オイアウエ漂流記 (新潮文庫)
オイアウエ漂流記 (新潮文庫) [文庫]

 ストーリー・テリングの上手さをほぼ無条件に信頼していて、新作が出ればハード・カバーを買うことも躊躇はしない、という作家さんが何人かいる。
 女性作家では有川浩さん、そして男性作家の筆頭が荻原浩さんだ。
 それなのに『オイアウエ漂流記』は文庫化されたにもかかわらず、なかなか手を出さないでいた。
 「いくら荻原浩さんだって、漂流記だろう? 無人島で頑張って生活する話なんて、舞台は限られてくるし、もう書き尽くされたような物語をまた読まされるのはどうも…」という気持ちが、やはりどうしてもぬぐい去れなかったのだ。
 いや、しかし…、荻原浩さんはやはり別格だった。もっと早く読めばよかった、というのが本書の正直な感想である。
 
 いつもなら物語の冒頭部分と、登場人物の設定について少し書くのだが、この物語については、まずは登場人物の配置の妙こそが、そのおもしろさの核なので、何も知らずに読み始めるのが一番楽しいだろう、とぼくは思う。
 舞台はトンガの空港で、近くのラウラ諸島共和国へのオプショナル・ツァーの参加者10人が小型飛行機に乗り込もうとしていた。トンガのパイロットの隣の副操縦士席には、なぜか操縦士の飼い犬のセント・バーナードが座っている。操縦士の口癖は「オイアウエ」。トンガ語で、驚いたとき、嬉しいとき、悲しいとき、どんなときにも通用する感嘆詞らしい。
 漂流記という以上、この飛行機が不時着するんだろうな、と予想するわけだが、問題は乗客10人がどのような人たちなのか、ということだ。
 まずは塚本賢司という若い会社員の視点から物語は始まる。部長、課長、主任が一緒に飛行機に乗り込んでいて、このオプショナル・ツァーの目的は、取引先の副社長がラウラ共和国でゴルフをしたい、と言ったかららしい。もちろん、ほかにも観光客が乗り込んでいるわけだが、なんと半数は同じ会社の開発事業部の部員らしいのだ。さて、どんな物語が始まることやら…。
 物語はかなり笑えるし、なかなかに起伏に富んでいる。退屈なところはいっさいない。文庫本としては分厚いが、あっという間に読めて、しかもおもしろい。ユーモアたっぷりに語られるが、味わい深さもあって、さすが荻原浩さんだ、と思わせる出来映えだ。
 おもしろさのさわりを書くと興醒めになると思うので、とりあえずここまでといたしたい。