災害時(津波を含む)の感染症対策

災害時(津波を含む)の感染症対策に必要な情報を掲載します。運用元: 感染症医有志(編集:岩田健太郎 大路剛 大曲貴夫 細川直登 山本舜悟)

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当サイトでは、被災地で診療にあたられている方々から、感染症の診断・治療などで困ることに関して、ご意見ご質問を募集します。頂いたご意見のなかで、当サイトの編集委員のなかで回答が必要と判断されたものについて、当サイトの運営にご賛同頂ける感染症医の方々のお力を借りつつ、回答に努めて参ります。被災地で診療にあたられる方々におきましては、感染症の診断・治療などで困ることに関して、disasterinfection(アットマーク)gmail.com まで、 ご意見ご質問をお寄せください。なお、ご連絡くださる場合には、お名前・ご所属・連絡先を記載頂きますよう、よろしくお願い申し上げます。
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【総論】
2011年の東北関東大震災と感染対策(神戸大学 岩田健太郎先生 2011年3月14日)

災害対策に関連した感染症について、頻度の高いものへの対策

津波に特徴的な感染症(神戸大学医学部感染症内科大路剛先生 2011年3月17日)
【各論】
[外傷・創傷]
災害時の外傷における抗菌薬予防投与、治療について 最終更新日:2011年3月13日

[抗菌薬]
被災地に一つだけ経口抗菌薬を持っていくとすれば(成人用)(神戸大学医学部感染症内科岩田健太郎先生、大路剛先生 2011年3月17日)

ドキシサイクリン(ビブラマイシン)、ミノサイクリン(ミノマイシン)の使い方 最終更新日:2011年3月14日 (洛和会音羽病院感染症科 土井朝子先生)

[呼吸器感染]
リソース(医療資源)が限られた状況での肺炎診療 最終更新日:2011年3月19日 リヴァプール熱帯医学校 DTM&Hコース 山本舜悟先生、 川崎医科大学 呼吸器内科 大藤貴先生
被災地でみるレジオネラ症の診断と治療  最終更新日2011年3月27日 リヴァプール熱帯医学校 DTM&Hコース 山本舜悟先生・ 川崎医科大学 呼吸器内科 大藤貴先生

[尿路感染]
尿検査なしで行う成人女性の膀胱炎の診断と治療 最終更新日:2011年3月16日 リヴァプール熱帯医学校 DTM&Hコース(元亀田総合病院 総合診療・感染症科) 山本舜悟先生


[消化管感染]
嘔吐、下痢の際の水分補給に:経口補水塩(ORS)の作り方 最終更新日:2011年3月16日 リヴァプール熱帯医学校 DTM&Hコース(元亀田総合病院 総合診療・感染症科) 山本舜悟



[ツツガムシ病]
被災地でのツツガムシ病診療 最終更新日:2011年3月25日 リヴァプール熱帯医学校 DTM&Hコース(元亀田総合病院 総合診療・感染症科) 山本舜悟先生

[抗HIV薬を内服している方へ]
やむを得ない場合の抗HIV薬内服中断の方法について(国立国際医療研究センター病院 エイズ治療・研究開発センター (2011/03/15))


[検査の方法]
血培ボトルがたりないときの代替法 (亀田総合病院 総合診療・感染症科 細川 直登先生 2011年3月18日)

【医療費・制度関連】
「疎開」しても可能な感染症診療[東北地方太平洋沖地震による被災者の公費負担医療の取り扱いについて](厚生労働省健康局 総務課・疾病対策課・結核感染症課)

【専門家向け情報】
[感染症のリスクアセスメント]
被災地・避難所における感染症リスクアセスメント (国立感染症研究所 感染症情報センター 2011年3月14日)

被災地でみるレジオネラ症の診断と治療  最終更新日2011年3月27日 リヴァプール熱帯医学校 DTM&Hコース 山本舜悟先生・ 川崎医科大学 呼吸器内科 大藤貴先生

被災地でみるレジオネラ症の診断と治療  最終更新日2011年3月27日
リヴァプール熱帯医学校 DTM&Hコース(元亀田総合病院 総合診療・感染症科) 山本舜悟
川崎医科大学 呼吸器内科 大藤貴

 感染症情報センターのホームページによると、被災地でレジオネラ症が発生したという報告が寄せられいます。
http://idsc.nih.go.jp/earthquake2011/zensuu11img/20110325zensuu.html
 2011年3月25日現在2例ということで、通常と比べて多いのか現時点では判然としません。津波や地震といった災害後にレジオネラ症のアウトブレイクが起こったという報告は調べた限り見つけられませんでしたが、レジオネラは市中肺炎、特に重症肺炎の原因として重要なものの1つです。
 レジオネラは淡水中や土壌に生息し、これがエアロゾルになったものを吸入することで感染します。免疫不全、男性、喫煙者、糖尿病、悪性腫瘍、腎不全といったものがリスクファクターになります。

■どうやって疑うか?
 39度前後の高熱(および比較的徐脈)、下痢、胸痛、頭痛、せん妄など精神症状、筋肉痛、関節痛、血尿、ベータラクタムで肺炎の治療に不応といったものがレジオネラ症の典型的な所見です。
 肺炎球菌肺炎との違いは、肺外症状を伴いやすいことで、下痢や嘔吐といった消化器症状や頭痛や意識障害といった中枢神経症状を主訴に受診することもあります。

臨床的にレジオネラ症を疑うパターンは以下の2つです。
1)重症肺炎を見たらレジオネラ症を疑う
2)下痢や嘔吐、意識障害といった肺外症状を主訴に受診した人で、「呼吸器症状がある」もしくは「たまたま撮ったレントゲンで肺に影があった」といった状況でレジオネラ症を疑う

 別項目の「リソース(医療資源)が限られた状況での肺炎診療」( http://blog.livedoor.jp/disasterinfection/archives/2721447.html )の処方例ではレジオネラ症もカバーできるものになっていますが、軽症例は3~5日間の治療と記載しています。レジオネラ症であった場合、治療期間が短いので再燃してくる可能性があります。短期間治療後の再燃でもレジオネラ症を考える必要があります。

■どうやって診断するか?
 尿中抗原が利用できる場合には迅速診断に役立ちます。レジオネラと言えば重症肺炎を思い浮かべやすいですが、尿中抗原が利用できるようになり、軽症のうちから見つかることも増えてきたような印象があります。尿中抗原キットの数にも限りがあるでしょうから、肺炎と診断のついた症例だけに絞って行った方が効率的です。
 人間に肺炎を起こすレジオネラはいくつかの血清型に分かれますが、国内で承認されているBinaxNOWは、このうちLegionella pneumophila serogroup 1だけを検出できます。感度が70-90%、特異度は99%と報告されています(Clin Infect Dis. 2007;44 Suppl 2:S27-72.)。serogroup 1はレジオネラ肺炎の80-95%を占めると言われますが、キットの感度を考えると尿中抗原が陰性でもレジオネラ症を除外することはできません。
 レジオネラ症を疑う曝露歴がある場合(温泉や銭湯など、通常の潜伏期間は2~10日間程度)や原因菌不明の重症例では、レジオネラのカバーを含めた治療を行う必要があります。

その他、簡単な血液検査でレジオネラ症を予測する方法として以下の様なものがあります(BMC Pulm Med. 2009;9:4.)。

・体温 > 39.4℃
・痰がない
・血清Na < 133mEq/L
・LDH > 255U/L
・CRP > 18.7mg/dl
・血小板数 < 17.1万

各1点として、0~1点でレジオネラ肺炎の確率は3%、4点以上でレジオネラ肺炎の確率は66%になります。原因菌を同定できていない肺炎でこのスコアが4点以上あれば、必ずレジオネラを考えるようにしましょう。

■レジオネラ症の治療
 各種ガイドラインではレボフロキサシンをはじめとするフルオロキノロンが第一選択、マクロライドが第二選択薬とされます。
 2001年のスペインでのアウトブレイク時の観察研究によれば、マクロライドとレボフロキサシンを比較して、重症例(Pneumonia Severity Index: PSI クラス4以上)ではレボフロキサシン群の方が合併症は少なく、入院期間も短かったが、治癒率に関しては両群の差はなかったということでした。また、PSI3点以下の軽症から中等症例では、合併症発生率や入院期間に関しても差はなかったということでした(Clin Infect Dis. 2005;40:800-6.)。

以下、処方例を示します。
重症例:
・レボフロキサシン(クラビット®) 1回500mg1日1回 点滴
・シプロフロキサシン(シプロキサン®など) 1回300mg1日2~3回 点滴(保険適応は1日2回まで)
・ミノサイクリン(ミノマイシン®) 1回100mg 1日2回 点滴
注意:レジオネラと確定診断が着いていない場合に、シプロフロキサシン、ミノサイクリンを使う時はセフトリアキソンのような薬で肺炎球菌をカバーしておく必要があります。
他にパズフロキサシン(パシル®、パズクロス®)も使用可能ですが、筆者には使用経験がなく、最適な投与量は不明です。

軽症~中等症:
・レボフロキサシン(クラビット®) 1回500mg 1日1回 内服
・モキシフロキサシン(アベロックス®) 1回400mg 1日1回 内服
・アジスロマイシン(ジスロマック®) 1回500mg 1日1回 内服
・ドキシサイクリン(ビブラマイシン®) 1回100mg 1日2回 内服
・ミノサイクリン(ミノマイシン®など) 1回100mg 1日2回 内服

■治療期間
 フルオロキノロンを用いる場合は10~14日間、アジスロマイシンを用いる場合は500mg/日を7~10日間、ドキシサイクリン、ミノサイクリンを用いる場合は14日間になります。

参考文献:
・Mandell LA, Wunderink RG, Anzueto A, Bartlett JG, Campbell GD, Dean NC, et al. Infectious Diseases Society of America/American Thoracic Society consensus guidelines on the management of community-acquired pneumonia in adults. Clin Infect Dis. 2007;44 Suppl 2:S27-72.
・Fiumefreddo R, Zaborsky R, Haeuptle J, Christ-Crain M, Trampuz A, Steffen I, et al. Clinical predictors for Legionella in patients presenting with community-acquired pneumonia to the emergency department. BMC Pulm Med. 2009;9(1):4.
・Blázquez Garrido RM, Espinosa Parra FJ, Alemany Francés L, Ramos Guevara RM, Sánchez-Nieto JM, Segovia Hernández M, et al. Antimicrobial chemotherapy for Legionnaires disease: levofloxacin versus macrolides. Clin Infect Dis. 2005;40(6):800-6.

被災地でのツツガムシ病診療 最終更新日:2011年3月25日 リヴァプール熱帯医学校 DTM&Hコース(元亀田総合病院 総合診療・感染症科) 山本舜悟先生

被災地でのツツガムシ病診療 最終更新日:2011年3月25日
リヴァプール熱帯医学校 DTM&Hコース(元亀田総合病院 総合診療・感染症科) 山本舜悟

福島県で今年初のツツガムシ病の発生があったそうです。
http://idsc.nih.go.jp/iasr/rapid/pr3741.html
現在被災地では医療支援で他府県から多数の医師が診療にあたっていると思います。診療経験の乏しい医師に向けてツツガムシ病の診断、治療について簡単にまとめます。

↓にPDF版もありますので、ご利用ください。
http://dl.dropbox.com/u/1544139/scrub%20typhus.pdf


ツツガムシ病の診断のポイント
・刺し口はよく探せばほとんどの症例で見つけられるが、痛みやかゆみがないので、患者自身が気づいていないことが多い
・一見して刺し口がないようにみえる場合は、鼠径部、陰部、腋窩、膝窩といった場所を探すと見つかることが多い
・検査所見は血小板減少、肝酵素上昇、低Na血症を伴っていることが多いが、非特異的であり、初期には正常のこともあるので、発熱、紅斑、刺し口といった所見で臨床診断する

ツツガムシ病の疫学
・Orientia tsutsugamushiが原因で、ツツガムシの幼虫に刺されて起こる。古典型のアカツツガムシは夏に流行するが、新型のフトゲツツガムシ、タテツツガムシは秋から春にかけて流行する。
・ツツガムシ病の都道府県別分布 (IASR Vol. 31 p. 120-122: 2010年5月号 図2a)
http://idsc.nih.go.jp/iasr/31/363/graph/f3632j.gif

潜伏期間:5~14日間
臨床症状
・発熱、頭痛、悪寒、食欲不振、関節痛、筋痛、結膜充血、咽頭発赤
・体幹優位の紅斑が上肢、大腿に及ぶ
写真1(ツツガムシ病紅斑)
http://dl.dropbox.com/u/1544139/ST/ST1.jpg
写真2(ツツガムシ病紅斑)
http://dl.dropbox.com/u/1544139/ST/ST2.jpg
・手掌紅斑がみられることは稀(日本紅斑熱との違い)
・刺し口は10~15mm程度で、痛みやかゆみがないので、患者自身が気づいていないことが多い
写真3(ツツガムシ病刺し口)
http://dl.dropbox.com/u/1544139/ST/ST3.jpg
・鼠径部、陰部、腋窩、膝窩の刺し口が見逃されやすい
・刺し口の分布頻度は以下の図を参照(Am J Trop Med Hyg 2007; 76: 806-9, Figure 1)
http://www.ajtmh.org/cgi/content/full/76/5/806/F1
・刺し口に近い所属リンパ節の腫脹、全身リンパ節の腫脹を伴うことがある
・肺病変や無菌性髄膜炎を伴うこともあり、治療が遅れればDICや多臓器不全に陥って死亡することもある

検査所見:非特異的所見であり、診断の補助に使う程度
・異型リンパ球が出現することがある
・典型的には血小板減少、LDH、AST、ALTの上昇がみられる
・CRP、血沈の上昇はしばしばみられる
・軽度の低Na血症がみられることがある
・潜血尿、たんぱく尿がみられることがある

診断
・流行地では発熱、紅斑、刺し口で臨床診断を行い、テトラサイクリン系抗菌薬による治療的診断が主になる。
・患者血清を用いた間接蛍光抗体法によるIgMの上昇またはペア血清によるIgGの上昇で診断を確定するが、被災地では困難かもしれない。(参考:SRLでは標準型とされるKato、Karp、Gilliamの抗体検査が可能(保険収載あり)。これら以外のKuroki、Kawasaki型も交差反応により標準型の抗体上昇がみられることはあるが、交差反応がないこともあり、流行状況や臨床的な疑いの度合いによってKuroki、Kawasaki型の測定も必要になる。この場合、都道府県の衛生研究所に相談する。検査できる機関は限られるが、刺し口のPCR法も診断の特異度が高い。)

治療
・ミノサイクリン100mg 12時間毎 1日2回点滴静注
または
・ドキシサイクリン初回200mg内服 以後100mgを1日2回内服

・フルオロキノロンは治療失敗が報告されており、使用しない(日本紅斑熱との違い)
 教科書的にはドキシサイクリン開始後24時間以内に解熱するとされるが、実際には発熱が遷延する症例もある。48時間以内に半数以上は解熱する(Antimicrob Agents Chemother 2007;51:3259-63, Figure 2)。http://aac.asm.org/cgi/content/full/51/9/3259/F2
- 元のメッセージを隠す -

小児、妊婦の治療
 8歳未満の小児や妊婦でテトラサイクリン系が使えない場合はアジスロマイシン、クロラムフェニコールが選択肢になる。ただし、小児では、短期間のドキシサイクリン使用による歯牙着色のリスクとツツガムシ病による重症化のリスクを天秤にかけて考えると、特に重症例ではドキシサイクリンを使用した方がよい。

 アジスロマイシンの投与方法に関しては、様々な投与方法による治療が試みられているが
・アジスロマイシン500mg 1日1回 3日間(保険適応外)
が、国内の製剤を考えると使いやすい。

治療期間
・ドキシサイクリンやミノサイクリンを用いる場合、日本では1週間治療での再燃例もあり、10~14日間の治療が推奨されている

参考文献
・田中厚、 山藤栄一郎. ツツガムシ病、日本紅斑熱、ライム病. 日本皮膚科学会雑誌 (2009) vol. 119 (12) pp. 2329-2337
・Kim et al. Scrub typhus during pregnancy and its treatment: a case series and review of the literature. Am J Trop Med Hyg (2006) vol. 75 (5) pp. 955-9
・Phimda et al. Doxycycline versus azithromycin for treatment of leptospirosis and scrub typhus. Antimicrob Agents Chemother (2007) vol. 51 (9) pp. 3259-63
・Kim et al. Distribution of eschars on the body of scrub typhus patients: a prospective study. Am J Trop Med Hyg (2007) vol. 76 (5) pp. 806-9
・つつが虫病・日本紅斑熱 2006~2009(IASR Vol. 31 p. 120-122: 2010年5月号)
http://idsc.nih.go.jp/iasr/31/363/tpc363-j.html
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