
フリーター、家を買う。
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本書は先にテレビ・ドラマを見ている。家族に付き合ってなんとなく見ていた程度だ。
有川浩さんらしくない、ずいぶんと暗い物語だ、というふうに受け取っていた。
読み始めてみると、フリーターになる心境や若者たちの甘えなど、よく描けていて感心する。読みどころは家庭内の危機に際して、「こうはしていられない」と主人公の武誠治が大きく成長していく部分の描き方だろう。
自分が初めて就職した頃のことを考えてみると、ぼくはもう配属三日目に「どうしてこんな会社に入ったのか」と後悔していたし、「辞めてしまいたい」と思っていた。誠治同様に「これが自分に似合った仕事とはとても思えなかったし、このような会社で一生働いていくのかと思うと暗澹とした気持ちになった。しがみつくか辞表を出すかは紙一重で、自分には辞表を出すだけの度胸がなかったし、そのうち給与が入り始めて、当時はそれがどんどん上がったから、それに惹かれて辞められなかった。
いまでも「自分は職業の選択を間違えた」という思いは強いが、人生はもはややりなおせない。
だから、「現代の若者は…」などというつもりはまったくない。わが家へ営業に来るN証券のI君や、製薬会社の三重営業所に赴任した長男のことを思うと、よく我慢して働いている、と感心する。彼らは仕事が性格に合っているのかも知れないが、自分はいまでも仕事が自分の性格に合っていたとは思えないし、我慢に我慢を重ねたストレスが現在の健康の悪化に大きく影響していると思う。
仕事をスパッと辞めてしまってもなんとか生活はできる、というのは、現代の日本がそれだけ豊かで便利になっているからだろう。ただ、将来の見通しということを考えると、70年代の日本と今の日本とでは大違いで、今の日本には大きな不安がのしかかっている。
「若い世代に負担を押しつけるべきではない」という気持ちと、「せっかくここまで我慢してきたのだから、失った時間を取り戻すためにも回収する側に回りたい」という気持ちが、ぼくの中で争っている。
余談が長くなったが、そういうふうにいろいろと考えてしまう小説であることは間違いがない。
そして、本書のもうひとつの大きな問題、誠治の母親の精神的な病は、父の誠一が家庭を顧みずに放置していたこと、誠一と誠治の家庭内対立、誠治の甘えなどから生じる負担を、母親が誰にも告げずにただ我慢し続けてきたことに起因している。
日本の企業社会は、社員にあまりにも膨大な負担を強いるので、仕事をしている者が家計を支えるためには家庭を顧みる余裕がない。それが、かつての会社生活のあり方だった。個人の都合を優先することは、会社生活から脱落することにほかならなかった。それがさまざまな歪みを創り出し、ときにはこのような悲劇を生む。
十年ほど前からこうした企業社会の欠点は大きく是正されてきて、グローバルスタンダードということがいわれるようになり、企業と会社員個人の関係は対等な契約関係にあるという考え方が主流になってきた。その代わり、会社員生活はきわめて窮屈なものになり、勤続を続けていても給与はたいして上がらず、退職金や年金などの見返りも厳しいものになってきた。
過渡期を過ごした自分たちはずいぶん損をしている、というひがみの気持ちさえ、ぼくは内心抱え込んでいる。
テレビ・ドラマで覚悟をしてはいたが、あまりに暗い始まり方をするこの小説は、後半になって明るさを取り戻す。テレビ・ドラマほど執拗に、地域社会からの虐めを強調することもなく、誠治の成長振りに焦点が当てられていく。ラスト近くはいかにも有川浩さんらしく、希望を残す終わり方で好感を抱く。










