ゴールデンスランバー
ゴールデンスランバー


 物語の要点をまとめるのはなかなか大変なので、帯裏の紹介文から引用する(少しだけ変えてある)
 仙台で若き期待の新首相金田の凱旋パレードが始まった。ちょうどそのとき、青柳雅春は旧友の森田森吾に何年ぶりかで呼び出されていた。学生時代の話をしたかったわけでもないようで、森田はどこか様子がおかしい。
 訝しむ青柳に、森田は告げた。
 「気をつけろ、おまえは陥れられているんだ。いまもまさに、その最中だ」「金田はパレードの最中に暗殺される、犯人はおまえだ」「逃げろ! おまえはオズワルドされようとしているんだ」鬼気迫る調子で訴えるのだ。
 何をバカなことを、と思ったそのとき、パレードの行われている通りのほうから爆発音が聞こえてきた。二人が乗っている森田の自家用車めがけて、拳銃を構えた警官が走り寄ってくるではないか。

 というよう冒頭の設定で、物語は青柳の初恋の女性とその娘など、ユニークな登場人物が多く、視点が次々と移り変わり、凝った語り口となっている。
 オズワルドがルビーに殺され、ケネディ暗殺の真相が闇に葬られたように、警察は青柳を凶悪犯に仕立てあげ、逮捕の前に射殺もいとわない姿勢で捜査網を敷いてくる。青柳は果たして逃げ切れるのか。
 伊坂幸太郎さんの小説の長所を散りばめたよう作品で、語りが上手でおもしろい。展開の先が読みにくく、よい意味で読者を裏切ってくる。警察の捜査網をかいくぐろうとする青柳の動きは、チェイス&ランの冒険小説味もあって、サスペンスフルな仕上がりでもある。
 昨年読んだ小説の中でも、現代小説らしいおもしろさという点で、一、二を争う作品だ。伊坂幸太郎さんの既読の小説の中では、文句なくナンバーワンだと思う。

 政府が仕掛けてくる罠の怖さ、彼を助けようとして助けきれない友人たちの弱さ、それでもとことん味方してくれる人たちの心のあたたかさ、いろいろな読みどころが詰め込まれ、読者の予断を許さない巧みさ、期待を裏切らないおもしろさを味わえる。
 ぼくも年を重ねるにつれ、会社とか政府とかいうような組織というものは、いざとなったらまったく頼りにならず、一面では従業員や国民を平気で裏切る非情な冷酷さを持っているものだ、ということがわかってきた。糾弾するつもりで言っているのではなく、それが組織というものの本質だということだ。
 そうした中で、人間としての誠実さ、倫理観を保持しつつ生きていくということはたいへんなことだ。国という最大の組織に裏切られた主人公青柳が、それでも組織に一泡吹かせて、大勢の人々に助けられ、生きのびようとしている。読者はこれを応援せずにはいられないだろう。