第5話 てらすの実力

 てらすの念力……というかアニメが見たい、という怨念によって、てらすのアンテナを仲介して受信できるようになった高天原TV。
 そこに、福岡県在住・本名は伏せるものの『家紋は梅鉢』という読者的には大惨事が待っていました。
 いえ……想像はしていたんです。ちょうど祟り神になって祀られてから大体1000年ちょっと経ってるし、藤木先生も福岡県民ですから、出るんじゃないかなぁ……って。
だめてらすさま005-1まさか本当に出ちゃうとは
 という訳で……紹介します――ご先祖です
 ちょうど受験シーズンと重なることもあって、御利益求めて年末年始の参拝者数において全国有数の集客数を誇る、学問と天災と祟りの神です。
 とりあえず、ちょっとまずい弄り方したなぁ、と思ったら「くわばらくわばら」とでも呟いてみてください。雷落とすことは勘弁してくれるはずですよ?くわばらくわばら。
 ですが、そんなご先祖も……修行場のインストラクターであるタヂカラヲ先生には勝てないらしく……
だめてらすさま005-2ご先祖、貧弱なボウヤ扱い
 嘘宣伝に手を貸してしまいました。
 ちょっ……ご先祖……ご先祖ー!?
 ちくしょうこの偽ホリエモン。遠景では黄村っぽいシルエットだから油断してたのに、ウチのご先祖になんてことをさせてやがる。
 俺的にはおいしいのでもうちょっとやってくれ。今週のサンデーでは一番衝撃的だったし。

 ……くわばらくわばら。

 と、祟りが怖い子孫はいいとしますが、コーヘイにとってはTVの内容以上の不満がありました。
 転がり込んで二週間、ニートがまるで働かないのです。
 ニートにとっては働くことは負けであり、それそのものが罪悪ですが、生活と就業が一体化している自営業である平井家にとって、日なが一日ネットとTVで過ごすだけのてらすという存在はまさに横たわるモラルハザード。
 住む場所を世話してもらう代わりに手伝いをしてくれているヤタさんとは大違い。だからヤタさん結婚してくださいと求愛混じりにこぼすコーヘイの不満の言葉に構うことなく、てらすは就労を拒否するのですが――。
だめてらすさま005-3最高神、煽り耐性0
 この二週間で、コーヘイはてらすの性格を把握していました。
 ただでさえ気に食わなければ祟ればいい、という日本の神の中でも最高神なだけあって高いプライドを誇るてらすに投げかけた言葉は「できないんだな?」
 できないんだったら仕方ない。期待した俺が馬鹿だっただけだ。でも、最高神ともあろうお方がこの程度のこともできないんだったら、神になっても大したことなんてできやしないなぁ。
 ふっざけんなよこの野郎。できないんじゃなくってやらないだけなんだ。やってやるからほえ面かくな?
 ちょっとニュアンスを盛っては見ましたが、まさに売り言葉に買い言葉。
 言質を取ったことをほくそ笑むコーヘイに気付くことなく、深き者どもをうっかり打ち上げつつも波をバックに宣言するてらすでしたが――ヤタさんは珍しく発生したてらすの勤労意欲に、隕石でも降るのではないかと口走ってしまうのです。
 ですが、てらすの勤労は想像よりも甘いものではありませんでした。
 厨房:芋の皮むきを行おうとした結果、芋と包丁によって厨房中破。
 とりあえず工具楽我聞(10)にレクチャー受けろ。
 浴場清掃:デッキブラシの扱いに5分でへばり、小動物の助けを得ようとした結果、くま牧場から野良熊召喚。
 たしか……かつて阿蘇熊牧場だったカドリードミニオンって……閉鎖されたよな?中津のわんわん王国も潰れて久しいし……動物系テーマパークって難しいなぁ。
 おつかい:あふれるオーラに導かれたお年寄りの群れに囲まれて動けず。
 むしろ、この人気を見たことで拝観料を徴収する方向に走らないコーヘイやじじいの良識が全てだと思われます。
 これら三つの内容を見た結果、コーヘイは結論を下します。
 てらすはやっぱりポンコツだったと。
 たまたま失敗しただけでポンコツ扱いされたてらすも黙ってはおれず、コーヘイと形と器の小ささを責め立てるのですが、軒先で始まった、周囲を省みることなくエスカレートの一途をたどる口喧嘩にじじいの取る手段というか足技は一つでした。
 結果、繰り出された踵落としによっててらすとともに屍を晒したコーヘイでしたが、復活したコーヘイが玄関先のホールで目の当たりにしたのは、ホールでつけっぱなしにされていたTVから流れてきた、地球に向けて飛来している巨大な隕石群が北半球に落着するから、もうやけになってセクハラブチかます、というアナウンサーの醜態。
 トップニュースでもなく、かと言って臨時ニュースでもない時点で、やる気あんのかてめぇら、とツッコミが入れたくなりますが、それ以上にTRPG畑の読者としては、誰だディングレイ呼んだ馬鹿は、としか言いようがありません、
 とはいえ、ナイトウィザードについては生活圏的な問題が存在するアニメは勿論、リプレイやルールブックも見たことがないであろうコーヘイはディングレイなどというボケをカマすこともできるはずもなく、ただただ絶句するより他ありません。
 まぁ、もしかすると、読者参加企画とかPCゲームについては見たことがあるかも知れませんが……まぁ……ウチ、全年齢対象のサイトだし、詳しくは伏せておきます。
 コーヘイも……ほら、17歳だし。建前上は、うん。
 ちょくちょく足を踏み外している読者についてはさて置きますが、いきなり訪れた地球存亡の危機に停止した脳を奮い立たせて外へと駆け出すと、そこには既にヤタさんが。
 急な階段の下に佇んで、階段の上にいる特徴的なアンテナの持ち主を待っている彼女に、先程の不穏なニュースを告げたコーヘイでしたが、
「あ、そうですねー 隕石が落ちるとか!」
 いくらなんでも能天気にも程がある返しで応じるヤタさんは、コーヘイの言葉にも全く動じることはなく、階段の上から声を掛けるてらすに前方の安全を伝えます。
 地球の滅亡も近いというのに、一体何をやっているのか――理解出来ないコーヘイに、事も無げにヤタさんは言うのです。
「神様のお仕事です」
だめてらすさま005-4疫病神とか貧乏神とかひだる神とか旧世界の邪神とか
 この国を守ることが最高神であるてらすの仕事。
 日がな一日食っちゃ寝しつつ、ネットとアニメで過ごす生活が板についたただのニートではない。だから、あんなぽんこつでも神としてやっていけている――そう悪気なくヤタさんに言葉責めされますが、反論する時間はありません。
「コーヘイ、宿はいったん休憩だ。ちょっと隕石壊してくる」
 事も無げに言うと、石段を駆け降りる勢いを借りて力強く踏み込むと音速の壁を越え、第一宇宙速度に達するてらす。
 どうやら、藤木世界のニートは本気を出したら音速を超えるようです。
 神ならぬエーコでも軽々と短距離弾道移動が可能なだけに、最高神となれば衛星軌道上に届くことも容易いこと。
だめてらすさま005-5青山広美先生の自摸音「ゴッ」
 ましてや、隕石というかカ・ディンギルによる一撃によって破壊された月の欠片だろこれ、というレベルの巨大な隕石を粉砕することなど朝飯前。
 あ、俺、アニメ版のシンフォギアは見たことないっす。
 ワイルドアームズ関連のネタが満載……というか、むしろWAを元ネタにした作品だからってことで、コミカライズ版を見ただけです。
 元ネタのWAも、あれくらい人気が出てくれれば続編もあり得たんだろうけど……まぁ、死んだ子の歳を数えるのはやめにします。あれだけギャルギャルしぃアニソン重点作品になったら、正直おっさんにはついていけないし。
 ともあれ、絶望していたNASAの皆さんを驚愕の末に集団白昼夢を見ていた、と結論付けさせるとともに、「なかったことにする」でも結局はヅラのキャスターが公開セクハラを行ったということはなかったことに出来なかったという、記憶については当事者性の方が優先される、というルールを提示したてらすの行動によって、コーヘイは己の右足と左手に備わることになった神の力に惹きつけられるのです。
 が、それを阻止したのは、てらすがアンテナによって受信した、天界のジムの悪夢というより他ない光景。
 ……ウチのご先祖(の惨状)がお役に立てたようで何よりです。
 しかし、コーヘイが「絶対に神になんかなってたまるか」という決意を固める一助となったことを知らないてらすは自らの優秀さとダラダラする権利を主張するために軌道上から帰還を試み――
だめてらすさま005-6冬のロシアに太陽は乏しい
 地球の自転や丸みを考えなかった結果、てらすは冬のシベリアに落着したのでした。
 結局、日本に帰還するために密航……そして、露見の末に芋の皮剥きを学んで帰国したてらす……てらすは貨物船で正しいナイフの使い方を教えてくれた工具楽我聞(10・仮名)に感謝するがよかろうなのでした。
 しかし、弾道軌道を飛んで移動せずに密航という手段を選んだ辺り、てらすの力が及ぶ場所は日本国内やその上空に限られている可能性が高いと思われます。
 国の最高神、というのも意外に不便なものかもしれません。

第4話 てらすと一乃
 てらす達が、GMの「あ、何者かの介入が起きて、その判定ダイスの6は1に変更されるよ」と言わんばかりの強制力によって土地神・静馬さまとの交渉判定に失敗したその頃、平井荘では三銃神ことお風呂セットの土地神達が露天風呂の掃除に勤しんでいました
 今までニート生活を続けていたものの、実際に体を動かして働くのも悪くない――ただ体を洗うための道具として暮らしていけばそれで充分だった自分達が、今こうして床にブラシをかけ、泡を湯で洗い流し、湯船に落ちた落ち葉を拾うという労働と、それを癒す感謝の言葉という対価がある生活に充実を感じる石鹼尊をはじめとしたお風呂セット達ですが、じじいにしてみれば、飯食わせてちょっとおだててやれば目一杯働いてくれる安価な労働力が手に入ったようなもの。てらすとヤタさんの長逗留の代金と相殺出来るかどうかは正直怪しいですが、あちらはゆくゆくは御利益という名の富を与えてくれる存在であり、長逗留も必要経費と思えばさほど痛くはない。むしろ人件費が圧縮される分、
 実理……音読みすれば『ジツリ』となるだけあって、思考の端々に利への聡さを窺わせるじじいがビッグウェーブの後押しを実感し、嬉々として湯を張ろうとバルブを開いたその時――
「くさっ!?」
 じじいに利をもたらす基幹となるべき温泉が、ドブとなっていました。
 それと時を同じくして、駆け込んできたじじいの友人と同様のハゲ山と化す裏山。
 豊かな水量を誇っていた川が枯れたと驚く警官。
 大根が突如たばこ好きのおっさんと化したと嘆く八百屋。
 リーゼントとサングラスが原因と気付かず、異変のせいで見合いに失敗したと号泣する男。
 見合い失敗を除くその全ての原因は、異変の中心となっている神社の主である土地神様にある、と石鹼尊は看破するのですが……
だめてらすさま004-1町の人たち、ネームドキャラになるのかなぁ
 まさか4話にして秘密が駄々漏れになるとは思ってもなかったッ!
 あやまれ!秘密を守って四苦八苦してきたこわしや一同にあやまれ!
 てらすの「なかったことにする」でも誤魔化せるのか、不安で仕方ありません。
 ですが、「なかったことにする」で誤魔化すためにも神通キックで一撃入れる必要があるというのに、異変の元凶である静馬さまは一乃さんに憑依しているため、てらすは兎に角コーヘイ的には下手に手を出す訳にもいかないじり貧状態。
 爆発四散しても「演出だから」で済む神とは違い、人間が無事で済むかはまた未知数。ましてや5%とはいえ最高神の力を行使するとなれば、怪我で済むと言い切ることなど到底出来ません。
 ですが、コーヘイの一乃の身体と自身への好感度という不安をよそに、一乃を乗っ取った静馬は周囲の土地の精気を吸い取り、己の力と変えててらすを滅するために襲い来る!
 辛うじてコーヘイが足裏で拳を食い止めたものの、倒そうという気がない5%の天照大神の力と土地の力を吸い上げた殺す気満々の土地神の全力は拮抗し、状況を打破するには至らない。
 ならば、「なかったことにする」ことは出来ないか、と気付いたコーヘイですが、コーヘイの期待を無慈悲に裏切るかのように、少なくとも相手の神を無力化しないと出来ない上、死んだ者はなかったことには出来ないというルールが提示されるのです。
 ちょっと逸らしますが、TRPGのプレイヤーでもある読者的には、このように作中世界の“ルール”が早い段階で提示されることは実に有り難いことです。
 『うしおととら』や『双亡亭壊すべし』のような、謎や恐怖を徹底的に提示した上で、主人公がルールを紐解いていくようなホラー要素の強い作品もありますが、主人公が異能力を持つタイプの作品では、基本的なルールが10話以内で大方提示されたり、追加ルールが提示されるまでは20話は間を開けたりしてほしいものです。
 設定を片付けるのに汲々としているうちに、詰め込み過ぎて魅力をスポイルされた打ち切り漫画も、連載を続けるために後付け設定をダラダラと追加するうちに、矛盾を抱えることになったかつての人気漫画も、見ていて心苦しいものですし。
 はい、逸れるの終わります。
 読者の話が逸れたように、てらすが基本的に『ファミコンウォーズ』の歩兵と同等の目標制圧ユニットであることに憤ることで目の前の一乃から気が逸れるコーヘイ。
 一乃……を操る静馬は、そのコーヘイに生じた隙を見逃しませんでした。
 体を入れ替え、回転する勢いを転化した裏拳を繰り出す。
 片足立ちで拮抗していたことにより、咄嗟の動きが取れなかったコーヘイはその転撃を交差した両手で受け止めるのですが、ボクシングにおける最強の防御力を誇るクロスガードとはいえ、所詮は生身。神の力を防ぐことなど出来ません。
 両腕の粉砕骨折を中心として、全身に広がる衝撃は容易く骨を砕き、コーヘイは痛みにのたうち回ります。
 ですが、さっさとキックで倒せ、というてらすに対してコーヘイは「いや、余計に一乃には神通キックをあてらんねぇ…!どんなに加減しても骨折するわ!」人としての倫理観を盾に拒否するとともに、何らかの手立てがないかをてらすに問うのです。
 手立てがないこともないが、体力に自信のないニートには5秒ほど動きを止めなければ実行出来ない。
 動きを封じる手段がない限り、手を出すこともままならない。無駄に動くことは嫌いなんだ。いやー、困った困った。
 そう言い訳しながら傍観モードを貫くてらすと、見てるだけじゃなくって少しは協力しろよ、と言わんばかりにギスギスするコーヘイに対して、ヤタさんの声が場を和ませるかのように響きます。
「てらす様の持ってるおやつで釣れないですかね!?」
 いや、無理だから。
 ですが、全身骨折で心身ともに切羽詰まったコーヘイにとっては、そのボケまくったヤタさんの言葉も天啓に聞こえます。
 俺の命とポッ〇ーどっちが大事だ、とばかりにてらすから奪い取ろうとするコーヘイに、「ふざけんな!わたしのポッ〇ーに触るな!」当然ポ○キーであることを主張して、略奪者の粉砕骨折している右腕を容赦なく引っ掻くてらす。
 鬼かアンタ。
 ですが、鬼よりタチ悪い最高神達が悠長に漫才を繰り広げる隙に、静馬は更に土地の力を吸い上げ、己の土地を不毛の地と変えてでも、『己の地を侵略者である天照から守る』という妄念を実現しようとします。
 たとえそれが矛盾に満ちていようとも、それに気づくことなく。
 たとえそれが自らが乗っ取った娘を滅ぼすことになろうとも、それに構うことなく。
だめてらすさま004-2 我聞の暴走藤木ファンとして、対比をしたくなるのは宿命のようなものです
 以前てらすが述べていた倫理観・価値観の違い……人という存在を――その命を歯牙にもかけぬその様に、コーヘイは怒り――人としての怒りのままに、神への門を開くのです!
だめてらすさま004-3門を開くキーワードは『怒り』?
 ……やっぱりBBTやりましょうよ、藤木先生。ヒトであることを望みつつ、望まぬカミのチカラを増していく、という辺りは、絶対親和性とかハマる率が高いですよ(ファンサイト要素&TRPGサイト要素)
 さて!(笑)
 右足に続いて左手も神格化したことで、利き腕ほどではないにせよ自由が利くことになったコーヘイによって一乃さんの動きを封じることが出来たということは、すなわちニートが本気を出せるチャンスが巡ってきたということ。
 どうやらこのニート、永遠に来ない明日に本気出して働くと言い続ける、キルゼムオールのニートの中のエーコよりはましなニートなようです。
 藤木世界におけるニートの代名詞を引き合いに出すのは我ながらどうかとも思いましたが――まだ将来性あるからなぁ……より強いニート性を持ったニートの神に成長することも考えられるし、『天照型第拾参分霊』というてらすの正式な名を考えると、他に十二柱の同型のてらすが存在していて、合体することでニート力が増すということもあり得ます。
 しかし、てらすに示された将来性はニート一択ではありませんでした。
だめてらすさま004-4もう一つの選択肢
 体内に侵入した人ならぬものを引っ張り出す手段なので、古いサンデー読者としては、『うしおととら』のワンシーンを思い出したくもありましたが……「ちゅむ」とか「ちゅぱ」とかやたら生々しい音を立てるわ、エロガキは記憶力を総動員してその光景を瞼に焼き付けるわと、いかがわしさ増し増しです。
 藤木先生、どんどんリミッター解除してるなぁ(誉め言葉)。
 というか、ちびっ子同士――しかも片方は妹分の絡みでも使える辺り、コーヘイの無節操さについては黄村レベルにかなり近いとしか言いようがありません。
 あ、何を使うのか、何にどう使うのかは、とりあえずスルーしてください。基本的にいやらしいことですから。 
 手段はともあれ、引っ張り出したからにはあとは逃さず仕留めるのみ。僅かな怒りと確かな充実感を胸に、コーヘイは強敵だった静馬さまを調伏するのでした。
だめてらすさま004-5無茶しやがって
 合伸していたことで記憶とか感情を共有していたのでしょう。一乃さんは静馬さまがカップ麵やお風呂セット達と同様に何者かにデマを吹き込まれていたことを明かし、それ故に荒神と化し、てらすやコーヘイに危害を加えたのだと伝えると、静馬さまを責めないでほしいと訴えます。
 交渉判定の6を1に変えたのが誰なのか、という問題は残りますが、それもコーヘイを一日も早く神と化すというてらすにすれば利用すべきいい機会。
 多分ほぼ間違いなくその驕りがてらすの足元を掬うと思われます。
 実を言うとヤタさんがボケまくりのふりをして状況を悪い方へ悪い方へと持って行っているというのも、シナリオとしてはない話ではないですし。
 GMとしての業病を発揮する読者はいいとしますが、正気を取り戻した静馬さま……あまりにも人相というか神相が豹変し過ぎです。
だめてらすさま003-4Before だめてらすさま004-6After
 早速助けたことを理由に、全身を襲う筋肉痛を吹き飛ばして静馬さまをデートに誘うコーヘイですが、生憎と静馬さまには心に決めた相手がいるのでした。
だめてらすさま004-7基本病み気味静馬さま
 その相手とは、自らを助けるためにその唇を授けたてらす様。ならば私はこの身を捧げて悔いはない。
だめてらすさま004-8静馬神社に塔が建つ
 拒絶も否定も関係なしに、言葉と態度で静馬さまが示す倒錯した忠誠に、てらすは全力で助けを求めるのですが、基本的に役立たずなおっぱい担当はここでも本当に役に立たず、コーヘイはコーヘイで、自らが振られても百合が見れるなら別にいいや、と素早い切り替え力を見せるばかり。
 そんなグデグデな三者三様に、同人作家の皆さんが選択肢に悩むことになりはしないかと、読者はちょっと不安になるのでした。

第3話「てらすと土地神」
 先週の時点では、2話の3コマ目でヒロインからスピンナウトした、と思っていたてらすでしたが……甘かったとしか言えませんでした。
 まさか3話では登場と同時に、転げ落ちたヒロインの座から第一宇宙速度で遠ざかって行くだなんて……ましてや、たった一日で足の踏み場がなくなるほどのゴミを散乱させるダメっぷりを発揮するだなんて――。
 『だめてらすさま。』というタイトルに偽りなしにも程があります。
 こんなんじゃ駄目だ!男女が一つ屋根の下で暮らすということは、男にとっては夢と希望に満ちたもの。もうこの際色気とかおっぱいとかは期待しないまでも、「朝だゾ!起きなさい!」と言ったり、着替えに出くわすというラッキースケベが待っているはず!
 だというのに、現実はこっちが起こしに行かざるを得ない上、『足の踏み場がないなら、布団ごと宙に浮いた状態で寝ればいいじゃない』とばかりに、ケツ掻きながら昼まで寝て過ごすと来てやがる。返せよ!俺の淡い期待を返せよ!
 そう力説するコーヘイですが……認識を改めようぜ妄想ボーイ。起こしにきたり、着替えに出くわしたりするのは基本的に優等生キャラで通った幼馴染のお隣さんが通る道。
 そこの最高神(笑)とは、貧乳以外共通点がないだろ。
 あ、いや……貧乳でなくてもいいんですが、性別以外で共通点を見出そうとすると、どうしても貧乳くらいしかないものでして。
 しかし、そこは最高神(笑)。たった一日で部屋をゴミ屋敷と化しても慌てません。
 自分でゴミを片付けるつもりはさらさらなくとも、「こい。小さきものよ」と命令をすれば、近隣に住む配下が勝手に片付けてくれる。
 持つべきものはよき手下。
 ですが、神にとっては等しくよき手下であっても、人間にとっては不倶戴天の敵であることもよくある話。
 ましてや、飲食物を取り扱う旅館にとっては絶対の滅殺対象である、Gの名を冠する黒光りするアイツとあっては、神であっても容赦せぬ。
 御利益目当てで居候を許していたはずのジジイもマスターアジア化してブチ切れると、左右の裏拳と踵落としでコーヘイもろともにてらすを撃沈するのです。
 とりあえず、ジジイのカラーリングは紫にすることにします。ヒゲとかヒゲとか格闘キャラとかが東方不敗っぽいし。
 それはさて置き、朝食の席で暫く地元に居つくからには土地神に挨拶すべき、と提案するヤタさん。
 曰く、土地のヤクザの元締め的存在だから、円滑に暮らすための便宜を図ってもらうにも挨拶は大事。古事記にも書かれている。
 警察じゃなくてヤクザなのか、というコーヘイのツッコミが入りますが、 賽銭貰って願いを聞く時点で、警察だったら汚職もいいところですが、ヤクザだったらみかじめとして問題なし(※みかじめは出すのも受け取るのも犯罪です)。
 労働の対価として食卓に同席していた石鹸尊も、この湯ノ花の土地神である静馬は話の分かる立派な神として土地の神々に慕われていることを述べるとともに、コーヘイも神を目指すのであれば一度は面を通しておくべき、と奨めるのですが、最後に「美人さんでござるし!」という餌を投げ込む辺り、コーヘイはたった一日で操縦法を理解されている模様です。
 神になるつもりはないけれど、古事記に書かれているんだったらしょうがない。アイサツなしのアンブッシュは一度しか許されないし、されたら返さなければならない。それがニンジャの掟。
 藤木先生……ニンジャスレイヤーフロムアニメイシヨン見てたな、と確信する読者はいいとしますが、コーヘイも同意したことだし、土地神に会いに行こう、とこの日の予定を決めるヤタさんに対して、
「うむわかった。留守は私にまかせろ!いってくるがいい! 」
 元祖ヒキニートは布団で寝たままゲームをしながら返すのでした。
 もちろんそんなことは許す訳もなく、何とかてらすを外に引っ張り出すことに成功したヤタさんとコーヘイですが、こちらから出向くなんて最高神に相応しくない!向こうから来やがれ!と、引っ張り出されてもなお地べたに寝っ転がって駄々を捏ねるニートの神をどうやって外にまで引っ張り出せたのかが気になるところです。
 この世界の古事記ではアメノウズメのポールダンスに興味を惹かれて天岩戸から引っ張り出された後のアマテラスがどんな反応を見せたのか……このダメっぷりを見るにつけ、想像するだに恐ろしくあります。
 しかし、ニートが動きたがらなくなるのも仕方ないくらい、この湯ノ花温泉郷は神にとっては居心地が良いらしく、神格化していないコーヘイには認識出来ないものの、数多くの国津神が気ままに過ごしていることに、平和主義のヤタさんはやっぱりここはいい場所なのだ、と感嘆の声を挙げるのです。
 というか、読み切り版と連載版の扉絵で意味あり気に登場していたワンピースさんがここでモブとして登場するとは思っていませんでした。
 だめてらすさま003-ワンピ1だめてらすさま003-ワンピ2だめてらすさま003-ワンピ3謎のワンピさん(読み切り扉・連載扉・モブ)
 これだけの存在感を発揮していたのにモブというのは驚きです。
 猛禽類の神二柱が骨格無視してスマホ操作しているのも霞むくらいの驚きです。
 ですが、読者の驚きとはまた別の驚きがコーヘイ達一行を待っていました。
だめてらすさま003-1ばーちゃんは……死ななそうだった。
 目的地である静馬神社が廃墟化していたのです。
 こわしや我聞の終了から11年……一体何があったッ!?かなちんやら番司はまだ現役のはずなのに、ここまで寂れさせるとは何事かッ!?
 失礼、取り乱しました。
 というか、静馬はあくまで土地神の名であり、この神社を取り仕切っているのは静馬さんではなく、九重さんでした。 
神社がたった一晩で荒廃することになったことを訝しみつつも、修理の業者を呼びに行った父親に代わって応対に出てきたのは一乃さん。
だめてらすさま003-2貧乳一名追加でーす!
 都会=福岡という発想なので、舞台になっているのは福岡か佐賀なのだろうと思われます。熊本だったら「市内?」になるし、宮崎や鹿児島だったら分散するし。
 そんな一乃さんに対して、てらすはブレることなく都会ではなく高天原からやってきた神であると自己紹介するとともに、午後ティーを要求するのですが、そんなヤンキーの挨拶なんてブチかましても敵を作るだけ。何より神を信じる人なんて――
だめてらすさま003-3おい神
 って、あなたが言ってどーする。
 先週の時点ではジジイを信心深いと言っていたヤタさんの言葉とは思えません。
 ですが、ヤンキーの挨拶にも恐れることなく、むしろ「サインください!」と踏み込んできたのはヤタさんはおろか、てらすにとっても予想外。
 圧倒的な力を持つ神であることを感じ取っての一乃のリアクションに逆に気圧される形になり、言われるままにサインを書いてしまうてらすの意外な姿に、長年お付きを務めていたヤタさんも驚くばかり。
 まぁ、午後ティー買ってこい、と言われて逆にサインを要求するような無謀な人がそうそういてたまるか、というところではありますが、ヤタさんが子供にたじたじになるてらすをほほえましく眺めるのに対して、てらすは午後ティーが貰えそうにないことを感じ取ると、とっとと用件だけ済ませて帰ってゲームとかアニメとかに勤しむために、静馬を呼び出します。
 呼び出しに応じて現れたのは和風の着物姿の長髪の美女。
 よかった。かなちんじゃない……おっぱい大きいし。
 ぎゃー!
 斬・水糸はやめてください。危うく命を落とすところでしたよ?
 ですが、人格者であるという評判とは違い、「冗談じゃない…天照様がくるなんて…この土地は私が…私が…」何やら神経質な呟きを漏らすとともに、彼女は伏せたままだった眼を見開くと
だめてらすさま003-4藤木先生、芸風の幅が拡がったなぁ
 狂気に満ちた眼差しとともに「外敵」であるてらす達目掛けて見境なく攻撃を仕掛けるのです。
 荒神化しており手が付けられない、というヤタさんの言葉に、目を覚まさせるためにコーヘイに神格化しての一撃を見舞うように促すのですが、コーヘイの闇雲な一撃は蛇を思わせる螺旋の動きとともに躱されたかと思うと、そのまま一乃さんの口へと飛び込むのです。
 どうやら、藤木ワールドにおける水を司る『静馬』の名を冠するだけあって、不定形な本質を持っているようです。
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 しかし、狂信者入っている読者が感心している余裕などありません。
 軽く素振りなどしたかと思うと、身体機能を十全に引き出したフルパワーでぶん殴る。
 一乃を人質に取られ、こちらからは物理的な攻撃は出来ない。
 対して、静馬としては自らの依童と言うべき自由になる体を手に入れて、やりたい放題し放題。
 そうは言っても――
だめてらすさま003-5

 こんな風にいい気になって挑発している時点で、先は長くないのは間違いないでしょうが……いえ、てらすとコーヘイというアホ二人のことなので、すぐに見境なくしそうですし

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