欧洲にも分が悪く,9−16と大きく負け越していた。白鵬や琴欧洲に弱いのは,相手が大柄だといつものパワー差が生かせず,取り口に工夫もないのであっさり負けてしまうというパターンであった。また,得意の相手であってもあっさり負けることも見られ,総じて敗因は「棒立ち」「すり足になっていない」など,前述の通り相撲になっていないことであった。日によって力士になったり一般人に戻ったりする,そんな気まぐれの強さもまた把瑠都の相撲の特徴であった。

「永遠の素人」というほど相撲を覚えていなかったわけではないし,技巧が無かったわけでもない。基本的な身振り自体に「大関まで上がってきたような力士」らしさが欠いていた。圧倒的なパワーによる魅力は欠点と表裏一体であったと言えよう。これだけの逸材はこの先,ひょっとすると何十年単位で出てくることはあるまい。記憶に残る,おもしろい力士であった。

  
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2013年09月30日

それでも白鵬が優勝する

仕事が糞忙しい中なんとか見た秋場所が終わった。そんな中見たせいか内容に乏しかった気がしたのだが,twitterのTLを見ても同じような反応の人もいたので,気のせいではなさそうだ。一方好角家には高評価の人もおり,よくわからない。もっとも,その人でも「幕内上位は低調」という評なので,少なくとも上位陣がひどかったのはそれなりに共通見解が取れそうである。

とりあえず,NHKを含めて世のマスコミに言いたいのは,安易に白鵬盤石というのはやめないか。どう見ても今場所の白鵬は盤石でなく,力量の低下というよりも単純に不調でもあり,完全にだましだまし,それも省エネで取っていた。どちらかというと,それでも優勝できてしまったことのほうが問題であろう。白鵬の省エネ相撲の弱点を突いて完勝したのは豪栄道だけであり,情けないことに琴奨菊・鶴竜・稀勢の里・日馬富士と全員秒殺に近い状態であった。白鵬が万全で勝率の高い勝ち方をするときはがっちりと右四つで捕えるはずである。無論それで結果的に秒殺になることもあるが,それは相手の問題だ。逆に省エネで行こうとする時は離れて取りたがり,特にとったりとはたきを多用する。依然難易度は高いが,がっちり右四つよりはまだしも隙がつける取り方で,実際今場所の豪栄道はとったりを外させたことで形勢を有利に進めることができた。他はそろいもそろって「白鵬は組みに来るものだ」という想定でとるからあっさり腕をたぐられ,またははたかれて落ちている。どうにかならないか。優勝した白鵬の「豪栄道戦で目が覚めた」は半分は本当であろう。半分ウソなのは,その後も結局省エネ相撲っぷりが全く変わらなかったからだ。

そうそう,物言いについては書いておかねばなるまい。今場所の物言いはつけるタイミングがひどかった。特に勝ち名乗りの真っ最中に物言いは最悪であろう。しかもこれ先場所からの継続案件であるから,組織として全く改善されていないことになる。確かに進行は遅くなるが,気にせずどんどん「確認のため」に物言いをつければよい。つけずに疑惑の判定になるほうがよほど悪い。審判部は猛省してほしい。

来場所の展望としては,白鵬の5連覇の可能性は高い。いくらなんでも今場所よりは調子を上げてくるであろうし,逆に周囲が白鵬を上回る力量を示す予想も立てづらい。しいて言って期待できるのは,なんだかんだ言って日馬富士であろうが,どうなるか。最大の目玉は,いよいよ豪栄道の大関取りが真実味を持ってきた点になろうだろうか。とは言っても3場所連続のうち2場所目なので来場所のうちに決まるわけではない。あとは遠藤の番付が上がることと,大砂嵐の新入幕が確実なことくらいか。それなりに目玉は多いので,来場所に期待したい。

把瑠都については別個に記事を立てる。一方栃ノ心は幕下から再起を図るつもりだろうか。膝のケガの直接の原因になった名古屋場所五日目の相撲は本人が勝っており,それほど強烈な記憶もないので,そんなに悪かったとは思えなかった。早い復帰を祈りたい。


個別評。白鵬については前述の通りである。また,先場所の評をコピペしておく。「逆に言えばこれが後期型白鵬の発展形ではあり,この型であと5場所優勝(通算31回)までいけるかどうかはハラハラしながら見守る他無い。」1回減ってあと4回になった。本人の希望は35歳までとって,現役のまま東京五輪を見ることらしいが,けっこう難しいと思う。日馬富士も引き続き重症で,これも先場所の評に「(もう)突き刺さる立ち会いができなくなっているのではないか」と書いたが,やっぱりできなくなっているのだと思う。日馬富士の原動力とはあの立ち会いの破壊力であって,全勝優勝はこれが15日間続いた結果である。あれがない日馬富士は白鵬はおろか稀勢の里・鶴竜に伍するのも怪しく,実際ここ数場所は大関戦黒星が目立つ。今はものすごく彼のことが心配だ。

稀勢の里はいつもの稀勢の里であった。琴奨菊も可も不可もなく,この二人はコメントしようがない。鶴竜は絶不調まっただ中であるが,それでも9勝はしたことを評価するべきか。一方で幕内上位陣の内容がぱっとしなかった戦犯としては最大なので,あまり評価したくない気も。技巧がまるで見られず,淡々と取っているように見えた。三役陣は今の鶴竜を倒せないようではまずく,特に豪栄道が鶴竜戦あせって自滅したのが残念でならなかった。琴欧洲は比較的好調そうではあったが,ケガで休場は惜しい。彼が最後までとれていれば,雰囲気が違ったかもしれない。

関脇。妙義龍は先場所に引き続き,どうしちゃったのというくらい不調であった。この人,不調でもそれなりに勝って6−9くらいでまとめてしまうからインパクトがないが,内容だけ見ると場所ごとの調子の波が激しいことに今場所気づいた。今場所は立ち会いに威力を欠き,どうもうまいこと寄れていなかった。ただし,材料がまったくないわけではなく,白鵬に善戦していた点は豪栄道に次ぐ。豪栄道は前述の通り,白鵬戦に工夫が見られて11勝である。ただし開眼したかどうか,私は疑問視しており,来場所も11勝できるかどうかは五分五分。小結,栃煌山は8−7でなんとか勝ち越したが,彼に必要なのはもうひとつ上の安定であってこれではない。豪栄道・妙義龍とはやや差がついてしまっている。もう一人の高安はいまだ家賃が高かった。相変わらず日ごとの実力差があり,安定しない。

前頭上位。松鳳山は8−7ながら敢闘賞の資格はあろう。近年なぜだかやたらと三賞のハードルが高く,あげないときは徹底してあげず,人種差別も疑ったほどだが,今場所はやけにあっさりと出た。まあ松鳳山の魅力ある押し相撲と日馬富士戦の金星が評価されたのであろう。再小結は確実だが,家賃が高そうな気はする。隠岐の海も再小結になるだろうが,なんとも言えない。栃乃若にも言えることだが,なぜに高身長の懐深い奴がもろ差しを求めに行くのか,疑問でしょうがない。碧山は日馬富士に勝った一番以外評価するところがなく,勢と宝富士にいたっては絶不調で何も評価するところがない。魁聖はそれなりに好調であったのだが,上位陣には通用しなかった。琴欧洲が休場しなければあたることのない番付ではあり,後半突然上位陣コースが組まれてやや不運ではあった。

前頭中位。なんともコメントしがたい力士ばかりで,逆に衰え激しい阿覧が目立つという結果に。阿覧は以前見られた怪力が全く見られず,特徴的だった乱暴なはたきも威力を欠きまるで勝てなかった。不調というよりは衰えているように見えた。負けがこんで逆に目立ったといえばもう一人は翔天狼で,こちらも押しに力がなく,組まれるわいなされるわで散々な相撲ぶりであった。豊ノ島は前半不調だったが後半切れを取り戻し,動きまわる相撲でなんとか勝ち越した。ベテランらしい,場所中の調整が効いたパターン。琴勇輝は立ち会いの気合を入れるモーションで人気が出そう。私もあれは好きだ。相撲の方は突き押しだがもっと上に行くには威力が足りず,この辺りをうろうろしそうである。旭日松もそうだが,陥落しないようにがんばってほしい。

前頭下位。まず栃乃若,前述の通りなぜにあの巨体でもろ差しにいくのか不可解でしょうがない。そのせいで相撲が窮屈になり,ありえないはたかれ方をして落ちている。そこを改善すればすぐに上位定着しそうなものだが。これは改善されるか上位定着するまで毎回書き続けると思う。あとは豊真将と遠藤を挙げておく。豊真将については,大相撲にカムバック賞があれば受賞していただろう復調っぷりである。押しの威力が回復し,かなり相撲が取れていた。遠藤は新入幕とはとても思えないほど技巧に優れて型も良く,9−5−1の勝ち星もさることながら,内容面から見ても大きな期待を持たざるをえない。特に投げが強烈で,九日目の嘉風,十一日目の旭天鵬戦は素晴らしい取組であった。にもかかわらず勝てないのはまだ身体が出来上がっていないというアンバランスさがあり,それゆえ期待は大きいものの,急速な出世は不安もある,と書いて今場所の総評を締めたい。

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Posted by dg_law at 00:47Comments(2)TrackBack(0)

2013年07月22日

無理な投げは禁物

なんとも奇妙な展開となった場所であった。最終的に白鵬が優勝したわけで,番狂わせがあったわけでもなく,荒れたとは言いがたい。しかし,場所の焦点が当たったところから予想からずれていったという意味では,奇妙としか評しようがない。言うまでもなく,場所序盤の注目は稀勢の里の綱取であった。が,稀勢の里は七日目までに3敗し,早々に綱取は終戦する。次の注目は優勝争いで,混戦になるかと思われたが,これまた11日目までに白鵬とその他に2差がつき実質終戦。となればあとは白鵬の連勝記録だけが注目であったが,白鵬なんと12日目に脇腹を負傷し,14日目には黒星で連勝は43で止まった。江戸時代まで含めた「二度目の」連勝記録は全て43で止まっているので,何か44という数字に呪いがかかっているのではないかと思われる事態である。44だしね。

とかいう非科学的な話は置いといて,今場所の好角家の注目は,一方で新鋭に向いていたように思う。まず,2年半ぶりに土俵復帰した蒼国来。全敗もありうるとされる中,見事に6勝をあげて見せた。そして十両では大砂嵐と遠藤が大暴れし,むしろ幕内よりも星取表が気になった日もあった。幕内で気を吐いたというと碧山と魁聖の二人であったと思う。優勝争いということは考えないとはいえ,星だけ見れば最後まで2敗で生き残っていたのはこの二人であった。相撲内容も良く,この二人に三賞がいかなかったのは本当に解せない。魁聖・碧山が三賞から漏れたことに加え,稀勢の里に対する過剰な甘いハードルといい,日馬富士への場所ごとの罵声といい,協会もマスコミも(横審も)人種・民族差別を疑われても仕方がない状態である。ということはこの場で重々指摘しておきたい。

そうそう,立ち会いが今場所は久々に綺麗だったことは書いておかねばなるまい。協会の方で何か厳しくしたという話は聞かなかったし,行司が止めるような素振りも多くなかったのだが,不思議と立ち会いがきちんとそろっていた。理由がさっぱりわからないが,綺麗に越したことはない。この点も含めて,今場所は中の上としておく。

来場所の展望であるが,上位陣はあまり盛り上がる材料がなく不安である。稀勢の里は綱取白紙。白鵬が調子を戻してくれば順当だが,案外と日馬富士が久々の優勝をもぎ取ってくるかもしれない。4大関体制が久しく,かつ誰かが落ちてくる様子があまり無さげなので,大関争いと言われても難しい。妙義龍が12勝くらいしたらおもしろいかもしれない。12勝するということは高い確率で豪栄道や栃煌山をなぎ倒しているということであり,三役同士での潰し合いが見どころといえばそうか。前頭中位・下位はエレベーターがうろうろしただけであまり変化はないが,その中で遠藤がどこまで注目するか,が唯一の見どころになる。あとは引き続き十両戦線のほうがおもしろそうか。なにせ休場明けで把瑠都が落ちてくる。編成によっては蒼国来も落ちてくるし,迎え撃つは昇進失敗の貴ノ岩に大砂嵐。役者が揃っている。


個別評。白鵬は,もう全盛期の取組はめったに戻ってこないのだなという寂しい気持ちになった。今年の初場所からの継続視聴の結果,そう判断せざるを得ない。不調の兆候であるとったりを,もはや隠さず乱発するようになった。平幕相手でも一瞬寄られたところ,朝青龍に近いようなとっさの機転で逆転勝利というパターンが増え,立ち会い受けてがっちり組み寄るという相撲が減った。逆に言えばこれが後期型白鵬の発展形ではあり,この型であと5場所優勝(通算31回)までいけるかどうかはハラハラしながら見守る他無い。今場所にしても,右脇腹を痛めたのはとっさの投げの多用が最大の原因であろう。それでも琴欧洲を下してしまったあたりはさすがと言うほか無いが,稀勢の里には通用せず,千秋楽は気持ちが切れていた。

日馬富士も意外と重症で,今後が少し心配である。先場所までは,負けた相撲は下がった相撲という共通点がり,前に出ている限り負けていなかったのだが,今場所高安に負けた相撲は組んで捻られたもので,下がっていない。豪栄道と千代大龍戦は当たり負けで,いわゆる「下がって負けた」のは妙義龍戦だけである。こうなると白鵬同様,「突き刺さる立ち会いができなくなっているのではないか」という疑念を持たざるをえない。疲弊が激しいのが仕方がない白鵬に対して,日馬富士は(年上とはいえ)まだできるはずだ。衰えるのはまだ早い。

大関陣。稀勢の里は良くも悪くもいつも通りであった。精神の脆さ,腋の甘さ,腰高が解消されたとはなんだったのか。琴奨菊は,三役時代からそうだが,変化に弱すぎる,とだけ。琴欧洲と鶴竜は良くも悪くもなかった。千秋楽の琴欧洲は見え見えの星返済すぎてちょっと,とは言っておこう。

三役。妙義龍は不調であったが,不調なりに勝ち越したというのが逆に大きい。日馬富士を倒し,白鵬戦も善戦している。豪栄道・栃煌山を追い抜く形で大関候補筆頭と言ってよかろう。対して豪栄道も,同じ関脇で同じ8−7ながら印象は悪い。ここ数場所成長がないというのがどうにも。小結,松鳳山は負け越しながら7−8の僅差である。以前も僅差で負け越していたので対戦相手に注目してみたところ,取りこぼしはないが上位陣に通用していないという傾向が明白であった。地力か……もう一人の時天空は,けたぐりが不発だったのが残念だったとだけ。

前頭上位。高安は日馬富士戦が見事な金星であったが,それ以外の取組は普通であった。日馬富士戦二度目の金星だが,もう攻略法が見えているのだろうか。張り差しも下手捻りも完璧な奇襲で,今場所最高の一番を挙げるとすれば文句なく高安・日馬富士戦である。前から書いているが,突き押しでも組んでもいける器用な力士なので,今後もその多彩さを活かしてほしい。来場所は平成生まれ初の三役だそうで,歴史に名を残した。栃煌山は場所ごとの出来不出来の差が激しすぎる。毎場所これができれば,その地位を妙義龍に渡すことはなかったのに。

千代大龍は中日に日馬富士に勝つまでは良かったが,その後はスタミナ切れのようであった。もっと大敗するかと思っていたのだが,7−8は十分な成績である。突き押しではあるが,組んでもそれなりにとれるので,千代大海のようにはならなそうだ。勢はどうも名前の通り勢いでとっている印象がぬぐえない。ちょっとどっしりと構えて取る相撲が見てみたい。


前頭中位。隠岐の海は懐広いのだから,もろ差しにこだわらず,もっと右四つや外四つで取る工夫をすればいいのに,と毎回思う。北の富士が辛辣なコメントになるのもわからんでもない。なぜにああも縮こまろうとするのか。来場所は上位に戻ってくると思うが,あれではまた跳ね返されるなぁ。碧山は今場所よく腕が伸びており,突き押しに威力があった。しかし,高安や豪栄道にはあっさり負けているあたり,上位ではダメそうな点は隠岐の海と同じ。

前頭下位。魁聖については何度かこのブログでも褒めている通り,力強くて意外と器用で,強くなる力士だと思う。不調になると途端に動きが鈍重になるのだけはなんとかしてほしい。今場所11勝は番付を考えると当然と言えなくはないので,来場所は上位で暴れてほしい。琴勇輝は二度目の入幕で,鮮烈なインパクトを残してくれた。気合は十分なので後は勝ち星である。突き押しに威力があるのは十分にわかったがそれだけであり,突き押しにしても今場所対戦が無かったが臥牙丸や碧山に勝てるとはあまり思えない。気合入れは好きなので,がんばって残って欲しい。常幸龍は小器用に立ち回ろうとして失敗した印象が強い。最後に,蒼国来が案外ととれたのには本当に驚いた。確かに腰高で相撲勘が鈍っているらしき場面は散見されたものの,それにしても差せばブランクを感じさせない機敏な動きで,投げては崩し,さっと寄り切っていた。来場所幕内に残るかどうかは微妙な線だが,仮に十両に落ちてもすぐに戻ってこれるのではないか。この力士から2年半を奪った八百長事件に関する協会の責任は,改めてあまりにも重い。


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Posted by dg_law at 00:58Comments(2)TrackBack(0)